ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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おにゅーのものはテンションが上がる。

 模擬戦のブースでは、双葉が戦闘中だった。師匠に蹴り技を教わる約束をしたため、それまでに今まで教わってきた技の確認をしている所だ。

 対戦相手は、香取隊隊長の香取葉子だった。スコーピオンとハンドガンを使いこなす万能手である彼女は、両方ともマスタークラスに上り詰めており、ボーダー内でもそれなりに実力者にあたる。

 そんな彼女を相手に、双葉は油断なく挑んでいた。スコーピオンの斬撃を片手のレイガストのシールドモードで包んだ拳で受けつつ、反対側の小太刀で切り返した。

 それをスコーピオンを引っ込めたシールドで受けると、近距離からハンドガンをぶっ放した。

 しかし、レイガストによって阻まれる。

 

「チッ……! チビの癖に……!」

「……」

 

 海斗からの教えに「簡単に挑発に乗るな」というものがあった。師匠曰く「怒りは判断力を鈍らせる。例えば、鉄パイプからの攻撃。冷静なら避けるが、頭に来てると頭突きで相殺しようとした事もあるから」とのこと。全然参考にならないし、それで軽い擦り傷で済んだそうなので、もはや生身でもトリオン体レベルなんじゃないかと思う程だ。

 つまり、その程度の小言は双葉には効かない。聞き流し、小太刀を両手で構えて突き込み、香取も同じようにスコーピオンを突き込んだ。

 香取のスコーピオンは、双葉の顔面に向かっている。それに対し、双葉は小太刀を斜めにして柄で受けると共に、先端を香取の胸のトリオン供給器官に差し込んだ。

 

「なっ……!」

 

 小太刀の取っ手はスコーピオンによって斬り裂かれたものの、顔面への軌道は反らせた。受けきるために、勢いに負けないよう両手で支えたのだ。

 香取から驚きの声が出ると共に、目の前から緊急脱出した。

 

「……よしっ」

 

 強くなっている、確かにそんな感触を掴めた双葉は、胸前で右拳を握り締めるとブースに戻った。

 

 ×××

 

 今日もたくさん勝てた双葉は、もう10本くらい他の人と戦いたかった。今日は調子が良い。さっきも笹森先輩、奥寺先輩、巴虎太郎に勝ち越してきたとこだ。

 なるべくならA級隊員と戦いたいなーなんて思ってブースを見て回っていると、見覚えのある先輩がモニターを眺めているのが見えた。

 

「犬飼先輩、氷見先輩」

「お、双葉ちゃん。お疲れ」

「お疲れ様です」

「お疲れ様」

 

 隊長同士が非常に仲良くしている所為か、その部下同士でも自然とよく話す仲になった先輩方だ。

 早速、二人が誰の試合を見ているのか聞いてみた。

 

「何を見てるんですか?」

「ん、うちの新隊員の試合」

「新隊員? 二宮隊のですか?」

「そうだよ」

 

 犬飼は真顔だが、氷見の表情は微妙に引きつっていた。誰なんだろう、自分も挑ませてもらおうかな、なんて思いながら画面に目を向けると、とてもよく知る顔が見慣れない服装で戦闘を行っていた。

 戦闘中、黒いスーツのまま横からくる孤月を、握っている手首を素手で打ち払ってガードし、顔面に拳を叩き込み、怯んだ所を相手の膝に向けて足払いをし、ガクンとしゃがみ込んだ所で顔面に拳をダンクした。

 相手は負けじとしゃがんだ状態のまま足にブレードを振るうが、それをあっさりとジャンプして回避すると、空中で無理矢理、身体を放って膝で敵の首をへし折るように蹴りを放ち、後方に蹴り飛ばした。

 後ろに転がり、衝撃で手放してしまった孤月を拾うと、それを投げつけてトリオン供給機関を破損させる。

 今ので、10:0。完封勝利を収めた。相変わらずのエゲツない戦い方をしているのは、我が師匠である陰山海斗だった。

 

「……え、新隊員ってまさか……」

「そ、陰山くん」

「相変わらず戦い方が酷いね……しかも、スーツ着て大はしゃぎしてるのか絶好調だし……」

 

 氷見はかなりドン引きしていたが、双葉はもう慣れたもんなので引かなかった。むしろ、下唇を噛み締め、二人の先輩をギギギっと睨む。

 

 ──ー羨ましい……! スーツの界王様をいつでも見られるなんて……! 

