ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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たまにはバトルしたかったんです。ア○ンジャーズ見ちゃったし。
原作開始から一年くらい前です。


プロローグ
似てる二人は噛み合わない。


「最近さぁ、うんこがなんか水っぽいんだよね」

 

 唐突に、とても食事中とは思えない言葉を食事中に抜かされた出水公平は、ラーメンを啜る口を思わず止めてしまった。半端に止めてしまったため、麺と共に啜ったスープがせり上がり、鼻から垂れそうになるのを慌てて、机の上に備え付けられている紙ナプキンで抑える。

 

「……テメー食事中に何ほざいてんだコラ」

 

 恨みがましい目で目の前の茶髪の男を睨んだ。あの相談の内容を真面目な口調でされたのがまた腹立つ。

 一方、相談した側の男は全く悪びれる様子なく真顔で続けた。

 

「や、マジでマジで。ほら、下痢気味の時ってクソが出る時の効果音がすごいじゃん? それがここ最近、マジで毎日なのよ。マジでケツから小便してる感覚で……」

「詳しく説明すんな。マジブッ飛ばすぞ」

「どうすりゃ良いのよ」

「知らねーよ。食生活を正せ」

「食生活って……一週間、ラーメンフルコースだっただけなんだけど」

「現行犯逮捕だろうが。気付けや」

 

 そりゃ腹の具合も崩れるだろ、と、その問題のラーメンを啜りながら思った。

 

「てか、お前飽きねえの? ラーメンばっかアホみたいに食ってるけど」

「それは『射手ばっかやってて飽きねえの?』って言ってるようなもんだぞ。ラーメンにだって色んな味がある」

「いや、飽きる飽きないで射手やってねえからな俺は。つーか、ボーダーをなんだと思ってるわけ?」

「月は豚骨、火は醤油、水は塩、木は味噌、金は坦々麺、土はちゃんぽん、日は油そば。ほら、飽きない」

「いや『ほら』とか言われてもな……つーか、最後のラーメンなのか?」

「ラーメンより美味いよ」

「じゃあ油そばフルコースにしろよ。あれスープないから水っぽさも治るんじゃね?」

「そんなに食ったら飽きるだろ」

「やっべ、殴りてえ」

 

 言ってることがメチャクチャだ。心底、面倒臭そうな表情を浮かべる出水に、茶髪の少年は弁解した。

 

「いや違うんだよ。油そばはラーメンより脂っこさがすごいから毎日食ったら死ぬから」

「ああ、なるほどな。ま、何にしてもそのフルコースはおかしい」

「例えだから」

「なんだよ……」

 

 ホッと一息つく出水。流石に毎日ラーメンは死ぬ。成人病で死ぬ。ボーダー隊員が成人病で殉職とか許されるのはギャグの世界だけだ。

 

「朝昼晩で味をローテさせてるから」

「なんだよ……」

 

 全く同じ言葉を全く別の意味で呟くハメになった。どこまでラーメンバカなのか、呆れるを通り越して尊敬の念すら浮かんでくる。自分がそうなりたいとは絶対に思わないが。

 

「でもよ、実際もう少しまともなもん食った方が良いんじゃね。マジ早死にするって、お前」

「そう言われてもな……身体がラーメンを求めてるというか……」

「ラーメン以外にも美味いもんはたくさんあるぜ。今度、うまい揚げ物の店連れてってやるよ。エビフライとかコロッケとか……」

「機会があればな」

「テメェ……」

 

 しかし、もうラーメン以外のものを食べさせるのは、もうとっくに諦めた。

 これ以上、この話題は無駄だと悟り、話を変えた。

 

「で、どうよ。そっち」

「何が?」

「訓練の方は」

「ああ。いつも通りだよ」

 

 そうさっきと全く変わらない様子でラーメンを啜る茶髪の少年に、出水は半眼になった。少年はC級隊員、つい最近入隊したばかりである。

 

「や、ダメだろそれは」

 

 いつも通り、と言ったが、C級隊員の彼の訓練は順調なわけではない。ポイントが最初から3200とあるため、才能はあるのだが、高校生で周りより年齢が比較的、高い上に、目付きが悪い。眉間に常にシワを寄せてるような少年だ。

