ガンダムの映画にカップルで見に来るな。こちとら男二人なんですけど。
試合開始前、玉狛第二の作戦室では、隊長である三雲修が全員に作戦を発案した。
「次の相手、諏訪隊と香取隊は、二つともスナイパーがいない。そこを上手く崩す」
スナイパーを抑えるのはスナイパー。隠れるのが上手い狙撃手ならなおさらのことだが、相手にそれがいないのなら千佳の射程が有利に働く。
「序盤、合流は目指さずに千佳は狙撃地点を押さえて、僕はワイヤーを張る」
「オサムの新兵器だな」
エースの確認に、修は頷いて答える。
「マップにもよるけど、よほど開けた場所……或いは狭い場所じゃない限り、ワイヤー陣は活きるはず。空閑、点は頼むぞ」
「おう」
大体、敵が選ぶマップもこちらの作戦を展開した際のリアクションも想像ついている。
新兵器を使う以上、負けるわけにはいかない。それに、迅の予知を聞いてしまった。
『今回の一戦、多分バカが見にくるよ』
だとしたら、なおさら負けられない。この前の戦闘ではボロカスにされたが、その時とは違う所を見せてやらなければならない。
情報を与えてしまうかもしれない、とも思ったが、そもそもあのバカな人にそこまで考える脳みそはない。
「やるぞ、みんな。上位に戻って、今度こそあの憎たらしい先輩を倒す」
「おう」
「うん!」
「了解!」
四人で声を合わせ、力を込めた。
×××
さて、各隊員が転送されたマップをヒュース達はのんびり眺める。場所は工業地帯。高低差があり、地形戦が重要になるマップ……なんて印象はなく、単純にバカが爆破したマップだ。
あれをやれるのは「トリオン体なんだから爆破くらいどうって事なくね?」という無神経さがあればの話であり、基本的にはあんな事しちゃいけない。
「……前から思っていたんだが、玄界にはこういう建物があるのか?」
「ああ。工場って言って、トリオン無しでも様々なものを作るための施設だ」
「子供たちの、えんそくのていばんだ。おれは行ったことないが」
陽太郎が補足説明をする。興味深そうに、ヒュースは顎は手を当てた。
「トリオン無しで動くのか?」
「ああ」
「お前らの星にそういうのねえんだ」
「ない。俺にとっては、手品の一種だな」
「てことは、ゲーム機とかねえんだ」
「ゲイムキ? ゲイの上腕二頭筋か?」
「何言ってんだお前」
全然、通じていなかった。まぁ、どうせ娯楽の一つだろう。と、思う事にして、試合に集中した。
なんでも、迅が言うには新しいトリガーを入れたらしい。尤も、見ていれば分かるとはいえ、それをランク戦の敵であり、超えるべき壁の前で言うつもりはないが。
そうこうしている間に、試合が始まった。各隊員が配置され、海斗は作戦室から持ってきた飲み物とおやつを開ける。
その海斗に、隣から小南は聞いた。
「ここは映画館?」
「食うか?」
「もらう」
小南に袋を差し出しつつ、もう一袋を迅の方へスライドさせた。
「ほれ、お前らの分」
「俺らのか?」
「本当は俺らのお代わりのつもりだったんだからな。ありがたく思え」
「うむ、ありがとう。かいと。今度、うちに来たとき、どらやきをやろう」
「そりゃどうも」
正直、好みで言えばあんこは好きじゃないが、くれるのであれば文句は言わない。食えるものは最高だ。
さて、モニター上では、修がバッグワームを使って移動している。合流ではなく、一人で何かしているように見えた。
一方で、遊真は。
「お?」
「香取ちゃんが喧嘩売るみたいよ」
「香取ってどこかで聞いたことあんだよな……」
「あんたと影浦さんがいじめまくってた子よ!」
「そんなことしたっけ?」
「あんた……」
とにかく、香取が遊真に迫っていた。一気に強襲しにかかり、スコーピオン二刀を前に、ハンドガンとスコーピオンで近距離戦闘を挑む。
グラスホッパーを使い、真横へ移動しながら香取スコーピオンを躱すと、その先にアステロイドが来る。
が、それもシールドでガードしつつ、スコーピオンを投げて牽制し、下がりながら壁に手を置く。
そこから、壁を通り抜けてモグラ爪で挑むも、回避されてスコーピオンで薙ぎ払いが来る。それをさらに回避してグラスホッパーで距離を離す。
逃さず、アステロイドをかまされるが、シールドで凌ぎながら距離を置いた。
「……白チビはやけに引き気味じゃん。血の気が下がったか?」
「見てりゃわかるわよ」
「だよな」
「いやそうじゃなくて、何が狙いか」
「?」
その直後だった。追撃しようと距離を詰めた香取に、小さな弾丸が数発、迫る。シールドで受けつつ足を止めて飛来してきた方向を見ると、メガネがレイガストを構えて立っていた。
「お。珍しいな、メガネが自分から絡みに行くの」
「そうね」
「もしかして、俺の影響?」
「あんたとは違うわよ。ちゃんと戦術的な考えがあってのことだもの」
「ふーん……なーんだ、つまんねーの」
「あんたねぇ……少しは二宮さんの負担を減らそうとか思わないわけ?」
「減らしてるだろ。いつもいつも」
「同じ分だけ増やしてれば同じよ」
……そうかな、と少し不安になった海斗は、迅に聞いてみた。
「迅、俺ってそんなに迷惑かけてるか?」
「どう思う、ヒュース?」
「エネドラと同じタイプだな」
「エネドラって誰? ドラえもんズにそんなのいたっけ?」
