ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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戦いもなんやかんや勢いと流れとノリ。

 マンションの一室では、木虎と米屋がお互いに近距離戦を繰り広げていた。槍の孤月の猛攻を回避しつつ、ハンドガンでワイヤーを張りつつ距離を置いていた。

 逃さずに米屋は槍で追撃する。しかし、何か違和感を抱いていた。木虎からの攻めが少な過ぎる。勿論、こちらが隙を見せれば攻撃はして来るが、深追いはせずに距離を保ちつつスコーピオンで反撃してくる。

 

「……なるほどな」

 

 足を止めた米屋は、部屋の中で旋空孤月を至る所に放った。それにより、壁や床、天井が削ぎ落とされ、木虎が仕掛けていたワイヤーが宙にひらひらと浮いた。

 

「っ……!」

「悪ぃな、カウンターはお前より何倍も鋭いバカにやられなれてんだ」

 

 動揺した隙に米屋は突きを叩き込み、それが木虎の頬を掠める。

 頬から薄っすらと漏れるトリオンを手の甲で撫でながら、上から降ってくる米屋に目を向けた。

 

(……まずいわね。嵐山さん達も苦戦してるみたいだし、このままこの人の相手をしてても良い事はないわ)

 

 かといって、佐鳥が逃げるまでは相手をする他ない。せめて次の狙撃ポイントに着くまではこのままだ。

 

「おらどうした、優等生!」

「っ……!」

 

 降りて来ながらの幻踊孤月をシールドでガードしながら、腰に構えた銃口からアステロイドを放つ。

 それをシールドでガードしつつ米屋は距離を詰め、斜め下から斬りあげた。拳銃が破壊されつつも後ろにバックステップで回避し、後ろの椅子に足を置き、蹴って斬りかかった。

 それを槍でガードし、鍔迫り合いのようにお互い、両腕に力を入れる。が、すぐに米屋が木虎の足を払い、転ばせると、刃のついていない方で顔面を殴り飛ばし、壁に叩きつけた。

 

「っ……!」

「旋空孤月」

 

 ブレードが瞬間的に拡張し、穂先が木虎のボディを捉える。斬り裂かれる直前、木虎は負けじとハンドガンで米屋の槍を撃ち抜いた。

 孤月の耐久性はボーダー公認でA評価をもらっているため、アステロイド1〜2発で壊すことは出来ない。

 しかし、ブレードの軌道を逸らすことは可能だ。

 

「うおっ」

「グッ……‼︎」

 

 片腕を落とされながらもなんとか凌いだ木虎は、ハンドガンを米屋に向けて乱射しながらベランダの窓ガラスに飛び込んだ。

 

『申し訳ありません、嵐山さん。このまま米屋先輩を連れて合流します』

『了解だ。無事か?』

『左腕を失いました』

 

 報告しつつ窓から飛び降りると、ちょうど真下で二対一の銃撃戦が行われていた。

 その後に続き、米屋も飛び降りて木虎の後を追いかける。しかし、それは木虎も読めていた。落下しながらハンドガンの銃口を米屋に向ける。

 

「そこ!」

「旋空!」

 

 一騎打ち、しかし引き金を引くだけの銃と、腕から動かさなければ威力は発揮できない孤月では、間合いに差があった。

 しかし、他のメンバーがそれをそのままで終わらせるつもりが無いのは、当然であった。

 

「槍バカ、盾張れ!」

「誰が槍バカだ、弾バカ!」

「充、カバーだ!」

「了解!」

 

 出水がアステロイドを飛ばし、木虎は構わずに米屋に弾丸を浴びせ、米屋はフルガード。時枝が木虎をカバーし、嵐山は出水に銃口を向け、出水はそれは気付いてシールドを展開。

 この一瞬のやり取りの直後、屋根から四つの光が夜の街を灯した。突き刺さる四発の弾丸。一発は時枝の頭、一発はギリギリ反応した木虎がガード、そしてもう二発はその場で戦闘していた全員の頭を通り越し、光った一箇所に向かった。

 直後、二つの光の柱が立つ。時枝と古寺が緊急脱出したものだ。

 

「⁉︎ 充!」

「すみません、嵐山さん。先に落ちます」

 

 時枝を撃ち抜いた射線の奥を見ると、当真がイーグレットを構えていた。

 

「……当真か」

 

 冷静にビルの上を見る嵐山の隣に木虎が着地し、出水の横に米屋が着地する。

 

