予知予知バトル。
「え、近界民が?」
「そうだ」
数日後、二宮隊の作戦室で、二宮から通達があった。その二宮には忍田から指示が出ている。
「近いうち、近界民が『トリオン能力者を奪いに来る』という以外の目的でこっちに来るらしい。出動するのは、必要最低限の人員のみ……まぁ、平たく言えば次のランク戦に出場しないB級以上ってとこだ」
「なるほど……この前の大規模侵攻ほどの相手ということですか?」
「いや、そこまでではない。ただ、可能な限り対外秘にして作戦を行なうという事だ」
「? なんでですか?」
犬飼の質問に、二宮は飲み物を飲んでから答えた。
「大規模侵攻から日が浅いからだ。市民の恐怖や不安を再び募らせるより、可能な限り隠密に作戦を展開し、何事も無かったかのように終える……ということだ」
「そういうことですか」
「細かい指示はまだ来ていないが、迅の進言により、大きく分けて全隊を二つに分ける事になった」
とりあえず、一人だけバカがいるので、なるべく可能な限り分かりやすく説明しなくてはならない。
「いくつかパターンを想定しているが、迅の予知によると市民にもC級隊員にも拐われる様子が無いため、警戒区域内での戦闘が想定されるが、俺達は敵の様子次第だが、序盤は本部で待機だ」
「なるほど……分かりました」
「が、全部隊の狙撃手は最初から屋上で待機、序盤から出撃する隊員は地上で待機……大きく分ける全隊員はこの二つに分類される。……陰山、お前はよく頭に叩き込んでおけよ」
「了解!」
こういう時、素直なのは非常に良い事なのだが、頭の能力が追いついていないのが困る。
作戦がどう転ぶか分からないが、普段のランク戦はともかく普通の任務の時くらいはちゃんとしてくれないと困る。
「……ひとまず以上だ。解散」
その号令で、各々は隊室を後にした。とりあえず、近いうちにまた人型とバトる機会がある。不謹慎にも、海斗はワクワクして……。
「まて、バカ」
「えっ」
「お前は戦術の勉強だ。俺が叩き込んでやるから覚悟しろ」
「ちょっ……あの、聞いてな」
絞られた。
×××
風間蒼也は、珍しくラウンジに来ていた。次にまた予想される、近界民による襲撃についてだ。
今回は、以前と比べて小規模のものらしいが、それでもこちらの世界に近界民が来る以上は気が抜けない。
で、迅の予知を聞いた限りだと、もしかしたらトップアタッカー四人が集まり、敵を退けることになるかも……との事だ。
実際の実力で言えば、太刀川、迅、風間、小南となるだろう。
だが、今回は予知が頼りになる為、迅は抜け、小南も玉狛であるため木崎レイジ、烏丸京介と共に行動する可能性もある。
そうなると、次に来るトップは太刀川、風間、影浦、馬鹿となる。影浦は問題ない。何故なら、ランク戦だからだ。
だが、あのバカと、もし共に戦う事になるとしたら……。
「……」
面倒臭いが……やるしかない。まずはどうやって言うことを聞かせるか、だが……。
まぁ、まだあのバカと組んで敵を迎撃するかは分からない。それよりも、今はちゃんと鍛錬を積み、任務に備えるべきだ。
そういえば、自分が目にかけているもう一人の部下は、昨日、惨敗していたが大丈夫だろうか?
出ていたのは、単純に地力の差。相手を見る観察力と、師匠譲りのガード性能だけでは限界があるのは目に見えている。
だが、修がどんなに技を磨こうと、結果が大きく変化する事はない。
「……ん?」
噂をすればというか何というか、修が珍しく個人ランク戦会場に来ているのが見えた。
何か研究しているのだろうか? それとも……まさか、自分のランク戦で実力を磨くつもりなのか。
最近……と言っても昨日からだが、バカによる個人ランク戦道場は開かれなくなった。まぁ、海斗が二宮にこってり絞られていると想像はつくが、修も同じような事をしているのなら、それは間違いだ。
1チームに肩入れするようで良い気はしないが、声を掛けてやることにした。
「こんな所で油を売っている暇があるのか?」
「あっ……か、風間先輩。お疲れ様です」
頭を下げる修。相変わらずの冷や汗をかいていた。
「ランク戦でもやるつもりか?」
「……いえ、見学しに来ました。この前の試合で負けたので、何か新しい戦術が欲しいと思いまして……」
「……なるほど」
流石にバカと同じ事をしに来たわけではないことにホッとしつつ、それなら自分が何か言うことはない。まぁ、声をかけた以上は何か話しておこうと思った時だ。先に修から声をかけてきた。
「あの……風間さんは、陰山先輩の事をどう思っていますか?」
「? なんだ、急に?」
「いえ……その、やはり今回のB級ランク戦は、二宮隊の攻略が必須になるので……陰山先輩と距離の近い方にお話を聞かせてもらえれば、と……」
