ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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なんだかんだ王道が好き。

 四つ巴のストームは、さらに激しさを増していた。

 海斗のマンホール投擲を生駒が回避し、旋空をカウンター気味に放つ前に海斗はスラスター投擲を行ってマンホールの前に先回りさせて跳ね返し、生駒の後頭部にマンホールを当てる。

 お陰で旋空の軌道は明後日の方向に行き、その隙に接近した。右手にスコーピオン、左手にレイガストを……というか握り拳を構え、殴り掛かった直後だ。

 横から強い紅の殺気が目に入り、慌てて横に宙返りして回避した。自分の真下を通ったのは弓場の弾丸。さらに、真下の民家の屋根を貫き、マンティスが伸びて来る。

 それに対しスラスターで回避し、距離を置く。元々、海斗に対して喧嘩を売った二人が揃っているため、狙われやすかった。

 そんな中、新たな白い影が向かって来た。宙返りしながら飛んで来たのは、C級の白い悪魔、空閑遊真だった。普通の相手であれば、その一撃は見事に決まっていただろう。

 しかし、バカは普通では無い。身体を無理矢理、空中で捩って回避するばかりか、そのロールを活かして顔面に拳を叩き込んだ。咄嗟だったからスコーピオンを出し損ねたから仕留める事はできなかったが、窮地は去った。

 

「うおっと……!」

「よう、弟子。下克上にはまだ早いんじゃねえの?」

 

 そんな話をしつつ、遊真からの攻撃を民家の屋根の上を移動しながらあしらう。

 その遊真に、別の女が突っ込んできた。

 

「させません! ウィス様を倒したいなら、私を倒しなさい!」

「さっき倒したじゃん」

 

 韋駄天による斬撃を回避する遊真。そのまま反撃しようとした直後だった。いち早く気づいた海斗が後方に飛んだ直後、旋空が二人の中学生の身体に突き刺さった。

 

「!」

「シールド!」

 

 遊真は真っ二つにされ、双葉はレイガストとシールドを重ねて防ぐ。が、その頭に穴が空いた。横に回り込んでいた弓場の弾丸が貫いたのだ。

 A級レベルのアタッカーとA級のアタッカーがあっさりと退場してしまった。

 それに目を移すこともなく、再び生駒、弓場、影浦は海斗を追撃する。彼らにとって、戦闘中は弱い奴らに興味は無い。

 

「よくも俺の弟子達をやってくれたなオイ」

「弱ェ方が悪い」

 

 弓場の射撃を見切った海斗は、スコーピオンを両手に構えて回避しつつ、当たる物は弾き飛ばす。

 後ろからの生駒旋空とマンティスが移動する民家を片っ端から切り刻んで行く。海斗もアイビスを担いで反撃するが、元々、狙撃が上手いわけでも無いので当たらない。当たりそうな奴も避けられてしまう。

 そんな中、海斗の背後にマンションがそびえ立っているのが見えた。狙撃手が狙撃場所に使うポイントだ。

 その中に、海斗は拳で壁をぶっ壊して侵入した。その後に弓場、影浦と侵入し、最後に生駒が入る。マンションの一室、お風呂場から入り、辺りを見回す。

 中は、不自然なくらい静かだ。さて、何処から何が飛んで来るか分かったものでは無い。気を抜く事なく、孤月に手を掛けたまま部屋を出てマンションの廊下に顔を出す。

 直後、ズドンという轟音が響いた。その後の主を理解した生駒は、孤月に手をかけて次の一発を待った。

 今のはアイビスの音だ。遮蔽物で遮り、壁抜きを海斗が何処かから放った音。ならば、こちらも同じ事をしてやれば良い。

 

「旋空孤月」

 

 アイビスの一撃が放たれた直後、自分もそっちに旋空を放った、長く高威力の旋空を放つことが出来る、通称「生駒旋空」をマンション内で放ったらどうなるのか。

 答えは単純、普通に滅ぶ。

 大きな曲線がマンションに縦に入り、一気にガラガラと崩落の音が耳に響いた。

 直後、生駒がいた部屋の隣の部屋の玄関が壊された。中から出てきたのは、影浦雅人だ。

 

「チッ……あのバカをやるには、邪魔な奴が多過ぎんなオイ」

「よォ分からんけど、俺が勝ったらナスカレー奢りな」

「じゃあ俺が勝ったらうちのお好み焼き食ってけや!」

 

 そんな勝手な約束をして、二人のアタッカーは激突した。

 

 ×××

 

 その頃、海斗は狙撃をしながら影浦と生駒の戦闘を眺めていた。このままどっちかを狙撃しても良いが、それでは面白く無い。

 ならば、先に弓場を……と頭を巡らせた時だ。自分のいる真下の階に真っ赤な殺意が見えた。

 慌てて部屋を出た直後、床から弾丸が生えて来る。さらに、回避した自分を追うようにアステロイドの雨が下から襲いかかる。

 元々、床抜きで狙撃を行なっていたため、海斗の周りの床はかなり脆くなっている。

 とうとう、床が崩れて海斗は下の階に落ちた。それに合わせて弓場は射撃を行なったが、レイガストで防がれる。

 シュウウ……と、レイガストから煙が上がる。弓場はリボルバーを腰のホルスターにしまい、海斗もレイガストを解除した。

 

