ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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褒め言葉ハイマットフルバースト。

 さて、アレから20戦目。未だに一勝も出来ない双葉の様子を眺めて、海斗は小さくため息をついた。

 

「何やってんだ、あの馬鹿……」

 

 やればやるほど勝てなくなっている。というのも、負ければ負けるほど力むからだ。動きが単調になったところでサクッとカウンターを良いように繰り返されている。

 

「あんた、なにも言ってあげないわけ?」

「バカ、なんでも俺が口を挟めば良いってもんじゃねえだろ。ここはあいつ自身が気付く場面だ」

「ふーん……ちゃんと考えてるんだ」

「あと、これはあくまでついでの理由なんだが、あいつが不機嫌な時に口を挟むといつもの三倍くらい切れ味鋭い悪口言われるから」

「あんた、がさつなのか繊細なのかわかんないわね……」

「お前には分かんねーよ、弟子……いや妹子に反抗される気持ちが」

「まずその妹子って言うのやめない? 意味わかんないし」

 

 まぁ、思ったより面白くないし、と思いながら、海斗はしばらく様子を眺めた。

 

「で? 実際、どうなのよ」

「何が」

「あの子のこと」

「あの子?」

「だから、双葉ちゃんとよ!」

 

 何を聞かれているのかいまいち分からない、なんて考えが顔に出ていたのか、いらだっている小南がとうとう、大声を張り上げた。

 

「だ、か、ら! あの子と付き合ってるのかって聞いてるの!」

「なわけねーだろタコ」

「……なら良いわ」

「や、つーかお前ホント何で怒ってんの?」

「何でもないわよ」

「何でもないことないでしょ」

 

 言われて「うっ……」と言葉を詰まらせる。しかし、さほど興味のない海斗は真顔のまま訓練室の中を見ているままだ。双葉なんかもう涙目になっているので、さすがに見ていられなくなってきた。

 

「……そ、それは……あんたが他の女の子と」

「ったく、仕方ねえな……」

「う、うるさいわね! てか最後まで……って、どこ行くのよ?」

「双葉が泣きそうだから助けに行く」

「……」

 

 ブチっ、と。小南から何かがキレる音がした。自分から話を振ってきたくせに興味なさそうな所や、「ったく、仕方ねえな……」という呟きが自分に向けられたものではなかった所が火をつけてしまったのだろう。

 文字通り、小南の色は烈火の如く燃え上がったように真っ赤になった。

 

「……あんた、訓練室に入りなさい」

「は?」

「妹子のためにも、お手本を見せてあげるべきでしょう?」

「お前何妹子使ってんだよ」

「うるさいわよ。いいから早くしなさい馬鹿」

 

 なんか怒ってるので、仕方なく従っておいた。二人で訓練室に入ると、双葉と遊真がまだ争っていた。

 

「ねー、もういいでしょ」

「もっかい! もっかいです!」

「ええ〜……」

「お願いしますよ〜!」

 

 遊真の手を両手で握り、駄々をこねる双葉の口座に海斗は口を挟んだ。

 

「おい、お前ら。ちとそこどけ」

「あ、ウィスサマ」

「ウィス様と呼んで良いのは私だけです!」

「え、そうなの?」

 

 実に面倒臭い、と思いながらも海斗は双葉の頭の上に手を置いた。

 

「双葉、アホみたいな独占欲はやめろ。これからはお前を中心に面倒見てやるって言ってんだから、変な敵対心は持つな」

「う〜……」

「それに、車投げとか教えてない技をやって勝手に負けてるのはお前だろ。変に気張らずにいつも通りやれバカ」

 

 問題はそこだった。海斗が教えたのは突きや蹴り、柔道や合気道とかの格闘技っぽい投げ技だけで、車を投げるとかは教えていない。

 しかし、おそらく前シーズンのランク戦での海斗と影浦の暴れん坊将軍っぷりから「カッコ良い……」と思ってしまったのか、双葉もそんな技を真似し始めてしまった。

 

