ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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戦争の終結は地味。

「くそッ……! 本部、こちら三輪! バ……陰山が生身のまま敵近界民に拉致された!」

 

 目の前からバカが消え、三輪はすぐに忍田に報告した。今は目の前の敵に集中しないといけないが、無防備な友人が囚われたとあれば報告しないわけにもいかない。

 目の前から来るラービットに鉛弾を浴びせて動きを止めつつも、トドメまでは手が回らない。こういう時、攻撃力0防御力100の仲間だけでは頼りにならない。敵の数が減らないからだ。

 その上、ワープ使いが上手い事、援護に回っている。ラービットをワープさせたり、黒い棘で隙を突いて来たりと、おかげで大忙しだ。

 しかし、それでもまだ三輪に被弾箇所がないのは、バカと個人ランク戦を積み重ねてきた結果とも言える。

 そんな時だ。目の前のラービットが突然、真っ二つに裂けた。

 

「⁉︎」

 

 その後ろに立っていたのは、あまり見慣れないショートカットの斧使い、小南桐絵だった。

 

「無事?」

「無事だ」

 

 五体満足である。しかし、この硬い新型をダメージが入っていたとはいえ一撃で真っ二つにするとは……玉狛のトリガーの強力さに感心しつつ、現状を伝えた。

 

「C級は何人かキューブにされたが、まだ捕まってはいない。道に落ちているのがそうだ。正隊員は俺とメガネしかいない」

「海斗は?」

「……」

 

 返事がないことに小南は片眉をあげる。

 

「何?」

「小南、後にしろ。今はC級のカバーだ」

 

 レイジが指示を出すと、小南は頷いてラービットの相手に回った。これ以上、C級を奪われるわけにはいかない。

 全員を守りながら、ジリジリと本部の入り口まで後退する。

 

 ×××

 

 ハイレインと海斗の攻防は、大人と子供の喧嘩のように一方的だった。冠の卵による派手な撹乱と、動物達の地味な足止めにより、海斗の気はいちいち散らされ、その隙にハイレインのトリオン体での殴打が来る。紙一重で急所を避けていなければ、一発でノックダウンされている威力だ。

 勿論、海斗もやられっぱなしではなく反撃を何発か当てているが、生身の攻撃はそもそも効果が無い。微妙に後退させているだけで、目に見えた効果はなかった。

 

「チッ……涼しい顔しやがってこの野郎」

「……」

 

 戯言には付き合わない。さっさと殺して金の雛鳥を獲りに行く。

 しかし、海斗としてはC級が逃げるまでの間、1分1秒でも引きつけたい所なので、口喧嘩に付き合ってもらえないのは困る。逆に、C級が逃げられれば黒トリガーなんか必要ない。差し出したって構わない。

 そんな海斗の考えがまるでお見通しなハイレインは、再び地面を蹴って陽動の鳩を散らしながら地面を蹴った時だ。

 海斗の前に「盾」の文字と薄暗い黒の膜が現れる。

 

「っ!」

 

 それにより、ハイレインは一時、後方に飛び退いた。

 海斗の横に、小さな援軍が飛んできた。

 

『遅くなったな、カイト』

「……炊飯器?」

『レプリカだ。ジンとユウマの指示により、援護に来た』

「援護ぉ? テメェに何が出来んだよ。戦えんの?」

『私はユウマのトリガーを使える。トリオン体を強化する「強」、物体を弾く「弾」、シールドを張る「盾」、敵を拘束する「鎖」、それとボーダーのトリガーから頂戴した「射」「錨」、他に分裂、解析、ブースター、情報記憶・開示も可能だ』

「覚えきれねーよ。まぁ良いわ」

 

 しゃがんでいた海斗は、よっこいせと立ち上がった。首をコキコキと鳴らし、ハイレインを睨んだ。

 

「戦えるんなら文句はねーわ。とりあえず、俺の動きに合わせて戦え」

『承知した』

「え、出来んの? 大体、みんな文句言うんだけど」

『私はユウマと共にカイトの戦闘を何度も見ている。可能だ』

「ほほう。じゃ、遠慮なく」

 

 そう言うと、海斗はレプリカの身体を鷲掴みする。レプリカから「えっ」と声が漏れた気がしたが気にしない。

 

「鎖」

『心得た』

 

 レプリカから近くの瓦礫に対して鎖が伸び、連結する。脚を思いっきり踏ん張ると、海斗は両手の力を目一杯入れて振り回した。

 

