踊り手のトリガーは本来、一人で使うものではない。単純な言い方をしてしまえば、飛んでいる円盤が敵を切り刻むだけ。その動きは複雑で円盤自体も決して柔らかくはないが、他のメンバーのトリガーと比べると、援護向きと言った方が良いだろう。
そんな踊り手だが、それでも盾やブレードと並行して使える上にドグも召喚できるため、ボーダーのトリガーよりは高性能だ。
三輪の弾丸、鉛弾が当たれば動きを封じれるが、それに備えてドグでカバーしている。
というより、ドグの使い方が上手い。何度か米屋が後方に回り込もうとするが、うまいか間合いにカバーされている。
『中々、後ろを取らせてもらえねーな。俺ら二人以外に援護がないこともバレてそうじゃね?』
『そうだな。あまり踏み込むなよ。あのリング、一つ一つを奴の意思で動かしているのなら、迂闊に踏み込んだ所を切り刻まれて終わりだ』
『分かってるよ』
正直、このまま適当にのらりくらりと相手をしていても構わない……が、敵が止められたまま手を打って来ないわけがない。何より、近界民を見つけたら倒し、捕らえるのが基本的な三輪の方針だ。
何かされる前に、さっさと仕留めて他のメンバーの援護に向かう。槍を構えた米屋が突撃した。
「幻踊弧月」
そう言って首を取りに行く。それを、過剰に避ける近界民だが、真っ直ぐ突かれたはずの槍は真下に急降下する。
それを腕についているシールドでガードしようとしたが、穂先は形を変えてシールドを持つ腕を切り落とした。
「!」
距離をおこうとする近界民は、ドグに両サイドから米屋を襲わせる……が、そこを鉛弾で動きを止める。
そうなれば、近界民は踊り手を使うしかない。それにより、米屋の足止めに掛かった。複数の飛び回る斬撃を相手にするには、槍はかなり使いづらい。
米屋は足を止めて、穂先をうまいこと回転させながら対応し、そしてその後ろから援護をしていた三輪は背中を踏み台にして跳ね上がった。
「! 上……⁉︎」
「そこだ」
慌てて踊り手を真上に跳ね上げて方が遅い。降りながら孤月を振るった三輪の一撃は、ラタの身体を両断した。
×××
室内の戦闘は、さらに苛烈を極めた。ここが基地内で無ければ、それこそ「ストーム」が発生していたであろう乱戦であった。
バカが向かってくる犬型を捌いていると、真横から液体のシールドが流れてくる。それを両腕でガードし、スコーピオンをへし折って生やし直している間に、背中についた巨大なアームが迫って来る。
それを小南が斧でガードしつつ、メテオラで足を止めさせる。その隙に太刀川が接近した。
二刀による猛攻、それらがアームの動きを制限していく。その隙に、冬島隊のワープを使った風間が突き刺しに行く。
しかし、それをまた液状化のシールドが阻害した。
「チッ……!」
その風間に犬型が迫る。その首を落とすと、ブレードがついている頭を掴むと、投擲して強引にガトリンを狙ったが、それはアームに阻まれる。
やはり、硬い。攻め手をどんなに増やしても、とにかく守りに入られて面倒だ。
何せ、相手は砲撃一発かませば勝ちなのだ。守れるシールドを持っている奴も両腕を失っている。適当に相手して、タイミング見て撃てば終わりだ。
『どうする? どっかの誰かが両腕無くした所為で、ずっと後手よ?』
『あ? 俺の所為かコラ』
『やめろ、バカども。撃つ前にあの重い方を倒せば良いだけの話だろう』
『だな。とりあえず……あの液状化の方をやっちまった方が良さそうだ』
見事に捕まらないよう全員が立ち回っていた。馬鹿以外、五体満足ではあった。
そんな中、太刀川が提案した。
『相手は油断してないだろうけど、有利な状況だ。何せ、あと一手で勝てるからな。多分、真っ二つにしたとしても撃ってくるぞ』
