ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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戦いはノリとタイミングと相性。

 修は木虎と共に千佳の元に到着し、新型を撃破した。修がモールモッドを二体相手にしてる間に、木虎は片脚を失いつつも新型を撃破。

 その様子を、近界民達が見ていないはずがなかった。ラッド達が倒したラービットから姿を現し、新たなる門を発生させる。

 

「なっ……⁉︎」

「新型が三匹⁉︎」

 

 それを見た直後、木虎はすぐに合点がいった。ここに来るまでの途中、遊真の豆粒から聞いた話によれば、かなりトリオンを注ぎ込んで作られたラービットを使って隊員を捕らえる作戦にしては、ボーダーの緊急脱出機能を無視されたものだった事が腑に落ちないそうだ。

 しかし、C級隊員には緊急脱出機能はついていない。

 

「逃げなさい! こいつらの狙いは、C級隊員よ‼︎」

 

 そう木虎が叫んだ直後、目の前のラービットが地面に手を着いた。地点に亀裂が入った時点で嫌な予感のした修は、もう一人のバカ師匠譲りの直感を働かせた。

 

「木虎、足下だ‼︎」

「!」

 

 ボーダーのスコーピオンにも似たようなモグラ爪という技があるように、死角からの攻撃を予期した木虎は反射的に後方に飛んだ。

 しかし、違ったのは生えてくるブレードの数だった。4〜5本の黒いブレードが木虎の右腕を飛ばす。

 

「ぐっ……! こいつ……!」

 

 宙に浮いた木虎に対し、さらに反対側の腕で黒いブレードを作り、木虎に振るう。しかし、それは修のスラスターの投擲とアステロイドの大玉によって阻まれた。

 右腕と右脚を失いながらも何とか生きながらえた木虎は、修の横に引き下がった。

 

「助かったわ、三雲くん」

「どうする、木虎⁉︎」

「……っ!」

 

 正直に言って絶望的だ。自分は片足と片腕を失い、後ろには複数のターゲット、自分と修で運良く一体ずつ抑えられたとしても、残り一体は抜けていく。

 しかし、もはや迷っている時間は無かった。敵のうちの砲撃を放てるラービットが、背中のスラスターを全開にして飛び出した。

 

「クソっ……!」

 

 考えている暇はない。修が盾を構えて立ち塞がったが、殴打一発で近くの民家に吹き飛ばされてしまう。

 

「修くん!」

「僕のことは気にするな! 早く逃げろ!」

 

 千佳に指示を出したが遅かった。飛び出したラービットが千佳の隣の夏目を掴む。

 

「クッ……!」

 

 木虎も援護に向かおうとするが、白いラービットに行く手を阻まれる。

 

「うわっ、ちょっ……タンマタンマ!」

 

 ラービットの胸が開き、夏目を回収しようとした直後だった。ドッと、ラービットの砲撃よりもさらに大きな轟音が市街地に響き渡る。

 発砲されたのは、千佳のアイビス。それがラービットを吹き飛ばした。

 

「……はぁ」

 

 ペタン、と尻餅をつく千佳。助けられた夏目が慌てて千佳に駆け寄る。

 

「こらチカ子! アタシも吹っ飛ばす気か!」

「ご、ごめん……」

「でも、助かったわ。ありがと」

 

 そう言って、二人は再び前方を見据える。まだ気の抜ける状態ではない。ラービットは二体いる。

 民家に吹き飛ばされた修がすぐに千佳達の前に降り立ち、忍田に声をかけた。

 

「忍田本部長! 現在、新型数体と交戦中! 狙いはC級隊員です!」

『状況はほぼ把握した。あと少しだけ凌いでくれ。ボーダー最強の部隊がそちらへ向かっている』

「ボーダー最強の部隊……⁉︎」

 

 とりあえず、言われた以上は凌ぐしかない。C級隊員達に叫んだ。

 

「全員、走れ! とにかく新型から離れるんだ!」

 

 それを聞いて、C級隊員達は走り出す。一体のラービットに手こずっていた木虎が、再び修の横に降り立った。

 

「忍田さんはなんて?」

「ボーダー最強の部隊が来てくれるそうだ。それまで、僕達だけで凌ごう」

「了解よ」

 

