ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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可愛い子には親心が芽生える。

 試験が終わり、小南は本部に来ていた。今日は海斗とテストの点数勝負である。我ながら下らない戦いを引き受けてしまったものだが、引き受けてしまったものは仕方ない。やるからには全力で勝ちに行くだけだ。

 とりあえず、点数は平均80点以上。これを海斗が超える事はない、と確信していた。何故なら、迅に予知を聞いたからだ。

 なんか「ただ……」とか何か言おうとしてた感じだったが、小南はそれを聞かずに本部に出向いた。

 ただ、今日は海斗が仕事だ。22時まで防衛任務。今日はB級の諏訪隊と組んでいた。ここ最近の海斗の仕事はB級部隊と組むことが多い。やはり、レイジの言っていた通り、海斗もチームに入る事になるのだろうか。

 まぁ、あのバカがどの部隊に入ろうが知ったことではないが。

 

「で、どうよ。海斗! 麻雀でも!」

「本当に儲かるんだろうな?」

「ったりめぇよ! やり方は教えてやっからよ! 堤が!」

「勿論だよ。加古ちゃんの炒飯の被害にあった奴は、みんな俺の友達だ」

「ちょっ、堤さん。ここラウンジですよ……。てか、諏訪さんも未成年を誘って良いんですか?」

「バッカお前、麻雀やってる最中は全員ハタチ以上だっつの」

「てことは、麻雀やりながらコンビニ行けばエロ本も買えるんじゃね⁉︎」

「その通りだな」

「コンビニで麻雀やる気か、海斗くん……」

 

 ラウンジで待機していると、海斗が戻って来たのが見えた。

 見た感じだと、諏訪隊の面々と仲良くなったようだ。まさか本気でお金を賭けて麻雀をやるつもりなのか分からないが、基本的に自分を偽らない諏訪と海斗は早い話がかなりウマが合うタイプのようだ。

 しかし、小南はそんなの気にしない。

 

「かーいとっ♪」

 

 勝ちが分かってるから超元気ハツラツで出て行った。オロ○ミンCいらずだ。

 その分かりやすく意地悪そうに楽しそうな小南の表情を見て、諏訪も堤も笹森も固まる中、海斗が不機嫌そうな表情で小南を見た。

 

「何の用だスモールサウス」

「人の名字を覚えたての英語を使って呼ぶな! 中学生か!」

「俺、悪いけど今から麻雀だから。じゃ」

「逃がさないわよ」

 

 ガッチリと右手首を掴まれた。トリオン体に掴まれたわけではないのに、その手はやけに冷たかった。

 普段、ふてぶてしい程に堂々としている海斗が、今だけは異様に強張っている。恐らく、自分でも分かっているのだろう。負けが確定しているのが。

 迅に聞いたのか、それとも点数が想像以下だったのか……なんにしても、こんなに痛快なことは滅多にない。

 一方、海斗は諏訪に目を移した。しかし、諏訪は海斗の肩に手を乗せ、無駄にキメ顔で言った。

 

「こんなに良い女が話したがってんだ。麻雀なんかしてる場合じゃねえだろ?」

「良い女? どこにいんの?」

「照れるな」

「照れてねーよ」

「行くぞ、堤。笹森」

「「はい」」

 

 諏訪隊の面々はそのまま立ち去ってしまった。

 取り残され、額に汗を浮かべて固まってしまっていた海斗に小南はすごく意地の悪い笑みを浮かべて近付いた。

 

「ほれほれ、何点だったのよ? トータルで」

「一万」

「何科目受けたのよ。てか、嘘はいいから」

「……ちっ、10科目で629点だよ」

「平均63点じゃない。全然ね。私は平均80超えたけどね」

「わーってるよ。何が食いたい」

 

 思いの外、潔かった。良くも悪くも負けず嫌いのバカなら、何かしら通らない言い訳をしてくるもんだと思っていたが。

 

「そうね……カレーなんてどう?」

「お前がそれで良いなら良いよ」

「悪いわね、何度も奢ってもらって」

「喧しい。今から行くか?」

「良いわよ。行きましょうか」

 

 そう言って、二人でカレー屋に向かった。

 

 ×××

 

 カレー屋に向かう途中、小南は試験に勝つ事にもう一つの目的がある事を思い出していた。そういえば、海斗には勉強以外に一つ、悩みがあるのを。

 試験勝負に勝った事で頭がいっぱいだったが、もしかしたらその事で今、悩んでいるのかもしれない。だとしたら、少し日を開けてから誘うべきだっただろうか? 心無しか、海斗の表情に若干、疲れが残っているような気がする。

 

「……」

 

 やはり、自分には聞いてくれないのだろうか、悩みの内容を。まぁ、試験バトルに負かされた後だし、相談しにくいのかもしれないが。

 しかし、待っているだけというのは焦れったい。そもそも、自分は海斗にとって頼りになる先輩になれたのだろうか? 

