『試合終了です! 勝者は二宮隊、最終スコアは5対3対2対1!』
試合が終わった。最後、二宮は東を落とした。理由は、海斗に影浦をマークさせつつ、戦闘中も随時、東をオペレートさせた。
霧の中、バッグワームを使おうが、カメレオンを使おうが、バカには全て見えているため、東の逃げ切り戦法は使えなかった。
しかし、その後も海斗は結局、影浦に落とされ、残りは二宮と影浦のみ。霧の中、お互いにバッグワームを使い、遭遇する事なく終わってしまった。
『どうでした? 風間隊長』
『まず、香取隊は単純にツイていなかったな。霧の中、カメレオンで溶け込むのは面白かったが、転送位置と相敵するタイミングが最悪だった』
『そうね。まずは部隊が合流したかったでしょうし。そういう意味では、序盤から合流出来て、作戦をじっくり決められた東隊は幸運だったわね』
まぁ、東さんの事だし、霧の時点で合流の指示を出したのだろうけど、とまでは言わなかった。下手に仕掛けず、敵の意図と他の部隊の動きを読もうとする慎重さは流石の一言に尽きる。
『結果、奥寺と小荒井は狙撃手を取ることに成功したし、格上の二宮を苦しめる事もできた』
『まぁ、意外にも戻って来た海斗くんのお陰で結果的には負けちゃったけどね』
海斗が戻って来ることを考慮していなかった、と言えば浅はかにも聞こえるが、そもそもこれまでの試合でストームが起こってから決着がつくまで馬鹿達が戦闘をやめた試しがないので、仕方ないと言えば仕方ない。
『そうそう、ストームと言えば、あえてストームを起こしたのは少し驚いたわね。あれ多分、小荒井くんの案でしょ?』
『そうだろうな。普通なら博打が過ぎる気がしないでもないが、能天気……いや楽しさを重視におく小荒井ならではの発想だった』
『どんなに陰山くんと影浦くんがバカでも学習すると思うから、次からは使える手じゃないけど、割と悪くない判断だったと思うわ』
×××
東隊の作戦室では。
「よかったな、褒めてるぞお前のこと」
「褒められてねえだろアレ!」
「はっはっはっ。まぁ、博打に出た甲斐はあった、という意味では褒められているんじゃないか?」
「オペレートする私はすごく疲れたけどね……」
×××
総評は、続いて影浦隊の評価に入った。
『影浦隊は、良くも悪くもいつも通りだったな』
『特に対策してる様子もなく、各々で好きに動いてちゃんと点を取れてるものね。対応し切れてる……かどうかは正直微妙だけど、それでも3点取れるのは流石ね』
影浦が全部取っているが、絵馬も北添もキチンと点を取るアシストは出来ているし、対応し切れていなかったから2人とも落ちたのだが、それでも後半まで部隊は全員残っていた。
『特に、北添のテレポートは厄介だ。アレによって二宮が仕留めきれない事もあったし、脚の遅さを上手くカバーしている』
『うん。ていうか、二宮くんはそろそろ危ないんじゃないかしら? いつまでもB級一位でいられるかしらね?』
相変わらず、二宮には厳しい加古だった。トゲがあるセリフに綾辻は苦笑いを浮かべる。お願いだから、解説に私怨を混ぜないで欲しい。リアクションに困るので。
最後に、風間がまとめるように言った。
『もう少し敵の作戦を先読みする力があれば、もっと上へいけるだろう』
×××
影浦隊の作戦室では。
「だって、カゲさん」
「そういうのカゲの仕事だよね」
「なにせ隊長だもんな」
「うるせーぞテメェら!」
×××
『さて、最後は二宮隊だが……』
風間がそう言うと、唐突に双葉が声を張り上げた。
『ウィス様が最強でした!』
『加古、そいつを退かせ』
『双葉、今、個人ランク戦に空閑くんがいるそうよ』
『とっちめてきます!』
馬鹿を追い出すと、改めて風間は解説を続けた。
『……まぁ、陰山が成長した事は認める。二宮のピンチには駆け付けていたし、狙撃は最初の一発を決めたのは大きかった。徐々にランク戦というものを理解してきている』
逆に、今更理解したのか、と思わないでもないのは黙っておいた。
『しかし、まだ甘い。結局、奥寺も影浦も仕留め切れていないし、狙撃だって最初の一発以外は当てられていない。そもそも、狙撃だって一発撃ったら移動するのが普通だ。それは寄られたら弱いという狙撃手の適正以外にも仕事の邪魔をされないという理由もある。今回のように釣られる事だってあるし、小荒井と奥寺が喧嘩を売ってきた割に引き気味に戦っていたことに少しは疑問を抱け。お前はそういうところが……』
『風間さん、長いわよ。とりあえずその辺で』
今度は風間の私怨が大きかった。いや、私怨というより私情という感じもしたが。
