ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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雨を降らせて地を固める。

 海斗は屋上が好きだった。何処の建物でも良いから、とりあえず高い所にいると落ち着くタイプだった。バカは高いところが好き、というのも含まれているが、それは無意識なものなので、海斗は深層辺りでもうバカなのだろう。あとは、他人の目なんか気にならないし、一人でボンヤリするには持って来いだ。

 今日の屋上は、玉狛支部の屋上。高い建物ではないが、付近にここより高い建物はないため、十分である。

 夕日を眺めつつ、今日の事を考えていた。迅の予知では、今日になって遊真を始末しにA級部隊がやって来る。その戦いに参戦することにした海斗は、今回の自分の敵について考える。

 相手は三輪秀次。結果的に、自分が長い間、騙していた相手になってしまった。そんな相手に「今までごめんね、でも遊真を殺すのはやめて」と言わなければならないのだ。絶対、キレられるし戦闘は免れない。

 

「……はぁ」

 

 憂鬱だ。でも、二宮さんにも許可を貰ったのだ。一応、この前の迅とのやり取りの後、万が一、二宮隊に迷惑が掛かるようなら遠慮無く切り捨ててくれて構わない、と言ったら「今更なことを言うな。最後まで面倒見てやるから好きにやれ」と言ってくれた。今度、ジンジャエールを奢ることを決めた。

 

「何ため息ついてんのよ」

「?」

 

 振り返ると、小南が腰に手を当てて立っていた。

 

「……なんだ、バカか」

「誰がバカよ誰が⁉︎ ていうか、出会い頭にその挨拶はないんじゃない⁉︎」

「喧しい。今、俺はのんびりしてんだ。邪魔しに来たなら出ていけアホ」

「んがっ……! あ、相変わらずムカつくわねあんた……!」

 

 奥歯を噛み締めつつ、小南は隣まで歩いた。海斗がもたれ掛かっている柵の上に、湯気のたったコーヒーカップを置く。

 

「……んっ」

「くれんの?」

「他に何があんのよ」

「どもども」

 

 ありがたく受け取り、コーヒーを飲む。ブラックで飲めないのを知っていてか、砂糖とミルクが入っていた。

 

「美味い」

「当然よ、アタシが淹れたんだもの」

「最近のコーヒーメーカーはすげぇんだな」

「アタシが淹れたんだもの!」

 

 強調するも海斗はスルー。コーヒーを飲みながら、頭の中で三輪にかけてやる言葉を考える。

 しかし、隣の小南はそれを許さない。ぐいっと海斗の手を引いた。

 

「ちょっと、それよりあんたアタシに言うことあるんじゃないの?」

「ねえよ」

「あるわよ!」

 

 そう言われても心当たりがない。こんばんは、とかか? と思ったりしてると、小南が睨みつけながら言った。

 

「本当に氷見さんと付き合ってるの?」

「テメェはそんな事を聞きにわざわざコーヒー持ってきたのか⁉︎」

 

 クソどうでも良いことを言われ、思わず大声で反論してしまった。

 

「そんな事って何よ⁉︎ 大事なことでしょ⁉︎」

「どこがだよ! んなわけねーし、テメェにゃカンケーねぇだろ!」

「あるわよ! だって……!」

「だって、何」

「っ……」

 

 言おうとした言葉を飲み込む。自分で何を言おうとしたのか直感で分かってしまい、慌てて口を押さえた。

 

「何、吐くの? トイレ行けよ」

「なわけないでしょ! あんたどこまでデリカシー無いのよ!」

「じゃあ何」

 

 片眉を上げて聞くと、小南は黙って目を逸らす。若干、頬を赤らめているあたりが可愛らしかったりするのだが、今は三輪との事で集中しなければならない。

 何処か、海斗の様子がおかしいのを察した小南は、小さくため息をついて答えた。

 

「……別に、今じゃなくて良いわ」

「はぁ?」

「ただし、関係ない話じゃないから。絶対に後で話するから」

「……お、おう?」

 

