敵が開いたゲートから現れたのは、大量の人型近界民「アイドラ」だった。それらが、ゆっくりとボーダー本部に歩みを進める。
それらに対し、作戦通り狙撃手組が狙撃を開始する……という戦闘中、本部の司令部にいる迅に、海斗から通信が入った。
『迅? 今平気?』
「なんだ、海斗? さっきのトランプの勝敗なら後に……」
『いや違くて。なんか、気の所為かもしんないし、ボーダーのうちの誰かかもしんないんだけどさ』
前置きを言ってから、一応報告した。
『なんか外にいる連中の中に五人分の警戒色が見えるんだよね』
「警戒……?」
『そう。そのうち二人は後方で何かしてるっぽくて、三人はトリオン兵の中に紛れて行動してるっぽい』
「マジか……」
考えてみれば、敵はあくまでもアフトクラトルの指令によってこちらを攻撃しているに過ぎない。ならば、そのアフトから動画をもらった上で攻めてきていてもおかしくない。
「……というか、敵にとっては海斗はかなり警戒に値する人物ではあるだろうな……」
おそらく黒トリガーを奪われかけたことは伏せているだろうが、それでも五人の人型と遭遇して生き残っている限り、警戒する他ないだろう。
とはいえ、海斗を監視役にはさせられない。せっかく敵が海斗を警戒しているのなら、それを活かさない手はない。
「海斗、そのまま敵の位置を探って俺に連絡してくれ。敵が基地に侵入した場合、こっちのことは考えなくて良い。太刀川さん達の援護に向かえ」
『良いのか? 狙撃とかしなくて』
「良いよ。そっちは本職達に任せて」
『了解』
それだけ言うと、迅はとりあえず基地内での移動を始めた。奴らの姿さえ見えれば、狙いが分かる。あとはアドリブで凌げば良い。それくらいの事を、ボーダーの隊員達はやってのける。
×××
シールドを重ねて狙撃を防ぎながら、アイドラはゆっくりと攻めてくる。人型なだけあって、攻撃方法は射撃。つまり、中距離での撃ち合いが始まっていた。
地上では、嵐山隊、玉狛第一、鈴鳴第一、諏訪隊による射撃で、トリオン兵を押し返す。
そんな中、海斗も屋上に現れた。
「陰山、お前も撃つのか?」
「いや、撃たねーよ」
荒船のセリフに、海斗は首を横に振るう。
「ちょっと、敵の場所を調べようと思っただけ。佐鳥、イーグレット片方、10秒だけ貸せ」
「えー、アイビスあるでしょ?」
「今は抜いてきた」
それだけ言うと、イーグレットを借りてトリオン兵の方を見る。見た目は人型トリオン兵にしか見えないが、やはり自分を警戒している奴が三つほどある。もっと後方には、さらに一人、警戒色を発している奴がいた。
「迅、やっぱりなんかいる。トリオン兵の中に、俺を警戒している奴が。見た目はトリオン兵なんだけどな。あと、もっと奥に一つある」
『はいよ。隊員を向かわせる』
その直後だった。ヒュルルル……と、甲高い音がする。そっちを振り向くと、何か小さな針のようなものが降ってきていた。
「? なんか来たぞ」
「何?」
それが地面に突き刺さった直後、そこからゲートが開かれる。姿を表したのは、犬型のトリオン兵だ。
「チッ……」
覗きに来ただけのつもりだったが、こうなれば自分も参加するしかない。スコーピオンを構えて殴り掛かろうとしたが、その前にレイジと荒船が動いた。
「おお……武闘派スナイパートップ2」
「頼りになるぜぇ〜」
別役と当真が声をかける中、レイジは海斗に声を掛けた。
「犬型は俺と荒船が引き受ける。お前は敵の近界民の位置を捕捉し次第、元の配置につけ」
「良いんですか?」
「忍田さんや迅から指示が来ていない以上、それがベストだ。急げ」
「了解です」
それを聞き、海斗はもう一人、トリオン兵を送り込んでいる場所を探した。もう一人、家の影に隠れている奴がいた。
