戦闘開始した直後、まず先手を撃ったのは、ガトリンだった。背中に生えた大量のアームを床に突き刺し、砲門を構える。
「格納庫だ!」
風間が声を張り上げるまでも無く、海斗が動いていた。両脚を地面に踏み付け、構えを取る。手には、レイガストが握られていた。
「スラスター!」
砲弾が放たれた直後、海斗の拳は発射される。正面からシールドモードのレイガストと砲弾がぶつかり合った。衝撃波によって轟音と突風が巻き起こったというのに、全員の注目が集まっておかしくない事態だと言うのに、風間も小南も太刀川も、敵の奇襲を警戒していた。
そんな中、すぐに海斗は察した。このままでは、格納庫は守れても片腕は吹っ飛ぶ。ならば、砲弾の軌道を変えるしかない。
もう片方の手の中にレイガストを出し、今度は下から砲撃を殴り上げた。殴られた砲撃は一気に天井に向かい、大きく凹ませる。
その海斗に、数体の犬が向かって行った。
「チッ……!」
相手をしようとしたが、両腕が痺れている。仕方ないので足で戦おうとした直後、他のメンバーが先に犬型を撃破する。
『あぶねー、いきなり終わるとこだった』
『あんた……殴って跳ね返すとかどれだけデタラメなのよ』
『デタラメなのはスラスターとレイガストでしょ』
内部通信で話していると、後ろにいたコスケロが動いた。ドグで牽制しつつ、まずは海斗の方に距離を詰める。ブレードを振るって来るが、それを回避すると共にカウンターを叩き込みに行く。
顔面へアッパーが吸い込まれて行く。拳の先端にはスコーピオンがはみ出ている。
それに対しコスケロは、液状化のシールドで対応した。
「あ?」
ジャブッとゼリーの中に突っ込んだような感触が手に残る。嫌な予感がするが、それに神経を使うような間合いではない。コスケロのボディに蹴りを放って強引に距離を置かせつつ、拳を引き抜いた。
その海斗に、ドグが距離を詰めてくる。その突進を回避し、濡れたままの拳を放つが、一発で首をへし折る威力のつもりで放ったはずだが、衝撃で吹っ飛ぶこともない。
「あれ、何これ」
なんて言ってる場合ではない。その海斗に、ガトリンがアームを伸ばして振るう。
その一撃に、太刀川が旋空を放って衝撃で相殺させると、海斗は軽くジャンプしてガトリンに向かった。液状化の腕が使えないのなら、反対側の手がある。
レイガストを振りかぶってスラスターによる投擲を放つが、それを別のアームでガードする。
そのガトリンの背後から、透明になった風間が奇襲を仕掛けるスコーピオンによって足を狙いにいくが、別のアームでガードする。
その風間に、コスケロが狙いに行く。液状化のシールド「黒壁」が広がって迫る。
「チッ……!」
近くの冬島隊のトラップを踏み、風間はその場からワープして回避すると共に、コスケロの背後を取った。
スコーピオンを肘に生やして肘打ちを放った。その一撃を盾でガードすると、そのコスケロに小南がメテオラを放つ。
そのコスケロの前に、ガトリンが移動し、ガードした。それにより一時、両陣営の距離が置かれ、距離を置く。
風間が、とりあえず海斗に声を掛ける。
『陰山、その手はどうだ?』
『殴っても吹っ飛ばないし、スコーピオンを出しても液体から出て来ない。斬り落としちゃって良いかな』
『使えないのなら構わないだろう。お前ならスコーピオンで腕も作れる』
『はいはい。手に持つ武器組は気をつけて。これ多分、武器を握れないから』
『はいはい』
『分かった』
言いながら、海斗は手を斬り落とし、手でトリオンの漏出を止めながら、改めて聞いた。
『で、どうする?』
それを聞いて、とりあえず現状で集まった情報を出し合う。