「空閑先輩の瓦礫投げはどうなんですか⁉︎」

「あれは空閑自身のアイデアだろ。そいつ、俺の戦法とか知らんし」

「うぐっ……!」

 

 模倣しただけの技と、その場のアドリブとはいえ効果的な戦法を選び、使うのでは訳が違う。

 

「目眩しを逆に利用されてるようじゃダメだろ。ちゃんと考えてものは使え。まぁ、殴り合いに関しちゃ悪くなかったけど」

「そ、そうですか……?」

「そうだよ。戦いに関して経験の差が出てただけ」

「……」

 

 ふむ、と双葉は顎に手を当てる。やはり、この人はちゃんと見ててくれている、と海斗をキラキラした瞳で眺めた。

 そんなやり取りを気に入らない奴が、ますます機嫌を悪くしていた。

 

「ふーん……そんな偉そうなこと言うのなら、お手本を見せてもらいたいわね。間近で」

「は?」

「チーム戦やりましょう。あたしと遊真、バカと双葉ちゃんで」

「あれ? 俺はどこのチーム?」

「ウィス様、無理があります」

 

 弟子に「バカはお前だ」と言われる海斗だったが、何も気にする事はなかった。それ以上に小南に対して片眉をあげる。

 

「あの……ほんとに何なの?」

「別に?」

「別にじゃなくて、お前なんかさっきからすごいキレてない?」

「別に?」

「いやだから別にじゃなくて」

「別に?」

 

 ダメだこいつ、と海斗は内心でため息をつく。全然、話を聞くつもりがないし、なにより色を見ても「別に?」以外の返事を返すつもりはなさそうだ。

 どうしたものか悩んでいると、弟子二人が口を挟んだ。

 

「お、いいじゃん。楽しそう」

「私も参加したいです!」

「ええ……」

 

 予想以上にノリノリな二人にまで言われてしまえば、海斗としても断りづらい。

 

「なんでよ」

「おれ、まだウィスサマの本気の戦闘見た事ないし」

「……双葉は?」

「わ、私も……足を引っ張らないよう全力で参ります!」

 

 何か質問の答えがズレてる気がしたが、やる気満々ということだろう。こうなってしまえば、頷かざるを得ない。

 

「わーったよ……」

「よし、じゃあやるわよ」

 

 と、小南がキレ気味に言いながら、とりあえずスタートした。

 

 ×××

 

 場所は相変わらずの市街地D。今回のルールは、最初からチームが合流している事と、弟子ルールと同じで韋駄天とかバッグワームとかのオプショントリガーは無し。アタッカー四人も集まり、早い話がガチンコのインファイトだ。

 

「この模擬戦に意味はあんのかね」

「あります」

 

 思わずボヤいた海斗に、双葉は即答で返してみせた。

 実際の所、双葉は少し舞い上がっていた。何故なら、どんな形であれ、海斗と一緒に戦闘を行うのは初めてだからだ。海斗が二宮隊に入ってからは、加古隊である双葉は、隊長達のあまりの仲の悪さに一緒に出撃することはなかったから、今はとても楽しみである。

 従って、この勝負では絶対に負けたくないわけだが……そのためには、まず小南を何とかしないとマズい。あの一人で一部隊の戦力を要する化け物を倒さなければならないのだ。

 早速、作戦会議……と思って隣の師匠の顔を覗き込むが、肝心の師匠はやる気無さそうにげんなりしていた。

 

「お前元気だなー……」

「そんな子供を見る目はやめてください。むしろ、ウィス様の方が不思議です。喧嘩大好きなのに」

「や、なんか知らんけど小南の奴、スゲェキレてんだよ」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ。何かした覚えはねえっつのに」

 

 三輪の次は小南か……と思いつつも、むしろ小南との諍いの方が厄介な気もした。何せ、理由が分からないのだから。その上、クリスマスには二人で出掛けなければならないのだから。

 

