ボーダーにカゲさんが増えた。   作:バナハロ

78 / 90
バカは注目されやすい。

 ガロプラの遠征艇内では、玄界の兵士達の戦闘の様子を見ていた。ここ最近の戦闘データから、アフトから送られてきた大規模侵攻のデータも全てを見終え、隊長のガトリンが話を続ける。

 

「……以上のデータから分かるように、玄界のトリガーは決して優れていないが、兵士個人の技術は高い」

「流石、アフトの精鋭を退けただけの事はありますね」

「そういう事だ」

 

 隊員のラタリコフのセリフに、ガトリンは頷いて答える。

 

「特に要注意なのは、この男だ」

 

 そう言って画面を拡大。写っているのは、ガラの悪い茶髪の男。

 

「うわ、チンピラじゃん」

「頭悪そう」

「俺も最初はそう思った」

 

 レギンデッツとウェンが漏らした正直な感想に、ガトリンは頷いて答えた。

 

「だが、戦闘能力はかなり高い上に、アフトから送られてきた映像によると、あまりにも不可解な点が多い」

「と、言いますと?」

「まず、黒トリガーでも無いのに、一瞬で各地を転々と移動し過ぎている。この黒トリガー『泥の王』と戦闘後、距離にして5キロ以上離れた『星の杖』と、現在、捕虜となっている兵士の元へ移動している。……おそらくだが、ここまでの間にアフトが我々にも見せられない失態があったのだろう。逆に言えば、この男はそれを引き起こした張本人とも言える」

「ザマァねえな、あの角野郎ども」

「あんたが勝ち誇る所じゃないよ」

 

 毒を吐いたレギンに、冷静にウェンがツッコミを入れる。そのアフトに何かをやらかした相手と、これから自分達もぶつかるのだ。

 

「その後、この男は執拗にアフトから狙われている。所々、映像はカットされているが、俺の想像では、この男は黒トリガーを奪取したと考えている」

「黒トリガーを……⁉︎」

「というより、ここまで狙われた理由はそれくらいしか浮かばないからな。かなりのトリオン能力、という可能性も考えたが、それにしてもあそこまで執拗に狙う必要がない。トリオンの大きさだけなら、逃げていた隊員の中にもっと凄まじい者がいた」

 

 あの小さな身体の何処に、巨大なトリオンが眠っていたのか不思議なくらいの大きさだった。

 

「防衛戦の最中、攻めて来る側から物を奪った、という事ですか?」

「詳しい状況を見たいわけではないから何とも言えないが、そういうことになるな」

 

 コスケロの確認に、頷いて返した。

 

「我々が何かを奪われる、などとは思っていないが、それくらいの大胆さと無謀さを持った相手だ。こいつを前にした場合は、決して気を抜くな」

「了解です」

「なるべくなら相手にしたくないね。この『泥の王』の死角攻撃が見えているような回避能力、私とは相性悪そうだし」

「俺もこいつとやり合うのはゴメンだぜ」

「逆に、俺なんかは相性良いかも」

 

 そんな話をしながら、作戦会議を進めた。

 

 ×××

 

 ブラブラしていた迅によって、各隊の動きが発表された。内容は細かく定められたわけではないが、序盤から表で哨戒任務に当たる部隊と、途中まで待機する部隊に別れ、敵の目的次第でどのようにも動けるように備えているわけだ。

 

「やはり、俺達は待機班だそうだ。変更はなく、途中まで本部に残り、迅の予知次第でどちらの相手もする事になる」

「了解です」

「やっぱりそうですか」

「ただし、陰山。お前は別行動だ」

「え?」

 

 ここ最近、迅に負かされて微妙に不貞腐れていて面倒臭い奴は、話を聞いていなかったのか急に顔を上げる。

 

「お前は太刀川、風間さんの班に加わり、三人で基地の防衛に加われ」

「え、なんですかその面子?」

「お前ら三人が一緒に戦う未来が見えた、という事だ。もう一人いたかもしれないが、その辺は定かではないらしい」

「了解です」

 

 そう短く返事をする海斗に、二宮は続けて忠告した。

 

「良いか? 一応、言っておくが、今回はちゃんと緊急脱出をしろ。間違ってもトリオン使いが斬り合いをする戦場で、トリガー解除なんてバカとバカを足して超バカになったようなバカな行動はとるなよ」

「しませんよ。そんな事、したことありませんし」

「殺すぞ」

「あ、はい。すみません……」

 

 割と本気で睨まれ、思わず肩を落として頷いてしまった。

 

「待機中は、なるべく共に行動する隊員同士で固まっていた方が良い」

「え……じゃあ何。俺って風間と太刀川と一緒にいないといけないって事ですか?」

「そういうことになるな」

「やだぁ」

「文句を言うな。これも任務だ」

「任意に出来ませんか?」

「難しい言葉を知っているんだな。すごい」

「バカにしてますよねそれ⁉︎」

 

 実際、バカなんだから仕方ない。そういう言葉を覚えられたのは、二宮の戦術教室の副産物だった。

 ……とはいえ、だ。そこでふと思い出す。太刀川隊の作戦室ならば、出水がいる。退屈になりそうな待機中の時間も、同級生と一緒であれば……。

 

「ちなみに、出水くんは次の試合の解説らしいから一緒にいないと思うよ」

「なんでそうなるの⁉︎ てか、氷見テメェ心を読むなコノヤロー!」

「読むまでもないから」

 

 結局、楽しめそうになかった。まぁ、どの道、待機場所によっては風間隊の作戦室である可能性だってあるわけだし、あまり意味ない事ではあるのだが。

 

「とにかく、早めに行ってこい。待機中は基本的に何をしていても構わないはずだ」

「風間のこと、身長でいじっても平気ですか?」

「平気だ(投げやり)」

「よっしゃ、少し楽しみになってきた!」

「なら、今のうちに行け」

「はい!」

 

