ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

60 / 90
ドッタンバッタン大騒ぎ。

 先に手を出したのは影浦だった。近くにあった車にマンティスを伸ばし、グルングルンと回転しながら車を振り回し、二宮隊に叩き込む。

 その車を二宮と犬飼が回避する中、海斗はスラスター昇竜拳で車を突き破ってまっすぐと影浦の元に突っ込み、正面から空中で一回転しながら廻し蹴り、後ろ廻し蹴り、もう一回廻し蹴りの三連攻撃を叩き込む。

 影浦は全て回避しつつ、地面を両手で殴って下から太いマンティスを掘り起こした。

 コンクリートが粉々になって舞い上がり、ジャンプで後方に下がった海斗は、その宙に浮いたコンクリートの破片を足場にして移動し、接近しながらアイビスを放った。

 壁をぶち抜く威力も、回避されれば意味がない。あっさりと影浦が避けたことにより後ろの民家が滅んだが、一切気にする事なく正面からマンティスを構えて突っ込んだ。

 後ろに飛んだ海斗はアイビスを投げ捨て、両手からスコーピオンを投擲して牽制するが、全てマンティスに弾き落とされる。

 鞭状にシナるマンティスは道路や地面、民家の屋根をガンガン削ぎ落とすが、海斗は気にしない。

 接近を許されるのは想定内だった。レイガストを約束された勝利の剣のように伸ばした海斗は、一気に正面から振り下ろす。民家一つ両断し、影浦のマンティスも粉々に破壊した。

 しかし、横にスライドしつつ回転して躱した影浦は、煙に紛れて海斗に接近し、拳を構える。

 読んでいた海斗も拳を構え、お互いに顔面に向かって突き抜いた。

 正面から直撃し、若干、はみ出させていたスコーピオンは砕け、拳と拳がぶつかり合う。

 ワンピースのワンシーンのようなその光景に、モニターの前にいるボーダー隊員達は思わず半眼になった。

 

「……これランク戦だよな?」

「ドラゴンボールとかワンピースとかじゃないよな?」

「私にもあんな戦いができるでしょうか……!」

「双葉、お願い。やめて」

 

 若干、一名だけ憧れちゃってる奴がいたが、大半は引いていた。二人がいる所だけ、戦闘の衝撃で霧が晴れてきていた。

 

『影浦隊長と陰山隊員によるストームが発生! 周りの隊員達は巻き込まれないように距離を置き始めた模様! 見学中の訓練生には念のため申し上げます、真似しないで下さい!』

 

 出来ねーよ、と綾辻の実況に全員がツッコミを入れたのは言うまでもない。スコーピオンは元々、型がない自由な扱いが可能な武器だが、あいつらは自由にも程があるレベルのインファイトを繰り広げている。

 

『訓練生が真似すべきお手本の風間さん、どう思う?』

 

 加古が隣の風間に尋ねた。確かに、トップクラスのスコーピオン使いの中では風間が一番、まともな扱い方をしている。

 

『どうも何もない。個人ランク戦であれば悪くないが、部隊のランク戦で一人の相手に固執し、どちらかが死ぬまで殺し合うのは良いとは言えない』

『まぁ……確かに私が隊長でもいい加減にしてとは思うかもだけど……エースをエースが抑えるのは悪くないんじゃない? 影浦隊は元々、個人主義だし、二宮隊には二宮くんがいるし』

『結果的にそうなっているだけだ。俺が隊長なら部隊から叩き出す』

 

 逆に、二宮が海斗を部隊に置いてやっているのが意外だ。まぁ、影浦さえ絡まなければ、アタッカーなのにアイビスを持ったりとチームプレイを意識している所が見られなくもないから、置いてやる理由も分からなくはないが。

 

『どちらが勝つと思いますか?』

『さぁな。勝率が高いのは影浦だが、最近ではほぼ五分五分になって来ているし、どちらが勝ってもおかしくない。注目すべきは、東隊の動きだ』

 

 そう言う通り、モニターのマップ上では東隊の動きが見えない。ダミービーコンを起動し、ストームを食い合わせた割に、対応に追われている両チームの戦闘に参加しようとしない。