「おいおい、古寺はやられたのか?」

「ぽいな。佐鳥か?」

『まぁまぁ、俺が来たんだし良いじゃねえの。佐鳥の場所も割れたしな』

「すみません、嵐山さん」

「いや、気にするな。結果的に、賢を仕事出来る場所まで逃がせた」

 

 そう言いつつも、嵐山の額には汗が流れていた。

 

 ×××

 

 三輪のレッドバレットを、海斗は民家の塀を殴り壊してレンガで相殺する。ゴトリゴトリ転がる黒い重しを飛び越え、海斗は回転しながら飛び後ろ廻し蹴りを放つ。

 それをバックステップで回避しつつ、アステロイドを乱射した。弾が当たる個所をピンポイントで海斗はスコーピオンを生やして弾き飛ばして着地すると、スラスターを使ってブレードを投げた。それを三輪は横に回避し、低姿勢に身体をかがめ、両足を大きく広げ、上段に一発、半回転して腰に銃を構えて中断に一発、さらに横にスライドするように半回転し、さらに下段、中段、上段と一発ずつ弾いた。

 それに対し、近距離のままスコーピオンを振るったガードと前方への宙返りで回避する海斗は、最後の上段への一撃は下から銃を掴み上げ、銃口を空に向けることで回避した。

 腰の前で握りこぶしを作ると、先端にスコーピオンを出し、ボディブローを放つが、三輪は孤月を地面に突き刺してガードした。海斗の一撃は片手では防げないため、地面に固定する他、無かった。

 

「……お前は体操でもやっていたのか?」

「独学」

「本物の、化け物か!」

 

 海斗の拳を膝で蹴り上げて退かすと、突き刺した孤月を下から斬りあげた。それも、旋空を用いて地面を大きく抉り飛ばして。

 バゴッと派手に道路が変形したが、派手な技の隙を地味に突くのが海斗の特技だ。

 地面に両手を着け、肘と膝を折り曲げ、足の裏の照準を三輪の身体に向ける。

 

「よっこい、しょーいち!」

 

 両腕で自分の身体を押し出し、下からのドロップキックが三輪の胸に直撃する直前、ギリギリ孤月でガードした。

 後方に大きく飛ばされながらも、三輪は海斗の足を狙って鉛弾を叩き込む。足元に黒い重しが大量に出来つつも、ピョンピョンと跳ねて回避しながら距離を詰めた。

 

「ッ……!」

 

 しかし、その海斗の攻撃に対し、カウンターを放った。孤月の一閃が海斗のボディに向かい、それを後ろにバク転する事で回避し、距離を置いた。

 

「お前、旋空なんか入れてたか?」

「入れたんだ。お前のようなバカを相手にする時のためにな」

「そりゃ厄介だ」

「それは良かった」

 

 今度は三輪から仕掛けた。ハンドガンの牽制を放ちつつ、孤月を振るう。それを後ろにそり身で回避しようとしたが、慌ててしゃがんだ。ブレードの長さが微妙に長く、しゃがまなければ胸を薄く斬られていた。

 

「っ……!」

 

 途中から急転換でしゃがみ回避をしたため、姿勢が万全ではなかった。その隙を突いて、三輪の蹴りが海斗の顔面に向かう。

 右腕を折り曲げてガードしたものの、大きく蹴り飛ばされた。空中に身体が浮いた海斗に、三輪はアステロイドを放つ。

 

「シールド」

 

 眼前にシールドを広げて弾丸を何とか防いだ。おそらくだが、まともに海斗がシールドを使ったのは初めてのことだ。

 海斗が着地すると共に、三輪は再び孤月を振るう。孤月の長さを見誤ったか? と海斗は普段のギリギリの間合いから少し外して回避した。

 しかし、長さは元に戻っている。

 

「……?」

 

 眉間にしわを寄せている間に、三輪が再び孤月の二撃目を放った。今度の一撃は、また若干、ブレードの長さが変わっていた。それにより、再び大きく回避する羽目になり、あとからバイパーが襲い掛かってくる。

 

「チッ……テメェ……!」

 

 それを両手で斬り払っている間に、三輪は再び距離を詰めてきた。

 三輪の攻撃は、旋空孤月の応用だった。旋空孤月は効果時間とブレードの伸縮が反比例し、普通のアタッカーは効果時間を1〜2秒にして17メートル伸ばしているのに対し、三輪は効果時間を長くさせてブレードの伸びを10〜20センチほどにしていた。

 ガンナーの間合いで戦う場合にはあまりに意味が無いが、アタッカーの間合いで戦う際に、一振りごとに長さの変わる攻撃は鬱陶しいこと、この上ない。特に、カウンタータイプのような間合いが重要な相手にとっては。

 

