ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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決戦の準備は武器だけでなく精神も。
お手本がどんなにハイレベルでも、内容が見合ってなかったら意味がない。


 小南は欲求不満だった。別に、エッチなことをしたいという意味ではない。お付き合いを始めて以来、海斗が玉狛に来ないのだ。もっと来てくれれば良いのに、任務でも入っているのだろうか? 確かに、金を欲している海斗のために二宮がシフトをたくさん入れてあげていたのは知っているが……にしてももう少し構ってくれれば良いのに、とも感じる。

 しかし、だからと言って本部に行くわけにもいかない。海斗に「あんま周りの人に付き合ってる事バレたくない」と言われてしまったからだ。別に友達のふりをしていれば良いじゃん、と思うかもしれないが、小南的にはイチャイチャゲージが理性ゲージに勝てる自信がなかった。

 

「……はぁ」

「どうしたんですか、小南先輩」

 

 後ろから声をかけてくるのは、烏丸京介だ。玉狛支部にて一番小南を騙す、モサモサした男前だ。

 その顔を見て、小南はさらにため息をつく。

 

「……なんすか、そのリアクション」

「別に……あんたには話せない事よ」

 

 からかわれるから。

 一方の烏丸は真顔で小南を見つめた後、とりあえず全て察したので、提案してみた。

 

「俺、今日は遊真達が正式入隊日なんで様子見に行きますけど、一緒に行きます?」

「行く!」

 

 これは確かに海斗みたいな、ある種で純粋な男が堕ちるのも分かるかも、と思いつつ、とりあえず二人で本部に向かった。

 

 ×××

 

 本部では、海斗は一人で食堂にいた。まだ何を食べるのか決めていないのだが、まぁどうせラーメンか何かにする予定なので、特に迷う必要は無いのだが。

 入り口付近にある食券の券売機の前で顎に手を当てていると、ちょうど見知った顔が入って来た。

 もちろん、影浦雅人である。

 

「……」

「……」

 

 見事に同時に額に青筋を浮かべた。これだから、二人のことを良く知る連中に仲良しとか言われるのである。

 

「何しに来やがった黒マリモ」

「テメェこそ何してんだ。ここはテメェみてぇな青筋ピキリ野郎が来るとこじゃねんだよ」

「見てわかんねえのかボケナスが。飯食う以外に何があんだってんだ。これだから脳を使えないアホは困るんだよ」

「なら俺だって飯に決まってんだろ。ここが何処だか分かってなくて飯食いに来てんのかよテメェは。これだからラーメンしか食わねえ塩分摂取マシーンは嫌なんだよ」

「テメェ、ラーメンなめてんじゃねえぞ。学生にナンバーワン人気のラーメン敵に回すってのは学生全員を敵に回すのと同じだぞコラ」

「ああ? ボーダー内ではうちのお好み焼きのが人気だぞバカが。そこらの『昼何にすっかー』『めんどくせーからラーメンで良くね?』みたいなカス学生にゃ分かんねーだろうがな」

「ボーダー内って……ぷーくすくす。範囲狭すぎんだろ。大体、ラーメンは店の回転率も食事の早さもバリエーションも値段も全てにおいて優ってんだよ。お好み焼きなんか遥か後方にある程度には」

「値段が違うってことはそれだけクオリティが違うって事だろうが。地方によって風味や味、焼き方も異なり、プロだけでなく素人でも手軽に調理に参加することが可能であり、楽しみながら食事出来るお好み焼きのが上だ」

「人気ナンバースリーのもんじゃ焼きはそいつの悪口言ってたけどな。調理方法や外見が自分と被ってるって」

「同じクラスのつけ麺や油そばは『あいつの人気、実際俺達の働きも加味されてっから』って言ってたから」

 

 お互い、眉間にしわを寄せたまま徐々に話を脱線させる。ちなみに2人が勝手につけてるランクは全てイメージとテキトーである。

 そんな時だ。いい加減、早くして欲しい海斗の後ろに並んでいた香取葉子が口を挟んだ。

 

「ねぇ、そこの馬鹿二人。下らない喧嘩してるんなら表でやってくんない? いい加減、邪魔」

 

 香取の言い分は最もだった。まだ11時過ぎとはいえ、朝からいる隊員はお腹空いているし、そうでなくても混む事を予測して早めに昼飯を食べている人も少なくない。

 しかし、どんな正論にも言い方というものがある。特に、バカのくせにプライドだけは三人前の連中にその口の聞き方は、ホワイトハウスに火炎瓶を放り投げるに等しい行為だ。

 ちょうど、海斗と影浦の喧嘩はお互いのソロランク戦以外のもの、と決められていた。

 

