ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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本当の友達には本音をぶつけろ。

「ふぅ、三輪は倒した」

『お疲れ様』

 

 通信越しに報告すると、氷見から労いの言葉が返ってくる。こういう時は素直に声を掛けてくれるのは嬉しい。

 

「で、どうすれば良い?」

『嵐山隊も迅さんもあまり良い状況じゃないから、どちらかの援護に向かった方が良いと思う』

「どちらかっつってもな……」

『なら、こちら側に来れる?』

 

 割り込んで来たのは綾辻の声だ。

 

「なんで?」

『迅さんが、二手に別れた以上は援軍をよこさないように言ってたから』

 

 迅のプランBは風刃のみでA級の遠征部隊を蹴散らし、風刃の価値を引き上げる事だ。それによって、遊真の入隊を引き換えに風刃を差し上げるつもりだ。

 そんな事情を海斗は理解していないが、まぁ本人が「来るな」と言うならそれで良いのだろう、と判断した。

 

「じゃ、今からそっちに向かう」

『了解』

『場所はマップにマークしておいたから』

「ども」

 

 氷見の案内の元、次の戦場へと駆け出した。

 

 ×××

 

『迅さん、陰山くんが三輪くんを撃破しました』

「りょーかいりょーかい」

 

 ワイヤー陣の中、太刀川達の猛攻を回避する。サイドエフェクトを持つ菊地原を落とせたのは良いものの、やはりアタッカー達の連携は厄介なことこの上ない。

 予知が無ければ何回死んでるか分からない猛攻の中、この先の対策を練り続けた。この中で一番、厄介なのは太刀川だ。攻撃に関して、やはり1番、鋭く首を取りに来てる。旋空によって風間が張ったワイヤーを切り裂くのも御構い無しなあたりがまた厄介だ。

 それを上手く立ち回っているのが風間だった。太刀川が切ったワイヤーを上手く補強しつつ、サポートと攻撃を交互に織り交ぜている。

 風間を倒せれば、彼らの攻撃力と機動力は大きく削れるのだろうが……しかし、三人がかりの中、風間を先に倒すのは無理だ。奈良坂の狙撃もあるし。

 

「……やっぱ、順番にやるしかないか……」

 

 そう呟くと、迅は風間の攻撃を回避しつつ風刃のうちの一発を解き放った。その一発は太刀川を狙ったもの。

 複数のワイヤーを巻き込んで襲い掛かる斬撃を、シールドを貼りながら後ろに下がって凌ぐ太刀川。

 

「っ……!」

 

 その隙に、風間と歌川が前後で迅を挟んで襲い掛かるが、背後の歌川の方が若干、早い未来を予知し、一閃が自分に直撃する前に手首を掴んで風間の方に引き寄せた。

 風間に歌川を叩きつける事に成功したが、風間の一撃は受けきれず、片腕を持っていかれる。

 

「チッ……!」

 

 風間の身体は後方に大きく飛ばされたが、歌川は風間に受け止められ、迅の目の前に着地する。

 

「このっ……!」

「待て、歌川!」

 

 今、迅に距離を取られると、まずやられるのは風間だ。張り付くのは一番近い自分の役目、と歌川は理解していた。

 しかし、そもそもの地力が違う。歌川の攻撃を全て凌いだ後、横に斬り払った。ガードし、真横に飛び退いてワイヤーの上に着地しようとする歌川だったが、そのワイヤーがブツッと切れる。

 

「っ⁉︎」

 

 足元が急に無くなったことにより、姿勢が一気に崩れた。その隙を逃す迅ではない。一気に距離を詰めて斬りかかったが、その前に太刀川が立ち塞がり、迅の一撃をガードする。

 

「そう簡単にやらせると思うか?」

「もうやったよ」

「⁉︎」

 

 直後、真後ろで小さな爆煙と光の柱が本部に向かう。どうやら、太刀川がガードした一撃から斬撃が放たれていたようだ。

 

「……チッ」

『太刀川、そのまま抑えていろ』

 

 カメレオンによって姿を消していた風間が、スパイダーを使って高速で迅の背後に回り込み、蹴りを放っていた。

 しかし、それに対してしゃがんで回避してみせると、太刀川の足元に足払いを仕掛け、自身の周りに残りの四発分の風刃を全て解き放った。

 

