ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

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戦場に最後まで残る奴は強い奴だけ。

 解説のたびに「ガードが上手い」と言われる修だが、本人的には決してそんなつもりはなかった。

 何故なら、師匠である烏丸にはボッコボコにされているからだ。近距離も中距離もこなせるモサモサした男前は、ある程度のクオリティであれば出来ないことはない。弓場の射撃や生駒の旋空などのオンリーワンの技は無理だが、他の技なら大体、出来る。

 そんな器用にも程がある烏丸は、あの手この手で修のガードを崩すことが可能だ。

 基本的に自己評価が低い修は、B級ランク戦で今の今まで凌いでこれたのは「戦ってきた人達が烏丸先輩より強い方ではないから」という認識であった。

 だから、自惚れがない分、どんな相手からの攻撃も油断なく対応していた。

 その結果、長くその場で凌いでいた。

 

「……ふぅ」

「やるようになったな、メガネ」

「……バ陰山先輩……!」

「……なんで『バ』をつけた?」

「え? いえ、なんか小南先輩が『あたしが良いって言うまであいつの頭文字にバを付けろ』って言われて……」

 

 上手い事、攻撃を躱し続ける修と海斗が会話を続ける。その場にいるのは修だけでなく、東隊もいる。三つ巴ならば、このままだらだらと時間は掛けられない。

 そんな中、ボシュッと何処かから光の柱が立つ。誰だ? と、顔を上げると、氷見から通信が入った。

 

『二宮さんが北添先輩を落とした。代わりに影浦くんが離脱してるから、気を付けて』

『りょーかい』

 

 犬飼は返事をすると、続いて作戦を決めて海斗に言った。

 

『海斗くん、東隊を先に片付けよっか』

『え?』

『正確には、東隊の片方を消そう。連携できなきゃ、かなり戦力は下がる』

『メガネじゃなくて良いの? 多分、白チビもこっちに向かってるけど』

『ここで先にメガネくんを倒しちゃうと、空閑くんがこっちに来る理由がなくなるでしょ。どうせ来るなら、うちの点にしておきたいじゃない。ここで追加点取れれば、もう勝ちはほぼ確実でしょ』

 

 なるほど、と海斗は内心で呟く。

 

『でも、気を付けろよ。空閑は……』

『分かってるよ。A級並みなんでしょ?』

『そうそう』

 

 それだけ話しながら、二人は東隊の方に視線を向けた。まずは海斗が間に突っ込む。

 その海斗を前に、東隊の二人は身構えた。とにかく何をしてくるか分からない人だ。警戒に警戒を重ねるしかない。

 

『小荒井、気を付けろよ』

『分かってる』

 

 孤月を構えたまま距離を置く二人。狙撃手有利の市街地Cで、雪が積もった一本道で、二宮隊は東隊と修に挟まれている。それに対し、全く不利と感じていなかった。

 犬飼の射撃の中、まっすぐと海斗が割り込み、奥寺に狙いを定めた。拳が飛んで来て、奥寺は横に身体を逸らしながら回避する。

 その後ろから小荒井が突きかかるが、海斗はそれを横に避けて、顔の横を通り過ぎた手を掴み、奥寺の方へそのまま投げる。

 その攻撃を奥寺は斜め前に回避しつつ孤月を振るうが、その腕を海斗は足で止める。その足の裏からスコーピオンを生やそうとした直後、投げ飛ばした小荒井が孤月を振るった。

 

「旋空……!」

 

 姿勢を低くしていた奥寺の真上を通すような一撃に対し、陰山は身体を真後ろに逸らしつつ、両手を地面に着け、奥寺の腕を止めていた足を外し、下から引っ掛け、上に持ち上げつつ反対側の足で身体を蹴り上げ、真上を通った孤月を握る小荒井の腕に直撃させ、二人を重ね合わせた。

 

「は⁉︎」

「マジか……!」

 

 その直後、犬飼から射撃が飛んでくる。サブマシンガンのアステロイドだ。奥寺も小荒井もシールドを張りその攻撃を凌ぎつつ後ろにグラスホッパーで跳び、距離を置く。

 犬飼の背後から、大きく距離を取った修のアステロイドが飛んで来た。しかし、犬飼はしっかりとシールドを背後に張っている。

 その直後だった。一発の射線が全員の前を遮った。唯一、気づいていた海斗が反応して動く。

 狙われたのは犬飼。そして、撃ったのは東だった。アイビスが犬飼へ降り注ぎ、それを海斗が集中シールドで凌ぐ。

 

