ランク戦の最中でも、防衛任務はなくならない。如何にボーダー内で大事なイベントが起ころうと、近界民には何も関係ないからだ。
当然のように外では近界民達が暴れ回り、それに対応する隊員も必要になるのだ。
さて、今日の防衛任務だが……海斗は二宮隊ではなく、那須隊と一緒に出ていた。暇そうにしていたら、珍しく熊谷が絡んできたのだ。
『あんた暇でしょ。ちょっと付き合いなさいよ。任務』
との事だ。まぁ金も入るし、断る理由もなかったので、一先ず出撃する事にした。
で、今は警戒区域。退屈そうにあくびをしながら、建物の屋根の上で腰を下ろしていると、自分の隣に熊谷夕子が腰を下ろした。
「ちょっと、話あるんだけど」
「え、何?」
「あれ、なんとかしてよ」
そう言う熊谷の指差す先では、那須が腕を組みながら胡座をかき、目を閉じている。ピッコロがよくやる瞑想のモノマネだろう。
「ピッコロじゃん。なんでなんとかしなきゃいけないの?」
「あんなの玲じゃないわよ! ほとんど別人になっちゃったじゃない!」
「え、俺が悪いの?」
「あんたが貸したドラゴンボールとガンダムとマーベルのお陰でしょうが!」
そういえば貸したような気がしないでもない。ていうか、あの時の菓子折り美味しかったし、また貸してみようか。
「他にどんな漫画好きかな。俺としてはワンピースとかおすすめ」
「おすすめ、じゃないから! 人の話聞いてんのかあんたは⁉︎」
なんて騒がしくしていると、その二人の元に遠くから声がかけられる。
「騒がしいぞ、貴様ら」
低い声を出そうとしている高い声。顔を向けると、瞑想をしていたはずの那須がこちらに来ていた。
「れ、玲……」
「ピッコロだ」
「……」
全く困った話だ。これを恥ずかしげもなく、標準語と真逆の口調でやれるのはすごいものだ。
ほら、どうしてくれんのよ、と言わんばかりに海斗を見上げる熊谷。それに対し、海斗は真顔のまま答えた。
「ピッコロさん、申し訳ないんですけど、パンのお迎え……今日もお願いして良いですか?」
「なんであんたまで乗ってんのよ⁉︎」
「え、いや陰山くんが悟飯ちゃんなのは違うかな……私がピッコロさんなら、陰山くんはフリーザ」
「え、どう言う意味で言ってんの? 別に良いけど」
「良くないから!」
熊谷が口を挟みながら海斗を蹴り退かし、那須の両肩に手を置く。
「お願いだから戻ってきて玲! 今のあなたはハッキリ言って痛々しいから! よりにもよってドラゴンボールにガンダムって!」
「何を言っている?」
「今、アムロのモノマネやめて腹立つ!」
「良いじゃん、別に。那須だって前より今のが強くなってんだし。なぁ?」
「ガンダムの性能のおかげです」
「そういう問題じゃ……!」
『それに、那須先輩カッコいいですよ?』
「茜、あんたは本当に黙ってて良いから!」
なんて話している時だった。志岐小夜子から耳に通信が入る。
『門反応です!』
「了解した。フィンファンネルで勝てるさ」
そう言いながら、那須はビルから飛び降りて門の方へ走る。
近界民の数は、全部で10体。そこそこの数だが、アムロは12機のリックドム隊を殲滅した。負けていられない。
「ちょっと、玲! 一人で突撃しないで……!」
「そこ!」
無視して、アステロイドを数発放つ。近くにいるバンダーの目に突き刺さり、一体撃破。そのまま、建物の屋根の上を駆け抜けて空中戦をおっ始める。
「フィンファンネル!」
変化弾がさらに空中を不規則な動きで舞いながら、飛んでいるバド3体に襲い掛かった。不規則とは言うけど、全部那須が設定した弾道の通りに飛んでいるだけなので、ファンネルっぽい動きをして向かっていた。
だが、流石は那須の操るファンネルでもあるので、キッチリと敵に風穴をあける。
バドを片づけ終えた直後だった。キィィィン……と、甲高い音。まるで、砲撃をチャージするような。
顔を向けると、バンダーが砲撃の準備をしていた。
「やられる!」
嘘である。適当なアムロのセリフを思いついたので言ってみただけ。何故なら、ビルの上で固定シールドを張ったからだ。ファンネルによるバリアの再現で。
だが、砲撃が放たれる事は無かった。バンダーの目玉に、アイビスが突き刺さったからだ。
「え?」
というか、今ので倒し切ったらしい。地上にいたはずのモールモッドやバムスターは? と、小首をかしげるが、まぁ海斗がいるなら自分より早く血祭りにあげてもおかしくない。
