ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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次のランク戦までの日常的な。
エキシビジョンは唐突に。


 翌日、今日はランク戦も防衛任務も入っていない海斗だが、それでもボーダーに顔を出すのは日課にありつつある。

 まずは二宮隊の作戦室に顔を出す‥‥つもりだったのだが、その途中で見覚えのある眼鏡リーゼントが行手を遮った。

 

「よォ、陰山ァ」

「あんたは……弓場だっけ?」

「オォ。単刀直入で悪ィが、こいつをお前ェに届けに来た」

 

 そう言う弓場は、ポケットから一枚の紙を差し出した。それには、果たし状と書かれている。

 思わず一周回って愉快になった海斗は、ニヤリと微笑で答えた。

 

「俺も少なくない数は喧嘩売られて来たけどな、ここまで堂々と叩き付けられたのは初めてだ」

「今からやるが……まさか、断らねェよな?」

「上等だっつの」

 

 それなら果たし状は必要ない、なんてツッコミを入れる者もいなく、二人は個人ランク戦に向かった。

 

 ×××

 

 その途中。

 

「よぉ、昨日俺に負けたクソ雑魚海斗ちゃんよぉ。彼女が見てなくて良かったな?」

「アア⁉︎」

 

 ×××

 

 その途中。

 

「おう、ダブルカゲ。相変わらずストームすごかったな」

「「ダブルカゲっつったかクソ髭コラアン?」」

 

 ×××

 

 その途中。

 

「お、ウィスサマ……じゃなくてかいと先輩。今、くろえをいっちょ揉んでやったとこだよ」

「誰が揉まれたんですか。今すぐ再戦すれば絶対私が勝ちますから」

 

 ×××

 

 その途中。

 

「お? 太刀川さんやん。これはなんの集まりなん? え? 弓場さんと陰山の一騎打ち? ……この人数で? あ、うん。ええなら俺も参加するわ」

 

 ×××

 

 その途中。

 

「見つけたぞ、陰山。今日こそお前を……ていうか何の集まりだ? ……ほう、おもしろそうだな。参加しよう」

 

 ×××

 

「はぁ……中々、作戦が決まらない……」

 

 玉狛支部で、三雲修はモニターを前にため息をついていた。次の相手は荒船隊と諏訪隊。どちらのチームもB級中位で、強力なチームだ。特に荒船隊は全員狙撃手で中々、戦いづらい相手だ。

 それを崩すための作戦を考えているのだが、その良い考えが決まらない。地形を決める権利は自分達にあるのだが、狙撃手が不利になるステージなんて基本的にはない。

 市街地Dも考えたのだが、そうなれば諏訪隊に有利になる。散弾を使う諏訪隊を相手に通路が狭いステージで戦うのはリスキーだ。

 

「何よ、悩んでるの?」

 

 そんな修に、後ろから小南が声を掛ける。

 

「今からそんな調子じゃ、この先が思いやられるわよ」

「そうかもしれませんが……あ、ありがとうございます」

 

 口では厳しいことを言いつつも、コーヒーを淹れてくれていた。

 

「ただでさえ戦力にならないのに、その頭を使えないんじゃ、あんた本当に足手まといじゃない」

「は、はい……」

「しっかりしなさいよ。あのバ海斗を叩きのめしなさい!」

 

 なんでこの人、彼氏に対してそこまで本気になってるんだろう、と思っても口にしない修だった。

 ちなみに、その様子を遠目から見ていた陽太郎は「小南が修の気分転換をしてやっている……」と、幼児らしくなく看破していたのは言うまでもない。

 そんな中「よし」と小南は立ち上がった。

 

「仕方ないわね、私が今から本部で偵察してきてあげるわ!」

「え?」

「もしかしたら、諏訪隊か荒船隊がランク戦してるかもしれないし!」

「い、いえ! でも、レイジさんからは自分で調べろと……」

 

 そう言いかけた修の口を塞ぐように小南は人差し指を立てる。

 

「良い? 私は、彼氏に会いに本部に行く……そこで、たまたま荒船隊か諏訪隊の個人ランク戦を見る……そして、私はあんたの前で独り言をぼやく……それだけよ」

「あの……陰山先輩に会いに行くって所が本音で……」

「う、うるさいわよ! じゃ、行って来るから!」

 

 生意気な言い分を途中で遮り、小南は騒がしく玉狛支部を飛び出した。

 勿論、修のために情報を得るのも目的のうちだが、海斗にランク戦をさせないためでもあった。

 個人ランク戦はモニターに表示されるため、ブースにいる人にも見えてしまう。そこから戦法や戦術を覚え、部隊ランク戦で対応する事も可能なわけだ。

 自分の彼氏は超が付くほどの阿呆なので、そんなのお構いなしにランク戦をガンガンやるだろう。

 そんなことをさせれば、玉狛の後輩にはともかく他の部隊にも全てバレてしまう……なんて事は一切、関係なく、敵同士になってから玉狛に顔を出さなくなり、自分と戦えなくなったのに、他の人とはバラバラにやり合うのはどういう了見だ、という事だ。

