ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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弟子の面倒は見過ぎるな。

 クリスマスまであと少し、それが死刑執行日に感じないでもない海斗は、持ち前の鈍さですぐにその緊迫感に慣れてしまった。基本的に「まぁなんとかなるだろ」主義である海斗は、今日も呑気な顔で本部にやって来た。右手に大きめの紙袋を持って。

 

「あ、海斗くん」

「犬飼」

 

 その途中、バッタリと犬飼と遭遇した。

 

「お疲れー」

「お疲れ。作戦室までか? 一緒に行こうぜ」

「良いよー」

 

 微笑みながら頷き、二人で廊下を歩く。今日はオフだが、こうして本部で会うのは慣れたことだ。

 

「今日はどうしたの?」

「俺? いつも通り作戦室でダラダラしに」

「ああ、なるほどね」

「そっちは?」

「俺は若村くんの面倒を見に」

 

 そういえば、犬飼は香取隊のガンナーの射撃の訓練をしているのを思い出した。若村という男の事を海斗はよく知らないが、この前たまたまランク戦でやりあった時は10:0で完封勝利を収めた。

 

「あいつ、どうなの?」

「まぁ、正直、センスは人並みだよね」

「ふーん……」

「ただ、ガンナーはシューターと違って訓練すればするほど強くなれるから。若村くんの場合は、まだ発展途上なだけだよ」

「何、ガンナーって割りかし難しいの?」

「そりゃまぁ、最近はただでさえシールドが硬くなって不利なポジションになったからねぇ。それこそ、うちの隊長くらいゴリ押せる人じゃないと」

 

 そういうもんかね、と思いつつも、それにしても10:0で完封したのは何かまずいんじゃねえの、と思わざるを得なかった。

 

「ていうか、海斗くんを相手にしたガンナーは中々、キツイでしょ。SMGやARの銃撃を回避出来るのはおかしいからね」

「ふーん……じゃあ、弓場も?」

「え?」

 

 急にどうした? と言わんばかりに声を漏らした。何故、弓場の話になったのだろうか、と。

 

「ああ、今度あいつとやり合うからな」

「え……そうなの?」

「この前、喧嘩売られた」

「ああ〜……そういえばあの人もどっちかっていうと海斗くんタイプだったね……」

 

 インテリヤクザにしか見えないメガネのオールバックの強面を思い出し、犬飼は小さく冷や汗を流す。これは二宮さんには教えらんないな、的な。

 

「あの人は若村くんや俺とは全く別のタイプだよ。ガンナーってポジションでバリバリ点数稼げるから」

「ふーん……」

「気になるならログ見たほうが早いよ」

 

 それはそうか、と海斗は思うことにした。もちろん、ログの見方をいまだに覚えていない海斗は、氷見とか辻とか二宮の力を借りるほかないが。

 まぁ、海斗としては初戦の相手の情報は知らないほど喧嘩が楽しくなるし、あまり喧嘩を売られた事は、特に二宮には知られたくないため、これ以上、聞くのはやめておいた。

 

「じゃあ、若村はダメそうなのか?」

「いやーどうだろうね。結局、本人が成果出せないのは、俺には関係ないから。師匠に出来る事はアドバイスをあげることだけだからね」

「まぁ、面倒の見過ぎはそいつのためにならないしな」

「それ、海斗くんが言う?」

 

 的確すぎるツッコミに、確かに、と海斗は共感してしまった。

 

「だけど……まぁ、面倒を見てる身としては、少し気になるよね。弟子の成長が芳しくないのは」

「ああ、やっぱそういうのあるんだ」

 

 自分の弟子は優秀で良かった、と。ランク戦では、上位クラスの使い手を相手に中々に渡り合っているし、良かった良かったと腕を組んで頷く。

 そうこうしてるうちに、二宮隊の作戦室に到着した。

 