 このままでは、二宮隊が北添を削り殺し、さらに得点を得てしまう。それを指をくわえて眺めているような東では無いはずだ。

 モニターを見ていた風間には何となくその先の手が思い浮かんだ。これが当たっているのなら、次の狙撃手の一撃で確実に大きな動きがあると予測している中、その一発がモニターに映り込んだ。

 

 ×××

 

 狙撃ポイントについていた絵馬は、スコープから霧の中を見ていた。

 

『ドヒー! これゾエさん死ぬ本当に! テレポーターとストームと霧が無かったらとっくに死んでる!』

 

 耳元からチームメイトの先輩の情けない声が聞こえるが、気持ちは分かる。ストーム付近で二宮と犬飼に追われているのだから。

 

「‥……仕方ないな」

 

 ため息をつくと、絵馬は引き金を引いた。流石に手を出さないわけにはいかない。このままでは北添が死ぬだけだ。

 狙いは二宮ではなく犬飼。こちらの方が隙があるし、点も取れる可能性は高い。この霧では外す可能性も考慮し、ライトニングで弾速と連射を重視した。

 スコープの奥の犬飼の片腕は吹っ飛ばせたが、シールドを張ってすぐに退避された。

 しかし、お陰で北添は上手い事、距離を置くことに成功する。

 

「……よし」

 

 一応、狙撃ポイントを変えることにした。ストームの周りにはダミービーコンが大量に置いてある。今でこそストームに巻き込まれて減ってきているが。

 そのビーコンの効果は出ていない。自分なのか、それとも向こうが狙われているのかは知らないが、警戒するに越した事はない。そう思って移動しようとした時だ。

 旋空孤月が自分の身体を真っ二つにした。

 

「なっ……!」

 

 後ろを見ると、奥寺が孤月を振り抜いていた。

 

 ×××

 

 狙撃の直後、絵馬が緊急脱出した。それにより、正確に東隊の作戦が読めた二宮は、犬飼に声を掛けた。

 

「犬飼、狙撃を警戒しろ!」

「了解!」

 

 そう返事をした直後だった。犬飼の身体に穴が空いた。集中シールドも突き破る威力、アイビスだ。東の狙撃である事は明白だった。

 

「チッ……!」

 

 舌打ちをした二宮は、やや強引に両手にハウンドを出した。このままでは追い付かれる。北添に対し、フルアタックを仕掛けた。

 テレポーターで逃げるのは目に見えていた。これだけ見ていれば、北添のテレポーターの使い分けの予測はついた。攻撃に使う時は、影浦にとっても敵にとっても死角になる位置、そして回避の時は敵に狙われないよう、視界に入らない位置だ。

 

「ハウンド」

 

 右手の人差し指を立て、後ろに北添がいることが分かっているように。振り向きざまに北添に向けた。大量のトリオンキューブは北添に突き刺さるように襲い掛かり、すぐに北添を蜂の巣にした。

 

 ×××

 

 これで、二宮隊は3点、影浦隊1点、東隊2点、香取隊1点。人数は2対1対3対0だ。

 思わず、二宮の口から舌打ちが漏れる。東の狙いは最初から絵馬だった。そのため、ストームを食い合わせ、こちら側にはダミービーコンで強襲のフリをし、隙あらば狙撃でこちらの戦力を削ぐ。

 

「……チッ」

 

 流石、自身の戦術の師匠と言った所か。見事に決められてしまった。

 こうなれば、東隊が有利だ。そして、東隊の次の狙いは目に見えている。

 

「旋空……」

「……孤月!」

 

 左右から二発の旋空が放たれ、片方は回避して片方は集中シールドで防いだ。

 暴れている馬鹿二人は放っておいて、浮いたコマである自分をとりにくる。

 A級に上がるには必ず倒さねばならない敵でありながら、個人総合二位の二宮に対し、ジャイアントキリングを仕掛けてきた。

 いくら抜群のコンビネーションを誇る小荒井と奥寺が相手でも、普段なら負ける事はない。しかし、東が入って来る上にダミービーコンも既に周りに敷かれ、霧もあるとなると話は別だ。

