ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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ワートリ最新刊買って読んだら、鳩原先輩がいなくなったのは犬飼誕生日肉の翌日だそうで。今度からスクエア買います。色々と修正して来ます。


道に落ちてるものは全て武器として見よう。

 加古隊の作戦室では、双葉がモニターを食い入るように眺めていた。映されているのは、陰山海斗vs風間隊。歌川を緊急脱出させた海斗は呑気に服屋を見て回っていた。

 

「すごい……界王様、また強くなってる……!」

「あの、双葉。前々から思ってたんだけど、界王様って何なの?」

「師匠がそう呼べって言ってたので」

 

 質問しておいてなんだが、考えるのを辞めた。どうせバカのバカな思い付きなのだろう。

 

「にしても、やるわね本当に。風間隊を相手に一人であそこまでやるなんて。まぁ、黒トリガーって本来、そういうものなんだけどね」

「? そうなんですか?」

「そうよ。基本的に、黒トリガーはどれも理不尽な物なの。私達が戦う天羽くんのなんてもっとすごいんだから」

「……界王様より、もっとですか?」

「ええ」

 

 少し、双葉はむすっとした。双葉の中では、界王様はボーダー最強だ。相手がどんな奴でも絶対に負けない。色んな屁理屈と言い訳を捏ねて自分の中で無理矢理勝ちにしてしまう、全力の負けず嫌いだ。

 あれ? それ最強と違くない? まぁ良いや、とにかく私の中では最強だ、と言い聞かせた。

 

「でも、風間さんも簡単には勝ちを譲らないと思うけどね。あの人も中々に負けず嫌いだし」

 

 加古があくまで楽しそうにニコニコしたまま言った。それを聞いて、双葉の表情は益々、むすっとした。

 

「でも、界王様は絶対に負けません」

「ふふ、そうね」

 

 真剣な表情でモニターを眺める双葉は、実に揶揄い甲斐がある。

 

「……さて、風間さんはどうするのかしらね」

 

 ×××

 

 黒トリガーを手に持ちながら、海斗は服屋を見て回った。置いてある商品は全て同じようなものばかりなのだが、それでもキチンと一着ずつ作られている辺り、開発室の皆さんは割とバカなんじゃないかな、と思ったりもした。いくらなんでもディテールをこだわり過ぎている。実際の戦闘でも、これらのスーツで目眩しとかも可能ではあるのだろうが、にしてもわざわざここまでリアリティを追求する理由が分からない。

 そんな話はさておき、改めて黒トリガーというものを思い知った。風間隊をああも簡単にあしらえるとは思わなかった。まず、ブレードが使いやすい。軽いし斬れるし、どんな風にでも操れる。

 何より、トリガーの切り替えの必要がないから、生身の戦闘と感覚が一番似ている。正面からの殴り合い、己の直感と運動能力だけをフルに活かし、戦える。殴る瞬間にスコーピオン起動とか面倒なことをしなくて良いのがとても良い。

 やはり、喧嘩は肌で感じねえとなーなんて考えてると、なんか良い感じの服を見つけた。二宮隊のような黒いスーツだ。

 

「……」

 

 自分の身体に当てて、鏡を見てみる。二宮隊もホストの集まりに見えるが、自分の場合は怪しいキャッチに見える始末だった。

 しかし、他の人の感性は違うかもしれない。

 

「綾辻ー、似合う?」

『怪しいキャッチみたい』

「だよね知ってた」

『えー、そう? 俺は結構、似合うと思うけど』

『ああ。目付きの悪さが際立ってるだけで、普通に似合ってるぞ』

「マジか、佐鳥。嵐山」

 

 ちなみに、木虎は完無視を決め込んでいる。

 

『でも、良いの? 陰山くん。さっきから風間さん達は他のフロアを動き回ってるけど』

「良いだろ、別に。仕掛けて来ないなら、俺はのんびりしてるだけだ。……あ、こっちのスーツも良いかも。グレーとかどう?」

『それは合わない』

『黒のが良いですよ』

『俺もそう思う』

「……それ、俺の内心的な話をしてるんじゃないだろうな」

 

 なんて、嵐山隊のメンバーを巻き込んでスーツを選んでる時だ。鏡の後ろから、デッカいソファーが飛んで来た。

 

「うおっ……!」

 