「っ……!」

 

 それにより、大きく飛び退く太刀川と風間。奈良坂が狙撃をするが、迅はそれを回避しながら風刃のリロードを行なった。

 

「ありゃあ……まぁ、片腕は取れたし良しとしますか」

「だが、こちらも俺とお前と奈良坂しかいない」

 

 ゴリ押しでいけば勝てるというものでもない。特に、迅が相手では尚更だ。

 

『……太刀川、ここから先はワイヤーは狙わない。そのままいくぞ』

『りょーかい』

 

 本来であればじっくりワイヤーを張って慎重にいきたいとこだが、歌川、菊地原を失った今、そういうわけにもいかない。

 それに、迅の片腕も奪ったし、距離を離されて遠距離に徹しられるくらいなら詰めて二人掛かりで攻めた方が良い。

 二人掛かりで地面を蹴った二人に対し、良くも悪くも考えを読み取れないにやけ面の迅は構えを取った。

 

 ×××

 

「あ? 三輪が落ちた?」

 

 そう声を漏らしたのは当真勇。ボーダー内トップの狙撃者であり、A級2位部隊である冬島隊の隊員である。

 

『はい。あのバカ、柚宇さんによるとこっちに向かってるらしいから気を付けて』

 

 出水から返事が来て、当真は「はぁ?」と声を漏らす。

 

『マジかよ。つか、なんでこっち来てるって分かったわけ?』

『あいつ、よくバッグワームすんの忘れるんですよ。途中で気づいて羽織ったからこっちに向かってるのは確実です』

『なるほどな……。じゃ、あのバカが来る前に終わらせた方が良いわけか』

『そうだけど、一応警戒してくださいよ。あいつ、何してくるか分かりませんから』

『おう』

 

 はっきり言って、嵐山隊を追い込むのは簡単だ。時枝がいれば話は別だが、嵐山と片腕のない木虎では、バカの感染によってパワーアップした二人とは撃ちあえない。

 その上、当真は冬島がいるからワープが可能だが、佐鳥はそうもいかないため、当真を確実に抑えられる時に撃たないと一発撃ってアウトである。

 

『……おーい、当真……』

『お? どうした、隊長?』

『吐きそう……。もう無理……』

『いやいや、せめて佐鳥の野郎を落とすまでは働いてくれねーと困るぜ』

『うおっぷ……くっそー、俺は来たくなかったってのに……太刀川の野郎……』

 

 そんな話をしながら、当真は狙撃地点に到着した。スコープから覗いて眺める相手は、嵐山の頭だ。手負いの木虎は後回しだ。

 狙撃手は攻撃の直後が一番の隙。周囲にバカがいない事を確認し、引き金を引き絞ろうとした時だ。

 

 ──ーボバッ、と。壁を突き抜けたアイビスが自身の身体を吹き飛ばした。

 

「──ーっ⁉︎」

 

 唐突な狙撃、それも佐鳥ではない。しかし、佐鳥以外に狙撃手なんているはずがない。

 そう思って自分を射抜く前にブチ抜かれ、大きな穴の空いた床に目をやると、ボーダー内でおそらく一番、狙撃手用トリガーの似合わないバカが、当真のいたマンションの真後ろの道路から自分を見上げていた。

 

「……おいおい、嘘だろ」

『どうした? 当真』

「隊長、すぐに出水達に知らせてくれ。ありえねー奴が狙撃を……!」

 

 そこで、当真は緊急脱出し、最後まで報告を伝える事は出来なかった。

 

 ×××

 

「はぁ⁉︎」

「当真さん⁉︎」

 

 突然の味方の緊急脱出に、出水も米屋も顔を上げる。何が起こったのか分からない。佐鳥に撃ち負けたとも思えないし、嵐山と木虎も「誰だ?」と言わんばかりに眉間にしわを寄せている。

 

「綾辻、誰だ?」

『……言っても信じないと思いますが……一応』

『俺だよ、嵐山』

 

 割り込んできたその声に、嵐山は眉間にしわを寄せ、木虎は心底嫌そうな表情を浮かべた。

 そんな事、知る由も無い通信相手は、ものっそいイケメンボイス(のつもり)で続けた。

 

『冴羽獠だ』

『バ陰山バ海斗です、嵐山さん』

 