「よーし、雅人。今日の対戦が決まったな」

「アア。こいつを最速ラップで倒した方の勝ちだな」

「はぁ⁉︎」

「5回やって平均取るか」

「一回じゃ分かんねーもんな」

「ちょっ、アタシお腹空……!」

 

 数分後、香取の泣き声がランク戦のロビー全体に響き渡った。

 

 ×××

 

「レイジさん! 急いでよ!」

「暴れるな、小南。危ないぞ」

 

 ちょうど良い言い訳を見つけた小南は一刻も早く本部に向かいたくて、レイジも無理矢理、引っ張り出して車で三人で向かっていた。迅がいれば一発だったのだが、今は防衛任務のようだ。

 

「小南先輩、あまり急かすと俺達でも危ないんですけど」

「うるさいわね。付き合ってから一回も会ってないのよ⁉︎ や、全然、付き合ってないけど!」

 

 一応、隠している小南だが、これで口を滑らせるのは194回目である。12月25日から1月8日までの間で。

 

「……レイジさん」

「堪えてやれ、京介。どの道、俺達が小南に付き合ってやれるのは到着するまでだ。本部に着けば、勝手に海斗を探しに行って俺達からは逸れる」

「そうですね」

 

 自分達が変な目で見られることはない。その事に安堵しつつ、安全運転で本部に向かった。

 

 ×××

 

「……テメェの所為だぞ、海斗」

「……お前が言うな、雅人」

 

 二人がいるのは、ランク戦のラウンジだった。まだC級隊員は戦闘訓練のため、ここにはいない。

 勿論、怒ったのは風間蒼也だ。香取があまりに酷くボコボコにされたので、流石に口を挟まざるを得なかった。

 そのペナルティとして、嵐山隊のオリエンテーションの手伝いをすることになったのだが……。

 

 嵐山『よろしくな、二人とも!』

 木虎『待って下さい。このお二方に普通にお手伝いさせる気ですか?』

 時枝『裏に徹しさせた方が……』

 綾辻『特に陰山くんを表に立たせるのは……』

 佐鳥『(不在)』

 

 との事だが、二人の実力が一級品である事も事実だ。この二人がお手伝いをすることになった以上は、何とかして使わないといけないし、従ってその実力を使わない手はない。

 その結果、嵐山の提案で二人が模範戦闘をすることになった。エキジビションのようなもので、お互いに訓練用トリガーを使って、戦闘の技術以外にも間合いや動き、立ち回りなどについて知ってもらうためだ。

 今は待機中。今回のエキシビションではアタッカーだけでなくガンナートリガーも使わなければならないため、テキトーに手元で弄ばせていた。C級に見せるため下手な所は見せられないからある程度、嵐山隊にレクチャーを教わったが、2人ともほとんど聞いていなかった。

 

「はぁ……まぁ、でも悪くねえな。テメェと決着つけられんならな」

「そういやそうか。B級ランク戦以外でテメェとやれんのも久々だなオイ」

「フル装備じゃねぇのが物足りねえが」

「精々、首洗って待ってやがれ」

 

 そんな風にギラギラした目で待機している時だ。ランク戦ラウンジの扉が開いた。

 

「おお〜。本当にいるよ」

「カゲさん、またやらかしたんだって?」

 

 顔を出したのは影浦隊の面々だ。その時、海斗は少なからずホッとした。考えてみれば、二宮隊のメンバーにも顔を出される可能性があるのだ。二宮に迷惑をかけたと思うとゾッとする。

 そんな気も知らず、北添と絵馬は影浦の元へ歩み寄った。

 

「来んなよ、テメェら」

「まぁまぁ、そう言わないの」

「そうだよ。そもそもやらかしたカゲさんが悪いんだし」

「俺の所為じゃねぇよ。そこのバカの所為だっつの」

「アア⁉︎」

「そういうとこだよ、二人とも」

 

 さっきまで反省しかけていたのもどこ吹く風、速攻でブチギレた海斗に、冷静に北添が指摘した。的確過ぎて返す言葉も出なかったのは言うまでもない。

 その隣で、絵馬が真顔で二人に聞いた。

 