「あんたが倒した相手でしょうが!」
「???」
全然覚えていなかった。その純真な顔がムカつくが、まぁ馬鹿な子程可愛いというのは本当のようで、小南は不思議と憎む気にはなれなかった。
もちろん、それは小南だけで、ヒュースや迅だけでなく陽太郎でさえ「バカだこいつ」と呆れていた。
さて、試合では勿論、香取は二人まとめてなんて相手していられない。狙いを定めたのは、弱い修の方だ。
壁を蹴って修に向かって突撃した直後、バインっと何かに弾かれるよう姿勢を崩す。
「あ?」
思わず片眉を上げる。残念ながら、今の修は試合に集中していて、自身に対してカケラの感情も抱いていない為、何があるかは見えない。
しかし、なんとなく何があるかは分かった。
「ワイヤーか?」
「正解よ」
さらに、修はその姿勢を崩した香取にスラスターで突撃する。ゼロ距離且つ空中で捕らえた直後、レイガストのシールドモードで香取を閉じ込めた。
そして、再びスラスターを使い、空中へ舞い上げる。
「ここ!」
小南が叫んだ直後、ビルの屋上から一発、射線が通る。その一撃は、レイガストを透過し、香取の足に直撃した。
太ももから、ズシンと黒い重石が出現する。
「あれは、三輪の……なんだっけ。クラウド&バレット?」
「レッドバレット!」
馬鹿なやりとりがあったものの、試合は続く。空中に舞い上がったかと思えば、一気に地上へ叩き落とされた香取に迫る遊真。
ワイヤーを用いた変則的な軌道から、一気に首を刈り取りに来る。
それが直撃する前に、三浦雄太が姿を表してカバーした。幻踊孤月に弾かれ、一時距離を置く遊真だが、すぐにグラスホッパーを使い、二度目の強襲をしに掛かる。
が、その直後、側面から射撃が飛んで来て、一時、修の方へ退避した。諏訪と堤のダブルショットガンだ。
三浦と香取はシールドで凌ぎつつ、鉛弾により重くなった足を切り落とし、若村の援護も交えて挟まれている状況から脱する。
スパイダーと、鉛弾。それが、玉狛第二……三雲隊の新戦術のようだ。
「……ふぅん?」
それを見て、海斗は薄く微笑んだ。中々どうして面白い手を浮かべたものだ、と。
その海斗に、小南は自身ありげに「ふふんっ」と微笑んで聞いた。
「どうよ、海斗。あれが修達の新技よ?」
「面白ぇじゃん。あれ迅の入れ知恵か?」
「俺は何も言っていないよ。ただ、メガネくんが風間さん達の新戦術を参考にしてた」
「ああ……あの鬱陶しい奴か」
海斗の質問に答えた迅は、隣のヒュースにきいた。
「どうだ? あれが新しい玉狛第二だ」
「悪くはない……が、大きく変わったとは思えない。結局の所、ユウマ以外に点が取れる奴がいない事に変わりはないし、あのワイヤーも範囲から出てしまえば良いだけの話だろう」
「俺も同感。ワイヤーなんかあったって、懐に飛び込んで遊真殺せば終わりだろ」
海斗までもが賛同した。その意見は間違いじゃないし、人によるだろうがワイヤーは味方も使えるが、敵も使えるのだ。使えない奴は、ワイヤーを張っていない場所まで出れば良い。
が、その二人の意見を聞いて、迅が意外そうな顔で言い返した。
「なんだなんだ、お前ら。同じ意見なのか? 意外とウマが合うんじゃないのか?」
「「殺すぞグラサン」」
「ほら、息ぴったり」
「ちょっとヒュース、あんた海斗を取ったらブッ飛ばすわよ。こいつ私のだから」
「私の? お前ら姉弟なのか?」
「小南、お前から殺すよ」
なんか色々とアホなやり取りが飛び交う間にも、試合は進んだ。
ワイヤー陣の中、諏訪隊はまず香取隊を挟み込むように移動し、香取のスコーピオンの間合いに入らないよう、射撃を続ける。
それを意図した上で、遊真は香取達を挟むように移動しつつ、千佳も鉛弾を放ってジワジワと三浦の片腕、香取の手首を削っていった。
香取隊は何とか挟み撃ちを回避し、ワイヤーの外に出た。それは諏訪隊も同様だ。
「やっぱ外に逃げられんじゃん。遊真もメガネも追わねーし、あのままじゃ諏訪さんの所とか……かー……カートリッジ? のとこがかち合うんじゃね」
「いやいや、ここは玉狛第二、一番の売りでしょ」
「はぁ?」
その直後、大きな爆発音。モニターに顔を向けると、ワイヤーが張られていない建物が爆発した。
射線の元は、やはり雨取千佳。アイビスで、ワイヤー地帯以外、全てを破壊していた。
「ああ……なるほど。派手過ぎでしょ。本当に怪獣じゃん」
「それに関しちゃ同意。でも、大幅な有利はとったわ。あんたならどうする?」
「二宮さん次第だけど……まぁ、二宮さんならアイビスで雨取狙わせるんじゃね。もしくは、うち四人だから犬飼と辻の二人が雨取をとりにいって、俺と二宮さんで他の点取る事になると思うよ」
「……そうね、なんかそうっぽい」
そんな二人に、ヒュースが口を挟んだ。
「前から思っていたんだが、何故、二宮隊にだけ戦力が集まっている? 明らかに過剰だろう」
「そりゃ、俺が強いから……」
「上層部が放り込んだんだよ。そいつ、見ての通り問題児だから、中身と頭と素行を矯正するために」
「おい、グラサンかち割るぞ禿げ」
「全然、その成果は出ていないようだが?」
「そんな簡単に治るもんじゃないでしょ、こいつの頭」
「お前らあとで覚えとけ」
バカ達が口喧嘩している間にも、試合は進んでいった。