恋する赤鬼   作:鯉庵

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 超久々の投稿な上、かなり短いです。
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 感想とか実況とかお待ちしてます。


"覚醒"ノ二

ーーーー青鬼の頭蓋が血沼へ沈む。

 それは、椿の散り様によく似ていた。

 切り口は見事なほどに平らで、切断された骨と桃色の肉が覗いて見える。だんだんと赤黒い血が滲み湧いて頸からどろりと垂れ落ちてゆく。

 青い肌と白い着物を血染めしたかと思えば、糸の切れた絡繰りの如く力を失って倒れこんだ。

 とくとくと血の沼が際限なく広がる。その水面に映る女の貌は、ひどく美しく、そして恐ろしい。

 蝋燭の如く白い肌は青鬼の血によって赤く汚され、優美であるはずの着物の柄も黒く変色した血によって塗りつぶされた。

 繊月を思わせる細く伸びた唇に舌を這わせて喉が鳴る。

「相変わらずひどい味……」

 点した笑みは、実に加虐的であった。

「これで、粗方狩りつくしたかしら……」

「にい」

 愛猫が愛らしい声で主を呼ぶ。

 女の足元で鳴く猫ーーーー雪那は主である女を見上げ、咥えた臓物を差し出す。

「……本当に貴女は優しい娘ね。ありがとう。けれどソレは貴女にあげるわ。私(わたし)の分は、これがあるのだし」

 物言わぬ骸を軽く蹴り上げ上向かせる。

「ね? だから貴女は私に気を使わないでいいわ」

 主人の許可を得て、猫は臓物を喰らう。

 血振い、納刀。

 凛とした音が鳴る。

「本当に、ひどい地獄(ところ)」

 吐き捨てるように言ってーーーー。

「行くわよ。雪那」

 闇に吞まれていった。

 

 ニ

 

 ずっと、呼ばれている。

 地獄(ここ)に戻ってきてから、ずっと。

 誰であるかはわかっている。

 鬼だ。質の悪い、諧謔じみた青い鬼。修羅。

 地獄に連れ戻した元凶。

 駄々をこねる童の如く喧しくせがまれている。

 

 早く来いと。

 

 覚悟は疾うにしている。故より餓鬼(わたし)には道が残されていない。

 修羅と闘って喰わねばならない。

 愛しい愛しいあの人を守らねばならぬし、憎らしい憎らしい女狐を喰ってやらねばならない。

 そうしなければ、忌まわしい呪いは解けず、愛しいあの人の子を孕めない。

 だから、絶対に殺して喰う。何があろうとも。

 

――――儼乎(げんこ)たる門が赤鬼の進行を阻んでいた。

 あまりの高さ故、全長を知ることはかなわない。

 その威風堂々たる鉄門に門番は不要。ただ在るだけで良しと定められている。

 赤鬼は、愛刀を強く握りこんだ。

 門を睨め付ける瞳には、強い決意と幾ばくかの不安が綯い混ざっている。

 この先に居る鬼の気配は、今の今まで啖ってきた鬼とはまるで別次元の存在である。

「にい」

 肩上で雪那が煩慮たる面持ちで赤鬼の顔を覗き込む。

 そっと唇に笑みを点して、指で顎の下を撫ぜてやる。

 それから少しして、鉄門が重々しく、緩慢と開く。石畳を削る音とともに隙間風が生じて羽織を揺らす。

 門の先は、渺々と闇が在るだけであった。

 赤鬼は、その闇を睨みつけながら歩を進め、呑まれるように消えていった。

 

 門扉が完全に閉じる。

――――一泊遅れて、指を弾く音が響いた。

 篝から青い炎が瞬く。

 そこは、広く寂々としていた。太い円柱が幾つも在って、刀傷が無数に刻まれている。

「久しぶりぃ」

 暢気な声が響く。剣呑としたこの場には、あまりに不釣り合いな声だった。

――――階の頂上で、青い鬼がひどく質の悪い笑みを浮かべながら玉座に鎮座していた。

 元服をまだ迎えていない、童鬼。

 小柄で愛らしいとすら思えてくる顔立ち。青い瞳と白銀の髪は幻想的で、大凡人ならざる美しさを有していた。

 白い額から生え伸びている青い角には、漆のような艶があった。

 着物の袖を揺らしながら手を振る様は、如何にも無邪気である。

 赤鬼は、全身が粟立つ感覚に震えた。愛刀を握る拳に力が籠る。瞬き一つ許されない。もしも許せば、その一瞬にも満たないうちに頸が飛ぶ。

「なぁにびびってんの?」

 鼻先が擦れ合うほど近くに青鬼の美貌があった。揶揄うような声で問う。硝子細工のように繊細な青い瞳の中に、恐れ戦く己の貌が映りこんでいる。

 反射的に後ろへ跳ぶ。 

「―――—」

 息を呑んだ。堪らず頸に触れたい衝動を堪える。

「うーん、やっぱ駄目だね。よわっちくて話にならない」

 落胆し、盛大な溜息をもらす。頭の後ろで手を組んで、視線を逸らしながら足を組み、つま先で床を軽くたたいている。

 あからさまな誘いだった。しかし、挑発には乗らない。

 肩の上で雪那が全身の毛をそそり立たせて牙を剥く。

「今のでキミ、何回死んだと思う? もう少しさ、やる気だそうよぉ」

 赤鬼は固く唇を結んだまま無言を貫いた。

「ビビったら負け。油断厳禁、闘争の基本でしょ。刀はなくて殺す方法なんていくらでもあるんだから」

「油断、なんてひと時もした覚えはないわ」

「ふーん、あっそ。まぁどうでもいいや。修羅(ぼく)と対面したなら有無を言わさず闘争。逃げたらダメだよ? わかってるよね」

「どうせ泣いたって逃がしてはくれないくせに……」

「とーぜん」

 音もなく赤鬼が間を詰める。

 逆手で居合。

 空を切る。

「どーん」

 脇腹に衝撃、蹴りがめり込む。骨が軋み、亀裂が走り砕ける音が耳の中で響いた。

「――—ず」

 呻く。

 円柱を三度突貫したところでようやく止まり、あたり一面を砂塵の帳が覆う。

「う……ぇ」

 血の塊が泥となって降り注ぐ。激しい痛みでまともに身を捩ることも叶わなかった。

 長耳が踵を踏む音が近づいてくる。

 雪那が化け猫の姿になって、修羅へ向かって飛び掛かる。

――――頸の骨が、折れる耳障りな音を聞いた。

 己の倍ある化け猫の首をへし折り、そのまま投げ捨てる。

 愛猫を気にかけている余裕はない。立ち上がってあらがわなければ死ぬ。

「お、少しはやる気になったかな」

 赤鬼の眼前に立ち腰を折って問いかける。

「怒った? キミの猫殺しちゃったけど、まぁ安心しなよ地獄(ここ)なら何度だって元に戻るから。そういう仕掛けなの」

 徐に髪を掴んで持ち上げる。赤い髪が枝垂れて貌は見えない。

「……―――――—」

 赤鬼の唇が微かに動く。

 それから、少しして――――。

 炎が赤鬼の肉体を包む。

「おっと」

 修羅はとっさに手を放して、邪悪な笑みを点す。

 ゆらり、と緩慢に立ち上がった。変わらず貌は見えない。しかし、枝垂れた髪の狭間から金色の瞳が射貫くように修羅を捉えていた。

「キシシ、やっとお目覚めかな」

――――闇の帳が、降りた……。

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