「じゃあ、この後はすぐ出掛けんの?」

「いや、若村くんの方からこっちに来るから」

「なるほど。じゃあ、この前部屋の押入れから7〜8年くらい前の遊戯王のカード見つけたから、デッキ組んでやろうぜ」

「……え、その紙袋って……」

「そう。全部持ってきた」

 

 そんな話をしながら作戦室に入った時だ。

 

「ウィス様〜!」

「……え、また来たのお前」

 

 現れたのは、黒江双葉だった。しかも、何故か涙目で。

 

「……あの、双葉ちゃん? ここ、二宮隊の作戦室なんだけど……どうやって入ったの?」

「ウィス様! 助けて下さい!」

「どうした、双葉。お前を泣かす奴は死ぬまで泣かして海に流してやるよ」

「あれれ? 海斗くん? 面倒の見過ぎはなんだって?」

 

 手の平がグルングルンに回転する中、双葉は全く無視して続けた。

 

「お願いします! 私を強くして下さい!」

「ええ……もうなったでしょ強く」

「空閑先輩に負けました!」

「……え、返り討ちにあったのお前」

 

 まさかの敗北である。いや、元々、元黒トリガー使いであり、戦争の経験値はボーダーの隊員の中でも多い方である遊真に負けるのは分からなくもない。

 しかし、こんな風に弟子に泣かれてしまえば、親バカより甘い海斗は一発でニンマリしながら言った。

 

「……よし、じゃあ今から勝ちに行こうか」

「今からですか⁉︎」

「当たり前だ! 思い出したら吉日、それがなんか凶日だ!」

「思い立ったが吉日、その日以降は全て凶日では?」

 

 などと話しながら、とりあえず作戦室を出て行った。

 その背中を眺めながら、犬飼は色々な意味を含めて盛大にため息をつくしかなかった。

 

 ×××

 

「そぉら!」

「うおっ……!」

 

 玉狛の訓練室では、遊真と小南がバチバチと斬り合っている。双月による孤月以上の一撃を、バカ正直にスコーピオンで受ける事はせず、回避と殴打によって軌道を逸らして凌いでいた。

 

「やるじゃない、随分と長持ちしてるわね」

「……!」

「けど、まだまだね!」

 

 が、それも長くは続かない。コネクターにより接続された斧によって、真っ二つに両断された。

 今ので6:4。フィフティーフィフティーの壁はまだ厚い。

 

「ふーむ……やはり互角にはどうにも持ち込めない……」

「何度も言うけど、あんただけが腕を上げてるんじゃないのよ」

「もうすこしで、こう……こなみ先輩の動きがつかめる気がするんだけど……」

「はぁ? 10年早いから」

 

 そんな話をしながら一時休憩。訓練室を出て二人でスポドリを飲み始めた。

 

「でも……なんかこの前、あらためて思ったけど、こなみ先輩ってホントに強いよね」

「? な、何よ。急に?」

「ん、いや……この前、なんか急にかいと先輩の弟子が来たでしょ? あの人、あんまたいした事なかったなって」

「あー……」

 

 実際のとこ、黒江は強い。ボーダーでもそれなりにランクは高いし、海斗の弟子なだけあって、孤月のポイントは9000ポイント代後半をウロウロしている。

 

「まぁ、言っちゃうとあの子がマスタークラスの平均レベルみたいなとこあるわね」

「そうなの?」

「マスタークラスの中でも上位ランカーとなると、全力でまぁまぁな連中は多いわよ。太刀川とか風間さんとか鋼さんとかね。まぁ、どいつもあたしには敵わないけど」

「ふーん……じゃあ、ウィスサマは?」

「かいっ……」

 

 そこで、急に頬を赤らめる小南。事情を何もかも覗き見していて網羅している癖に、遊真は微塵も気まずい話題を選んだという自覚は何一つ持たず「ほほう」と目を光らせた。

 しかし、名前を思い出しただけで頬を赤らめるとは……ウブな師匠である、と思わざるを得ない。

 そんな遊真の視線に気づいてか、小南は無理矢理、余裕な笑みを冷や汗を浮かべながら作り、腕を組んで見せた。

 

