ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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勉強は学力ではなく常識を身に付けるもの。

 最近、海斗には悩みがある。ように小南には見えた。何故なら、普段、滅多にしない難しい顔をしているからだ。

 普段の表情は、目付きが悪くてギスギスしてるように見えるが、中身はアホを二乗にしたアホで何も考えてないすっとぼけた奴だから、悩んでいる所なんか見たことない。

 数日前、また玉狛に遊びに来なくなってしまったので心配して見に行ったら、本部で真剣な顔で出水と話していたのが見えた。近くには太刀川の姿もあった。

 もしかしたら男同士でなければ話せない話題なのかも……と、思う事にして、その場は引き下がった。それに、なんだかんだ一番構ってあげてる自分には相談してくれると思っていたから。

 だが、一向に来ない。二週間が経過したが、何一つ音沙汰ない。しかも見る度に村上、荒船、米屋、三輪、東と相手を変えている。これには流石に限界だった。

 

「と、いうわけなのよ、レイジさん!」

 

 机を強く叩いて立ち上がる小南だが、レイジも烏丸も宇佐美も一切、気にせずに食事を続ける。

 何故、ここには三人いるのに俺にだけ話かけるのか、と思ったりしたが、まぁ大体理由はわかるので言わなかった。

 代わりに、とりあえず言っておかなければならない事を指摘した。

 

「食事中に暴れるな、座れ」

「うっ……ごめんなさい」

 

 まるで父親に怒られた娘のように大人しく引き下がると、宇佐美がニヤニヤしながら聞いた。

 

「というか、そもそもなんでそんなこと気にしてるの?」

「は? てか何よその顔」

「いやいや、だって何でも感覚派の小南が人から相談が来ないからって怒るの珍しいじゃん?」

「それはそうだけど……腹立ってるんだから仕方ないじゃない」

「だからなんで?」

「知らないしどうでも良いわよそんなの」

「……」

 

 単純な奴は羨ましい、この手の茶化しが効かない。まぁ、小南を茶化すのは自分の役目ではない。

 そう感じた宇佐美は、隣の担当に視線を移した。

 

「ね、とりまるくん。なんで相談されないと思う?」

「そりゃ決まってるじゃないすか」

 

 あくまで冷静にそう言いながら、味噌汁を口に含んで間を開けた。小南が如何にも「興味津々」といった感じの表情で身を乗り出しているので、サラッと伝えてやった。

 

「小南先輩がまだ、他の人と比べて頼りないからですよ」

「なっ……!」

 

 ガーン、と音がしそうなほどショックを受けたのか、手から箸が落ちた。

 烏丸は言ってから野菜を摘み、口へ運んだ。

 宇佐美はニヤニヤともニコニコとも取れる笑顔で焼き鯖の身をホカホカの白ごはんに乗せ、口へ運んだ。

 レイジは真顔で牛乳を口へ運んだ。

 

「そ、そんなことないわよ! 私が一番、あいつの面倒を見てあげてるんだから!」

「面倒? 面倒見てあげてたんですか?」

「あげてたわよ! あんたも何回か見たことあるでしょうが!」

「……ああ、アレ面倒を見てたんすか」

「見て分からなかったわけ⁉︎ あんた、意外とそういうとこ鈍いのね」

「……」

 

 本来なら、ひと段落したらまたすぐにネタバラシする予定だった。しかし、今の「お前にだけは言われたくない」と言いたくなるほどのセリフに、柄にもなくイラっとした烏丸は、サラダの入った器を平らげてから続けた。

 

「つまりですね、小南先輩には先輩っぽさが足りないんです。や、俺にとってはもちろん先輩ですが、陰山先輩にとっては同い年ですから。頼れる、というよりはライバル的な感覚なんでしょう」

「なるほど……や、でも出水や米屋にも相談してたのよあいつ?」

「それはー……付き合いの長さも違いますし、相談の内容によりけりですが、本部と玉狛の差もありますから」

 

 慎重に言葉を選び、的確に小南を言いくるめる烏丸。

 真剣に話に耳を傾ける小南。

 ニコニコしながら、烏丸の言葉に耳を傾ける宇佐美。

 食事を終え、流しに食器を片付けるレイジ。

 

「とにかく、相談をされたければ、先輩っぽく振る舞うことです。小言や小さな悪口にも反応せず、微笑んで受け流し、親切に接していれば、いずれ相談してくれるんじゃないすか?」