 そう言った直後、白と液状化のラービットが襲い掛かってくる。スコーピオンで足を補強した木虎は液状化のラービットの前に立ち、ワイヤーとハンドガンを使って遠巻きに戦い始めた。

 修はレイガストを持ち、白いラービットの拳をガードする。修にはラービットを倒せる攻撃力はない。レイガストの師匠であるウィス様からの教えは、攻撃よりも防御だった。

 敵の動きを観察し、ガードする。幸い、レイガストの防御力はSS評価、それにシールドを重ねれば時間を稼ぐことは出来る。

 

「クッ……!」

 

 ラービットの両腕の猛攻を盾一枚で防ぐ。長引けば、ラービットの攻撃パターンを見切ることも可能だ。

 両腕の攻撃をスラスターを使ったシールドで防いだ後、大玉を近距離からラービットの腕に放つ。修のアステロイドでは効きもしないが、それが跳ね返ってラービットの顔面にいい感じに直撃する。

 その隙にスラスターを用いてラービットの反対側の腕に当てる。スラスターの勢いに負けてラービットは足を軸に一回転するように回り、その隙に修は飛ばしたレイガストを引っ込め、手元に再び召喚し、レイガストをシールドモードで広げて、正面からスラスターでラービットの身体を押し込み、若干、ラービットを後退させた。

 

(新型は強力だけど……烏丸先輩やウィス様、風間先輩の猛攻に比べたら……!)

 

 普通じゃない猛攻を受けて来た修にとって、ラービットの攻撃などまだ単調に思えた。

 それでも、修のトリオン量ではあんまり長くこんな戦い方はできない。あくまでも守りを重視して、無用な追撃はしなかった。油断なくレイガストを盾にしたまま引き気味に構えた。

 しかし、ラービットもまた学習する。その修に対し、両腕で襲い掛かった。

 

「!」

 

 自身を包み込むようにシールドモードを展開する。その修に、ラービットは休む間も無く殴打を繰り返した。いくらレイガストでも、何発も受ければ割れないわけではない。

 徐々に自身を包み込む盾に亀裂が入り、修も冷や汗を浮かべる。直後、ラービットは地面を思いっきり殴った。その衝撃で、修の体は宙に浮く。

 

「しまっ……!」

 

 ラービットの殴打を堪えるには、シールドモードとスラスター以外に、足腰の踏ん張りが重要だった。

 それが足元から崩された今、修に防ぐ術はない。拳が修に直撃し、後方に大きく殴り飛ばされる。

 

「ぐあっ……!」

「三雲くん!」

 

 木虎が反射的に修に目を移すが、目の前のラービットの攻撃が迫っていて、助けに行くこともできない。木虎のトリオン量も決して多いわけではないので、いつまでも弾丸で凌いでいられるわけではない。

 

「クッ……!」

 

 まだC級隊員達は視界に入る範囲を走っている。このままでは、崩されるのも時間の問題……そう思った時だ。

 

「藍ちゃん、下がってて」

 

 やけに怒気を孕んだ声が耳に響き、強引に後方に飛んだ時だ。メテオラがラービットに降り注がれた。

 それによって怯んだ直後、双月による四発の斬撃がラービットに直撃する。

 

「小南先輩……⁉︎」

「もう大丈夫よ」

 

 援軍が到着した。同い年のメガネは無事だろうか? と後ろを見ると、ラービットの殴打を筋肉が素手で(正確にはレイガストで)受け止めていた。

 

「修、よく持ちこたえた」

「レイジさん……!」

 

 直後、レイジのアッパーとボディブローが炸裂し、ラービットは後方に殴り飛ばされた。

 唖然とする修の横に、烏丸がアサルトライフルを持って立った。

 

「遅くなったな、修」

「烏丸先輩!」

 

 小南と木虎も一度、レイジと烏丸と修の横に飛び退く。

 

「修、遊真はどこ?」

「空閑は別行動で嵐山隊と一緒にいます」

「そう。……海斗は?」

「へ? さ、さぁ……?」

「……」

 

 なんか小南の機嫌がすごく悪かった。その所為か、助けられたはずな木虎も少し気まずそうにしている。

 

「とにかく、さっさとこいつら片付けて次に行くわよ」

 

 小南がそう言い放った時だ。民家の横でラッドがカサカサと動いているのが視界に入った。

 

「! 待ってください! まだあの門開けるヤツが……!」

 