 よって、誰も個人戦を挑んで来ないので、合同訓練の「戦闘訓練」「地形踏破訓練」「隠密行動訓練」「探知追跡訓練」などで一位を取り続け、ポイントを稼ぐしか無い状態だった。

 

「せっかくスカウトされたってのに、勿体無いぜ」

「仕方ねえだろ。誰も挑んで来ねえんだし」

「お前から挑めよ」

「……拒否される」

「……」

 

 呆れてため息をつくしかなかった。要するに、目の前の少年は見た目の割に繊細なのだ。過去に色々あったようで、話し掛けて傷付くのを恐れている。

 出水と知り合いになれたのだって、出水の方から声をかけてくれたからだ。あと三輪隊の米屋陽介とも友達である。

 

「せっかく、腕は確かなのによ。見たぜ、戦闘訓練。またタイム縮めてただろ」

「あんなの、何秒で倒したって意味ねえよ」

 

 初回は5秒でカタをつけ、次は4秒、その次は2秒と縮め、今では1秒を切っているまである。しかし、正隊員ならそれくらい出来るので、別に自慢になるようなことでは無いことは自覚していた。

 

「まぁ、そりゃそうだな。でも、良いのか?」

「何が」

「このままだと、お前フリーになっちまうぞ」

 

 ボーダーのB級以上の隊員のほとんどはチームを組んでいる。強制的に決められているわけでは無いが、チームを組めばランク戦にも参加できる上に、普段の戦闘でもソロよりは確実に戦いやすくなるのは明確だ。

 チームを組むには自分で隊員を募集するか、或いはスカウトされるかだが……。

 

「無理だっつーの。ソロランク戦は周りが怖がって俺とやり合う奴なんかいねーし、わざわざC級の合同訓練を見に来る正隊員もいない。チームを組むなんて論外だ」

「でもなぁ……」

「ふぅ、ご馳走様でした」

 

 食べ終え、箸を置くと共に会話を打ち切る。口を紙ナプキンで拭き、キシリトールのガムを口の中に入れて立ち上がった。あまり、孤立してる話はしたくない。

 

「出水、今日はこの後は暇か?」

「や、悪い。防衛任務だ」

「そうか。じゃ、俺は帰る」

「おう。お疲れ」

 

 ボーダー本部の食堂の席を立ち、ラーメンの器の乗せられたオボンを持ってカウンターに返しに行った。

 繊細、というよりも、少年には分かってしまうのだ。自分に好意を持ってる相手と嫌悪を抱いてる相手が。

 本部のエンジニアが言うには、感情受信体質(Type2)というらしい。相手が自分に抱いている感情が、その相手全身を包んでるオーラの色で分かる。好意的な相手ほど色が薄く、嫌悪的な奴ほど濃く明るい色で映されているのだ。

 その上、第一次近界民侵攻でそこそこ金持ちでやりたい放題やっていた両親が死に、周りの人間から疎ましく思われていた過去がある。

 幼い頃から、そのサイドエフェクトのお陰で周りの大人やクラスメートの自分への感情が見えてしまい、眉間にシワを寄せるのがデフォルトの顔になってしまった程度にはしんどい思いをして来た。

 気が付けば、中学に入学した時には喧嘩を繰り返し、尾鰭のついた悪い噂が広まり、孤立していった。

 高校入学とともに、たまたま出来た友達の出水と米屋に誘われてボーダーに入隊。ボーダーの人間が自分の両親のことを知っていたか、などは知らない。ただ、周りの同期のほとんどが中学生な事もある上に、強面のため怖がられている現状である。

 

「……」

 

 考えるだけでイラつきが増す。ついでに言うと、ボーダーの基本的な標的であるトリオン兵は自分に対して敵意以外を秘めているわけがないので、ハッキリ言えば戦闘でサイドエフェクトが役に立つ事はない。ストレスを増させているだけなのだ。