 2人のアタッカーの攻撃はハウンドとアステロイドによって凌ぎつつ、狙撃に対しても警戒を解かない。

 弾速重視のライトニングの銃撃はシールドで抑え込んだ。

 

「チッ……」

 

 しかし、それにも限度がある。必ず距離を取らせないようにくっついて来るアタッカー2人がとても鬱陶しい。

 とうとう、東の狙撃が二宮の腕をかすめた。それにより、二宮はメテオラを使って爆破を起こし、強引に後方に飛び退いた。

 その直後、背後からレーダーに映った奥寺が近寄って来る。

 

「アステロイド」

 

 弾速威力重視の弾を叩き込んだ。しかし、穿ったそれはダミービーコン。背筋が凍りついたのが自分でも分かった。

 嫌な予感は的中した。奥寺と小荒井が一気に接近してきていた。両手には孤月を構え、左右からタイミングをずらして攻撃して来る。

 しかし、その攻撃が二宮に直撃することはなかった。

 

「誰の許可を得て二宮さんに斬りかかってんだクソガキどもがァアアアア‼︎」

 

 何故なら、怒声をあげたバカの蹴りが小荒井の顔面を直撃し、奥寺を巻き込んで後方に吹っ飛んだからだ。

 二宮の隣に降り立ったのは、陰山海斗。二宮隊のもう一人のエースだ。

 

「オイ、テメェら! うちの二宮さんに何ナメた事してんだ? アア⁉︎」

「……影浦は片付けたのか?」

 

 小物のチンピラのようなことを抜かす海斗にそう聞いた直後、レーダーに反応があった。奥寺と小荒井の後ろから、ゆっくりと歩いて来るチリチリ頭が見えた。

 影浦雅人が、後頭部をガリガリと掻きながら歩いて来ていた。

 

「チッ、急にいなくなったと思ったら、やっぱ二宮関係か」

「悪ぃかコラ。テメェを殺すより二宮さん優先に決まってんだろハゲ」

 

 影浦と軽口を叩き合う海斗に、二宮は隣から声をかけた。

 

「……決着がついていないのに、こっちに来たのか?」

「俺も子供じゃないんで。私怨より、二宮さんを助けることを優先すべきと判断しただけです」

「……」

 

 その言葉を聞いて、二宮の口から思わず笑みが溢れる。バカでも成長するのか、と初めて海斗の判断を褒められると感じた。

 が、それと同時に少しイラっとし、海斗の頭を小突いた。

 

「痛い⁉︎」

「誰が誰を助けるんだバカが」

 

 そう言いつつ、二宮はバッグワームを出して海斗に指示を与えた。

 

「海斗、お前は引き続き目の前のアタッカーを片付けろ」

「二宮さんは?」

「俺は東さんを取りに行く。場所はお前が指示を出せ」

「了解です」

 

 海斗のサイドエフェクトなら、たとえ霧があっても遠くにいる敵を視認することが出来る。

 その指示に従えば、逃げ切り戦法が得意な東を落とすのも可能だ。海斗が場所を指示すると、氷見がその場所にマーカーを指し、二宮は出撃した。

 一方、ストームの間に挟まれた小荒井と奥寺は。

 

「……どうする?」

「逃げる?」

「変態サイドエフェクトの2人に挟まれた状態から?」

「戦う?」

「本気でいってる?」

「やるしかなくね?」

 

 涙目になった2人は、半ばヤケクソになって突撃した。

 

 ×××

 

 モニターでは、海斗の意外な判断に風間は目を丸くしていた。

 

『……ほう。成長したな。あいつ』

『えー。もっと影浦先輩との熱いインファイトが見たかったです』

『双葉、あとで少しお話ししようか?』

 

 加古ににっこり微笑まれ、押し黙る双葉。

 

