PSO2 CROSSOVER   作:リューイ

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第一話

 1 

 

 唐突だが自己紹介しておこう。 

 

 俺の名前はソル。 惑星間航行するオラクル船団のアークスシップ一番艦フィオに所属するヒューマンのアークスで、守護輝士(ガーディアン)腰巾着(シャドウ)と言われているものだ。

 

 なぜ俺がそんな不名誉な二つ名をもらっているのかというと、それは俺の生まれに深く関係している。

 

 実は俺は転生者なのだけどね、俺が転生したこの世界、実は生前プレーしていたオンラインゲームの世界そのものだったのです。

 

 いやぁ気づいたときはホント驚いた、そして喜んだね。だってそうだろゲームの世界だ、沢山の冒険やロマンが待っていると思っていた…… だけど残念なことに俺は主人公じゃなかった。

 

 ん? なんでわかったかって、それは簡単、頑張って勉強して、鍛えて、アークスになって初任務ってところでアフィンと自分が作ったプレイヤーキャラがいたんだよ。

 

 あの人、リ……ここでは安藤と呼ぼうか。安藤がいたので途端に自分が主人公じゃないって気づけたけど、それでも俺は冒険やロマンを諦めきれなくて、アフィンよりも馴れ馴れしく安藤にすり寄って金魚の糞の様に後をついて行った。

 

 残念ながら俺にはシオンはみえなかったが、幸いなことに、フォトンの申し子的な凄い人、初代クラリスクレイスことアルマ並みか、あるいはそれ以上のフォトン適性のあった俺は安藤について時間を遡ったりしながら一緒に冒険をしていく。

 

 そうしていくうちに誰が言い出したのか次第に守護輝士(ガーディアン)腰巾着(シャドウ)と言われるようになっていたのだ。

 

 そしてこれから語られるのはそんな守護輝士(ガーディアン)腰巾着(シャドウ)が新たに1人で経験する冒険の物語なのである。

 

 

 2

 

 

 「地球で再発生したデウスエスカの討伐が完了しました。任務終了です。お疲れさまでした。」

 

 任務終了のアナウンスを聞きながら俺はキャンプシップからアークスシップ内のゲートエリアに戻って来た。今回も中々にエクストラハードな戦いだったが何とか切り抜けられた事に一安心、大きく息を吐く。

 

 さて今日は疲れたしもう休むかな。

 

 俺は自分のマイルームに帰り休む為、ゲートエリアの端にあるテレポーターに向かう。同じように任務を終えてマイルームに戻っていくアークスたちの流れに身を任せているとその流れを逆流してこちらを目指してく2人の人物がいた。

 

 髪をミディアムレイアーにカットしたヒューマンの妙齢の女性と辮髪のニューマンの青年だ。

 

 その2人には見覚えがある。総務部研究課に所属するアークスのアキとライトだ。

 

 普段研究室にいるかフィールドワークに出ているかのアキがここに居ると言う時点で面倒事の予感しかしない。

 

 「やぁ、シャドウ君、丁度良かった君に頼みたい事があって探していたんだ。」

 

 アキが合うや否や本題を切り出してきた。やっぱり何かあるのだ、アキの後ろでライトが申し訳なさそうに頭を下げている。

 

 「何時も言ってるだろ、俺名前は腰巾着(シャドウ)じゃなくソルだ。それで頼みたい事って?」

 

 珍しいこともあったものだこういう時は何時も先に安藤に話が行って俺がそれに巻き込まれに行くのが常であるのに。

 

 「アムドゥスキアで異常事態が起きていてね。」

 

 「アムドゥスキアでか。」

 

 アムドゥスキアはアークスが調査している惑星の一つで多数の火山と地殻変動により噴出したマグマに覆われた灼熱の大地と空中に浮遊する大陸からなる。そこには龍族とアークスが呼称する生物がすんでおり独特の文化を形成している。

 

 「そうだ、実はコ・レラが行方不明になっているんだ。」

 

 「なんだ、迷子探しか、わかった。今からアムドゥスキアに行って見つけてくるよ。」

 

 まったく拍子抜けだ、どんな難題が来るかと思えば、迷子探しとは肩透かしもいいところだ。コ・レラは龍族でも大きな体を持つクォーツドラゴンだが、若い個体でとても好奇心が旺盛だったから迷子になるのもわかる気がする。だけどいま任務から帰って着た身としては帰り道ぐらいちゃんと覚えておきなさいと説教してやりたい気分である。