 羨ましいにも程があるので、たまには自分に構ってもらおうと思った次第である。

 走って本部に到着し、二宮隊の作戦室に向かおうとした直後、走ってる隊員達が声を張り上げる。

 

「おい! ランク戦会場がスゲェ事になってるぞ!」

「マジか、行こうぜ!」

 

 ‥……嫌な予感がした。何となくだが。

 自分も気になってランク戦会場に走ると、嫌な予感は的中していた。

 

『何故か唐突に始まった個人ランク戦エキシビジョンマッチ! 実況はわたくし、武富桜子でお送りします!』

 

 モニターには太刀川、風間、双葉、海斗、影浦、弓場、生駒、遊真の8人が映っていた。

 

『なんと、ここにいるメンバーは全員が敵同士! 市街地Aに転送され、すぐに戦闘が開始されます!』

 

 本当に悪い方向に期待を裏切らない、と思わざるにはいられない小南だった。

 

 ×××

 

 転送された双葉は、とりあえず辺りを見回した。こういう八人全員が敵の戦闘なんて初めてだ。やるからには勝ちたい……と、言いたいところだが、師匠とそのライバルの影浦、さらには太刀川に風間も出てきた試合だ。

 とりあえず、あの憎き白チビをやっつける所を目標にした。

 レーダーを見ると、誰一人バッグワームを使っている様子はない。7人……‥いや、自分合わせて八人の隊員が、近くの敵に喧嘩を売りに行っている。

 

「……まったく堂々とした人達だなぁ……」

 

 呆れ気味に呟きつつ、自身の方へ寄ってきている敵を確認する。

 

「……あれ?」

 

 さっきは近くにいる敵に向かっているように見えた各隊員の動きだが……違った。八人中、風間、影浦、弓場、太刀川の4人が師匠の方へ向かっている。

 

「相変わらずモテモテだなぁ……」

 

 くすっと微笑みつつ、双葉もとりあえずそっちに向かうことにした。どうせ生駒、遊真の二人もすぐにそっちの方に向かうと思うし、自分も参加するしかない。

 乱戦の場合、負けるのは弱くて隙の多い奴。そのうちの1人にならないよう動かねばならない。韋駄天とレイガストのスラスターを使い、空から一気にその乱戦の場所に向かう。

 

 ×××

 

 海斗と一番近くにいたのは弓場だった。俺との決闘が何故、こうも邪魔されるんだ、と思わないでもなかったが、こういうエキシビジョンも面白いし、結果オーライと言える。

 それに、どうやらあの茶髪野郎と一番に遭遇したのは自分のようだ。

 

「お、来たな。リーゼント」

「生意気な野郎だ」

 

 間合いに入った直後、腰のホルスターからリボルバーを抜き、即銃口を向ける。

 ドドドドッと音がした時には、海斗に通常弾が向かっていく。しかし、それを海斗は全て、着弾する順に集中シールドで防いでいた。

 ピンポイントで自分の弾を防ぐイカれた動体視力に驚きつつも、この回避メインの男にシールドを使わせた辺り、手応えを感じた。

 しかし、ここで単純に撃っていれば勝てるというものではないのは確かだ。アレだけの手だれが、手を撃たない理由がない‥‥と思ったら案の定、海斗はレイガストを出した。真ん中から真逆の二方向に刃を伸ばし、両刃ブレードを作る。

 

(何のつもりだ……?)

 

 そんな事をすれば、射撃が受けにくくなるだけ……と、思ったのも束の間だ。自身の射撃に対し、海斗は柄を軸に回し始めた。

 

「スラスター」

 

 さらに加速し、ブレードを回転させながら、弓場の射撃を弾き始めた。

 高速回転によりアステロイドを弾きつつ、スラスターの向きを変更。横にターンして回避し、サイドスロー投擲を行った。

 その動きはログで見た事がある。横に回避し、ローリングしながら弾丸を撃ち続ける。

 その攻撃に対し、海斗は横に回避しつつにやりとほくそ笑んだ。その目は、自分を見ているようで見ていない。

 

(何を見て……まさか……!)

 

 勘で横に避けると、後ろから電柱が倒れて来た。押し潰されなかった事にホッとしつつ、目の前で接近して来るバカから意識を逸らさない。握り拳を作って攻めて来る海斗に対し、カウンターを叩き込むためにハンドガンをホルスターにしまう。

 が、海斗と共に動きを止めた。二人が戦っているのは十字路。その、空いている通りにいるゴーグルをかけた男が、片膝をついて孤月に手を掛けていた。

 

「旋空、孤月」

 

 直後、コンクリートの道路を抉り上げる斬撃が2人に迫る。

 海斗も弓場もジャンプして建物の上に回避しつつ、お互いにスコーピオンと銃口を向ける。海斗の頬をアステロイドが掠め、弓場のリボルバーが粉々に砕かれる。

 その二人の真上に、フッと影がさした。

 

「⁉︎」

 

