ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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似てる二人のコンビネーションは異常に抜群。

 基地の東部では。空を飛んでいるランバネインからの射撃を風間隊の面々は回避し続けるしかなかった。どんなにシビア且つ強力、それもステルストリガーを用いたアサシンのような戦法も、ブレードが届かなければ意味が無い。風間隊の射程持ちは歌川のメテオラのみだ。撃ち合いではかなわない。

 そのため、バッグワームを羽織って民家や建物の中に身を潜めていた。

 

「クソッ……ここまで相性が悪いとは」

「どうします? 風間さん」

 

 めずらしく歌川が毒づき、菊地原が聞くも、風間は顎に手を当てたまま、窓から見える空飛ぶ近界民を見上げる。今は何処かの建物の屋根に止まっているあたり、無限に飛べるわけでもないのだろう。

 

「退いた方が良いですかね」

「それはダメだ。奴は角付きの人型、事前から手強い事が分かっていた相手だ。俺達以外に止められる部隊はない」

 

 あの性能なら、最悪、今逃げている最中のC級の方に行ってしまうかもしれない。何やらそっちにも人型が出たらしいし、もう片方の二宮隊の方に行かれても厄介だ。

 それに太刀川隊はオフで部隊は散り散り、冬島隊も待機中だ。この騒ぎになって出て来ていないと言うことは、忍田がまだ待機を命じているのだろう。

 となれば、自分達がやるしかない。ならば、敵のトリガーの性能を一からまとめておく。

 相手は飛行可能の射撃タイプ。射撃の威力も民家を一つ二つ吹っ飛ばす威力だ。トリガー角によってトリオン量も自分達では段違いで、弾切れを望むことは出来ない。というか、弾切れまで撃たせるわけにもいかない。それに対し、自分達は最高峰といえど、アタッカーの間合いでしか発揮出来ない。やはり、相性は最悪だ。

 しかし、その程度で勝つのを諦めるほど、ボーダー最高のアタッカーの連携は甘くない。

 

「三上、近くに市街地Dや工業地帯のような場所はあるか? いや、近くでなくても良い。警戒区域であれば良い」

『探してみます』

「それと、菊地原のサイドエフェクトをリンクだ」

『了解』

 

 三上に指示を出した後、歌川と菊地原に視線を移した。

 

「歌川、菊地原。やるぞ」

 

 短く指示を伝えると、行動に移した。

 

 ×××

 

 警戒区域外。玉狛第一の面々がアフトラトルの遠征メンバー、ヒュース、ヴィザとぶつかっていた。

 機関銃とアサルトライフルのアステロイドでヒュースに集中射撃をするレイジと烏丸。

 しかし、反射盾と宙に浮いた尖ったカケラによって、弾丸は器用に跳ね返ってくる。それをバックステップで回避した。

 

「あの盾、やっぱ撃って壊せる感じじゃないすね。弾はやめておきますか?」

「そう思わせて接近戦を誘っているのかもしれん」

 

 あのトリガーの仕組みはわからないが、まだ距離を保っていた方が良さそうだ。後ろのC級から離れるわけにもいかない。

 

「小南の一撃に繋げるぞ。もう片方にも注意しろ」

「了解!」

「了解」

 

 しかし、小南の中には引っ掛かりがあった。今の戦闘ではなく、やはり海斗の事だ。死ぬ、とはどういう事だろうか? 結局、二宮隊のメンツは教えてくれなかったが、やはり気になってしまう。

 そんな小南に、内部通信でレイジが声を掛けた。

 

『陰山の事なら気にするな』

『……レイジさん?』

『おそらくだが、迅が死ぬ未来が見えた、と二宮隊のメンバーに伝えたのだろう。でも、お前には伝えなかった。それはつまり、お前は知らない方が良い未来だったって事だ』

『……』

『初めての恋人だ。それが死ぬなんて話を聞けば気になるのも分かるが、今は目の前の敵に集中しろ』

 

 そうだ。迅は幅広い未来を見る。もしかしたら、自分が海斗に関して気になった所為で、目の前の敵に集中出来なくなり、何もせずに落ちる未来が見えたのかもしれない。いや、下手をしたらそれによって狙われている千佳を奪われる可能性すらある。

 

『……了解よ』

 

 短く返事をすると、小南は頭の中でスイッチを切り替えた。

 

 ×××

 

 基地南部では、二宮隊と泥の王が正面からぶつかりあっていた。エネドラからの全方位攻撃を、二宮達からの援護もあって全て回避した海斗は、一気に距離を詰めて両手のスコーピオンで細切れにした。

 両腕、頭、右脚、腰を切断したが、すぐに元の体に戻り、反撃してくる。それを回避しながら、距離を置いた。

 

(なんだこのクソ猿……! 移動だけじゃねぇ、手の速さも尋常じゃねえぞ……!)