 氷見の的確な翻訳が水を差した。

 

 ×××

 

 そもそも、海斗がアイビスを握ったのは、迅が何気無く漏らしたセリフがきっかけだった。

 黒トリガーをクビになって間も無い頃、小南と元気に殴り合いをしてヘトヘトになった海斗に向けて告げた一言だった。

 

『そういや、海斗って警戒さえされてれば敵の姿が見えるのなら、アイビスで壁抜きとか練習してみれば?』

 

 それを早速、二宮にも相談すると、意外な事に二宮も同じことを考えていた。

 四人編成でありながら狙撃手という射程持ちがいないのは弱点になり得るが、バカのサイドエフェクトを利用した壁抜きスナイパーとなれば、かなり有利に立てる。

 早速、二宮隊の訓練室で試し撃ちをしてみたのだが……。

 

『ヘタクソめ』

『ヘタだな〜』

『ヘタ過ぎない?』

『ヘタ男』

『お前らもう少しオブラートに包めよ‼︎ 二宮さん以外!』

 

 当然のキレ方をした海斗だが、実際、ヘタなのだから仕方ない。何日か練習してみたが、動く的だけはどうにも当てられなかった。

 

『犬飼、テメー教えろよ』

『銃手と狙撃手じゃ全然、違うよ』

『辻、なんかコツとか知らんの?』

『俺、そもそも銃を使わないから』

『氷見』

『なんで私に振るの。戦闘員ですらないのに』

 

 と、四人が頭を抱えていると、二宮が口を挟んだ。

 

『……いや、陰山。動かない的で良い』

『へ?』

『よく考えれば、お前の狙撃が切り札になることなんてない。俺やアタッカーとしてのお前がいれば切り札は十分だ』

『じゃあなんで言ったんですか』

『お前はスナイパーキラーになれ』

『……はい?』

 

 戦闘中、定期的に必ず動かなくなるポジションがある。それは狙撃手だ。撃った後、狙撃地点を変えたりと走る必要もあるが、狙撃の直前は自身の身体は止まる。

 つまり、そもそも動く的を当てられるようになる必要がない。自分に対し、警戒心を抱いている狙撃手を撃ち抜く時だけ、狙撃手になれば良いだけだ。その他の場合はアタッカーをすれば良い。

 

『ある意味、お前に対し警戒心を抱かない奴はいない。お前は狙撃手対策に使える』

 

 そう言って、二宮は海斗に狙撃の練習をさせた。まぁ、持ち前のセンスの無さや壁抜きの練習などによってかなり時間がかかったし、実戦で使ったことも無いのだが。

 しかし、たった今実戦で使える事は証明された。誰もが思わず足を止めた中、ゆっくりと当真が緊急脱出したマンションの下から、のんびりと歩いてくるバカの姿が見えた。

 そのバカの両手にはアイビスが握られ、胸前で構えたまま真っ直ぐと歩いてくる。

 

「……次の標的を捕捉。処理を開始する」

『一発で決められて舞い上がって格好つけるのは結構だけど、勝手にアイビス使って二宮さん怒ってるからね』

「……」

 

 冷たいオペレーターからの指摘が入り、一気に冷や汗を浮かべる海斗だった。よほど、大きな戦闘が無い限り、次のランク戦でお披露目の予定だったのを、まさかこんなバカな戦闘で使ってしまったのだ。

 

『ま、まぁでも、実戦で使える事も分かったし……え? 二宮さん? いえ、甘やかしてるわけでは……あ、は、はぁ。帰ったら説教、ですか』

 

 なんか怖い事を言ってるので、一方的に通信を切った。これ以上は聞きたくない。

 さて、改めて出水と米屋に目を向ける。片手をヒラヒラと上げて挨拶した。

 

「よう、出水。久しぶりだな」

「おう、海斗。三輪とのデートは済んだのか?」

「急用あったみたいで帰られたよ」

 

 アイビスをしまいながら、出水の軽口に付き合う。そんな海斗の表情を見て、米屋がひくっと頬を引きつらせた。なんか怒ってるからだ。

 

「か、海斗? なんかキレてね?」

「良いか、米屋。俺は今から自分のことを棚に上げてお前に八つ当たりするぞ」

「は?」

 

