「やはり、イコマ隊はキツそうだな」
「だろうね」
玉狛支部で試合を眺めるヒュースのセリフに、遊真が頷いて返す。中距離戦での撃ち合いに、二宮のフルアタックを何とか建物を利用して凌ぎながら、死角から生駒旋空と水上のハウンドで撃ち合っている状況だ。
たまに隠岐から狙撃が来るが、三人ともいとも簡単に避ける。海斗の位置情報サービスによって撃って来る箇所が分かるからだ。
「ここまで二宮隊が圧倒的だと、そろそろ他の部隊から集中攻撃を受けそうなものだが……」
「けど、その辺のタイミングとかも全部海斗が見てるからね。奇襲があっても簡単に対応されるわよ」
ヒュースのセリフに小南が答える。つまり、バカをスナイパーとして運用すれば、二宮隊はさらに堂々としていられる。
二宮自体、付近に隊員がいない時はフルアタックを控えているのだが、海斗がいれば一人の時でもフルアタックをしそうなものだ。
「にしても、本当にらしくないわねー。なんか慣れないわ。おとなしいバカって」
「まぁ……ここまでかいと先輩は細かい指示とか受けてなかったっぽいからね。とりあえず暴れろ、的な感じの動きばっかしてたし」
「多分、今は二宮さんの指示でしょ。じゃなきゃ、こんな風に大人しく狙撃に徹するような真似しないわ」
「そうですね……」
修は顎に手を当てて少し困ったように唸ってしまう。いや、本当に困った。だってこれ、ただでさえ何も対抗策が浮かんでいない最強チームに、新たな戦術が出来たようなものだ。
この動きの時の二宮隊の場合はどうすれば良いのか、そもそも二宮隊が海斗にどう言う動きをさせるのか、それだけで可能性は無限に近い。
そんな中、遊真がヒュースに声をかけた。
「ちなみに、ヒュース。トリガーの構成はどうすんの? 結局、孤月と変化弾とエスクード?」
「基本的にはそのつもりだ。……だが、そうだな。二宮を相手にするならば、何か他の作戦を考えるべきかもしれない」
「そっか……まぁそうか。俺もトリガー構成変えたくないし」
ヒュースは剣をメインにしつつ、持ち前のトリオン量とトリオン操作を活かしたオールラウンダーだ。
二宮隊といつ当たるか分からないが、可能な限りヒュースの手札は隠しておきたい。
「やっぱり、二宮隊を倒すには、早い段階で陰山先輩を落とすしかないか……空閑、ワイヤー地帯なら陰山先輩を倒せるか?」
「いやー、どうだろうな。あの人、動体視力と反射神経がおかしいからな。簡単にはいかないと思うぞ」
「ヒュースは?」
「蝶の楯を使っていた時も互角だった相手だ。保証は出来ん。……絶対負けんがな」
「どっちだよ。ていうかヒュース、かげやま先輩嫌いなのか?」
ツッコミを入れた遊真が聞くと、ヒュースはテレビを睨みつけながら答えた。
「別に嫌いではない。嫌いになるほど関わってもいないしな。……ただ、機会があるならこの手でぶちのめしたい」
「嫌いじゃん」
なんて話している時だった。隣から「は?」と冷たい声が聞こえてくる。三人揃って顔を向けると、少し静かだった小南が睨んでいた。
「あいつをぶちのめすのは私だから」
「え? お、おう」
「こなみ先輩、味方じゃなかったの?」
「うるさい。でもあんたら勝ちなさいよ玉狛なら」
この人何言ってんの? と、男達は小首をかしげるしかなかった。
×××
さて、そうこうしている間に試合は進む。バッグワームを着込んだ那須は、生駒隊と二宮隊の戦闘を眺めながら呼吸を整える。
『那須先輩、私いつでも撃てますよ!』
「ええ、ありがとう。でももう少し待ってね、茜ちゃん」
そう答えながらも、心中は穏やかではない。何せ、完全に自分の所為で熊谷は落ちた。
海斗に少年漫画を教わって、もちろん強くなった。漫画の技とか再現して攻撃のバリエーションは広がったし、そのおかげで上位にまで来た。
だが……隊長としての働きではなかった。海斗でさえ隊員として二宮の指示に従っている様子を見て、つくづく思い知らされた。何がベジータ、何がフィンファンネルだ。うまく行っていたからって務めを怠った。
指示を待っている茜には申し訳ないが、このまま自分なんかが指揮を執って良いものなのか……なんて少し自己嫌悪している時だった。
『玲?』