 今日はさっさと帰って速攻寝る、なんて思いながら食堂を歩いてると、前から歩いてくる少年と肩がぶつかった。

 入隊してまだ一ヶ月弱なので、その少年が誰なのか分からない。が、その少年の身体に、赤いオーラが付くのが見えた。言うまでもなく、危険信号だ。

 しかし、肩と肩がぶつかって喧嘩になることは珍しく無い。

 

「「チッ……」」

 

 イラつきが隠せず、舌打ちだけして立ち去ろうとした時だ。向こうの少年からも舌打ちが漏れた。

 それにより、お互いに足を止めて振り返る。

 

「「……アア?」」

 

 自分と同じように目付きが悪く、チリチリした髪型の少年が、自分に対してメンチを切っていた。

 

 ×××

 

 その日、影浦雅人は機嫌が悪かった。理由は単純明快、今日も元気に隊務規定違反によってペナルティ、減点をいただいたからだ。

 決して、影浦は悪い奴ではない。外見の所為で勘違いされガチだが、ボーダー内に友達は多いし、影浦隊を組んで隊長として隊員達をまとめている。

 しかし、それは付き合いが長いからであって、初見の関わりのない者達は決してそうでは無い。

 その上「感情受信体質」という、周りの人間の自分に対する感情がチクチクと突き刺さるサイドエフェクトにより、他人と衝突することも多い。

 そのため、今日みたいなことが度々ある。

 勿論、自分が百パー悪く無い、なんて言うつもりはない。「サイドエフェクトの所為だ」なんて理由にならないし、自身の沸点の低さも理解している。

 しかし、そもそも周りの人間が自分の陰口など言わなければ良いだけの話だから、理解していても納得いくはずがなかった。

 その上、自分の隊員にも迷惑を掛けてしまっている事が余計に腹立たしい。

 

「……ッ」

 

 思わず自分の愚かさに舌打ちをしながら、とりあえず今日はさっさと帰って速攻寝る、なんて考えながら食堂を通ってる時だ。

 正面から歩いてる少年と肩がぶつかった。

 

「「チッ……」」

 

 苛立ちが隠せず、思わず舌打ちを漏らすと、同じような音がすれ違った男から漏れてくるのが耳に響いた。

 振り返ると、茶髪の男がこっちを睨んでるのが見えた。見覚えのない顔だが、そんなのボーダーにいくらでもいるので問題では無い。問題は、その男が自分に対して向けている感情だ。チクチクと刺さる不快感、間違いなく敵意とイラつきだ。

 

「「……アア?」」

 

 同じように声を漏らしたことが、尚更、影浦のイラつきに火を付けた。お互いに身体ごと向かい合い、近寄る。

 ただならない雰囲気にその場にいた全員が注目するが、ヤンキーにしか見えない二人はそんなもの、気にすることもなかった。

 メンチを切り合うこと数秒、影浦の方から声を掛けた。

 

「テメェ、オレになんか用か?」

「こっちのセリフだチリチリ頭。人にぶつかっておいて舌打ちしたか?」

「喧嘩売ってんのかクソチビ。そりゃテメェの方だろ」

「どう見たってテメェの方からぶつかって来てたろうが。今、食堂に来たんだろ? トレーの返却口付近に人が溜まってるかもしれない事とか考えてなかったわけ?」

「そりゃテメェも一緒だろうが。トレーの返却口に人が溜まるかもしれねェッて分かってんならその辺は通らねェのが常識だろうが」

「俺もトレーを返却したトコなんだよ。てか、出口が近かったら通るしかねェだろ」

「返却したならさっさと退けば良いだろうが。返した直後なのにいつまでも返却口付近で駄弁ってるカスが一番迷惑なんだよな。チャラついた茶髪のリア充に多いよな、そういうバカ」

「一人で駄弁れるわけがねぇだろ。俺の周りに誰がいるように見えんのか? 幻覚でも見えてんの? 前髪長過ぎて幻覚見えてんの?」

「……」

「……」

 

 なんだこいつ、と思わざるを得なかった。や、周りから見てる人間からしたら二人とも「なんだこいつら」なのだが、影浦の中では全く違う意味だ。

 基本的に、影浦に刺さる負の感情の種類は、大雑把に言えば三つだ。一つは戦闘中、明確な「殺気」、もう一つは大体、初対面の歳下から来る「畏怖」、そしてもう一つは調子に乗った野次馬が小馬鹿にしてるような「嘲笑」だ。