『でも、確かに珍しいわね。……まぁ、里見くんと遭遇したらどうなるか分からないくらいの二宮くん信者だから、あり得ない話でもないけど』

『二宮隊長は東隊長を抑えに向かわれたみたいですが』

『狙撃手が残っていると面倒だからな。陰山と影浦にサイドエフェクトがあるとはいえ、狙撃が混ざると三つ巴の戦闘に集中できなくなる』

 

 何より、と風間は言葉を継いだ。

 

『東隊の2人も影浦も、陰山が仕留めきれなかったお陰で、今こうなっている。そろそろ、暴れ始めると踏んだのだろう』

『なるほど……そういう事ですか』

 

 なんだかんだ、二宮からの海斗への信頼は厚い。頭の緩さはともかく、実力は本物だ。

 影浦も、その海斗との戦闘時は普段以上の実力を発揮する。マンティスだけでなく、ありとあらゆる手を使って海斗を殺しに掛かっている。

 ここから先のアタッカー達の戦闘は見ものだ。

 

 ×××

 

 霧の中、4人のアタッカーがぶつかり合う。海斗と影浦の間合いはスコーピオン使いの中でも広い。物を投げたり、車を爆発させたり、電柱を振り回したりとやりたい放題やるからである。

 そのため、奥寺と小荒井は下手に間合いに入ることをしなかった。

 

「……」

「っ……」

 

 アイコンタクトだけで、2人で戦法を決める。いくら間合いが広くとも、マンティス以外の攻撃は孤月を下回る威力しかない。

 ならば、落ち着いてトリオン以外の攻撃は孤月で捌き、遠距離から旋空で取る。

 影浦がぶん投げた電柱を、空中にいる海斗はスコーピオンで8頭分する。そのまま、バラバラになった破片を地上の影浦、奥寺、小荒井にぶん投げた。

 8発の瓦礫の雨が降り注ぐが、それを影浦と奥寺は回避し、小荒井は孤月で斬り砕いた。

 その目眩しの直後、海斗が小荒井に急接近する。

 

「はい、一人目」

「こっちがっすよ」

 

 しかし、それを読んでいたように隣から奥寺が孤月を抜く。間合いには入らず、遠間からの一閃。ブアッと刀身が拡張し、まるで飛ぶ斬撃のように刃が伸びる。

 エスクードすら両断する威力の孤月が自身の身体を両断するために伸びて来るその動きと、同じく孤月を目の前で下から振り抜こうとする小荒井に対し。

 それこそ読んでいたと宣言したかの如く、海斗はニヤリとほくそ笑んだ。

 

「……ッ!」

 

 ゾッと背筋が伸びた気がした。

 海斗は小荒井の一振りを、蹴りで孤月を弾き飛ばして防ぐと、奥寺の攻撃に対しては、体を横に倒して回避しつつ、右手にレイガストを出した。

 

「スラスター」

 

 まるでサイドスローのように投擲した。回避と反撃がほぼ同時、遠距離からのカウンターが奥寺に向かった。

 旋空を放った直後の一番無防備なタイミング。回避率0%だが、シールドがあれば話は別だ。

 投擲は銃口がないため、着弾地点を予測する事はできない。そのため、広範囲になってしまい、簡単に突き破られて片腕を持っていかれたが、まだ生きている。

 落とした孤月を逆の手で持ち替え、再度旋空を放とうとした時だ。

 真上からの奇襲により、身体を細切れにされた。

 

「っ⁉︎」

「やっと2点」

「奥寺!」

 

 影浦に相棒を殺された事により、小荒井が動揺した一瞬の隙を突いた。

 海斗は目の前の東隊の片割れの首を掴み、足を払って転ばせた。

 視界がグルンと回転したと思った時には、自分の首はスコーピオンによって切り裂かれていた。

 これでアタッカーは再び海斗と影浦のみとなった。

 お互いに一人ずつ狩った所で、顔を見合わせる。ニヤリとほくそ笑んだ時には、二人ともその場からいなくなっていた。

 拳と拳が交差したときには、お互いの顔面の前にシールドが出現し、拳を防いでいた。

 

「覚悟しろよ」

「こっちのセリフだボケ」

 

 二度目のバカ達の決着は、割とすぐについた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。