「で、何やるの?」

「訓練用トリガーを使ってこいつとやり合うんだよ」

「ガンナートリガーも含めて、こいつと三種類ずつ使うから三回やり合う」

「変化弾は抜きだけどな。アレは流石に正規のガンナーじゃなきゃ厳しい」

「C級のトリガーだから、当然、シールドもオプショントリガーもねぇ」

「俺がスコーピオン、孤月、シューターでハウンド」

「俺はレイガスト、拳銃のアステロイド、突撃銃でメテオラだ」

「使うトリガーの順番は各々で決めて良いってよ。どんな相手と戦えるか分からない時の対処も見たいらしい」

「それと、相性の悪い武器でもある程度、戦えるって事も示すらしいぜ」

「「……」」

 

 二人の交互の説明に、思わず北添も絵馬も黙り込んだ。なんて分かりやすく息ぴったりの説明なのだろうか。これで仲が悪いのだから、同族嫌悪って本当にあるんだなと感心してしまった次第だ。しかし、それを口に出せば百パー消される。

 そのため、代わりに北添が提案した。

 

「なら、ガンナートリガーはゾエさんが軽く解説しようか?」

「あー大丈夫。嵐山の説明は正直、あんま聞いてなかったんだけど、俺は犬飼とか二宮さんからよく教わってるし」

「俺も普段からテメェが戦ってんの見てっからな」

 

 そこでも合うのかよ、と思いつつ、C級が来るまでの間はしばらく待機した。

 

 ×××

 

 ボーダー本部に到着した直後、一応、玉狛の面々は打ち合わせをした。

 

「俺はスナイパーの雨取を見に行く」

「俺は修と合流します」

「アタシは二宮隊の作戦室に行くわ!」

「……一応、聞くがお前何しに来たんだ?」

「遊真は模擬戦のブースにいると思いますけど」

「海斗が律儀にC級の訓練を見学してるわけないでしょ。今頃、作戦室で二宮さんに遊んでもらってるに決まってるわ」

「……」

「……」

 

 仕方なさそうな顔でレイジと烏丸が目を合わせた後、烏丸が真顔で提案した。

 

「もしかしたら、黒江や氷見先輩と仲良くしてるかもしれませんね」

「ごめんなさい、急用が出来たので先に行くわ」

 

 秒でトリガーに換装し、その場から消え去った小南を見て、レイジは心底、深いため息をついた。

 

 ×××

 

 ランク戦のブースで、C級隊員を集めた嵐山がパンパンと手を叩いた。

 

「よし、全員注目!」

 

 それによって、遊真を含めたC級隊員や、ついてきた修、烏丸が目を向ける。

 

「ここはランク戦ブースだ。みんなにはこれから、ここでお互いに戦い、ポイントを稼いでB級に上がってもらうことになる。ポイントは多い人を倒せば多くポイントを得られ、低いポイントの人を倒せば低いポイントしか得られない。つまり、早くB級に上がりたければ、強い人に戦いを挑めば良い」

 

 しかし、それは裏を返せば勝てない奴に挑んで負ければ、ただ点を取られるだけという事だ。戦場ではただ闇雲に見つけた相手と戦うのではなく、相手の実力を見極め、時には戦わずに他の戦地へ向かう事も必要だ。

 そう言った判断力を育むためのシステムとも言えるが、それは自分で気付かなければならないため、嵐山は口にすることはなかった。

 

「今日はお手本として、二人の先輩達が、君達と同じ条件でお手本となる戦闘を三回、見せてくれる。二人ともボーダー内ではかなりの実力者だ。君達の目標になるよう、しっかりと見ておくように」

 

 その説明で、全員から「おおっ!」と歓声があがる。正隊員同士の戦闘は、やはりC級といえども興味津々のようだ。

 唯一、割と冷静だった遊真は、となりの修に声を掛けた。

 

「これいつもやってるの?」

「いや……僕の時はなかった」

「俺の時もなかったな」

 

 烏丸も同じように答えた時、モニターに二人の男が映り、遊真は「おー……」と何故か関心し、修は冷や汗を流し、烏丸は全てを察した。

 影浦雅人と陰山海斗。このバカ達が並んでいる時点で、何があったのかは想像に難くない。

 さて、まず二人が選んだトリガーは、スコーピオンとレイガストだった。影浦のスコーピオンと、海斗のレイガスト。最初からクライマックスだ。

 

「かいと先輩、スコーピオンじゃないのかー」

「相手の方は誰なんですか?」

「影浦先輩だ。ボーダー内じゃ、五本指に入ると言われてるアタッカーだよ」

「そ、そんなに……!」

「ふむ……」

 