「げっ、マジ?」

「! 小荒井、前!」

 

 仕止めきれなかった、と悔やんだほんの一瞬の隙を、海斗は逃さなかった。さらに踏み込み、拳を繰り出す。

 が、奥寺がシールドを遠巻きに張られたことにより拳は止められた。

 

『っぶねぇ……サンキュー、奥寺』

『気を抜くなよ。その人、アタッカー3位だぞ』

 

 そんな話をしている中、海斗は犬飼に声を掛けた。

 

『犬飼、気を付けろ』

『何が?』

『メガネが自分から撃って来たって事は、近くに……』

 

 直後、隣に並んでいた民家がまとめて吹っ飛んだ。ガラガラと瓦礫が崩れ出し、二宮隊の二人と東隊の二人の方へ崩れ込んでくる。

 理由は一発で理解できた。千佳の大砲だろう。こんな派手な真似をして来た理由は一つだろう。

 

『犬飼、4時の方向。空閑が来る』

『了解』

 

 そう言った直後だ。空閑に狙われたのは小荒井だった。瓦礫の中から飛んで来た遊真が、奥寺を目掛けてスコーピオンを振るう。

 

「ッ……!」

 

 身体を逸らして回避した奥寺だが、片腕を飛ばされてしまった。さらにトドメを刺そうと遊真が追撃しようとする中、小荒井がカバーする。

 

「旋空……!」

「はい、2点目」

 

 が、海斗が割り込んで小荒井の背中に拳を叩き込み、スコーピオンを生やす。

 

「小荒井……!」

 

 奥寺が動揺した隙に、遠くにいた修がアステロイドを放った。それと同時に、グラスホッパーを使った遊真が奥寺の後ろに回り込む。

 

「ッ……!」

 

 スパッ、とあっさり首を落とされてしまった。残りは玉狛と二宮隊のみ。

 攻撃してきた修に犬飼が銃口を向けると、修はすぐにレイガストを構える。が、犬飼の銃の動きはフェイントだった。本命は、反対側の手に出したレイガストだ。

 

「っ……!」

「オサム!」

 

 ガスンッ、と修のレイガストに穴が空く。カバーに入ろうとする遊真を無視して、穴を重点的にアステロイドを放とうとした時だ。

 別の方角から一発の狙撃が通る。東の狙撃が修の身体を貫いた。

 

「っ……!」

「東さんか……!」

「犬飼、下がれ」

 

 言われて犬飼が後ろに下がった直後、真上からの影浦の奇襲に合わせて海斗が前に出た。影浦の攻撃を海斗が凌いでいる間に、犬飼は銃口を影浦に向ける。

 その直後だった。犬飼に一発の狙撃が突き刺さった。

 

「おっ、と……やられたね」

「……絵馬か」

「ごめんね、海斗くん。先落ちる」

「おつかれ」

 

 海斗が挨拶すると、犬飼はとんで行った。

 

 ×××

 

『立て続けに多くの隊員が落ちました! 二宮隊2ポイント、影浦隊1ポイント、玉狛第二1ポイント、東隊1ポイントです!』

 

 三上の実況に、太刀川が煎餅を食べながら解説した。

 

『一気に動いたな』

『そうですね。崩しに来た玉狛が、影浦隊に漁夫られた感じですね』

 

 解説にならなかった小南は追い出され、代わりに太刀川が急遽、呼び出した出水が入った。

 

『でも、やっぱ二宮隊強いっすねー。……B級一位部隊にあのバカ入れちゃダメでしょ』

『それな。今度、あのバカとタイマン張ってみようかなー』

『太刀川さん、あいつとやり合った事ないんですか?』

『あんまやってねーわ』

『二人とも?』

 

 再び緩み出した空気を引き締めるように三上が微笑みかけるが、太刀川は煎餅をかじりながら答えた。

 

『まぁ待てよ、三上』

『何をですか?』

『どうせ、すぐにまた試合が動く』

 

 そう言う通り、試合展開は大きく変わった。

 

 ×××

 