『踏み込んだ感じだが、あのアームはかなり硬い。その上、かなり早く動くししんどいぞ』
『レイガストを握った海斗の腕が痺れる威力の砲撃だし、多分連射は無理ね』
『次止められるか分かんないよ。レイガスト二刀出来なくなったし』
『普通に盾として使ってシールドと重ねれば不可能ではないだろう。あと一発を防ぐのはお前に任せる』
『はいはい。大砲のチャージがいつ溜まるか、多分俺なら分かるしね』
まぁ、何とかなるだろう、と海斗は軽く返事をした。続いて、小南が声をかけた。
『ノッポの方はどうすんの? 私の双月、トリオン消費大きいから何度も捕まってられないわよ』
とはいえ、海斗は最後の砲撃を止める役割として、その砲を持つガトリンを相手にしなければならない。小南も武器のトリオン消費から同様だ。
そこで、風間が口を挟んだ。
『液状化の方は、何度も武器を出し入れできる俺が相手をしよう。スパイダーを使えば、液の動きを制限できるかもしれない』
『風間一人で平気かよ? あのノッポのトリガー、多分俺がパクろうとした黒トリガーと一緒で死角からの攻撃とかもして来るぞ』
『じゃ、俺がノッポと重い方の両方をケースバイケースで狙うよ。陰山は小南と組んで重い方、風間さんはノッポ、犬は各々で対処、それで良いんじゃないか?』
その太刀川の決定に、全員が頷いた。ちょうど、向こうもそれなりに方針を決めたようで、動き始めた。
格納庫を背に、太刀川が真ん中に立ち、左に風間、右に海斗と小南が展開する。
『行くわよ、海斗。足引っ張らないでよね』
『うるせーバーカ』
それだけ言うと、二人は一気に突撃した。
×××
ガロプラに開発されたトリガー「踊り手」は、単純に言えば、飛び回る斬撃攻撃である。近距離でも遠距離でも使える上に、基本装備としてラタ自身にも剣と盾がついているため、万能に戦えるわけだ。
ただし、攻撃力はさほど高くない。一撃で全てを持っていけるようなアフトクラトルのトリガーとは違う。
飛び回る円盤を前に、いつもと違って狙撃手の援護がない三輪と米屋は、引き気味且つ慎重に戦っていた。
敵の攻撃を前に、米屋は槍型の孤月で弾きながら急接近した。正面から突き込みに掛かるが、それを読んでいたように盾で弾きつつ横に回避する。
その避けた先に、三輪の弾丸が三発迫る。それを「踊り手」で弾いた直後、巨大な黒い鉛となり、円盤は下に落ちた。
「!」
慌てて残りの攻撃は強引に後ろに跳んで回避する。
さらにその回避した先に、米屋が孤月を持って襲いかかって来た。上からの一閃に盾を構えるが、穂先の形がグニンっと変形し、自身の足を斬り落とす。
「!」
「最近はこれが足狙いなんだな」
そう言った直後、ラタは円盤を飛ばすが、深く斬り込んできていなかったからか、腕を掠めた程度で回避される。
が、その後ろからドグが迫ってきていた。
「! 陽介、後ろだ」
「っ、と……犬型か……!」
その一撃も回避しつつ、距離を離して三輪の横に降りる。その直後、大量の踊り手が襲い掛かり、シールドと孤月で凌いだ。
『あの円盤、斬って壊せる感じじゃねーな。旋空をクリーンヒットさせねえと無理だろ』
『その分、一度に使うには限度があるのだろう。鉛弾は有効のようだし、俺が一つずつ減らして行く』
『犬はどうするよ? 意外と邪魔クセーぞ』
『各々で対処する他ないだろう。可能であれば処理し、基本は近界民を狙う。それで良いな?』
『了解』
それだけ返事をすると、再び戦闘を開始した。踊り手からの斬撃を弾き飛ばしつつ、米屋は距離を詰めるが、ドグとアイドラがカバーに入る。