「フンッ……グゴゴッ……‼︎」

 

 振り回そうとすると、レプリカはブースターを使い、一気に振り回した。これにより、ハイレインは下手に近付けない。

 丁度、目標から真逆のところまで振ると、一気に上に持ち上げる。正面から、瓦礫をハイレインに叩き付けた。勿論、いくらブーストしていても所詮はトリオン以外での攻撃だ。ハイレインは無言で瓦礫を頭上で握っていた。

 しかし、それは海斗にも読めていた。レプリカのスラスターを使って鎖を一気に縮めると、高速での飛び蹴りが舞い上がった砂煙の中から飛び込んでくる。

 

「ッ……!」

 

 後方に蹴り飛ばされつつも、片手を地面に着いて着地するハイレイン。ダメージは無いが、良いのが入った。このままでは粘られる。どうやら、あの黒い炊飯器の自立型トリオン兵は中々、戦えるようだ。次の手を打たれる前にキューブにする。

 

「『冠の卵』」

 

 手元から、大量の鳩を召喚した。自身の防御を固めつつ、攻め込んで来たところを返り討ちにする。

 目の前から海斗の姿が消えている。トリオン体でなければレーダーに反応しないため、その辺はある意味では厄介だが、おそらく落ち着きのない性格のあの男なら直ぐに仕掛けてくるだろう。

 案の定、すぐに姿を現した。どこから持って来たのか、玄関を半分にしたものを手に持って。炊飯器の姿は見えない。

 よく見れば、海斗の周りには黒い豆粒が5体ほど並んでいた。

 

「行くぞ」

『心得た』

 

 直後、玄関を持って突撃した。鳩の目眩しが飛んで来たのに対し、海斗は横に回転しながら回避し、サイドスローで玄関を投擲した。

 生身から投げられたとは思えない速度と回転で飛んで来た。それを今度はハイレインは回避した。正面のガードが削られてしまったが、すぐに再生出来る。

 しかし、海斗の周りの黒豆粒から射撃がとんできた事により、正面のガードが剥がされ始めた。

 

「チッ……!」

 

 どんなにデカイトリオンでも、一発当たれば無力化出来る強力な黒トリガーだが、逆にどんな小さい攻撃でも同じように相殺されてしまう。

 それが五箇所から飛んで来るため、徐々にだがシールドが剥がされる。正面のみを狙っている以上は、やはりあの少年が殴り掛かってくる算段なのだろう。

 しかし、それだけで崩せるほど黒トリガーは甘くない。両サイドのガードを外し、正面に集中させつつ、豆粒に向けて迎撃を始めた。あれがなんなのか分からないが、トリオンであればキューブにしてやれる。

 直後、ドドドドッと背後から自分の肩と腹を小さな弾が貫通する。

 

「⁉︎」

 

 何かと思うと、後ろにレプリカが浮いていて口を開いていた。まさか、序盤の玄関の投擲の時に潜ませていたのだろうか? 

 それにより、小さくともそれなりのダメージが入る。しかし、お陰でまず潰すべき敵が近くに現れた。レプリカ本体に向けて蜂を飛ばそうと卵から生み出すが、正面から走り込んでいた海斗のアッパーが顎に入る。

 

「ッ……!」

 

 一発入れば海斗の猛攻は止まらない。次は左脇腹、右膝へのローキック、蹴りによって強制的に折り曲げられた膝の上に乗ってジャンプし、空中で回転しながら後ろ回し蹴りを放ち、後方に蹴り飛ばすと、片手を横にかざした。

 その手の中にレプリカは鎖を放つと共に、自身に「強」印を掛けてスラスターを放つ。勢いを利用して、レプリカをハイレインに叩き付けた。ボディに直撃し、それなりにダメージが入る。

 さらに追撃しようと、海斗は接近して顔面に拳を放とうとした時だ。その前にハイレインは手を伸ばし、拳を掴む。ギリギリと力の押し合いになるが、そうなれば海斗に勝ち目はない。

 油断無く、ハイレインと海斗の周りには魚と鳥と蜂が張り巡らされ、レプリカもチビレプリカも侵入する隙は無かった。

 

「……調子に乗るなよ」

「ッ……!」

 

 左手の拳を放ったが、それも受け止められ、顔面に頭突きを叩き込まれた。一撃で意識を持っていかれかけたが、片膝をついた時に自分の顔面を殴り、気付する。

 意識をハッキリさせたのだが、その海斗の腹にハイレインの蹴りが入り、地面に叩きつけられる。

 

