それは、最初から勝負が決まりきっていた事だった。
「クソ、弾が当たらな…ギャアアアアアア!?」
「駄目だ逃げろ!こんな数相手に叶う訳」
「逃げるったって何処に逃げるんだよ!?周りは海、空は化け物共に埋め尽くされてるんだぞ!?」
1000を優に超える物量、音速を超える速度、超高温の炎弾の弾幕。艦隊の対空火力の許容量を遥かに上回る現実を前に、士気は1分と立たずに崩壊。攻撃を行なっていた対空砲座はすぐさま狙いを定められ、僅か数匹を海面に叩きつけるという戦果を残して全滅。無防備になった艦隊に、容赦無い炎弾の弾幕が次々に着弾。摂氏3600度にも及ぶ超高温により、着弾地点は即座に融解。それは小型艦のみならず、戦艦の装甲さえも溶かし、艦を熱していく。彼等は艦隊の甲板に着地する事なく次々と炎弾を撃ち込み、そのまま決着を付ける気なのだろう。実に最適解な答えといえる。一方で、第零魔導艦隊の生存者は恐慌状態に陥っていた。艦内区域は炎弾による装甲融解や気温上昇によってまるで蒸し焼きのような状態となっており、生きる者の身体を容赦無く蝕む。水をかけて冷やそうにも、既にそれは熱湯。逆に大火傷を負って更に苦痛を増やすだけ。かといって救いを求めて外に出ようものなら、数瞬とせずに塵も残らない程の火力で燃やされるのは確実。約束されてしまった死を前に、何百以上の人間が発狂していく。
そして、その時は訪れる。艦内に保存されてあったカードリッジ式魔導燃料が、限界耐熱温度を超えて自然発火を開始。爆発し、まだまともに原形を残していた戦艦や巡洋艦を粉々に吹き飛ばし、遂には、第零魔導艦隊がそこにいたという証拠さえも消滅した。
「敵」を撃滅したことにより、彼等は勝利の雄叫びを上げる。
しかし、まだだ。まだ彼等の「敵」は残っていると本能が告げている。ならば殲滅しなければならない。何せ向こうが先に新しく作った住処を荒らしに来たんだ、ならば此方が向こうの住処を荒らさない道理など存在しない。
第零魔導艦隊が残していった微かな匂いを頼りに更なる飛行を継続。そして、其処には何も居なくなった。
神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス 外務省。
その建物の中にいる1人、外務省統括官のリアージュは困惑の感情を隠していた。彼は数日に渡って開催される先進11ヵ国会議のミリシアル代表として参加していた。そこでラヴァーナル帝国の復活という事実が明らかになり、世界的な協調と同盟の動きに向けて各国の調整が始まりつつある。その最中の夕方頃、突然帝都に至急戻るようにと召集がかけられたのは寝耳に水と言っていい。重要案件が山のようにある現状で、帝都にとんぼ返りし、そして夜中から緊急会議など、いったいどんな事態が発生したのか。
指定されていた大会議室前に辿り着くと、扉の前に配置されていた人払いの2人の職員と目が合う。彼等はリアージュの姿を見て、無言で扉を開けた。
入室すると、その室内には外務省のみならず軍部の幹部、果てには国防省のアグラ長官も揃って着席している。何らかの根回しもなく、しかしこれ程の人材が集まっている状況は些か不穏な空気を感じ取れる。そう思いつつも、残り一つとなっていた空席に着席。
それを合図に室内が暗くなると同時、投影魔導式映像が起動。マグドラ群島付近の地図が鮮明に映し出されたのを確認して、軍幹部の1人が進行を始める。
「お忙しいところをお集まりして頂き恐縮です。これより、緊急防衛対策会議を始めます」
(緊急防衛対策会議?国防省案件のを外務省で会議するのか…?)
