EDF日本支部召喚   作:クローサー

36 / 58
おかしいなー、更新スピードが大して落ちてない気がするぞ?


第12話 軍祭と衝突

フェン王国とEDF日本支部の接触から、約1週間が経過した。

今日は5年に一度、フェン王国が主催として開催する「軍祭」の日だ。

この軍祭には、文明圏外に属する各国の武官も多数参加。武技を競い、自国の自慢の装備を見せる。そして各国の軍事力の高さを見せる事によって牽制するという意味合いがある。本音を言うならば文明圏の国も呼びたいのだが、「蛮国の祭りには興味がない」という考えや「力の差を見せつけるまでもない」という考えもあり、それは叶っていない。

 

軍祭の舞台となるフェン王国首都 アマノキの上空を風竜と共に飛行している、ガハラ神国神軍風竜隊隊長 スサノウは下の海を見る。

其処には、常軌を逸した大きさの灰色の船が2隻浮かんでいる。その2隻の所属は、イーディーエフという名の新興国家らしい。

 

『…眩しいな』

 

相棒の風竜がスサノウに「話しかける」。

風竜は知能が高く、人の言葉を理解出来る。普通ならば決して人に仕えるような存在ではない。しかしガハラ神国に伝わる神通力により、彼らは風竜と契約を交わす事によって使役する事を許されているのだ。

 

「確かに、今日は快晴だな」

『いいや、違う。太陽の眩しさではない。下の灰色の船から、線状の光が様々な方向に高速で照射している』

「船から光…?何も見えないが」

『この光は人間には見えまい。我々が遠くに離れた同胞との会話に使用する光、人間には不可視の光だ。何が飛んでいるかの確認も出来る。あの船から出ている光はそれに似ている』

「風竜だから分かったのか…?どのくらい遠くまで?」

『それには個体差がある。ワシは120kmくらい先までは分かるが…あの船の光は、ワシの使う光よりも遥かに強く、収束している』

「…まさかあの船は、遠くの船と魔力通信以外の通信方法を持ってたり、見えない場所を飛んでいる竜を見る事が出来るのか?」

『少なくとも、あの2隻はそうだろうな』

「イーディーエフ、か…思っていたよりも凄い国じゃないか」

 

 

 

 

 

 

「…このデータを見ても、信じられんな…」

「しかし、これは事実です」

 

その頃のEDF海軍…アイオワ級フリゲート艦とセントエルモ級イージス戦艦は、上空を飛んでいるガハラ神国の風竜からレーダー波に酷似した電波を照射している事に気付いていた。このレーダー波は航空機の物としてみれば、前世代技術にも劣らない程度には強い。

文明圏から外れた国で、レーダーに相当する能力を持つ生物が確認された。つまりこれは、文明圏の国家ではこの生物等を大量に運用出来る可能性がある。このデータはその可能性を生み出す重要な証拠となった。後日このデータは本部に提出され、重要書類として指定される事となる。

 

「…兎も角、今はこんな事を話している場合ではないな。時間は?」

「間も無くです」

「前部主砲、装填開始。まだチャージは不要だ」

 

艦長の号令により、アイオワ級フリゲート艦は主砲の発射準備を始める。

ここで、アイオワ級フリゲート艦の解説を始めるとしよう。

 

アイオワ級フリゲート艦は、ぱっと見の外見を見るとかつてアメリカ合衆国という国家が生み出した「アイオワ級戦艦」と勘違いする人が出るだろう。それは完全に間違っているという訳ではない。設計段階でアイオワ級戦艦を参考に設計された為、まるでアイオワ級がスケールダウンしたような印象を持つのだ。

全長は241m。武装は28cmレールガン3連装砲3基9門、12.7cm連装砲8基16門、20mm自動迎撃システム付き連装機関砲80基160門。

…これだけの武装しか積んでいない。これはアイオワ級フリゲート艦に求められた能力にある。EDF海軍は、フォーリナー大戦の経験から「無数の飛行ドローンを如何に効率的に迎撃出来るか」を優先課題とした。フォーリナーの戦力は質のみならず量も圧倒する。EDF海軍の主敵はフォーリナーの飛行戦力であり、無数の敵に積載数がどうしても限られるミサイルを乱発していては、あっという間に弾切れになる。ならば弾薬の要らないレーザー兵器を搭載すると、今度はレーザー兵器特有の困難なメンテナンスが足を引っ張る。歩兵用装備や飛行兵器ならこの事は特に問題視されないが、艦艇となると話は別だ。海軍の艦艇は一定期間以上の無補給戦闘を前提に設計する事を求められていた為、メンテナンスが困難な兵器を、特に量産艦に搭載するのは避けるべき事だった。EDF海軍は考えに考えた結果、其々が中途半端な設計となるより、「それぞれの目的に重視もしくは特化した艦を設計、量産すれば良い」というある意味では割り切った考え方をする事にした。結果、セントエルモ級イージス戦艦は対マザーシップ及び機甲戦力を主目標とした戦艦に。アイオワ級フリゲート艦は対飛行戦力に特化した、艦隊の直衛艦として其々が量産される事となったのだ。