 デタラメを言ってる感じではないが、海斗には心当たりがない。しかし、小南は説明することも無くそのまま立ち去ってしまった。

 何のこっちゃ、と思いつつも、とりあえず力は抜けたので、決戦の準備をする事にした。

 スマホを取り出し、今回の相棒に電話を掛ける。

 

『もしもし?』

「氷見、始めるぞ」

『了解』

「よっしゃ」

 

 オペレーターへの連絡だけすると、海斗は屋上から飛び降りた。

 迅から襲撃のタイミングとルート、そしてこちらの攻撃のタイミングも教わった。まぁ、いい加減、待ってるのは飽きたのでそれに従うつもりは無くなってしまったが。

 

 ×××

 

 ボーダー本部では、遠征部隊が帰還し、会議室で新たな任務が命じられた。勿論、その内容は黒トリガーの確保である。

 太刀川が部隊の指揮を執ることになり、他に風間隊、冬島隊、三輪隊の3チームが付いてくる。

 玉狛の黒トリガーがボーダーのトリガーを学習するのを少しでも減らせるようにするため、今夜に襲撃することにした。

 勿論、玉狛の隊員との戦闘も考慮されているわけだが、三輪の懸念はそこよりもバカに対する警戒心があった。

 アレから張り込みをしている米屋と古寺の報告によれば、毎日玉狛に顔を出しているらしい。

 今は出撃前。既に待機しているメンバーは風間隊全員と三輪と奈良坂、出水。五分前になってもやって来ないのは太刀川と当真の二人だった。

 本部の屋上から飛び降りるため、集まっている各々は壁に寄っかかったり、スマホをいじったりとそれぞれリラックスしている中、三輪は左足を垂らし、右足の膝を曲げて立てて座っていた。その表情は、明らかに不機嫌そうだ。

 

「……チッ」

 

 自分の任務の邪魔をしてくるかは分からない。だが、ヘラヘラと近界民と同行している気持ちは理解できない。本来、敵とも言える相手であるはずなのに。

 とはいえ、海斗も普段の様子は悪い奴ではなかった。あの性格でさえ虚構だとすれば許さないが、おそらくあの性格は素なのだろう。それゆえに、一番嘘であって欲しくなかった近界民への憎悪が嘘であった事は、やはりショックだった。

 

「……三輪、どうかしたか?」

「っ、い、いえ、なんでもありません」

 

 考え事をしていたのが顔に出ていたのか、風間が横から声を掛けるも、三輪は首を横に振った。

 そんな三輪を見かねてか、風間は真剣な表情で三輪の肩に手を置く。

 

「……月見から聞いたが、あのバカと揉めたらしいな」

「……!」

 

 余計な事を……と、少し三輪は心の中で毒突く。

 いらない事は絶対に周りに言わないオペレーターだが、風間には口にしたという事は、必要な事だと判断したのだろう。正直、余計なお世話だと思った。優しいお節介も大概にして欲しい。

 

「すまないな。あのバカが」

「いえ、大丈夫です。近界民の肩を持つ海斗は、俺にとって敵でしかありません」

「……」

 

 そう言い切る割に、三輪の表情は何処か苦しそうにも見えた。恐らく、それなりに海斗に情が湧いたのだろう。

 あのバカの魅力は、不思議な事に生意気なのに何処か憎めない性質にある。デリカシーが足りず、口も頭も悪く、歳上を舐めてるとしか思えない態度を取るのに、何故か嫌いにならず世話を焼いてしまうのだ。要するに、嫌いになれないダメ人間タイプだ。

 風間にもその気持ちはよく分かり、三輪の近界民を憎む心と海斗を想う心がぶつかり合っているのは、事情を知る者なら誰にでも分かった。

 普通の喧嘩なら、思い切り殴り合いでもしてくれば済みそうな話だが、今回の元々の原因は黒トリガー持ちの近界民だ。殴り合いではなく、話し合いでなければ決着はつきそうにない。

 とりあえず、今は余計な口を挟むべきではない。それよりも、玉狛とぶつかる可能性もあるのだから、そっちに集中させねばならない。

 