(なんだこのクソオカッパ……! マジでロギアなんじゃねぇの?)

 

 お互いに奥歯を噛み締め、効かない攻撃と当たらない攻撃をぶつけ合う。お互い、余計にイライラし始めていた。

 特に、エネドラは腑に落ちないなんてものではなかった。死角からの攻撃を避けられるのは、百歩譲っても経験による勘とも取れる。そこまで年食ってるように見えないが、遠征メンバーの中にも似たような直感を持つ爺さんがいるから。

 しかし、狙いを変えて後ろで援護している猿を狙っても見切られるのは納得がいかなかった。何かトリックはある。トリガーか? しかし、その割に他の同じ服を着た猿どもは目の前の茶髪猿の声が無いと避けようともしない。

 まぁ、何にしても茶髪を消せば終わる話のはずだ。どんなにサイドエフェクトで先読みしても、チームメイトが援護してくれても、回避には限界がある。

 海斗は左腕がない状態だ。

 

「……チッ、雑魚のくせに、ピョンピョン跳ねまわりやがって……!」

「俺も覇気が使えればなぁ。いや、ある意味ではこのクソサイドエフェクトも見聞色の覇気か?」

「何の話だオイ⁉︎」

「ワンピース!」

 

 近くの瓦礫を掴み、エネドラに放り投げる。本体ではなく、液体の上に、だ。自身の体を誇大化させないとブレードには出来ないのなら、液体や気体のうちに分離させてやれば良い。

 当然、液体の部分をブレード化させれば瓦礫など容易く砕けるわけだが、無駄な処理情報を増やしてやるだけでも敵に手間を与えられる。もちろん、バカの考えた作戦ではなく二宮の指示だ。

 しかし、海斗としてもそれで上手く戦えているわけではない。こちらの攻撃も一切、効果が無いのだから。

 

「チッ……!」

「陰山、退がれ」

 

 二宮の指示に従い、海斗が後方に遠退いた時だ。背後から二宮のフルハウンドがエネドラに降り注ぐ。いや、エネドラどころかそこら一帯全てを吹き飛ばす威力だ。

 砂煙が舞い上がり、エネドラの姿は見えなくなる。普通のトリガー使いなら肉片一つも残らない威力だ。例え黒トリガーであっても無傷じゃすまない。

 しかし、今回の相手は普通では無い。

 

「陰山、どうだ?」

「全然、ピンピンしてます。多分、供給器官を自由に移動させられるんでしょう。地中にでも隠してるんじゃないですか?」

「……なるほど」

 

 二宮は小さく舌打ちする。つくづく、面倒な相手だ、と。

 

「煙に紛れて来ます。全員下がるか息を止めて」

 

 海斗の指示で、4人で後方に飛び退いた。正直、手がないわけでもない。しかし、それをやるには近距離で海斗と同等の速さで敵を斬り刻める奴がいないと実行出来ない。

 

「……なら、別の方法を探るしかないか」

 

 そう思った直後だ。氷見の声が届いた。

 

『二宮さん。報告が』

「なんだ?」

『B級合同部隊の一部がこちらに来ています』

「なんだと? 遠ざけろ。B級隊員では、いたずらにこちらの戦力を減らすだけになる」

『いえ、それが言っても聞いてくれなくて……』

 

 その直後だ。視界に入っている海斗も犬飼も辻も動いていないにも関わらず、エネドラに爆撃が降ってきた。エネドラの周囲を囲むように炸裂弾が六ヶ所、爆発し、二宮の視界もふさがる。

 さらに、その煙の中に突っ込む人影が見えた。あまりの勢いに煙は一気に晴らされ、その時には突っ込んだ人影はエネドラの背後に立っていて、エネドラの身体はバラバラに刻まれている。

 最後に何処からか一本の射線がバラバラになったエネドラの胸と頭を貫通する。しかし、当然だがすぐに再生されてしまった。

 

「よォ、海斗。随分とお疲れみてェだなオイ」

 

 耳元に海斗が一番聞きたく無い声が届いた。思わずうへぇっとゲンナリした表情になってしまう。

 立っていたのは、影浦雅人。さらに遅れて北添尋が降りてきた。確かに、この部隊ならA級にも引けを取らないし、簡単にはやられないだろう。特に、影浦のサイドエフェクトなら攻撃も回避出来るし、これ以上にない人材だ。

 ただ一つ、海斗との仲を除けば。

 