 

今回の軍祭に於いてアイオワ級フリゲート艦が派遣されたのは、「EDF海軍の中では1番小さい戦闘艦」だからだ。剣王シハンから力を見せろとは言われたが、何も「全力の力を見せろ」とは言われてない。もしそんな事になるなら、EDF日本支部の切り札の一つである要塞空母デスピナをわざわざ派遣する事になる。そんな事をする訳にもいかないので、アイオワ級フリゲート艦と念の為にセントエルモ級イージス戦艦を各1隻ずつ、フェン王国の軍祭に派遣したのだ。

 

 

 

 

 

 

剣王シハンは、王城から軍祭の会場を見下ろしていた。

 

「あれが、イーディーエフの戦船か…まるで城だな」

 

シハンの呟いた言葉に、武将マブレグが頷く。

 

「いやはや…ガハラ神国から事前情報は聞いてはいましたが、あれ程の大きさの金属で出来た船が海に浮かんでいるとは…私も数回、パーパルディア皇国に行ったことはありますが、こんな大きさの船自体見たことがありません。ましてや金属製など…」

 

彼らの視線の先には、EDF海軍のアイオワ級フリゲート艦とセントエルモ級イージス戦艦が浮かんでいる。

 

「剣王。そろそろ我が国の廃船に対して、イーディーエフの船から攻撃を始めてもらいます」

 

剣王シハンが直々にEDF情報局に頼んだ「EDFの力を見せて欲しい」という依頼。その答えが今、示される。

EDF艦隊のさらに沖合、約4km先に標的艦として設定したフェン王国の廃船が4隻浮かんでいる。シハンは望遠鏡を覗き込み、EDF艦隊の先頭艦に焦点を合わせた。今回は先頭のアイオワ級フリゲート艦とかいう船が、1隻だけで攻撃を行うらしい。

 

「あの距離から攻撃するというが…本当か?我が国最強の軍船である旗艦「剣神」ですら、あの距離では攻撃する事は出来まい」

「はて…あの距離からならば、廃船に接近する事から始めるつもりかもしれませぬな」

 

そんな事を話している間にも、アイオワ級フリゲート艦の前部主砲の28cmレールガン3連装砲2基6門が旋回を始める。レーダーによって正確に捉えられた目標に、最大秒間旋回速度20度という高速度で旋回。更に計算された角度に砲身を向け、縦に割れている砲身に電圧の充填を開始し、バチバチと電流が流れ始める。

そして、発射。甲高い音が大きく響いたと思った瞬間、照準されていた2隻の廃船を貫通し、船の中心部に砲弾が着弾。その運動エネルギーと衝撃波によって爆散し、残った2隻に照準を終えた前部主砲が再び咆哮。残った2隻を爆散させた。

 

「…これは…なんとも凄まじい…」

 

剣王シハンのみならずフェン王国の中枢の者達は、自分達の知る攻撃概念からかけ離れた威力の前に、唖然とした。

1隻から2回(4発)の攻撃で、4隻を正確無比に命中させ、あっさり撃沈させる。おまけに連射性能も高く、底が見えない。列強国パーパルディア皇国でも、あんな芸当は出来ないと誰もが理解した。

 

「すぐにでも、イーディーエフと国交を開設する準備に取り掛かろう。不可侵条約は勿論、出来れば安全保障条約も取り付けたいな…!」

 

 

 

 

 

 

剣王シハンがそんな事を呟いている頃、EDF海軍は西から接近する飛行物体を感知していた。速度は350km/h、ロウリア王国のワイバーンよりも速い何かが20、フェン王国首都 アマノキに接近している。

その報告を聞いた艦隊司令官はまゆをひそめる。

 

「…ここから西は、確かパーパルディア皇国があったな?」

「はい」

「そしてこの軍祭では、文明圏の国は参加している事はまずない………キナ臭いな。全艦戦闘配置、接近している物体の動きを監視しろ」

「フェン王国への連絡はどうします?」

「奴等が何かしでかすなら、もう今からでは間に合わんさ」

 

 

 

 

 

 

パーパルディア皇国監察軍東洋艦隊所属のワイバーンロード部隊20騎は、フェン王国に懲罰的攻撃を加える為に首都アマノキに来ていた。

軍祭には文明圏外の各国武官がいる。彼らの眼前で皇国に逆らった愚かな国の末路がどうなるかを知らしめる為、敢えて今日行われるこの祭りに合わせて攻撃する事が決まっていた。