「……あ、ああ、あいつ? あいつは雑魚よ、雑魚。雑魚中の雑魚」

「こなみ先輩もツマンないウソつくんだね」

「えっ……」

「べつに、好きな人を褒めるくらい恥ずかしいことじゃないと思うけど」

「んがっ……だ、誰が誰を好きだってのよ⁉︎」

「こなみ先輩がウィスサマを」

 

 ハッキリと言われてしまった。しかし、遊真にウソは通用しない。それは分かっているため、質問された以上はどんな答えを言っても正解が伝わってしまうのだ。

 

「……ど、どうだろうね?」

「ふむ……まぁ、師匠と師匠がカップルになるのは、なかなかおもしろいから良いけど」

「か、カップルってあんた……!」

「まぁ、ウィスサマとこなみ先輩は普通にお似合いだよね」

「も、もう! やめなさいよ!」

 

 これが、師匠と弟子の関係である。良いように弟子にからかわれる師匠は、ボーダーでもあまりいないだろう。

 要するに、舐められ放題なわけであり、小南もそれを自覚してはいた。しかし、反論する余地がないのがまた辛い。

 でも、別にそんな事は些細な事だ。二宮隊(主に氷見)から聞いた話では、海斗は自分とのデートに、割と緊張しているようでデート服を買いに行ったりしたそうだ。

 少しは意識してくれている、そう思うだけで何となく嬉しくなってしまった。

 そんな時だ。バッゴーン! と何かを破壊する音が聞こえた。

 

「お、なんだ?」

「遊真、修達と合流して。それとレイジさんを呼んできて。とりまるは宇佐美を守らせて」

「りょーかい」

 

 流石、ボーダー内でも古株なだけあって、切り替えと判断はなかなかなものだった。建物に対し破壊音を立てる奴など、よっぽどのバカじゃない限りはしない。つまり、敵だ。

 警戒区域からどうやって漏れた? とか疑問は多いが、今は処理を優先すべきである。まだ戦力にはならない千佳、修を庇わせつつ、地下から一階に上がると、扉から二人のトリオン使いが入って来ていた。

 

「我らは酷道流! 本日は道場破りに参った!」

「あ、アホの子ツンデレ拳の師範、小南桐絵の弟子、空閑遊真はおるか⁉︎」

 

 来た、よっぽどのバカが。師弟揃ったバカ達が。まだ弟子には照れが残っているが。楽しそうで何よりだが、小南の苛立ちは増した。具体的に言えば、大きな音を立てるなとか、普通に入って来いとか、双葉ちゃんを馬鹿にするなとか……そして、私以外の女の子と仲良くするな、とか。

 

「紛らわしいのよ、あんたら! 普通に入ってきなさい!」

「決まってただろ」

「はい。せっかくなので黒い道着も用意したかったのですが……」

「無駄に凝らなくて良いのよ! てか戻って来なさい双葉ちゃん! 馬鹿が侵食してる!」

 

 酷い言われようだった。そんな騒ぎを聞きつけてか、レイジと遊真が顔を出した。

 

「……なんだ?」

「なにごと?」

「おはようございます! レイジさん!」

 

 気持ちの良い挨拶をする海斗に、レイジは「おう」と短く挨拶する。

 

「紛らわしい真似はするな。何しに来た?」

「だから、道場破り」

「それは、俺達とやり合うということか?」

「違いますよ。双葉がこの前、空閑に負けたっていうから、修行して出直しにきたんです」

「……なるほどな。まぁ何でも良いが、静かに入ってこい」

「うおっす!」

 

 そう返事をしつつ、自分には関係ないと悟ったレイジは、そそくさと退散した。どんな用事にしても、絶対に噛み付く奴がいるからだ。

 案の定、そいつは噛み付いた。

 