 棚に上げる、なんて難しい単語知ってるんだ、と木虎が密かに思ったのはさておき、海斗はクラウチングスタートの姿勢を取った。

 ヤバい、と本能的に察した出水は米屋から一歩離れ、嵐山と木虎は道を開けた。そんな中、米屋は何となく言うことを察したようで、孤月を構える。

 地面を蹴った海斗は、途中でジャンプし、空中で2〜3回転ほどすると、右足を真っ直ぐに米屋に向かって伸ばし、左脚の膝を曲げて綺麗なライダーキックフォームになった。

 

「テメェがハナっから誤解を解いときゃ、こんな事になってなかっただろうがァアアアア‼︎」

「本当に棚あげてんじゃねえかああああ‼︎」

 

 米屋も同じように槍を持って突撃し、二人の足と槍が交差した時、迅の方の決着がついて作戦は終了となった。

 

 ×××

 

 ボーダー本部の会議室では、上層部が揃っていた。塩ラーメン大好きな林藤支部長を除いたメンツが顔を合わせている。

 

「どういうつもりじゃ、忍田本部長!」

 

 デスクに拳を叩きつけ、怒声をブチまけるのは鬼怒田開発室室長だ。普段から割と怒りっぽい人だが、今日の怒りはそれらを遥かに上回っていた。

 

「嵐山隊と陰山を使い、任務の妨害をするとは! ボーダーを裏切るつもりか⁉︎」

「『裏切る』……?」

 

 烈火のごとき鬼怒田の怒りに対し、水面の波紋のように静かな怒りを広げている忍田が、ジロリと鬼怒田をにらみ返す。

 

「論議を差し置いて強奪を強行したのはどちらだ?」

「……!」

「もう一度言っておくが、私は黒トリガーの強奪には反対だ。これ以上、刺客を差し向けるつもりなら、この私が相手になるぞ」

 

 忍田はA級一位太刀川に剣を教えた師匠、つまりボーダー本部においてノーマルトリガー最強の男だ。

 こうなれば、強硬策よりも懐柔策が必要だと唐沢が頭の中で自分なりに損得計算を行なっていると、城戸が机に置いた手を組みながら、平然と言った。

 

「なら、次の刺客には天羽を使う」

「⁉︎」

 

 天羽月彦は迅と同じS級隊員であり、単純な戦闘力では迅ですら凌ぐ少年だ。そんな奴が相手では、忍田と迅が組んだところで勝てるかどうかはわからない。

 

「城戸さん……街を破壊するつもりか……⁉︎」

 

 奥歯を噛み締めながら忍田が城戸を睨め付けている時だ。会議室の扉が開いた。

 

「どうもみなさん、お揃いで。会議中にすみませんね」

 

 顔を出したのは、迅悠一だった。やってきた理由はたった一つだ。自分の後輩の入隊と引き換えに、自分の師匠を手渡しに来た。

 

 ×××

 

 一方、その頃。二宮隊の作戦室では、海斗と三輪が来ていた。二人は仏頂面のまま、氷見の淹れたコーヒーを前に黙り込んでいる。

 何か話さなければならないのだが、二人して何を話せば良いのか分かっていなかった。一体、どこまで不器用なのか。

 一応、二宮と氷見と月見が付き添ってはいるものの、なるべく口出ししないようにしている。本人達のためにならないからだ。

 

「……」

「……」

 

 しかし、このままでは話が進まないのは目に見えていた。仕方ないので、二宮が口を挟んだ。

 

「おい、バカ」

「っ、な、なんですか?」

「俺は帰る」

「帰るんですか⁉︎」

 

 まさかの返答に思わずツッコミを入れてしまう海斗だが、二宮は本気で帰るつもりのようだ。上着を羽織り、席から立った。

 

「そうね。私達がいてもお邪魔みたいだし」

「氷見、帰るぞ。送って行く」

「え? あ、は、はい……」

「え、本当に帰るの?」

「お前達も早く帰れよ」

 

 本当に三人とも帰ってしまった。実際、ここまでほとんど二宮ありきでここまで来たため、これ以上、手間をかけさせるのは男として情けない。

 さて、そんなこんなで二人になった。そんな部屋の中で、シン……と静まり返った空気の中、三輪の方から口を開いた。

 