 

 コ・レラを探しにアムドゥスキアに行こうとキャンプシップに向かおうと踵を返そうとした時、アキに止められる。

 

 「まぁ、待ちたまえ。確かに頼みたいのはレラ君の捜索なんだが、彼女はアムドゥスキアにはいないんだ。」

 

 その言葉に少し戸惑ってしまう。龍族に宇宙に出る技術は無いはずだし、龍族がいくら強靭な肉体を持っていても独力で宇宙に上がれるわけではない。ということは……

 

 

 「誰かに惑星外に連れ去られたと言う事か?」

 

 アキは頷いた。

 

 「そうだ、私とライト君で調べたところアムドゥスキアの浮遊大陸で正体不明の空間のゆがみを見つけてね。シエラ君に調べてもらった所、今まで我々が接触したことのない別次元の惑星と繋がった痕跡だと分かったんだ。恐らくそこから別の惑星に連れていかれたんだろう。勝手知ったアムドゥスキアならともかく他の星では、私ではな。」

 

 わざわざ接触したことのないと枕詞をつけると言う事は地球じゃない全く未知の星って事だろう。アークスとはいえ研究が本職みたいなアキ達には荷が重いと言うわけか。

 

 「安藤には言ってみたのか?」

 

 「最初は守護輝士君に頼もうと思っていたんだが、今はシエラ君とどこかに任務に出ているそうでね。捕まらなかったんだ。」

 

 なるほど安藤はいなかったのか、それで俺のところに来た。納得だ。

 

 それにしてもシエラと安藤二人ともいないと言う事はもうエピソード5、オメガでの物語が始まっているのか、これは俺一人で行くことに成りそうだな。ちょっと怖い気もするがそれ以上にワクワクするな。

 

「分かった、そのオーダー、俺が引き受ける。」

 

「そうか、ありがとう。」

 

「ありがとうございます。」

 

 俺が引き受けるとアキとライトはほっとした様子で礼を言ってきた。よほどコ・レラが心配なんだろう。早く見つけてやらねばならないな。

 

「それでその別次元の未知の惑星へはどうやって行けばいいんだ。」

 

「それはシエラ君が任務に出る前に準備をしてくれていたのでキャンプシップでアークスシップと現地の星を移動できるようななっているから安心してほしい。」

 

 それを聞くと俺は「分かった、今から行ってくる。」とアキ達と別れ、キャンプシップに向かう。キャンプシップはアークスたちが各惑星を訪れるための船で内部にはアイテムを販売する端末や倉庫から色々なものを出し入れするための端末などがある他、任務を支援してくれる戦闘機なども搭載している。俺たちにはなくてはならないものだ。

 

 アークスシップのゲートエリアに着いた俺はキャンプシップに向かうためのゲートをくぐりテレポートする。

 

 テレポートした先はキャンプシップの中にある作戦前にアークスたちが待機する部屋で、此処に様々な端末とアークスシップから来るとき使ったテレポーターとは違う、多数のアークスが一編にテレポーターできるようななっているテレプールがある。またアークスたちに閉塞感を与えストレスを感じさせない様になのか、窓もあり外が見える様になっていてアークスたちが宇宙の景色を堪能している。実は俺もひそかにキャンプシップからオラクル船団を見る事をいつも楽しみにしている。

 

 俺がキャンプシップからオラクル船団をしばらく眺めていると準備が整ったのかキャンプシップが動き始め船団が遠くなっていく。

 

 十分船団から距離を取ったキャンプシップは船首から前方に光を放つ。光はやがて空間に溶けていくように消え、水面に波紋ができる様に円形に空間が揺らぐ。

 

 キャンプシップは速度を上げてその空間に吸い込まれ、別の宇宙にワープした。

 

 

 3

 

 

 ハルキゲニア大陸のトリステイン王国、その中にあって最も由緒あるトリステイン魔法学院の中庭で隣国ガリア王国からの留学生のタバサはその美しい青く短い髪の頭を抱え、小さい体躯に不釣り合いな大きな木製の杖に寄りかかっていた。

 

(どうしてこうなった。)

 