「グアッ……‼︎」

「泥の王を返してもらおう」

 

 さらに、顔面に拳が降り注がれるが、海斗の懐に隠していたちびレプリカが出て来て盾を張る。そんなものは一時的な凌ぎにしかならなかった。すぐにキューブにされてしまい、首を掴まれ、ギリギリと締められる。

 

「っ……!」

 

 脚が届かないところまで持ち上げられたあと、ハイレインは海斗の学ランのポケットに手を入れた。蹴りや拳を放つが、手は離されない。ゴソゴソとポケットを弄られた後、泥の王を拾われてしまった。

 

 ×××

 

 ヒュースとA級合同チームの戦闘はその辺一帯が真っ平らになる程の激化を見せたが、すぐに決着は付いた。

 元々、戦闘員が一人しかいない冬島隊に追加し、アタッカー2人とスナイパー2人とシューター1人がついたのだ。出水と米屋と緑川の連携の上、ワープするスナイパーの一閃が見事に突き刺さり、ヒュースはトリオン体から戻った。

 ワープ使いが回収に来る……と、予想したのだが、4〜5分待っても来ないので連行している所である。

 連行しているのは現場にいた3人。一応、連行中に戦闘になった時を考慮し、多目に人数を割き、スナイパーとトラッパーは別の現場の援護に向かった。

 

「しかし、大丈夫かね。三輪とバカの方は」

 

 米屋が軽いノリで声を掛ける。

 

「それな。なんかあの爺さんめっちゃ強そうだったし。黒トリガーなんだろ?」

「オレも聞いたよ。こっちに結果、6人も来ちゃったけど向こうに人数割かなくて良かったのかね」

 

 出水と緑川も頷く。相性は悪くないが、黒トリガーに相性なんてものは基本的に無意味だ。

 

「つーか、海斗も良くやるよな。敵から黒トリガー奪って遠征艇にカチコミに行くとか。あのバカじゃなきゃまず出来ねーから」

「ホントそれ。色んな意味であいつは遠征には連れてけねーな」

「遠征に行って死者が出たなんて事があったら、ご両親に何を言えば良いかわからないもんね」

 

 緑川がそう言うと、出水と米屋は「いやいや」と首を横に振る。

 

「あいつに家族はいねーから。前の大規模侵攻で死んでる」

「そうだよ。まぁ、本人は気にしてないらしいけど」

「へぇ……そうなんだ。知らなかった」

「だからかね、あいつ自分に何があっても自己責任になるから、割とやりたい放題やってるもんな」

「ボーダー入る前はヤンキー狩りしてたし」

「あーそれは聞いた。正当防衛の陰山、だっけ?」

「そうそれ」

「どんな喧嘩してたらそんなあだ名つくんだっつのな」

 

 そんな緊張感のへったくれもない会話をしながら連行されているヒュースは、静かに耳を傾けていた。

 なるほど、と心の中で相槌を打つ。今回、自分達の遠征の計画が逸れるに逸れまくったのはその男の所為か、と。

 その上、少なくとも自分はまだ様子見のつもりだったとはいえ、蝶の楯と互角にやり合った腕前だ。

 

(玄界の進歩も目覚ましい、か……)

 

 心の中で、進歩のない人間の顔を思い浮かべながら、そんな事を思った。

 

 ×××

 

 ヴィザと遊真と迅の戦闘は、二人掛かりでもヴィザが押していた。攻めは遊真、守りと援護は迅が引き受けていたのだが、どうにも攻めきれないどころか守りきれない。

 遊真の黒トリガーは中々に多彩だが、それらから繰り出される攻撃は全て凌がれている。その上、あの斬撃が無くても瞬速の居合は予知で分かっていても対応しきれない速さを誇っていた。

 その上、海斗の援護にレプリカを寄越してしまったため、中々に厳しい。

 

「……こりゃ、シャレになってないな……」

 

 迅から珍しく弱音に似た呟きが漏れる。ここはどうしても負けるわけにはいかない相手だ。ここで負ければ、この超人爺さんはフリーになり、他の戦地に向かってしまう。海斗が死に、千佳が連れ去られるのは最悪の未来だ。修が死ぬ未来も、まだ完全に消えたわけではない。

 それならばいっそ、足止めだけで十分かもしれない。

 

『遊真』

『何?』

『計画変更だ。このじいさんは、ここに釘付けにしよう』

『それでウィスサマは助かるの?』

『‥……わからない。正直に言って五分五分だ』

 