「ま、どうせウィス様が何かしたのでしょう」

「おい、なんだその冤罪を生むような言い方。違うから。マジで心当たりないんだって。強いて言うなら、ドアをぶっ壊す勢いの轟音を立てたくらいで」

「普通ならそれで怒ってもおかしくないのですが……まぁ、小南先輩はそんな事でいちいち、腹を立てませんね」

「そこから先はもう、お前も一緒に居たんだから、見てた通りだろ。なんか双葉と一緒にいるだけで機嫌悪くされてさー」

「確かに……ん? 私と一緒に?」

 

 冷静に顎に手を当てて考えると、たしかに自分と海斗が一緒にいると機嫌を悪くしていたような気がする。

 いくら元山ガールの双葉でも、この手の女心は分かってしまった。要するに、海斗の事が好きなのだろう。それはサイドエフェクトで海斗にも分かっているはずだが……もしかして、ヤキモチとかそういう情緒には疎いのだろうか? 

 何にしても、師匠の気持ちも聞いておかねばなるまい。

 

「……あの、海斗先輩」

「ウィス様だ」

「いえ、海斗先輩に聞きますけど……小南先輩の事をどう思っているのですか?」

「はぁ?」

 

 いきなり何? と言わんばかりに片眉を上げる海斗に、双葉は正面から聞いた。

 

「いえ、ですから異性として」

「……イセイ?」

「威圧するような勢いでも異なる星でも無いですよ。女の人としてどう見てるんですか?」

「お前……コイバナするなら相手を選べよ」

「だから聞いてるんです」

 

 つまり、目の前の弟子も小南の気持ちを理解しているようだ。そうなれば、確かにこれ以上にない恋バナの人選ではあるが……。

 

「……別に、どうも思ってねーよ」

「そうなんですか?」

「ああ。ただ、一番話しやすくて喧嘩相手になって一緒にいて楽で今まで会ってきた女の中で唯一、初対面なのに俺の事を怖がらなかっただけだ」

「……」

 

 どういうわけか、呆れられた目で見られてしまった。

 

「え、それでどうも思ってないと?」

「そうだよ。あ、あと最近あいつ可愛くなったよな。今日なんかピアスとかリップつけてたし。まぁ、本人にこんなこと言ったら絶対、調子こくから言わないが」

「……」

 

 これはー……どうしよう、と双葉は腕を組んで眉間にしわを寄せた。ツッコミを入れるべきか入れないべきか。だって、これだけ気付いてて相手の気持ちにも気付いてて、自分の気持ちに気付かない阿呆はそうはいない。このままでは一生、気付きそうにないが、そこまで師匠の世話を焼いて良いのだろうか? 

 

「ま、ピアスなんてしてたら学校の先生に絶対、キレられるし。休み明けが楽しみだぜ」

 

 こんなこと抜かしているが、果たして本音はどうなのだろうか。いや、今のは本音っぽいが。

 最早、模擬戦中であることなど忘れ、双葉がどうしたものか本気で悩んでいるときだ。目の前のショッピングモールの入り口から、ガサッと飛び出してくる人影が見えた。

 

 ×××

 

 その頃、小南・遊真組。あまりの小南のキレっぷりに、遊真は珍しく居心地悪そうにしていた。

 なんかもう隣で貧乏ゆすりと歯軋りが尋常ではなく、それだけでMADが作れそうなほどであった。

 

「……あの、こなみ先輩?」

「良い? 遊真、あのバカ達はショッピングモールに向かっているわ。トリオン以外の攻撃を好むバカを先に消すから、入り口で奇襲を仕掛けて袋にしてやりましょう」

「う、うん……」

 

 ……とはいえ、ビビってる場合ではない。自分には関係無いし、それに第二の師匠のサイドエフェクト的に、視界に入ってると奇襲は通用しない。建物越しであってもだ。

 

「こなみ先輩、俺は上から奇襲しようか?」

「大体ね、どんな神経してればあんな小さい女子中学生の女の子と仲良くできるわけ⁉︎ 周りから見たら事案でしかないのよ!」

「あの、こなみ先ぱ……」

「それに、少し早めにアタシの気持ちとか察してくれても良いでしょ! や、別に全然好きじゃないけど!」

「だから、こなみせ……」

「まぁ? あいつ、普通の子供とは違う育ち方したみたいだし? 他人の気持ちに疎いのは分かるけど……でも、だからって少しくらい考えてくれても良いんじゃない⁉︎」

「……うん、そうだね」

 