『二宮くんはいつも通りね。……いや、いつもよりピンチになっていたから、私としては面白かったけど』
『お二人とも、もう少し真面目にお願いします……』
『俺は真面目に言っている』
『私も真面目よ?』
もう二宮隊の戦闘でこの人達呼ぶのやめよう、と心に固く誓った。
言われた通り、加古から真面目に解説を続けた。
『犬飼くんがレイガストを持ち出したのには驚いたわね。アレのおかげで影浦隊からの猛攻を防げていたし、サポート能力にまた磨きがかかったんじゃない?』
『レイガストはアタッカー専用トリガーの中でも扱いが難しい。今後は盾メインとして使っていくのだろう』
『辻くんにも、何か隠し玉があるのかしら? いずれにしても、陰山くんは色んな子に影響を与えるのね』
『それが吉と出るか凶と出るかは分からないがな』
『今の所、吉なんじゃない?』
『黒江は凶だろう。主に頭が』
『……そうね。今日、ちゃんと面倒を見ておくわ』
×××
二宮隊作戦室では。
「ああん⁉︎ 風間テメェ誰が誰の弟子をバカにしたんだコラァッ‼︎ 今日こそボコボコのボコにしてやろうか⁉︎」
「落ち着いて、海斗くん。意味分からない」
「ていうか、悪影響じゃない。あんたと関わらなければ双葉ちゃんはあんなんにならなかったでしょ」
「まぁ、強くなったのも事実だけどね」
「……もしもし、はい。二宮です。はい、予約で……5人席。19時から。はい、お願いします。……はーい、失礼します」
×××
『総評としては、香取隊のステージを東隊が上手く利用し、影浦隊と二宮隊が上手く。対応した、という感じね』
『ストームは褒められた戦法ではないが、あの2人の戦闘技術そのものはとても参考になる。参考にしたい奴は、真似すべきところとそうでない所を見極めろ』
と、いう総評を眺めているのは玉狛のメンバー。修と遊真と千佳だけでなく、烏丸と小南、それにヒュースまでもがテレビの前で頬杖をついていた。
「……これと戦うのか、僕達は」
「怖気ついたか? オサム」
「まさか。どう戦えば勝てるのか考えてたとこだよ」
しかし、今の自分達では実力差があり過ぎる。どう状況を転がし、どのタイミングで目の前のエースを当てるかによって戦術を変える必要がある。
その隣で、ヒュースが真顔で呟いた。
「……あれが、蝶の楯とまともに戦った奴か」
「そーよ。言っとくけど、あんたなんかじゃ例えあのトリガーを使ったとしても勝てないんだから」
小南の憎まれ口を全く無視して、ヒュースは顎に手を当てる。あの破天荒さ、相手を殺すために手段も武器も問わない攻撃、あそこまでやりたい放題やる奴はアフトクラトルどころか近界にも……いや、いた。エネドラがいた。
しかし、エネドラと一緒という事は、それだけ……いや、今の戦闘を見ていた限りではそれ以上に頭が緩いわけだ。
そう思うと、顔を両手で覆ってしまう。
「……俺はこんな奴を相手に手間取ったのか……」
「……急にどうしたのよ、あんた」
落ち込み始めたヒュースに、小南が引き気味に呟いた。
真面目に作戦会議をする玉狛第二の横で、烏丸が小南に声を掛けた。
「実際、二宮隊ってB級にいて良い部隊じゃないですよね」
烏丸が言うように、海斗が部隊での戦闘を意識し始めた以上、無条件でA級に入れてしまっても良いほどの実力がある。まぁ、そんな特殊処置は許されないだろうが。
「しかし、ストームねぇ……。A級にあんなの来たらどうなるのかしら?」
「どうでしょうね……。太刀川隊なら何とか凌げるんじゃないですか?」
「そうね。あいつなら普通に割って入れるだろうし、出水もいるから普通になんとかなりそう」
「逆に、風間隊は大変ですよね。みんな近距離だから割って入らないと止められないし」
「冬島隊も同じよね。狙撃が効かないって本当に厄介そう」
そんな話をしていると、隣からヒュースが入った。
「俺なら、片方に加勢する形で仕留めに行く。あの災害そのものの攻撃さえ回避して接近出来れば、2対1になって……」
「それは鋼さんがやったわよ。カゲさんが狙われたけど、海斗が『邪魔すんな』ってブチギレて追い返したわ」
「なら、弾丸トリガーを使い、複数人で狙えば良い」
「壊した壁や瓦礫で防ぐか剣で弾き飛ばした後、瓦礫が降ってきて視界塞がれた後にマンティスかレイガストが飛んでくるだけよ。王子隊が試したわ」
「……なんなんだあいつらは。迷惑か?」
「今更?」
ヒュースも珍しく、嫌そうな表情を浮かべた。
×××
「「「「かんぱーい!」」」」
