本部の外、つまり警戒区域での戦闘は、ボーダーが有利になりつつあった。本部で待機していた部隊も出撃し、地上に射撃部隊と狙撃手の半分、本部の屋上からさらに狙撃手のもう半分が射撃戦を挑み、敵のトリオン兵を減らしていく。
地上部隊はさらに、左右に展開し、角度をつけた火力を集中させ、敵を確実に減らしていった。
指揮をとっているのは二宮。海斗がいたら「イエス・サー!」とか抜かしそうな的確な指示で、全部隊に通達しつつ、トリオン兵を押し返していく。
「行けそうだな、このまま」
「向こうが何も手を打って来なかったらな」
地上班の穂刈と荒船がそんな話をしていた時だ。部隊の前衛、ガンナーが撃ち合いをしている付近で、動きがあった。
急に速度が上がったアイドラが村上を捕捉した。その一撃を、村上はレイガストでガードする。
「! な、なんだ⁉︎」
「来馬先輩、退がって下さい」
村上のガードしてからの強烈な切り返しを、アイドラは大きく退がって躱してみせた。
「敵のエース機を捕捉しました」
『こっちもだ』
別の班にいるレイジから頷く声が聞こえた。
『一機、やる気なのがいる』
明らかに他の機械的な動きと違い、こちらの隊列を崩すように奇襲を仕掛けて来ている。
全部で二機、隊列を崩すためのエースが登場。二機だけ性能が違うのか、それとも操縦でも出来るのか分からないが、押さえなければこちらが崩される。
「鋼、僕は平気だから、エース機を抑えるんだ!」
「了解」
一人で村上は孤月を抜いた。別の箇所では、双葉と木虎が迎え撃ちに行った。
×××
メテオラで何もかも吹き飛ばした那須は、下を眺める。だが、分身は誰一人減っていない。
「! どういう事……?」
思わず熊谷は声を漏らす。今のを受けて、無傷なのはおかしい。平然としたまま、距離を詰めて来た。
「玲、下がって!」
「っ……!」
思わず、言われるがまま後方に大きく飛び退いた。近接戦闘をサイヤ人の見様見真似で学んだものの、やはり本職には叶わない。
「どう言うことなの……?」
「おそらく、本物は一体だけなのよ。例えば……映像とか幻覚とか、そんなトリガー」
「なるほど……となると、本物以外はどれも攻撃しても無駄って事ね」
それを把握すると、那須は再び構えを取る。
「なら、話は簡単ね、全員倒せば良いわ」
「まぁその通りだけど……」
「なんとかするにはそれが一番、手っ取り早いわ」
いつからここまで脳筋に……いや、自分の隊長は割と脳筋だった。この前のランク戦でも、仕方ないとはいえ「私が全部倒す……」と言っていたし。
「やるわよ、シャアちゃん」
「あの……確かにあの作品に主人公と釣り合う腕のキャラはその人しかいないけど……そこはケーラなりチェーンなり……」
「やるわよ」
「……」
もうダメだ。とにかく、自分の親友をこんなにした奴は絶対に許さない。そう決めて、ひとまず目の前の敵に集中した。
さて、一体どのように殲滅するのか? 熊谷友子は知っている。自分の隊長がバカに教わったものは、ドラゴンボールだけではないということを。
目をしばらく閉じた後、一気に見開くと共に、自分の背中にトリオンキューブを出現させた。
「行け……フィンファンネル‼︎」
直後、ドドドドっと背中から一気に発射される。それらが、全く別々の方向に飛び散りながら、敵に向かっていった。
残像に過ぎないウェンの偽物一つ一つを穿っていく。
「チッ……な、何なのあの子⁉︎」
思わず、ウェンは舌打ちを漏らす。さっきからよく分からない事を抜かしながら、理解し難い必殺技が出て来る。もしかして、それが玄界のトリガーの仕組みなのだろうか?
分身が増えて行く中、ウェンはそこから回避を重ねつつ、ドグを追加する。犬型トリオン兵を使うのは勿論、派手な真似をしている奴の隅から迫って来るアタッカー対策だ。
「っ……!」
孤月を振るう熊谷の一閃を、ダグでガードする。
「あんたの……隊長? 何言ってるの?」
「私も分かりたく、ない!」
ウェンの疑問に、素っ気なく返しながら、ドグを斬り払いつつ、ウェンに距離を詰めていく。
その熊谷の耳元に、内部通信による指示が届く。
『クマちゃん、今!』
『え、あ、あれやるの?』
左手をウェンに向けた。その先には、トリオンキューブがある。
それにより、ウェンは眉間にシワを寄せる。この子も射撃トリガーを放つのだろうか?