「いた。氷見」
『もう送った』
「了解」
敵の位置情報を送り、本部の中に入った。
×××
『海斗くんから送られて来た位置から、敵の場所を把握したわ』
「ありがとうございます。蓮さん」
オペレーターから通信をもらったのは、三輪秀次。これより、トリオン兵を送り込んでいる近界民を倒す。
「海斗の奴、結構ボーダーで働いてるよな」
「そうだな。もっと破天荒な感じだと思っていたが」
「まぁ、とにかくせっかく見つかった敵だ。慎重に派手に行こうぜ」
「矛盾しているな」
米屋に言われつつも、三輪はトリガーを構えて移動を開始する。二人で、向かった先には、屋上にトリオン兵を送り続けていた隊員がいた。野球でもやっていそうなスポーツ刈りの男だった。
「! 見つかったか……」
「敵を捕捉」
米屋と三輪に距離を詰められても、冷静な表情を崩す事なく、自身のトリガーを起動する。背中にランドセルのような形のトリガーが出現し、周りには光の円盤が浮かび上がる。
「隊長、敵と交戦します」
『了解した。こちらは、基地への侵入を開始した所だ』
「分かりました」
それだけ報告しておくと、三輪と米屋に対し、円盤を飛ばしながら身構えた。
×××
「トリオン兵に化けとったじゃと⁉︎」
そう声を漏らすのは、鬼怒田だった。司令室で、映像を眺めながら壁抜けのトリガーを使い、中に侵入した三人の様子を眺める。一人は、額に傷がある大きな男、もう1人は髪を束ねた女、そして最後の一人が長身のキノコのような髪型の男だ。
「基地に直接来るとは……よほどの自信があるのか、それとも捨身できているのか……どちらにせよ手強いな」
「迅隊員が接触します!」
そう言う通り、モニターでは迅が風刃を構えて立っている。しかし、放たれる前に壁に穴を開けて逃げてしまった。
「逃げたじゃと?」
「風刃は先の大規模侵攻で使用していない。情報がないものに対しては、使われる前に距離を置くのは当然だろう」
「なるほど……」
しかし、元々、風刃で仕留めるつもりではなかった。通信により、迅から声が掛けられる。
『忍田さん、奴らの狙いは遠征艇だ! 部隊を先回りさせて!』
「! わかった!」
なるほど、と忍田は頷く。それならC級隊員や一般市民に被害が出ないのも頷ける。
何にしても、それなら予定通りで良いだろう。むしろ、敵が来る場所が確実に分かって、此方としても備えられる。
「鬼怒田開発室長、遠征艇がある倉庫の強化を頼みます」
「了解した」
「冬島隊長も同行してもらう」
「了解っす」
「那須隊に敵部隊の足止めをさせろ」
遠征艇が壊されれば、遠征計画が一年は頓挫する。そんなわけにはいかない。
×××
一先ず予定通りに進んでいるガロプラの面々は、基地の中を進んでいった。おそらく、遠征艇は地下にある。どこの国の基地でも、大体そんなものだ。
そんな中、後方からトリオンの反応がする。振り返ると、弾丸が5〜6発飛んで来ていたので、最後尾のウェンがシールドを貼る。
「追ってきてる」
「振り切れるか?」
「鬱陶しいし、ここで止めるわ」
ちょうど、広間に差し掛かった。ここなら、自分も思いっきり戦える。足を止め、隊長と副隊長に先に行ってもらいながら振り返った。
後ろからくるのは、自分と同性の少女達。ピタッとした隊服で、片方は素手で片方は剣を持っている。
「目標補足」
「近界民との戦闘を開始します」
そう言う二人前にして、ウェンも付近にとりあえずドグを撒き散らす。
「来な、お嬢ちゃん達」
「喜べ、この超エリートに遊んでもらえるんだからな」
「……はい?」
「玲、お願いだから普通に……」
「黙ってろ、トランクス」
ドラゴンボールに染まりつつある那須が、熊谷のセリフを無視して静かにそう告げた。