 いったい自分が何をしたと言うのだ。運命にしてもちょっとひどい。タバサの心境を表すならこんな所だろう。

 

 一体何があったのか、それは少し前まで遡る。

 

 

 トリステイン魔法学園の新年度、タバサが二年生に進級して初めての行事、春の使い魔召喚儀式のとき、クラスメイト達が一人づつ、頭の寒々しい中年の男性教師、コルベールに見守られながら使い魔を召喚していった。

 

 召喚されているのはサラマンダーにバグベア、それからカエルやモグラなどそれぞれの生徒の力や特性に沿ったものだった。

 

 タバサは俄然楽しみになっていた。タバサの能力は学院の中では高い方だ。魔法には火、水、風、土の4属性がある。それぞれ得意不得意属性などあるが、属性をどれだけ重ねられるかが優秀さの基準とされ、下からドットが一重、ラインが二重、トライアングルが三重、スクエア四重と階級が分けられている。そしてタバサはトライアングル、生徒の中ではトップクラスの実力者である。きっと使い魔とも良縁があるに違いないと思っていた。

 

 タバサは身の丈以上ある杖を掲げ使い魔召喚魔法の呪文を詠唱する……が実は使い魔召喚魔法は4属性に属さないコモンマジックなので詠唱は適当な口語である。大切なのは魔法を使おうと言う意思と魔力、杖だ。

 

 「我が使い魔よ、召喚に応じ現れて。」

 

 タバサの呪文の詠唱が終わると他の生徒たちの時と同様に光が集まり姿見の形に集まり使い魔が出てくるゲートができはじめるのだがその大きさが尋常ではなかった。他の生徒は大きくとも大人の男性がギリギリ収まるぐらいの大きさであったのに対しタバサのものは高さにして3倍、横幅に至っては10倍以上あった。

 

 光の鏡からゆっくりと何かが出てくる。最初に見えたのは光を反射してキラキラと輝いている水晶。その美しさに皆が呆けていると少しづつ全体が光の鏡の中から出てくる。水晶のような角のついた頭、人など容易く噛み千切ってしまいそうな鋭い歯が規則正しく並んだ口、武器など一切通しそうにない青くゴツゴツした胴体に大きな翼と鋭く大きな水晶がついた手、太い尻尾、でてきたのはドラゴン、そうアムドゥスキアのロ・カミツに仕える龍の巫にして最も新しく生まれた魂を持つクォーツドラゴンのコ・レラだった。

 

 「きゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 その姿を見た生徒の誰かが悲鳴を上げた。それも仕方がないドラゴンと言うだけでも怖い生き物として知られているのに目の前にいるのは未知のドラゴンでとても狂暴そうな姿おしているのだ、恐怖しない方がおかしい。だがそれでも今は大事な儀式の最中である、コルベールは生徒たちを何とか落ち着かせようとするが、その努力むなしく、動揺と恐怖は悲鳴が伝播するように音の速さで広がっていく。

 

 しかしタバサだけは違った。コ・レラの狂暴そうな外見に強い力を見る。これほどのドラゴンなら自分の目標、父を謀殺した叔父に復讐するための、そして一人残された母を守るための力に成る。怒り、憎しみ、苦悩、幸せさえも心の奥深く閉じ込めた無表情顔の内側でタバサは歪んだ微笑いを浮かべる。

 

 タバサは契約を結ぶべくコ・レラに歩み寄る。コルベールが「一人では危ない!! 待ちなさい!!」と叫んでいるがそれを無視して息遣いが感じるほどの距離まで来た。

 

 その時唐突にコ・レラは「グギャアアー」と咆哮を上げた。

 

 皆、這う這うの体で散り散りに逃げていく。

 

 タバサも流石に緊張を強いられたる。しかし次の瞬間、

 

 『〔みなさん〕〔こんにちは〕〔私は〕〔コのレラ〕』

 

 と頭の中に可愛らしい童女の声が響いた。

 

 その声はコ・レラの咆哮を聞いてもその場にとどまり続けた教師のコルベールとゲルマニアからの留学生でタバサの親友、褐色の肌に長い赤髪のグラマラスな美女のキュルケ・ツェルプストーにも聞こえている様でタバサを含めたその3人は一様に驚きのあまり思考が停止していた。

 

 『〔あいさつ〕〔返ってこないのは〕〔さみしい。〕』

 