 そんなやり取りをしてる間に、戦闘は始まった。先に仕掛けたのは影浦だった。枝刃によって無理矢理、二刀流にした双剣で攻め立てる。

 それに対し、海斗はトリガーも出さずに回避し続けた。というのも、レイガストは重さがあるため、出しているだけでも回避に手間取る。特に、影浦の猛攻は防げない。

 その上、スラスターパンチも出せないため、今回ばかりはブレードで倒すしかないのだ。

 

「……確かに、はやいね。かげうら先輩」

「す、すごい……全然、見えない……」

 

 修にとっては、もはや別次元だ。しかし、早いのは影浦だけではないのを、少しとはいえ、教えを受けた二人はよく知っている。

 影浦の攻撃を見切り続けた海斗は、二本のブレードでの同時攻撃が来た直後、行動に移した。

 レイガストをシールドモードに移行し、自身の周りを包んで二刀を防ぎ、砕いた。枝刃ということはスコーピオンをそれだけ長くしているという事だ。範囲が大きくなるほど、スコーピオンは脆くなる。

 

「砕いた!」

「防戦一方だったのに……」

「や、でもアレじゃ、あの人も反撃できないんじゃ……!」

 

 盛り上がるC級の中、海斗は自分を包んだレイガストの真ん中に穴を空けた。そこから繰り出されるのは、海斗の渾身のアッパー。それが、影浦の鳩尾を捕らえた。

 後方に殴り飛ばされたものの、ギリギリ後ろに飛んで衝撃を弱めた影浦だが、それこそ海斗の読み通りだ。空中なら回避は出来ない。

 その影浦に、海斗はレイガストパンチの応用を放った。レイガストを握り込み、そこからレイピアのように加速してブレードを伸ばした。

 それも影浦には分かっていた。ブレードでの点の攻撃が自分のトリオン供給器官にまっすぐと来ているからだ。サイドエフェクトによって、斬撃ではなく突撃である事は予測出来ていた。

 空中で横に無理矢理、振り身して自分の右脇腹を犠牲にすると共に、そのブレードを掴む。これで、逃すことはない。

 かつてない攻撃色と、影浦の邪悪な笑みを視界に捉えた海斗は、レイガストの刃の方向を影浦がいる方向にし、横になぎ払おうと力を入れた。

 しかし、スコーピオンの方が速い。最大まで伸ばしたスコーピオンの突きが、レイガストの一振りの前に海斗の胸に突き刺さる。

 

「決まった……⁉︎」

「スゲェ……!」

「スコーピオン使おうかな……」

「や、レイガストも中々……」

 

 などと盛り上がっている間に、海斗は緊急脱出した。

 

「はやいね、かげうら先輩」

「ああ。海斗先輩もあと一歩だったけど……まぁ、スラスターのないレイガストじゃあんなもんだろ」

「……僕にも、あんな使い方が出来るでしょうか?」

 

 などと、玉狛のメンバーも同じように盛り上がる中、最後尾にいる木虎はホッと胸をなでおろしていた。割とまともな戦闘だったからだ。あの二人に戦わせるのは、正直、お手本でもどうかと思っていたが、中々、ボーダー隊員らしい戦闘だったんじゃないだろうか? アッパー以外。

 スコーピオンとレイガスト、それぞれの強みや弱点も出ていて、頭のある人ならそれなりに理解出来ただろう、と思う程度には良かった気がした。

 願わくば、このまま他のトリガーでも進んでもらいたいものだ。

 

 ×××

 

 二宮隊の作戦室に到着した小南は、ノックもせずに入室した。

 

「失礼しまーす!」

「あら、小南」

「バカは?」

「いないよ」

「あら、そうなの?」

 

 というか、返答した氷見しかいなかった。その氷見も私服姿である。どうやら、今日はオフのようだ。つまり、あのバカは任務じゃないのに玉狛に来なかったことになる。

 

「……あいつぅ……!」

 

 サイドエフェクトがなくても、小南から赤いオーラが発せられているのが分かった。海斗が小南と付き合ったことを報告した、数少ない隊員の一人である氷見は「またあのバカが変なウソついたのか」と速烈で察し、宥めてやることにした。

 