「まずは概要を説明いたします。本日昼頃に、本国南西方面のマグドラ群島付近で訓練中の第零魔導艦隊が、新種のワイバーンの大群の襲撃を受け、部隊消滅しました」
空気が、凍った。
「…ちょっと待ってくれ。第零魔導艦隊が、全滅?新種とはいえ、たかがワイバーン、原生生物だぞ!?それに加えて第零魔導艦隊は最新鋭の武装のみで構成された艦隊だ!その力も、我が国のみならず世界最強の艦隊だぞ!?それが、全滅しただと!?」
リアージュは堪らず声を荒げた。日頃の彼ならばこんな事はしない。しかし進行役からもたらされたその報告は、彼のみならずその部屋の全員に驚愕と混乱をもたらすには十分な威力を持っていた。
「残念ながら、事実です。僅かな報告と交戦記録から判明した情報を紹介した結果、今まで確認されていないワイバーンの新種である事は確実です。報告書の詳細はお手元にある資料をご確認下さい。抜粋すると、第零魔導艦隊旗艦 コールブランドより『我が艦隊はこれよりマグラス群島にて恐らく敵対的な所属不明飛行群と接触寸前、至急応援を求む』、それから数分後に『新種のワイバーンの大群によって我が艦隊は壊滅的被害を受けている。助けてくれ』という混線した通信を最後に、音信不通となりました。また、同群島に設置されていた海軍基地及び空軍飛行場、陸軍離島防衛隊もこれに類似した報告を最後に、音信不通となっております。つまり、現在マグラス群島に展開されていた全軍の安否が不明となっており…マグラス群島及びケイル島は、事実上
進行役が苦渋に満ちた表情を見せる。
「今回の事態は我が国にとって優先度の高い件でありますが…本題は此処からです。陸軍離島防衛隊の最後の通信によると、新種ワイバーンの一部は東に向かって進行中である、との事でした」
「東に…?いや、待て!?まさか!?」
「はい、想定されるのは…先進11ヵ国会議が開催中の港町カルトアルパスの襲撃です」
「冗談じゃないぞ!?そんな事が起きてみろ、我が国の権威は列強国最低辺まで墜ちるぞ!!防衛体制はどうなっている!?」
「帝都より離島防衛に向かわせる予定だった第4、第5艦隊に加え、東洋に展開中の第1、第2、第3艦隊に緊急配備の指示を出しました。ですが…マグラス群島からアルトカルパスまでの距離は500km程度です。新種のワイバーンが何処まで飛行できるのかは不明ですが、もしアルトカルパスまで飛行できる能力をもっているなら…艦隊が到着するより先に、新種のワイバーンの大群がアルトカルパスに到達する可能性が極めて大です。その場合、アルトカルパスを守れる戦力は南方地方隊の巡洋艦8隻のみです。
リアージュの顔面が蒼白となる。いくら軍事に疎い彼とは言えど、巡洋艦8隻と制空型天の浮舟42機程度では、第零魔導艦隊の替わりになるとはとても言えない事くらいは分かる。
「世界に敵なしと畏れられる神聖ミリシアル帝国だぞ…!?我が国の威信と責任を以って開催している国際会議の真っ只中に原生生物に攻められ、「守り切れないかもしれないので避難してください」など、口が裂けても言えるものか!!」
「ですがリアージュ様!!原生生物とはいえど、第零魔導艦隊とマグラス群島の全軍を殲滅したんですよ!?そんな悠長な事を言っている場合では無いんです!!」
「巫山戯るなッ!!ミリシアル帝国がそんな弱腰で醜態な姿勢を見せてみろ、そんな日には文明圏外の属国は大量離反、他の列強国や文明国も我が国を軽んじるようになるぞ!!国益維持の為には強さを見せ続ける必要がある!!」
神聖ミリシアル帝国は近年では融和政策を取っているため、亡国パーパルディア程の恨みは買っていない。が、それ以前に獲得した属国と属領を持っており、それ相応の恩恵を与っている事実は変わりない。そして「世界序列1位の国がある」というのは、世界秩序の要素としてもとてつもないメリットが生まれる。この絶妙なバランスを崩したくないというのも当然の行為である。
そんな中、国防省のアグラ長官が手を挙げる。
「リアージュ殿、確かに第零魔導艦隊の全滅は想定外であり、恥ずべき事です。しかし、確実に奴等は強い。たかが原生生物と侮ってはならないと私は認識しています。このままでは、先進11ヵ国会議が滅茶苦茶になる可能性が高い。もしワイバーンの襲撃を許し、各国の外野大臣級の要人が全て殺されてしまうなどいう事が起きれば、「何故接近を察知出来なかった」と我が国の能力を疑われてしまうのは間違いありません。更に「国力を削ぐ為にわざと襲撃させたのでは」という陰謀論にも飛躍する可能性もあります。ここは正直に説明し、会議の延期を申し入れて各国の一時避難を促すのが最善かと」
「矢面に立って説明する必要がない国防省長官は随分と気楽に、そして簡単に言ってくれるな…艦隊が間に合わないなら、古代兵器は使えないのか?名は…何だったか…」
「『海上要塞パルカオン』ですか?」
「それだ。あの兵器を使用すれば、新種ワイバーンがどれ程に強くても、容易く殲滅できるだろう?」
それに対してアグラはしわを寄せて、直属の部下にアイコンタクト。指名された国防省幹部は額に汗を浮かべ、躊躇いつつも口を開く。
