ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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ゾンビか、お前は。

 本部に到着した海斗は、二宮隊の作戦室に入った。

 

「ふぃ〜……やれやれ。疲れたわ」

「……疲れたのはこっちよ」

「あ?」

 

 直後、中から出て来たのは氷見だった。二宮隊のメンバーをずっと追っていた身としては、疲労が溜まって仕方なかった。何せ「寝坊→新型→黒トリガー→敵の遠征艇→人型二人(片方黒トリガー)→別の黒トリガー一人→生身」と、ちょっと普通じゃない激戦が連続している。

 だからだろうか、氷見はすごい形相で海斗を睨みつけていた。

 

「……あんた、本当にオペレーター泣かせね」

「え? あ、あー……もしかしてずっと俺のこと追ってた?」

「当然でしょ」

 

 ジト目で睨まれ、海斗は思わず目を逸らす。色から見て、どう考えても怒っている。

 しかし、それを押し殺して氷見はため息をついてから言った。

 

「……でも、帰って来たから許してあげる」

 

 どうやら、本当に心配かけてしまったようだ。何であれ、今度お詫びしないとな、なんて思いつつ、海斗は作戦室を出た。

 

「とりあえず、病院行ってくるわ」

「なんで?」

「結構、ボコボコに殴られたから。今はトリオン体だけど、生身になったらすごいよ」

「外はまだトリオン兵がいるでしょう。基地の医務室まで運ぶわ」

「いやいや、1人で行けるから」

「すみません、二宮さん。海斗くんが帰って来たので医務室まで運びます」

『了解した』

「聞いてる?」

 

 無視して氷見は海斗の腕を握って作戦室から出た。前科がある以上、簡単に逃すわけにはいかない。海斗としては逃げる気なんてなかったのだが……まぁ良いや、と思う事にした。

 2人で医務室まで歩く途中、海斗が「そういえば」と声を漏らした。

 

「他の所はどうだったん? C級って全部無事なの?」

「全部って……備品みたいな数え方しないの。残念ながら、そうもいかなかったみたいよ」

「何人か連れ去られてるんだ」

「部隊の到着が遅れた所はね。まぁ、まだ数えたわけじゃないから何とも言えないけど」

「小南は無事?」

「全然平気。今も元気に暴れてるよ」

「……あそう」

 

 正直、自分的には情けない気がしないでもなかった。トリオン体での戦闘ではあまり関係ないが、男が女よりも早く戦線を離脱することがなんだか嫌だった。

 数ヶ月の間、同じチームで付き合っていれば、単純な奴なら考えている事が分かる。氷見は海斗の肩に手を置いた。

 

「……別に、そんな事気にしなくて良いから。戦う場所によって、敵の数も戦力も違うんだし、たまにはそういう事だってあるわよ」

「や、まぁ分かるけどよ」

「なら、凹まないで。鬱陶しい」

 

 普通の人なら優しいんだか優しくないんだか分からない所だが、海斗ならサイドエフェクトで照れ隠しだとすぐに分かった。基本的に、氷見や風間は海斗に冷たい態度を取るので、気を使う時は必ず照れ隠しが入るのだがバレバレだ。

 かと言って、今日はそれをからかう気などないが。生身でボコボコにされて割と疲れが溜まっている。

 

「てか、今更だけど、この基地に医務室とかあったんだな」

「そりゃあるよ。民間人を保護する事だってあるし。この前だって、中学生の子たちを保護したよ。機密保持のために記憶封印処置になっちゃうけど」

「うえ、そんなこともできんの?」

「知らなかったの?」

「なんか悪の組織みたいだな」

 

 とは言うものの、海斗も民間人にトリガーが渡った時のことを考えるとゾッとしないわけでもない。トリガーを使えば、生身の攻撃など通らないのだから。強盗、窃盗、テロ、殺人なんでもござれだ。

 

「たまーに、警戒区域に民間人が侵入して怪我とかするからね。近界民が出る所に救急車呼ぶわけにもいかないし」

「ふーん……」

 

 大変だなーなんて他人事みたく思いつつ、医務室に到着した。

 

「さ、まずはトリガー解除しないと」

「あー、そうだな」

 