 だが、目の前の男から来るのはそれのどれでもない、ただただ明確な「敵意」だ。その中には勿論、「嫌悪感」だの「イラつき」だのが混ざっているが、初対面の奴から「畏怖」も「嘲笑」もないのは初めてだった。

 まぁ、見るからにヤンキーだし、ただ単に喧嘩慣れしてるだけなのだろうが……。

 

「おい、何やってんだよ!」

「カゲ、何してるのさ」

 

 何処からか声が割り込んできた。片方はA級一位の射手、出水公平。そしてもう一人は自分の影浦隊の銃手、北添尋だった。

 出水の方はあまり絡みはない、どうやらムカつく茶髪を止めているようだ。

 北添の方が、影浦に対し、恐れもなく声を掛けてくる。

 

「今、減点もらってきたのにまた喧嘩する気? ゾエさん悲しい」

「……チッ」

 

 流石、八度に渡ってタイマンを張ってきただけあって肝がすわってる。影浦が半分、ガチギレしてる時に声を掛けてくる奴なんかほとんど希だというのに。

 本来ならここらが引き際なのかもしれない……が、目の前の茶髪からは未だに敵意が襲って来る。ここで引いてナメられるのも癪だ。

 となれば、ここで取るべき手段は一つだけだ。

 

「おい、茶髪」

「なんだよウニ」

 

 一々、癪に触る呼び方をしてくる奴だが、そこでまたキレるわけにもいかない。我慢して自分が来た道の方を親指で指した。

 

「ブース入れ、教育してやる」

「ちょっとカゲ?」

「訓練なら問題ねーだろ。それともゾエ、テメェ俺が負けるとでも思ってんのか?」

「そうじゃないけど……」

 

 チラッと茶髪の方を見る北添。向こうからの返事はシンプルなものだった。

 

「上等だコラ」

「はぁ⁉︎ お前まで何言ってんだよ!」

「望んでた模擬戦の相手だろ。断る理由なんかあるか?」

「そうじゃなくてだな……!」

 

 仲裁した二人など無視して、影浦は「決まりだな」と邪悪に微笑み、模擬戦ブースに向かった。

 先を歩く影浦が「あ、そうだ」と思い出したように少年に顔を向けた。

 

「テメェ、名前は?」

「陰山海斗」

「カゲヤマ、ね……」

 

 ニヤリとほくそ笑み、影浦はブースを再度歩き始めた。

 

 ×××

 

 模擬戦ブースに入り、海斗は出水に言われたことを思い出していた。

 

『相手は減点さえなけりゃ、ボーダーで五本指に入る攻撃手だぞ! お前に勝てる相手かよ!』

 

 そんなの関係がなかった。今まで、自分に喧嘩を売ってきた奴は誰であろうと返り討ちにしてきた。それがボーダー五本指に入る攻撃手なら、そいつもブッ飛ばすだけだ。

 ……それに、個人的にもあのチリチリには興味がある。あいつは自分に睨まれても怯えるどころか敵意を向け返してきた。そんな奴はどんなに粋がったヤンキーでもいなかった。

 こいつは、久々に楽しい喧嘩が出来そうだ。そう思ってると、チリチリの声が聞こえてきた。

 

『一応、聞いといてやるが、テメェこの勝負から降りる気はねぇんだな?』

「当たり前ェだタコ。テメェこそ、侘び入れるなら今だぜ」

『ハッ、言ってろ』

「ところでさ、これ模擬戦ってどうやんの?」

『は?』

「一ヶ月くらい前に入隊したばっかだからわかんないんだよね」

『……テメェ、どんだけ目出度ェ奴なんだよ。あんま笑わせんなよ』

 

 言ってろバカ、と思ったが、ここで言い返してはいつまで経っても喧嘩が始まらない。

 