「三輪、本当に奴は敵でしかないのか?」

「……はい」

「間があったな。お前は、まだ陰山を嫌いになれていないのだろう」

「っ、そ、そんな事は……!」

「別に無理に取り繕う必要はない。『そうあるべき』と『そう思いたい』は別のものだ。陰山を無理に嫌う必要なんてない」

「……」

 

 そう厳しくもあり、優しくもある声で唱えられ、初めて三輪は顔を上げた。

 

「お前も陰山も不器用だからな。一度、正面からぶつかり、お互いに言いたいことをぶつけ合った方が良いだろう」

「い、いえ、ですから俺は海斗の事など……!」

「嫌いだと言うのなら、まずは名前の呼び方を気を付けろ。下の名前で呼んでいれば仲良しに見えるぞ」

「っ……!」

 

 ハッとして自分の口を手で押さえる三輪。そんな彼の仕草は珍しい。前までは近界民を殺すことが生甲斐みたいなとこが見えたが、ここの所はそうでも無いようだ。

 あのバカに影響されたのだとしたら、割と悪い影響ばかりではないのかも、と思いつつ、ふっと微笑んだ。

 

「もし、機会がないというのなら、俺でも月見でもその機会を設けよう。何、あのバカはチームを組んだとはいえ、俺と三上の二人掛かりなら無理矢理、言うことを聞かせる事もできる」

「……はい、ありがとうございます」

 

 そんな風に言われてしまえば、三輪としても自身を振り返ざるを得ない。確かに、なんだかんだ憎めない性格をしている海斗を、三輪は嫌いではなかった。

 ただ飯に弱い所も、ジャンプ作品が好きなとこも、困ってる人を見捨てないとこも、割と歳下の面倒見が良いとこも、友達として気があう奴だと思った。

 そこを思い返してから、あの時の駅での戦闘を思い出す。確かに、すぐにトドメこそ刺さなかったものの、動こうとした近界民を相手にハンドガンを鳴らしたり、それなりに容赦のない面も見せていた。

 

「……」

 

 おそらく、近界民を憎んではいないのだろう。否定はしなかったし。でも、自分の敵と決め付けるのは早計だったかもしれない。

 

「おーう、お待たせー」

 

 呑気な声が聞こえて顔を上げた。太刀川慶と当真勇が並んで立っている。

 

「遅いぞ、太刀川」

「悪い悪い、風間さん」

 

 なははーと軽い謝罪を返す髭面の男が、三輪はあまり得意ではなかった。味方としては頼もしい限りなのだが、どこか苦手に思ってしまう。

 そんな三輪の心情を知る由もなく、スタート位置に立つ太刀川は、頭の後ろで腕を組んで肩を伸ばしながら歩いた。

 

「さて、さっさと終わらせるか」

「だな」

 

 当真が頷き、屋上の淵に立つ。米屋と古寺とは途中で合流するため、これでメンバーは全員だ。

 横並びになった、合計八人は一斉に屋上から飛び降りた。

 うじうじと悩むのは後だ。まずは、近界民を始末し、任務を遂行する。

 

 ×××

 

 走り出して数分ほど経過した辺りだろうか。トリオン体によって人が走っているにしては速すぎる速度で移動する八人は、誰もいない夜の街を真っ直ぐに玉狛へ向けている。

 

「おいおい、そんな早く走るなよ、三輪。疲れちゃうぜ」

「……」

 

 太刀川からの小言は聞き流したものの、若干、速度は下げられた。やはりこの人はなんとなく苦手だ、と思いつつ、ふと前を見たときだ。

 

「止まれ!」

 

 風間の大声で全員が足を止める。その直後だった。目の前に隕石が落下してきたような勢いで何かが降ってきた。

 ズンッ、と衝撃がコンクリートの道路に響き、亀裂が蜘蛛の巣のように響き渡る。

 砂煙が舞い上がり、それによって八人全員が構える。菊地原と風間を先頭に、その互い違いになるように、中距離に三輪、歌川、太刀川が並び、さらにその後ろに出水、奈良坂、当真が控えている。

 何者かの攻撃か、新手のトリオン兵か……と、思考を巡らせる三輪は、徐々に晴れていく煙の中央にしゃがんでいる人物を見た。

 そいつは、今は最も見たくない相手だった。

 

