ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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一つの悩みが解消されれば、全て解決される。

 そもそも、小南がスーパーに来たのは迅に「今日の飯当番代わってくんない?」と言われたからだ。なんでも、飯当番になって買い物に行けば、何か良いことがある、と言われたからだ。

 しかし、結果はランニング10キロである。助けを求めて電話をしたものの「俺達今、飯中だから」との事らしい。あの、いらん予知一丁した奴とりあえずブッ飛ばす。

 で、ランニング10キロが終わった所だ。海斗のペースに合わせていたら2〜3キロでダウンしたので、10キロも走る事なく中止になったが。

 今は公園でベンチに座り込み、恨みがましそうな目で海斗を睨みつけている。

 

「はぁっ……はぁっ……あんた、何なのよ本当に……!」

「大丈夫か?」

「大丈夫じゃ、ないわよ……! てかあんた足早すぎでしょ……アレで10キロ保つわけ?」

「ゆっくり走ってたつもりなんだけど」

 

 こいつ、生身の体力ならレイジと同レベルなんじゃ無いだろうか、と思わざるを得なかった。

 

「はい、アクエリ」

「あ、ありがと……」

 

 それを受け取り、口に含む。ここ最近は飲んでなかったので、懐かしい味が口内に広がる。疲れているときには甘い物、というのは本当の様だ。

 

「で、何よいきなりあんた」

「あ?」

「普通、人をいきなりダイエットに付き合わせる?」

「ダイエットじゃねーよ」

「じゃあ何?」

 

 聞き返され、海斗は相変わらずの目付きの悪さなのに何も考えてなさそうな顔で平然と答えた。

 

「……打ち上げがしたい」

「…………は?」

 

 今度こそ。今度こそ理解不能と言わんばかりに小南の表情は真顔になる。内心はかなり狼狽えているため、すぐに真顔を崩して聞いた。

 

「……え、どういう事?」

「だから、打ち上げがしてーんだよ。お疲れ様会、みたいな」

「や、意味分かんない。え、ドユコト?」

「今から飯食いに行こうぜ」

「バカ言わないでくれる⁉︎ いいから一から流れを全部説明しなさいよ!」

 

 まぁ、そうなるよね、と海斗は自嘲気味に思い、とりあえず説明しようと口を開きかけた。しかし、冷静になった今、考えてみると、打ち上げに行く影浦隊が羨ましくて凶行を強行しました、上手いこと言えるはずがない。

 誤魔化すことにした海斗は、真剣な表情で小南に言った。

 

「お前太ったなーと思っ」

「トリガーオン」

「嘘ごめん冗談だから、ちゃんと説明するから殺気引っ込めて」

 

 とは言うものの、説明するには公開処刑にも程がある内容だ。何とかして誤魔化そうと悪知恵を働かせている時だ。

 

「次、誤魔化したら帰るから」

「……」

 

 完全に読まれていた。こうなれば正直に話すしか無い。仕方なくため息をついて、海斗は聞いた。

 

「お前さ、影浦隊の今日の成績聞いた?」

「ああ、なるほど。打ち上げが羨ましかったのね」

「ちょっ、バカ違うから」

 

 ヒントレベル1で図星を突かれ、思わず反射的に否定してしまったが、小南のニヤニヤした攻めは止まらない。サイドエフェクトを持っているわけでも無いのに、なんかもう何もかもを見抜いた小南は意地悪く詰め寄った。

 

「ふーん? じゃあ、私は帰っても良いわね?」

「え、いや……」

「というか、帰りたいし。割と汗だくになっちゃったから」

「分かった、あってる。あってるから待って」

 

 ここで捨てられるわけにはいかない。何故なら、今でもすごく羨ましいからだ。打ち上げとかすごくやってみたい。

 

「まったく……それならそう素直に言えば良いのよ」

「うるせーから」

「で、何処でするの?」

「は?」

「付き合ってあげるわよ。ちょうど、玉狛の夕食も先に始められちゃったし」

 

 実際には迅に謀られただけだが、わざわざ言うことでもない。しばらく目の前のバカな少年は自分を意外そうな目で見ていたが、すぐにいつものふてぶてしい顔に戻ると、平然とした顔で言った。

 

「じゃ、俺ん家で」

「良いの?」

「良いよ。……あいつらも手作り料理で盛り上がるらしいし」

「あ、そう……」

 

