シューター対策を詰んだ海斗だが、次のマッチでぶつかる相手にシューターは修しかいない。それでも、これから先、水上、蔵内と言ったシューターの中でも実力者とぶつかる事もあるだろうし、大きな括りでみればガンナーへの対策にもなった。
一発のアクションの速さはガンナーの方が速いが、海斗にとっては敵がどんなに速かろうと、脅威にすらならないので何の問題も無かった。
とりあえず二宮や那須との特訓もひと段落つき、ようやくのんびり……というわけにもいかなかった。もうすぐランク戦である。
それによって、二宮隊では作戦会議が開かれる事になった。
「あーあ……作戦会議ねぇ……」
「何か嫌な事あるの?」
作戦室に向かう海斗に、辻が片眉を上げて尋ねる。
「やだよ。だって俺、やる事ないし。そもそもマップ選択権もないのに作戦会議って意味あんの?」
「だから、どんな時にも備えておけるように、でしょ。それに、マップとか気候とか、その辺は細かく考えたらキリがないけど、部隊ごとの戦術があるんだから。それに関しても考えておかないと」
「直感じゃダメなの?」
「それで凌げるのは海斗くんだけだよ……。弓場さんはアタッカーキラーって言われてて、普通のアタッカーじゃ互角に戦うのも難しいんだから」
実際、海斗はサイドエフェクトで敵が攻撃を仕掛けるタイミングを色事に識別出来るため、直感だけではない。それに追加し、変態的な反射神経……確かに、それで何とかなっている面もある。
だが、相手にチームでこられたら直感だけじゃ避けられないものもある。それらの対策を頭に叩き込んでおくだけでも、落とされる確率を下げるものだ。
「……あ、そういや辻。上野で南半球出身の恐竜展やるらしいよ」
「ホント? 行きたい」
「今度の休み行こうぜ。犬飼とか二宮さんとかも誘って」
「え、良いの? ……その、小南さんとデートは……」
「あいつとは今、喧嘩中」
「えっ」
この前の那須の件が相当、後を引いていた。まぁ、仕方ないといえば仕方ない事だが。
で、作戦室に到着し、中に入ると既に全員が揃っていた。
「あ、来た」
「遅いよ」
「悪い悪い」
「海斗くんが替え玉二杯も頼むから……」
「……始めるぞ」
話を遮り、二宮の号令で作戦会議を始めた。全員が席につき、ホワイトボードに目を向ける。元々、そんなものはなかったが、どこかのバカが図解しないと作戦の要項を理解出来ないために導入されたものだ。
「さて、じゃあ各部隊の対策だが……影浦隊、東隊に関しては特に無い。今まで通りで十分だろう。海斗、今回もストームを許可する」
「……今回こそあの寝癖ヤロウぶっ飛ばしてやる……!」
ストームは、二宮隊にとってなんの不利益ももたらさない。エースは一人減るが、元々は二宮一人でエースを張っていたし、敵のエースも一人、抑えられるし、別の隊員を巻き込めれば最高だ。
「さて、玉狛の対策だが……まぁ、特に無いな。気をつけるべきは空閑遊真くらいだろう。他の二人は問題にならない」
「大砲のチビちゃんはいいんですか?」
「ああ、おそらくあれは人を撃てないからな」
過去の玉狛の試合は、他のメンバーも海斗を除いて目を通していた。確かに、撃てばポイントになりそうな狙撃の箇所も撃っていなかった。
「……なるほど。じゃあ、やっぱり警戒すべきは東隊か影浦隊って事で」
「ああ。影浦、空閑と遭遇した場合、犬飼と辻は必ず二人がかりで行け。陰山は一対一で行けるならそれで良い」
「「「了解」」」
「あとは、いつも通りだ。試合は明日だが……それまで全員、鍛錬を怠るな」
そんな感じで、ホワイトボードを使わずに会議を終えた時だ。部屋の扉からノックの音が響いた。
「どうぞ」
氷見が声を掛けると、入って来たのは那須だった。
「失礼しま……あ、タイミング悪かったですか?」
「いや、今終わったところだ。……何か用か?」
二宮が声を掛けると、小さく会釈しながら那須は手に持っている紙袋を机の上に置いた。
「あ、いえ。ランク戦中なのに二宮さんにとてもお世話になってしまったので……これ、つまらないものですが」
直後、瞬間移動する勢いで走り出した海斗の両腕を、犬飼と氷見が掴んで引き止める。
「食いもん……!」
「海斗くん、お行儀悪い!」
「すぐに食いつかない、文字通りに」
「はっ、す、すまん……!」
ハッとして身体を止め、大人しく引き下がった。那須の目にはなんか躾中の飼い犬みたいに写っていた。
まぁ、確かに普通の人では無いので、色々と躾が必要なのは本当の事なのだろう。大規模作戦中にトリガーを解除するバカさ加減だし。
援護、というわけでもないが、今も食べ物を前にして「まて」を喰らってるワンコみたいになってる海斗を落ち着けるように言った。
「そんな興奮するほどのものじゃないよ、陰山くん」
「あ? そうなの?」
「うん。私も部隊で色々と作戦会議とかしてたから良いものを買いに行く余裕がなくて……」
最近は二宮隊の躾の成果もあってか、簡単にはただ飯に釣られることはなくなった。前のランク戦では何食わぬ顔でラーメン一杯で新戦術を漏らした事もあって大変だった。