これで文明圏外国家は、皇国の力と恐ろしさを再認識するだろう。そして服従しない国に関わるだけでも皇国の攻撃対象となるという事を自覚させ、孤立状態を作り出すのだ。

…ただ、そんなパーパルディアのワイバーンロード部隊であってもどうしようもない存在もいる。

ガハラ神国の風竜3騎が、未だに首都上空を飛行していたのだ。

ワイバーンロードでは風竜には敵わない。この事実に部隊長の竜騎士は苦々しく思いつつ、後続の隊員達に魔力通信で指示を送る。

 

「ガハラの民には構うな!フェン王城と、そうだな…あの目立つ灰色の船に攻撃せよ!」

 

飛来したワイバーンロード20騎が、二手に分かれた。

 

 

 

 

 

 

「ワイバーン、二手に分かれました!一方は我が艦に、もう一方は…フェン王城に攻撃を確認!!」

「接近するワイバーンを敵と認識する!自動迎撃システム起動!目標、上空のワイバーン部隊!!」

 

ワイバーンロード10騎の狙いとなったアイオワ級フリゲート艦が自動迎撃システムを起動する直前、急降下で導力火炎弾の射程内に入ったワイバーンロードが火炎弾を発射。アイオワ級フリゲート艦へ10発の導力火炎弾が飛来する。

その時、アイオワ級フリゲート艦の自動迎撃システムが起動。射界内に入っていた20mm連装機関砲40基80門と12.7cm連装砲4基8門が火を噴き、対空弾幕を展開。合計して秒間320発の20mm弾と毎秒6発の12.7cm対空砲弾を連続で放つその猛烈さに、導力火炎弾は空中で爆発。発射元のワイバーンロード10騎はズタズタの挽肉となり、海の栄養源に成り果てた。

そしてその後方ではセントエルモ級イージス戦艦の主砲が残りのワイバーンロード10騎に前部主砲の38cmレールガン連装砲3基6門を照準、速射。マッハ7で飛来する砲弾の衝撃波でワイバーンと竜騎士は即死し、身体がバラバラになる。

僅か20秒で、パーパルディア皇国のワイバーンロード20騎を殲滅した。

 

『………………』

 

その光景を見ていた剣王シハンと側近達、軍祭に参加していた各国の参加者達、その他全ての目撃者達は開いた口が塞がらなかった。

彼らにとって、1騎撃墜するだけでも大変な戦闘を繰り広げる必要があるワイバーンロードが、自分達の目の前で20騎も消し飛んだ。ワイバーンロードは、間違いなくパーパルディア皇国の所属だったのだろう。

文明圏外にとって、1騎だけでもワイバーンロードを仕留める事が出来れば、それだけで国として世界に誇る事が出来る。「我が国はワイバーンロードを叩き落とすことが出来る程に精強であるのだ」と。

それをEDF海軍はあっさりと、まるで動けなくなったハエを踏み潰すかのように、列強の精鋭であるワイバーンロード20騎を殲滅したのだ。

 

──歴史が動く予感がする。

 

それを見ていた全員が、そう直感するのは無理もなかった。

 

 

 

 

 

 

「…しかし、やってくれたなフェン王国。パーパルディアと衝突する事を我々に黙っていたか」

「どうします?」

「勿論、すぐに再度会談だ。向こう側もそれを望むだろうからな。すぐに本部にこう連絡しろ、『フェン王国派遣艦隊がパーパルディア皇国のワイバーン部隊より攻撃を受け、これを殲滅。パーパルディア皇国と事実上戦争状態に入った』とな」

「了解。…しかしこのタイミングは想定外でしたね」

「だな。まだ「あの艦」は慣熟航行中…それにまだ理由が少し薄い。ならば…」




用語解説&状況説明
EDF日本支部
フェン王国に派遣した艦隊の連絡を受け、対パーパルディア戦の準備を本格的に始める。

パーパルディア皇国
フェン王国に懲罰的攻撃を行った時に愚かにもEDFに手を出し、順調に死刑台への階段を上っている。
EDF日本支部とも国交も開いてないし(そもそもEDF日本支部が開く気もない)、既に難易度が爆上がり中。

アイオワ級フリゲート艦
EDF海軍の直衛艦。近接防空力に特化しており、20mm機関砲は自動迎撃システムが不具合を起こした際に備え、手動照準と手動発射が行えるように設計されている。

「あの艦」
4年掛けて呉の建造ドックで建造された、史上最大の船体を持つ最新鋭艦。
現在慣熟航行中。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。