ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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人より頭の良いものはたくさんある。

 時刻は少し前に遡る。今日も海斗は三輪隊と元気に尾行中だった。

 今回は変な変装もせず、学生服で大人しく尾行していた。打ち合わせ通り、どちらかが前の時のように追えなくなった時のために、三輪と米屋、海斗に別れて、別の場所から監視していた。

 しかし、迅の介入もなくなんの弊害も無く尾行に成功し、ボーダー以外のトリガーの使用を確認した。何やらトリオン量を測っているようで、小さな女の子が黒い炊飯器のようなものから出ている舌のようなものを握っている。

 

「……使ったな、トリガー」

 

 別の場所から見物しているわけだから、米屋が声を掛けた先にはスマホがあり、海斗に繋がっている。

 

『あれ、つーかあの白髪……』

「知っているのか、海斗?」

『この前、あいつと街で喧嘩したわ』

「喧嘩だと? 勝てたのか?」

『勝ったよ。喧嘩は心が折れない限り負けないから』

「……そうか」

 

 そこは割とどうでも良いので、生返事で返す。すると、海斗の方から聞いてきた。

 

『どうする? 三輪』

 

 聞かれた三輪は平然と答えた。

 

「決まっている。海斗、隠密行動に徹して、俺達が万が一の時まで動くな。陽介、狙撃手が配置につき次第、仕掛けるぞ」

「了解」

『了解』

 

 普段の海斗なら噛み付くとこだが、昨日の失敗もあって今日は素直に従っていた。二宮にも怒られたし。

 その後、奈良坂と古寺から配置完了の声が届き、三輪と米屋はゆっくりと姿を現した。

 

「動くな、ボーダーだ」

「……⁉︎」

 

 メガネの少年、白髪の少年、小さな女の子が一斉に三輪と米屋の方に顔を向ける。

 

「ボーダーの管理下にないトリガーだ。近界民との接触を確認。処理を開始する」

 

 そう言いつつ、二人ともポケットから銃のグリップのような形状をした、小さな武器を取り出す。

 

「トリガー、起動」

 

 その声を合図に、二人の体は学ランからA級7位のエンブレムを掲げた戦闘服へと変化していく。

 日本刀型の孤月とホルスターを腰に付けた三輪と、槍型の孤月を手にした米屋が三人に接近した。

 

「さて、近界民はどいつだ?」

「今、そのトリガーを使っていたのはその女だ」

「だな。てか、あれトリガーなのか? なんか浮いてるけど」

「関係ない。仕留めて本部に持ち帰ればわかることだ」

 

 そんな会話をしつつも、2人に油断している様子はない。女の子から目を離すことは無かった。

 当然、その会話が聞こえていた眼鏡の少年、三雲修は、背の低い女の子、雨取千佳を庇うように立つ。

 

「待ってください! こいつは……!」

「ちがうちがう。近界民はおれだよ、おれ」

 

 横から白髪の少年、空閑遊真が口を挟む。三輪と米屋は足を止め、遊真に目を向けた。

 表情を変化させることもなく、あくまで機械的且つ、冷酷な真顔のまま目を向ける。

 

「……間違いないんだろうな?」

「まちがいないよ」

 

 ノータイムの返事が返ってきた直後、三輪もノータイムでホルスターからハンドガンを抜き、顔面に向かって三発の弾丸を浴びせる。

 

「なっ……何を……!」

「近界民はすべて敵だ。退いてろ、三雲。邪魔をするな」

 

 もはや、三輪の意識は修には向けられていない。静かな青い殺意が冷酷に遊真を見据えているだけだ。

 相手はA級部隊の隊長、自分の敵う相手ではないが、空閑遊真という人間を、少なくともこの世界では誰よりも知っている修には、見殺しには出来なかった。

 

「ま、待ってください! こいつは……!」

「おいおい、俺がうっかり一般人だったらどうするつもりだ?」

 

 うしろから呑気な声が修のセリフを遮る。弾丸はすべて、遊真の持つ盾によって塞がれていた。

 

「!」

「マジか、この距離で防いだ」

 

 よっこいせ、と起き上がる遊真はあくまで平和的に三輪に声を掛ける。

 