 鍋を料理と言って良いのか分からないが、とりあえず海斗の家で夕飯を食べることになった。

 

 ×××

 

「うわ……デッカ……」

 

 小南は海斗の自宅に到着し、思わず眉間にシワを寄せた。予想よりかなり大きい。骨川家のような豪邸では無いが、普通の一軒家よりは遥かに大きいものだ。三階建とか初めて見た。

 

「え、あんたここに一人で住んでるの?」

「みんな死んだからな」

「あ、そ、そうね……。お線香とかあげた方が良い?」

「や、仏壇ないから」

「……そ、そう……」

 

 相変わらず淡白な返事に少し引く小南。それを気にすることなく、海斗は家の鍵を開けた。その後に、若干、圧倒されつつも小南も続く。

 

「先にシャワー浴びるか?」

「そ、そうね」

「風呂場はこの廊下、真っ直ぐ行ったとこな。五分後に着替えとリセッシュを置きに脱衣所に入るから、さっさと風呂場でのんびりしてろ」

「あ、ありがと……」

 

 そう言い放つと、海斗はさっさと支度に向かった。とりあえず、こんなバカなことに了承してくれた小南には感謝せねばならない。冷静に考えてみれば、随分とバカなわがまましたものだ、と自分で自分が恥ずかしく思えてくる。

 昔からわがままで物をねだった所で両親からもらえるものは金だけだったため、こういうバカな頼みも聞いてもらえるのは新鮮に嬉しかった。

 というか、事情を知ったとはいえこんなアホな事を許してくれるとか、小南は実は割と良い子なのではないだろうか。

 何はともあれ、せっかくの機会だ。盛り上がらなければならない。特に、なによりもこの広い家で打ち上げなのに二人しかいないし。

 気合いを入れながらリ○ッシュと自分のジャージの上下を手に持つと、ふと疑問が浮かんだ。

 

「……ん? 広い家に、二人?」

 

 ふとそこで再度、冷静になった。広い家に、異性で同い年の、女子高生と二人。どう考えても周りに知られれば健全では無い空間に思われるのは明白だ。

 その上、小南桐絵はボーダーの中でも最古参であり、最も名の知られている女性隊員だろう。それがもし、何も無いにせよ男の家に男と二人でいる、なんて事が知られれば……。

 

「……ヤバイ」

 

 チームを組むどころの騒ぎではなくなる。永久にB級ボッチだ。

 

「……やっぱ外で食うか」

 

 今ならまだ間に合う。走って脱衣所に到着すると、ちょうど良いタイミングで小南が扉を開けた。

 どっしーん☆ なんて少女漫画のように押し倒すようなことはなかったが、小南の服装はまずい。私服姿なのだが、胸元のボタンは開き、靴下は履いておらず、明らかに脱ごうとしていた形跡がある。

 思わずドキッとしてしまったが、小南にはそんなもの関係ない。何故か眉間にしわを寄せて詰め寄ってきた。

 

「海斗!」

「っ、な、何?」

 

 グイッと胸倉を掴まれる。もしかして、下心があると思われたのだろうか? そんな気はなかったにせよ、状況的にはどう考えても下心のある男の行動だ。ましてや小南は騙されやすい奴だし。あれ? つーか、これ俺が悪い奴ならこいつヤバくね? とか何とか、もう頭の中がぐるぐる回っていると、小南は胸倉を掴んだまま、唐突に目を輝かせて風呂場の扉を指差した。

 

「もしかしてあれ、ジェットバス⁉︎」

「え? うん。…………えっ?」

 

 反射的に答えたものの、質問の内容を頭に入れるのに時間が掛かった。

 確かに、ジェットバスだ。両親がやりたい放題やって建てた家なので、普通の家には無いものがたくさんある。海斗は使った事ないが、ジェットバス、ゴルフのシミュレーター、ビリヤード台、ガラスのチェス……などなどと。

 まぁ、両親が死んだ今、ほとんど使わないものばかりだが。とってある理由はどうしたら良いのか分からないか、売却用かのどちらかだ。

 しかし、それを何故、今指摘されたのだろうか? という海斗の疑問を見透かしたようなタイミングで小南は吠え散らかした。

 

「アタシもジェットバス使いたい‼︎」

「……」

 