「茜ちゃん、援護ありがとう」
『私じゃないですよ。陰山先輩です!』
「それはないわよ。あの暴れん坊将軍に何を言われたか知らないけれど、無理してあげることないよ」
『いや本当に……』
「……小夜ちゃん、撃破スコアは?」
『熊谷先輩が三体、茜一体、陰山先輩が二体です……』
『お前、どんだけ疑ってんだよ……』
本人から苦々しそうな声が聞こえるが、そりゃ信用されないものだろう。だって馬鹿だし。ダルマにしたモールモッドで三輪隊の前衛と斬魄刀の名前を答えながらバレーボールを上げるゲームとかやるバカである。疑うな、と言う方が無理だ。
「クマちゃん?」
『いや、ホントよ。玲が敵の目を引いてくれたお陰で、茜と陰山が援護してくれて、私三体も落とせたわ』
「……」
『ちょっと当真とやり合って、スナイパーの動きをかじったからやってみただけだ』
と、言うことは……今日の自分は二宮隊で言うならバカと同じ役割だった事になる。
そう考えると……なんか、酷い辱めを受けた気分だ。なんだか悪い夢を見ていたような感じ。
何が嫌って、あの……陰山でさえたまには頭を使って戦うと言うのに、ここ最近の自分の暴れん坊将軍っぷりが本当に死にたくなる。何も考えていなかった。
「……クマちゃん、茜ちゃん、小夜ちゃん……」
『何よ?』
『なんですか?』
『どうしました……?』
「……改めます……」
『『『う、うん……』』』
今夜は不貞寝しよう、と強く決めた。
×××
さて、次のランク戦の組み合わせが発表された。前回の試合で、自分達は見事に上位入りを果たした。これは初めてのことなので、割と嬉しかったりしないでもない。
だが……那須としては、ここ最近のはしゃぎ方があんまりだった自覚はあるので、少し抑えていきたい。
「では、次の対戦相手だけど……」
「いきなりですよね……」
小夜子がため息をつきながら、那須の部屋で小夜子が作った対戦相手のデータをまとめた資料を読む。対戦相手は、東隊、生駒隊……そして、二宮隊だ。
今シーズンで、残念ながら日浦茜がボーダーを抜けてしまう。そのため、四人で今の一番を目指そうと言う話になったのだ。
だから、上位入りした今、過去一番はすでに抑えられた。後は、更に上をどこまで目指せるか、ということだ。
だが……初上位でまさかの二宮隊。少し勘弁して欲しいと思わないでもない。まぁストームが発生しないだけマシと思うしかないが。
「どうします?」
「そうね……どこの部隊も、スナイパーがいるわ。けど、陰山くんはスナイパーと言えるほどの腕はない……と、言いたいけど……」
今日はスナイパーに専念していたのか、たくさん狙撃しているとこを見られたのはラッキーだった。その結果……そこそこの精度を誇っていた。
「多分、今回はどの部隊も簡単に近距離戦にはならないと思う。生駒さんも水上先輩メインで、旋空を使って中距離を保つと思うし、二宮さんは犬飼先輩と射撃に徹しそうだし、うちも私がいるから」
「そうね。そうなるとどこもアタッカーが浮くことになるけど……」
「ええ。それを崩しに来るのが、東隊の2人だと思う」
そう言いながら、資料にある奥寺と小荒井の文字を指す。二人とも個人ランクはそこまでではないが、連携を行うことで格上も倒せるようになると評判の二人だ。
「ハッキリ言って、今回うちが勝つには漁夫の利を狙うしかないわ。他の部隊が近距離戦を始めた直後、裏を取る形で私とクマちゃんで奇襲するの」
「じゃあ、那須先輩はドラゴンボールモードですか⁉︎」
元気の良い茜の一言で、ピタッとベッドの上の那須は固まる。そして、少しずつ顔が赤くなっていく。
「っ……あ、いや……あの、あれはもう……なかったことに……」
「えー⁉︎ どうしてですか⁉︎ カッコよかったのに!」
「いや、もうホント……その、黒歴史というか、若さ故の過ちと言うか……」
「まだ若干、抜けてないわよ。玲」
「うう……いつ思い出しても恥ずかしい……あのテンション……ケホッ、ケホッ……!」
「体調悪化するほど⁉︎」
「だ、誰か呼んできましょうか⁉︎」
「平気だから……」
割と正気に戻ると黒歴史だった。あのテンションをランク戦だろうと近界民の前だろうとやっていたのだから致命傷である。