 オペレーター室にいる修は、マップを眺めながら顎に手を当てる。千佳は一発撃たせた後は逃げに徹しさせ、緊急脱出するように命令を出してある。

 二宮隊の動きは、二宮が絵馬を押さえに行き、辻はアタッカー三人の元に向かっていた。

 もはや、戦えるのは遊真一人だけだ。それも、目の前には格上のアタッカーが二人いる。

 

「っ……」

 

 奥歯を噛み締める。死力は尽くしたつもりだった。遊真が来るまでガードに徹したし、挟まれないように立ち位置にも気を配った。

 それでも、自分達の力では上位に遠く及ばない。単純に戦術を含めた地力が何もかも足りないことを、まだ試合が終わる前から思い知らされた。

 どうするべきか、これは考える必要がある。そう決めると頭を切り替え、他の部隊に注目して、試合を観戦した。

 

 ×××

 

「さて、どうするかな……」

 

 遊真は目の前にいるスコーピオン使い二人を眺めながら、身構えていた。勝てない相手とは戦うな、とは父親から教わった言葉の一つだが、そうも言っていられない事だってある。今がそれだ。

 浮いている駒も無ければ、格下もいない。取れる点など無いかもしれない。撤退するのも手ではあるが……。

 

「どうせなら、敵の情報一つでも取っておこうか」

 

 そう呟くと、影浦と海斗を見比べる。どちらから情報を抜くか……考えた結果、先に海斗の方へグラスホッパーを出した。

 それにより、海斗は油断なく遊真を見据え、影浦は漁夫の利を狙う。

 が、グラスホッパーを踏んだ遊真が距離を詰めたのは影浦の方だった。

 

「!」

 

 遊真の一撃をしゃがんで躱すと、影浦は下からアッパーを放つようにスコーピオンを出した。

 さらに遊真はシールドを張って躱しつつ、影浦の後ろをとってスコーピオンを構える。

 その戦闘を、海斗は黙って眺めていた。混ざっても良いが、二人とも一切、油断なく海斗も警戒している為、下手には混ざれない。というより、どう混ざったら面白いかを考えていた。

 

『海斗くん、もう直ぐそっちに着くよ』

『あ、了解』

 

 どうやら、辻がこっちに来ているようだ。

 そのため、ちょっかいを出すことにした。二人の斬り合いに向かって、海斗はレイガストを取り出すと、シールドモードを変形させて巨大なスコップのようにして、雪を思いっきりぶちまけた。

 

「「!」」

 

 雪がかかって来た事により身構える二人。その雪の中からの奇襲を警戒しつつ、影浦と遊真はお互いから距離を置いた。

 が、奇襲は来なかった。掛かってくるのは、ひたすら雪が落ちて来るだけ。そんな時だった。ふと遊真の耳元に宇佐美の声が響く。

 

『狙撃警戒!』

「!」

 

 直後、東の狙撃が飛んで来て、左手を吹き飛ばした。

 

「チッ……!」

「旋空孤月」

 

 さらにその後、辻の旋空が襲い掛かる。それを、遊真はグラスホッパーで回避し、距離を取った。

 その後ろに、影浦が回り込んでいた。

 

「オラ!」

「……!」

 

 影浦のマンティスを、遊真は同じようにマンティスで相殺する。伸びきった刃と刃が正面から衝突し、へし折れた直後、お互いにさらに距離を詰め、拳と拳から微妙にはみ出させた刃をお互いの顔面に向け合った。

 が、さらにその間に海斗が入る。ジャンプしながら回し蹴りを二人に三発ずつ放ち、遊真と影浦は再び、お互いに距離を取った。

 その遊真が下がった先に、再び辻が待っていた。それを理解していた遊真は、スコーピオンを二刀、構える。辻も同じように孤月に手を掛ける。

 微妙に備えていた辻の方が早い、そう思った直後だ。東の狙撃が辻に突き刺さった。

 市街地Cの高所を取っている東は、簡単に狙撃位置を変えられる。それでも辻が堂々と戦っていたのは、その狙撃位置を簡単に割り出せるチームメイトがいるからだ。

 

『……海斗くん、どういう事?』

『あ、ごめん。東さんの位置伝え忘れてた』

 

 ごめんじゃ済まない理由で辻が緊急脱出した直後、別の場所からもその緊急脱出が出る。絵馬が落ちたようだ。

 これで、市街地Cに残っているのは各隊のエースのみとなった。

 

 

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