 何度こそ。今度こそ海斗は呆れてしまった。それと共に、自分の中の不安が全て浄化され、ホロホロとメッキが剥がれ落ちるように天に昇って行ったような感覚に陥った。

 自分はバカですか、と。こんなバカな女を相手に何を不安に思ってんのか、と。

 

「……お前、もしかしてそのためにわざわざ脱いだものを着たの?」

「そうだけど?」

「汗ばんだ服をわざわざ?」

「そうよ?」

「……」

 

 確信した。こいつバカだと。なんかもう何もかもどうでも良くなった海斗はため息をついて答えた。

 

「準備してやるから待ってろ」

「やった!」

 

 怒る時間が無駄だと悟り、従ってやることにした。

 

 ×××

 

 風呂から上がった小南は、まず興奮し過ぎて大忙しだった。相当、ジェットバスが心地良かったようで「すっごいわね! 何がすごいって、お尻と腰の辺りがもう……ゴオオオオッて! 直接お尻にゴオオオオッて! すっごいわね!」と、お尻がすごいと言われてるのに全然、エロさを感じさせないのがまたすごかった。

 で、飯。小南に作れるものはカレーだけなので、二人でカレーを作った。

 

「美味そうだな」

「当たり前じゃない、アタシのレシピで作ったんだもの」

「だから不安なんだけど……」

「何か言った?」

「ナンデモナイ」

 

 まぁ、野菜の皮むきやら何やらといった下処理は全て海斗がやったので、腹を下して便所で1日過ごす羽目になるような事はないだろう。食材に火が通ってれば。

 で、とりあえず一口。直後、海斗は目を見開いた。まるで、予想外の出来事が起こったように。

 

「カレーの味がする!」

「失礼ね! だからアタシはカレーが得意だって言ってるでしょ⁉︎」

「本当だったのか……てっきり、タラバガニがカニだってレベルで嘘だと……」

「分かりにくい例えやめなさ……え、そうなの?」

「あれヤドカリだよ」

「嘘⁉︎」

「ホント」

 

 割と一般常識だと思ってた海斗は、小南の反応が新鮮でちょっと面白かった。

 

「あんた……バカの癖にそういうの詳しいんだ……」

 

 前言撤回、何も面白く無い。こうなれば、喧嘩になるのはいつもの事だが……せっかくの機会だ。次は嘘をついてみよう。

 小南が麦茶を手にしたタイミングで、しれっと言ってみた。

 

「知ってる? カレー食べながら麦茶飲むと胃が爆発するらしいよ」

「ぶふぇえっ⁉︎ う、ウゾ⁉︎」

 

 小南の吹き出したお茶を一滴も顔に浴びる事なく回避した海斗は、さらに続けて言った。

 

「あとカレー食べる時のスプーンの上の割合はカレー4、飯6じゃないと歯が腐るらしいよ」

「ブフーッ! ぺっ、ぺっ……! う、嘘……⁉︎ なんで⁉︎」

 

 また吹き出しながら聞いたものの、とりあえず信じているようで口の中のカレーを皿の上に戻しつつ聞いたが、海斗は答えずに新たな話を始めた。

 

「それとー……そうだな、知ってる? カレーに人参を入れると地球上に存在するありとあらゆる元素がブドウ糖になるんだよ」

「えっ、そうな……いや、それはないわよ! 流石にそんな嘘に騙されるわけないじゃない⁉︎」

「それさっきまでの嘘は騙されても仕方ないって言ってる?」

「さっきまで……? あ、さ、さっきのも嘘なのね⁉︎」

 

 いいように騙されたばかりか、女の子であるにも関わらず2度も連続で吹き出したことを思い出し、顔を赤くして口元を拭いながら怒鳴り散らす小南を、すごく嫌な笑顔で眺めながら答えた。

 

「むしろよく気付いたな、騙されたと。褒めてやる、桐絵ちゃんよぉ」

「ッ〜〜〜‼︎ ムカつくムカつくムカつく! あんた何なのよ!」

「つーか、考えりゃ分かるだろ。なんでカレーの割合で歯が溶けるんだよ」

「だ、だって……歯なんてコーラでも溶けるし……でも、そうよね。タラバガニって言ってるのにヤドカリなわけないし……」

「え? や、それはホント」

「え、そうなの? ……いや、騙されないわよ!」

「いやホントなんだが……まぁ、好きにして良いよ」

 