「情報収集か?」
「は、はい」
言われて風間は少し考え込む。やはり、そういう意味での情報は渡すべきではないのだろう。二宮の戦法のようにシンプル且つ「知ってても防げない上に知れ渡っている情報」なら話しても問題ないが、海斗単体で見れば対処方法が無いわけでもない。自分の考えを話すのはアンフェアだろう。
「それよりも、お前は次の相手に集中した方が良いだろう」
「そ、そうなんですけど……」
「相手は二宮隊だけではない。お前ら三人の師匠が相手で力が入るのも分かるが、敵は一部隊だけでない事も忘れるな」
「……は、はい」
甘やかすつもりはない。今後が楽しみである後輩ではあるが、自分が口を挟めばそれも変わってしまう。
……が、まぁやはりあの部隊を見ると、下手したらA級よりも強い説はあるので、その時点でフェアじゃない感じもある。助言くらいはしても良いだろう。
「お前の所のエースは空閑だろう。あいつは、二宮と一緒に行動しなければ、陰山とも渡り合える器だ。仲間の援護があれば、な」
「は、はい……?」
「なら、お前は自分のなすべき事に専念しろ。部隊を勝たせるだけではなく、味方に点を取らせるのもお前の仕事だ」
言われて、修は少し目を丸くする。少しヒントを出し過ぎたかも、と思ったら風間は、もう立ち去る事にした。
「邪魔したな」
「は、はい。ありがとうございました!」
お辞儀をする修を背に、風間はその場から立ち去った。
×××
「あ〜……クソしんどい……」
一先ず今日のお勉強会を終えた海斗は、作戦室を出てランク戦会場に来た。勉強嫌いの阿呆は、勉強が終わると途端に元気になる。勿論「これから先、もう勉強しなくて良いんだ!」という開放感からだ。そして、次の日の勉強の時間にまた絶望するのだ。
今は、開放感が最高潮のタイミングだった。つまり、誰でも良いからぶっ殺したい、というテンションだった。完全に通り魔である。
さて、そんな海斗の目に、一番最初に止まったのが……。
「あ、迅」
「げっ、海斗……」
迅のサイドエフェクトは、決して万能ではない。たまに、本人が「読み逃す」こともある。故に、この場合はその典型とも言えるだろう。
次の近界民との戦闘において、対策を練るために予知を使ってその辺ぶらぶら歩こうと思って来た先にこれだ。
しかも、この先の未来、どれを見ても目の前のこいつと戦う未来しか見えない。何処まで強引なんだこのバカは。
「喧嘩しようぜ」
「どんな誘い文句だよ……や、良いけど」
と言うより、やるしか無いけど。
「じゃ、とりあえず5本な」
「50本?」
「なんでだよ。とにかく、5本だけだからな?」
「よっしゃ」
二人はブースに向かった。
×××
緑川駿は、少し自信を失いつつあった。最初に入隊した頃がピークだった気がするからだ。
最初は良かった。対近界民戦闘訓練でトップの成績を叩き出し、そのままB級隊員へスピード出世、A級の草壁隊にスカウトされ、個人ランク戦においても現在、9千ポイントを稼ぐ程の実力は身につけた。
しかし、現実は才能だけで勝てるほど甘くない。
C級にいた白チビに負け、幼馴染みで変な師匠がいる黒江双葉に負け、勝率は下がって来る。
さらには、トップアタッカーのスコーピオン使いは皆、化け物だらけという事が、さらに自分の胸を締め付けた。尊敬する迅悠一は勿論、風間蒼也、影浦雅人、陰山海斗、そして空閑遊真……機動力だけで勝っていけるほど甘くなくなって来た。
「おれも師匠とか……いや、それはなんか嫌だ」
正直、感覚派だし、誰かに何かを教わるのは合わない。
そんな事を思いながら個人ランク戦会場に来ると、モニターでちょうどその変態アタッカー二人が戦っているのが見えた。
「え」
が、まぁ軽く引いた。
戦っているのは、迅と海斗。スコーピオン使いでありながら、レイガスト、或いはエスクードを用いる防御や援護も可能な二人……なのだが、二人とも防御はしていなかった。
何故なら、避けるからだ。文字通り未来が見える迅と、サイドエフェクトの僅かな色の違いと経験と直感と動体視力と反射神経で「え、未来見えてる?」ってレベルで避ける海斗ならば、お互いの攻撃が当たらないのはある意味当たり前かもしれない。
迅の両手のスコーピオンによる猛攻を回避しながら、手首を掴んで後方に引き込もうとする海斗だが、掴んだ箇所からスコーピオンが生えて来るのが見え、手を離して逆側の手で拳を振るう。
が、しゃがんで回避した迅がローキックによる足払いを放……とうとしたが、そのローキックを脛と足首でうまく掬い返し、バランスを崩してくる未来が見え、蹴りを放とうとした足を強引に地面に着け、エスクードを放った。