何が来ても良いように身構えた直後だ。刀を持つ少女も、頬を赤らめたまま告げた。
「行け、アクシズ。忌まわしき記憶と共に!」
直後、放たれたのは巨大なトリオンキューブ。分割されたものではなく、丸々一つがそのまま飛び出した。しかも、かなりのスローで。
威力98、弾速1、弾数1の大振り。それにより、ウェンは眉間にシワを寄せた。何のつもりか知らないが、そんな大球、当たると思っているのだろうか?
その間に、熊谷は後方に大きく離脱した。てっきり、数ある可能性の一つとして、大玉に視線を向けて接近するのかと思ったが、そうでもないようだ。
なら何を? と、思った直後、その大玉に那須の一撃が貫いた。直後、爆発。たった一発で、追加したドグが全滅した。
「チッ……!」
再び、爆風で視界が塞がれる。ダメだ、こいつらのペースに合わせていては、こちらが危ない。考えていないようで、考えている。もしかしたら、あのアホなセリフもブラフなのかもしれない。
「……」
気を落ち着かせて、目を見開いた。ここからが、自分の本気だ。
×××
アタッカー四人組の戦闘は、ほとんど乱戦となっていた。何せ、仮にもボーダー変態アタッカー四人が揃っている上に、敵のガロプラも隊長と副隊長が揃っているからだ。
コスケロが放つ液状化に対し、太刀川は身体を逸らしながら回避し、液と液の間をすり抜けて旋空を通す。
その一撃をシールドで受けつつ避けると、その背後から風間がスコーピオンを握って距離を詰める。
右脚の裏からスコーピオンを出して蹴り込みに行ったが、それをドグがガードした。さらに時間差で別のドグが風間に向かって行く。
その隙に、風間の背後からガトリンが動く。が、その前に海斗が移動した。アームの一撃に対し、スラスターパンチを放ち、相殺する。その海斗の後ろから、小南が斧を振りかぶった。コース的に丸々、吹っ飛ばす勢いだ。
「うおおおいマジかお前⁉︎」
大慌てでスラスターを使い、回避する。直後、真下を斧が通り、ガトリンに向かっていった。
その一撃をアームでガードするが、真上に避けた小僧が空中からスコーピオンの腕を伸ばして来る。
それをドグが庇う形で受け、その二人の背後から液状化が飛来する。それを、太刀川が近くに落ちているドグの残骸を鞘で打つことで散らせた。
その隙に、一度、海斗と小南は離脱する。
『あーイライラする。硬いなあいつら。あと斧、お前後で覚えてろ』
『落ち着け。こちらをイラつかせるのも、奴らの作戦のうちだ』
『それに、長引いて困るのは向こうの方だ。俺達は極論、このまま適当に相手してるだけでも良いんだ』
『太刀川、あんたが言っても説得力ないわよ』
実際、引き分けなんて最高につまらない終わりは、死んでもごめんの癖に、よく言うと思った。
『一先ず、何か変化を起こさないと崩せそうにないな』
『私が引っ掻き回そうか?』
『いや、しばらくは現状維持だ。このまま向こうが手を打つまで待つ。各自、何をされても対応できるよう気を引き締めておけ』
『今日の晩飯、何にしようかな……ラーメン禁じられてるし……』
『俺がファミレスでご馳走してやるから集中しろ』
『じゃあ俺も!』
『私も!』
『……』
バカを黙らせるつもりが、もう二人バカが釣れたことに後悔しつつ、一先ず頷いておいた。
一方で、ガロプラの精鋭二人は、黙って目の前の手練を見る。
ヒゲ、若いの、斧使い、ヤンキー。そのうち、斧使いとヤンキーはこちら、ヒゲと若いのはコスケロに意識を割いている。上手いこと乱戦にして、死角からの一撃をコスケロにやらせているが、まるで見えているように避けられる。いや、正確に言えば「誰か見えている奴が指示して避けている」という感じだ。
しかし、逆に言えば、手練のうち一人はそれによって意識を割かれている、ということだ。
いずれにしろ、このままでは時間が掛かる。
『隊長、どうします?』
