ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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バカの凝り性は後悔するように出来ている。

 翌日、早朝から三輪と米屋と月見はボーダー本部に来ていた。今日はとあるC級隊員を尾行するからだ。

 三輪と米屋だけなら現地集合でも良いのだが、今日はもう一人いる。そいつはバカだから多分、住所とか読めないんだろうな、と予想してのことだった。月見は、念のため海斗に真面目にやるよう、釘を刺すために待機している。

 ラウンジで制服で待機しながら、米屋がスマホの時計を見てぼやいた。

 

「……遅ぇな、あのバカ」

「ふむ、そうだな。もう五分過ぎている」

「修学旅行の集合時間じゃねえんだぞ。あいつ」

「いや修学旅行は遅刻したらマズイとおもうんだが……あいつ修学旅行でも遅刻したのか?」

「先生にめちゃくちゃ怒られてた」

 

 そりゃ怒られる。飛行機にはギリギリ間に合ったものの、10分遅れは流石にキレられる。

 すると、月見がメモ帳に何か書いてるのが見えた。

 

「あれ、蓮さん。何してるんすか?」

「風間さんへの密告メモよ。また一つネタが増えたわ」

 

 開かれているページはメモ帳の後半の方である辺り、相当弱味を握られているようだ。

 流石に友人の弱味が面白いくらいに増えていくのは気の毒なので、少し気にかけてやることにした。

 

「……電話してみるか」

「ああ。頼む。陽介。10分も遅れられたら普通に困る」

 

 そう言って米屋がスマホを取り出したときだ。「おーい」と呑気な声が聞こえてきた。言うまでもなく海斗の声だ。

 

「悪い、遅くなった」

「遅いぞ。海……」

「何やってたんだよ、海……」

 

 文句を言う二人の口が止まる。

 何故なら、海斗の服装がすごかったからだ。いや、すごいのは服装だけではない。迷彩柄の軍人みたいな服装に、緑色に塗りたくられた肌、そして頭に緑な鉢巻を巻き、コメカミから木の枝を生やしていた。言うまでもなく、周りの注目を集めている。

 

「……なんだそれ」

「あ? 変装だよ。尾行に変装はつきものだろうが」

「住宅街でなんで植物に化けてるんだお前は! というか、お前、ここまでその格好でここまで来たのか⁉︎」

「なわけないじゃん。トリオン体で来たよ」

「つまり生身はそのままか⁉︎ 肌の色まで変えるとか何処まで間違った方向に本気出してるんだ!」

「馬鹿野郎! こういうのはやり切らないと意味ねえんだよ!」

「緑色の人に馬鹿って言う資格があると思っているのか⁉︎ 今すぐ洗い流して来い!」

「なっ……テメェ! 俺がここまで変装するのにどれだけ時間かかったと思ってんだ!」

「知るか! そんなナメック星人みたいなのと歩いてたら、それこそ目立つに決まってんだろ!」

「お前らもオレンジの道着と戦闘ジャケットを着れば良いだろ!」

「ここは真夏か真冬のビ○クサイトか⁉︎」

 

 なんて言い争いをしている二人はさらに注目を集めてしまう。ちなみに米屋は少し離れたところで腹を抱えて大爆笑中である。

 そんな中、二人の間に月見が入る。下らない内容で口喧嘩してる三輪は珍しいので見ていても良かったが、今はそんな場合ではない。

 

「三輪くん、陰山くん。いいから早くしたら? 時間無いわよ?」

「……蓮さん。でも、流石にこんなのと一緒に街を歩く勇気はないです」

「分かってるわ。先に陽介くんと行っててくれる? 私は彼を綺麗にしてから行かせるから。あと住所の読み方も教えておくわ」

「え、綺麗にって何? あ、住所の読み方は正直、助かる」

「了解しました。行くぞ、陽介」

「あいよ」

 

 無情にも立ち去る三輪と米屋。取り残された海斗は嫌な予感が心身ともにのしかかってきていた。

 ちなみに、海斗の肌の緑色はパンツの面積を除いて全て塗りたくっている。というのも、お袋の趣味がサバゲーで、狙撃手として動くための茂みに身を隠す、少しやり過ぎな程のセットが家にあるのを知っていたからだ。迷彩服もお袋のものである。

 綺麗に、というのは勿論、肌の色を落とすこと、と海斗は何となく察していたため、早い話がこれからパン一姿を年上の綺麗なお姉さんに見られるかもしれない、ということだ。

 