 また童女の声がタバサたちの頭の中に響いた。その声がほんとにさみしそうで3人は何だか申し訳ない気持ちになって挨拶を返した。

 

 「タバサ。」

 

 「私はタバサの友達のキュルケよ。よろしくね。」

 

 「私は彼女たちの先生でコルベールと言うものです。」

 

 『〔タバサ〕〔キュルケ〕〔コルベール〕〔覚えた。〕』

 

 タバサたちの頭の中にレラの声が響き、すぐあとに「グギャアアー」と咆哮が上がる。それは先ほどより少し嬉しそうに聞こえるのは、そうであってほしいと言う彼女たちがそう望んでいるからかもしれない。

 

 この後、タバサもコ・レラの外観からは想像もつかない幼い声と感情の上下の激しさからすっかりコ・レラを幼い女の子の様に思えてきて、すっかり利用しようと言う意識も鳴りを潜めてしまい、使い魔の契約は特筆することもなく粛々と行われた。

 

 さらにその後、残りの生徒が使い魔を召喚していき、最後の一人となったトリステインの公爵家の三女で魔法を使おうとするとすべて爆発してしまうという、ルイズ・フランソワーズ・ルブラン・ド・ラ・ヴァリエールが人間を召喚するという珍事があったがコ・レラのインパクトが大きすぎたのかあまり話題にならなかった。

 

 

 召喚の儀式から数日の間、魔法学院の二年生は召喚したばかりの使い魔たちとコミュニケーションを取るために授業がなくなる。タバサもその期間を使いコ・レラとコミュニケーションをはかった。

 

 幸いコ・レラはタバサたちの言葉を何故か理解していたので意思の疎通は比較的に簡単だった。しかしその精神性はタバサの感じた通り幼く、好奇心旺盛で少しやんちゃだった。

 

 タバサが一人で図書館に籠り本を読んでいたとき、呼んでもいないのに窓から大きな頭を無理矢理突っ込んで話しかけてきたり、逆に用があって呼びに行ったときは探検に言っていなかったりとタバサを振り回した。

 

 ならばせめて移動のための足の代わりにしようとタバサはコ・レラに乗って空を飛んでみることにした。コ・レラの身体は固くお世辞にも乗り心地が良いとは言えなかったが、水晶のようなものが生えているので捕まるところには事欠かなかったので転落することはないだろうと思えた。

 

 しかし問題は飛んでから出てきた。コ・レラの飛ぶスピードが速すぎるうえ乱暴だったのだ。タバサは危うく振り落とされそうになった。だがこれはまだマシな方だ、スピードが速いのはメリットにもなるそれだけ目的地に早くつけると言う事なのだから。

 

 最悪だったのは着地だ。コ・レラは時々着地でミスをする。地面に頭から突っ込んでいくのだ。この時タバサは冗談抜きに死にかけた。地面にぶつかった衝撃でコ・レラの背中から弾き飛ばされた。タバサは手にしていた杖でとっさに浮遊呪文レヴィテーションを唱えた。しかし一度ついてしまった勢いをすべて相殺することはできず地面にしこたま体を打ち付ける結果となってしまった。

 

 

 そして今日、痛む体を押して出席した授業のあと食堂に行くとクラスメイトでトリステインのグラモン伯爵家の四男、ギーシュ・ド・グラモンが平民のメイドをイジメてた。見ていて気持ちの良い光景ではないがありふれた光景だ。それに金髪に青い瞳の貴公子風に気取ったギーシュはフェミニストを自称している。それほど無体なことはしないだろうとタバサはわざわざ止めるようなことはしなかったのだが別の者が助けに入った。ルイズの使い魔だ。

 

 ルイズの使い魔、サイトと言うらしいが、サイトとギーシュはしばらく言い争いをした後、決闘することに成った。

 

 タバサは人間の使い魔と言うのも知的好奇心を刺激され気になっていたので決闘を見に行くことにした。

 

 決闘は学院の中にあるヴェストリの広場で行われていた。決闘の内容は案の定ひどいものだった、魔法の使えないサイトをギーシュが土系統の魔法で作った、青銅で作られた人間代のゴーレムに一方的になぶっていた。

 

 だがサイトは幾度も倒されるがそのたび起き上がる。

 