 迅の表情は真剣そのものだ。ウソは言っていないのはよく分かるが、五分五分と言われてあまり良い気はしない。運の要素がデカすぎる。

 次の海斗関連の報告で、このまま行くとどうなるか分かる。端的に言って、海斗が生きるか死ぬか、だ。

 ちょうどその時、耳元に通信が届いた。

 

 ×××

 

「到着した。陰山の救援に入る」

 

 報告したのは、二宮匡貴だった。生身のままボロカスにされて、人型近界民の足元に転がっている海斗と、顔に亀裂が入り、煙を漏らしているレプリカを見て、二宮は心底舌打ちをした。

 

「おい、お前は無事なのか」

 

 二宮が声をかけると、胸ポケットからちびレプリカが声を出す。

 

『問題ない。ほとんどの機能は停止しているが、サブ電源に入れ替えた』

 

 二宮が居場所を知っていたのは、事前に迅からちびレプリカを受け取っていたからだ。

 

「……そうか。C級が逃げるまでの時間は?」

『およそ、4〜5分といった所だ』

「分かった」

 

 二宮は両手に無数のトリオンキューブを浮かべる。その二宮を見て、ハイレインは冠の卵から魚や鳥を出す。

 

「ミラ、泥の王は確保した。こちらに来れるか?」

『了解致しました』

 

 返事を聞くと、早速黒い穴が背後に出現する。それに向かって二宮は。

 

「ハウンド」

 

 フルアタックをかました。もちろん、鳩や魚に防がせるが、二宮の攻撃は止まらない。

 

「チッ……!」

 

 さらに、犬飼の援護も入る。それでも、壊れたレプリカを拾ったハイレインにワープを許してしまった。C級の元に向かってしまったが、そちらへはすぐに行けるので問題ない。

 その前に辻が海斗を拾い、肩を貸した。

 

「海斗くん、無事? 聞こえてる?」

「……いたい。あの野郎、本気で殴りやがって……」

「意識はあるんだ……。立てる?」

「当たり前だろ」

 

 海斗がゆっくりと立ち上がり、額から流れている血を拭う。

 

「ていうか、なんでいるの?」

「お前を助けに来たに決まっているだろ、バカめ」

「あ、そうでしたか。ありがとうございます」

 

 二宮が高圧的に言った。立ち上がった海斗は、血が出過ぎたのか足元がふらついてしまう。

 

「すみません、二宮さん。C級が逃げるまで気を引く予定だったのですが……」

「黙れ。お前はもう何もするな」

 

 怒りのポイントを理解していない海斗を黙らせ、すぐ指示を出した。

 

「トリガーはまだ使えるか?」

「トリオンを構成する程度でしたらありますが」

「なら、それを使って本部に帰れ。ここから先は俺達の仕事だ」

「いや、まだやれますよ?」

「お前は十分、よくやった」

「や、だから」

「ラーメン」

「帰ります」

 

 帰った。

 海斗が本部に向かって歩いていくのを眺めながら、二宮は地面に手をついた。

 

「冬島さん、お願いします」

『あいよ』

 

 ワープを使い、C級防衛の戦場に向かっていった。

 

 ×××

 

 C級の防衛戦に二宮隊が到着し、玉狛と三輪と合流した。ハイレインの弾幕に対し、レイジがフルアームズで対応していた。

 二宮隊が現れた事により、黒トリガー使いの2人は足を止めた。

 

「……」

「如何されましたか? 隊長」

「これ以上は、消耗戦になるだけだな。撤退だ」

「そうですか?」

「敵の巣まであと数十メートル。その上、手練れが四人だ。ヒュースも敗北し、ヴィザも抑えられている。金の雛鳥の確保は無理だ。ヒュースとエネドラの件にせよ、泥の王の確保にせよ、当初の目的は果たした。後は、ラービットに任せ、我々は撤退しよう」

「しかし、神になり得るトリオン量の持ち主など、そうはいません。今を逃せば……」

「それは他の領主にとっても同じだ。それに、元より遠征は空振る前提だった。それに、思わぬ収穫もあった」

 

 そう言うハイレインのポケットには、レプリカが入っている。

 

「……了解しました」

 

 そう言うと、アフトクラトルの遠征部隊は撤退した。

 

 




こうして私は、風刃の存在を最後まで忘れる。
色々と引っ張った割にどうにもこれ以上の展開が思いつかず、地味な決着になってしまいました。バトルものって難しいですね。
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