ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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解説が解説じゃねえ。

「わはっ、すっげ! 雪だ! なのに全然、寒くねえ!」

 

 何も状況が良くないことを理解していないバカは、屋根の上で楽しそうにはしゃいでいた。雪を掴み、握り、遠くに投げる。

 そんな事をしているウマシカの元に、通信が届いた。

 

『二宮さん、バカが雪で遊んでます』

『陰山、真面目にやれ』

「ダグバは何処だ?」

『クウガ気取りも大概にしろよ』

 

 そのネタ通じるんだ、と誰しも思ったが、とりあえず今はスルー。

 その直後だった。ひゅるるるるっ……と、甲高く耳に響く音が聞こえた。ふと顔を上げると、メテオラが降り注がれてきた。

 それが、海斗だけでなく、おそらく隊員達がいると思われる場所全てに降り注がれた。

 

「うおっ、あぶねっ」

 

 北添の適当メテオラだ。レーダー頼りとはいえ、当たらないことはない程度の精度だが、中々鬱陶しいものだ。

 その直後、海斗は手元にアイビスを取り出した。何故なら、割と近くに北添が見えたからだ。

 スコープを覗くと、自身に対して警戒心を抱いている北添のシルエットが煙の中から見える。

 

「誰かナターシャの役やってくんない?」

『良いから撃てるなら撃て』

「……任せろ」

 

 仕方ないので、一人ホークアイごっこをしながら、引き金を引いた。正確に言えば「ドヤ顔ロキを吹っ飛ばす直前のホークアイ」である。

 その一閃は煙に穴を開け、真っ直ぐと巨体に向かっていく。

 

「うわっ……!」

 

 その一撃は、北添の肩を吹き飛ばした。余計なことを吐かす前に撃っていれば倒せたかもしれない。

 

「腕落としました」

『仕留めろ』

「逃げられちゃったんですけど……」

『チッ……使えん奴め』

 

 全くである。二宮から吐かれた毒に、地味にショックを受けている間に、二宮が全員に指示を下した。

 

『犬飼、辻と合流して狙撃を最警戒しろ。空閑、影浦には必ず二人でかかれ』

『『了解』』

「え、いやあの……俺は?」

『お前は好きに動いて良い』

「え、良いんですか?」

『東隊の狙いが分かるまではいつも通りやれ。場合によっては、当初の予定通り狙撃手に徹しさせるが……それはこちらで指示をする』

「了解」

 

 短く返事をすると、とりあえず好きに動くことにした。それが指示なら、その通りに動くだけだ。

 

 ×××

 

『オサム、どうする?』

 

 修が転送された場所は、割と良い位置と言える場所だった。マップの中でも上の方、つまり狙撃手が有利を取れる位置を、既に修は取っているわけだ。

 しかし、修がとっても意味がないというのが実際な所だ。上をとっておけば、とりあえずヒョロヒョロ弾で敵を射抜けるかもしれないが、仕留めるには至らない。そもそも修自身、合流をしなければ何も出来ないわけで。

 

「空閑、合流だ。こっちに来れるか?」

『りょーかい』

 

 軽い返事と共に、空閑からの通信は切れる。とりあえず合流しないといけない。立てた作戦は、まずはストーム封じである。東隊に有利なマップでトップ2の2チームを攻める以上、まずは東隊を援護する形でトップチームを落としつつ、乱戦で東隊のアタッカーも減らし、残りを東一人にすることで撤退、或いは時間切れをさせる作戦だ。

 問題は、やはり二宮、影浦、海斗の三人だろう。これらを倒すには、自分のチームには遊真しかいない上に、遊真よりも実力が上だ。

 ならば、理想は影浦、二宮が遭遇した時に、自分達は海斗を捕捉して三人で叩く。

 そのためには勿論、まず他の敵の隊員に見つかるわけにはいかない。バッグワームを羽織ってコソコソと下層に移動している時だった。

 