「……そう、そうね。確かにそうだわ!」

 

 小南の中では合点がいったようで、ガツガツとサバと米と味噌汁とサラダをかっ込み、勢い良く立ち上がった。

 

「よし、明日から少しは親切にしてやるわ! 見てなさいよ海斗!」

 

 その勢いのまま食器を片付け、勢いよくリビングを出て行く小南を眺めながら、二人残ってご飯を食べてる烏丸に宇佐美は聞いた。

 

「……良いの?」

「まぁ、失敗するでしょうね」

「二人とも早く食え」

 

 ×××

 

 翌日、海斗は今日も今日とて本部に来ていた。場所はラウンジ……ではない。風間に見つかる。模擬戦ブース、でもない。風間に見つかる。太刀川隊の作戦室、三輪隊の作戦室、荒船隊の作戦室、でもない。風間に見つかる。加古隊の作戦室、でもない。加古に見つかる。

 ていうか、基本、何処にいても風間に見つかる。

 しかし、仕事があるためサボるわけにはいかない。よって、屋上に来ていた。放課後のため、沈みゆく夕陽に顔を向け、黄昏た表情でボンヤリと摩天楼の向こうを眺めていた。

 最近、悩みがある。しかし、それを打ち明けた人達からはみんな「諦めろ」「やるしかないよ」「立ち向かえ」と言った意見しか返ってこない。

 海斗は、絶対にそんなのゴメンだった。ナイフを持ったヤンキー五人を相手に素手で喧嘩しに行く事ができる海斗にも、ダメなものはある。

 そんな海斗のご傷心な背中を背後から眺める不審な影があった。

 

 ×××

 

 小南は屋上で、海斗の背中を眺めていた。もう何度も見てきた珍しく丸まった背中だが、何度見ても小南の心もズキンと痛む。普段、悩まない奴が悩んでいるのを見ると尚更、痛ましく見えるものだ。

 自分がその悩みを解決し、元気付けてやらねばならない。コホンと咳払いすると、背後から微笑みながら接近した。

 

「かーいとっ。こんなとこで何してんのよ♪」

「寒気がする声出すな180度回って帰れバカ」

「……」

 

 ビキッ、と。頬に青筋が浮かぶ。しかし、ここで言い返すわけにはいかない。彼は悩んでいるのだ。

 

「そう言わないの。何か悩んでるんでしょ?」

「あ?」

「先輩のアタシが聞いてあげるわよ。だから話してみなさい」

 

 言いながら、海斗の隣に座り、さっき買ってきたコーラを差し出した。

 しかし、海斗は受け取らず、怪訝な表情を浮かべたまま隣の小南の顔に視線を移した。

 ジッと見つめられ「何よ?」と視線で問うと、海斗は引き気味に答えた。

 

「……どうしたんだお前。熱でもあんのか?」

「どういう意味よ?」

「親切すぎて気味が悪い。買ってたペットが死んで傷心気味にテレビをつけたら、美人の貞子が出てきて慰めてくれるレベルで逆に不気味」

「美人……って、不気味ってどういう意……!」

 

 怒鳴りかけた所で口が止まった。そうだ、今日は親切に、だ。怒鳴り散らすなんて言語道断である。

 頭上に「?」を浮かべつつ、若干、照れ臭くて頬を赤らめつつも言った。

 

「……いいから受け取んなさいよ。私にも話してみなさい」

「まぁ、一応もらえるもんならもらうけど……大丈夫? 青酸カリとかトリカブトとか入ってない?」

「入ってないわよ! 何処で手に入れるのよそんなの!」

 

 小南からの返しを右から左へ流しつつ、海斗はコーラを飲み始めた。喉を炭酸飲料独特のシュワシュワ感が伝っていくのを感じ、一息つく。

 その表情は何と無くだけど、小南には少し元気が出たように見えた。やはり飲み物を買っておいて正解だった、と内心でガッツポーズしていると、海斗が小南に聞いた。

 

「お前の分は?」

「無いわよ? 喉乾いてないもの」

「お前……そういう時は自分のも買ってこいよ」

「なんでよ」

「気を遣って、相手に変な気を遣わせちゃう事もあるって事だよ」

「あっ…………な、なるほど、そういうものなのね」

 

 あんたが言っても説得力ないわよ、という返しを飲み込み、相槌を打っておいた。

 その小南に、海斗がコーラを差し出した。

 

