外の近界民を片付けた部隊のうち、二宮隊と嵐山隊が残って警戒を続けていた。
その中の二宮隊隊長、二宮の元にオペレーターから通信が入る。
『二宮さん。陰山くん、中で近界民の撃退に成功したそうです』
「……そうか」
「勝ったんだ。良かったねぇ」
犬飼が隣から呟いた。正直、太刀川、風間、小南がいるとはいえ、二宮抜きであのバカタレがいて大丈夫だったのか不安ではあったため、ホッとしてしまった。
「驚くことじゃない。あいつらなら当たり前だ」
「またまたー。本当は?」
「殺すぞ。犬飼」
バカの影響か、最近は犬飼や辻、氷見も少しずつ気安くなってきた。まぁ、それが嫌というわけではないが。
「終わったのなら、こちらを手伝わせろ」
『それが、両手片足を失った状態のようでして……』
「チッ、どこまでも使えない奴め……」
そうは言いつつも、二宮はさほど不愉快そうにはしていない。どうせ無茶したのだろうが、緊急脱出せずに乗り切ってはいる辺り、大規模侵攻での反省を踏まえてのことだろう。
「……まぁ良い」
そう呟くと、再び見回りを続けた。もう残っていたトリオン兵も片付けたし、レーダーに狩り残しも表示されていない。終わった、と見て間違い無いだろう。
「氷見、陰山はそこにいるか?」
『いますよ。あと小南も』
「小南はどうでも良い。今、玉狛の試合がこれから始まるとこだったな?」
『はい』
「なら、観戦に行っても良いと伝えろ」
いくら別行動していたとしても、同じ部隊の隊員同士。二宮にだけ礼儀正しいバカは、一人だけ先に休むような事はしない。
それを読んだ上で声をかけてやった。
『だって』
『良いんですか⁉︎』
「構わない。どの道、お前がそこにいても出来ることなどないだろう」
『出来ますよ! 氷見の手伝いとか!』
『邪魔、目障り、気持ちだけで』
『お前俺のこと馬鹿にしてんの⁉︎』
『バカ、行きましょう。許可をもらったんだし、あなたは無理しないで自分にできることをしなさい』
『小南、もしかしてお前も売ってる?』
『菜香楼』
『じゃあ、お言葉に甘えます!』
速攻で籠絡されていた。
そんな時だった。その二宮隊の元に走って来る影があった。
「二宮さん!」
「?」
顔を向けると、そこにいたのはわざわざ見下ろさないと目を合わせられない小さな少女だ。
「黒江か。何か用か?」
「陰山先輩はここに来ないんですか?」
「何故だ?」
「褒めてもらうためです。仕事を全うしたので」
途中、出現した二体エース機を抑える役目を果たした村上と他二人、木虎と双葉だった。
確かに、上手い事抑えてくれていたし、助かったといえば助かった。……が、残念ながら海斗はここは来なくて良い、と指示を出してしまった後だ。
「あいつならここに来ないぞ。まともに戦える状態では無いため、玉狛の観戦に行かせた」
「あ……そ、そうなんですね」
少し肩を落としてしまったが、別に自分は悪くないので、二宮は仏頂面のまま警戒を続ける。
そんな中、黒江が何かに気がついたように相槌を打ち始めた。
「はい。……え? え……そ、それを? はぁ……分かりました……」
誰かから通信が入ったようで、何かしらにOKすると改めて自分を見上げる。……少し困惑した表情のままだったが、やはり真面目そうな顔で言った。
「えー……『隊長なら、自分の部下の弟子が褒めてもらいにくることくらい、察しておいて下さい。そんなんだから、いつまでもジンジャーエールばかり飲む大学生になってしまうんですよ』……です」
「……加古。部下を使って嫌がらせをするのはやめろ」
秒で看破した。こんなバカな真似をさせる女、少なくとも自分は一人しか知らないから。
『あら、もうバレちゃった?』
「当たり前だ」
むしろバレないと思ったのか? なんて言葉さえ出て来ない。単純にムカついた。
そんな二宮に、追い討ちをかけるように、かつての同じ部隊に所属していた加古望は言う。
『相変わらず面白味のない人ね』
「結構だ」
『あなたみたいな人に、どうして陰山くんが懐くのか不思議で仕方ないわ』
「そっちこそ、そこまでワガママなかまってちゃんに、よく黒江がついてくるものだ」
そんな言い争いが始まる中、少し、黒江は後悔していた。通信越しでまさかの口喧嘩。もしかして、自分の所為だろうか? しかし、黒江は海斗と同じくらい加古の事も尊敬している。
言われた事をしないようでは……いやでもどうしたらよかったのか? と、思っていると、氷見から通信が入ってきた。
『ごめんね、双葉ちゃん』
「いえ、私の隊長が吹っかけた事なので」
『陰山くんには、私から後で伝えておくから』
「ありがとうございます」
昔、何があったのか知らないが、本当に毎回、仲良い二人だなぁと思ってしまった。
正直、こういう特定の相手とは喧嘩ばかりする所、二宮と海斗は似ていると思わないでもないが、命が惜しければ口にしないに限る。
×××
今回攻めてきた国はガロプラ。アフトクラトルと従属関係にある国であり、ヒュースはそれを介して帰還を図ったが、その遠征兵であるレギンデッツから「お前は国に捨てられた」という情報と共に、拒否される。