「……!」

 

 自分に影が重なり、ふと上を見上げた。犬飼がスコーピオンを構えて降りて来ていた。

 

「やっ、メガネくん」

「! 犬飼先輩……!」

 

 マズい事になった。まだ遊真まではそれなりに距離があるというのに。

 いや、それにしても何故バレたのか。ちゃんとバッグワームを羽織っていたというのに。スコーピオンの一撃をレイガストで受け止めると、ふと視界に映ったのは足跡だった。

 

「クッ……!」

「悪いけど、1点もらうよ」

 

 スコーピオンの一閃を受け止めたが、その距離は至近距離。レイガストの外側に腕を回し、サブマシンガンを構える。

 

「スラスター!」

 

 が、強引に後ろに下がることでその場を離脱した。その修を追撃するが、近くの建物付近にトリオンキューブが隠れているのが見えた。

 置き弾、シューターのテクニックの一つだ。それを知っている犬飼はシールドを張ってガードする。

 直後、さらに正面からレイガストがスラスターに乗って飛んで来た。

 

「おっ……!」

 

 シールドを使ってしまった以上は、もう一つのシールドを使う他ない。サブマシンガンを引っ込めると共にレイガストを出し、その一撃を防ぐ。

 犬飼の足が止まったのを見ると、一気にその場を離脱しようとした。が、後ろから何分割もしたトリオンキューブが迫って来る。

 

「!」

 

 距離があるうちに横に逃げようとしたが、その弾の軌道が横に曲がった。

 

「ハウンド……!」

 

 避けきれず、右腕が吹っ飛んだ。それでも、まだ生きている。レイガスト使いは片腕が吹っ飛ぶのはかなり厳しいが、片腕でも体勢を崩さずに攻撃をガードする構えをマスターした修にとっては致命的では無い。

 とにかく、足は止められない。狙撃手がいつ撃ってくるか分からないから。後ろからさらに飛んで来るアステロイドをシールドで受けつつ走っている時だ。

 二つの影が、二人の間に割り込んできた。

 

「……!」

 

 現れたのは小荒井と奥寺組。狙いを定めたのは犬飼の方だった。シールドとレイガストでギリギリ凌いだものの、腕に孤月が掠めて微量のトリオンが漏れる。

 

『外した……!』

『一気に畳むぞ』

『二人とも、奇襲警戒!』

 

 人見の声が響いた直後だった。小荒井と奥寺の頭上から、バカが飛んで来た。

 

「シエン・ミル・エスパーダ!」

 

 どっかで聞いたことある技名と共に繰り出されたのは、レイガストと投げスコーピオンが犬飼を挟むように小荒井と奥寺の元に降って来た。

 

「……!」

「っ……!」

 

 二人とも後方に下がり、その間に犬飼の横に海斗が舞い降りた。これで1対2対2。いや、正確には1対2対3だろう。

 

『助かったよ、海斗くん。でも、あいつらがかかってきたってことは東さんが狙撃位置についてるよ』

『あの人なら上層、北西の民間の屋根でこっちを狙ってるよ。それと、地味に絵馬がこっちを狙える位置を取ってる』

『了解。一応、メガネくんにも警戒しておきなよ。前にログ見た時より上手くなってる』

『はいよ』

 

 そう言いつつ、目の前の敵を眺める。

 海斗と犬飼を眺めながら、小荒井と奥寺も内部通信で作戦を話す。

 

『あらら、まさか陰山先輩が来るとは』

『まぁ想定内だ。雪の中であのアクロバティックな動きをして来るとは思えないし』

『三雲逃さないようにやるぞ。フィニッシュはいつも通りやろう』

『分かってる』

 

 作戦を決めつつ下手に動かないよう、慎重に足を運ぶ。

 修も全員を眺めながら、少しずつ後ろにさがる。

 