「あのさ、ボーダーに迅さんって人がいるだろ? 俺のこと聞いてみてくれない?」

「そ、そうです! 迅さんに聞いて貰えば……!」

「……ふん、やっぱり一枚噛んでいたか。裏切り者の玉狛支部が……!」

 

 その一言に、修は「裏切り者……?」と冷や汗を流すが、三輪は敵の前でそれ以上の情報を流すつもりはない。孤月を抜き、本格的に戦闘開始の準備を整えた。

 

「もう一度言うぞ、三雲。退け」

 

 その一言は、逆に言えば「この一度で警告は終わりだ」と告げていた。それでも修は食い下がろうとする。

 

「いえ、僕は……!」

「退いてろ、オサム」

 

 しかし、再び遊真によって遮られる。遊真も同じように戦闘体に身を包んだ。

 

「こいつらが用あるのは俺だ。俺一人でやる」

 

 真っ黒いスーツに変身したその姿に、銃や剣のような武器はない。素手での殴り合いメインだろうか? それなら、必要以上に距離を詰める事もない。

 と、普通の使い手だろうがそう思うだろうが、ボーダーには既に、拳と拳で語り合うバカが存在した。

 

「へー、海斗と同じスタイルか? 強そーじゃん。秀次、サシでやらせてくれよ」

「ふざけるな。こいつは、二人掛かりで確実に仕留める」

「二人掛かり?」

 

 何気なく張った三輪のブラフに、目の前の白髪の少年は反応してみせた。

 

「お前、面白いウソつくね」

「……!」

 

 見破られた? と三輪は一瞬だけ狼狽えてしまった。確かに、自分と米屋以外に、スナイパー二人とバカが一人、各々の持ち場に待機している。

 ハッタリでカマをかけているのか、それとも本当にバレているのか分からないが、やる事は変わらない。

 

「ここはひとつ、全員でじっくりと掛かるとしようか」

 

 米屋がそう言った直後、槍を一瞬で突き込んだ。A級部隊で戦闘狂らしい鋭い一閃だったが、目の前の少年はいとも簡単に避けてみせた。

 

「不意打ちがみえみえだよ」

「……と、思うじゃん?」

 

 直後、ブフォーッと首からトリオンの煙が漏れる。身体と切り離されたわけではないが、大量にトリオンが漏れ出し、慌てて自分の首を手で押さえる。

 その隙に三輪はハンドガンを向け、4〜5発の弾丸を放つ。それを斜め後ろに退がりつつ回避すると、接近していた米屋が槍を横に構えていた。

 

「やっぱりいきなり首は浅かったか」

 

 次の一撃は、ボディを狙ってのものだ。旋空によって穂先を拡張し、横に薙ぎ払った。

 それをジャンプで回避したものの、今度は三輪が接近している。壁際に追い込みつつ、拳では届かない距離で、一応武器での攻撃を警戒しつつハンドガンを放つ。盾を構える遊真だが、その盾を避けるように弾丸が曲がった。

 

「ハウンド」

 

 強引に跳んでジャンプして回避すると、別の建物の屋上が二箇所、パッと光った。飛んできたのは二発の弾丸。体を捩って回避したものの、片腕を吹き飛ばされた。

 

「チッ……!」

 

 そのまま落下し、線路に着地する。そこにさらに追撃しようとする米屋を、三輪が止めた。

 

「どうした? 秀次」

「大人しすぎる。こいつは何かを狙っている」

「それな。反撃する気がなさ過ぎるからな」

「この手のタイプはカウンターが得意なタイプかもしれない。不用意な攻めは避けろ」

「はいよ」

 

 やりづらい、と遊真は内心で舌打ちした。別にカウンターを狙っていたわけでもないが、無力化を狙っていたのは本当のことだ。

 そう言って、三輪はハンドガンを構えた。放たれたのは変化弾。遊真を囲むように襲いかかり、シールドを張ってガードされる。その隙に米屋が接近し、孤月を大振りで振り回す。

 それを遊真が避けた直後、飛んできたのは脚だった。

 

「⁉︎」

 