「オラ」

「今は良いわ。飲みたい時に言うから」

「そうか」

 

 頷き返すと、海斗はペットボトルを自分の胸前に戻す。なんか、割と良い雰囲気だった。ボーダー本部の屋上で、沈む夕陽を男女が並んで一本のコーラを片手にのんびりする……誰が見ても勘違いしそうな光景だ。

 海斗も特に変な感情は抱くことはなかったが、やはり気を使わないどころか悪口を正面から言い合える奴とこうしている時間は嫌いではない。特に、デリカシーの無さでは影浦に次ぐ小南にそんな気遣いが出来るなんて……と、どの目線からなのか知らないが感動してしまっていた。

 しかし、そんな気は毛頭無い小南が、我慢しきれずに聞いた。

 

「……で、悩みは?」

「え、話さないけど」

「なんでよ⁉︎」

 

 ガーン、とまたショックを受ける小南に、海斗は続けて言った。

 

「お前に話しても解決する悩みじゃねーし」

 

 その言葉が、小南を逆撫でさせた。不機嫌そうな声音を隠すこともなく、小南は隣の海斗に問い詰める様に聞いた。

 

「……何よそれ。そんなにあたしに相談したくないわけ? 太刀川や東さんや友達にはするのに」

「まぁな」

「アタシ、海斗の中ではそんなに頼りにならないわけ?」

「ならないだろ。任務中はともかく、普段は超アホだし」

 

 そのセリフがキッカケだった。海斗の手から小南がコーラを奪い、立ち上がった。

 

「もういいわよバカ!」

「え、そのコーラ俺のじゃないの?」

「悩みを打ち明けてくれないならあげるわけ無いでしょ⁉︎」

「なんのために渡したんだそのコーラ! てか悪かった! 俺が悪かったからコーラ返して下さい!」

 

 タダメシへの弱さがここに来て二人の関係を助けたと言えるだろう。小南は謝られたのに満足したのか、小さく頷いて再び海斗の隣に腰を下ろした。

 

「で、悩みは?」

「……え、俺ほんとに小南に相談するの? プライドって言葉知ってる?」

「全部飲み干しちゃおう」

「冗談だから待てや!」

 

 止められたものの、大声出して喉が渇いた小南はコーラを一口だけ口に含んだ。

 コーラを返すと、仕方なさそうに海斗は相談することにした。

 

「……実は」

「実は?」

「……もうすぐ、中間テストでな……」

「……は?」

 

 ポカンとする小南を余所に、海斗は続けて打ち明けた。

 

「風間のバカに『赤点は許さん』とか言って指名手配されてんだ。教えるときはマンツーマンどころか三上と組んで二対一で襲い掛かって来やがる……だから、助けてくれる奴を探してるんだ」

「……それだけ?」

「だけとはなんだ。いじめられてるんだぞ俺」

「……」

 

 もう呆れるしかなかった。やっぱこいつ馬鹿だ、と再認識するしかなかった。

 なんかもう何もかも馬鹿らしくなった小南だが、一つだけ確認しておかなきゃいけないのできいてみた。

 

「……なんでアタシには相談出来なかったのよ」

「だってお前も俺と同じ成績残念系攻撃手でしょ?」

「なんでよ⁉︎ あんたよりは成績良いわよ!」

「それならまだ『私、着痩せするタイプでBカップはあるのよ?』って言われた方が信じたかったな〜」

「だからそれどういう……願望⁉︎」

「だってお前、小南だろ? 小南が小南であり小南のままである以上、頭が良いなんてことは絶対無いんだよ。頭は小南なんだよ」

「っ……!」

 

 ヒクッ、と。小南の頬が釣り上がる。黙り込んだ後、自分のスマホを操作し、画面を見せてきた。そこには、高一の時の成績表が載せられていた。

 その成績は、平均4以上である。

 

「ーっ⁉︎ なっ、おまっ……!」

「ふふん、あんたと一緒にしないでよね。アタシは勉強できるバカなんだから。……いやバカじゃないわよ!」

「……」

 

 今のセリフを聞いた感じでも百パー気の所為な気がする。自分のセリフに自分でツッコミを入れているんだから。

 

「……お前何したの? 教師相手に誘惑でもした?」

「は? 何よユーワクって。ラーメンでも奢るとか?」

「や、そうじゃなくてな……」

 