『空閑、こっちに来れそうか?』

『今、一応フリーだよ』

『急いでくれ。色々と不確定要素はあるけど、元々の計画通りいける。千佳は狙撃位置につけたか?』

『うん……!』

『分かった……何とか凌いでみる』

 

 各々の思惑を交差させつつ、全員が動き始めた。

 

 ×××

 

『マップ内の東では、三雲隊長vs東隊vs二宮隊犬飼隊員、陰山隊員が勃発!』

 

 三上が実況し、解説席の小南が声を張り上げる。

 

『やれー修! ぶっ殺せー!』

『ガラの悪い観客かお前は』

 

 太刀川のツッコミというあまりにもレアなやり取りは、会場を沸かせるには充分だった。実況の席に座っている三上は冷や汗を流したが。

 

『てか、三雲があそこから全員ぶっ殺すのは無理だろ。並のシューターの腕前があっても無理だと思うぞ』

『全員ぶっ殺せなんて言ってないじゃない。海斗をぶっ殺せば良いのよ』

『一番難易度高い相手だなそれ……てかお前ぶっ殺すって言い過ぎ』

 

 このままじゃ解説にならないため、三上がやんわりと口を挟んだ。なるべく解説になるように遠回しに。

 

『太刀川さん、三雲隊長では全員をぶっ殺……倒すのは無理、というのは?』

『いやいや、見りゃ分かるでしょ。三雲が5人いても勝てないよ』

『……解説してくれません?』

 

 ストレートに怒られたので解説することにした。

 

『まぁ、単純に人数差があるからな。良くてあのまま凌げるか、ってとこだろ』

『逆に言えば、凌げるかもしれない、ということですか?』

『三雲は守りに特化したシューターだからな。要するに弱いけど落としにくい面倒な奴って事だ。このまま合流しに向かってる空閑が来れば、玉狛か有利になるだろ』

『でも、二人で組めば格上を仕留められる奥寺隊員に小荒井隊員が揃っている上に、陰山隊員と犬飼隊員を相手に凌げますか?』

『各々の思惑は違うからな。二宮隊の二人は援護が来れるか分からない以上、このまま二人でやるしか無い。一人でも多く減らしたい所だろうが、東隊にとっては三雲がいなくなれば東さんの狙撃が効かない陰山の牙が完全に自分達に剥く。せめて、三雲が消える前に犬飼を消しておきたい所だろ』

 

 なるほど、と三上はようやく解説になった事にホッとする。

 すると、マップ上ではもう片方の戦場が動き始めていた。

 

 ×××

 

 一番下の住宅街で、二宮は辻と合流し、影浦と北添もそこに集まった。

 雪の中ではシューターである二宮が有利であるため、北添と影浦は下手に動かず民家沿に距離を置いた。

 一方、二宮と辻は逃さずに追撃を始めた。

 

「辻、俺が家を壊す。奴らが見えたら旋空でトドメをさせ」

「了解」

 

 短く返事をしつつ、二宮はアステロイドを放った。細かく分割したものではなく、大きめの弾丸を影浦隊が壁にしている民家に飛ばす。家が粉々になった直後、辻が旋空を放った。

 直後、その奥からメテオラが降ってきたので、それをシールドで凌ぐ。北添からの一撃だろう。

 

『二宮さん、こっちはこっちで始めちゃいましたけど……来れます?』

『影浦を捕捉している。瞬殺するのは無理だ』

 

 海斗と同様、影浦も回避メインで動くようになっている。滅茶苦茶細かく分割した弾は無理だが、それなりなら弾丸と弾丸の間に身体を通して避けるという離れ技をする。

 その上、海斗から聞いた絵馬の位置は向こうの戦場もこちらの戦場も狙える位置だ。二宮も迂闊にフルアタックはできない。

 

「……辻、奴らを分断する。俺が影浦と絵馬を引きつける。北添をやれ」

「了解」

 

 そう言うと、二宮は合成弾の準備に入った。

 

 

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