 

 てな具合であった。しかし、目の前の二人は何処吹く風、気にした様子なく海斗の戦闘スタイルについて何か話していた。

 今はチャンスだ。そそくさと移動し、次の試合が始まる前に海斗のブースに入った。

 

「界王様!」

「あ? おう。双葉。なんでここにいるの?」

「スーツ! とてもカッコ良いです!」

「え? そ、そう? そんなに?」

「はい! さっきの模擬戦も見ました! とてもカッコよかったです!」

 

 普通の人が見たら「え。なんで殴る蹴る? トリガーの使い方知らないの?」ってなもんだが、双葉はそれに慣れきってる程度には毒されていた。

 そして、海斗は褒め言葉にはめっぽう弱い。特に、感情が読める分、本当に褒めているのかが一目で分かる。双葉の発している色は、それはもう優しい世界の色だった。

 

「よっしゃ、双葉。玉狛行くぞ。蹴り技教えてやる」

「! は、はい!」

 

 元気にブースから出た。

 

 ×××

 

 ブースを出た海斗と双葉は、二人で歩いてラウンジを通り掛かった。そこで出会したのは、影浦と北添と絵馬の三人だった。

 直後、海斗は眉間にしわを寄せたが、影浦は愉快そうに微笑んだ。

 

「カハッ、なんだその格好」

「あ? スーツも知らねえのかチリチリ頭」

「知ってるわボケ。なんで、んな格好してんだって聞いてんだよバカ」

「就活だよ」

「意味のねえ嘘ついてんじゃねえぞコラ。大体、テメーが就職出来るわけねーだろ。イタチを前にしたサスケみてーな目付きしやがって」

「ドーナツ作ってたらコンロが爆発しました、みたいな髪型してる奴に言われたかねーんだよ」

「ドーナツ作ってて何でコンロが爆発すんだよ。ブチ殺すぞコラ」

 

 相変わらず、お互いに気に食わない相手である。せっかくスーツをもらって戦闘にも勝利して良い気分だったのに台無しである。

 いつもの調子で口喧嘩を始めていると、北添が呑気な声を出した。

 

「もしかして、二宮隊に入ったの?」

「おう。なんか寝て起きたら二宮隊だった」

「んだァ? その改造手術を受けたみてえな言い方」

「んな言い方してねえよクソボケ。二つのコースを選べ。死ぬほどキツいけど最強になれるコースと、寝て起きたら最強になってるコース、どっちが良い?」

「通じてんじゃねえかジャンプバカ」

 

 それに対し、絵馬は少し目を伏せた。で、スタスタと海斗の横を通り抜ける。

 

「ごめん、カゲさん。俺、先行ってるよ」

「あ? 待てよ。俺らも行くから。あばよ、リクルート」

「ああ?」

 

 挨拶だけして影浦は絵馬の後を追う。その背中を眺めながら、双葉が「何あれ」と呟くと、残った北添は、申し訳なさそうに胸前で両手を合わせた。

 

「ごめんね。ただ、ユズルは二宮隊が好きじゃないんだよね」

「は? そうなん?」

「色々あったから。海斗くんのことは別だと思うから、あまり怒らないであげて」

「あそう」

 

 そう言う通り、別に嫌悪感や拒否反応は無かった。ただ、ほんの少し引っかかったような反応があっただけで。

 

「じゃ、行くね。あと、スーツ思ったより似合ってるよ」

「ん、おう。知ってる」

「知ってる?」

 

 北添はそう言うと、足早に影浦隊の二人の後を追った。

 まぁ、別に海斗も気になりするようなことではないので、さっさと歩みを進めた。

 

 ×××

 

 ラウンジを抜けて通路に向かっていると、任務を終えたところなのか、前から三輪隊の面々が歩いてくるのが見えた。

 三輪隊、で何かしなければならないことがあった気がしたが、今の海斗にそんなもの関係ない。あまり気にせずに、知らない仲ではない四人組に対し、片手を振った。

 

「よう。お疲れ」

「お疲れ様です」

「……お疲れ」

「ブハッ! 海斗、なんだその格好⁉︎ なんか無駄にカッケェ!」

「あ? 決まってんだろ、就活だ」

「界王様、そのネタはもういいです」

 

 隣の双葉から冷たく言われてしまった。

 高校生が就活以外でスーツを着る、という時点で、残る道は一つしかない。理解した奈良坂が、いつもの仏頂面のまま聞いた。

 