そのトリオン兵に、三輪が鉛弾を放ち、動きを止めに掛かる。それに伴い、米屋は軽くジャンプして上を取ると、敵全員の頭を貫いた。
ラタから円盤が飛ばされて来るが、それらを回避と迎撃で返しつつ、そっちに旋空を放つ。
それを回避された直後、距離を詰めていた三輪が孤月を振るったが、シールドで防がれる。その後、三輪と米屋の周りに大量の踊り手が攻めてくるが、三輪も米屋も跳ね返しながら距離を置いた。
その隙に、またトリオン兵を呼ばれたが、怯む様子も見せずに二人は向かっていった。
×××
あれ? 私の親友ってこんなんだったっけ? と、熊谷友子が思うようになったのは、B級ランク戦で玉狛に敗北してからのことだった。
今年度限りで日浦茜がボーダーを辞め、三門市から引っ越すとが決まり、今シーズンは今のチームで一番の成績を収める、そう決めたが、新入りの玉狛に戦術面であっさりと敗北してしまった。
那須一人が頑張っても意味がない、部隊の面々も、そして実力だけで無く戦術面も育てなければならないのだ。
そんな中、間が悪いことに聞いた噂があった。それは「バカと戦うと強くなれる」という噂だ。
熊谷も那須も、バカと戦うのは極力避けてきた。何故なら、あの人なんか怖いからだ。目つき、ガラ、態度、全てがヤンキーのそれだ。
しかし、今季は最高の成績を取る、そう決めたのなら選り好みしている場合ではない。噂であっても、そんな強化合成用モンスターがいるのなら試してみるべきだ。
で、なんやかんやあって那須が二宮隊のお世話になり、強くなって那須隊の作戦室に帰ってきた。ドラゴンボールの単行本が入った紙袋を抱えて。
その結果……。
「ぢゃあッ‼︎」
「クッ……!」
正面から蹴りを放ち、それをしゃがんで回避され足元を狙われたが、ジャンプして回避して顔面に拳を放つ。それを両腕でガードしながら近界民は下がり、犬型を出現させて那須に突撃させる。
すると、今度は大きく後ろに跳ねながら、那須は半身になり、右膝を高く上げつつ、自身の顔の前で両腕を重ねて構える。
「『
直後、両腕を伸ばして一気に弾丸の群れを射出する。それらが犬型に直撃し、まとめて吹き飛ばした。
その戦闘の様子を眺めながら、熊谷はただただ呆然とする。人とは、こんなに変わってしまうものなのだろうか? ほんの少し前までは美人でお淑やかで物静かで、病弱とはいえ周りに気を配ってくれる最高の隊長だったのに。
今でも本質は変わっていない。しかし、ちょいちょい挟んでくるドラゴンボールネタ、剣を持っている、という理由だけでたまに息子扱いしてくる面倒臭さ、格闘技を一つでも入れるために、わざわざトリガーセットに捩じ込まれたスコーピオン……全てが、もう熊谷の知る那須ではない。
「くまちゃん!」
「!」
その熊谷に、ウェンが距離を詰める。孤月を構えて斬りかかるが、その身体は空振りに終わる。
「⁉︎」
「後ろよ!」
反射的にシールドを張りながら下がるが、熊谷の左脚が斬り落とされる。
「! このっ……!」
斬り返しに掛かるが、攻撃は躱される。それを読んでいたように、さらにメテオラを飛ばした。
その一撃は、ドグが庇うようにウェンの前に出てガードする。爆発により、視界が煙に奪われた。
徐々に視界が晴れ、辺りを回すと、室内に大量のウェンの姿があった。
「……分身……!」
「どうする、玲?」
「任せて、くまちゃん」
そう言うと、那須は右手にトリオンキューブを出し、半身になってニヤリと不敵に微笑んだ。
「私が一気に殲滅する」
「へ?」
「こいつが、スーパー玲のビッグ・バン・アタックだ」
「ちょっ、玲。さっきから思ってたんだけど、ここ室内……!」
直後、メテオラが放たれた。