『大砲のチャージにはもう少し掛かる。作戦時間を20分に延長だ』
『了解です』
『それまでに、敵の戦力を少しでも減らしておきたい。コスケロ、誰でも良い。奴らの手足を捕らえろ』
そう指示しつつ、ガトリンは今度は自分から仕掛けた。犬に牽制させつつ、地面を蹴って突撃する。
狙いは、一番若そうなの。コスケロを狙っている鬱陶しい奴だ。あの剣では、処刑者のアームは防げない。
勿論、それはさせまいと言わんばかりに斧使いが前に立ち塞がる。が、その片手に斧はない。代わりにあるのは、トリオンキューブだ。
メテオラが放たれ、それをガードしつつ、今度はアームで突き刺しに向かった。
「!」
それを、小南は真上に跳んで回避する。その小南に向かうドグだが、それは太刀川に遮られた。
その隙に、ガトリンは風間に向かった。執拗に狙って来ることに風間が違和感を覚えつつも、身構えながらコスケロへの警戒も解かない。
しかし、その横からヤンキーが加速するグローブみたいなのを使って、自身を狙いに来る。敵のトリガーは斧、刀、盾にもグローブっぽくもなるよく分からん加速する硬いの、そして軽そうで切れ味が良さそうな短剣。そして、短剣を握っているのは、一番若いのだけではない。
「陰山!」
アームを一本、地面に突き刺し、強引に方向転換したガトリンは、別のアームで海斗を狙いに行った。
流石に加速した状態では、横からの殴打は防げない。その上、もう片方の腕は斬られ、脆い剣で新たな腕を作っている始末。あれではガードも出来ない。
ヒゲと斧がガードしようとするが、間に合わない。アームはメジャーリーガーの木製バットの如く、振り抜かれた。実際、何かを弾き飛ばした感触はあった。
斬った、そう確信しかけた直後だ。カランと奥から音がする。そこに落ちているのは、加速するブレードの本体の柄だ。それが、真っ二つに裂けて落ちていて、フッと姿を消した。
「……!」
まさかと思って振り抜いたアームを見上げると、その真上にヤンキーが膝をついて座っていた。
「これが、白夜叉……! って言わないの?」
自分の通り名だろうか? だとしたら痛々しい。そんなことを呟きながら、スコーピオンを自分に振り下ろす。
その一撃を、別のアームでガードすると、バカはそれを読んでいたようにアームの上から降りながら、無事の腕にレイガストを握り込み、乗っていた腕を殴った。
そのアームの先端が、スコーピオンの一撃をガードした腕に突き刺さる。
「何っ……⁉︎」
あまりに滅茶苦茶で、予想外の一撃。だが、呆けてはいられない。それに、想定外はあっても、予定の本質に変化はない。
そのまま海斗が、さらにガトリンに追撃を掛けようと、レイガストを振りかぶった直後だ。その腕に何かがまとわりつく感触。後ろを見ると、その腕に液状化がくっ付いている。
「あ、やばい」
そう思った直後だ。さっきまで自分が相手をしていた大物は退がり、代わりに大量の液状化が飛来する。
強引に手を引き抜きながら下ろうとするが、逃がさないようにドグが距離を詰める。
「海斗!」
声がする方を振り向くと、小南がメテオラを放ちながら、自身に手を伸ばしている。そのメテオラがドグを殲滅すると共に、爆風で視界を塞ぐ。その隙に、海斗は手に持っているレイガストで加速しながら、小南の手を掴んでギリギリ、離脱した。
液状化がまとわりついた腕はもう使えない。切り落としてしまった。漏れるトリオンを抑えながら、奥歯を噛み締める。
『無事か? 陰山』
『平気。悪い、しくじった』
『いや、液状化の方を抑えられなかった俺のミスだ』
聞いてきた風間が珍しく謝る。謝ること自体が珍しいのではなく、海斗に謝る事が珍しかった。
しかし、何がまずいって、これから先のことだ。これで、大砲を凌げる奴はいなくなった。次に、あのでかいのが大砲を撃つ時が、自分達の任務失敗を意味する時だ。