 蹴りが顔面に直撃し、後方に蹴り飛ばされる。そこに、三輪が弾丸をぶっ放した。さっきまでと違い、黒い弾丸だ。

 盾を構えたが、それをすり抜けて腕に直撃し、ズシンと全体重が持っていかれる程の重みがかかる。

 

「うおっ、なんだこりゃ。重っ」

 

 座り込むしかない上に立てない。かなり大きな隙、米屋も三輪もとどめを刺しにかかった。しかし、修の立場を考慮している遊真にとって、最も欲していたものだ。

 

『解析完了。印は「射」と「錨」にした』

「OK」

 

 無機質な声が聞こえる。それにより、遊真は殺される寸前だというにはあまりに正反対な笑みを浮かべた。

 

「『錨』印+『射』印、四重」

「⁉︎」

 

 直後、拡散するように飛んできたのは三輪の撃った鉛弾。それが三輪隊の二人に襲い掛かり、同じように線路、ホームにドシャリと這いつくばるように倒れた。

 

「おおー、いいなこれ。かなり便利だ」

「っ……!」

 

 奥歯を噛みしめる三輪に対し、遊真はニヤリと無機質に笑いながら立ち上がり、声をかけた。

 

「さて、じゃあ話し合いしようか」

「……ふんっ、勝った気か? 近界民……!」

「狙撃手なら問題ないよ。おれの相棒が」

「どうだかな」

「……!」

 

 その直後だ。遊真の顔面につま先がめり込んだ。生身なら首の骨が折れていたくらいの重さはある蹴りが直撃し、再び後方に飛ばされた。

 

「ふぅ、大丈夫か? 三輪」

「……ああ。すまない。油断した」

「いやいや、拘束するまではしてくれたようなもんだろ。あとは任せろ」

 

 拘束? と三輪が片眉を上げた時だ。海斗は落ちていた三輪のハンドガンを拾い、銃口を遊真に向けた。

 

「久しぶりだな、白髪ちび」

「あんたは……この前の助けてくれた人?」

「まさか、お前が近界民だったとはな」

「そっちはボーダーだったんだね」

 

 二人の間では視線が交わされる。後ろから三輪が声を掛けた。

 

「撃て、海斗! 弾は通常弾にしてある!」

「まぁ、待てよ。三輪。こういう時は殺さずにこちらに来た目的を聞いてやった方が良いんだろ」

「な、何を呑気な事を……!」

「二宮さんから聞いたんだよ」

 

 一昨日、まだ最初の尾行をすると決まった時の話だ。二宮から尾行に関して、色々教わった。

 

『月見がついているなら問題ないだろうが、なるべく自然な格好を心がけろ。目立つような真似だけはするな』

 

 これに関しては昨日、懲りたので問題ない。

 

『それから、対象が走ってもお前は走るな。追ってるのがバレバレだ。そのために、二手に分かれてお互いに連絡の取れるようにしている』

 

 これも問題ない。今日は難なく追うことが出来た。現状は三つ目だろう。

 

『拘束に成功した場合、敵の仲間が助けに来ることを想定しろ。聞きだせることはその場で聞き出せ。敵の目的が分からない場合、そいつは手掛かりだ。無闇に殺したりするな』

 

 つまり、ここで殺すわけにはいかない。しかし、それは近界民に恨みをもっている人間ほど、その考えは理解しない。殺せる時に殺した方が良い、と考えるからだ。

 

「ふざけるな! 殺せ! お前だって近界民に両親を殺された人間だろ! 目の前に敵がいるんだぞ⁉︎」

「一時のテンションに身を任せる奴は身を滅ぼすんだよ。銀魂でもやってただろうが」

「漫画と現実を一緒にするな!」

「いやいや、フィクションから学ぶこともあるだろ。お前だってこの前、Dr.ストーン勉強になるって言ってたじゃん」

「グッ……!」

 

 徐々に緊張感が解けていく。当事者でありながら、完全に蚊帳の外になりつつある遊真は、キョトンとしたまま立ち上がった。

 

「ねぇ、俺はどうすれば……」

 

 直後、銃口が火を吹いた。遊真の足元に着弾し、線路に小さなクレーターが出来る。

 

「動くな。次、動いたら頭吹っ飛ばす」

「……」

 