 その己を曲げず、自分より強い者にも恐れず向かって行く姿はまるでおさないころ母に読み聞かせてもらった物語の主人公の様にタバサの目に映り、少しだけサイトに好感を持った。

 

(危なくなったら、助ける。)

 

 タバサはそう決めた。体はコ・レラの所為で全身痛くてとても素早く動けないがドットのギーシュを倒すぐらいはタバサには簡単だ。

 

 いつでも魔法を唱えられるように杖を握り直した。

 

『〔タバサ〕〔あの人達は〕〔何をしているの?〕』

 

 そんな時、騒ぎを何処かから聞きつけてきたのかコ・レラがやって来た。珍しく歩いてきたようだがその重量の所為で歩くたびにくっきりと足跡がスタンプされて綺麗だった芝生が台無しになっている。

 

「決闘。」

 

『〔決闘って〕〔何?〕』

 

「2人で戦う事。」

 

『〔力比べの事?〕』

 

「そう。」

 

 タバサがコ・レラの質問に答えている間に状況も変化していく。ギーシュが決闘ごっこに飽きたのか終わらせようとしている。体裁を整えるため錬金の魔法で作った青銅の剣をサイトの前に突き立てる。

 

 

「続ける気があるならその剣を取り給え、その気がないなら僕にこう言うんだごめんなさいとね。」

 

 ギーシュは自分の魔法の杖である薔薇の造花をサイトに向け、決断を迫る。

 

「止めなさい。」

 

 ボロボロのサイトを見ていられなくなったのか彼の主人であるルイズが飛び出しサイトを制止する。

 

「あんたはよくやったわ、平民のあんたが魔法使いである貴族に良く食らいついて行ったわ。けどこれ以上は、その剣を取ったらギーシュは容赦しなくなる。だからもう止めなさい。これは命令よ」

 

 サイトはルイズの顔をちらりと見た。長くきれいな彼女のストロベリーブロンドの髪と似た色合いの瞳にはっきりとわかるほど涙がにじんでいる。サイトは女の子を泣かせてしまった申し訳なさに剣を取ろうとした手を一瞬止めてしまいそうになる。

 

 しかしサイトにも譲れないものが在った。

 

 一気に剣を掴み引き抜く。

 

「元の世界に変えれねぇっていうなら俺はここで暮らしていくきゃねぇんだよ。もう使い魔でもいいよ。寝床は床でも、飯がまずくてもしょうがねぇ。生きてくためだ、何だってしてやるよ。だけと、下げたくねぇ頭は下げらんねぇ!!」

 

 剣を握ったとたんサイトの左手の光にある使い魔の証しであるルーンが光る。

 

 サイトの身体を不思議な高揚感が包み、力が満ち溢れてくる。

 

(いける!)

 

 サイトは前方からまっすぐやって来る甲冑姿の女性型ゴーレムを剣を横に一薙ぎし、胴体を両断した。

 

 

 その後のサイトはまさに獅子奮迅の活躍を見せる。ギーシュが追加でゴーレムを生成して集団で襲いかからせるも全て一刀で切り伏せて見せた。

 

 これには今までサイトが甚振られるだけの残虐ショウを見て嗤っていた貴族の子弟たちも手のひらを返して盛り上がっていた。彼、彼女らにとっては傷つけられる側がどちらでもそれほど関係ないのだろう。結局の所、自分が傷つけられない所から誰かが無様に倒れていくさまを見るのが好きなのだ

 

 そんな中、周りと別の感情を抱いている者達も居た。興味がなさそうなキュルケ、サイト心配していたルイズ、タバサ、決闘の理由になってしまったメイドのシエスタ。そして純粋に力比べを楽しんでみていたコ・レラだ。

 

 皆が注目する先でついに決着がついた。最後のゴーレムを切り裂いたサイトは無防備になったギーシュの薔薇の杖を切り飛ばし、切っ先を喉元に突き付けた。

 

 こうなってはギーシュにもう勝ち目はない。尻餅をつく様に座り込んで項垂れた様子で「参った」とだけ言って俯いた。

 

 その瞬間周りからどっと歓声が沸いた。そして同時にコ・レラの大きな鳴き声もした。

 

 皆勝者のサイトを置いてきぼりでコ・レラの方を向く。

 