 海斗がトリガーを解除した時だ。直後、ふらりとした目眩が襲う。というか、そもそも視界が真っ赤だった。ていうか、さっきはすぐにトリガーを起動してしまったから気付かなかったが、左腕が動かない。

 

「か、海斗くん……?」

 

 隣から震えた声が聞こえる。氷見が怯えた目で自分を見ていた。近くにあった鏡を見ると、鏡に映った自分は頭から血が出ているだけでなく、鼻や頬からも血が流れて青く腫れ上がり、左腕は明らかに普通は曲がらない方向に曲がっている。

 

「……あれ、俺こんな感じなの?」

 

 そう思った時には、全身に痛みが走り、その場でぶっ倒れた。

 

 ×××

 

 残った戦場では、迅と遊真の前に立つヴィザの背後に、ハイレインとミラが現れる。

 

「作戦終了だ、ヴィザ。金の雛鳥は逃したが、泥の王は回収した」

「畏まりました」

 

 黒い穴に戻るヴィザ。その背中を無言で追いながら、消えるまで迅と遊真は黙っていた。

 

「っ……ふぅ、ヤバい爺さんだったな……」

「おつかれ〜。じんさん」

 

 割と疲弊した様子の2人は、3人がいなくなったのを確認して一気に力を抜いた。他にもトリオン兵は暴れているが、後から加古隊や嵐山隊が街の防衛に加わったりするので問題ない。

 ここから先、海斗や修が死ぬ未来も千佳が連れ去られる未来も見えない。とりあえず一息ついて、その場に寝転がった。しかし、ただ一人だけ、連れ去られてしまった仲間を除いて。

 

「……すまん、ユウマ」

「何が?」

「レプリカ先生は、救えなかった」

「……それはいいよ。レプリカがウィスサマを助けに行った時点で、それは覚悟してた」

 

 そう言う遊真を、少し驚いた様子で迅は眺めた。

 

「それに、レプリカがいなければウィスサマは死んでたんでしょ? それなら、仕方ないよ」

「……」

「それより、他の場所にもトリオン兵はいるんでしょ? 片付けに行こう」

「……ああ、そうだな」

 

 それだけ言って、二人はトリオン兵の処理に向かった。

 

 ×××

 

 C級を無事に送り届けた小南とレイジは、警戒区域外でトリオン兵を排除していた。結局、海斗が死ぬだなんだの話は聞かなかったが、今は市民を危険に晒さないことが大事だ。

 目の前のモールモッドを切り裂くと、後ろから生き残ったまま警戒区域外まで来たラービットが砲撃準備をしている。

 それに対し、小南は双月を投げた。右から小さい斧と、左からメテオラを飛ばし、曲線を描いてラービットに向かう。砲撃の準備をしている以上、狙いを変更できない。

 正面の小南への砲撃はジャンプで回避され、首と腕にそれぞれの攻撃が直撃した。ジャンプした小南は投げた双月を引っ込めて手元に出し、コネクターで接続して巨大なハルバードにすると、一撃で頭をカチ割った。

 

「ふう……」

 

 レーダーを確認すると、他のボーダー隊員達の活躍で敵のマークは急速に消えて行っていた。これなら、もう大丈夫だろう。

 そんな中、フルアームズを引っ込めたレイジが何か話しているのが見えた。

 

「……そうか。分かった」

「どうしたの? 次の敵?」

「小南、さっさと敵を片付けるぞ」

「え?」

「ボーダー隊員に怪我人が出たらしい。トリオン兵が多いと救急車が出せない。敵を早急に片付けて道を空ける」

「怪我人? 緊急脱出があるのに?」

「……そうだ」

 

 レイジは怪我人が誰だか知っている。しかし、下手な事は言えない。ほぼほぼ間違いなく、小南には影響する事だからだ。早く病院に搬送するなら、小南にはよく働いてもらった方が良い。

 幸い、良くも悪くも素直な性格の小南は、何一つ疑わずに戦闘を続けた。

 

 ×××

 