「……二宮隊に入ったのか?」

「ええっ⁉︎ バ……陰山先輩が⁉︎」

「おい、古寺。今、バカって言いかけた? バカって言いかけたよな?」

 

 もしかして、三輪隊で使われている陰山の別称のようなものなのだろうか? 悪意的な色が見えず、素でバカだと言われている分、タチが悪い。

 大体、この呼び方をする奴の検討はついている。一番、自分と関わっている奴が自分の話をする時に、毎度バカと言う奴だ。

 

「米屋、大体テメエの所為だろコラ」

「そうだ」

「簡単に認めてんじゃねえよ! ブッ殺すぞオイ」

「だって、お前バカじゃん。この前、太刀川隊でボ○バーマンやってる時、何回自爆したよ」

「やっ、あれは……」

「あと試験勉強中、じゃん負けで飲み物買いに行った時、風間さんの分だけ牛乳とカルピス間違えて買ってきたことあったよな」

「それは違くて……」

「しかもその時『今から牛乳飲んでも身長は伸びねえぞ』って逆ギレしてトリオン体で羽交い締めされてたよな」

「アレはだから……」

「バ界王様、さっきから一度も言い返せていません。諦めましょう」

「双葉ぁ⁉︎」

 

 弟子にまで見捨てられ、もはや悲痛な声を上げるしかなかった。

 そんな中、ずっと沈黙していた三輪ですら呆れ顔で海斗を睨みつけた。

 

「陰山……」

「な、なんだよ……!」

「二宮さんは基本的に才能のある人には寛容だが、バカには厳しい。気を付けろ」

「……お、おう」

 

 何故か三輪には反論し難かった。気を付けろ、とか言われても、バカは一朝一夕で治るものではないが、そもそもそこまで真面目に注意されるようなことではない。バカでもやっていけているソロ総合一位がいるくらいだから。

 そこで、三輪はフッと笑みを漏らした。初めて見た三輪の笑みに、海斗は逆にゾクっと背筋が立ったが、色的にはそんな邪悪な色はしていない。むしろ、安心しているような色だ。

 

「しかし、お前もようやく部隊に入ったか」

「一応」

「中々、部隊を組もうとしていなかったし、普段から見かけてもバカなことしかやっていなかったから、本当は近界民を恨んではいないのかと思っていたが……」

 

 その事に、海斗は今更になってハッとした。そうだった、三輪からはそんな勘違いを受けていた。

 そして、部隊を組んでからその誤解を解く予定だった。しかし、三輪の勘違いはさらに深くなっていく。

 

「二宮さんの部隊はかなりのものだ。戦術も戦力もA級部隊と遜色無く、二宮さん自身、ソロ総合二位にいる。そんな部隊に所属するとは、やはりお前の近界民への恨みは本物だな」

 

 弁解する前に納得されてしまった。こんなの、弁解できる空気ではない。

 普通の人ならこの場面は黙っておく場面だろう。下手なことは言わず、ぎこちない笑みを浮かべるなりする所だ。

 しかし、海斗は筋金入りのバカだった。

 

「だ、だよなー! 近界民マジウゼェよな! きもいし腹立つしなんか汚さそうだし! マジ八つ裂きにして微塵切りにして茹でてカレーの具材にしてやりたいわー!」

 

 全力で乗っかってしまった。

 

「ふっ、それはやめておけ。腹を壊す」

「だ、だよねー! 壊すよね! 腹を殴って壊してやりてーわ! やっべ、 話してたらなんかイラついてきた! 双葉、狩に行くぞ! ぶちのめして素材を手に入れて強力な武器を作るぞ!」

「モンハンですか」

 

 そう闘志を燃やし始める海斗を見て、三輪は再び笑みを漏らした。それくらいの殺気を、裏切り者の支部にも持って欲しいものだ、と言わんばかりに。

 

「頑張れよ。じゃあ、俺達は報告書を作成しなければならないから」

「じゃあな、陰山」

「お疲れ様です」

「プフッ……! お、お疲れ……海斗……!」

「……」

 

 立ち去られてしまった。取り残された海斗に双葉はキョトンとした表情で聞いた。

 

「……そんなに恨んでたんですか?」

「なわけないじゃん。いいとこストレス発散だわ」

「そうですか」

「絶対に三輪には言うなよ」

「はい」

 

 こういう時、従順な弟子は助かる、と割と本気で思った。

 

 ×××

 