『〔力比べ〕〔面白かった。〕〔レラも〕〔力比べする。〕』

 

 コ・レラは何とも恐ろしい事を言い出した。

 

「まっ……」

 

 タバサは停めようとするがその前にコ・レラは天高く飛び上がってしまう。

 

 そしてサイトとギーシュに向かい急降下した。

 

「あぶねぇ!」

 

 サイトは地面にへたり込んでいたギーシュを抱え飛び退いた。次の瞬間、急降下してきたコ・レラの頭がついさっきまでサイトとギーシュの居た場所にめり込んでいた。かなりの衝撃が地面を伝わり皆の足下を揺らした。

 

 決闘の観客たちが次々と蜘蛛の子を散らすように逃げていく。誰もドラゴンの戦いになんて巻き込まれたくないのだ。

 

 サイトも流石に相手にできないと余の事に放心していたギーシュを引張って逃げようとした。

 

 だがその時コ・レラが地面に埋まってしまった頭を勢いよく振りあげたせいで土の塊があちこちに跳んでいった。運が悪い事にその一つ、一際大きい土塊がサイトにぶつかった。

 

 その所為でサイトは思わず剣を手放してしまう。すると不思議なことに先ほどまで漲っていた力が失われ立てなくなってしまった。

 

 ギーシュはその光景を目にし、自分が思っていた以上にサイトが傷ついていることに気づいた。

 

「なぜだ、何故君は僕を助けた? 君一人なら逃げ切れたかもしれないのに?」

 

「しらねぇよ。勝手に体が動いちまったんだ。」

 

 サイトがぶっきらぼうに呟いたその言葉を迫り来るコ・レラを見ながらギーシュは噛みしめる。

 

(僕がかなわないわけだ、平民や貴族の違いの前に人としての器が違う。だけど!!)

 

「僕だって男だ!!」

 

 ギーシュが吼える。

 

 杖の無いギーシュはただのひ弱な少年でしかない。コ・レラの前に立ち塞がったって道すがら踏み潰されるだけだ。それでもギーシュはサイトが手放した青銅の剣を手に立ち上がり、震えながらもコ・レラからサイトを守るように彼の前に立つ。

 

 コ・レラはギーシュのその行動に戦意アリとみなしたのか嬉しそうに咆哮すると、大きく口を開けレーザーブレスを吐いた。

 

「いやぁぁぁ」ルイズとギーシュの恋人、モンモランシの悲鳴が上がる

 

 だがそんなことは関係なく無慈悲に閃光はギーシュたちを焼き尽くさんとまっすぐ伸びていくのだった。

 

 

 これがタバサの今置かれている状況だ、制御が効かず暴れ出した使い魔、その犠牲に成ろうとしている二人、タバサに使い魔を停めろと涙ながらに懇願するルイズとモンモランシ。

 

 タバサも止めようと必死に叫んだ。しかし興奮したコ・レラには届かなかった。

 

 こうなったら魔法で攻撃して止めるしかない。タバサは決心し杖をかまえる。しかしそれは遅すぎた。コ・レラはもうレーザーブレスを吐く体制になっていた。

 

 今からでは呪文を唱えている内にブレスが発射される。もう間に合わない。

 

(どうしてこうなった?)

 

 最初から魔法を使わなかったからだ。疲労と体の痛みに判断を誤った己をタバサは呪う。

 

 無力感にさいなまれ力が抜け杖に寄りかかってレーザーブレスがサイトに届くのを見ているしかない。

 

 レーザーブレスがギーシュに迫る。10メートル、5メートルと。

 

 もう見ていられない。タバサが目を背けようとした時、突然ギーシュの目の前に光の柱が現れる。その光はまるで使い魔召喚時の光にタバサには見えた。

 

 もしそうなら何でもいい、彼らを助けて。タバサはそう祈った。

 

 タバサの祈りが通じたのか光の中から金髪の男が出てきた。その男は真赤なマントに同じく赤い甲冑の様な服を着て、背に剣先が黄色く光る赤い大きな剣をかけていた。

 

 男は一歩前に出る。

 

 そしてなんと剣を抜き放ちレーザーブレスの光を切り裂いてしまう。

 

 そのさまはまるで絵本の勇者の様だった。

 

 

 4

 

 

 キャンプシップが件の惑星のある宙域に着く。窓の外に綺麗な惑星が見えた。

 