 なんだか本当の知識まで疑われてしまったが、海斗は気にしない事にした。信じるも信じないも小南次第だし。

 

「にしてもな、小南。お前ちょっとちょろ過ぎるぞ」

「何よいきなり失礼ね」

「小南、お前の髪ってサラサラだな」

「へ?」

 

 唐突に言われ、キョトンと目をパタパタさせる小南。しかし、海斗は気にせずに身を乗り出し、小南のもみ上げを手で掬った。

 

「ほら、指を通しても引っ掛からないし、見るからにサラサラしてるし」

「ち、ちょっと……ヤダもう……急に何よ」

「ほらね?」

「確かにサラサラだけど……ほらね?」

「チョロいじゃん。話の流れ的に完全に騙す流れだったじゃん。なんでそんなナチュラルに騙されんの?」

「だ、騙したの⁉︎ もしかしてサラサラじゃない⁉︎」

「や、よく見てないから知らんけど。俺、髪ソムリエじゃないし」

「それはそれでショック!」

 

 しかし、たしかに騙されやすい。こいつ、ボーダーの関係者だっていえば簡単に機密をペラペラと話しそうなものだ。

 

「……お前、もう少し人を疑うことを覚えろよ……」

「う、うるさいわよ! みんな、嘘が上手すぎるのよ!」

「いやそんな上手くないだろ……。今の流れで騙される方がすごいわ」

「うるさいわね……大体、あんたは騙される、騙されない以前に頭が足りないじゃない」

「るせーよ、バーカ」

 

 そう返しつつも、海斗は反論はしなかった。今は学力の話ではなく、小南のチョロさだ。

 次はどんな騙したをしてやろうかなーなんて好きな子にちょっかいを出す男子小学生みたいな事を考えていると、小南の方から呆れ気味に声を掛けた。

 

「そういうのはいいから、悩みがあるんでしょ?」

「あん?」

「色々と頭の中でグッチャグチャになったから、こんな暴挙に走ったんでしょ? いくらあんたでも、学生服の女の子をいきなり走らせたりしないでしょうし」

 

 それはその通りだ。まぁ、今日は色々、影浦隊の勝利以外の悩みもドバッとなだれ込んできた日だったし、ある意味では仕方ない。

 それにしても驚いた。自分が悩んでいるか悩んでいないか、などを見抜ける奴なんか滅多にいないからだ。

 

「……まぁ、そうだが」

「聞いてあげるわよ」

「あー……実は……」

 

 と、言いかけた所で、海斗の口は止まった。自分の頬を、冷たい汗が流れると共に、思わず自問自答してしまった。

 

 ──ーえ、俺小南に相談するの? プライドって言葉の意味、知ってる? 

 

 そんなあまりにも失礼な自問自答をする海斗の目の前では、小南が可愛らしく小首を傾げる。こんな可愛らしい仕草なのにアホな顔してるように見える女の子も珍しいだろう。

 しかし、自分は実際に相談しそうになっていた。冷静になればコンチクショウってなるが、なんかふとした時にいろんな愚痴とか漏れそうになる。

 

「何よ、どうしたの?」

「……や、なんでもない」

「いいから言いなさい。先輩のアタシが後輩のあんたのお悩みを解決してあげるから」

「……」

 

 まぁ、そこまで言うなら良いか、と海斗は思う事にした。目の前の女から発している色は、見るからに優しい色だ。セリフの割に、割と本気で心配している様子だった。心配してくれているのなら、プライドとかなんとかいってるばあいではない。

 とは言っても、全力のアホの子だから、解決出来るとは思えないが。

 とりあえず、一つ目の悩みから言ってみた。

 

「三輪に誤解されてんだけど……」

「……三輪? 三輪って……三輪秀次?」

 

 あまりに意外な相談に、小南は思わず間抜けな質問を返してしまった。他に誰がいると言うのだろうか。

 

「そう」

「え、なんで?」

「なんか、戦い方がエゲツないからトリオン兵に対して、自分と同じくらいの憎悪を燃やしてると勘違いされてんだよ」

「あー……」

 

 それを聞いて、なんとなく察してしまった。海斗は両親が亡くなっているから、普通の感性の持ち主なら三輪以上の怒りを秘めていると思われてもおかしく無い。

 ましてや、インファイトスタイルで機嫌によっては「すぐに死んじまわねえよう、スコーピオンを出さないで殴らねえとな」とか抜かしながら拳と蹴りを容赦なく繰り出している馬鹿だ。あのシーンだけ見たら、家でトリオン兵に藁人形でも打っていそうなものだ。