「っ、く、くまちゃん……?」
通信機越しに親友の声が届いてくる。責められたりとかするのだろうか? いや、熊谷ならそれはないだろうが……いや、人間誰しも地雷はあるし、もしかしたら……なんて思っている間に、熊谷は静かに告げた。
『まだランク戦は終わってないわよ』
「……!」
そうだ……まだ終わっていない。それも、試合中だ。四人で今までの一番を目指すと決めたのだ。だからこそ、失敗を気に病んでいる場合ではない。
とりあえず、考えなくてはならない。作戦を。現状、二宮隊がリードしている。生駒隊が予想以上の粘りを見せているからこそ、今がチャンスだ。このまま生駒隊に加勢する形で、二宮隊を狙う。
「ありがとう、くまちゃん」
そう声をかけながら、作戦を考える。海斗が存在している以上、奇襲に効果はほとんどない。
……だが、アレはバカだ。そこに突け入る隙があると考えて良いだろう。
あのサイドエフェクトは隠れている人間のことが分かる。それは、隠れている人間が海斗に対して向けている感情の色を見ることが出来るからだ。
戦闘中はほぼ全員がアイビスを担いでいる海斗の事を警戒しているし、スナイパー殺しと言っても過言ではない能力なのは間違いない。
と言っても、所詮はバカだ。こちらがアクションをしようとしているのを見ても、何が狙いなのかは分からない。そう言うのに、那須が得意とするトリガーはうってつけだ。
後は、東隊の動きだ。
「小夜ちゃん」
『はい』
「東隊、どうすると思う?」
『そうですね……私が東隊なら、私達と生駒隊と連動して二宮隊に奇襲を仕掛けますが、先に仕掛けた方が二宮隊に狙われます。だから、私達が動き出すのを待つと思います』
「ありがとう。私もそう思うわ」
概ね、同意見だ。つまり、3対1。とにかく、海斗を引き摺り出してスナイパー殺しをやめさせないとダメだ。
「茜ちゃん、仕事よ」
『はい! 何でもやります!』
作戦は決めた。後は、如何に距離を保てるか、だろう。
×××
『割と粘ってんな、生駒隊は』
『つーより、二宮隊に攻め気が見えねーな。適当に相手してるって感じだ』
解説席の出水と米屋がそんなことを言う。おそらく、警戒しているのだ。残り二部隊が連携して仕掛けてくるのを。
実際、二宮のハウンドで南沢は片足、水上は片腕を取られており、ジリジリと相手のトリオンを削っているので生駒隊を仕留めようと思えば仕留められるのだろう。
二人の説明に三上が横から聞く。
『他チームの奇襲を警戒している、と言うことでしょうか?』
『そういうことだろうな。今回は海斗がスナイパーとして動いてるから、それ相応の動きをしてるんだろうな』
二宮隊の今の動きは戦術をメインにしている。今まで海斗を好き勝手させていたが、やはりそれをずっとしていると対策もされてしまうと判断してのことだろう。
出水に続いて米屋も見学しながら口を開く。
『海斗のサイドエフェクトで他の二部隊が仕掛けて来ても位置がわかってるから、なんならさっさと仕掛けて来させた上でカウンターを狙ってるんじゃねーの?』
『ありそうだな。けど、それが分かってるからこそ他の二部隊は仕掛けづらい。今、目立っている二宮隊を集中攻撃するとしたら……そうだな。次に二宮さんがフルアタックする時っぽいな』
そんな風に出水が言った直後だった。二宮は両手の下にトリオンキューブを顕現させる。そろそろ点をとりに行くことにしたのだろう。分割数は両方とも8分割。二宮のトリオン量でそのサイズは仕留めに行っている。
それと同時に犬飼からハウンドのトリオンキューブが顕現した。
ボッ、と音を立ててそれらが南沢に向かう。
『犬飼先輩と連携……!』
『仕留める気だ』
犬飼の弾は弾速重視。それらに生駒と南沢のシールドが広がった。
そのままフルアタックが射出された直後だ。二宮隊の後方から姿を現したのは、那須玲。片足を上げて、半身になりながら両手を重ねて顔の前で構える。
『! あの構えはまさか……!』
『ギャリック砲!?』
『お二方、奇襲の方に反応して下さい!』
南沢に放たれたアステロイドは、生駒と南沢のシールドをぶち破る。狙われた南沢のシールドの奥には、さらに水上のシールドが待っていた。