「そういえば、聞いたわよ。海斗くんとお付き合いを始めたんでしょう?」

「あ、うん。そう。え? あいつから聞いたの?」

「そうだけど?」

「……アタシには他の奴に言うなって言っておきながら」

「いやいや、私達も口止めされてるから。ただ、まぁチームメイトだし色々と協力してあげたから、本人も教えてくれたんだと思う」

「ああ、そういう……」

 

 とりあえず誤解を解いてから、ニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべた。

 

「あの子、とても楽しそうに語ってたよ。あなたとのデートの日のこと」

「ふえっ? そ、そうなの?」

「そうよ。表情自体は不機嫌そうだったんだけどね。尻尾と犬耳が生えてたらぴょこぴょこ動いてただろうなって程度には分かりやすかった」

「そ、そうなの……まぁね、あいつ犬っぽいものねっ」

 

 彼氏の反応を聞き、すぐに機嫌を直した小南を見て、氷見はしばらく小南と馬鹿の惚気に付き合う事にした。

 

 ×××

 

 木虎藍は、すぐに落胆するハメになった。海斗と影浦の戦闘では、次のトリガーはメテオラとハウンドとなった。

 それが、もはやただの超人同士の殴り合いだった。元々、アタッカーの二人は射撃の撃ち合いで敵を倒す、なんて考えてもいなかった。拳と拳で語り合うインファイトの中、敵の姿勢を崩してようやくトリガーを呼び出し、ゼロ距離でぶっ放す戦法を取っていた。

 

「……お手本にならないな」

「本当に……」

 

 遊真も修も呆れ気味にモニターを眺めていた。

 近距離戦から、海斗が突然、住宅街でメテオラを放ち、爆発。その辺一体が吹き飛び、影浦は後方に飛びながらハウンドを放って索敵する。

 しかし、ハウンドが敵に届く前に。自身の脳天にチリッと殺気を受信した。それも、極太の線が脳天どころか頭全体を包んでいる。

 

「うおっ……!」

 

 目の前にあるのは、電柱だった。それが縦に振って来ている。ヤバい、と思ってバックステップしようとしたが、腹の辺りに直撃し、一気に地面まで押し込まれる。

 電柱を押し込みながらハウンドを避けた海斗は、アサルトライフルを地面に向けて乱射した。コンクリート一帯が爆破し、影浦も巻き込まれた。

 

「す、スゲェ……?」

「電柱で……」

「怖い……」

 

 徐々にC級隊員達の反応も変わる。見学しているのはC級だけでなく、通り掛かった正隊員の姿もちらほらと見えた。そいつらにとっては、B級ランク戦で割と見ていた光景なので、特に何も思わない。あいつら、ガンナートリガーでも近距離で戦えるのか、と呆れている。なんなら「ガンナーって何だっけ?」と思わないでもなかった。

 しかし、熱くなってる二人には届かない。嵐山も、まさかガンナートリガーでこうなるとは思わなかった。

 

「じゃあ、次で最後だ」

 

 そう言って、ラスト一戦。孤月vsアステロイドハンドガンが始まった。

 

 ×××

 

 二宮隊の作戦室でしばらく談笑していた小南と氷見だったが、その部屋の扉にコンコンと乾いた音が響いた。

 席から立ったのは氷見だった。二宮隊の作戦室へのお客さんなら、二宮隊の誰かが応対せねばならない。

 

「はーい……あ、月見さん?」

「こんにちは、氷見さん。小南さん」

 

 ゴキブリの存在も知らない高嶺の花子さん、月見蓮だった。

 

「どうかしたんですか?」

「二宮くんは?」

「いませんよ」

「そう……じゃあ、氷見さんに伝えるわね」

「任務ですか?」

「ええ。バカ関係の任務」

「バカ関係⁉︎」

 

 食いついたのは小南だ。バカ、という言葉で共通認識がある辺り、この女達も中々良い性格している。

 

「月見さん、何か知ってるの?」

「やらかして今、ランク戦のブースにいるわ。本当は二宮さんに密告したかったんだけれど、氷見さんに言えば自動的に二宮さんにも伝わるわよね?」

「はい。ていうか、ブースで何してるんですか? 確か今日は正式入隊日のはずじゃ……」

「ペナルティでC級隊員達に模範戦闘を見せているそうよ。訓練用トリガーで。ガンナートリガーも有りで」

「な、なるほど……? とりあえず、私も今からブースに……」

 

 そこで、小南の姿が消えているのに気づいた。入り口は一つしかないのに、入り口に立っている月見ですら気付かない速度で消え去っていた。

 