「……ふーん、弟子のためにわざわざやってくるなんて、随分と仲良しなのね。双葉ちゃんと」

「当たり前だろ馬鹿め。もう双葉は俺にとっちゃ妹みたいなもんだ」

「おお……ウィスサマがお兄さんですか? 嬉しいです! もっと構ってもらえそうですし!」

「ま、待てよ? 妹ってことは弟子じゃなく妹子?」

「遣隋使みたいですね!」

 

 いつからなのだろうか、双葉までアホが侵食し始めたのは。何があったらこうなるのか、不思議で仕方ない。

 

「……つまり、海斗。あんたロリコンだったってことね?」

「バカ言うな。俺は巨乳が好きだ」

 

 その一言で双葉の眉間にシワが寄るのだから、小南はバカと馬鹿弟子の扱いを心得ている。

 

「……ウィス様、それはどういう意味ですか?」

「え?」

「私の身体が幼児体型だと言いたいのですか?」

「そう言いたいけどその通りじゃね?」

 

 直後、海斗の鳩尾を見事に捉えたのは、双葉のボディブローだった。トリオン体で習っているとはいえ、海斗の喧嘩術を身体に叩き込んでいる双葉のボディブローは、もはや生身ではJC最強と言っても過言ではない威力だ。

 

「ふぉぐっ……な、ナイスブロー……」

「ふんっ、空閑先輩と決着つけてきます」

「もう負けてんじゃん」

「おかわりですか?」

「じ、冗談です……」

 

 地下の訓練室に慣れた様子で降りる双葉を眺めながら、小南は膝をついてる海斗に言い放った。

 

「あいかわらず師匠としてのメンツ丸潰れね」

 

 どの口が言うのか、という感じだが、海斗は小南も遊真にナメられてるのを知らないためツッコミは入れられなかった。

 

「うるせーよ。つーか何、お前何で怒ってんの?」

「ふん、別に怒ってないわよ」

 

 言えるはずない。他の女の子と仲良くされてイラついてたと。そして、自分が狼狽えていたにもかかわらず、海斗の様子から、いつもと一切、変化が感じられないのも腹立たしいなんて。

 しかし、海斗は気にした様子を見せることなく「あっそ」と答えた。

 

「それより弟子の勝負だ。せっかくだし見に行こうぜ」

「はいはい」

 

 二人で見学しに行った。

 

 ×××

 

 ステージは市街地D。遊真と双葉はそこの立体駐車場で遭遇した。二人の戦闘にはルールがあり、まず韋駄天のようなオプショントリガーは禁止。そもそも、遊真がボーダーのトリガーを慣らしている段階であるため、双葉は魔光や韋駄天といった特殊なトリガーを使っていない。

 ちなみに、遊真もスコーピオンのみでなくシールドをセットしている。少しでも公平にしたい双葉が互角ルールを設定した結果である。

 

「えーっと、じゃあやろうか」

「前までの私と思わないで下さい。本気を出します」

「え、この前は本気じゃなかったの?」

「はい」

 

 すごく悔しそうな顔で平然とウソをついた双葉に対し、流石に「つまんないウソつくね」とは言えなかった。

 そのため……。

 

「おまえ、かわいいウソつくね」

「ブッ殺します」

 

 マイルドにしたつもりが、いつのまにか地雷を踏んでいた。師匠譲りの考えの足りなささである。

 地面を蹴った双葉は、旋空を横斬りで放ちながら一気に接近する。遊真はその一撃をジャンプで回避すると、天井に足をつけて、さらに勢いを増して突っ込んだ。

 スコーピオン拳とレイガストのシールドモードがぶつかり合い、双葉の足元のコンクリートが若干、沈み込む。流石、海斗の弟子なだけあって、拳を使った一撃は重い。しかし、それは自分とて同じ事だ。

 空中の遊真に対し、下から顎にアッパーを叩き込む。それを空中の遊真は殴った勢いを使って、身体を倒して双葉の後ろに着地すると、手に置いた地面を押して両足で後頭部に蹴りを叩き込む。

 

「! スラスター!」

 