それらが二宮の攻撃を阻んだ……かに思えたが、16発の弾丸のうち、1発だけタイミングがズラされていた。ズタボロになったシールドを貫き、南沢の身体を貫通した。
だが、1点とったところでピンチが訪れている。生駒と水上がすぐに反撃に応じ、離れた場所にいる隠岐がライトニングを放つ。
そして、さらに背後の那須。放たれた三方向からの攻撃に、辻が前に出た。正面からの生駒旋空に対し、自身の旋空をぶつける。それでも押し負けるが、旋空の軌道は反らせた。
水上の弾丸は犬飼が範囲を広げたレイガストスラスターで弾きつつ、隠岐の狙撃は集中シールドで捌く。
那須から来る弾丸は、二宮がこちらに届く前にシールドに当てることで爆破させる。二宮は……というか那須と最近、戦ったことある奴はみんな知っている。那須の「ギャリック砲」は変化炸裂弾のことだ。
……が、その弾丸はシールドを貫き、三人に襲い掛かる。
『! コブラ!?』
『魔貫光殺砲じゃん!』
『え、そうなんですか?』
二宮の片腕を吹き飛ばし、辻の足も持っていかれた。だが、那須の弾丸はここからだろう。
それに、二宮は那須が絡んで来るのは予想していた。だからこそ、その備えはしていた。
三人の足元をアステロイドで破壊し、民家の中に逃げ込む。中から犬飼がレイガストをスラスターで射出して開けた穴を塞ぎつつ、辻が壁を斬って外に出た。
だが、その外で待っていたのは東隊だった。
『ここで、奥寺隊員と小荒井隊員が二宮隊に襲い掛かる!』
『流石、東隊。ここで詰めてくるか』
『逃げる先を予想してた動きだな』
二宮隊も、海斗のサイドエフェクトで先は見えていた。待ち伏せされているのは承知の上だっただろう。
奥寺と小荒井の狙いは辻。2人がかりで襲い掛かるが、読めていた犬飼と二宮がそれをさせまいと弾丸を飛ばす。
だが……その後、奥寺と小荒井が取った行動は、ブレードではなく弾丸を放った事だった。
『ハウンド!?』
『うおっ、マジか!』
前回のランク戦では確かに使っていなかった射撃トリガーを前に、思わず米屋と出水も驚いたようなリアクションが漏れてしまう。
その一撃はしっかりと犬飼と二宮に刺さり、二人ともガードするしかない。その隙をついて、グラスホッパーを使って二人は一気に辻へ距離を詰めた。
『うおっここでガン詰か。あの二人の連携だと辻ちゃんちょっとあぶねーぞ』
『だな。こうなると二宮さんも犬飼先輩も、下手すると味方を撃っちまう』
『しっかりと隠し玉を切って距離を詰めた東隊。そして当然、ほかの2チームもその戦闘を黙って見ているはずがない』
三上が実況する通り、那須がその場に向かって変化炸裂弾を落とす。いち早く気づいた二宮がハウンドで爆撃を落としつつ、犬飼が那須に牽制する。
だが、まだ終わっていない。今度、飛んできたのは生駒旋空。その一撃は二宮、犬飼と辻を分断した。
×××
「どうします? 二宮さん」
「そうだな……このまま他をまとめて相手にしても良いが……」
そうなると辻が落とされる。それを黙って見ているわけにはいかないが……それをするには、那須が鬱陶しい。
「犬飼、陰山。辻を援護しろ。俺は那須をとりに行く」
「了解」
部隊を分けると、海斗のアホの視界では敵の位置を知らせるのは簡単ではなくなる。おそらく東さんはそれを狙ってこのタイミングでアタッカー二人に仕掛けさせたのだろう。
だが、このまま戦闘を続けてもしんどい。なので、点を取りに行くことにした。
そんな中、また海斗が少し拗ねたようなことを聞いてくる。
『俺はまだここにいた方が良いですか?』
「試合前に言ったはずだ。お前はスナイパーが最低一人減るか、俺達の誰かが落ちるまで動くな」
そう言われた海斗は黙り込んだ。こいつは本当にどこまで大暴れしたがっているのか。
『そう言われても、スナイパー達みんな顔出さないっすよ、隠岐以外。落とそうにも落とせないし……』
つまり、そう言うことである。海斗にスナイパーの動きをさせれば、おそらくスナイパーは簡単に顔は出さなくなるだろうな、と二宮は試合前から分かっていたし、だからこそ今回は派手に動く作戦を取ってみることにした。
「良いから、仕事はきっちり果たせ。お前が暴れる時間は必ず来る」