 諦めた。しかも、いまだに「好きなんじゃない」と意地を張っているようだ。もう遊真もげんなりしている時だ。呑気な足音が聞こえてきた。

 

「ま、どうせウィス様が何かしたのでしょう」

 

 双葉の声だ。何やら呆れた声音を発している。

 

「おい、なんだその冤罪を生むような言い方。違うから。マジで心当たりないんだって。強いて言うなら、ドアをぶっ壊す勢いの轟音を立てたくらいで」

「普通ならそれで怒ってもおかしくないのですが……まぁ、小南先輩はそんな事でいちいち、腹を立てませんね」

 

 何の話をしているのか知らないが、戦闘中まで仲良くおしゃべりとは良い度胸だ。小南の怒りのポテンシャルも上手い具合に引き出されていく。

 

『遊真、入り口に足を踏み入れたら狩るわよ。メテオラでぶっ放すから続きなさい』

『りょうかい』

 

 というか、模擬戦の途中で会話とかふざけているにも程がある。ナメられてる? と、単純にムカついた。

 それでも確実に討ち取れるように、作戦通り入り口に来るまで手を出さないように身構えていると、双葉の澄んだ声が耳に届いた。

 

「……あの、海斗先輩」

「ウィス様だ」

「いえ、海斗先輩に聞きますけど……小南先輩の事をどう思っているのですか?」

「はぁ?」

「……はぁ?」

『こなみ先輩。声、声』

 

 思わず反射的に口から漏れ、慌てて口を塞いだ。しかし、本人達に声は届いていないようで、会話を続ける。

 

「いえ、ですから異性として」

「……イセイ?」

「威圧するような勢いでも異なる星でも無いですよ。女の人としてどう見てるんですか?」

「お前……コイバナするなら相手を選べよ」

「だから聞いてるんです」

 

 いつのまにか、小南の顔つきは怒りで真っ赤になっているのではなく、恥ずかしながらも堪えて興味津々になっている赤さに変わっていた。

 

「……こなみ先輩?」

「遊真、静かに」

 

 心配になって声をかけてみたが、封殺されてしまった。確かにオペレーターもいないし、直の耳で聞かないと聞こえないが、そもそも今は何の最中なのか思い出して欲しかった。

 さて。海斗は自分の事をどう思っているのか。普段の小南なら絶対に聞けないことを聞いてくれた双葉に感謝しつつ、ソワソワしながら海斗の返答を待った。

 

「……別に、どうも思ってねーよ」

 

 直後、小南は凍り付いた。せめて少しくらいは意識してくれているものだと思ったが、まさかの返答だった。嫌われてすらいない。

 まさかの返事に、遊真ですら空気を読んで目を逸らす。何か声をかけるべきか、しかし何と声をかけたら良いのか……こんな時、オサムがいてくれれば、なんて思ったりさえした。

 

「そうなんですか?」

 

 無情にも、二人に気づいていない双葉が質問をする。これ以上は聞きたくない、と小南が耳を塞ごうとすると、海斗が頷きながら答えた。

 

「ああ。ただ、一番話しやすくて喧嘩相手になって一緒にいて楽で今まで会ってきた女の中で唯一、初対面なのに俺の事を怖がらなかっただけだ」

「……」

「……」

「……」

 

 ん? と、三人が心の中で相槌を打った。え、お前今なんて? みたいな。

 唯一、それを聞ける立場の双葉が、狼狽えた様子で質問してくれた。

 

「え、それでどうも思ってないと?」

「そうだよ。あ、あと最近あいつ可愛くなったよな。今日なんかピアスとかリップつけてたし。まぁ、本人にこんなこと言ったら絶対、調子こくから言わないが」

「……」

 