 慌てて回避すると、ソファーの上に風間が乗っているのが見えた。思いの外、簡単に距離を詰められてしまったが、近距離での殴り合いも大歓迎だ。

 ソファーに気を奪われていると、急な通信が耳に響く。

 

『菊地原くんが来てる!』

 

 ソファーを投げた本人が背後から一気に距離を詰めてくる。風刃を放っても良いが、ソファーに乗ってきた風間が背後にいるため、両サイドに気を回さなければならない。

 そのため、風間に一発、風刃を放ちつつ、菊地原に接近した。風刃のブレードと、菊地原の裂かれた左腕からサーベルのように生やしたスコーピオンがぶつかり合い、右手のスコーピオンで斬りつける。

 それをブレードを握ってない左手で抑えると、菊地原の足を払って転ばせる。顔面に向かってブレードを突き刺そうとした時、ソファーが横から飛んできて大きく吹っ飛ばされる。

 菊地原の横に風間が着地した。

 

『無事か?』

『はい。一応、ダメージは受けてないです』

『頼むぞ。こちらの準備が終わるまで、なるべく引き付けろ』

『了解です』

 

 そう言うと、またソファーが飛んできた。それを菊地原が真っ二つに裂くと、両断された間からのんびりと歩いてくる海斗の姿が見えた。

 

「おーい、風間隊は椅子を投げるのが好きなのか? ソファーは座るもんでキャッチボールするもんじゃねえぞ」

「口が回るな、陰山。歌川を落としたってだけで調子に乗っているのか? 半人前め」

「ていうか、君だって投げ返してるじゃん」

「目には目を、歯には歯を、ソファーにはソファーを。俺の流儀だ」

「なら、スコーピオンにはスコーピオンを、だ。ノーマルトリガーに変えても良いんだぞ?」

「……確かに」

「いやいや、納得しちゃダメでしょ。風間さん、こいつバカなんだから下手なこと言わないで下さいよ」

「よっしゃ。まずは菊地原。テメーから殺す」

「やってみなよ」

 

 そう言うと、菊地原が先頭に、風間が続いて突撃する。海斗は遠隔斬撃を使わず、ブレードのまま構えた。

 菊地原と正面から撃ち合っている間に、風間が背後に回って来るので、その攻撃を回避しつつ菊地原の背後に回り込んで同士討ちを狙うが、ボーダートップのアタッカーの連携をモノにしているだけあって、簡単にはいかない。風間が上手く立ち回り、菊地原をカバーして同士討ちを回避している。

 しかし、そんな二人の様子に対し、海斗は違和感を覚えた。まず、風間が主体ではなく菊地原が正面を引き受けている事。黒トリガーを相手にして正面を引き受けるのは、一番腕が立つ奴のはずだ。

 それに追加し、風間の攻撃のタイミングは自分の背後を取った時だけだ。隙を突くのなら当然だが、直感的に他に理由がある気がした。他にも、背後を取る時、物音はしないし、回り込む速度も徐々に早くなっている。

 不可解な点が多いため、自分の視界から風間が消えた直後、とりあえず背後に風刃を放ってみた。

 

「! 風間さん!」

「チッ……!」

 

 目の前の菊地原を蹴り飛ばして距離を置かせ、後ろを振り向くと、風刃の一撃を回避した風間の周りを見て、海斗は眉間にしわを寄せた。

 

「……なるほど、そういうことか」

 

 気が付けば、店内には大量のワイヤーが敷かれていた。蜘蛛の巣に迷い込んだように、天井や壁、商品などを結ぶように薄く細いワイヤーが敷き詰められている。

 機動力と物音がしなくなった理由はこれだ。風間の手元には、ワイヤーを張るオプショントリガー、スパイダーが浮かべられていた。

 ステルスが効かない相手に対し、風間は自分達のアタッカー同士の連携をさらに高めることにした。スパイダーを上手く用いて、速さでゴリ押しする戦法だ。

 相当、繊細で緻密な連携を要求させるが、ボーダートップのアタッカーチームに、それくらい不可能ではない。

 

「やるぞ、菊地原」

「了解」

 

 そこから風間隊の二人は、ワイヤーを足場にして海斗の周りを二人で回りつつ、スコーピオンで斬りかかる。

 ヤンキー時代の経験で反射神経が異様に飛び抜けている海斗でも、反撃の隙が無かった。

 ならば、打つ手は一つだ。風刃の尾を、静かに唸らせる。

 