 

「……うー」

「何唸ってんの?」

「っ、な、なんでもないわよ……」

 

 思わず漏れた吐息にも反応され、小南は少し小さく肩を震わせた。

 そのいつもの小南らしからぬ反応を見た海斗は、真顔のまま黙り込み、無駄に神妙な声で聞いた。

 

「……もしかして、バストアップ体操でも始めたけど全然、結果がブベラッ」

「最近、あんたのその失礼か軽口に対しては殴った方が良い気がしてきたのよね」

 

 見事に鼻にストレートが決まった。トリオン体の戦闘はともかく、生身の喧嘩素人が人の顔を殴ると拳にも痛みが走るため、プラプラと小南は手を振ったが、その表情は割とマジでキレかけている様子だった。

 微妙にギスギスした空気の中、カレー屋に到着してしまった。先に食券を買うタイプのお店だったため、海斗は財布からお金を出して中に読み込ませた。

 

「何にするよ?」

「……チキンカレー」

「はいはい」

 

 小南のチキンカレーと、自分の普通のカレーの食券を購入した。

 並んで歩いて先を探してると、見知った顔が二人、四人席に座ってるのが見えた。

 

「……ん?」

「あら」

「へ?」

「……げっ」

 

 風間蒼也と三上歌歩だった。風間の前にはカツカレー、三上の前には甘口のカレーが置かれている。

 その二人を見て、まず開口一番がこれだった。

 

「風間、デートか? ロリコンか?」

「お疲れ様会だ、バカの勉強の面倒を見終えたからな」

「というか、陰山くん。ロリって誰の事かな?」

 

 風間の鋭い視線より、三上の笑顔の方が怖かった。その笑みに思わず冷や汗を流して目をそらして苦笑いで黙り込んでると、風間が声を掛けた。

 

「むしろ、お前らの方がデートじゃないのか?」

「は? バカ言え。テスト勝負で負けて奢るはめになっただけだ」

「テスト勝負? お前、風邪引いて試験を38度で受けてズタボロになっていただろう」

「まったく……普段から勉強しないからだよ。知恵熱で風邪引く人なんて初めて見たよ」

「え……?」

「うるせー死ね」

 

 小南が海斗の方を振り向いたにも関わらず、海斗は小南に視線を移すことはしなかった。

 ふいっと風間達からも目を逸らし、小南の手を引いて空いてる二人席に向かった。

 

「小南、行くぞ」

「あ、うん」

 

 席に座ると、店員さんがお冷やを持って机の隣に立った。

 

「いらっしゃいませ。食券をお預かりします」

「あ、どうも」

 

 食券を預かり、厨房に引っ込んだ。ボンヤリとその背中を見てると、小南がジト目で海斗を見つめていた。

 

「……言いなさいよ」

「何が」

「風邪の話」

「別に言うことじゃないだろ。負けは負けだし」

「いいわよ、払うわ」

「いらねーよ」

 

 ポケットから財布を出したが、海斗は首を横に振る。

 

「なんで? 本来ならどうなってたか分からないじゃない」

「そういう問題じゃねーんだよ」

「……奢ってもらう時にはがっつく癖に」

「それとこれとは話が別だ。いいから気にすんな」

 

 そう言いつつ、海斗は店内のカレーの匂いをクンクンと嗅いでいた。相変わらずお腹の空く匂いである。

 明らかに話を終わらせようとしていて、多分是が非でも譲らないと思った小南は、すっとぼけた顔をしている海斗に、お冷やを飲みながら文句を言うように話題を変えた。

 

「あんた、風邪引いてたんならなんで呼ばないのよ、私の事」

「あ?」

「一人暮らしなんでしょ? 一人で平気だったわけ?」

「まぁ、米屋とか出水とか村上とか風間が来てくれたからな」

「……ふーん」

 

 冷たい声で相槌を打つ小南。やはり、自分よりも先にその辺なのか、と思ってしまう。

 付き合いの長さや性別の違いがあるため仕方ないのも分かるが、結局、全然頼られることがない。やはり、もう少し頼りになる先輩のように振舞うべきだったろうか……。

 それとも、やっぱり自分じゃ頼りにならないのかもしれない。戦闘ならまだしも、悩みとか風邪とか……そういうプライベートの部分では、海斗はやはり……。

 

「なぁ、小南」

 

 小南の表情に影がさした時、ふと海斗が声をかけて来た。

 

「っ、な、何?」

「良い機会だし、少し聞いてほしい話があんだけどさ……」

「えっ⁉︎」

「え、何」

 