「……ようやく、タイマンだな」

「何、俺のこと好きなの? 友達になりたいの?」

「バカ言え。テメェの対策立てンなら、テメェとやりあうのが一番早ェに決まってンだろ。まぁ、余計な奴らもゾロゾロと付いてきちまったがな」

「ふーん……まぁ、難しいことはよくわかんねえけど」

 

 難しいことを言ったつもりはない弓場は眉間にシワを寄せたが、海斗が好戦的な笑みを浮かべたことにより、気を引き締め直した。

 

「俺とやるからには、現代アートみたいになることも覚悟しとけよ」

「ジェノス」

「正解」

 

 二人のヤンキーは、その言葉と共に衝突した。

 

 ×××

 

 二箇所で行なわれる激しい戦闘の余波は、やがてマンション全体に広がった。亀裂がマンションの外壁に走り、何処かから旋空やマンティスやレイガストなどの巨大化したブレードと、アイビスやアステロイドの流れ弾が突き抜けて来る。

 そんな時だ。四箇所に旋空による斬撃が飛んで来たことにより、マンションは一気に瓦解した。

 

「「「「!」」」」

 

 4人ともその旋空に気づき、反射的に回避する。マンションが崩れたことにより、全員の身体が宙に浮き上がるも、近くの瓦礫の上に全員が退避して姿勢を立て直した。

 直後、海斗の元へ接近する小さな人影があった。

 

「うおっ、と」

「そろそろ、俺たちも混ぜてもらうとしよう」

「随分と重役出勤だなチビ」

 

 風間の全体重を乗せた蹴りを海斗は避けながら足首を掴んでキャッチする。掴まれた部位からスコーピオンを生やすが、海斗も同じタイミングで生やしたので相殺された。

 ブレードとブレードが衝突した衝撃により、海斗は手を離し、風間は後方に大きく跳び退き、空中に着地した。

 いや、正確には空中ではない。馬鹿たちがマンションの中で騒いでいる間に、周りの住宅に張り巡らせたワイヤーの上だ。

 

「……おいおい」

「なんやねんこれ」

 

 影浦と生駒も同じような感想を漏らす。弓場も小さく舌打ちした。さらに追加されたアタッカー一位と二位。B級の各エース達はそれを前にして怖気つくでも恐るでもなく、ただ好戦的に笑っていた。半額弁当を狙う狼のような表情で。

 

 ×××

 

 戦闘が開始され、まず激突したのは海斗と影浦と風間だった。戦場がワイヤーに囲まれた事により、普段から鍛練で慣らしている風間が完全に有利だ。

 スコーピオン使いの近接戦闘は速度がある。特に、この三人はトップ3と言っても過言では無いので、その速さは常人では目で追えない程だ。

 三人が近接で三つ巴の戦闘を繰り広げる中、他の中距離攻撃が可能な三人が放っておくわけがない。

 

「「旋空孤月」」

「変化弾」

 

 曲がる弾丸と伸びる斬撃が三人に向かう。その攻撃を前に、海斗も影浦も風間も回避、弾丸は斬り落とすことで対処して見せた。

 しかし、三人とも今ので仕留められたとは思っていない。近接攻撃を仕掛けに行った。弓場の弾丸を回避した海斗が廻し蹴り投擲スコーピオンでカウンターを放つが回避される。

 しかし、その海斗の上から風間がかかと落しを放ち、それをレイガストアッパーで相殺しつつ、地面に着地。

 その風間に太刀川が仕掛けた。右腰の太刀を、居合を放つように抜いた。それを空中で回転しながらスコーピオンで弾いて軌道を逸らしつつ、左ストレートを放った。

 それを回避した先に、さらに手首からブレードが伸びる。

 

「うおっと」

 

 後ろに体を逸らして回避した太刀川が反撃しようとした直後、二人の間に影浦が割って入る。両手にスコーピオンを出して2人に斬りかかるが、風間はスパイダー、太刀川はグラスホッパーで後方に跳んで回避し、影浦をターゲットにする。

 しかし、さらにその三人をまとめて吹っ飛ばすように最強の旋空が三人に向かう。シールドやら回避やらで対処している間に、生駒にアステロイドが飛ぶ。これで一周した。

 隙がある奴が狙われるが、全員、隙を見せない。ならば、無理矢理、隙を作れば良い、というゴリ押し的観念で全員がぶつかり合っていた。

 そんな中、きっかけは風間だった。

 風間がとりあえず自分が一番、落としやすい奴から、と決めた白羽の矢先が生駒だった。

 旋空メインの生駒に足りないのは生駒自身の速さだ。旋空の速さと威力と射程は脅威的だが、こうも敵が多いと一人を狙っている間に必ず隙が出来る。カメレオンが効かないスナイパーは弓場との戦闘に夢中だ。