 調子こくどころではない。頭を抱えて嬉しいやら恥ずかしいやらで、今すぐにでものたうち回りたいくらいだ。何やら憎まれ口を叩いているが、耳に入らなかった。

 なんかもう戦う空気ではなくなり、遊真はその場で胡座をかいた。ふと師匠の方を見ると「どうしたら良い?」みたいな顔をしている小南と目が合った。

 しばらく考え込んだあと、身振り手振りで遊真の考えを伝えた。

 

『ヒューヒュー』

「〜〜〜っ!」

 

 これ以上は小南の限界だった。気が付けば二人の前に飛び出し、武器も出さずに真っ赤になった涙目で海斗をまっすぐと指さした。

 

「き、今日の所はこの辺で勘弁してあげるわ!」

「「は?」」

「う、宇佐美ー! とりまるー!」

 

 何故か模擬戦を中断して飛び出して行ってしまった。その背中を眺めながら、遊真も後から入り口から姿をあらわす。

 しばらく海斗、双葉と小南の出て行った出口を見比べた後、両手を合わせてお辞儀した。

 

「おしあわせに」

 

 そんなこんなで、クリスマスまであと数日だ。

 

 ×××

 

 数日が経過し、防衛任務は夜間だったが、難なくこなした二宮隊の面々は、作戦室でしばらくのんびりしていた。

 なんだかんだでクリスマスは明日。つまりイブなわけだが、サンタの存在を信じているメンバーはこの中にはいない。そのため、隊員それぞれがプレゼントを買って来て、交換会を開催していた。本来ならクリスマスにやるべきなのだろうが、明日は海斗がデートのため、今日やることになった。

 二宮が持ち寄ったクリスマスソングに合わせて、五人で机を中心にプレゼントを回す。

 

「……なんで山○達郎なんだよ……。全然、ノれねえだろ……」

「ちょっとスタイリッシュ過ぎるよね……。や、別になんでも良いんだけど」

「なんだ、文句があるのか陰山、辻。俺に任せたのはお前らだろう」

「そうだよ、海斗くん。辻ちゃん。それに、高校生以上しかいないのにジングルベルとか流されても困るでしょ」

「まぁ、二宮さんがじゃんけんで負けたから任せたんですけどね」

 

 いまいちノれなかったが、まぁつまらないわけでもない。ある意味ではみんな知ってる曲だし、クリスマスソングの中では最高の部類だ。まぁ、山○達郎の曲でクリスマスプレゼントを回している17歳以上の五人組の絵は中々にシュールだが。

 すると、曲が終わった。それにより、それぞれの元に回ってきたプレゼントを開ける。

 

「よし、まずは二宮さんですね」

「……何故、俺だ。犬飼」

「隊長だからでしょ」

 

 まぁ、別にそんなところで恥ずかしがるほどガキではない。無言で二宮がプレゼントを開けると、中はマフラーだった。

 

「……これは」

「あ、俺のですね」

「辻か……」

「おー良いじゃないですか。辻ちゃんセンス良いなー」

 

 犬飼に褒められ、二宮はマフラーを首元に巻く。すると、隊員四人が「おお〜!」と声をあげる。

 

「やっぱ似合ってますよ」

「今年、寒いですからね」

「大学に付けて行ったらどうです?」

「仮面ライダーの変身前みたい」

「……次、辻開けろ」

 

 褒められ慣れてないからか、さっさと次の部下を指名した。辻がプレゼントを開けると、今度は茶色のブーツが入っていた。

 

「おお〜。俺のじゃん。辻ちゃん」

「犬飼先輩……これ高かったんじゃ……」

「良いの良いの。それ内側モコモコしてて暖かいよ」

「うわ、良いなー辻。俺、ブーツとか持ってないんだけど」

「海斗くんはブーツの前に普通の靴を買いなよ。なんで靴に虎が描いてある奴とか普通に履いてんの」

 

 お陰で、この前のデート服の買い物では靴も買うことになった。

 さて、次は犬飼の番。袋の包みを開くと、中から出て来たのは手袋だった。

 