「……あの、月見様。いや月見女王」

「女王じゃないけど何?」

「自分でやるから、どうかご勘弁を……」

「ダメよ。あなたは面倒な事があるとすぐ逃げる子でしょう? 風間さんに聞いたわ」

「……」

 

 あの野郎、余計な事を、と思ったが、口にはできない。弱味が増えるだけだ。冷や汗を流している間に、月見は海斗の腕をガッチリと掴んだ。勿論、オペレーター用のトリオン体で。

 

「ほら、時間無いんだから。早く行くわよ」

「あの、ちょっ、待っ」

 

 待ってもらえず連行された。

 

 ×××

 

 とある一軒家から一人のメガネの少年が出て来た。みるからに真面目そうな雰囲気をまとった少年は、迷い無い足取りで家を出た後、何処かに歩いていく。

 その後ろで、三輪と米屋は駄弁っている高校生のように壁にもたれかかってその様子を見ていた。

 

「あのメガネボーイが近界民と繋がりあんの?」

「可能性はある」

「うへー、見かけによらねー」

 

 圧もプレッシャーも感じない、如何にもC級隊員といった雰囲気の少年を、陽介はコーヒーを飲みながら観察した。

 

「油断するなよ、陽介。人型近界民は大型トリオン兵をバラバラにした奴だ」

「そういやそうだな。やべー、テンション上がってきた」

 

 もたれ掛かっていた壁から離れ、二人も眼鏡の少年の後を追おうとする。

 その直後だった。

 

「よう、秀次。ぼんち揚食う?」

「っ! 迅……さん」

 

 さん、を付けるのがはばかられるのか、若干、言い淀む三輪だった。相変わらずだなーと米屋が思ってる間に、迅は二人に一枚の用紙を渡した。

 

「ほい。お前らに別の任務の指令書。結構、重要な任務っぽいから」

「なんだと?」

「じゃ、よろしく〜」

 

 のほほんとした声で立ち去る迅の背中を目で追いながら、三輪は奥歯を噛みしめる。

 

「迅……!」

「このタイミング、どうも読まれてるっぽいな」

 

 しかし、任務を放棄するわけにもいかない。それに、自分達の動きを封じてももう一人、強力なバカがいる。

 自分達が続行不可能になったのをメールすると、三輪と米屋は一時、本部に戻った。

 海斗が、尾行対象の少年の顔を見ていないことを忘れて。

 

 ×××

 

 メガネのC級隊員、三雲修は何があったのかも気付かずに歩いていた。向かっている場所は、以前、助けられたS級隊員、迅悠一との待ち合わせ場所。

 昨日、C級隊員であるにも関わらず訓練以外でトリガーを使い、クビになるところだったが、迅のお陰でなんとかそれを免れた。

 その代わり、これから迅が請け負った「イレギュラー門の調査」を手伝う事になっている。

 昨日、爆撃型とモールモッドに遭遇し、死人も出ていてイレギュラー門の危険性を感じた修は、緊張気味に冷や汗を流しながら歩いていると、目の前で茶髪の男の人がうなだれているのが見えた。

 具合でも悪いのだろうか? 微動だにしない様子を見て心配になり、声をかけてみた。

 

「あの……大丈夫ですか?」

「……?」

 

 顔を上げると、見知った顔だった。正確に言えば、少しちらっと見た程度だが。

 一昨日、空閑遊真と喧嘩して警察に連行された人だ。その時の傷が癒えていないのか、顔にちらほらと傷跡や絆創膏が貼られている。

 とりあえず、感想としては「ヤバい人に声を掛けてしまった」だった。

 しかし、目の前の男は自分を見るなり、虚ろな目のまま答える。

 

「誰?」

 

 覚えられていなかった。一昨日、警察沙汰になった人間の友人を忘れるか、と思ったが、まぁそれはそれでありがたかったので、特に何も言わなかった。

 

「あ、いえ……蹲っているようなので、どこか悪いのかなと」

「……ああ、悪いよ」

「え?」

「心が」

 

 知らないよ、と言いたかったが、ほぼ初対面、それもあの空閑とタイマンを張れる相手に、逆上させてしまうかもしれないことを言う必要はない。

 

「そ、そうですか……では、僕はこれで」

「待てやコラ。傷心気味のいたいけな少年を置いてどこに行こうとしてんだ」

「いえ、僕の方が歳下だと思うんですが……それに、人を待たせているので」

「あいたたたた! 胸が痛い! 心臓が痛いよ二宮さーん!」

「だっ……」

 