 ようやく玉狛支部に到着した。胃が痛くなるような事はあったが、それはそれだ。せっかくだし、玉狛の人にも自分のスーツ姿を見てもらいたい。特に、レイジと小南には。

 とりあえず、トリオン体は解除し、私服でやってきた。なんとなく勿体ぶってみたくなった。

 

「うーっす」

「こんにちはー」

 

 二人で仲良く挨拶をすると、まず視界に入ったのは迅悠一だった。

 

「お、海斗と黒江ちゃん。お疲れ〜。今日も特訓?」

「そう」

「小南まだ来てないよ」

「あ? 小南に用があって来たわけじゃねえから。訓練室借りて良い?」

「良いぞ」

 

 来てないそうなので、双葉との訓練を優先する事にした。まぁ、蹴り技といっても教えられることなんかない。そもそも、双葉の体格じゃ蹴りは厳しいと思うので、成長が遅かった中学の時に編み出した、チビでも使える蹴り方を教えなければならない。

 どんな風に蹴ってたっけ、と必死に思い出しながら訓練室に入った。

 

 ×××

 

 小南は走っていた。迅悠一からメールが来たからだ。

 

『海斗が来てるよ』

 

 ここ最近、海斗が忙しいようで喧嘩しにやって来ることが少なくなったため、退屈になっていたところだ。

 しかし、今日は久しぶりに会えるというのだ。これはもう気合い入れてボッコボコにしてやるしかない。

 勢いよく基地の扉を開け、地下の訓練室に入ると、スーツを着た海斗が双葉の前で片膝をつき、双葉に片脚を大きく開かせ、太ももを握って固まっていた。

 

「っ」

「!」

 

 二人してビクッと肩を震わせ、小南の方を見る。加古隊の隊服はズボンだが、双葉のズボンは短パンであり、太ももは露出している。つまり、生足を両手で触っているわけだ。

 どう考えてもいかがわしい絵面に、小南は静かにポケットからちいさな武器を取り出す。

 

「……トリガーオン」

「おい待て、小南。違うぞ」

「そ、そうです。落ち着いて下さ」

「……」

 

 怒りのあまり、話を聞いていない。両手に巨大な斧を出し、ギロリと海斗を睨み付けた。

 で、振りかぶりながら地面を蹴って一気に接近した。

 

「このロリコンがァアアアアアアッッ‼︎」

「いやだから待っ……!」

 

 真っ二つにされた。海斗だけ。

 

 ×××

 

「つまり、蹴りを教えていたわけね?」

 

 今だに少し不機嫌そうな小南は、バカとバカの弟子を連れて居間にも持ってきて、眉間にしわを寄せたまま腕を組んで海斗を正座させていた。

 

「ったく……紛らわしいのよ」

「テメーが勝手に勘違いしたんだろ……!」

「何にしても、女の子の太もも触るのはどうなの?」

 

 指摘されて意識してしまった双葉は、恥ずかしそうに小南の後ろの椅子で体育座りしている。

 自分の為、というのを理解しているようで、恥ずかしそうにしてはいるものの、自分に対して怒りも嫌悪も出していない。これは一応、フォローしてやった方が良いと思い、海斗は親指を立てた。

 

「安心しろ、双葉。足フェチの俺が言うから間違い無いが、13歳とは思えない柔らかい太ももだったぞ」

「トリガーオン」

「待て待て待て待て! 生身の人間を蹴散らすために蹴り方を教えたわけじゃねーぞ俺は!」

 

 立ち上がって足首をプラプラ回しながら歩いて来たので、大慌てで止めた。

 体重が軽い奴が蹴り技なんてやったところで、上手くガードされれば片脚に乗せられた重心を綺麗に崩されて最悪すっ転ぶ。

 従って、教えたのは蹴りというより、は足払いや両手がふさがってる時に脚でガードする時などの脚の使い方だが、正座している海斗を足払いの蹴り方をすれば顔面、或いは首に当たり大ダメージである。

 

「……まったく、まぁ良いわ。勘違いして真っ二つにしたアタシも悪かったし」

 

 許しが出たので、ようやく足を崩した。ふぅ、と胡座になる海斗に、小南が聞いた。

 

「ていうかあんた、二宮隊に入ったんだ」

「あ? 何でわかったよ」

「バカね、スーツ着てるチームなんて二宮隊しかいないわよ」

 

 それは確かにその通りだ。というか、それも目的のうちだったので、とりあえず聞いてみた。

 

「そうだよ。どうだった? 俺のスーツ姿」

「どうって何よ」

「や、だから……何? カッコ良かった?」

 