 

「……いや、でもはっきり言えば良いじゃない」

「簡単に言うな。もうこの誤解を受けて何ヶ月経過してると思ってんだ」

「何ヶ月も経ってるわけ⁉︎ あんた何してんの⁉︎」

「なるべく三輪に会わないようにしてた」

「いやそういう意味じゃないわよ聞いてるのは! あんた、誤解を解こうとか思わなかったわけ⁉︎」

 

 そう言われたものの、海斗は反省してるんだかしてないんだか分からない表情で平然と答えた。

 

「バカ言え。あいつがあんな愚痴を言えるような奴、他にいるかよ。確かに近界民に恨みを持ってる奴は山ほどいるが、同年代で家族を殺されてて、そんでもってゴリッゴリに恨んでるように見える奴なんかそういないだろ」

「でも、悩んでるってことは困ってるんでしょ?」

「や、まぁ……なんか結構、申し訳なくて。割と気がひける」

「なら、言うしかないじゃない」

 

 それはその通りだ。しかし、そうはならない事情がある。

 

「でも、あいつ上層部のお気に入り……なのかは知らんけど、A級なだけあって上の人と仲良いじゃん。それで俺の部隊入りが邪魔されたりなんてしたら……」

「平気でしょ別に。てか、万が一そうだとしても部隊に入ってから誤解を解けば良いんじゃないの?」

「……なるほど」

 

 それは確かにその通りだ。しかし、チームに入るのも簡単な話では無い。多分、どこに行っても歓迎されない。自分だけ遊びに誘われないとかあったらさすがに凹む自信がある。

 

「で、部隊は何処にするとか、目星は付けたの?」

「まぁ、一応、二部隊くらい」

「嘘、何処?」

「嘘ってどういう意味だオイ」

「何処?」

 

 勢いで誤魔化しに行く小南だった。実際、どうせ海斗の事だから、やるやると言って何もしてないパターンかと思っていた。

 まぁ、海斗もその辺で突っかかるほどアホでは無い。

 

「柿崎隊か鈴鳴か二宮隊だけど……二宮は除外してるから」

「それは……そうね。ていうか、どっちの隊も隊長が優しい人ばかりじゃない。ダメなの?」

「米屋に止められたよ。鈴鳴の狙撃手とモメるだの、お化け屋敷のお化けをノックアウトした柿崎隊の万能手だの……」

「ああ、なるほど……」

 

 つまり、真の悪を相手にして揉めるか、お嬢様を怖がらせて殴られるかのどちらかという事だ。

 しかし、小南は学校が同じなだけあって、照屋文香という人間に関しては、それなりにわかっていた。

 

「文香ちゃんなら、あなたにビックリして手を出したりなんてしないと思うわよ。あの子、お化けがダメなだけで、割と肝は座ってるし」

「え、そうなん?」

「だから、下手に脅かしたりしなければ殴られるようなことはないはずよ」

「……なるほど」

 

 海斗は小さく頷くと、顎に手を当てた。

 

「一応、頼んでみるか。柿崎さんに」

「それが良いんじゃない? あの人なら、邪険にはしないと思うし」

 

 これで、もしかしたら全部解決するかもしれない。柿崎隊に入り、A級に上がれば全ての欲求が満たされる。

 ようやく自分の悩みに終止符が打てると、ホッと一息つくと、改めて思った。影浦の奴は相当、努力したんだろうな、と。自分がようやく立てたスタートラインの頂点に、既に立っている。

 これから、自分はようやく影浦に追いつかなければならない。B級ランク戦で勝ち上がり、A級を目指す。それは簡単なことではない。自分と同レベルの足りない頭で作戦を考え、チームメイトと協力したという事だ。

 自分も、それくらいやらねば勝てないだろう。

 

「大丈夫よ」

「は?」

 

 そんな海斗の考えを見透かしたように、小南が声を掛けた。

 

「作戦なら柿崎さん達が考えるから、あんたは命令通り暴れればそれで良いのよ」

「お前やっぱ喧嘩売ってんだろ」

「ほら、さっさと食べてビリヤードとかダーツやりましょ」

「結局やんのかそれ」

 

 


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