(しかし、まさかここまで綺麗にハマるとはな……)

 

 勿論、海斗用に入れていた戦法であり、さっき派手に旋空を使う事でこの使い方をカモフラージュしていたわけだが、モロに引っかかっていた。そして、バカはこんな旋空の使い方があるとは思わないだろう。だってバカだから。

 その中に、さらにアステロイドを組み込まれていて、海斗はしばらく引き気味に戦う他なかった。

 

 ×××

 

 迅は太刀川、歌川、菊地原の三人がかりの攻撃を一人で凌いでいた。正確に言えば、奈良坂も入れて四人がかりだが、それも含めて予知を全開にして使い、攻撃を受けつつ、斬撃を放つタイミングを伺っていた。

 

「どうした、迅! いつまで逃げ腰になっている!」

「なはは、そう言われても四人がかりじゃね……。一対一でやらない?」

「そいつは無理な相談だな!」

 

 ノリに乗ってる太刀川の猛攻を凌ぎつつも、他の二人からも目を離さない。回避とガードを織り交ぜて距離を保ちつつ、違和感の正体を探っていた。いや、その正体はすでに掴んでいる。

 三人があまりに深入りして来ない事だ。迅のカウンターを再警戒し、かといって風刃の有効距離までは離されないよう、適正な位置を保っている。

 狙いは分からないが、予知のお陰で絞り込むことは出来た。あり得るのは、カメレオンを用いての奇襲。しかし、予知を使うまでもない戦法だ。それはない。

 となると、他の戦法は一つしかない。

 

(……あれをやられると、かなりしんどいな……)

 

 その前に、一人くらい片付けておきたいものだ。太刀川はついでで倒せる相手ではない。つまり、菊地原か歌川の二人だが……すぐに標的は決まった。

 

「……海斗みたいな真似するのは、後で怒られそうな気もするけど……!」

 

 つぶやきながら薄く微笑んだ迅は、三人の即席とは思えない連携の一瞬の隙を突いて、強引にその場から後方に大きく飛び退いた。

 

「逃すな!」

「分かってますよ」

 

 三人の連携は、誰か一人が迅にくっ付き、とにかく風刃の遠隔斬撃を使わせず、互いにフォローし合うのが目的だ。

 別の部隊のアタッカーが即席の連携を組んでいるため、誰がくっ付く役割を果たすかは決まっていない。そのため、臨機応変に各々が迅にくっ付かなければならない。

 今回では、菊地原が一番、近かったため、退がった迅にくっ付いたのは菊地原だった。しかし、それが迅の狙いだった。

 菊地原の攻撃を予知で回避しつつ、迅は合計五発の斬撃を飛ばす。それは誰かを狙ったものではなく、一発は菊地原一人と太刀川と歌川の間に大きな亀裂を生ませるため。そして残りの四発は、左右の民家を狙ったものだ。

 

「「「!」」」

 

 それにより、1対4だった戦闘は二軒の一軒家の瓦礫によって、一瞬で1対1になった。

 菊地原はA級隊員に恥じない剣技を持ち、ボーダートップのアタッカーの連携を持つ風間隊のキーマンでもある。

 しかし、それでもソロ総合一位の太刀川と互角の実力を持つ迅悠一には敵わない。

 

「ッ……!」

「よし、1人」

 

 菊地原の身体をブレードで両断し、緊急脱出させた。

 直後、崩した瓦礫の山が爆発する。歌川のメテオラによって一瞬でも道は開通したが、菊地原は既にこの戦場にはいない。

 

「悪い、風間さん。一人やられた」

『気にするな。こちらの準備は八割ほど終わっている』

「了解。じゃ、少し早いけど始めようか」

 

 強引に吹っ飛ばされた民家の残骸の奥から、太刀川と歌川が姿を表す。

 

「遅かったね、太刀川さん」

「余裕をこいていられるのもここまでだ、迅」

「風間さんがワイヤーを広げて待ってるから?」

 

 あっさりと考えを見抜かれ、太刀川は思わず黙り込む。その反応を見て、予測確定、と確信を持った迅は、にやけ面のまま続けた。

 

「悪いけど、ワイヤーの中には入らないよ。何処に敷いてるのか、大体は分かっているし」

 

 迅は常に未来を見続けているが、その中でも基本的には確率の高い未来を重視する。というより、確率の低い未来はお子様かバカしか選ばない。

 目の前の太刀川もバカではあるが、それは学力の話であって戦術面はスパルタ幼馴染によって鍛えられている。

 しかし、である。逆に言えば、迅の裏をかくにはバカになれば良い。

 