 我ながら気持ち悪い聞き方をしたものだ。しかし、過去の友達に服を見せたりとか、そういう機会はほとんど無かった故の悲劇である。

 そんな言ってから後悔している海斗に対し、小南は難しい顔をしながら答えた。

 

「ごめんなさい、速攻で真っ二つにしちゃったからあんま覚えてないわ」

「テメェ訓練室に入れ。ボッコボコにしてやる」

「やってみなさいよバカ」

 

 ×××

 

 結局、夕方まで暴れ回った。せっかくなので双葉も混ざり、三人で暴れていたが、他の二人がハイレベル過ぎて途中から不貞腐れてしまい、小南と一緒にジュースを奢って謝り倒すはめになった。

 双葉を家の近くまで送った帰り道、海斗は小さくため息をついた。別れ際、小南に言われた言葉を思い出す。

 

『……まぁ、その……何? 隊服のスーツ……似合ってなくはなかったんじゃない?』

 

 と、感想を聞いたことなど忘れた頃に、自分から褒めてきたくせに頬を赤らめながら言われた。

 そんな褒め言葉とも言えない上から目線の言い方に、海斗はバカみたいに嬉しく感じてしまった。他の連中に褒められるのとは、何処か一味違った。

 何だったんだろうなーとか呑気に考えながら歩いていると、スマホが震えた。犬飼からのメールだった。

 

『19時から焼肉屋集合ねー。遅れたら、二宮さんがしばくってさ』

 

 端的に記された内容に、頭上に「?」が浮かぶ。そういえば、夜の予定は空けておけとか言われていたが、何故、焼肉屋なのだろうか。

 

『なんで?』

 

 短くそう聞いた。正直、影浦と口喧嘩し、三輪に胃をゴリゴリ削られたり、弟子である双葉に謝って謝って謝り倒したり、小南を相手にインファイトしたりと、中々にハードな一日だったため、帰って眠りたい。

 

『来ないと眼球にデコピンだって』

『何その可愛い拷問』

 

 まぁ、失明はしたくないので行くしかないわけだが。短く「了解」と返事を打つと、指定された焼肉屋に向かった。

 20分ほどかけて目的地に到着したが、店の前には誰もいない。一番乗りかな? と思った時、ちょうど良いタイミングでメールが届いた。

 

『みんなもういるから入って来て良いよ』

 

 一番乗りどころか最後だったようだ。まぁ、仕方ないよね、と気楽に思ってお店の中へ。

 店員さんが案内してくれたが、遠くの席から犬飼が手を振ってきたので、察した店員さんは引き下がり、海斗はそっちに向かう。

 

「遅いぞ、ノロマ」

「ああ? 玉狛にいたんだ。仕方ねえだろ」

「ほら、いいから座って」

 

 犬飼に促され、空いてる氷見の隣に座る。いい加減、気になったので聞いてみることにした。

 

「で、何で呼ばれたの? 財布代わり?」

「違うから」

「主役からお金は取らないよ」

「もう少し素直に捉えなさい」

 

 犬飼、辻、氷見のセリフだ。最後に、二宮がいつもの仏頂面で海斗にジロリと目を向けた。

 

「歓迎会だ。これから、チームメイトになるんだからな」

「……え、かんげーかい?」

 

 今まであまりに縁のなさすぎた言葉に、いよいよ変な裏声が口から飛び出た。

 それに対し、二宮は一切、声音を変えずに頷いた。

 

「そうだ。俺の奢りだ。好きなものを食え」

 

思わず感動してしまった。最初は、歓迎こそされたものの、自分を戦力の一人にくらいしか思われていないものだと思っていたが、わざわざ歓迎会まで開いてくれるとは夢にも思わなかった。

ホント、人は見た目で判断してはならない。二宮匡貴という人間は、顔に出ないだけで、普通に良い人なのかもしれない。

この部隊なら、自分は上手くやっていけるかも、そんな気さえしてきた。

 

「……二宮。いや、二宮さん」

「? なんだ」

 

 向かいに座っている二宮の手を両手で包むように握り、無駄にキラキラと輝いた瞳で言った。

 

「一生の忠誠をあなたに」

「……お、おう。そうか」

 

 珍しく二宮が動揺し、犬飼も辻も氷見も「いろんな意味ですごい新入りが来た……」と変に感心してしまった。

 

 




次回から数ヶ月飛んで原作に入ります。
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