仮面ライダーW スピンオフSS Cの罪人/Jの咎人   作:タチガワルイ

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ちょいと筆休めに最近ハマってしまった仮面ライダーWを題材にしたSSです。

オリキャラも出ますしオリジナルガイアメモリも出ますし、公式が言及してない部分に自己解釈をぶち込んだ代物ですので、もしかしたら『はぁ?』って思われる作品かもしれません。
ですが誰かの暇つぶしの一端になればと、思って書かせて頂きました。
では、御一読をば。


Cのヒーロー/罪を名乗るモノ

 

───オレは、今でも''あの日''を夢に見る。

 

 

1.

 

夜の風都は、風が澱む。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ·····あ!」

 

鞄を抱えて汗だくになって走る男は、街灯1本無い路地裏へ飛び込んだ矢先にダンボールの山に突っ込んでしまう。

慌ててもがくが、背後に響いた足跡が、男を縫い止めた。

 

「フヘヘ····見ぃつけたぁ····!さっさとその金寄越しなァ!」

 

全身真っ黒の服装で、目だけがいやに爛々と輝いている。

まるでうさぎを追い詰めた野犬のように舌なめずりしながら、1歩、1歩と近づいて来る姿は最早ゴロツキとも、不良とも呼べない狂人のそれである。

堪らず男は、鞄を胸に抱きしめて叫んだ。

 

「かっ、勘弁してくれ!この金は家族の大事な····!」

 

「知るか。お前みたいなモブなんぞより、俺の人生の方が大事なんだよ。なぁ···分かるだろ?そういうの」

 

「な、はぁ····!?」

 

「金さえ出しゃいいんだ、金さえな!·······クケケ、あーあ、お前のせいだからな。本当は''コレ''使いたくなかったんだよねぇ····でも仕方ないよな?使うしかないよな?使いたいよな?使うんだよなぁ!!」

 

支離滅裂に叫ぶと、ポケットから1本のUSBメモリを思わせるスティックを取り出した。

 

ガイアメモリ。表面に刻まれた文字は、背を丸めた昆虫を思わせる『C』。

 

コックローチ、とメモリが叫ぶ。

それを恍惚とした笑みで聞いた男は、躊躇いもなく首筋にあるタトゥーのような生体コネクタへとメモリを突き刺した。

それだけで体がみるみる変わり果て──やがて『化物』へと変身を遂げる。

化物は、身震いすると男に狙いを定め、──駆け出した。

 

『へへへ···貪ってやるぜぇ!』

 

「ひ、ヒィィィイ!!?」

 

鞄を抱え、背中を盾に蹲った男は、自らの死を覚悟した。

 

···1秒、2秒、そして3秒。

 

貫くはずだった衝撃が、いつまで経ってもやってこない。

涙でぼやけた視界を拭い、振り返った時、男は別の意味で凍りついた。

 

月明かりの逆光に映された影は、コックローチドーパントと、その背後に''もう1体''。

加えて、コックローチの腹から腕が生えていた。

否。正確には、腕が背後から腹を貫いていた。

 

『ご、が·····!?』

 

『コックローチ。お前の罪は、俺が止める』

 

腕が引き抜かれる。

あれほど太い腕が腹を貫いたと言うのに生々しい音は一切せず、さらに腹には風穴すら空いていなかった。

だが傷がないからと言ってノーダメージ──なはずもなく。

コックローチが崩れ落ち、同時に変身が解除される。

白目を剥いたコックローチの狂人の頭に、粉々に砕かれたメモリの残骸が撒かれた。

 

『ふぅー·····アンタ、怪我は?』

 

あの圧倒的に思えたコックローチドーパントを一瞬にして屠った怪人を見て、半ば思考を手放して硬直していた男が、我を取り戻す。

月光を背負った影の怪物が、ずい、と男に近づく。

 

「は、はひ!あ、え!?」

 

『だから、怪我は?』

 

その化け物と目が合った時、ついに男の緊張が切れた。

 

「あ···う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

恐怖心のままに、ダンボールの山を薙ぎ倒しながら、這う這うの体で路地裏の向こうへと半狂乱に叫びながら逃げだした。

悪夢なら、早く目覚めてくれと祈りながら。

 

 

 

2.