笑顔で那須が紙袋から出したのは、なんかすごい高級な箱だった。
「はい。ピ○ール・マルコリーニのチョコレートです。皆さんで召し上がって下さい」
直後、犬飼と氷見が抑えていたはずの海斗の姿がいつの間にか消え、那須の前で跪いていた。那須の片手を手に持ち、その手の甲に唇をつける。
「あなたに一生の忠誠を……」
「ええっ⁉︎ ちょっ、陰山く……」
「海斗ー、いるー?」
そこで、まさかのバカの彼女が登場である。那須はノックをしたのに、小南は当然のように扉を開けた。とても同じ高校に通っているとは思えない。
とりあえず、二宮は関わらないように音楽プレーヤーとイヤホンを装備し、氷見はコーヒーを入れに行き、辻は元々、女の子に関わらないようにするために部屋を移し、犬飼は耳を塞いだ。
この後、揉めるに揉めた。
×××
翌日、ランク戦当日、会場の実況・解説席には、三人のA級隊員が座っていた。
『皆さん、こんばんは。B級ランク戦Round4夜の部、実況は私、三上歌歩。解説は太刀川隊隊長、太刀川慶さんと、玉狛第一隊員、小南桐絵さんにお越しいただいています』
『『どうぞよろしく』』
あくまで表面的には平静を保ってはいる……が、三上は内心、泣きたかった。なんでこの二人なの、みたいな。まともな解説になるかすら怪しい所だ。
『さて、今回の試合……二宮隊vs影浦隊vs東隊vs玉狛第二となりましたが……太刀川さん、注目すべき点は何処になるでしょうか?』
『え? あー……どうだろ。小南、どう思う?』
『海斗のタコをぶっ飛ばす』
『いやお前がどうとかじゃなくてランク戦が』
ほらもう解説になってない。また小南は喧嘩したようで、微妙にやさぐれている。
『二人とも、ちゃんとしてくれませんか?』
『え、あ、ああ。そうだな。まぁ、普通に考えていつも通りストームだろ』
ガチトーンで怒られたので、改めて解説を始める。
『けど、正直そろそろストームの攻略を他の部隊が考え出しても良い頃だから、何か動きがあると思う』
『そういえば、太刀川さんはこの前、唐突に始まったエキシビジョンでストームを体験されたそうですね?』
『ああ、あの時は色んな奴が集まって久々に楽しかったな。迅も来りゃ良かったのに』
『そこじゃなくて、ストームの感想を……』
『ああ、すごかったよ。さすが、ステージを半壊させるだけの事はあったわ。特に、陰山も影浦も、狙撃も不意打ちも効かないから、尚更厳しんじゃね』
唯一、それを止められる二宮はバカと同じ部隊だから、止める必要もない。生駒も止められそうなものだが、どちらかというとバカ寄りなので一緒になって混ざる可能性が高い。
『けど、まぁ玉狛はまだストームを体験したことないっぽいし、崩れるとしたら玉狛次第なんじゃね』
『崩すに決まってんでしょ。なんてったって、あたしの後輩なんだから』
『お、何。なんか知ってんの?』
『いや、知らないけど。部屋から追い出されたし』
『お前、あんま尊敬されてないんだろ』
『そ、そんな事無いから!』
『と、とにかく! B級ランク戦、間も無く始まります!』
解説にならないので、とりあえず話を進めた。
×××
決められたステージは市街地C。高低差のある街のステージだ。東隊のエースは言うまでもなく、東春秋。スナイパー有利のステージにするのは当然と言えるだろう。
「市街地Cか……陰山、働いてもらうぞ」
「ちぇー、今回は俺も狙撃手ですか?」
「ああ。無理に狙う必要はない。足を止めるつもりで撃て。とどめは俺、辻、犬飼が各々で刺す。ただ、影浦と接触した場合は好きに動いて良い」
「了解です」
ストームでついでに狙撃ポイントを壊して回っても良いし、どう動いても利点しかない。
「でも、二宮さん。東さんにしては安直なチョイスですよね。マップ選択が」
犬飼に言われ、二宮も小さく頷いて答える。
「ああ……そこが、俺も気になっている。……おそらく、何か仕掛けか作戦があると見て間違い無いだろう」
「どうします?」
「実際にどんな仕掛けをしているかを見なければ対応のしようがない。とりあえず、いつも通りだ。向こうに着いて敵の描いた構図が分かり次第、また指示する」
「「「了解」」」
強者ならではの作戦だった。アドリブと言っているようなものだから。しかし、B級一位部隊は常にアドリブが求められる。この手の理不尽には、もう慣れっこだ。
「時間だ、行くぞ」
その二宮の合図で、全員が転送された。
×××
市街地Cは、スナイパー有利の高低差があるステージだ。今回、狙撃手として戦いに来た海斗にとって、これほど良いステージはない上に、その高い方に転送されたから、かなりの好条件となった。
しかし、天候を無視すれば、の話だが。
「……チッ」
二宮は思わず舌打ちをした。狙いがすぐに理解できたからだ。流石に転送位置は偶然だろうが、にしてもついてない、と言わざるを得なかった。
天候は、雪。狙撃手に追いつく足を消しつつ、海斗を狙撃手に徹しさせ、ストームとこちらのエースを片方消す一石三鳥の妙手。
この戦闘も、簡単に勝てるような相手では無くなりそうだ。