 投げ込まれて来たのは、巨大なダンプカー。こんなもん、どこにあったんだって感じだが、あるものは仕方ない。

 二人が真逆の方向にバックステップで回避した直後、その車をマンティスが貫通する。それにより、大爆発が起こった。

 

「うおっ……!」

「よう、俺をフッてそこのメガネヤンキーとやり合おうってのか?」

 

 直後、海斗に向かって突っ込んでくるのは、影浦雅人。影浦の廻し蹴りスコーピオンと、海斗の頭突きスコーピオンが激突する。

 衝撃波で2人がいる民家の屋根の瓦が宙に浮く中、その2人を挟むように生駒と弓場がジャンプして各々の武器を構えた。

 

「獲ったぜオイ」

「まず一点やな」

 

 2人に向かう旋空とアステロイド。普通の隊員なら、細切れ蜂の巣という秒で緊急脱出となっていただろう。

 しかし、海斗と影浦は普通ではなかった。特に、ストームの時は尚更だ。

 空中で身体を横に倒す海斗と、同じように身体を横に倒し、転がるように回避した影浦はお互いの場所を入れ替えた。2人の間を弾丸と旋空が通り抜ける。

 海斗はその旋空を空中で回転しながら回避すると、右脚をオーバーヘッドシュートのように振り上げ、足先からスコーピオンを飛ばして反撃した。

 影浦は舞い上がった瓦をスコーピオンで弾き、弓場に反撃した。

 二人を通り過ぎた事で、旋空と弾丸に追加し、瓦とスコーピオンも弓場と生駒に向かう。

 しかし、それだけでやられるほど、B級上位部隊の隊長は甘くなかった。シールドを張りつつ後方に飛び、その攻撃を無ダメージで凌いで見せた。

 民家の屋根の上に残ったのは影浦と海斗のみ。お互いにフォローし合ったのは、助かるという共通の利益があったからではない。

 お互いはお互いが殺すためだ。

 

「ッ……‼︎」

「っ……‼︎」

 

 振り向きざまの拳と拳が激突し、一瞬さがった影浦はマンティスを海斗に向ける。触手による殴打のような斬撃が海斗に不規則に向かうが、海斗はあっさりと回避すると空中にレイガストを投げた。

 そこに跳ね上がった海斗は、踵落としでレイガストを足に装着し、一気に振り下ろす。

 

「チィッ……‼︎」

 

 スラスターにより加速した踵落としが影浦に向かい、シールドでガードするも、衝撃で屋根を突き破って民家の中に影浦と海斗は落下して行った。

 民家の外にいる弓場と生駒は、とりあえず距離を取った。位置が分かっているお互いに殴り掛かっても良かったが、ストームが発生した以上は、それはリスクが高いと言わざるを得ない。

 民家の方を見ると、ドズンッという音の後に屋根を突き破って何かが飛び出して来る。テレビだった。さらにそのあとは机が窓を突き破って出て来る。今度は壁を破ってソファーが出て来た。

 直後、家が一気に倒壊し、屋根から海斗と影浦が飛び出した。大きな鞭……ウルトラマンガイアのフォトンエッジの如くブンブンと振り回されるマンティスを回避しつつ、片手にレイガスト、片手にアイビスを持って相対し、スラスターで攻撃を避けつつスコープも覗かずに銃口から火を吐かせ、流れ弾で周りの家を吹っ飛ばす海斗が暴れていた。

 当然、流れ弾は生駒や弓場の方にも迫って来て、2人は回避しながら当然と言わんばかりにストームの中に突っ込んだ。

 集まっているのは上位といえど、B級隊員達の四つ巴。しかし、そうとは思えないハイレベル且つ迷惑な乱闘が繰り広げられた。

 

 ×××

 

「おーおー、スッゲェなぁ。オイ」

 

 それを遠目から見ていた太刀川は、愉快そうにケタケタと笑っていた。太刀川が参加したのは、単純にストームの中に入ってみたかったからだ。実際、改めて見てもすごい。ストーム、と名付けたのは誰だか知らないが、それを名乗る程度の威力はあるようだ。

 さて、参加したからには自分もあの中に入りたい。何処から入るか? 勿論、正面からだ。コソコソするのは性に合わない。

 ニヤリと微笑み、グラスホッパーを蹴って突撃した。

 

 ×××

 

「まったく、あいつらめ……」

 

 風間は遠くの屋根から小さくため息をついた。あのバカに、まさかの弓場と生駒も参戦。本家ほどではないが、二人も凌ぎ、反撃にまで手を動かしている。

 本来、風間はああいう戦闘には興味がない。派手なだけだし、味方がいる時を想定すると、ああいう戦い方は間違いなく敵味方問わずに被害を出す。

 しかし、それでもあの個人技は普通より明らかにレベルが高い。だからこそ出来る芸当だ。

 さて、ではそろそろあのバカたちに仕置きを据えてやらねばならない。それが、先輩としての務めであろう。何より、同じスコーピオン使いとしては、自分より上がいるのはあまり良い気がしない。

 地面を蹴って、ストームの中心に向かった。

 

 


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