「オラッ!」

 

 高速で刃を振るい、四方向に斬撃を飛ばした。服屋の天井、壁、床を全て薙ぎ払い、ワイヤーを削ぎ落とした。服屋の周り一体が一気に大広間となったが、海斗は眉間にしわを寄せた。

 ワイヤーが張られていたのは、服屋だけではない。服屋のフロアと上の階と下の階、全てにワイヤーが張られていた。

 自分達の所に攻め込む前に動き回っていたのはこのためか、と、口笛を鳴らした。よくもまぁこんなに張ったものだと思う。

 それと共に、厄介だとも思った。風刃の残弾は五発。トータルで3フロア分のワイヤーを削ぎ落とせるほど残っていない。

 なら、ここで決めるしかない。相手にとって有利になるワイヤーだが、海斗にとっても有利になる。

 

「……上等だ」

 

 風間と菊地原は、下のフロアに落ちた海斗を見下ろしている。宙に浮いて見えるのは、ワイヤーを足場にしているからだろう。

 その二人に対し、海斗は珍しく構えた。喧嘩の前は自然体でいることが多い海斗が。斬撃は温存する気なのだろう。

 

『どうします? ここで決める気みたいですよ、あの人』

『受けて立つに決まっている』

『ですよね』

 

 いつになく、風間の声には熱がこもっていた。どうやら、柄にもなく熱くなっているようだ。

 そもそも、風間が他のフロアにもワイヤーを仕掛けられたのは、海斗が歌川を倒した後に追撃してこなかったお陰であり、スーツを選んでいた所為だ。

 そんなナメプ、風間は絶対に許さない。勝っても負けても、あとでボコボコにする。

 

『しかし、下手な攻撃はするな。奴はノーマルトリガーの時からカウンタータイプだ。気の無い攻撃はサイドエフェクトによって見抜かれ、簡単に反撃をもらうぞ』

『了解です』

『三上、菊地原の耳をリンクしろ。奴はトリオン以外での攻撃を用いる。目だけでは追い切れない』

『了解です』

 

 さて、準備は整った。歌川がいれば、罠を仕掛ける事も出来たし、中距離戦の要にする事も可能だったから、万全とは言えない。

 それでも、風間はそんなものを言い訳にするつもりはなかった。

 

「行くぞ」

「了解」

 

 ワイヤーを踏み台にし、一気にバカの懐に飛び込んだ。今度は主体は風間だ。正面から左手にスコーピオンを構えて突撃した。

 横に払うと、海斗はしゃがんで避けて立ち上がると共にアッパーを繰り出す。それを仰け反って回避し、右手スコーピオンを振り下ろす。

 自分の顔面に振り下ろされて来るスコーピオンを、海斗はブレードで斬り上げて叩き合った。

 宙を舞う折れたスコーピオンが消える前に、風間は先端をキャッチして海斗に投げ付けた。

 悪くない攻撃だが、あまりに仕留める気がない色を放っている一撃だ。首を横に捻るだけで回避すると、直感的にしゃがんだ。

 直後、自分の頭上を風間に投げられたスコーピオンの破片が通る。後ろに回った菊地原が、スコーピオンの剣身で跳ね返したのだ。

 簡単に挟まれてしまったものの、海斗の表情に焦りはない。前後から来る同時斬りを、背後の菊地原の一撃をブレードで、正面からの風間の一撃を手首に手刀を放ち、握力を一時的に抜せてスコーピオンを手放させると、落下するスコーピオンの柄を蹴り上げて、風間の掴んでいない方の腕に突き刺すと、風間の顔面に頭突きを叩き込んだ。

 

「ッ……!」

 

 後ろから菊地原が自分の腹に反対側のスコーピオンで背中から突き刺したがまるで無視し、頭突きが直撃して後方に姿勢を崩した風間の胸倉を掴んで強引に後ろの菊地原に叩き付けた。

 

「グッ……!」

 

 風間の身体が直撃した菊地原は、殴り飛ばされる直前に海斗の腹を横に斬り裂き、大きくトリオンを漏出させる。

 海斗は自分の脇腹から漏れ出すトリオンを抑えながら後方に跳んで距離を取った。

 