 三輪以上にやりづらい男だった。何を考えているか分からない分、自分のペースで話を進めるため、気を抜いたら一発で持っていかれる。

 

「……そうか、そういうことか」

 

 三輪から薄い笑いが漏れる。海斗の目に映ったのは、影浦でさえ自分に向けたことのない、殺意以上の危険色だ。いや、それだけではない。その中には哀しみやら裏切りやら、様々な色が混ぜ合わさったブラックホールのようなどす黒い色を出している。

 

「近界民を恨んでいるくせに玉狛なんぞに顔を出しているからおかしいとは思っていた」

 

 ギロリと鋭い視線を向け、これ以上にない低い声で言い放った。

 

「やはり……近界民を恨んでいなかったんだな……⁉︎」

「……」

 

 あーあ、こうなったか、と海斗は落胆するしかなかった。自業自得とはいえ、深い怒気が烈火の如く巻き上げられた感情を向けられているのは、流石にきつい。特に、気まずいとは思っていたものの、三輪をジャンプオタクに染めていくのはなかなか、楽しかったため、尚更だ。

 

「今まで、俺を騙して楽しんでいたのか? 何処までが嘘だった。まさか、家族も生きている、なんて事ないだろうな」

 

 生きてちゃ悪いのかよ、と思ったが、海斗はその問いには答えなかった。騙して楽しんでいるつもりなかったし、騙して利用しようとしていた奴に言われたくない。

 

「お前だって、俺を騙しただろうが」

「……なんだと?」

「二宮さんから聞いたが、この白髪チビが俺の両親を殺した犯人である保障はないんだってな」

「……!」

 

 一昨日、三輪はトリオン兵を使って街を荒らした犯人に会える、と断言をした。しかし、それは厳密には違い、近界には無数の星が存在し、それらの国のうちの一つが襲ってきたに過ぎず、空閑遊真の住んでいた国が犯人である証拠は何処にもない。

 

「お前はA級だし、元は一位の部隊にいたんだろ? そんな奴がその事を知らないはずがないよな。それなのに嘘の情報を流した事が『騙す』って事なんじゃねえの?」

「っ……!」

 

 正直、海斗はそんな事、気にしちゃいないし、元を辿れば自分が「本当は近界民なんて怨んで無かったんですよー」と弁解しておけば良かった話なので、とやかく言うつもりはない。

 ただ、やはり正しい情報を伝えずに自分を使おうとしていたのは良い気はしない。

 

「だまれ! 間違ってはいないだろう! 近界民は全て敵だ!」

「……まぁ、お前がそう思うならそれで良いけど。俺が舐められたまま終わるつもりはないって言ったのは、あくまで俺の両親を殺した連中に対してだけだし」

 

 何が何だか分からないが、修はとりあえず千佳の前に立っていた。いきなり出て来たこの人が何者なのか分からないが、単純に敵、という立場でも無いようだ。

 昨日、会った時は「あ、この人頭おかしい」と素直に思ったが、今日は「この人になら話が通じるかも」と判断した修は、海斗に声を掛けた。

 

「あのっ、すみません。こいつ、他の近界民と違うんです!」

「黙ってろメガネ。お前がなんと言おうと、この白髪チビは基地へ連行するし、お前も後で尋問する」

「っ……!」

 

 味方でもないようだ。冷たい目で一瞥されただけで黙り込んでしまった。

 いつになく厳しい口調の海斗は、目の前の近界民が自分の両親の仇である可能性も捨ててはいなかった。

 そんな中、このまま話していても拉致があかない、と判断した三輪は、もはや近界民ですら視界に入れる事なく、海斗を睨んだまま言った。

 

「……このままで済むと思うなよ、海斗。俺はお前を絶対に許さない……!」

「……」

「緊急脱出!」

 

 ドンッと光の柱が立ち、三輪秀次の身体はその場で消えた。

 

「はい、そこまで」

 

 ちょうど、別の声が三人の間に割り込まれる。

 姿を現したのは、迅悠一だ。駅の後方には奈良坂と古寺が控えている。

 

「あ、迅」

「迅さん?」

「うおっ、迅さんじゃん」

「迅さん……!」

 