 よく見たら、保健体育の評価は3だ。小南の運動神経は生身でも悪くないのに。おそらく、性知識とか皆無なんだろう。

 しかし、だとするとどうやって好成績を取ったのだろうか? 教員の弱みを握った? それはない。弱みを握ろうと跡をつけた所で、夢中になり過ぎてゴミ箱を倒して「いやぁ、はっはっはっ」と笑って誤魔化す図が目に見える。

 では、先生のお子さんを誘拐した? それもない。バカに誘拐は不可能だ。

 となると他は……。

 

「……あ、そうか。金握らせたのか」

「素直に受け取りなさいよもう少し!」

 

 相変わらず失礼な奴だ。しかし、小南の心には(小南的には)余裕がある。逆襲はここからだからだ。

 

「それで、どうするのよ?」

「何が」

「私が教えてあげても良いのよ? 勉強」

「はぁ?」

「私なら教えるのは玉狛になるし、本部から距離があるから風間さんは滅多に来ないわ。それに、仮に来たとしてもキチンと勉強していれば問題ないでしょう?」

 

 言ってやると、海斗は奥歯を噛み締めた。借りを作る作らないで影浦と喧嘩し、忍田とレイジまで引っ張り出した海斗にとっては屈辱だろう。

 いつのまにか趣旨が変わってきている小南だった。しかし、目的を見失えば、何事も上手くいかなくなるのは世の常なわけで。

 案の定、海斗はため息をつくと、キレ顔で小南の方に顔を向けた。

 

「絶対に断る」

「なんでよ⁉︎」

「テメェの力を借りるくらいなら風間のしごきに耐えてやるわバーカ!」

「はぁ⁉︎」

「ぜってー負けねえから。負けた方が今度なんか奢りだから」

 

 好き勝手に言い荒らした海斗に屋上を出て行かれてしまった。

 ポツンと取り残された小南は、今更になって「頼ってもらう」という目的を思い出し、両手で顔を覆った。

 

 ×××

 

「……ダメだったわ」

「でしょうね」

 

 その日の夕食の席、今日は宇佐美がいなくて迅が入ったメンバーでの食事だった。

 当然のように返した烏丸に、カッとなった小南が立ち上がった。

 

「ち、ちょっと! でしょうねってどういう意味……!」

「小南、座って食え」

「……どういう意味よ」

 

 完全に立ち上がる前にレイジの制止が入り、大人しく座る小南だった。

 

「いえ、まぁ犬猿の仲の相手に今更、優しくしたところで気味悪がられるのは目に見えてましたので」

「んなっ……! だ、騙したなああああ!」

「小南、飯中に暴れるな」

 

 なんだか1日前も同じような説教をもらった気がしたが、とりあえず座っておいた。

 しかし、恨みがましい視線は烏丸に向けられたままだ。

 その向かいで、未来視のサイドエフェクトによって、数日前に見えた(割とどうでも良い)未来を思い出した迅は何があったのか思い出し、肉をつまみながら聞いた。

 

「で、小南。お前どうなの? 試験の方」

「試験?」

「試験で勝負することになったんだろ?」

 

 烏丸の問いに対し、迅が小南に質問する形で答えると、小南も頷いて答えた。

 どういう流れで勝負することになったのか、大体わかってしまった烏丸もレイジも質問する事はなく、小南がため息をつきながら続けた。

 

「よく分かんないわよ……一方的に勝負って言われて逃げられたんだから」

「ふーん……じゃあ、小南先輩は勝負するの拒否するんすか?」

「なわけないじゃない。あんなのから勉強勝負で逃げたら人生の汚点よ」

 

 やっぱりね、と男三人が納得してしまったのは言うまでもない。

 小南がその空気に察する前に烏丸が口を開いた。

 

「でも、チャンスじゃないすか?」

「何がよ、とりまる」

「ここで陰山先輩に勝っておけば、頼りになるって所は強調できるんじゃないすか?」

「!」

 

 それに対し、小南は「確かに」と言わんばかりに目を見開いた。レイジが確認するように聞いた。

 

「小南の高校は試験いつなんだ?」

「一週間後よ」

「なら、まだ間に合うな」

「ま、あいつがいくら勉強したところでアタシに勝てるはずないし、余裕よね」

「それは分からないよ、小南」

 

 レイジの問いに答えた小南に釘を刺したのは迅だった。

 