『オイ、テメェ何号室だ?』

「102」

『102……って、テメェC級じゃねぇか! ナメてんのかコラ!』

「バッカお前、ワンパンマンのサイタマ知らねえのか。C級スタートだからって弱ぇとは限らねえぞ」

『知らねえよ! つーか、あいつ今、B級だし!』

「あ、読んでるんだ。てか、いいからやり方教えてくんない?」

『チッ、しゃーねえな……。操作パネルの一番下の黒いボタンを押しやがれ』

「操作パネル?」

『モニターだよ、モニター。デッカい方の』

「ああ、これ? 番号と武器が書いてある奴」

『そう、それ。の一番下』

「黒い四角……あーあったわ」

『チッ、世話の焼ける野郎だ』

 

 緊張感が少しずつ乱れながらも、設定は進んで行った。5本勝負で、エリアは市街地A。まぁ、ほとんど影浦が適当に決めたものだが。それと、条件を同じにするため、影浦はスコーピオン以外のトリガーは使わないことになった。律儀な喧嘩である。

 転送が開始され、海斗の身体は仮想の市街地へと転送される。辺りを見回すと、本当に人が住んでいそうな市街地だった。訓練で何度も来てはいるが、今だにこの手のハイテクには慣れない。

 レーダーを見ながら、のんびりと歩いてると、街の交差点の中央に、喧嘩相手が突っ立っているのが見えた。自分を見下すようにふんぞり返り、腹立たしい笑みを浮かべている。

 

「……はっ、上等だよ」

 

 そう呟くと、海斗はゆっくりとチリチリ頭の方へ歩いて行った。

 

 ×××

 

 ブースの外では、思いの外、人が集まっていた。

 一度も模擬戦はしていないものの、同期の中ではトップクラスのボーナスポイントを配られた恐怖のC級と、B級とは言え実力は五本指に入る攻撃手の影浦の試合が観れるから……ではなく、単にヤンキー同士の喧嘩が見れそうで楽しそうだから、という野次馬根性からである。

 その中で二人だけ、野次馬ではなく普通に見にきているのが、あと30分後には防衛任務の出水と影浦隊の北添の二人だ。

 

「あーあ、なんでこうなるかな……」

「まぁ、俺はいつかこうなる気がしてましたけどね……」

 

 北添の面倒臭そうな呟きに、出水も苦笑いで答えた。二人とも知っている出水からしたら、ほんの下らないことで二人が喧嘩するのは、もはや必然に思えていた。

 

「出水くんはあの子の事知ってるの?」

「まぁ、クラスメートなんで」

「強いの?」

「そうですね。ボーナスポイント出る程度にはやりますよ。ただ……」

「ただ?」

「……怖がられて模擬戦やったこと無いんですよ、あいつ」

「あー……それ、大丈夫なの?」

「さぁ……ただ、生身の喧嘩はかなり強いですね。ヤンキーに絡まれて負けてるとこ見た事ないんで」

「それは……なんて言えば良いのか……」

 

 まぁ、早い話が普通にやれば、例え条件が同じでも影浦の方が断然有利なわけだ。そう、普通にやれば、である。

 ちょうどその頃、模擬戦がスタートした。二人の様子がモニターで映され、お互いにのんびり歩く姿を見ながら、出水も北添も半眼になった。

 何故なら、二人はお互い、目の前まで接近したからだ。文字通り、目の前。銃手のハンドガンの間合いでも、攻撃手同士の間合いでも無い、文字通り、ヤンキーとヤンキーがメンチを切り合う距離だ。身長的には、177センチの影浦に対し、160後半の海斗の方が低い。それでも真っ直ぐに見据えている。

 殴る蹴る以前に、身体の何処かからスコーピオンを少し生やすだけでお互いを斬り裂ける距離。

 

「……何あれ、キスでもするの? カゲ、そういう趣味? ゾエさんビックリ」

「気持ち悪ぃーこと言わないで下さいよ……」

 

 なんて言ってる時だった。二人からノーモーションで拳が繰り出された。

 お互いの顔面に拳が振り抜かれ、その場で衝撃が発生するも、影浦の拳の先からは光り輝くブレードが伸びていた。

 つまり、海斗の鼻から上は斬り裂かれ、宙を舞っている。

 

「……うわあ、容赦ない」

「グロイっすね」

 

 二人は引き気味にモニターを見ていた。

 

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