『あーい』
少し無駄な時間を過ごした。とりあえず、この場は辻を一度、犬飼の距離にまで逃す必要がある。
そう判断し、ハウンドを放った。高く撃ち上げた後、それらを辻諸共まとめて小荒井と奥寺を巻き込むように落とす。
「!!」
「おっと……!」
その一撃で辻は二人から一度、距離を置く。犬飼の隣にまで下がってから、生駒隊にも警戒しておく。
その間に、二宮は那須をとりに移動し始める。
犬飼と辻はその場に残り、小荒井と奥寺、そして生駒隊の相手をし始めた。
二宮が抜けた今、要注意人物は二宮隊ではなく生駒だ。アタッカーランク6位に位置するその男なのだから当然だろう。
だが、そのおかげで集中攻撃を受けて2対1となっていた状況が三つ巴となる。
『辻、8時の方向からハウンド来るぞ』
「了解……って危なっ!? それ4時の方向だよ!」
『良いだろ、大体半分なんだから』
「大体じゃなくて普通に半分だよ!」
「海斗くん、無理してカッコ良い表現を使おうとするのはやめて」
『真面目にやれバカ』
『次の焼肉、白米しか食べさせないよ』
『すみませんでした』
と、まぁバカのアナウンスは割と正確ではなかったりするわけで。
それでも辻はシールドで小荒井からのハウンドをガードしているのだからまだマシだろう。
そのまま小荒井へ旋空を放ち、小荒井が避けた先に犬飼の射撃が飛んでくるのでグラスホッパーで横に避ける。
その小荒井に隠岐から狙撃が放たれるが、奥寺のシールドで守られる。奥寺に、水上からハウンドが放たれ、奥寺はシールドを使って守る。
が、これで奥寺は両トリガーを使ってしまった。その隙を逃さないように生駒から旋空が飛んで来た。
それを小荒井のグラスホッパーで避けながら建物を壁にして距離を置く。
中々、均衡している。この状況、次に誰かが落ちれば一気に戦況が傾くこともある。
そんな中で変化が起きたのは、一人の緊急脱出からだった。
「! 誰だ?」
「那須さんっぽいですね」
二宮に狙われた那須が落ちた。だが、那須はただでは起きない。置き土産に残した変化炸裂弾が、三つ巴を展開している箇所に堕ちてきた。
東隊も生駒隊も、すぐに二宮が那須を落としたと理解した為、狙いを再び二宮隊に切り替える。
『犬飼、辻。来るぞ』
「分かってるよ」
那須の置き土産が地上を爆破し、建物が吹っ飛ぶ。それと同時に動き出したのは、各部隊のスナイパーだった。
まずは隠岐のライトニング。辻に真っ直ぐ向かい、辻はシールドを張ったが、その隙を水上が逃さない。ハウンドでさらに両手でシールドを使わせる。
そして、トドメと言わんばかりに生駒が旋空を放った。
「スラスター」
それを、犬飼がレイガストで受けた直後だった。東からの狙撃が犬飼を穿った。
「ありゃ……」
それにより一人になった辻を東隊が狙う。いつもとは逆で、東が崩して二人がさらに追い打ちをかけるパターン。
それに対し、海斗も動く。遠距離からアイビスで小荒井を狙うが、それは小荒井の片足を掠めて吹っ飛ばして普通に外した。
が、それで崩れた小荒井を、日浦の狙撃が貫いた。
「! 小荒井……!」
「ちくしょっ……!」
奥寺が動揺した隙に、辻は大きく下がって距離を置く。まだ水上と生駒がいる。足を止めているのはマズい。
そんな風に思った時だった。耳元から、二宮から指示が出る。
『陰山、解禁してやる。暴れて来い』
その許可が出た直後、何かが空から降ってくる。スラスターの勢いに任せて遠くから民家の中に一気に突っ込んでくる人影。まるでその言葉を待っていましたと言わんばかりだ。
ドスンッ、と着地の衝撃で地面がひび割れ、砂煙が舞い上がる。
「うおっ。来た」
「ここからかいな」
「げっ、ヤバっ……!」
生駒、水上、奥寺がそんな声音を漏らす。それと同時に、二宮隊の作戦も理解した。
バカをスナイパーのように扱っておけば、二宮隊の被害を減らしつつ突撃バカを温存しておける。サイドエフェクトを使って援護に徹し、取れるだけ取って一人落ちたらバカが暴れる時間になる。
……しかも、暴れたくて暴れたくて仕方なかったバカが、それを発散出来るとウッキウキで現れる。
ラウンド2が始まった。