「すみません、風間さん。浅かったです」

「奴は元々、しぶとく生き残るのも上手い。一撃で仕留めるんじゃなく、トリオン切れを狙うつもりで攻撃を当てろ」

 

 壁に叩きつけられた風間隊だが、すぐに姿勢を整え、壁を蹴って突撃した。ワイヤーとワイヤーの上を移動し、引き気味に移動する海斗を襲撃する。

 

「おいおい、少しは休ませろよ。こっちは背中を刺されたばっかだぞ」

「菊地原、回り込め。奴の意識を散らせ」

「了解」

 

 軽口に付き合うつもりはなかった。崩落した服屋の床と一個下のフロアの狭間で、ワイヤーを用いて空中戦を始めた。

 風間と菊地原が上手くワイヤーを使うのを見て、海斗も同じようにワイヤーを踏み台にして、二人と渡り合っていた。だが、押しているのは風間隊の方だ。

 風間隊はワイヤーでの戦法をそれなりに使っていたが、海斗は初見のため、2人よりも踏み台を上手く使えていない。

 その上、風間隊の二人は高速で動き回るため、風刃を飛ばそうにも当たらない可能性の方が高い。

 直撃は受けていないものの、ブレードの先端が徐々に掠りつつあり、トリオンが少しずつ漏れ出している。

 

「クソが……!」

 

 奥歯を噛み締め、廻りを飛び回る二人を睨みつけた。

 

 ×××

 

「……なるほど、スパイダーか。流石、風間さんだね」

 

 北添が戦闘の様子を見ながら、顎に手を当てた。風刃の性能は大体、把握出来たので、あとはどのように戦うかを検証しなければならない。

 その隣で見てる光、絵馬もウンウンと頷きながらつぶやいた。

 

「だなー。確か、海斗の奴、サイドエフェクトでカメレオンが効かないんだろ?」

「それを見事に補ってるよね。風刃の性能も上手い事、封じてるし」

 

 空中戦にすることによって、風刃の命中精度を下げているのと、ワイヤーを切った所で自分に旨味がないのだ。

 戦闘の様子を眺めながら、北添が自分の顎に手を当てて唸る。

 

「さて、うちならどう戦うかだね」

「大丈夫じゃない? ゾエさんがいるから中距離と近距離でカバーし合えば」

「いつも通りって事だな」

「でも、ちゃんとあの斬撃を見切らないと、真っ先に死ぬのもゾエさんだよ」

「え、マジ? ゾエさん怖い」

「ユズルもだぞー。一発でも撃って方向だけでも見つかったら、海斗のサイドエフェクトで位置割れて斬撃飛んで来て終わりだからな」

「え、マジ? エマさん怖い」

「ユズル、今日機嫌かなり良い?」

 

 なんて呑気な会話ながらも中身はそれなりに真面目な作戦会議をしている中、真ん中で座っている影浦はつまらなさそうにモニターを眺めていた。その表情は明らかに不機嫌だ。

 今更、影浦の機嫌が損ねるのに恐る影浦隊のメンバーなので、だからと言って作戦会議を止める事はなかったが、影浦の漏らした呟きで、口が止まった。

 

「チッ……何やってやがる、あのバカ。俺の部隊以外に負けんじゃねえよ……!」

「「「……」」」

 

 一気にシンとなった作戦室から、明らかな不愉快な視線が突き刺さるのを感じた影浦は、ハッとなって後ろを振り向いた。

 ゾエさんと光、さらにユズルまでもが腹立たしい笑みを浮かべていた。

 

「テメェら……なんだコラァッ⁉︎」

「いや、カゲがベジータみたいなこと言い出したから」

「ベジータ? どちらかというとアタシは緑間っぽかったな」

「どっちも似たようなもんでしょ。カゲさん、ツンデレライバルポジだったの?」

「テメェら……! ブッ殺す‼︎」

 

 作戦室で鬼ごっこが始まった。

 

 ×××

 

 シャレになってない、と海斗は奥歯を噛みながら粘るしかなかった。さて、どうしようか。

 正直、ワイヤーを掻い潜って逃げるのも手だ。残った風刃は五発のままだ。やろうと思えば逃げ切れる。

 しかし、撤退は嫌だ。なんか負けた気がするし。なら、なんとかするしかない。二人の猛攻を凌ぎながら、辺りを見回した。

 

「武器になるものなど無いぞ」

 