「確かにパルカオンなら…新種ワイバーンの大群も殲滅出来るでしょう。しかし、パルカオンは国内にたった1隻しか残されていなかった超兵器です。国家存亡の危機であると元老院が認定し、尚且つ皇帝陛下の決裁が降りた時、この二つの決定が為されて初めて使用する事が出来るのです。けして我々だけで判断して使用出来るような兵器ではありません」
神聖ミリシアル帝国の元老院は、判断が遅い上に肝心な時は役立たずである、というのが彼等の共通認識だ。つまりはパルカオンの使用は事実上不可能、という結論になる。
「更に申し上げると、パルカオンは来るべき
全くの正論だった。
「…こうなれば仕方ない、か。翌日の会議で突如凶暴化したワイバーンが襲来するの可能性大、周辺に展開している戦力では駆除の討ち漏らしが発生する可能性がある為、別都市への移動を願いたい、と提言しよう。これで良いか」
「はい。移動先は…距離的にもカン・ブリットが良いでしょう。第零魔導艦隊の消滅は地方隊の消滅として今は処理しましょう…我が国最強の艦隊が原生生物によって全滅などと知れば外交に大打撃を負います」
その時。
大会議室の扉を破らんばかりの勢いでドアが開き、1人の外務省職員が倒れ込みながらも入室する。思わず全員が視線を向ける。人払いの職員が慌てて彼を抑えようとするが、その前に職員が叫んだ。
「アルトカルパスよりッ緊急報告!!突如新種ワイバーンの大群の襲撃を受け、既に壊滅的被害を受けている模様ッ!!」
街が、燃えている。
「あづい、あづい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!!」
「やめて、やめて下さいッ!!たす」
「痛いッ、痛い!?離してぇ!!」
そこにあるのは地獄絵図。空より襲来した新生物の大群は街を、人を、全てを燃やし、気紛れに地上に降りたと思えば人を喰らい、弄ぶ。街には悲鳴と炎の音と咀嚼音が響き、人間の精神を容赦無く蝕んでいく。少し前まであった人の営みは今、化け物達の食卓と化して蹂躙されていく。
刹那、空の化け物達の一部が撃ち抜かれて吹き飛んだ。
海岸を見れば、要塞戦艦ヤマトと飛行戦艦ヴァーベナが肩を並べて全力の対空砲火を撃ち上げ、空を見ればEDFのファイターとグラ・バルカスの超音速近接支援機 T-66モスマンがドックファイトを繰り広げる。
『後ろに付かれてるぞ、相棒!』
『そっちは頼む!ライトニングチーム、そっちは大丈夫か!?』
『此方ライトニング1、まだ全機無事だ!!だがじきに物量に押し潰されるぞ!!ガルム隊、VIPの脱出はまだか!?』
『まだだ、踏ん張りどころは今だぞ!』
『了解ィ!!』
その地上では、統率の取れた一団が決死の疾走を続けている。
EDFとグラ・バルカスの外交団と護衛隊だ。アルトカルパスが新生物の襲撃を受けた直後、アルトカルパスの貸切ホテルに泊まっていた彼等は脱出行動を開始。既に制空権は新生物に奪われつつある状況だった為、脱出ヘリは海上戦力や航空戦力の対空火力が及ぶエリアまで迅速に移動する必要があった。
「くそ、11時方向!!来るぞ!!」
EDF側の兵士が叫ぶ。そこを見れば、旋回しながらも此方に向かってくる10匹の新生物。
「走れ走れ走れ!!」
護衛隊は必死に手持ちの火器で対空砲火を上げる。しかし、速度が速すぎて当たらない。そして新生物から炎弾が放たれ、一直線に向かってくる。
地獄の戦域は、拡大の一途を辿る。
用語解説
エルペシオ3
ミリシアルがラヴァーナル帝国の遺跡を解析して製造した、魔法を原動力とする航空機…「天の浮舟」の戦闘機タイプ。「魔光呪発式空気圧縮放射エンジン」という、構造としてはジェットエンジンに似た名前負けしてるエンジンを使用して飛行しており、その最高速度は510km/h以上。
…ジェットエンジンに似てるのに、まさかの音速に届いていないという信じられない遅さ。これには理由があり、というかそもそもとして遺跡を解析してるだけの為、技術的ノウハウも一切無く
その為このくらい酷い設計&スペックでも、一応世界最高の性能を持っていた。(過去形)
海上要塞パルカオン
ラヴァーナル帝国が残していったとされる古代兵器。原作では未登場の為、詳細は分かっていない。その為本作で登場する際は独自設定となる。
T-66モスマン
EDF:IRに登場する超音速近接支援機。対空戦、対地戦のどちらもこなせる万能機であり、最高速度はマッハ3.2に達する。
新種ワイバーン?(新生物)
外敵に対して極めて高い凶暴性を持つと見られており、更に現在アルトカルパス上空には最低でも数千もの数が確認されている。人間も食料源にしている為、人類に対して極めて脅威である。
ミリシアルによると、現在マグラス群島とケイル島が新種ワイバーン?によって制圧されていると見られている。
凍結による、作品公開設定の是非
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全面公開のままで良い
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通常検索及び一覧より除外
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完全非公開