 

風都は今日も風が吹く。

時に弱く、時に強く。そして哀しみも苦しみも分け隔てなく吹き流していくのだ。

ここ、鳴海探偵事務所には、そんな風に吹かれて様々な依頼人が──何故かここ数日は全く来なかった。

 

「あーーーーー暇だ!すげぇ暇だ!」

 

「今日も依頼件数0····!こんなの私聞いてない!」

 

現在午後8時。そろそろ店じまいを考える時間帯だが、あと5分待てば依頼人が来るのでは、と言う淡い期待がズルズルと営業時間を引き伸ばしていた。

 

「····翔太郎、アキちゃん。そろそろ閉めた方がいいんじゃないかい?今日はもう来ないよ」

 

ベッドで横になって頁を捲っていたフィリップがため息混じりに諌言する。

 

「いーやフィリップ。諦め癖は良くないぜ。あと5分、あと5分粘れば今日こそ依頼人が来るはずだ!」

 

「そ、そうよ!4度目の正直って言葉もあるじゃない!」

 

そう威勢よく叫ぶが、フィリップはどこ吹く風と現状を一刀両断した。

 

「そう言うがね、2人とも。····それぞれ机に突っ伏してる時点でお互い分かってるんじゃないのかい?あとアキちゃん、4度目の正直とは正しくは3度目だし、そして依頼0は今日で四日目だよ」

 

「諦めたらそこで試合終了なのよ!?」

 

「突っ伏したまま首だけこちらを向けられても困るし説得力が皆無だよ、アキちゃん····」

 

フィリップの疲労が混じったツッコミに、俺も亜樹子もついに折れた。

 

「はぁ····しゃあねぇ、店閉めっか」

 

「そうね····ま、明日は、明日こそは誰か来るでしょ、うん!」

 

「·····もしも来なかったら?」

 

「「それを言うな!」」

 

俺は弄んでいた帽子をハンガーに戻し、亜樹子が店先の電気を消そうと扉に近づいた時だった。

 

「──あ、あのー···まだあいてます、か?」

 

ギィ、と控えめに扉を開けて男が入ってくるではないか。

 

一瞬、亜樹子が固まり、そして俺を見て、俺はフィリップを見て、フィリップは亜樹子を見る。

即座に意見は一致した。

 

「よ、よよよようこそいらっしゃいました!ご依頼の方ですね?ささ、どうぞどうぞ!翔太郎くん、コーヒー!」

 

「ちょ、俺!?」

 

「僕が淹れよう。翔太郎は依頼人の方を」

 

「フィリップ、おまえ···」

 

「君の淹れるコーヒーを客に出すのは不味いからね」

 

「フィリップ、おまえ·····!」

 

思わず突っかかりたくなる衝動を抑え、席についた依頼人に向き直る。

そう、四日ぶりの依頼だ。

気を引き締めてかからねば。

 

「ようこそ、鳴海探偵事務所へ。俺は探偵、左翔太郎····」

 

「あ、もう紹介したから」

 

「亜樹子ォ!」

 

相変わらずのハイペースさに憤慨すると、依頼人が慌てて立ち上がり、頭を下げた。

 

「こ、こんな夜中に押し掛けてしまって申し訳ありません!迷惑でしたよね····」

 

「「いえいえいえいえ!どうぞどうぞ!」」

 

全力の営業スマイルで依頼人を引き止め、着席を促す。

 

「この夜でなければ間に合わないこと、なんだろ?聞かせてくれよ」

 

「よ、よろしいのです、か?」

 

「勿論ですとも。ウチの探偵達、働くの大好きなので!」

 

「あ、あぁそうさ、何時どんな依頼でもばっちこいだぜ!」

 

「ありがとう、有難うございます····!」

 

再び取り乱して土下座を始めた依頼人を宥めると、いよいよ本題へと入った。

 

 

「····鞄を探して欲しい?」

 

「はい····お恥ずかしい話、帰り道の途中、何処かで落としてしまったみたいで」

 

男は、只野和夫と名乗った。

38歳、職業は営業マンで、鞄を失くした夜も仕事帰りで酔っ払っていたと言う。

 

「失くしたのはいつ頃だ?」

 

「昨夜の晩····ちょうど今ぐらいです」

 

「8時半前後、か····」

 

「何処で失くしたかって記憶はあります?」

 

「埠頭近くの路地裏です。今日一日ずっと探していたんですけど····見つからなくて」

 

「なるほど···」

 

つまり、誰かが拾った可能性が高い。

俺がまず探すべきは、その『鞄を拾った主』だという事か。

 

「鞄には、大事な····家族の、息子の命を助けるためのお金が入っているんです!」

 

「息子さんの···?」

 

「はい。明後日に、息子の···心臓の手術がありまして。その為に病院に払わなければならないお金が入っていたんです。支払い日は明日。····明日、明日までには何としても取り戻さないと!」

 