「……」

「……私、一応後を追いますね」

「お願い」

「いえ。伝えてくれてありがとうございます」

 

 何か嫌な予感がしたため、氷見も作戦室を出た。

 

 ×××

 

 小南は走っていた。久し振りに海斗に会える、と。今までは携帯でやり取りしていたから、付き合えてからほとんど顔も合わせていない。勿論、周りにバレたくない、という海斗の気持ちも分からなくはない。鳥丸みたいな、人をからかうのが好きな人もいるし、周りの隊員に気を使わせることもあるかもしれないから。

 しかし、それでも溜まりに溜まった「かまってちゃんオーラ」は、理性など軽く吹き飛ばてしまう。

 ウキウキしながらランク戦に到着した。そこでは。

 

「やっぱこの人達おかしい」

「強いけど、なんか違うよね」

「俺の知ってる孤月の使い方じゃない……」

 

 散々な言われようだったが、仕方ないことだった。影浦がまず、ブレードと鞘の二刀流だった。鞘を投げて隙を作り、距離を詰めて強襲。鞘が無くなれば、アステロイドを近距離でわざと孤月で受けて折らせ、擬似的な投げナイフを作り出す始末だ。

 そして、その相手である海斗も中々におかしい。慣れないハンドガンのはずだが、アホみたいな精度で影浦は必ず避けるなりガードするなりしなければならない。

 そもそも、近距離で孤月を相手に拳で戦ってるのがおかしい。その上、ここぞという時に撃ってくるもんだからタチが悪い。

 孤月の薙ぎ払いをバク宙で回避しながらハンドガンをぶっ放すも、影浦はそれを前に出ながら回避して、横に払った孤月を引いて突き込む。

 それを着地した海斗が横にスライド回転しながら、孤月を持つ影浦の拳を抑え込みつつ、顔面にハンドガンを向ける。

 銃口が火を吹く直前、後ろに影浦は身体を倒しつつ、抑えられてる手を軸にしてバク宙しながら海斗の顎につま先を直撃させる。

 後ろに海斗がよろめいた隙を逃さずに、着地してすぐに孤月を真下から斬りあげようとするが、よろめいている海斗の手にある銃口が自分の方に向けられている事に気付いた。

 発砲されたのを孤月でガードするも、さらに顔面、右脇腹、左足、右腕、左肩と殴る勢いで発砲。それを近距離で全て孤月で弾きつつ、鋭い突き返しを顔面にお見舞いする。

 孤月の鋒が頬を掠めても一切、気にせずに避けた海斗は、身体を影浦の懐に背中を向けて潜り込ませ、孤月を握る腕と腰を掴んで強引に背負い投げをし、目の前に転んだ影浦にアステロイドを叩き込む。

 それを横に転がってギリギリ回避するものの、顔面に海斗のつま先が飛んできて、後方に大きく蹴り飛ばされた。

 ドスッ、と民家の壁に背中を叩きつける影浦に銃口を向けたが、その銃口にいつのまにか投げ付けていた孤月が突き刺さり、貫通。ギリギリ身体に当たる前に回避した。

 

「……これもうガンナーじゃないよね……」

 

 いつの間に後ろにいたのか、氷見が小南に声をかける。しかし、小南からの反応はなかった。普段なら「ほんとよね! あいつ何の為にあそこにいるのか分かってるのかしら? ホント、バカなんだからほんと!」などとまくし立ててくる所なのだが……と思って隣を見ると、うっとりした表情をして呟いた。

 

「銃+スーツ+海斗も良いわね……」

「あんた……」

 

 何がどう作用すれば、こうなるのだろう……と、氷見が呆れた時、海斗の放ったアステロイド、銃口、肩を影浦の孤月が貫いた。

 決着がつき、C級達をシーン……と静寂が包む。自分達が正隊員になれば、あれとしのぎを削り合うのか……と、いった感じの静けさだ。しかも、あれで2人ともメイン武器でないのだから困る。

 そんな空気の中、嵐山はにこやかに微笑んだ。

 

「みんな、あれを目指してくれ」

 

 出来るか、と全員の見解が一致した。

 実際、アタッカーはともかくガンナーにはあまり良いお手本とは言えない。これは二宮のお説教項目に一つ加わりそうだなーなんて氷見が思ってると、隣にいた小南がまた姿を消していた。

 

「……落ち着きのない奴め……」

 

 珍しく口調を荒げて、相変わらず嫌な予感が止まらない氷見は、小南の後を追いかけた。

 

 


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