 いきなりの展開に小南は驚いた声を漏らしてしまい、海斗の方も少し引いてしまった。

 

「あ、ダメ?」

「や、ダメじゃないけど……何?」

「色んな野郎に聞いたんだが……どいつもこいつも『諦めろ』『男なら逃げるな』だとか言ってきやがってさ……」

「し、仕方ないわね! 小南先輩が聞いてあげるわよ!」

「なんで嬉しそうなんだよ」

 

 相談だ、それも色んな人に相談している奴だ。相談される側なのになんか嬉しくなってしまった。

 内容は分からないが、万が一、部隊配属に関する相談だとしたら、自分の中で50パターンほど解答をシミュレーションしておいたのでどんなものでも答えられる自信があった。

 深刻な表情をしている海斗は、低い声でポツリと呟くように自身の腹の中をぶちまけた。

 

「……加古の作る炒飯が怖くて、双葉の修行の面倒が全然、見れてねえんだ……」

「…………はい?」

 

 聞き違いだろうか? 全く別の相談が飛んできた気がする。

 

「だから、加古の作る炒飯が怖くて双葉の面倒見れてないんだよ」

「……」

 

 固まってしまった、思わず。何を言っているんだこいつは、と。

 

「……それだけ?」

「だけとはなんだ。お前だろ、弟子を取るなら責任とれっつったの。割とマジで困ってんだよ。男どもはみんな他人事でテキトーなこと言うし。お前しか頼れる奴がいねえんだよ」

「……」

 

 複雑だった。嬉しいやら殺したいやらでどうすれば良いのかわからない。

 しかし、海斗の気持ちもわかる。女性に対して態度以外は紳士的な彼は「変なもん食わすな、創部二年目のバスケ部監督かテメェは」とは言えないのだろう。

 だが、双葉に対する責任感と板挟みにされ、悩んでいるには悩んでいるのだろう。今日までは「試験勉強」という逃げ道もあったが、それも試験が終わって使えなくなってしまった。

 仕方ないので真面目に答えてやることにした。

 

「たまにならうちの支部使って良いわよ」

「マジ? サンキュー」

 

 解決した。

 事のついでなので、もう片方の話も聞いてみた。

 

「あんた、聞いたけど部隊に配属されるんだって?」

「あー……まぁ、決定じゃないけど」

「どこに行くのよ」

「まだ分かんない。てか、今度ランク戦あるからそこで見てからって事にする予定」

「ふーん……そう」

 

 そう呟くと、店員さんがカレーを運んできた。

 

「お待たせ致しました」

「お、きた」

「おいしそ」

 

 机の上にカレーが置かれた。スプーンを手に取り、いただきますと挨拶してカレーを掬った。

 

「あむっ……おいひ」

「あら、ホント。ここのカレーいけるわね」

「え、お前ここ来たことなかったの?」

「え? そうよ? 自分で払って美味しくなかったら嫌じゃない」

「……あそう」

 

 そんな話をしながら、海斗はふと思ったので聞いてみた。

 

「そういやお前、料理出来んの?」

「出来るわよ?」

「へー。や、玉狛で飯食うとき、木崎さんか烏丸か迅が飯作ってたから」

「たまたまよ。今度、アタシの作ったカレー食べさせてあげるから。覚悟してなさい」

「大丈夫? ジャガイモとか芽を取るの忘れないでね? ソラニンで死んじゃうから」

「忘れないわよ! バカにしすぎでしょあんた⁉︎」

 

 怒鳴った後、カレーを口に運んだ小南は、それを飲み込むと海斗をジト目で睨んだ。

 

「大体、あんたこそ料理できるわけ?」

「出来るわ。一人暮らしだし」

「そっちの方が意外よ」

「便利だよなぁ、レンジでチンすりゃあったかい飯がくえるんだから」

「冷食じゃない! 早死にするわよあんた」

「や、作れるには作れるけど、最近は面倒臭くてな。だから玉狛で食える飯はマジ助かってる。なんなら玉狛に入りたいレベルで」

「ご飯が目的で配属先を選ばないの……」

 

 言うこと為すこと全部、ナメた奴だ。まぁ、海斗の腕なら小南としても大歓迎だが、玉狛は戦力的にも現状で十分なので、本部が了承するかはわからない。

 むしろ、他のB級くらいの部隊に配属される可能性の方が高い。

 

「ちなみに、希望する部隊とかあるわけ?」

「毎日ラーメン奢ってくれる隊長がいる部隊」

「いないわよそんな隊長。ていうか、あんたラーメンが好きなの?」

「超好き」

「そ、そう……」

 