自分の隊長を……いや、親友をこんな風にしたあの男は絶対に許さない、そう心に決めつつ、今は目の前の敵に集中した。
×××
残ったガトリンとコスケロは、少しずつ目標への歩みを進める。しかし、ガトリンは微妙に違和感を抱いていた。警備が手薄すぎる。途中で仕掛けて来たのは、ウェンが止めたあの二人のみ。
何にしても、ここから先は待ち構えていると見て良いだろう。
「コスケロ、気を付けろ。おそらく」
「はい。待ち構えていますね」
副隊長も同じように頷く。戦闘中の隊員とトリオン兵の様子を見学していたヨミから、あの警戒すべき茶髪の姿がないという報告を聞いた。正確に言えば、屋上にちらりと見かけはしたが、すぐに本部の中に戻ったらしい。
「おそらく、奴もいる」
「ええ。何れにしても、俺は隊長のバックアップ、メインはお任せします」
「分かっている。後は……玄界の兵士がどれだけの腕前か、という所か」
そう言いつつ、床に穴を開けてショートカット移動する。そこは大広間だった。それこそ、遠征艇を出撃させる為のような空間だ。
そして、その真下に構えているのは三人の剣士だった。その中には、茶髪のヤンキーの姿もあった。
×××
「お、来たぞ」
太刀川の視線の先には、二人の長身の男が穴から降りて来る。渡り通路にキノコのような髪型の男が立ち、そこからさらに降りて屈強そうな男が立つ。
「壁は鬼怒田さんが分厚く補強済み、壊しちゃダメなものはしまってある。地下だから音もそんな気にしなくて良い」
「つまり、やりたい放題やって良いってわけな?」
「海斗、あんたの場合は少しで良いから気を使いなさいよ」
何しろ、たった二人のアタッカーの戦闘の余波でショッピングモールを壊滅させた事のある男だ。どんなに備えても備え足りないかもしれない。
渡り通路にいる方の男が自身のトリガーを起動し、液状化の盾を生み出すと共に、下にいる男が数体の犬型トリオン兵「ドグ」を追加する。
さて、早速開戦……と行く前に、太刀川が全員に声をかけた。
「あんたらのお目当ては、この中だ」
「……⁉︎」
「遠征艇をぶっ壊したきゃ、その前に俺たち3人をぶった斬らなきゃなんないな」
そのセリフを聞いた直後、敵の警戒色がさらに濃くなったのを感じた。
『行けるぞ、風間』
『了解した』
直後、犬型が小さく反応したが、遅かった。透明だった姿を一気に顕現させた風間の一撃が、男の片腕を斬り飛ばす。
「!」
「透明化のトリガー……!」
「おっと、悪い。三人じゃなくて四人だったな」
そのセリフを聞きながら、ガトリンも背中から自身のトリガーを出現させる。
『陰山、上で見た感じ、犬型はどういう奴だ?』
『使い捨ての攻撃特化って感じ。攻撃方法も角を構えて突撃するくらいだし、大したことねえよ』
『分かった』
情報の共有を済ませている間に、ガトリンは斬られた腕にメモリのようなものを刺す。そこから、巨大な砲門が生えて来た。
「ありゃあ、腕まで生えちゃったよ。風間さん」
「次からは足を狙う」
「何やってんだ風間テメー仕事しろコノヤロー」
「お前は黙ってろ」
「後ろのも、ただのシールドって感じしないわね」
「陰山、迂闊に手を出すなよ」
「むしろ、迂闊に手を出すのが俺の仕事じゃないの?」
「はは、まぁ任務完了できればなんでも良いぞ」
「「太刀川、こいつならテキトーな事言うな」」
「お、おう……」
そんな話をしている中、ガトリンがようやく口を開いた。
「悪いが、そんなにおしゃべりもしていられんのでな」
そう言うと、ジロリと破壊目標に目を向けた。
それを合図に、ボーダーのトップアタッカー達も各々のトリガーを構える。
「「戦闘開始だ」」
開戦の幕が切って落とされた