「分かった。分かったぜ只野さん」

 

俺は立ち上がると、帽子の鍔に触れるような気障な仕草を決め、言い切った。

 

「この依頼、引き受けた。息子さんの命を救うためだ。アンタの鞄は、この俺が見つけ出す」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「あぁ」

 

「ありがとうございます!本当に、本当にありがとうございます!」

 

何度もお礼を言う只野を、亜樹子と二人で外まで見送る事にした。

時々振り返っては頭を下げるを、二、三度繰り返す度にこちらも手を振ったり、頭を下げたりし、やがて闇夜に見えなくなったところで二人とも脱力した。

 

「あー····やっと帰ったか···」

 

「すんごい人だったわね···」

 

久々の依頼がもの探し、か。

普段ならハードボイルドじゃないと突っぱねるところだが、ようやく来た依頼なのだ。ぶっちゃけ、たとえコレがペット探しであったとしても喜んで引き受けただろう。

 

「じゃー、私も帰ろうかな」

 

「おう。明日の早朝から探すから、早めに来いよ」

 

「分かってるわよ。じゃあねー!」

 

「気をつけろよ〜····って、速!」

 

亜樹子がマッハで宿に駆けていき、直ぐに夜闇に埋もれていく。

軽く口笛を吹くと、応えるように風車が回った。

 

「····今夜もいい風が吹くな、ここは」

 

 

「フィリップ、依頼人と亜樹子、帰ったぜー」

 

「あぁ···」

 

事務所に戻ると、丸椅子に座ったフィリップが考え事をしていた。

 

「どうした?何か気になる事でもあんのか」

 

「····そうだね、幾つかある」

 

そう言うと、本を閉じて椅子をこちらに向けた。

 

「まず1点だが、彼はどうも何かを隠しているように思える。彼の証言が些か不自然なんだ」

 

「····どこがだ?仕事帰りに酔っ払ってて、大事な金の入った鞄を埠頭近くの路地裏に落として帰ってしまった。翌日それに気づいて今日一日中探してたってんだろ?息子の為に体張ってんだ、いい親父じゃねぇか」

 

「それが不自然なのさ。気づかないかい?彼は酔っていて鞄を失くした、と言っていたが···それなら何故埠頭近くの路地裏、とそんな細かい所まで覚えていたのか?加えて、息子の為のお金を鞄に入れた状態で、鞄を失くすくらい呑むと思うかい?普通ならば真っ先に自宅へ急ぐはずだよ。

額にもよるだろうが、手術費用だと言うなら10万以上は確実に必要になるはずだ。それも心臓となれば尚更ね」

 

「なるほどな···確かに不自然だ。翌日になるまで気づかない程呑んでたんなら落とした場所だって鮮明に覚えてるわけがねぇか」

 

「そういう事。つまり彼は酔ってはいなかった。しかし同時に、埠頭近くの路地裏で、鞄のことを忘れるくらい動転するような『ナニカ』が起きた。····問題は、何故それを僕らに伝えなかったか、だね」

 

「··········まぁ、彼なりの都合とか、事情とかそんなんがあるんだろ。期限は明日だ。明日中に見つけねぇと、息子さんが危ねぇのは変わりねないんだ。早いこと寝ようぜ、フィリップ。明日は夜明け前から動く!」

 

張り切っていくぜー!と声を上げながらベッドへ向かう彼を見送ったフィリップは、誰にも聞こえない声で呟いた。

 

「····その『息子』すら、実在するか怪しいものだがね」

 

 

3.

 

翌朝午前5時。

 

亜樹子が来る前に俺は事務所を出て、早速埠頭近くの路地裏へと向かうことにした。

が、そこで見たのは大量の警察官と黄色いテープ、そしてお馴染みのメンツだった。

 

「おー、翔太郎じゃねぇか!また依頼か?」

 

「そんなところだ、ジンさん」

 

黄色テープをくぐってやってきた刃野刑事が、肩をツボ押しで叩きながら声を掛けてくる。

近づきながら、辺りを見渡して尋ねた。

 

「それで···これは?」

 

「あー、ドーパント絡みでな」

 

「それは見りゃわかる」

 

「だな。まぁ来いよ」

 

刃野刑事に案内されてたどり着いたのは、路地裏の入口付近。派手にダンボールが荒らされ、その中程に白い紐が人型に囲まれていた。

多数の警官がひしめく現場の中で、1人異様に目立つ格好の男がいる。彼は刃野刑事が声をかけるよりも早くこちらに振り返った。

 