「……何しに来たチリチリ野郎」

「ああ? どっかのB級一位部隊が苦戦してるみてぇだから助けに来てやったんだろうが。ありがたく思えバカ」

「どっかのB級一位部隊って、特定してんじゃねえか。ランク戦の順位がそんなにコンプレックスかこのヤロー」

「テメェのダセェ茶髪と高二病が極まった眉間のシワに比べりゃ屁でもねーよ」

「イカ墨綿アメみたいな頭した奴が言えた事かボケ」

「……」

「……」

 

 まさに一触即発、といった感じだ。味方同士で。さすがに二宮も北添も呆れてものが言えなくなる。お前ら大規模侵攻中にもそれか、と。

 そんな中、二人に向かって地中から黒いブレードが飛び出した。

 

「! 海斗くん!」

「カゲ!」

 

 犬飼と北添がカバーしようと銃口を向ける。

 しかし、二人はその攻撃に見向きもせず、拳(実際にはブレード)を亜音速に近い速さで動かした。泥の王の二撃は全く同じタイミングで弾き壊され、その後にエネドラが続いて出てくる。

 

「テメェら……クソ猿が三匹、増えやがったか……!」

「クソ……」

「猿……?」

 

 その言葉に、海斗と影浦が片眉をあげる。あ、これは地雷を踏んだかな? と二人を知る全ての人が思ったのだが……意外にも馬鹿二人の表情は徐々に緩んで行った。

 エネドラが「あん?」と声を漏らす中、やがて二人は「ぷふっ」と吹き出し始める。

 

「プッハハハハハ‼︎」

「ギャハハハ! な、なんだテメェ! いきなり自己紹介始めやがって!」

「ああ⁉︎ んだコラ! テメェらの事を言ってんだよ‼︎ 大体、俺の何処がクソ猿だコラァッ‼︎」

 

 しかし、二人は笑うのをやめない。それどころか、聞かれたことに対してご丁寧に説明まで始めた。

 

「ああ? いや猿の方は知らねえけど」

「基本的に固形で」

「たまに水っぽくなるって」

「どう考えもクソそのものじゃねえか」

「クソは気体になんのかよ!」

「ああ? んなもん、決まってんだろ」

「言わなきゃわかんねーのかよ」

「「屁だよ」」

「ブッッッ殺す‼︎」

 

 本気でブチギレたエネドラがフルパワーで全方位攻撃をぶっ放すのを、バカ2人はサイドエフェクトを全開に用いて回避する。

 周りで見ている二宮は「こいつらツボと感性同じなのか」とか「本当はかなり仲良いんじゃないのか?」とか「あの近界民も普通にトリガーの情報を漏らしたな」とか色々と思ったが口に出さずに、元気に暴れる2人を援護するためにその場にいるメンバーに通信をした。

 

「全員、あの二人を援護するぞ。犬飼、辻はさっきまでと同じように海斗の背後を守れ。北添、二人が先読みしても避けれない攻撃の時か俺のフルアタックのタイミングで、テレポーター二人を無理やり引き下げろ。絵馬、奴は地中を移動することも可能だ。陰山から指示があれば狙撃ポイントを変えろ」

 

 4人とも「了解」と返事をした。二宮隊が嫌いな絵馬としては、その隊長の指示を聞くのは憤慨物だったが、影浦と陰山の助けになると思えば我慢出来た。

 さて、バカ二人は。正面から影浦が飛び出し、マンティスによってエネドラの首を取りに行く。

 綺麗に吹っ飛ばした首からブレードが伸びてきたが、しゃがんで回避すると、ブレードの上にスコーピオンを引っ掛け、滑り降りながら両足を揃えた蹴りスコーピオンをボディに叩き込む。

 しかし、ボディもパシャっと弾け飛び、ダメージはない。その水滴から細かいブレードが影浦を囲むように降り注ぐ。海斗がスラスターレイガストを投擲し、それを影浦に掴ませて脱出させる。

 その海斗の足元からブレードが伸びてくるが、それを後ろにそり身して回避した海斗は、スコーピオンを指先に纏わせて黒いブレードに貫通させると、無理矢理、地中から引き抜いた。

 ズボボボッと芋掘りのようにエネドラの身体が引っ張り上げられる。しかし、エネドラとしてもただ引っ張られたわけでは無い。むしろ逆襲のチャンスだ。

 至近距離からのフルアタックを前に、海斗は何もしなかった。何故なら、そのエネドラの背後から影浦がスコーピオンを両手に、フルアタックする前にバラバラにしてしまったからだ。

 当然、飛沫が2人を囲うように落下し、一斉に二人に襲いかかる。それに対し2人は、お互いの背後をかばうように交差し、背後の飛沫からブレードが出る前に斬り払った。

 