 なんでいるの? みたいな顔をする海斗と遊真、顔見知りの人を見つけて少し明るい米屋、助かったみたいなニュアンスを込める修と、四人がそれぞれの反応を見せる中、実力派エリートはいつもののほほんとした表情のままだった。

 

「よう、海斗。今日も元気だな」

「るせーよバーカ。何、邪魔しに来たの?」

「そういう事だな。それにこいつを追い回してもなんの得もない」

「は? だって……」

「こいつに他所の世界から来た仲間はいないし、こっちの偵察に来たわけでもないよ。捕らえて本部に連行して殺した所で何の得もない」

 

 未来視のサイドエフェクトか、と米屋も海斗もすぐに合点がいった。

 

「むしろ、黒トリガーを敵に回すことになるぞ」

「はぁ⁉︎ 黒トリガー⁉︎」

「マジでか!」

 

 米屋と海斗が声を漏らす。二人が黒トリガーを迅と天羽のもの以外見たことがなかったから尚更、驚いた。

 しかし、確かにその節はあった。敵の攻撃を学習するトリガーなど黒トリガー以外にありえない。それも、学習の期間は1分どころか10秒も掛からない。

 

「……俺より頭良いな、その黒トリガー」

「……」

「おい、黙るな米屋」

 

 本当のことなので何も言えなくなってしまった米屋にキレる海斗はさておき、迅はこれからの方針を決めた。

 

「さ、秀次が飛んでからあまり時間もない。報告は間違いなく偏るだろうし、俺も本部に行かないとな」

「あーあ、任務失敗かー」

 

 ぐてーっと米屋はトリガーを解除し、その場で座り込んだ。海斗も任務は一時中断だと悟り、トリガーを解除した。

 

「あーあ、せっかくこの前の決着つけられると思ったのに」

「決着も何も、あんたこの前おれにボッコボコにされただけじゃん」

「バカ、お前喧嘩は心が折れるまで負けねーもんだろうが」

 

 海斗の小言に遊真が毒突くと、負けじと言い返してくる。その会話に米屋が口を挟んだ。

 

「何お前、前にも戦ったの?」

「まぁな。生身で」

「うへー、生身でお前に勝てる奴なんかいるんだな!」

 

 実際、遊真は生身ではないが、わざわざ説明はしなかった。

 

「ていうか、あんたらは近界民キライじゃないの?」

「別に、なぁ?」

「ストレス発散で殺しても許される存在だし、別に」

「え、お前そんなパスった理由で殺してたの?」

「パスったって何」

 

 なんて二人で仲良さそうに会話しているのを見て、遊真はほほうと顎に手を当てた。さっきまで険悪だった人と同じ隊服を着ている人と仲良く話しているのは、何となく不思議な感じだ。

 

「でも、あんたは両親殺されてるんでしょ?」

「ああ、さっきの聴いてた? その通りだけど……まぁ、両親にも色々あるから」

「や、お前は普通じゃねえぞ。秀次なんかは姉を近界民に殺されてああなってんのに、全然、気にしちゃいないってのもおかしいからな?」

「気にするには思い出が少なすぎたからなぁ……」

 

 ボーダーにも色々いるんだなぁ、と遊真は思うしかなかった。

 さて、無駄話している場合ではない。米屋達三輪隊の連中も、いつまでもここに残っていても仕方ない。修も一応、今まで黒トリガー持ちの近界民と行動していたこともあって、一緒に本部に向かうことになった。

 

「海斗はどうする?」

「俺?」

 

 声を掛けられたものの、海斗は少し顎に手を当てて悩んですぐに答えた。

 

「俺はこの白髪チビと一緒にいるよ。形だけでも監視役がいた方が良いだろ」

「なるほど。じゃあ、城戸さん達にそう報告しとくよ」

「どうも」

 

 そう言って、海斗は遊真に声を掛けた。

 

「よし、行くか。白チビ」

「空閑遊真だよ。えーっと……キックの人」

「ウィス様だ」

「ウィスサマ」

 

 絶対偽名ですよね、と修も千佳も言えず、修は迅と一緒に、千佳は遊真、海斗と一緒に警戒区域を出た。

 

 


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