 そう言った直後、門から人影が姿を現した。

 

 ×××

 

 基地東部。風間隊がちょうど、ラービットを一体片付けた時だ。ラッドの開いた門から大きな男が姿を現した。

 

「なんだ、三人だけか? しかも少年兵ばかり……拍子抜けだな」

「……角付き。アフトクラトルか」

「人型きましたね、風間さん」

 

 好戦的な笑みを浮かべるその男は、およそ身長2メートルほどだろうか? 武器を手にしているようには見えないが、マントの下に隠しているのかもしれないので油断は出来ない。

 なんであれ、どういうタイプか分からない以上は下手に攻撃はできない。

 

「いや、数を見て侮るのは良くないな。コツコツと片付けていこう」

 

 キィィィン……と耳に響く音とともにマントの下が光る。来る、と理解した直後、三人は回避行動に写っていた。

 大男から離れた弾は三人を素通りし、後ろの警戒区域内の民家に直撃する。民家を貫通し、その後ろの民家も貫通し、さらにその後ろの民家も……と連鎖的に爆発させた。

 

「!」

 

 かなりの威力。流石に風間でも驚かざるを得ない。

 菊地原がズタボロになった街を見てポツリとつぶやいた。

 

「すごい威力ですね」

「ああ。意外と射撃タイプだったな」

「しかし、あの威力で連射が可能とは思いたくないですね」

 

 歌川がそんな事を言ったのが、まさしくフラグになったのだろうか。大男の武器が姿をあらわす。大型の銃が現れ、残弾と思われる光球がいくつも繋がっている。銃弾が大量にバレットからはみ出ている機関銃のようだ。どう見ても連射可能である。

 

「そういえば、貴様らはラービットを余裕で倒していた連中だったな」

 

 映像を見られていたようだ。と言うことは、戦法もばれていると見た方が良さそうだ。

 

「ならば、なるべく近付かずに離れて戦うとしよう」

 

 男がそう言った直後、肩が盛り上がり、下からいくつかの光が見える。まさか、と風間の背筋に冷たい汗が流れる。

 嫌な予感は的中し、目の前の赤鬼は空高くに飛び上がった。アタッカーの弱点とは、実に単純だ。撃ち合いでは絶対にかなわないことだ。何せ、射程がないのだから。

 地上戦ならステルスなりワイヤーなりと対応出来るが、空中となると話は変わってくる。

 さて、どうしたものか。策を練りながら、降り注ぐ弾丸を回避し始めた。

 

 ×××

 

「ばいちゃ──ー‼︎」

 

 ラービットの口にレイガストを突っ込んでつっかえ棒のように開かせた後、その口の中の目玉に口から生やしたスコーピオンで一撃で貫く。これで二宮隊は新型二匹目撃破である。

 しかし、海斗の表情は何処か青い。おえっと吐き気を催しているような声を漏らしながら、辛そうにつぶやいた。

 

「……口スコーピオンって割と呼吸出来ない……もう二度とやらない……」

「当たり前でしょ……」

 

 辻が呆れ気味に後ろで呟いた。完全にふざけた殺し方だったが、4人揃って無傷で倒しているので何も問題はない。

 

「陰山」

 

 その海斗に、後ろから二宮が重々しい声で呼び掛けた。

 

「集中しろ」

「あ、すみません」

 

 やはり、今日の二宮隊は何処かピリピリしている。何かしたっけかな、と海斗は顎に手を当てるが、やはり心当たりはない。

 まぁ、確かに戦闘に集中せねばならないのはその通りなので、何も言わなかったが。

 そんな時だ。何処からにラッドがいたようで、急に門が開いた。そこから現れたのは、黒い角の人型近界民だった。

 

「……あ、人型」

 

 海斗が声を漏らすと共に犬飼も辻も二宮も首を門に向ける。

 おかっぱの人型近界民は、姿を現わすなり不満げに言い放った。

 

「……なんだ? お前ら本当にそれ戦闘服か? 変な格好しやがって」

 

 着地しながら言ったそのセリフは、端的に言って地雷だった。主に二宮の。

 

「アステロイド」

 

 速度重視のフルアタックがコンマ数秒で黒トリガーの人型に向かう。

 全弾直撃し、貫通までしたが、まるで水に石を投げたように再生されてしまう。

 