 元気よく作戦室を飛び出していった。

 

 ×××

 

 集合場所は司令室だった。空気自体はそこまで重くなかった。なんかもう迅やら小南やらと、部隊ではなく単品で動くと思われる隊員が集まっていたからだ。

 流石にこのメンバーの中、風間も空気を引き締めようなんて思わない。というか、周りが楽しんでいる以上、風間も同じように楽しむ性格なので、むしろ全員に混ざっていた。

 他にも、天羽や忍田などがその場で待機し、マップを見て何かを話している。

 

「……」

 

 少し意外そうにしながらも、海斗はとりあえず声をかける事にした。なんかはみられてる気がするし。

 

「小南、何してんの?」

「あ、来た。今、トランプやってる最中よ。あんたもやる?」

「俺にトランプ挑むとか正気?」

「ほほう、自信あるのね? じゃ、次からね」

 

 そういう意味ではないのだが、まぁやると言うのなら良いだろう。

 今やっているのは大富豪。おそらく、迅の予知がなるべく働かないゲームにしたのだろう。

 例えば、ブラックジャックやポーカーは、予知によってスタンドのタイミングも、引けるカードも全て先読みできてしまう。

 それは、ババ抜きでもダウトでも豚の尻尾でも同じことだが、唯一、違うのが大富豪だ。何故なら、相手の手や自身の出すカードの順番から最善手を放っても、かならず勝てるとは限らないからだ。

 つまり、一番読み逃す事が多い。まぁ、それでも迅が有利であることには変わりないが。

 

「はい、小南の負け」

「うがー! むかつくー! ムカつくったらないわ!」

「いやお前、顔に出過ぎなんだよ……。なぁ、風間さん?」

「そうだな。戦闘中とは真逆だ」

「うぐぐっ……!」

 

 そんな楽しそうなやりとりを眺め、海斗は少し黙り込む。なんか、面白く無い。

 特に顔を出すようなことはなかったが、とにかく何か面白く無い。

 

「おい、バカども。次は俺もやるぞ」

「好きにしろ」

「言っとくけど、晩飯賭けてるからな?」

「上等だよ。お前ら全員にご馳走させてやる」

 

 そんなわけで、大富豪大会が始まった。

 メンバーは全部で五人。ダンガー、セクハラエリート、小型、斧、バカである。特徴だけ言えば全員バカだが、その中身は予知、21歳の大学生、お嬢様学校の成績優秀者、バカだけど相手の感情が見えるSE持ちと、曲者が集まっている。ダンガー? それは知らない。

 まずは、スペードの3を持っている人から。カードを出したのは、風間だった。堅実に9を2枚出した。

 

「そういやさ、迅。今回の相手ってどんな奴なの? 10捨て」

「ん、あー分かんないよ、まだ。俺だって会ったことのない奴の未来は見えない」

「ふーん……まぁ良いんだけどね。ネタバレとか好きじゃないし」

「何よ、ネタバレって。パス」

「いやだって戦うからには、なるべく楽しみたいじゃん」

「あーそれちょっとわかるわー。俺もパス」

「はい。イレブンバック」

「バカ言え。任務を完遂させることが最優先だ。楽しむ楽しまないは二の次だ。パス」

 

 全員パスを選択し、今度は迅からだ。

 

「ほい。風間さん7渡し。でも、風間さんだって最近、そういう……戦闘狂? なところ出て来たよね」

「8切り。からの4。人聞きの悪い事言うな、迅」

「12。え、そう?」

「あー確かに。この前だってなんか変なエキシビジョン参加してたし。……どうしよう。とりあえずパスで」

「A。あーあれか。あれ楽しかったな。今度、迅もやろうぜ」

「良いよ。忍田さんに怒られない範囲でね? 2」

「パス」

「俺も」

「あたしも」

「俺も」

 

 場は流れ、次は迅から。

 

「6、2枚」

「7渡し、階段」

「8切り……」

「ねぇちょっと海斗! あんた私にだけ出番回さない気でしょ⁉︎」

 

 突然、その場で立ち上がる小南。なんなんだ、と全員が顔を向けるが、たしかに思い返してみれば、いまだに小南は一枚のカードも出せていない。

 

「そうだよ! お前に負けるのだけはごめんだからな!」

「むかつくー! 大体、なんであんた私の隣に座るわけ⁉︎」

「うるせーバーカ!」

「子供か⁉︎」

 

 なんて揉め出した時だった。ふと、迅が目を見開く。ふと、未来が見えた。それも、意外な奴がやられる未来だった。

 

「お、迅。どうした?」

「敵が来る」

「やっとか」

 

 立ち上がり、肩をグッと伸ばす太刀川の横で、迅は忍田に声をかける。

 

「忍田さん、敵が来る! パターンはAで!」

「分かった。予定通り人員を配置する」

「Aって事は、本部基地防衛ね。OK OK」

「油断するなよ、太刀川」

「分かってるよ、風間さん」

「そこのバカに後ろから刺されないようにな」

「流石に俺でも味方を刺しはしねーよ。風間以外は」

「殺すぞお前」

 

 なんて言いながら、配置につき始めるアタッカー達の後ろで、迅が小南に声をかける。

 

「小南、お前は太刀川さん達についていけ」

「? なんで?」

「太刀川さんが、ぶった斬られる未来が見えた」

「……!」

「今回の相手、思ったより厄介かもしれない」

 

 それを伝えると、次は海斗に声を掛けた。

 

「海斗、トリガーセット今どうなってる?」

「え? 変えてないけど」

「大至急、ひゃみちゃんに変えてもらえ。アタッカー用に」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。