『あのアームがあれば、片腕も片足も両足も、なくても撃てるでしょうね』
『けど、長引くほど不利になるのは向こうだろう。近いうちに撃ってくるぞ』
『後一回なら止められるよ。隙はかなり大きくなるけど』
『どうやってよ』
『言ったら「無理でしょ」って言われそうだし、あと多分、言わない方が良さそうだから言わない』
自信はあるようだ。とはいえ、こちらが止めるような内容なら聞いておきたい所だが……しかし、彼をここに残したのは迅だ。村上もいたにも関わらず海斗をよこした以上、信じるしかない。
『……なら、こうするか』
風間が作戦を決め、全員に内部通信で話した。
その間、敵の近界民であるガトリンとコスケロも同じように作戦を決めた。敵は数でこそ優っているものの、トリガーそのものの性能であれば自分達が有利だ。
『大砲のチャージは溜まった。コスケロ、誰か一人の片腕を封じろ。それが無理なら、格納庫の前にはヤンキー一人だけにする。格納庫の前にヤンキーのみ、或いは、それに追加してその片腕を封じた相手以外がいなくなった時、砲撃で終わらせる』
『了解』
他の連中が、あの盾を使っていたことはない。仮に、他人にトリガーを貸し与えることができたとしても、片腕さえ奪えれば、使い慣れていない盾使いが防げる程、砲撃の威力は甘くない。
まず動いたのは、ガトリン。犬型に先行させつつ、ヒゲに狙いを定めた。踏み台のトリガーで真上にかわされつつ、伸びる斬撃を放ってきたが、アームでガードしつつ別のアームで斬りかかる。
それをブレードでガードされるも、壁に押し込んだ。
コスケロが、若そうな奴を相手に、黒壁を広げて強襲する。周囲に張ったスパイダーを足場にしてスイスイ回避しつつ、若いのは距離を詰めて反撃する。
しかし、派手な見た目の割に、躱すのがあまりに簡単すぎる。そう思ったのか、急に声を張り上げた。
「陰山!」
「! 小南!」
すぐに意図を理解したのか、こちらの死角からの攻撃を、まるで見えているように回避し、味方にも指示を出せるのにバカっぽいのが声をあげる。直後、女に向かって瓦礫の隙間から液体が這い出る。
すぐに小南は後方に飛んで回避する。直後、犬型がその隙を捉えるように接近した。
「当たらないわよ」
しかし、それでも小南は斧を分断し、その犬型をまとめて斬り落とした。あまりに完璧な対応ではあったが、さらに迫る黒壁に、遠くへ飛ぶしか無かった。何故か、特にこの女が武器を黒壁に捕まらないよう意識していたから狙った。
つまり、格納庫にはヤンキー一人。ワープ出来る使い手もいない。その隙を見て、ガトリンは砲門をハンガーに向ける。
──もらった……!
そう確信し、砲撃を放った。太く重いトリオンの砲弾が一気に格納庫へ放たれた。
視界に入ったのは、若いの、髭が冷や汗をかきつつ、バカを見守っている所。唯一、それを見せていないのは女だけだ。
勝ちを確信する中、男はこちらに背中を向けて構えた。
「one、two、three……!」
おへその前あたりを、何かボタンを押すような仕草をした直後、砲弾の延長線上にあの盾トリガーの取っ手を呼び出す。
まさか、と嫌な予感がしたガトリンは、すぐに声を張り上げた。
「コスケロ! 奴を止めろ!」
「了解!」
同じく嫌な予感がしたコスケロが黒壁を発射する。しかし、それらに爆発する弾丸トリガーが向かい、阻害した。
それと同時に、層が広がって薄くなった隙を突き、若いのがコスケロの手足を斬り刻んだ。やられたが、やられるのを覚悟の行動ではあった。
そんな中、あの男は。腰をフル回転させながら、廻し蹴りを放った。いつの間にか靴を脱ぎ捨て、裸足になった足の裏が、召喚された盾トリガーの柄を捉え、脚をシールドが包み込む。
「スラスター!」