「今回はえらく嗅ぎつけるのが早いな、左」

「あぁ、依頼のあった場所がここでな。···で、どんな事件なんだ」

 

「俺に質問するな」

 

相変わらずの返答に、俺も帽子を傾けて肩をすくめるしかない。

説明は刃野が引き継いだ。

 

「ありふれたいつものドーパント絡みの事件さ····と、言いたいところだが」

 

そこで人型を見下ろし、一段声を落とした。

 

「非常に奇妙な事件なんだな、これが。なんとドーパントは被害者だ」

 

「······ドーパントが被害者?」

 

「そ。全員がメモリを破壊された状態で発見され、そして全員死亡している。つまり···『ドーパント状態の時に強引にメモリを破壊され、そのショックで死んだ』ってわけだ」

 

刃野の口振りに、俺は待ったをかけた。

 

「ちょっと待て、『全員』?これが初めてじゃねぇってのか?」

 

「あぁ、これで──」

 

「あー!また来やがったのか、探偵!」

 

刃野刑事の声を遮ったのはこれまたお馴染みのメンツの真倉刑事だった。ズカズカと現場に大股で歩き、俺に詰め寄ってきたので、負けじと言い返す。

 

「うるせぇなマッキー!今ジンさんから話聞いてんだ、邪魔すんな!」

 

「おい真倉。聞き込み行ってこいって言ったろうが、どうなったんだよそっちは?」

 

刃野刑事の詰問に、真倉刑事は慌てて手帳を取り出した。

 

「そ、そうですよ!それなんですけど、一応周りに行ったんスよ?───でもここ埠頭じゃないっスか、それに今、朝の五時っスよ?」

 

「そうだな、それが?」

 

「聞き込みする人が誰もいませんでした····」

 

「「あー·····」」

 

「コンテナ港の方にも行ったんスけど、そっちは早朝に来た人ばかりで、昨夜ここにいた人は誰も居なかったみたいなんスよ。なので、聞き込みが終わりました、以上っす!」

 

その報告に刃野刑事と俺が考え込んだ時、人型のチョーク付近で地面を見つめていた照井が指示を出した。

 

「なら埠頭だけじゃなく、埠頭の最寄りにある住宅街まで範囲を広げろ。『あの怪人』は目立つ。誰かしら見かけているはずだ」

 

「は、はい!」

 

「早く行け」

 

「はい!すぐに行って参ります!」

 

現場から飛び出した真倉を見送り、照井に向き直った。

 

「『あの怪人』ってのは?」

 

「あぁ、それはだな──」

 

「刃野刑事、俺が説明を引き継ごう」

 

「あ、そうですか。ではお願いします、警視殿」

 

んじゃな、翔太郎。とツボ押しで俺の肩を叩くと、テープを潜って現場から出て行った。

それを見送ると、照井は話し始めた。

 

「事件はおよそ四日前から起きている。何れも被害者はドーパントで、メモリブレイクされて死んでいた」

 

「4日?4日も続いてんのか、これ!?」

 

「あぁ、およそ1日1件のペースでな。容疑者がドーパントなともかく、今回は被害者がドーパントだ。なので3日は粘ったが·····この件が難航するようなら、お前達の事務所に出向くつもりだった」

 

「なるほどな···」

 

つまり、それは俺達『仮面ライダー』以外にメモリブレイクが出来る人間がいる、という事になる。

かつてそんな存在を見たことがなかった。

その思考を引き継ぐように、照井が続けた。

 

「そのドーパントをメモリブレイクしている者に関して、幾つか目撃情報が上がっているが、それがどうも『ドーパント』であるらしいとまでしか分かっていないのが現状だ。故に『怪人』と呼ぶ他ない」

 

「ってーと、次の出没予想も?」

 

聞き返すと、照井は悔しそうに顔をゆがめた。

 

「あぁ、当然ながら立っていない」

 

「そうか···」

 

ところで左、と照井は話題を変えた。

 

「····お前は『依頼』だと言っていたが、どんな依頼だったんだ?」

 

「鞄を探してくれって依頼だ。一昨日この辺りで失くしたらしくてな。そんで朝から飛んできたってわけだ」

 

「····お前が積極的にもの探しを引き受けるとは珍しいな」

 

「うるせぇな、こちとら4日も仕事なしで依頼に飢えてんだ、ちょっとくらい不本意な依頼でも喜んでやるぜ」

 

「なるほど。····だがこの近辺でその類の遺留品は出ていない。また署にその手の落し物が届いた、という報告もまだ来ていない。無駄骨になるかもしれないが、1度署の方に聞きに行った方がいいだろう」