でも、枕元にはしっかりとワンピースの単行本が重ねられているあたり、漫画はまだ好きなのだ。
「と、とにかく……今回は普通に行くわ……」
「えー、でも普通で大丈夫なのかな……」
「茜、そこまでにしておきなさい」
「いや、だって那須先輩が陰山先輩と戦うようになって、漫画にハマってからじゃないですか。うちがたくさん勝てるようになったの」
言われて、他の三人は顔を見合わせる。それはその通りだ。那須の陰に隠れているが、熊谷もそれなりに実力をつけたので、それで上位までこれたのは確かにあった。
「那須先輩のモードチェンジ、相手は嫌だと思いますよ。近距離と遠距離に対応出来るわけですから!」
「茜ちゃん……」
そう言われると、なんだか少し恥ずかしさも和らぐ。あの口調も、戦闘スタイルも、全ては戦闘力を上げるためと思ってくれるのなら恥じることではないのかもしれない。
それに、なんか三輪隊だって割と漫画に影響されているのか、銀魂のモノマネとかしていることもあるし、それで三輪も米屋も強くなっているし、悪いことは何もない。
「ありがとう、茜ちゃ」
「まぁ、口調まで真似する必要は全くないて思いますけど」
「ーッ!」
「あれれれっ⁉︎ な、那須先輩どうしたんですか⁉︎」
「あんたがトドメ刺したんでしょうが!」
恥ずかしさが再燃し、布団の中に潜ってしまった。もう無理。しばらく立ち直れないし、心無しか熱が上がってきた気がする。
×××
海斗は、個人ランク戦に来ていた。なんか、暴れ足りない。どうにもスッキリしない。やはり肌で感じて敵を倒さないと、どうにもダメだ。スナイパーに徹する、と言うのも楽ではないかもしれない。
それを察してか、昨日の防衛任務の活躍を見た二宮から「個人ランク戦やるなら近接戦のみで行け」と言われたので、遊びに来た。
今日は誰と戦おうかなーなんて思いながら呑気に歩いていると、目に入ったのは風間蒼也だった。珍しい奴が来てるな、と思ったので、後ろからカンチョーをする事にした。
両手を組み、人差し指を二本とも立てて、慎重に背後から接近し……そして、一気に射出!
「千年殺しィイイイイ‼︎」
「させるかああああああ!」
だが、その自分の真後ろから飛び蹴りをかましてくる影。見事に直撃し、思わず前方に転がってしまう。当然、風間を巻き込んで。
「痛ってぇな! 何すんだ三輪!」
「先輩に何をするつもりだったお前⁉︎」
「先輩じゃねーよ! ただのチビだよ!」
「小さくても先輩だろうが! お前ホント最近は大人しくしてると思ったら……怒られても知らんぞ⁉︎」
「うるせええええ! 戦闘でも大人しくさせられ続けてて、もう割と疲れてんだよ! たまには大暴れしないとストレス発散できねえんだよ! ストレスが発散できないボーダーなんて、覇気のない新世界みたいなもんだろうが!」
「知るか!」
なんて口喧嘩が始まる中、2人の肩に手が置かれる。
「おい……人を巻き込んでおいて、こっちには何も無しか?」
「すみません、風間さん……」
「何もしてねえんだから何もないだろ」
「千年殺ししようとしていただろう」
「どうせトリオン体じゃん」
いつにも増してバーサーカーだった。なんかもう誰が相手でも良いから暴れさせてほしい、という感じがしみじみと出ている。
風間もそれは察している様子で、イライラより面倒臭い、と言う感じが滲み出ていた。
「なら、暴れるか?」
察した三輪が横から口を挟む。
「あ?」
「風間さんもどうですか? 最近、俺と陽介と出水とバカの間で流行っている遊び」
「何をするんだ?」
「ああ、あれか。よし、やろうぜ」
話しながら、三人で三輪隊の作戦室に向かった。
×××
途中、見つけたので拾ったのは黒江と遊真。そして、作戦室にいた陽介を連れて、訓練室を起動した。
「はい、と言うわけで始まりました。ドキッ♡ ボーダーだらけの増え鬼大会!」
「「「「いえーい!」」」」
海斗の掛け声でノリノリの合いの手を入れたのは三輪、米屋、遊真、黒江の四人。唯一、ついていけていない風間は三輪に強く重々しく言う。
「おい、あの厳格で真面目で規則に忠実だったお前はどこへ行った?」
「真面目です。訓練です」
「増え鬼の何処がだ⁉︎」
「初めてな人もいるので、ルールを説明します!」
海斗が強引に話を進めてしまう。こいつらいつもこんなことしているのだろうか? 頭がおかしいのだろうか?