「何よ、何か視えたわけ?」

「海斗の学校は試験二週間後だし、海斗に勉強を教えるメンバーが風間さん、三上ちゃんに追加して荒船、鋼も増えるっぽいから。このままだと確率は割と低くないよ」

「嘘⁉︎」

「これ以上はフェアじゃないから俺の口からは何も言わないけど……小南もそれなりに勉強しておいた方が良いんじゃない?」

 

 未来視のサイドエフェクトを持つ迅は、未来に見えたものを必ず本人に伝えるわけではない。何故なら、教えたからといって未来が良い方向に傾くとは限らないからだ。

 それなのに教えてきたということは、いつも通りの勉強法では、自分は海斗に勉強で負けるということだ。

 ……と、小南は解釈したが、迅としてはこんなどうでも良い未来など教えてどう転ぼうが知ったことではないので教えただけだった。

 

「……わかったわ。私も勉強する」

「そっか。頑張れ」

「見てなさいよ、バ海斗!」

 

 一人で気合を入れてる小南を眺めながら、レイジが冷静に迅に聞いた。

 

「実際、どうなんだ?」

「海斗だよ?」

「……理解した」

 

 いいとこ9:1だった。どんなに環境が揃っていても、二週間で学力がグンッと跳ね上がることはない。いいとこ、60〜70といった所だろう。

 

「で、迅。実際はどうなんだ?」

「何が?」

「一ヶ月も前から風間が海斗を試験勉強させるために追い回すとは思えない。この一ヶ月の間、海斗には二つ悩みがあったんだろ?」

「えっ⁉︎」

 

 さっきまで舞い上がっていた小南が顔を上げた。

 レイジの質問に対し、迅は少し真顔になる。迅の表情が変わるということは、何かボーダー的に関わることがあるかもしれない、という事だ。

 

「いやー……どうだろうね。俺もあいつの考えてること、よく分かんないし。ただ、確かに他に悩みがあるのは間違いないよ」

「らしいぞ、小南」

「……そう」

 

 少し表情が沈む小南。怒ったり闘志を燃やしたり凹んだりと忙しい奴だが、茶化す気にはならなかった。

 恐らく、自分の好敵手が相当心配なのだろう。ただでさえ、試験期間は模擬戦とかあまり多く出来ないのに、任務にも支障が出るようでは、ただでさえB級隊員なのに給料が入らないと生活が厳しく……。

 

「あいつがそんなに複数の悩みを抱えるなんてあり得ない……絶対、何かあったんだわ」

 

 だからその通りだっつーの、というツッコミを抑えて、烏丸はとりあえずレイジに質問した。

 

「そういえば、レイジさん。前に急に忍田さんに呼び出されてましたよね」

「……ああ、もしかしたらあの事かもな」

「何か知ってるの?」

「前に模擬戦したんだよ。俺一人対陰山・影浦で」

「何よその組み合わせ?」

「陰山にチーム戦をそろそろ教えよう、との事でな。後は、まぁ……バカとバカの制裁を兼ねてたらしい」

「てことは……あいつ、何処かの部隊に配属されるかもってこと?」

「いや、無理に配属するつもりは無いらしい。本人の希望を聞いてからにするつもりそうだが……多分、海斗自身も勘づいての事だろう」

「……」

 

 顎に手を当てて考え事を始める小南だった。その小南に、隣の烏丸が声を掛けた。

 

「ま、今は気にすること無いんじゃないすか? それより、テストに集中した方が良いですよ」

「そうね。……あいつに負けるのだけは嫌だし」

 

 そう言いつつ、小南は食べ終えて食器を流しに戻した。

 

 ×××

 

 その頃、風間隊作戦室。

 

「違う。こっちのプラス3xが右に行ったらマイナス3xになる」

「なんでだよ。信念を持て。お前はプラスだ」

「信念の問題じゃない。厳密には移動したわけではなく、イコールの関係が崩れないように辻褄を合わせているだけだ」

「敵があまりにも強過ぎて卍解じゃどうしようもないから、氷の花弁がすべて散ってからが本番になる、みたいな?」

「やめろ」

「あ、陰山くん。ここも違うよ。xとyを足しちゃってる」

「同じアルファベットなんだから仲良くしろよ」

「スコーピオンから旋空は放てないでしょ? そういう事」

 

 風間も三上も苦労していた。

 

 

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