「一つ間違ってるぞ、迅」

「?」

「風間さんはワイヤーを広げて待っているわけじゃない」

 

 そこまで言うと、今度は太刀川が邪悪に微笑む番だ。

 

「もう、ワイヤーを広げ終えてる」

 

 直後、真上から。キラリと光るブレードが叩き付けられ、間一髪で後ろに飛び退いた。

 しかし、踵が何かに引っ掛かり、思わず後方に転びそうになるのを受け身をとって片膝をついて構える。

 

(……まさか)

 

 辺りを見回すと、既にワイヤーを張られていた。民家の壁や屋根、至る所に張られている鋼線が視界に入る。そして自分を強襲した風間は、ジャンプすると空中に着地した。いや、正確に言えばワイヤーの張られた箇所に立っている。

 

「……まさか、この短時間で張り終えたの?」

「時間が無いからワイヤーの配置を計算するには至らなかったがな」

 

 意外だった。風間は理詰めした動きをする人だ。ワイヤーにしても、テキトーに張ることはせず、罠を仕掛けるなり、味方が使いやすいように計算して配置をする人だ。

 

「誰に習ったのさ、その雑さ」

「今、三輪と戦闘しているバカだ」

「……ホント、余計なことばかり教えるよなぁ……」

 

 そう言いつつ、ワイヤーの位置を把握する。確かに乱雑に張られているものの、A級部隊のアタッカー達なら難なく使いこなせるだろう。

 ここから先、見える未来の中には、ワイヤーによって自分が敗北するパターン見えている。

 

「……さて、迅」

 

 仲間が一人堕とされたというのに、両チームの状況は変わらない。むしろ迅が不利になっていた。

 

「形勢逆転だ」

 

 そうほくそ笑むと共に、太刀川は腰の二刀流を抜いた。

 

 ×××

 

 三ヶ所での戦闘は、あまり好転したものではなかった。当真の参戦により、防戦一方の嵐山隊、風間のらしくないテキトーなワイヤーの配置により、風刃の残弾を五発残したまま防戦一方の迅。このままでは全滅する可能性も少なくない。

 そんな現状をクールなオペレーターから聞かされた海斗は、微妙に伸びたり縮んだりする孤月の猛攻から距離を置き、壁沿いに隠れていた。

 

『お前さ、もう少しポジティブな情報は出せないの?』

『仕方ないでしょ。嘘言ったって意味ないもの』

『チッ……』

 

 おそらく、今の情報は他の箇所の戦闘にも伝わっている事だろう。どこかで逆転の火蓋を落とさないと、勝ち目はない。

 

「……仕方ねえな」

 

 小さくため息をついた直後、自分の元に弾丸が降り注ぎ、後ろにバク宙しながら回避した。壁沿いの屋根の上で三輪がハンドガンをこちらに向け、冷たい目で見下ろしている。

 

「遊びは終わりだ、海斗」

「こっちのセリフだっつんだ、ボケ」

 

 海斗は姿勢を低くして、片手を地面に着けた構えのまま三輪を睨みつけた。空閑を助ける、そのために三輪とは敵対する、そう決めた時点で遠慮は無用だ。

 三輪からの斬撃を回避しながら、三輪の立っていた家と向かいの家の塀を破壊して転がり込んだ。

 

「……?」

 

 その行動に、三輪は疑問を抱いた。あのバカが、こんな風に逃げるなんてあり得ない。小さい脳味噌なりに、何か策があるのだろうか? 

 そう思ったのもつかの間、海斗はすぐに屋根の上から顔を出した。その癖、仕掛けてくる様子はない。

 

「何の真似だ?」

「いや何。なんか俺より高い位置にいられたのがムカついたから」

 

 相変わらずふざけた態度で戦闘を行う奴だが、海斗はいつでも自身のノリと気分で戦法を変える奴だ。それがなんだかんだベストであることが多いのだから、真面目な三輪には余計に癪に触った。

 別の一軒家の屋上で、道路を挟んで向かい合った二人は、油断無くお互いを見据える。三輪も不用意にハンドガンを向けることはしなかった。どうやら、海斗は本気になったようだ。今までが本気では無かったわけではなく、エンジンが温まってきた頃、と言うことだ。

 ひゅうっと二人の間に風が吹く。肌寒さが残るはずの季節だが、トリオン体の二人にはそんなもの関係ないはずだった。

 しかし、何処かお互いに背筋が伸びるような寒気がする。武者震いにも似た振動が身体を襲っていた。

 呼吸を整え、心身ともに充実させ、殺意を高める。ここから先は、泥沼の戦闘になりそうなものだ。

 