 誰だよ二宮さん、と喉まで出かかった。このままじゃ間違いなくこの変な人に足止めを食らう。

 どうしたものか悩んだが、それはすぐに解消された。

 

「海斗、お前ここで何してんの?」

「! じ、迅さん……!」

「……迅?」

 

 サイドエフェクトによって修のピンチを悟った迅が顔を出した。

 

「迅! お前で良いや、聞いてくれ!」

 

 今度は迅の方に泣きついた。S級隊員と知り合いなあたり、もしかしてこの変な人もボーダー隊員なのだろうか? しかし、にしては実力派エリートに対し「お前で良いや」なんて失礼過ぎる事を言っている。

 

「悪い、俺はこれからやる事あるから」

「なっ……お前まで俺を見捨てるのか! この薄情者!」

「なははは、そう言われても」

「警察にこれまでのセクハラ歴をぶちまけてやる!」

「待て待て待て。分かってるよ、ちゃんとお前の愚痴を聞くのに適任者がいるのを教えてやるから」

「誰?」

「レイジさん」

 

 それ以上の会話は無用だった。海斗の尊敬している人ランキング(別名:ご飯たくさんごちそうしてくれた人ランキング)堂々の一位であるレイジに会う口実が出来、一瞬でその場から消え失せた。

 トリオン体になった海斗は、スラスターを上手く用いて空中を高速で移動し、直線で玉狛に向かった。

 ポツンと取り残された修は、冷や汗を流しながら迅に尋ねた。

 

「……あの、迅さん。あの人は?」

「陰山海斗。B級一位部隊の攻撃手だよ」

「B級一位……」

「B級でも、あいつ一人の性能はA級並みだよ」

 

 そんなすごい人なのか……と、思ったが、同時に別の疑問が浮かぶ。

 

「……その、失礼ですけど……あんなに、バ……いや、頭良くは……いや、賢く無……その、思慮が浅そうな方なのに?」

「バカって言い切っちゃって良いよ。だってバカだし」

 

 やっぱそうなんだ、と思いつつ、それを口にはしなかった。

 

「まぁ、バカだしああやって操りやすい奴だけど、悪い奴じゃないから」

「そ、そうなんですか……?」

「さ、それより行こうか。イレギュラー門の原因を調べに」

 

 そう言って、二人は警戒区域に向かった。

 

 ×××

 

 玉狛支部は、ここ最近空気が悪かった。と、いうのも、小南がイライラしているからである。

 数日前からボーダーでは「陰山と氷見は付き合っている」みたいな噂が流れているからだ。それを聞いた小南は、それはもうイライラしている。自分でも何故、そんなイライラしているのかは分からない。しかし、イラついてる物は仕方ない。

 まぁ、空気が悪いと言っても、玉狛の隊員に空気を気にする奴はあまりいないため、ギスギスしているわけではないのだが。

 

「あーもうっ、とりまる! あんたちょっと模擬戦の相手しなさいよ!」

「嫌ですよ。ここ最近、小南先輩の戦い方、変に陰山先輩に似てきてますし」

 

 拳や蹴りを多用し、双月以外の攻撃もするようになった。一時期ではスコーピオンを入れたりしていたが、誰が見ても弱くなったのですぐに辞めたが。

 

「そんなに陰山先輩が遊びに来ないのが残念すか?」

「はぁ⁉︎ あんた何言ってんの⁉︎ そんなわけないじゃない! むしろ、せーせーするわ!」

「じゃあなんでそんなキレてんすか。あ、陰山先輩に彼女ができたから?」

「ちっがうわよ! ただ、氷見さんが可哀想なだけよ!」

 

 と、まぁ分かりやすいキレ方をするものだった。実際の所、烏丸には小南と海斗がお互いにどう思っているのか、なんて分からない。ただ、まぁ少なくとも小南にとっては友達以上ではあるんだろうな、と思う程度には仲が良い。

 だが、チームを組んでからというもの、海斗はあまり玉狛に来なくなった。まぁ、連携の練習やら任務やらで忙しいのだろう。二宮隊なら尚更だ。

 それを理解してか、小南もその時はイライラしていなかった。しかし最近になって例の噂が流れてからは、それはもうブチギレている。チームメンバーとの恋愛は不健全だ、だの、何しにボーダーに来てるの、だの、やる気ないならやめろ、だのと。

 いい加減、鬱陶しいので、とりあえず自分から遊びに行けば良いのに、とアドバイスするための、遠回しな言い訳をプレゼントした。

 