 背後から聞こえた低い声に、ゾクッと背筋が伸びる。慌てて空中で身をよじって、背後に廻し蹴りを放つが、それを腕でガードされると、自分の胸に反対側の腕で突きを放たれた。

 ブレードを棟前で構えたが、迫ってくるスコーピオンの刃は、二手に分かれていた。

 

「テメッ……‼︎」

 

 防御代わりに構えられたブレードを見事に避け、海斗の胸に突き刺さる。喰らった部位は、トリオン供給器官の真横だ。

 良いのが入り、さらにトリオンが胸から吹き出す。さらに深く押し込まれる前に、ブレードを回転させてスコーピオンをへし折りながら抜き、近くのワイヤーを掴んで風刃の残弾を一発使って切り、移動した。

 

「逃がさないよ」

 

 しかし、別方向から菊地原が迫る。海斗がワイヤーにぶら下がる形、つまり自由落下で移動するのに対し、菊地原はワイヤーを足場にして自分の意思で接近してくる。

 そんな中、海斗の視界を巡らせた先は、菊地原が自分の元に到達するまでのワイヤーの数と位置と、自分の手の中に握られているワイヤーが突き刺さっている物だ。

 行ける、そう判断した直後、海斗は風刃を二発解き放った。

 菊地原にも風間にも、風の刃は飛んで来ていない。菊地原が怪訝そうに眉間にしわを寄せた直後、意図を察した風間が菊地原に叫んだ。

 

「菊地原、足場だ‼︎」

 

 そう言う通り、菊地原が足場にしようとしたワイヤーは切断されている。それが切れたらその真下を、と使えそうな下の足場も全て。

 いくらトリオン体でも、空を飛ぶ事はできない。グラスホッパーでもない限りは無防備になる。

 その菊地原に対し、風間はスパイダーを飛ばした。自分で身動きが取れないなら、他人が引き上げれば良い。菊地原も、そのワイヤーに対して手を伸ばす。

 だが、視界が黒い物体によって遮られる。

 海斗の二発目の斬撃の正体は、自分が握るワイヤーの先に刺さっている壁を削ぎ落としたものだった。

 それを引っ張り、菊地原に向けて落としたのだ。

 手に持ってるワイヤーが繋がっている壁を削ぎ落としたという事は、海斗に待っているのも自由落下だ。

 制御の効かない空中にいる海斗は、そのまま落下して菊地原に向かってブレードを突き刺せるよう、風刃を逆手に握った。

 その隙を風間が逃すはずがなかった。ワイヤーの上を移動して海斗まで距離を詰め、斬りかかった。

 海斗も風間の行動は読めていた。空中で身動きが取れないまま、風間の攻撃を回避し、胸倉を掴んで引き寄せた。

 直後、掴んだ胸倉からブレードが伸び、海斗の左腕を落とす。それも気にせず、海斗はブレードを振るって風間の右太腿にブレードを刺し、固定するとオーバーヘッドシュートのように宙返りしながら蹴りを叩き込んだ。

 蹴り飛ばされ、一気に床まで落下する風間だが、海斗も自由落下した為、身動きが取れずに床に落ちた。

 

「チッ……!」

 

 すぐに受け身を取り、落下している風間を見据える。片足を太ももから失った風間は、しゃがんだまま身動きが取れない。

 ここだ、と海斗は走りながら風刃を構えた。残弾、残り二発。風間の脚は千切れている。風刃一発ならともかく、二発はシールドじゃ防げない。つまり、逃げられない。

 風刃を二発、解放し、左右から曲線を描くように風の刃が風間に迫る。さらに、正面からは海斗がブレード本体を握って突撃して来ている。

 風間は直感的に思った。ここで自分は落ちる、と。しかし、だからこそ簡単に落ちるわけにはいかなかった。

 カウンター狙いで、両手にスコーピオンを構える。そして、海斗と風間のブレードが交差する直前──ー。

 

 ──ードスッ、と。海斗の背中に刃が突き刺さった。

 

「……は?」

 

 振り返ると、菊地原が自分の背中にスコーピオンを刺していた。目の前では、風刃に切り裂かれる直前の風間が、ニヤリと薄く微笑んでいた。

 

「……お前、菊地原のこと忘れてただろ」

「……忘れてた」

 

 菊地原のブレードは、海斗のトリオン供給器官を見事に貫通していた。

 決着はついた。

 

 


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