「……陰山か?」

 

 風間が片眉を挙げる。

 クレーターの真ん中で片膝と片拳をついているのは、陰山海斗だった。

 相変わらずの目つきの悪さで「よっこいせ」と緊張感のない声を掛けながら立ち上がった海斗は、真っ直ぐと三輪を見据えていた。

 何故こいつがここに? 何をしにここへ? と三輪が奥歯を噛み締めている間に、海斗はぬぼーっとした顔のまま声を掛けた。

 

「三輪、話付けに来た」

 

 ×××

 

 玉狛支部から出た迅は大慌てで走っていた。集合場所に使っていた空き部屋に、海斗の書き置きが残されていたからだ。

 

『三輪のとこ遊びに行ってくる♪』

 

 ♪ が非常に腹立たしかった。おかげで、協力を要請した忍田への報告も忘れてはならない。

 

「まったく、あのバカは……!」

 

 実を言うと、迅は海斗の行動が読みづらかった。確かに未来視によって海斗の行動はいくつも分岐されていたが、海斗の場合は可能性が多過ぎる。

 頭が足りないのか、それとも考えが軽いからか、その行動をすればもう引き返さない。

 例えば、ジャンプを買いに行こうとしていた海斗がいたとする。だが、その前にトイレに行くか、自室に本屋のポイントカードを取りに行くか、それとも徒歩じゃなくて自転車で行くか、或いはそのまま真っ直ぐジャンプを買いに行くかで、本屋に到着する時間が異常にズレるのだ。本屋に行く以外の行動を取ると、その時点で「ジャンプを買いに行く」という目的を忘れてしまい、他の事をやり始めてしまう。ジャンプを買いに行くのは、その日が月曜であることを思い出す時だけだ。

 

「……ったく、これだからバカは……!」

 

 忍田に連絡を入れながら、とにかく出来る限りの速さで走った。

 

 ×××

 

「話しに来た、というのはどういう意味だ? 陰山」

 

 問い詰めたのは風間だ。その視線はキュッと細くなり、遠征に行く一週間前にカンチョーをした時にキレられた時と同じ目をしていた。

 

「久し振り、風間」

「そこを退け。バカに付き合っている暇はない」

「いやいや、無理無理。だって俺、三輪と話に来たんだし」

「後にしろ。話なら任務の後でいくらでも付き合う」

「空閑がやられてからじゃ遅いから話つけにきたんだろうが」

 

 その台詞に噛みついたのは三輪の方だった。

 

「海斗……! まさか、お前近界民を庇うつもりか⁉︎」

「近界民を、じゃねぇよ。空閑遊真を、だ」

「⁉︎」

 

 驚愕の表情を見せる三輪の前で、風間が続いて聞いた。

 

「……言っている意味が分かっているのか? 陰山。それはつまり、俺達とここで戦うという意味になるが」

「なんでもデュエルで解決するデュエル脳かお前は。だから、話し合いに来たって言ってんじゃん」

「無理だな。俺達は城戸司令の命令で任務を遂行している。お前にそれを止める権限はない」

「権限?」

 

 復唱したその声は、普段の能天気な海斗から出たとは思えないほど冷たい声だった。

 

「権限が無きゃ次の行動にも移れねーのかテメーらは」

「そういう話ではない。俺達を止めたければ、それなりに手順を踏んで」

「問答を押し通して強奪という手を打ったのは、その城戸のオッさんだ。迅から聞いたが、忍田は強奪には反対し、結論は出ていなかったらしいじゃん。手順を飛ばしてんのはどっちのボスだ?」

 

 いつになく、海斗の言う事は筋が通っていた。いや、厳密には総司令である城戸が兵隊を運用するのに手順なんてものは必要ないのだが。部隊に直接、命じれば良いだけなのだから。

 しかし、そんなやり方では反対する意見が出るのは当然の話だ。

 

「……何れにしても、黒トリガーを野良で放置しておくわけにはいかない。ボーダー隊員として、黒トリガーを回収しなければ」

「したよ、回収」

「なんだと?」

「空閑遊真は昨日から玉狛支部に入隊した。あんたらがこれからやろうとしているのは、強盗以前に大麻規定違反って奴だろ」

「隊務な」

 