 ギリギリ見切った双葉はスラスターを使って自分の身体を無理矢理、半回転させて横にスライドしながら、跳ね上がって再度天井に着地している遊真に孤月を投げ付けた。

 天井にスコーピオンで張り付いている遊真は、下半身を振って回避しながら天井に張り付き、反撃の姿勢を整える。

 顔を向けた直後、スラスターを握り込んだ双葉が殴り込んできていた。

 

「うおっと」

 

 それも紙一重で天井に張り付いたまま回避するも、双葉の拳は天井を突き破って上のフロア、つまり屋上に上がった。

 天井には車が止まっており、それを貫通して空中でようやくスラスターの勢いを止めた。車が爆発炎上したものの、さほど驚いた様子を見せずに立体駐車場から遊真を見下ろす。

 直後、煙の中からブワッと穴を空けて瓦礫が複数、飛んできた。空中にいる双葉はスラスターを使わない限り自由落下を待つのみだ。なので、孤月を再度、手に呼び出して瓦礫を斬り伏せる。

 しかし、腑に落ちない。この瓦礫が自分に向かって飛んできたのは一発だけだ。他のコンクリートの破片は別の方向に飛んでいる。

 

(まさか……!)

 

 しまった、と双葉はハッとする。今のは自分の位置を割り出すための牽制。つまり……。

 そこまで考えが及んだ直後、煙の中から本人が飛び込んできた。マズい、と思いながら遊真の拳を孤月でガードする。

 

「グッ……!」

 

 さらに遊真の猛攻は止まらない。空中で双葉の脚を掴むと、空中逆上がりをするように背後を取りながら姿勢を崩させて舞い上がり、背中にスコーピオンを振るった。

 それもスラスターで無理矢理、姿勢を整えながらガードしようとしたが、上半身の肩口から腰に向けて表面を薄っすらとブレードが削った。

 

「このっ……!」

 

 このままではまずい、と思った双葉はスラスターを使って無理矢理、駐車場の上に落下した。

 が、勿論、遊真は逃さない。落下しながら両足の蹴りを叩き込む。ビシビシッと亀裂が屋根に広がる中、双葉は横に転がりながら回避しつつ、別の車の下に潜り込んだ。

 

「ふんっ……ギギッ……!」

 

 直後、その車が持ち上がる。それを見て遊真は突撃した。投げられる前に斬りつければ良いし、投げられても避けられる。

 案の定、双葉は投げつけてきた。それをスライディングで回避しようとした時だ。その車を双葉が爆破させた。

 

「ーっ⁉︎」

 

 何事かと思ったが、トリオン体でも爆風は防げない。ダメージがあるのではなく、衝撃を相殺できないと言うことだ。

 それでも飛ばされないよう踏ん張っていた遊真に対し、双葉が正面から斬り込んだ。レイガストと孤月のタイミングを若干、ずらしての二連撃。孤月は旋空を使ってるため、後ろに避けても直撃コースだ。

 その二発が遊真に襲い掛かる。轟音と地響きが立体駐車場全体を震わせ、屋上に十字の大きな穴が空けられる。

 

「……」

 

 やったか? と双葉が思った時だ。どすっ、と。下から小さな衝撃が的確にトリオン供給機関に突き刺さった。

 

「……え?」

 

 そのブレードは床から伸びている。床下から、片腕のない遊真がひょっこりと顔を出した。

 

「カウンターは、正当防衛拳法の基礎の基礎でしょ」

「……」

 

 だが、すぐにビュワンっと戦闘体は元の状態に戻る。それは、本来の戦闘であれば緊急脱出していた事を告げていた。

 

「……」

「えーっと、おわりでいいの?」

 

 キョトンと聞いた遊真の胸倉を、双葉は掴んだ。ふるふると震えていて、その手には力がこれでもかというほど込められている。

 ジロリと前髪の隙間から覗かれた双葉の目尻には涙が浮かべられていた。

 

「……もっかいです」

「え?」

「次からが本番です……!」

「いいけど……」

 

 しばらく終わりそうにないな、と遊真は珍しく疲れたような表情を見せた。

 

 


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