「なら、今ちょうど陰山先輩、怪我してますし、お見舞いのついでに問い詰めに行ったらどうすか?」

「嫌よ。まるで私があいつの彼女事情を知りたがってるみたいじゃない」

「……」

 

 本当に面倒臭い。いっそのこと、自分を助けるつもりで海斗にはここに来て欲しかった。

 そんな時だ。玉狛の扉が開かれた。

 

「レイジさああああああん‼︎」

 

 バカの怒声と共に本人が飛び込んできて、小南と烏丸が座ってる椅子の間の机の上に着地した。

 

「烏丸! レイジさんはいるか⁉︎」

「机から降りてください」

「そうだな、悪い」

 

 一時的におとなしく机から降りると、再び喧しくなった。

 

「で、レイジさんは⁉︎」

「下にいますよ」

「よっしゃ。今会いに行くぜ!」

「待ちなさいよ!」

 

 横から小南が口を挟む。何故か、怒りが地肌まで浸透している表情で海斗の腕を掴んでいる。

 

「なんで私は完無視なのよ! 挨拶くらい出来ないわけ⁉︎」

「また後でね」

「後でって何よ! 今、しなさいよ!」

「んだようるせーな。かまってちゃんかお前は」

「っ、だ、だれがかまってちゃんよ! あんたにだけは言われたくないわ!」

「ああ? 俺ぁ、かまちょじゃねーよ」

「あんた学校で一人で暇だったからって氷見さんに電話したんでしょう⁉︎ 知ってるわよ!」

「なんで知って……! ……宇佐美か。あの野郎、余計な事を……」

 

 しかし、このままでは話が進まない。さっき出来立てホヤホヤのトラウマを誰かにぶちまけるには、さっさとレイジの元に向かうしかないのだが。

 

「つーか、なんでお前にそんなこと指摘されなきゃいけないわけ? 別に俺が氷見に電話しようとカンケーなくね」

「っ、そ、それは……!」

「それとも何、もしかして自分に電話して欲しかった系女子? かまちょはどっちよ」

 

 直後、小南の顔は一気に真っ赤になり、烏丸は「あーあ……」と言わんばかりに額に手を当てた。なんでそんな言い方するかなあ、みたいな。

 案の定、小南の眉間にはシワがより、真っ赤になった顔は怒りの他に恥ずかしさも含まれている。ワナワナと徐々に開かれる口は大きく開かれ、それと共に小南の身体は海斗へとゆっくり伸ばされていく。

 

「出て行けこのバカァ────ーッ‼︎」

 

 絶叫と共に、玉狛から追い出された。

 

 ×××

 

「てわけで、結局、話聞いてもらえなくてさぁ。だから代わりに聞いてくんない?」

「え、今のそういう話だったの?」

 

 現在、真っ昼間。緊急招集をかけられた全ボーダー隊員は小型トリオン兵「ラッド」の駆除のため、街に駆り出されていた。

 それは二宮隊も例外ではなく、戦闘力を持たない雑魚を相手に四人まとまって動くのは無駄だと判断した二宮は、自分の部隊を二手に分けて捜索していた。

 

『そこの路地裏、ゴミ箱の裏にいます』

「ありがと、ひゃみちゃん」

 

 路地裏に入り、もう使われていなさそうなボロボロのゴミ箱の裏を見ると、本当に白い虫みたいなのがわしゃわしゃと動いていた。

 それに犬飼がサブマシンガンを向けてアステロイドを撃ち処理すると、海斗に顔を向けた。

 

「小南ちゃんとの話じゃなかったの?」

「や、それはいいよ。あいつアホだし、一週間も経てば頭から抜けてるだろうし」

「まぁ、海斗くんがそう言うならそれで良いけど……。で、どうしたの?」

 

 正直、小南の話を聞きたかったが、本人がそう言うのであれば口を挟むのはやめた方が良いだろう。それに、彼が傷心するのは中々、ない事なのでそっちの話に耳を傾けることにした。

 

「実はさぁ、今日C級の奴の尾行任務を三輪隊とやってたんだけど、そのために気合い入れて服装と肌を緑にして頭から木を生やして行ったら、ダメだって怒られて」

「うん、ツッコミどころは色々とあるけど、まず肌を緑って何? ナメック星人?」

「その下りはもういいわ。で、その時にさ、月見さんに身体を洗われて」

「え、何それ。どういう状況?」

「もう最悪だよ……女の人にパンイチ姿見られたの初めてだよ……。超死にてーよ……」

 