「……仲良いんだな、二宮さんと」

「え?」

「あの人、気難しい所があるから、お前とは絶対に衝突すると思っていた」

「あー……いや、俺の中では飯奢ってくれた人は友達みたいなとこあるから……」

「そ、そうか……」

 

 自らのチョロい宣言に少し引きつつも、三輪も三輪で会話が出来たことにホッとした。

 今度は海斗の番だ。空気が柔らぎ、目を逸らしながら頬をぽりぽりと掻いた。

 

「……悪かったな」

「え?」

「お前の近界民への恨みは知ってたが……まぁ、だからこそっつーか……中々、言い出せなくてな。もっと、こう……さっさと言ってやれりゃ良かったんだが……」

「……」

 

 三輪は何も言わない。海斗の表情がかなり弱ったものだったから、文句を言う気にもならなかった。

 それに自分も割と、海斗が近界民を恨んでいる、ということを決めつけてきた節もある。冷静になって思い返してみれば、確か最初に会った時は「恨んでいない」とはっきり言っていた覚えもあった。

 

「俺の方こそ悪かったな。お前の話や態度を振り返れば、恨んじゃいない事は分かった。でも、俺は察しなかった。ボーダーには俺みたいな奴は少なくないが、どういうわけか強い奴ほどヘラヘラしたやつが多い」

 

 確かに、太刀川やら迅やら影浦やら当真やらは実力者でありながら、三輪のように近界民排除に躍起になっているわけではない。特に玉狛は全員が実力者だ。

 それが三輪には気に入らなかった。実力があるなら、何故もっと近界民排除の努力をしないのか。結局、目の前の男も同じなだけだ。力はある。才能もある。だが、舐められたままじゃ終わらないなんてふざけた理由でボーダーに所属しているに過ぎないのだ。

 

「お前も、そのうちの一人であっただけだ」

「それは違うでしょ」

「……何?」

 

 謝った癖に、海斗はハッキリと三輪のセリフを否定した。

 

「別に、真面目にやってないわけでも手を抜いてるわけでもない。みんな必死にやってんだ。お前の見えないところでもな」

 

 海斗は知っている。迅が予知を使ってあの手この手で最悪の未来を回避しようとしていることを。小南はあれだけの強さを持っておきながら、まだ腕を磨こうとしているし、影浦も部隊の戦力強化や戦術に力を入れている。太刀川と当真は……別に仲良いわけじゃないので知らない。

 

「……まぁ、俺も勿論、色々とチームのために努力してるしな」

 

 それを聞いて、三輪の脳裏に浮かんだのは、当真を撃ち抜いた床抜きだ。アタッカーが狙撃手をやるなど普通ではない。それこそ荒船とレイジくらいのものだろう。

 それをモノにするなど、相当努力したはずだ。確かに、みんながみんな手を抜いているわけではないのかもしれない。ただ、近界民を恨んでいないだけで。

 

「……」

 

 三輪は悩みこんでいるのか、顎に手を当てたまま目を閉じる。しばらく考え込んだあと、海斗に小さく微笑んだ。

 

「……まぁ、確かに近界民を恨んでいないからと言って、敵と認識するのは早計だったな」

「三輪……!」

「あんなことを言っておいて虫が良い話かもしれないが、またジャンプショップに一緒に行ってくれるか?」

「ったりめーだろ」

 

 そう言って、二人で微笑み合いながら、海斗は小さくホッとした。これで、元の関係に戻れる、と。なんだかんだ素直な性格である三輪のジャンプ作品への感想は、それはまた気持ち良いものが多い。

 早速、今度は黒バスを読んで一緒にバスケでも誘おうかと思った時だ。先に三輪が口を開いた。

 

「……これで、ようやくお前の言動を本格的に躾けられるようになるな」

「……え?」

「前から気になってはいたんだ。風間さんを毎度毎度、疲れさせているからな。遠征に行ってからは暴れん坊将軍っぷりに拍車が掛かっていたし」

「……」

「近界民を恨んでいて、荒れているものだと思ったのだが、アレが性格ゆえの行動であるなら、俺もボーダーの風紀のために尽力せざるを得ないな」

「……ごめん、俺ちょっとお腹の具合が」

「行くぞ。まずは反省文からだ」

 

 前の関係に戻ることはできなかった。

 

 


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