「……」

「……」

 

 直後、お互いにニヤリと笑い、三輪がハンドガンをぶっ放し、海斗はブレードモードのレイガストをぶん投げた。

 アステロイドを弾き飛ばしながら自分に向かってくるレイガストを旋空で弾いた直後、海斗はジャンプして一気に襲い掛かった。

 海斗のかかと落としはバックステップで回避され、屋根に大きなクレーターが形成され、瓦が反動で宙に浮く。

 三輪が容赦なくハンドガンを海斗に向けて乱射する中、海斗はその場で浮き上がった瓦を殴って三輪に叩きつける。

 近距離で飛び道具である通常弾と瓦がぶつかり合い、若干煙が舞い上がる中、そこから先に仕掛けたのは三輪だった。微妙に伸ばした旋空を振るい、海斗のカウンター封じに掛かる。

 その攻撃に対し海斗は、ジャンプして避けることで対応してみせた。前後に避けられないのなら、上下に避けるまでである。

 しかし、三輪は海斗と違ってバカではない。自身の微旋空(仮名)の弱点は分かっていた。腰に構えたハンドガンは空中で身動きの取れない海斗に向けられている。

 

「死ね」

「テメェがな」

 

 ハンドガンから放たれる銃撃。アステロイドが三発、海斗に襲い掛かる。

 普段の海斗であれば。シールドを使い忘れ、一部では「回避厨」とまで称されているバカであれば、無理矢理、身を捩って回避して距離を取ったことだろう。

 今日は違った。空中の海斗は身体を横に傾けながらラリアットを繰り出した。

 アステロイドの全てが腕に直撃し、海斗の右腕には三つの穴が開いて針金細工の人形のようになる。

 だが、そのズタボロになった腕はスコーピオン製の光の腕に切り替わった。

 

「しまっ……!」

 

 振り抜かれるスコーピオンラリアット。辛うじて孤月をしまってシールドを張ったが、勢いと威力が違う。軌道をそらす程度にしかならず、脇腹とハンドガンを構えていた腕の肘を持っていかれた。

 

『警告。トリオン漏出甚大』

「チッ……!」

 

 落ちていく腕から力が抜け、ハンドガンが落ちる。それを反対側の手で握り、抉られた脇腹から銃口を向けた。

 

「!」

「勝ち逃げなどさせるものか!」

 

 再び襲い掛かる弾丸に対し、海斗は空中に身体を捩りながら浮かせて回転して回避する。

 しかし、弾丸は軌道を変えて、海斗を追うように真横に直角に曲がった。

 

「テメッ……!」

 

 海斗の胸を貫通したがギリギリ、トリオン供給機関は外れた。

 

「……チッ」

 

 無事でいる海斗を見て、三輪は小さく舌打ちをした。自分のトリオンはもう残っていない。どうやら、ここまでのようだ。

 顔にヒビが入っていくが、緊急脱出まではまだ時間がある。

 

「……海斗、聞かせろ」

「何?」

 

 声を掛けると、海斗は腹立つドヤ顔で片眉を挙げた。やはり鉛弾をブチ込んでやりたくなったが、グッとこらえて続けた。

 

「……お前だけは分かるはずだ。近界民の危険さや脅威が。何故、そこまでしてあの近界民を庇おうとする? お前が両親のことを好きじゃなかったからか?」

「あ? なわけあるか。両親が死んで、苦労する所は苦労したんだぞ。炊事洗濯掃除に家計の節約、親の会社の社員の突撃、学校での同情の視線……家族が二人減っただけで、労力は前の倍以上だったんだから」

「……なら、何故だ?」

 

 心底、怪訝そうな顔を向けられる。海斗は真顔のまま答えた。

 

「あいつはあいつで苦労してんだよ。親父が死んだり、向こうではずっと戦争やってたりと、とにかく色々。あいつが俺の両親を殺したトリオン兵を送り込んできた星の国民とは限らねーし」

「っ……!」

「それにほら、復讐心に覆われるとロクなことがないだろ? ジャンプでも大体、悲惨な事になってるし」

「……」

 

 最後の一言が余計だったが、海斗が本気である事は十分に理解した。反論してやりたいところはいくつかあったが、もう時間切れのようだ。顔全体に亀裂が走り、今はもう一言しか告げられない。

 

「ならば、守ってみせろ。遠征組から、近界民を」

 

 それだけ言い残し、三輪はその場から緊急脱出した。飛んで行った三輪を見上げて、海斗は一言呟いた。

 

「……言われるまでもねえよ、バァカ」

 

 

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