 少し恥ずかしいところで間違えて、出水がしれっとツッコんだが、海斗はいつもみたいに頬を若干、赤らめて「うるせーよ」とは言わなかった。

 そんな中、今まで黙っていた太刀川が口を開く。

 

「残念だが、陰山。そのクガって奴はまだ正式な隊員にはなれていないぞ」

「あ?」

「玉狛で手続きが済んでても、本部での正式入隊日を迎えるまではボーダー隊員とは認められない。仕留めるのになんの問題もないな」

「……え、そうなの?」

 

 さっきまでの勢いはどこへ行ったのか、海斗は一気にひよってしまった。さらに風間が正面から追撃する。

 

「そうだ。任務中の部隊を襲撃し、隊務規定違反を犯しているのはお前の方だ、陰山」

「……」

「分かったら、そこで大人しくしていろ。三輪との話の席は後で設けてやる」

 

 そう言って、八人は足を進める。三輪だけは海斗の事が気になっていたようだが、他のメンバーはまるで無視するように海斗の隣を通り過ぎようとする。

 風間が真横をすれ違う直前、海斗の手が消えた。

 

「! 風間さん!」

 

 歌川が声を張り上げた直後、風間の前の道路に深い溝が入った。海斗が腕を振り下ろし、スコーピオンで亀裂を作ったものだった。

 それにより、足を止めた風間は隣の海斗に声を掛ける。

 

「何の真似だ? 海斗」

「一瞬、迷ったけど……まぁ良いわ。クビになっても」

「……なんだと?」

「俺のクビで、あの白髪チビの命が助かるのなら安いもんだろ」

「……そうか」

 

 このバカは損得勘定で動かない。自分のやりたい事を、自分のやりたいようにして来ただけだ。

 ついでに言うなら、勝敗も気にしない。勝てる勝てないではない。自分のルールで生きるためなら、例え意味のない事でも平然と実行するバカだ。遠征部隊が相手でも、A級部隊が4チーム相手でも退くつもりはないだろう。

 ならば、話は簡単だ。

 

「ーっ!」

「っー!」

 

 風間の一閃と海斗の拳がぶつかり合い、お互いに後方へ弾け飛んだ。それが開戦の狼煙となった。

 歌川と菊地原が飛んだ海斗を挟むように移動し、スコーピオンを振るう。

 しかし、それより速く。腰に当てたレイガストのスラスターによって身体を急速によじって、二人の顔面と脇腹に廻し蹴りを放った。

 

「「ッ……‼︎」」

 

 両サイドへの蹴りのため、威力は低い。しかし、ダメージは少しは入った。

 様子見のつもりか、それ以上は仕掛けて来ない。海斗も下手な追撃はせず、ゆらりと辺りを見回す。

 直後、太刀川が玉狛の方に一歩踏み出した。

 

「悪ぃな、風間さん。ここは任せる」

「ああ、先に行け」

「いえ、待ってください」

 

 そこで声をかけたのは三輪秀次だった。

 

「俺が足を止めます」

「……!」

 

 腰から光り輝くブレードを抜きながら、海斗の方に歩みを進める。

 

「出来るのか?」

「分かりません。ですが、奴は風間さん達が遠征に行っている間にも力を付けていました。この中で一番、奴の戦闘力を把握しているのは自分です」

「なるほど」

 

 それに、と三輪は話を続ける。

 

「あいつが用あるのは俺です。俺が相手をすべきでしょう」

「了解。じゃ、頼むぞ」

 

 太刀川がそう言うと、太刀川隊と風間隊、当真、奈良坂は先に向かおうとする。

 

「チッ……!」

 

 海斗が舌打ちをして行かせまいと後を追おうとしたが、三輪がそれをさせない。孤月で一気に距離を詰めた。

 

「話があるんだろう、海斗?」

「……」

 

 まぁ良いか、と心の中で呟いた。他にも迅達がいるし、残りは任せておこう。

 

 


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