脚が砲撃を捕らえた直後、加速する。
突きと蹴りの場合、威力は桁違いだ。単純な話、パンチを放った時は全体重を乗せるのは難しいが、蹴りの場合は遥かに勢いと重心を乗せやすいから。
その上、レイガストのシールドモードによる硬さとスラスター。蹴りと砲弾が、まるでかめはめ波とギャリック砲が衝突したように押し合っていた。
だが、それでも相手のトリガーは威力だけ見れば黒トリガー並み。脚に亀裂が走る。
「んっ、なろッ……!」
額に青筋が走り、生身であれば脚の筋に痛みが走るであろう感触が響く。
そして、ついに砲弾は脚を吹き飛ばし、ハンガーに向かう……直前、新たな壁が直撃を堰き止めた。海斗が、念のために出した集中シールドが、完全に砲撃を凌いでみせた。
「……!」
ガトリンが、思わず驚いてように目を見開く。まさか、両手がなければ足とは。それも、完璧にインパクトのタイミングを捉えていた。
が、惚けてもいられない。さっき吹っ飛ばした髭が迫って来ているから。一撃を回避しつつ、アームで強襲するが、それは防がれてしまう。
砲撃は防がれたが、あの男は今度こそ再起不能。ならば、時間は掛かっても次の砲撃で決める。
そう思った時だった。
「残念だが、もう終わりだぞ」
「何……⁉︎」
ヒゲの後ろから、一気に小南が巨大斧で二人まとめて斬り落とした。
「ッ……!」
完全なトリオン漏出過多。手足を斬られたコスケロも、ダウンしてしまった。身体が爆発し、煙が舞い上がる。
「!」
「おいおい……」
が、その煙の奥に発生したのは、黒いゲートのようなものだった。そして、二人の体は完全に消えている。
すぐに脳裏に浮かんだのは、緊急脱出。ボーダーオリジナルだと思っていたが、近界民も開発したようだ。
「緊急脱出か……」
おかげで、敵の大胆さの理由がわかった。確かに、基地への破壊工作を行っても生きたまま帰れるというものだ。
耳元から、沢村の「トリオン反応消失!」という言葉を聞き、間違いないと確信する。
『いやー、勝った勝った。……と言っても、小南。何で俺ごと斬ったの?』
「いや、私の目の前にあんたの背中があったもんだから。わざわざ回り込む時間もなさそうだったし」
「文句を言うな、太刀川。敵は落とせる時に落とした方が良いだろう」
「どんまい、太刀川」
『てか、お前は何でずっと呼び捨てなわけ?』
そう告げたのは、もはや四肢が足一本しか残っていない海斗だった。
「てか、あんた緊急脱出してなかったわけ?」
「スコーピオンで傷口塞いだ」
「確かに、あんな真似を提案されたら、反対していたな。上手くいったから良いものの」
「よくあんな無茶な真似したわね」
「コナンが劇場版でアレだけボール蹴って無茶苦茶やってんだぞ。俺だって一回くらいの無茶通るだろ」
「どういう理屈だ」
そんな話をしていると、ぐらりと海斗は倒れそうになる。片足一本だから、立ちにくかった。
それを、小南が隣で支える。
「あーあーもう、トリガー解除したら?」
「いや、いいよ。ケンケンで帰る」
「どんな罰ゲームだ」
「見てるこっちが痛々しいのよ」
「でもほら、俺をガンダムだと思ってごらん? 終わった後、ボロカスになってる姿ってカッコ良くね?」
「風間さん、こいつ何言ってんの?」
「戯言」
「お前らコラ」
そんな中、小南がふと何か思い付いたのか、手を打った。
「そういえば、風間さん。こいつ今、まさに手も足も出ない状態よね?」
「……そうだな」
とても風間が浮かべているとは思えないほど、意地悪い笑みを浮かべた。
「え、ちょっ……君たち?」
「武器はなしね。ベイルアウトしちゃうから」
「どうするか。やっぱりくすぐりか?」
「それしか無理そうね」
この後、イジられるにイジられた。