 スパイダーを使って微妙に距離を離した風間がカメレオンを使った。本来、こちらが本領である。息を潜め、気配を殺し、一気にトリオン供給器官を刺し殺そうとした時だった。

 

「4枚抜きだ」

 

 心臓を鷲掴みされたようなゾッとする声が耳に響いた。海斗がレイガストの小さいシェルターを作り、アイビスの銃口をはみ出させていた。無理矢理、自分を狙いに来ていた。

 しまった、と思った時には狙撃が放たれていた。太い弾丸が、影浦の股下を通り太刀川の脇の下を通り、透明化した自分に突き進む。

 シールドを固定モードにして貼った。姿は現れるが、斬撃も狙撃も防げるかもしれない。

 だが、その前に生駒が風間の前に出て旋空を放った。その射撃を待っていたと言わんばかりに狙撃を斬り落とすと共に反撃を放つ。射線上にいる太刀川と弓場は回避し、海斗に斬撃が向かう。

 だが、それこそサイドエフェクトを持つ海斗も読めていた。アイビスを引っ込めた海斗は、レイガストを握って構えを取った。左拳に握り、右手を半開きにして前に差し出す。

 

「ふっ……!」

 

 直後、後ろ足の足首、腰、肩を回転させ、渾身のスラスターパンチで旋空と弾き飛ばした。左腕の半分を失ったが、生駒旋空を相殺したのだ。

 

「……嘘やん」

 

 思わず生駒が呟いた直後だった。風間が自分を狙った海斗に向かって一気に接近する。まだ残っているワイヤーを足場にして機動力を高めて接近、海斗はアイビスもレイガストも捨てると、スコーピオンを構えた。

 風間の攻撃を回避すると、カウンターと言わんばかりに拳を叩き込む。それをシールドで防ぐと、風間はジャンプしながら膝蹴りを放つ。

 それを海斗は左手でキャッチした。

 

「ちっ……!」

 

 膝からスコーピオンが生える。海斗の左腕を消し飛ばした。直後、消された左手首からスコーピオンが生え、風間の脚を吹き飛ばした。

 

「クッ……!」

 

 お互いに正面から斬り合うが、風間の方が有利だ。スパイダーによる加速で海斗のトリオンをジリジリと削る。

 そんな中、その二人のところに影浦が割り込んだ。明らかに風間を狙い、片腕を吹き飛ばす。

 

「風間ァ、そいつをやんなぁ俺だ!」

「チッ……影浦……!」

 

 直後、集まった三人に旋空が飛んで来た。太刀川からだ。五体満足の影浦と左腕だけが削られた海斗はともかく、片脚を失った風間が避けるのは無理だった。

 

「風間さん、邪魔するなよ。俺はストームを体験にしに来たんだ」

「チッ……邪魔なのはお前の方だろう……!」

 

 風間が緊急脱出する。これで残ったのはストームのバカ達。しかし、ストームを起こされては困る奴もいた。

 変化弾が影浦、海斗、太刀川に向かい、三人の間に距離が出来た。割り込んだのは、バカとの一騎討ちを望む弓場だった。

 

「また1人増えたか……!」

 

 太刀川が弓場に狙いを定めた直後、影浦と太刀川に旋空が飛ぶ。その主は生駒だった。

 

「俺はとりあえず楽しめればええわ」

「チッ……!」

 

 これで弓場は念願の一騎討ち。残念ながら、隙の伺い合いなどしている暇はない。すぐに弓場が仕掛けた。

 早撃ちを海斗は回避し、右腕からスコーピオンを飛ばす。弓場のハンドガンを破壊するも、一定の距離を保った弓場が残ったハンドガンで射撃を繰り返す。

 それに対し、海斗は回避しながらレイガストを握り、道路を殴った。

 地面が大きく割れ、弓場のところまで衝撃が伝わり、足元が安定しなくなる。

 

「チィッ……!」

 

 直後、地面から半透明の壁が現れた。レイガストのシールドモードを最大まで大きくしたものだ。

 その壁に穴が開き、アイビスの銃口が現れる。反射的に弓場がシールドを貼った時だった。海斗がジャンプでレイガストの壁を飛び越えて降って来た。

 

「ッ……!」

 

 シールドを引っ込め、ハンドガンを放った。片方はアイビスのスイッチを切ってシールドで防ぎ、片方は左腕を犠牲にして回避した。

 壁にしているレイガストの形を変形させ、ブレード状にする。

 

「スラスター」

 

 そこから弓場に突撃、右足を吹き飛ばした。

 

「! しまっ……!」

「じゃあな、メガネヤンキー」

 

 直後、海斗の右拳が消えた。スコーピオンをほんの少し、はみ出させた一撃が弓場のボディを貫通した。

 崩れていく自分の身体を視界にとどめながら、愉快げに弓場は口元を緩ませた。

 

「なるほど、こいつがテメェの拳か」

「満足か?」

「……次は負けねえぞ」

「言ってろ」

 

 弓場が緊急脱出した。

 

 


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