 あまりの断言に小南は目を逸らした。じゃあ、今日はラーメンの方が良かったかな、と一瞬思ったが、来てしまったものは仕方ない。次の機会に活かそう。

 

「でも、優しい隊長なら割といるわよ。東さんとかよく焼肉奢ってくれるらしいし、柿崎さんのとことかよく一緒に遊びに連れて行ってくれるみたいだし」

「ふーん……でも、東さんとこは小荒井と奥寺に怖がられてっからなぁ」

「何したのよ」

「何もしてねーよ」

 

 最近はあまり歳下と関わることがないため忘れていたが、基本的に何もしてないのに怖がられるのだ。それなら、いっそのこと部隊には所属しない方が良い気さえする。

 

「ま、あんたはうち以外ならどの部隊に入ったってエース張れる実力はあるんだから、作戦もあんたがメインのものになるでしょうし、気楽にやんなさいよ」

「いや、どっかに入ることになったら、俺はそのチームの戦略に合わせるつもりだぞ」

「あら、そうなの?」

「この前、木崎さん一人に二人掛かりでボコられたんだ。身勝手に動いて勝てるもんじゃねーのはよく分かった」

 

 そう言う海斗を、小南は意外そうな表情で眺めた。まさか、この男に協調性が芽生える日が訪れるとは夢にも思わなかった。

 

「成長したのね、あんた」

「どの目線で言ってんだテメェは」

「上から言うわよ? ボーダーでは先輩だもの」

「……けっ」

 

 不機嫌そうに海斗は悪態をついた。しかし、反論しなかったところを見ると、納得はしているようだ。素直じゃない奴はこれだから困る。

 

「ま、何かあったらまた私に言いなさいよ。なんでも相談に乗ってあげるから」

「……気が向いたら相談してやるよバーカ」

「うん。待ってる」

 

 つい漏れた「バーカ」という悪口に反応せずに年相応な意地悪い笑みを浮かべた小南がとても綺麗に思えたが、その後にスプーンで掬ったカレーをスカートに垂らしてシミを作って大騒ぎし始めて台無しだった。

 

 ×××

 

「ま、何かあったらまた私に言いなさいよ。なんでも相談に乗ってあげるから」

「……気が向いたら相談してやるよバーカ」

「うん。待ってる」

 

 その頃、カレー屋の別の席。風間と三上は黙ってバカ2人の会話を聞いていた。 別に聞き耳を立ててきたわけではない。聞こえちゃっただけだ。

 

「……あの、風間さん」

「なんだ、三上」

「あの二人、付き合ってるんですか?」

「いや、分からないが……」

「そういえばこの前、二人が屋上で夕陽を見ながら一本のコーラを飲んでいたって噂が……」

「こんな話も聞いたな。陰山がわざわざ玉狛に訓練しに行くのは、小南に会いに行くためだそうだ」

「それから、陰山くんが玉狛と組んで防衛任務の時、小南さんとのコンビネーションは抜群だそうですよ?」

「そうか……なんか今お互いに相談する仲になったようだしな」

「……くすっ」

「……ふっ」

 

 二人して笑みを浮かべた。態度も口も悪いが、海斗は根は真っ直ぐなバカだ。中々、自分の想いを伝えられない事だろう。

 風間と三上は後ろで楽しそうなお話しする馬鹿二人を微笑ましい目で眺めた。

 

 




感想を送っていただいた方からあったので、主人公のトリガーセットとパラメーター。基本、成長するタイプの主人公なので、今後もっと伸びる可能性アリ。

陰山海斗
ポジション:アタッカー
年齢:16 誕生日:8月8日
身長:165くらい 血液型:B型
星座:ぺんぎん座 職業:高校生
好きなもの:タイマン、ラーメン、少年漫画、タダ飯(飲み物も可)
FAMILY:父、母

TRIGGER SET
メイン:
スコーピオン
レイガスト
スラスター
シールド
サブ:
スコーピオン
レイガスト
スラスター
バッグワーム

パラメーター
トリオン:8
攻撃:13
防御・援護:10
機動:7
技術:7
射程:2
指揮:0
特殊戦術:2
TOTAL:49

RELATION
影浦→死ね
村上→いつ俺を勝ち越すん?www
荒船→友達
米屋→友達
出水→友達
小南→バカ
レイジ→神
双葉→溺愛
加古→料理と黒魔術は違う
風間→指導といじめは違う

バカに指導を受けた黒江双葉
トリガーセット
メイン:
孤月
魔光(試作)
シールド
旋空
サブ:
韋駄天(試作)
レイガスト
スラスター
バッグワーム

パラメーター
トリオン:6
攻撃:9
防御・援護:7
機動:11
技術:7
射程:2
指揮:1
特殊戦術:7
TOTAL:50

多分、こんな感じです。

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