「基本的には増え鬼と変わりませんが、鬼はバッグワームアリ、逃げ手はバッグワーム無し! 殺されたら殺された者は鬼に参加する! 当然の事ながら、逃げ手も反撃アリですが、自分から仕掛けるのは無し。あくまでも、鬼に仕掛けられた場合のみ反撃可能です! 逃げ手が全員、鬼となったら終了し、最初に捕まった者が鬼となる!」
本当に意外と考えられていた。つまり、逃げることを想定した訓練だが、当然のことながら逃げるばかりでもないと言うこと。
それこそ、この前の大規模侵攻のようなものだ。中にはC級を逃す任務についていた者は反撃は当然するが、基本的には逃げに徹しなければならない。
その上、敵はどこから湧いて出るか分からないこともある。だからこそのバッグワームは鬼のみというルールかもしれない。
「鬼が殺された場合はどうなる?」
「10秒スタン」
「……なるほどな」
その間に逃げる、と言うことだろう。ちょっと面白そうだ。
というか、鬼側もそうだ。どの味方を増やせるか、は戦略次第だが、強い奴を狙ってもタイマンで勝てるか否か、ということになる。
また、大規模侵攻の時には、非番の隊員はあまり慣れていない奴と組む機会もあっただろう。そう言う意味でも、どんな奴と組む時にしてもそこそこの連携を出来るようになる、という特訓にもなる。
「ふっ、面白い」
「よし、じゃあやろーぜさっさと」
「これはどれくらいで終わるゲームだ?」
「俺とか海斗とか出水とか秀次とか黒江とか空閑とか迅さんとか緑川とか鋼さんとか荒船さんとかイコさんとか王子先輩とか弓場さんとか辻ちゃんとか帯島ちゃんとかカゲさんとか太刀川さんとか京介とかとやる時は10分くらいでしたよ」
「何でプチ流行してんだ。ていうか、その人数でやって10分で終わるのか?」
「いや、やる時はこの中から4〜8人くらいっすよ? 俺と海斗は毎回いますけど」
「歌川が参加したこともあったじゃん」
「ああ、あった」
「後で事情聴取だな……」
まぁでも、仮に10分と見積もろう。5ゲームで50分と見積もっても多くはない。
「今から5ゲームほどやるが……俺を1〜3番目に一度でも落とせたなら、全員に夕食をご馳走してやろう」
「マジですか⁉︎」
「ほほう……きまえが良い……」
「何かあった方がやる気が出るだろう?」
「言ったな。ブッ殺す」
海斗も殺る気が上がっていた。
さて、ではゲーム開始になった。
×××
場所は、市街地D。最初の鬼はジャンケンで決まり、遊真となった。
「よっし、いっちょ揉んでやるかね」
そう言いながら、指を軽く鳴らす。もう1分数えたので、探索開始。このマップはショッピングモールがあり、縦に広いが横に狭いマップ。
遊真はバッグワームを羽織り、早速敵の位置を確認した。幸いと言うかなんと言うか、奇襲は自分も得意だ。
さて、まずは誰を狙おうか? 最初なので、風間を狙うのは控えた方が良い。勝てるかはやってみないと分からないが、やはり可能な限り勝ちたいのだ。
海斗もやめておきたい。まぁサイドエフェクトなので仕方ないとは思うけど、姿はもう見られているだろう。
そうでなくても、ランク戦的な事情から情報は出したくないので、サシでやるのは避けたい。
そうなると……。
「くろえだな」
そう決めて、そっちへ向かった。黒江がいるのは、ショッピングモールの中。さっさと突撃して、黒江をとりに行く。
早速、目に入った。バッグワームからの奇襲は、自分の得意とするところ……と、一気に首を落としに掛かった時だった。
「『韋駄天』」
「!」
二人の身体が交差する。ふっ、と着地し、お互いに足を止める。その後……ボトっ、と落ちたのは、遊真の腕だった。
「絶対、私を狙ってくると思ってました。何度も負けてるし。……だから、師匠直伝の韋駄天カウンターを狙わせてもらいました」
「やるね」
そうほくそ笑みながらも、スコーピオンなら腕は作れる。遊真は色んなスコーピオン使いの使い方を心得ているので、海斗の真似をして腕を作った。
「でも悪いけど、なかまになってもらうよ」
「10秒止まっててください」
そう話しながら、また突撃した。向こうから来る韋駄天を、今度は完全に回避し、背後をとって義手で斬りかかる。
しかし、黒江はレイガストを使って自身の身体を包み込むシールドを張る。