真下からの攻撃を察知した海斗は、うまいこと利用し、迅の真上で宙返りしながら拳を振るうが、迅も首を横に捻って回避しつつ振り返る。
お互いに近距離で向かい合うと、顔面に拳と刃を叩き込みに行くが、相討ちになる未来が見えたため、お互いに手を引っ込めて回避しながら引き下がり、距離を取る。
「……なんだあれ」
要するに、攻撃をし終える前に「あ、これ当たらんわ」と分かり、手を引っ込めて回避に専念する事もあるわけで。まるで空想喧嘩をしているような感じだった。
まぁ、なんだ。緑川は思った。あの中に入れるように、もっと頑張ろう、と。
×××
場所は市街地。海斗と迅は向かい合ったまま足を止めていた。
「はは、やるね。海斗」
「何、余裕こいてんだコラ」
不満げに言う海斗ととは対照的に、のらりくらりと笑う迅。
「お前、全然本気じゃないだろ」
「そんな事ないから。本気だよ」
「俺、喧嘩で手を抜かれんのが一番、腹立つんだけど」
そう返しつつ、海斗は両手をポキポキと鳴らす。実際、バカのくせにプライドだけは一丁前な生き物は、ナメられるのがとても気に食わない。
「じゃあ、そっちから先にマジで来いよ」
「は?」
「海斗もまだ、様子見でしょ?」
「……」
言われて、海斗はニヤリとほくそ笑む。実際、海斗は迅の実力を知らない。滅多に戦わないし、戦闘のデータも少ないし、そもそもログを見るタイプではないから。
だから、今の感想を表すなら「予想以上にやりにくい」という程度だ。様子見だが、そんな感じだ。
だが、未来視のサイドエフェクトを持つ迅が「本気でこい」と言うなら、自分の本気の実力を前にしても勝つ自信がある、ということだろう。
「カハッ、後悔すんなよ」
「しないよ」
直後、海斗は手元にレイガストを出し、一気に投擲した。迅が回避した直後、走って急接近し、飛び蹴りを放つ。しゃがんで避けられるが、それを読んでいたように背中を踏み台にし、真上に上昇した直後、手元に再びレイガストを呼び出す。
「オラ……!」
一気にスラスターにより急降下し、迅を殴り付ける。当然、回避されるが、地面がバキバキに割られ、地響きによってすぐに攻撃に移ることができなくなった。
その直後、海斗は殴りつけたレイガストのスラスターの向きを変える。拳自体は真上に振り上げる。が、それによる衝撃で割れた地面の瓦礫が迅に向かっていった。
「!」
それらに対し、迅は一度、エスクードを三枚出す事で視界を遮りつつも瓦礫も凌いだ。こうすれば、まず正面からは来ないし、視界もクリアに出来る。これなら、予知が効く。
さて、問題は何処から来るかだが、左右か上か……。壁沿に身を寄せたまましゃがんでいると、隠れているエスクードにドォンッと衝撃が走る。何をして来ているのか知らないが、エスクードを正面から壊すつもりだろうか?
何であれ、それならこちらはコソコソとモグラ爪で一発ダメージを……と、思った時だ。
「っ!」
先に向こうがそれをやっていた。サイドエフェクトで場所を特定し、アイビスで壁を殴りながら気を引き、まずは一発、という具合に真下からスコーピオンが伸びて来る。
が、それは迅も読めていた。ギリギリだが、後方にジャンプして回避した。
直後、目の前に海斗がジャンプして襲いかかって来ていた。
「……!」
まずった、と迅は奥歯を噛み締めるが、まだ慌てるような時間ではない。向こうが有利なだけで負けが確定したわけではない。
が、それを理解した上で、海斗は猛攻を繰り出した。両手にスコーピオンをメリケンサックのようにはみ出させ、顔面に殴りかかって来る。
それを回避すると、その先にアッパーが迫って来る。それをも身体を逸らして避けると、足元にローキックをもらった。
「っ……!」
姿勢が崩され、さらにボディに拳が来る。それをシールドを張ってガードし、なんとか姿勢を整えたが、顔面に周りからが来る。スコーピオンがはみ出ているのが見え、片手にスコーピオンを生やしてガードした。
余りの威力に、両手が痺れる。正そうとした姿勢がさらに崩される。そこが、海斗にとって大きな隙だった。
右手の握り拳が火を吹いた。シュボッ、と着火しそうな風を切る音と共に、拳が発射される。狙いは迅の胸。つまり、トリオン供給機関だ。顔面は躱されると理解していた。
見事に拳は貫き、迅の片腕が吹き飛ぶ。が、それは胸に直撃したわけでなく、左肩に直撃したに過ぎなかった。
「っ……!」
まずい、と思った時には遅い。モグラ爪が自分を逃さないように足を縫い付けている。
「終わりだよ、海斗」
迅の左手から生えたスコーピオンが、的確に自分のトリオン供給機関を貫いた。