それに伴い、陽太郎から『蝶の楯』を一時、返してもらったヒュースがレギーを撃破。迅に自分を国に帰す事を約束させ、ボーダーに入隊し、三雲修が率いる玉狛第二と組んで遠征部隊を目指すことを決めた……。
と、いうわけで、その入る予定のチームの試合を見にきた。勿論、表立って見るわけにはいかないので、会場の少し上に設置されている席で、だ。
陽太郎も連れて三人でそこに観戦しに来た。
「あっ」
「ん?」
「おっ」
が、そこには既に先客が来ていた。すぐに騙されるバカと、単純なバカがくっ付いたバカップルである。もっとも、ヒュースはその二人が付き合っていることなど知らないが。
「あ、この前の……えーっと、ヒューズ?」
「惜しい、ヒュースな」
バカの呟きを訂正したのは迅だ。そのバカっぽいセリフを聞き、ヒュースは小さく声を漏らす。
「……ふんっ、チンピラか」
「ああ⁉︎」
「はーい、落ち着く落ち着く」
声を荒立てたバカを、慌てて小南が止めた。それと同時に、ヒュースの方へ振り返って注意してくる。
「ちょっとあんた! あんまりこいつを刺激しないでよ。見ての通りなんだから」
「小南さん?」
「……ふんっ。迅、席を変えるぞ」
「いやいや、一緒に見ようよ。海斗とヒュースは仲良くなっといた方が良いぞ」
「はぁ?」
「俺のサイドエフェクトがそう言っている」
「「知るか、嫌だ」」
いや割と仲良いんじゃね? と3人揃って思ったのは、言うまでもない。が、口に出さなかったのは英断だった。迅と小南はともかく、陽太郎は特に。
二人はすぐにジロリと顔をつきあわせ、眉間にシワを寄せる。
「あ? お前何ハモらせてんの?」
「こっちのセリフだ。貴様なんぞと何故、声を合わせなければならん」
「そっちが合わせてきてんだろうが。いい加減にしろよカス」
「いい加減にするのは貴様の方だ。一々、突っかかってくるな」
「お前も同じだろうが。キン肉バスターかけてやろうか?」
「キン肉バスターってなんだ? 筋肉でも壊すのか?」
徐々に口喧嘩はヒートアップしていく。玉狛のアタッカー二人は「どうする?」みたいに顔を見合わせた後、小南が口を挟んだ。
「まぁまぁ、とにかく黙ってなさい、二人とも。これから、あんたの元弟子とあんたの入るチームが戦うんだから」
「……元弟子?」
「一ヶ月くらいだけどな」
「しかもクビになったのよね?」
「ふふっ……」
「お前今笑ったか?」
「笑った。悪いか?」
「よし、殺すか」
「だからやめなさいってば!」
こういう時、沸点低いのが彼氏の面倒な所だ。まぁ、嫌なわけではないが。なんだかんだ、自分自身が海斗と喧嘩するのも嫌いじゃなかったりする。
そんな中、二人の間にのそのそと割り込む小さな影があった。
「まぁ、おちつけ。ふたりとも。ここは、おれの顔をたてて、りょうせいばいとしよう」
「チッ……まぁ良いだろう」
「良いんだ。お前、五歳児以下」
「やめられないあんたもね。それ以上ゴネたら二宮さんに言うわよ」
すると、海斗は黙って画面に目を向ける。ヒュースも同様だ。
「チッ……」
「……ふんっ」
「ちなみに、ヒュース。ついさっき、基地内にガロプラが攻めてきたわけだが……それを退けたうちの二人がそいつらだぞ」
「……何?」
少し、興味を持ったように小南と海斗を見上げた。それを聞き、いかにもバカそう……というか、少なくともヒュースはバカなとこしか見てない二人は、自慢げに胸を張った。
「……何かの間違いじゃないのか? このバカ二人が?」
「「ああん⁉︎」」
「賢い人がいたからね。……それにほら、小南はともかく、海斗の強さはこの前、体験したでしょ」
「……」
確かにこの男は、まだ探り合いの段階だったとはいえ、蝶の楯を持った自分と互角に戦っていた。体術と体捌きと受け身は中々のものだ。
自分に色々と仕込んだ陽太郎の話では、B級一位部隊所属らしい。つまり、今後自分がこのボーダーという組織に入った際の敵になる男だ。
「……おい、貴様。名はなんという?」
「人の名前を聞くときは、まずは自分から名乗りなさい」
さっきから名前呼ばれてただろ、と思ったが、まぁ言わんとすることはわかるし、そんなことで喧嘩するのもごめんなので従うことにした。
「……ヒュースだ」
「俺の名前は、ウィス様だ」
「なるほど……ウィス・サマー。覚えておこう」
「え、あんたそんな名前だったの⁉︎」
「ふむ、べつめいというやつか……!」
「……俺が訂正しないといけないのか……」
小さく迅がため息をつくと、心底嫌そうに言った。
「陰山海斗だよ。みんなには、バカって呼ばれてる」
「迅、死にたいのかな?」
「ふむ……では、俺もそう呼ぶとしよう」
「お前も殺すぞ」
「良いわよ、バカでも海斗でもバカイトでも」
「全員、八つ裂きにしてやろうか」
結局、カイトで落ち着いた時、ちょうど玉狛第二、香取隊、そして諏訪隊の試合が始まった。