 外観は広大な海があるようで青く美しい。どことなく地球に似ている様に見える。

 

「さてと、行きますか。」

 

 星に降りるためにテレプールに向かう。

 

 事前調査もなしに降りるのは少し怖いがアークスは基本的にフォトンを纏っているから大抵の環境には耐えられる。

 

 フォトンというのはアカシックレコードが宇宙の出来事を記録するために散布した素子らしくてアークスは主にエネルギーを発生させることに使っているがフォトンからアカシックレコードにアクセスすればいろいろできるらしいが、それは今は置いておく。

 

 テレプールにある階段をおりて、いざ飛び込もうとした時オペレーターから通信が入る。

 

「クォーツドラゴンのコ・レラを発見しました。現在戦闘中の様です。テレポート座標の変更はすでに済んでいます。至急向かってください。」

 

「了解。」

 

 直ぐにテレプールに入る。

 

 コ・レラが傷つくのも問題だがコ・レラが誰かを傷付けても問題になるかもしれない。急がなければ。

 

 テレポートは一瞬で終わった。地面は芝生の様で周りは壁で囲われていて大きな建物もある。どこかの中庭の様で何人か人もいた。

 

 コ・レラは……っと、辺りを見回すまでもなく目の前にいるな、けどなんかレーザーブレスはこうとしてるんだけど。っていうか吐いた。

 

 避けたいけど後ろに人が居るから避けるわけにもいかない。

 

 こうなったら一か八かだ。

 

 愛用の武器、ソード形態のルクスフリーデンを抜きフォトンを纏わせレーザーブレス相手に振り下ろす。

 

 賭けには勝てたようでレーザーブレスはまるで実体があるように裂けていった。

 

「ついて早々これとは、幸先がいいのか悪いのか。」

 

 思わず愚痴がこぼれる。コ・レラが見つかったことは喜ばしいが保護しに来たのにその被保護者に攻撃されてはたまらない。手早く無力化してしまおう。

 

 剣を下段に構えたまま走り出し、コ・レラとの間合いを詰める。レーザーブレスの吐いた後の熱い息がかかるほど近づき、勢いのままにソードを振り上げる。ソードとコ・レラの頭部の水晶がガチンと衝突しコ・レラの頭部を勝ちあげた。

 

 これで決める。

 

 無防備にあらわになった腹に大量にフォトンを込めたソードで左右から1撃、2撃、そして大上段からから竹割りの3連撃、斬りはぜず、ソードの腹で叩いた。手に返ってきた衝撃はかなりの物だったこれならコ・レラを大きく傷つけないまでもそれなりのダメージを残せたはずだ。

 

 案の定コ・レラはふらつき地面に倒れ込む。

 

 それをバックステップでかわすと「落ち着け、コ・レラ。俺の事を分かるか?」と呼びかける。

 

 するとコ・レラは戦った事で幾分満足したのか落ち着いた様子で答えた。

 

『〔分かる。〕〔アークス。〕』

 

 落ち着いてくれたのは良かったがまさかそれなりに合っていたはずなのに個人識別されてなかったとわな、まぁコ・レラに個人識別されてそうなのは安藤とアキさん含め3、4人ぐらいのものだから落ち込んでも仕方ない。

 

「そうだ、アークスのソルだ。アムドゥスキアに連れて帰るからおとなしくしていてくれ。」

 

 コ・レラに助けに来たことを告げていると赤髪の女性と青髪の少女がやって来た。現地の住民だろう。着ているものがブラウスとミニスカートにマントってどこかで見た様な気がする。

 

「お取込み中失礼、私はキュルケ、そしてこの子はタバサ。」

 

 おっ、ちゃんと何を言っているか聞き取れる。流石アークス製の翻訳システム。っと今はそれどころじゃないな、赤い髪の女性が名乗った後、青い髪の女の子を紹介してくれたんだがキュルケとタバサっってゼロの使い魔のキャラだ‼ 道理で見覚えがあると思った。転生前はアニメで見てたよ。

 

 俺が転生したのはPSO2の世界じゃなかったのかよ。

 

 顔には出さないようにはしたが混乱してきた。一体全体これからどうなるんだろうか。

 





 読んでいただきありがとうございます。

 感想批評等いただけると幸いです。

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