「クソッタレが……‼︎」

「「それはテメェだ‼︎」」

 

 出て来たエネドラの顔面にも、間髪入れずに拳を叩き込む。さすがに地中から移動し、エネドラは距離を取った。

 そんな戦闘を背後で見ていた犬飼や北添達は、ただただ真顔になった。なんていうか、連携の練習も事前の打ち合わせもしていないのに、あの息の合いようがすごい。え? それアドリブなの? と言わんばかりだ。

 

「てか、テメェ! 余計な真似すんじゃねぇよ! するんならもっと俺の動きに合わせろバカが‼︎」

「こっちのセリフだボケ! 他人に何でも合わせてもらおうとするんじゃねぇ!」

 

 しかも、まだ本人達的にはズレがあるらしい。そんな二人の前に、エネドラはズズズッと本体を現す。

 

「テメェら……なめてやがるな……!」

「「いやいや、う○こはなめねーよ」」

「いつまで引きずってんだ猿どもがァアアアア‼︎」

 

 怒りのあまり、再びフルパワーの全方位攻撃を放つが、それこそ二人は一番躱しやすいものだった。

 的確に攻撃を躱しながら、二人は内部通信でチームメイトに声を掛けた。

 

『二宮さん、ここで決めます』

『ゾエ。ここで終わらせんぞ』

『俺達が奴を粉々のバラバラにします』

『テメェのグレランで地中に埋まってる奴の肉片ごと掘り返せ』

『二宮さん達には、バラバラにした飛沫を一つ残らず撃ち抜いて欲しいです』

『ユズル、テメェは逃げようとしてる部位があればそいつをブチ抜け。そこに核があるはずだ』

 

 指示の出し方も完璧に息があっていた。分かりやすく且つシンプルな2人らしいゴリ押しである。ちなみに、二宮が考えていた作戦も同じだった。

 身勝手なのも同じで、返事を待たずに突撃した。迫り来る津波のような黒いブレードに対し、スコーピオンで刻んだり、液状の弱い部分に瓦礫を蹴りつけて軌道を反らしたりして、阻害してくるエネドラの猛攻を跳ね返した。

 

「クッ……猿どもが……!」

 

 またクソって言うといじられる気がしたので、猿に切り替えるエネドラだったが、焦りは本物だった。背後から奇襲を仕掛けたかったが。

 

「ほいっ、と」

「旋空孤月」

 

 後ろの邪魔な黒髪スーツとデブがそれをさせない。他のチームメイトも何処から仕掛けても援護出来るように散開し、射撃して来ている。

 

「北添!」

「ほいほい。メテオラ」

 

 海斗と影浦が残り数メートルの位置に接近した時、北添のメテオラがエネドラを囲むように落下した。まるで小さな隕石がいくつも落下してきたようにクレーターを形成する。地面を大きく抉り、地中に潜めていたエネドラの一部も出て来る。

 

「グッ……まさか、この俺が……!」

 

 逃げ場を失った。いや、また潜れるが、目の前の猿二匹が自分を斬る方が早い。

 そうなれば、もはや手は一つだ。

 

「ふざけんな! 俺は、黒トリガーだぞ‼︎」

 

 至近距離からのフルアタック。それが海斗と影浦に襲い掛かる。二人の頬や身体を掠め、影浦の右腕を吹っ飛ばしたが、それでも勢いは止まらない。

 直後、2人の両腕が消えた。一瞬、自分が斬ったと希望したが、錯覚に過ぎなかった。気がついた時には、二人は通り過ぎ、自分は粉々になっていた。

 

「全員、総攻撃。肉片を一つ残らず撃ち落とせ」

 

 直後、二宮の指示が飛ぶ。エネドラが再生を望む前に。誰の弾丸かは分からない。身を潜めていたエネドラの下核を、白く光った弾が撃ち抜いた。

 

 ×××

 

 戦闘中の小南は、のらりくらりと自分の攻撃を凌ぎ続けている爺さんを前に思わず身震いをさせた。嫌な予感が背筋を伝ったからだ。

 しかし、それは隙になる。ヴィザが杖をゆっくりと上げた直後、反射的に後ろに遠のいた。

 

「っ……」

「おや、何かありましたかな? 動揺が見えましたが」

 

 その通りだ。ヴィザが殺すつもりであれば、今頃自分は緊急脱出していたかもしれない。

 聞いた話によれば、海斗も黒トリガーと戦っているらしい。

 

(海斗……!)

 

 奥歯を噛み締めつつも、自分は海斗も強いことを必死に思い直し、再び斧を構えた。

 

 

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