二宮隊の五人は、ジョッキをぶつける。六人がけの席に挟まれた鉄板の上では、肉がジュージューと音を立てていた。
飲み物で喉を鳴らした後、まだ赤い肉をこれでもかというほど凝視している海斗の襟を、氷見が掴んで背もたれの前に引いた。
「まだダメだからね」
「知ってるか? 食べ物ってのは腐る一歩手前が一番美味いんだ」
「いや腐る以前に生だって言ってるの」
相変わらず我慢を知らないバカに、当然のツッコミを入れる。
「……陰山、待っていろ」
「はい」
今日はまた二宮の奢りで、海斗の忠誠心はなおさら大きくなっている。もはや犬になっている。
「いやー、今回は割とギリギリでしたね」
「……そうだな。霧という天候は、やはりやりづらい。そこのバカの独壇場になると思ったが……影浦一人にそれも潰されるようではな」
ジロリと海斗を睨む二宮。しかし、海斗の視線は鉄板に向けられていた。
「あんたに話しかけてるのよ、二宮さんは」
「え? あ、は、はい。なんですか?」
「何でもない。まぁ、今回は影浦ではなくこっちを優先していたし、良しとしよう」
その一言に、氷見が思い出したように海斗に言った。
「そうですね。あんた、よく影浦さんとの戦闘より二宮さんの方を優先したね」
「俺だってガキじゃねーんだぞ。現状の得点と残った部隊メンバーを考慮すれば、あんな馬鹿に構ってたって仕方ないことくらい……」
「はいはい」
「おい、聞けよ!」
軽く流されたが、流さない方がどうかしている。
「犬飼はどうだった? レイガスト」
「うーん……やっぱ重いねアレ。海斗くんがアホみたいに投げてるの、少し引くくらい」
「スラスターがあるからな。無くても投げられるけど」
そもそも、レイガストは投げるものではない。
すると、二宮が箸で鉄板の上を摘んだ。
「焼けたぞ」
「いただきます!」
早速、肉に手を伸ばす。白米の上に乗せ、口の中に運んだ。
「ジュースィー!」
「普通に美味しいって言いなさい。声大きい」
隣から冷たいツッコミが入った。相変わらず、海斗には冷たい氷見である。しかし、アホ過ぎる海斗が悪い感じもあるので他のメンバーも何も言わない。
「そういえば、今日は小南ちゃんは来てたの?」
「きてねえよ。あいつは今頃、玉狛で俺を倒すための対策立ててんだろ」
「ええ……良いの? 小南ちゃんと毎日のように模擬戦してたんでしょ?」
「そうだよ、割とガチの対策立てられるんじゃ……」
「問題ねーよ。弟子がいくら集まった所で師匠には勝てねーんだよ。ベジータと悟空が束になっても敵わないウィス様の脅威を忘れたか?」
「ふーん、ずいぶんな自信だよね」
「実際、海斗くんが敵だったらどう対策します?」
辻が二宮に顔を向ける。
「……こんなバカに対策はいらん。俺自身が対策だ」
「確かに、二宮さんならそうですけど……こう、戦術的に」
「だから、対策はいらん。こんなバカ、罠に嵌めようと思えばどうとでも出来る。殺すには背中を狙撃するだけ。その場面に誘導してやれば、いくらでもやれる」
なるほど、と犬飼も辻も相槌を打つ。確かに、やりようによっては勝てるのかもしれない。
「だから、お前は頭をもっと鍛えろ。良いな?」
「二宮さんがそう仰るのなら」
最後に海斗にそう言うと、当然のように海斗は了承の返事をする。
「なら、とりあえず今学期の期末試験、赤点が一科目でもあれば容赦はしない」
「え、なんの容赦ですか?」
「……聞きたいのか?」
「……ひ、氷見さん? お勉強を教えてくれませんか?」
「小南に教われば」
「あいつ感覚派なんだもん。勉強で感覚派ってなんだよ」
「いや私に聞かれても……」
と、そんな風にいつも通りに宴会は盛り上がって行った。
×××
作戦室で、眼鏡を光らせてモニターを見ているのは、弓場拓磨。海斗と影浦の戦闘の様子を繰り返し、再生していた。
「……はっ」
面白い、と思った。自分の射撃は、何度ログを見られただけでは見切られない自信がある。それだけの速さとフォームを体に叩き込んだ。
それは、二宮のシンプルな攻撃や、影浦のマンティスも同じだろう。一度、喰らってみないと何も分からない。
そして、その影浦とタイマン張っていた海斗も同様だろう。オンリーワンで自分だけの技がある。
ならば。やってやるしかない。今まではあまりぶつかるタイミングが無かったし、ログ以外でぶつかる事もなかった。
その上、今回はチームメイトが1人、ボーダーを辞めてしまい、かなり不利になっている。だから、情報を渡すことになってしまうかもしれない。
しかし、それでも事前に戦っておくべきだ。そのため、筆ペンを握り、紙に文字を綴った。
『果たし状』
と。