「あ、それ私の」

「おお〜。ひゃみちゃんの?」

「そう。本当は参考書と迷ったんだけど……海斗くん以外に当たったら困ると思ってやめておいたんだけど、正解だったわね」

「……良かった、踏み止まってくれて」

「だから、あなたには別で参考書を用意したわ」

「え、うそでしょ? うそだよね? うそだと言ってよバーニィ」

「あ、それ俺も用意したよ」

「俺も」

「……」

 

 無言で二宮まで本を差し出した。どうやら、三学期の定期試験もサボれそうになさそうだ。可愛がられているようで何よりである。

 さて、次は氷見のプレゼントである。それは五人の中で一番、大きい箱に入っていた。

 

「……あら、すごいわねこれ」

「それ俺のじゃん」

「え……海斗くんの?」

「おい、何その目?」

 

 すごい不安そうな目で見られてしまった。どういう意味なのだろうか、その目は。

 

「だって、ねぇ?」

「不安になるな」

「俺でも不安だわ」

「分かる」

「……」

 

 全員から一斉射撃を喰らい、心が蜂の巣になった気がした。

 しかし、もらった以上は仕方ない。あまり期待せずに氷見が封を解くと、中に入っていたのは意外にもストールだった。

 

「……え、何よこれ。ムカつくけどまとも……」

「ムカつくけど、って何?」

 

 思わず漏れた氷見のセリフに、海斗は眉間にしわを寄せる。しかし、周りのメンバーも意外そうな顔で、そのストールを見ていた。

 その視線に負け、思わず言い訳をするように海斗は目を逸らして答えた。

 

「や、本当はワンパンマンの単行本全巻と悩んだんだけどよ……でもほら、この前は世話んなったし……あの時の経験を踏まえて、少しは洒落たもんをと……」

「ふーん……良いんじゃない? 少し大きいけど、使わせてもらうわ。ありがと」

「おお……氷見がデレた」

「これ、絞殺に使えそうだもの」

「どんな用途だ⁉︎」

「いいから、海斗くんで最後だよ」

 

 辻にツッコミを入れられ、海斗は目の前のプレゼント箱に目を向けた。残りは二宮からの箱。尊敬している隊長からのプレゼントだ。

 まさか受け取れるとは思っていなかったため、それが当たって表には出さなかったが、かなりソワソワしていた。

 

「……開けて良いですか、二宮さん」

「……好きにしろ」

 

 言われて、海斗は箱を開けた。中から出て来たのは、手袋だった。雪だるまの刺繍が付いたものだ。

 

「おお……可愛いですね」

「そうか?」

「はい……。バ……陰山くんには勿体無いくらいです」

「今、バカって言いかけた? 酷くない? ストールあげたのに?」

 

 氷見が惚れ惚れした目で海斗の手袋を見ていた。

 

「それ、明日のデート服にも合うんじゃない?」

「あ、そうですね。合うと思うよ」

「そうなんか?」

 

 犬飼のセリフに辻が同意し、海斗が首をかしげる。

 

「そうね。この前は予算オーバーで手袋だけ買えなかったし、着けて行ったら?」

「まぁ、氷見達がそう言うなら……」

「陰山」

 

 そんな中、二宮が口を挟む。海斗が顔を上げると、二宮が真剣な表情で言った。

 

「男を見せろよ。時には素直になることも大切だ」

「それ、二宮さんが言います?」

「……黙って聞け」

 

 茶化した海斗のセリフに、全員が笑うのを堪えたが、二宮が一瞥するだけで全員黙った。

 

「お前が小南をどう思っているのかは知らんが、俺はあいつとお前との関係がどう発展しようと知った事ではない。だが、後悔を残すようなことだけはするなよ」

「は、はぁ……」

 

 いまいちピンと来ていない海斗だが、二宮からのありがたいお言葉なので素直に受け取っておいた。

 そんな時だ。犬飼が「そうだ」と人差し指を立てた。

 

「俺が姉から教わった『女が男に求めるもの』ってのを教えてあげるよ」

「え、いや別にいいよ」

「いいから聞いといたほうが良いって。特に、海斗くんは下手なこと言いやすいんだし」

 

 そんな感じで、二宮隊のクリスマスイブは珍しく騒がしく過ごしていった。

 

 


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