 C級を二宮隊と共に案内した三輪と修は、出水と米屋と緑川と合流して街の敵の排除を行なっていた。

 修が盾を使って敵の気を引いている間に、米屋と緑川が瞬殺し、その2人に気を取られた所を、出水と三輪が射撃する。

 一通り片付け終わり、出水が修の肩を叩いた。

 

「よう、メガネくん。流石、バカの弟子なだけあって良い護りだな」

「い、いえ、僕に出来るのはこれくらいですし……」

「いやいや、助かってるぜ」

「それ。俺と模擬戦やった時もなかなか、崩せなかったし」

 

 米屋と緑川がさらに修の肩を叩いた。改めて見ると、豪華なメンバーである。A級1位射手、A級4位攻撃手、A級6位万能手、A級6位攻撃手、そして自分がB級21位射手。4人は自分を褒めてくれてはいるが、1人ではモールモッド一体が相手でも手間取るのが自分だ。

 もっと強くならなければならない。今度、またウィス様や烏丸先輩に修行してもらいたい。そんなことを思った時だ。

 

「そういえば、ウィスさ……陰山先輩はどうしたんですか?」

「あー……どうなんだろうな?」

「まぁ、あいつの事だから大丈夫だろ」

「三輪先輩は聞いていませんか?」

「俺も聞いていない。今は目の前の敵に集中しろ」

「あ、はい……すみません」

 

 そう言いつつ、三輪も気になってはいた。生身に戻り、そのまま人型とともに消えていった友人が気にはなっている。まぁ、死んだとか連れ去られたという話も聞いていないし、そういうのは真っ先に耳に届くはずなので大丈夫だとは思うが。

 

「次に行くぞ」

 

 三輪が声を掛けたことにより、全員が気を引き締めて敵に向かって行った。

 

 ×××

 

 前線にようやく到着した加古隊は、烏丸と嵐山隊と共に近界民を片付けていた。

 そのメンバーの先陣を切っている唯一の攻撃手の黒江双葉は、韋駄天を使って一気に敵を殲滅した。

 

「ふぅ……」

 

 出遅れたからか、ほとんどの敵は雑な死兵とも取れる敵ばかりだ。噂の新型とやらと戦ってウィス様との修行の成果を試したかったが……まぁ、今回はついてなかったと諦めるしかない。

 

「なんだか、ほとんど終わっちゃってるのね」

 

 隣の加古がそう呟いた。

 

「はい。せっかくの機会でしたのに……」

「まぁまぁ。そう凹まないの。例の近界民の国が離れるまで、まだ10日あるんだし、明日以降は三門市内で遊びましょうか」

「そうですね」

 

 そんな話をしながら、とりあえず尊敬すべき先輩の場所を探ろうとしたのだが……どうやら近くにはいないようだった。

 あまり情報は仕入れられなかったけど、あの先輩の事だから恐らく何処かでまたバカな活躍している事だろう。

 

「さ、遅れた分を取り戻すわよ。双葉」

「はい!」

 

 2人は元気に参戦した。

 

 ×××

 

 各地でボーダー隊員達が奔走し続け、ようやくトリオン兵の排除は完遂された。

 それにより、救急車が一台、本部の前に止まった。警戒区域を出るまではボーダー隊員が同行し、万が一の事態に備えていた。

 その現場に到着した小南は、救急車をぼんやりと眺めつつ、本部に入った。今は海斗と合流するのが先だ。

 そういえば、結局、二宮隊が話していた「死ぬかも」というのはなんだったのだろうか? まぁ、その辺は二宮隊の面々に聞けばわかる事だ。

 本部の中に入り、トリガーを解除して二宮隊の作戦室にスキップで向かった。

 

「お邪魔しまーすってあれ開いてないなんで」

 

 それどころか、中から人の気配もしない。もしかしたら、もう解散したのかもしれない。

 

「連絡してみようかしら」

 

 小南がメールを送れば、睡眠と入浴中以外は絶対に1分以内に返信を寄越すのが海斗だ。電話であれば10秒を過ぎたことはない。

 早速、スマホを取り出して電話を掛けたが……。

 

『お掛けになった電話番号は、電波の届かないところにいるか、電源が入っておりません』

 

 少し、嫌な予感がしないでもない小南は、とりあえず事情を知っていそうな予知男の元に走った。

 

 

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