「⁉︎」

『下から赤いオーラが来てます』

 

 海斗が内部通信で全員に伝えた直後、海斗と犬飼と辻は後方に跳びのき、二宮は地面の下にシールドを張って攻撃を弾いた。

 

「ああ⁉︎」

 

 避けられた? とオカッパは眉間にしわを寄せる。

 それと同様に、海斗も眉間にしわを寄せた。海斗の視界に映っているのは、オカッパの真っ赤な殺意なのだが、人の形をした所を中心に空中、地面の下など全体に蔓延していた。

 どういうわけか知らないが、こいつの体は液体やら気体やらになれるのか? ……なんて小難しい事は考えていなかった。

 

『どうかした? 海斗くん』

「っ……」

 

 犬飼に聞かれ、海斗は自身の疑問を口に出してぶちまけた。

 

「ブッハハハハ‼︎ モ──ームリ! どんなセンスしてたらあの髪型に行きつくんだよ! アッファッファッファッファッ‼︎」

 

 ゲラゲラと笑い始める海斗。集中しろと言われたばかりだろうに、と辻と犬飼は呆れ、二宮は「お前命かかってんだからマジで本当に」と言わんばかりに額に青筋を浮かべる。

 勿論、黒トリガー自身も堪忍袋の緒を緩めた。空気中、地面の下、そして自身からバカに向かってフルアタックする。

 しかし、それに対して海斗は。ジャンプ、空中で宙ひねり、着地してスライディング、横からの黒いブレードにはスコーピオンを右腕の腕刀に生やしてギィィィンっと滑らせるように相殺しつつ弾き、目の前の瓦礫を踏み台にして大きく飛び上がって避けた。

 

「はっ、バカが!」

 

 空気中の自らのトリガーをブレードにし、海斗に向けて伸ばす。それを、レイガストのスラスターで回避し、ブレードの上に降りてそのまま走った。そこから先は空気中のブレードを警戒して息を止める。

 

「アア⁉︎」

 

 なんだこいつは、と言わんばかりに声を漏らすが、近づいて来れば来るほど攻撃は当てやすくなる。

 さらに別の箇所からブレードを伸ばすが、そのブレードが別の箇所からの弾丸に撃ち砕かれる。二宮と犬飼の援護射撃だった。

 ならば、奴が走っているブレードからさらにブレードを生やせば良い、と判断したが、その攻撃すらジャンプで避けられた。

 

「っ、クソ猿がァ〜〜〜ッッ‼︎」

 

 ならば、背後からの奇襲だ。もう距離もそんなに遠くない。斬られても問題ないが、雑魚に簡単に攻撃を避けられた上に斬られるのは気に入らない。

 後ろからブレードを生やすが、それを辻がカバーする。シールドでガードすると共に斬り返し、ブレードを粉砕した。

 

「くたばりやがれ」

 

 もう間に合わない。海斗の顔面への飛び膝蹴りが炸裂し、スコーピオンが生えて頭を粉々に打ち砕かれる。

 その勢いのままオカッパ黒トリガーの後ろに着地し、背後を見たが、頭部は簡単に再生した。

 

「おいおい……どういう理屈だオカッパ野郎」

「こっちのセリフだ、ヤンキー猿」

 

 こうも簡単に自分の攻撃が避けられるはずがない。

 海斗は海斗で、顔を斬っても死なない相手など初体験だった。とりあえず、もう一回喧嘩を売ろうと海斗が思った時、内部通信で二宮が声を掛けた。

 

『待て、陰山』

『なんすか?』

『奴の黒トリガーの性能はなんだ?』

『性能って言われてもまだ完全に理解したわけじゃないですけど、ただ気体にも液体にも固体にもなれるっぽいです』

『……なるほど』

『端的に言ってロギアですね』

『いらないことは言わなくて良い』

 

 怒られた。それ以外にも性能はあるかもしれないが、とりあえず正体は割れた。

 

『ならば、トリオン供給器官を探すしかない。とりあえず、攻撃を仕掛ける。陰山を主体に俺と犬飼と辻で援護。辻、奴に接近する時は息を止めろ。体内に侵入されればブレードで引き裂かれる可能性もある』

『了解』

『陰山、奴を絶対に見逃すな』

『了解』

 

 スーツの四人組は、黒トリガーに向かって行った。

 

 

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