 割とどうでも良い。や、その相手が氷見か小南か双葉なら面白そうなものだったが、月見ならまず変なことは起こらない。歳下好きにも見えないし、中身が子供の男のパンイチを見たところで「あら、良い筋肉」程度にしか思わないだろう。

 

「……別に気にしなくて良いんじゃない?」

「バッカお前、男のプライド無し衛門か。絶対嫌だわ」

「なんでさ。プールとか行ったらパンイチ見られるじゃん」

「そこじゃねぇ。オトコが女の人に裸を見られて身体をタオルで拭かれたってのが嫌なんだよ。全身、触られたんだぞ」

「あー……そういうことね」

「メイドに世話される大富豪のダメ息子じゃねえんだよ」

「まぁ、でもほら。あの人はダメ人間を面倒見るの上手いじゃない。太刀川さんだってお世話になることもあるみたいだし、やっぱ気にしなくて良いと思うけど」

「あのダメヒゲと一緒にされてもな」

 

 そんな話をしていると、再び耳元に氷見の落ち着いた声が届く。

 

『無駄話してないで、次の獲物に向かって。そこのコンビニの角』

「あいよ」

 

 今度は海斗が見つけ、スコーピオンで一刺ししてやった。

 

「つーか飽きたわ。なんでこんな雑魚探して駆除しなきゃいけねーんだよ」

「そりゃイレギュラー門のためでしょ」

「分かるんだけどよ……。お前、テキトーにハウンド乱射しろよ。そうすりゃ勝手に追ってくれんだろ」

『バカ言わないの。流れ弾で街や市民に被害が出るに決まってるでしょ』

 

 耳元からも冷静なツッコミが聞こえる。ぐうの音も出ない正論に、海斗は何も言い返せない。しかし、そのまま黙り込むだけの奴ではない。

 

「あーもうっ、無理。作戦室に帰る」

「帰っても良いけど、誰もいないよ。本部もろとも」

「……チッ」

 

 正直、上層部のメンバーと防衛任務のメンバーはいるが、絡みのない海斗にとってはいないに等しい。

 

「てか、尾行の方は良かったの?」

「ああ、そっちは明日もやるってよ」

「ふーん」

 

 三輪には怒られそうになったが、意外にも月見がフォローしてくれた。男子高校生の気持ちを考えてくれたのだろう。特に、高校生に限らず男はバカのくせにプライドだけは一丁前な奴が多いため、その辺は謝っておく他ない。

 

「で、誤解の方は?」

「うっ、頭が……!」

『……はぁ、ヘタレ』

 

 耳から心底バカにしたような声が聞こえる。というか、そろそろツッコんでも良いだろうか? 

 

「お前さっきから男同士の話に聞き耳立ててんじゃねーよ」

『なら通信切れば良いじゃん』

「お前から繋いできてんだろうが」

『そりゃそうでしょ。あんたの弱みは月見さんに好評だもの』

「あの野郎、異常に詳しいとおもったら!」

 

 絶対に許さん、と心に誓っていると、隣の犬飼が声をかけた。

 

「まぁ、実際のとこ、ちゃんと言った方が良いよ、ホント。向こうが気付いて恨まれるパターンが一番、最悪だから」

「わーってるっつーの」

『それと、小南さんともちゃんと仲直りしなさいよ』

「それはいいっつーの」

 

 なんて軽口を叩きながら、ラッドを駆除して回った。

 

 ×××

 

 翌日。警戒区域内の駅、つまり運行はすでに中止された駅ではあるが、改札口や電線、線路、駅の運行表や路線図などがしっかりと設置されている。いつ電車が来てもおかしくない雰囲気だ。

 普段なら人や生物はおらず、静けさが支配している場所だが、今日はそうもいかずに、合計六人の人間がいた。

 中心にいるのは白い髪で、身体中に重しをつけた少年、その前で仁王立ちしているのは、茶髪のスーツの少年だった。

 しかし、その彼の視線は白髪の少年ではなく、その背後で白髪の少年についているものと同じで重さをつけ、線路に這い蹲っている黒い髪の少年に向けられていた。

 黒い髪の少年から発せられている色は、裏切りや失望の色が発せられていた。

 

「……海斗、貴様……!」

 

 自分の名を呼ぶ少年の瞳は、これ以上にない敵意を秘めている。

 

「やはり……近界民を恨んでいなかったんだな……⁉︎」

「……」

 

 海斗の視線は、逆に何の感情もこもっていないように見えた。

 

 


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