それにより義手が弾かれる中、孤月でカウンターを放ってきた。それをグラスホッパーで回避しつつ、背側に回って義手ではないスコーピオンで斬りかかるが、蹴りが自分の手首を直撃し、武器を落とさせられた。
それと同時に、レイガストのスラスターで加速しながら斬り掛かってくる。
「むっ……!」
それをシールドを張って顔面にぶつけて動きを止めさせると、後ろに下がりながら黒江の周りにグラスホッパーを大量に出して囲んだ。
その中に、スコーピオンの手裏剣を投げる。スコーピオンだけのピンボールだ。
「!」
それを、黒江はレイガストと孤月でガードするが、どっちも重さがあるので少しずつ腕や足を掠める。
だが、所詮は軽い武器。捉えさえすれば弾き落とせる。道路にはたき落とした黒江は……後ろを向いた。そこには、遊真が移動している。
「そういうことすると、思ってました!」
真横に孤月を振るった。遊真は体を後ろに逸らして避ける。しかし、この次の攻撃は避けられっこない。師匠直伝、レイガストパンチを叩き込む……と、思った直後だ。
『トリオン供給期間破損』
「え……」
胸を貫くスコーピオンのブレードは……弾き落としたはずのスコーピオンから伸びていた。
「え、なん……」
「マンティスだよ」
そう言われた通り、いつの間にか遊真の義手は消えていて、足元の道路にヒビが入っていた。
モグラ爪からスコーピオンを繋げ、下から胸を狙って来た。
「うがああああああ! また負けたああああああ!」
「まだまだ青いな、くろえ」
「うるさああああああああい‼︎」
「ほらほら、お仲間のくろえ。次は誰ねらう?」
「むっきいいいいいいいい!」
ニヤニヤしながらそう聞くと、さらに良い反応をしてくれる黒江だった。
×××
「おいおい……このジャンプ今週号じゃん。芸細かすぎだろ」
ショッピングモール内の本屋。そこで、米屋は漫画を読んでいた。どうせ見つかっているのだから、こうして呑気にしていても良いという判断だ。
黒江の反応がマップから消えて時点で理解した。捕まってバッグワームをきたんだろうな、と。
そんな中、手元に槍を召喚する。すぐに分かった。敵が来た、と。なんとなく、直感で。
「『韋駄天』」
「うおっ、と!」
首を横に傾けて回避しながら、その背中に槍を振るう。
幻踊孤月を放ったが、流石に知り合い同士。読まれていて、シールドに阻まれる。
その直後、背後から悪寒。反射的にしゃがむと、白いチビが首を刈りに来ていた。
「おっ、やるね。良い勘」
「あのバカとやり合ってりゃ、そんなもんいくらでも身につくだろ」
そのまま近距離で遊真がスコーピオンを使って攻め立ててくるのを、槍を使って捌く。グリップではなく中心を掴み、クルクルと回しながら二刀を弾き続ける。片方は義手だが。
が、その直後で黒江が攻めてくるので、足を使って強引に躱した。
「っぶねぇ……! お前ら仲良いな」
「良くないです!」
「師匠同士がなかいいもんで」
「肯定しないで下さい!」
二人がかりを躱しながら、足を使って引き気味に戦う。
しかし、二人とも口で言う割に面倒なコンビではあった。スピードの遊真と威力の黒江。二人で三種類のブレードをコンプしているとこもあり、一秒も気が抜けない……そんな中、左右から挟み込むようにブレードが迫ってきた。
「ぬおっ⁉︎」
後ろの黒江の孤月は孤月の穂先、遊真のスコーピオンは自分もスコーピオンで受けた。
ギギッ……と、刃と刃が擦れ合う音を響かせながら、流石にヤバいと米屋は苦笑いを浮かべながら軽口を叩く。
「おいおいお前ら……風間さんの奢りは良いのか?」
「そのための仲間集めです」
「かいと先輩はバカだし、みわ先輩はおれのこと嫌いだし、あとはよねや先輩しかいないよ」
「消去法かよ。光栄だなオイ……!」
なんて思わず呟いた直後だった。ドゴッと真横の壁が崩れる音がして、思わず三人とも顔を向けてしまった。
そこで起こっていたのは、風間とバカと三輪の喧嘩だった。
「遊真、今だ! このチビ殺して奢らせろ!」
「やってみろ! まとめて畳んでやる!」
「二人ともルール違うから止まってマジで!」
奢りのために仲間割れが出来ていて、三人とも力を抜いてしまった。もうこれは……ルール無視の乱戦が始まるまで、後何秒か、と言う空気。
六人揃って喧嘩が始まり、大暴れが始まってしまった。