 

「そうだな····。サンキュ、照井」

 

「情報交換は昼に事務所で行う。いいな?」

 

「おう。んじゃな」

 

照井と別れ、現場から出るとハードボイルダーに跨り、一途風都署へ急いだ。

 

 

結論からいえば、風都署にも、そして交番にも鞄の落し物は無かった。

内心予想はしていたが落胆がないと言えば嘘になる。時刻は既に10時を回っていた。

署に寄った後、埠頭にほど近い住宅街や、只野さんが一昨日に行ったと思われる居酒屋を回ってみたが何れも空振り。

居酒屋に至っては『一昨日は見ていない』と一様に首を振ったため、フィリップの『依頼人は呑んでいない』という推理を裏付けることとなった。

一旦帰るか···とハードボイルダーを事務所の方へ向けた時、空を裂く悲鳴が響き渡る。

素早くあたりを見渡すと、風都公園のほうから人々が逃げ出すのが見えた。

 

「おいおい····最近見境が無さすぎねぇか?」

 

ガイアメモリに侵された者は毒素が回り、自制が効かなくなる。

そうは言っても最近数が多い気がする。

俺はヘルメットを戻すと、帽子を被って公園へと駆け出した。

 

 

人波に逆らって公園へと駆け込むと、そこには案の定異形の怪人が。

 

「ドーパント····!」

 

『ギャハハハ!ギャハハハハハ!俺TUEEEEE!!!』

 

辺りに見境なく砲門を見舞っているドーパントには見覚えがあった。

 

「しかもアームズ····!?なんでいんだ、こんな所に!?」

 

『あ?的だ!的はっけーん!!』

 

声を聞きつけたアームズドーパントが、躊躇い無くガチャリとこちらに砲撃を見舞う。転がるように木の影へと飛び込んで砲撃を躱すが、直後に自分のいた場所を巨大な砲弾が木々ごと吹き飛ばしていく。

殴りつけてくる衝撃波に帽子を押さえて耐えると、素早くスタッグフォンを取り出して、ギジメモリを突き刺した。

 

「頼むぜ、照井の所まで飛んでくれ!」

 

クワガタへと変形したスタッグフォンを放つと、覚悟をきめる。懐からバックル──ダブルドライバーを取り、腰に装着した。

 

「変身だ、フィリップ!」

 

──その声は、当然格納庫に控えていたフィリップにも、ベルトと共に届いた。

 

「分かった、翔太郎」

 

どこから取り出したのか、緑色のガイアメモリを構える。

ロゴはC。

サイクロン!とメモリが叫ぶ。

 

同時に俺もまた、メモリを取り出した。

 

ロゴはJ。ジョーカー。

 

「「変身!」」

 

木陰から飛び出し、転送されてきたサイクロンメモリをそのまま押し込む。

 

アームズドーパントがこちらに気づき、こちらに照準を合わせるが、もう遅い。

素早くジョーカーメモリも挿すと、両手で押し開く。

 

──サイクロン!ジョーカー!

 

巻き起こった旋風が、アームズの砲撃を弾き返す。

巻上がる砂埃の向こうにいたのは、右半身を緑に、左半身を黒に染めた、左右非対称の超人。

唯一無二の、2人で1人の仮面ライダー、W。

 

『「さぁ、お前の罪を数えろ!」』

 

左手を突きつけてそう言い放つや否や、俺達Wは次弾を装填される前に踏み込んだ。

 

『翔太郎、ヤツとは1度戦ったはずだ!サイクロンジョーカーでは敵わない!』

 

「あぁ、だから照井を呼んだ。俺達は時間稼ぎに徹してれいればいい!」

 

マシンガンの弾幕を紙一重で避けると、上段回し蹴りで腕を蹴飛ばす。

相手がよろめいたその隙に二撃、三撃と蹴り込んで行くが、相手はアームズ。ダメージが入っている様子がない。

強引にマシンガンで薙ぎ払うのを、転がりながら避けて距離をとった。

 

『時間稼ぎなら、やはりヒートメタルだ。タフさは折り紙付きだからね』

 

「あぁ、そうだな!」

 

サイクロンとジョーカーメモリをスロットから引き抜き、代わりに2本のガイアメモリを取り出す。

 

燃え上がるH。ヒートメモリ。

ビスの打たれたM。メタルメモリ。

 

ヒート!メタル!とメモリが叫ぶと同時に右半身が赤へ、左半身が銀へと変わる。

即座にメタル側の背中に取り付けられたロッド──メタルシャフトを握り、アームズが放ったミサイルを二、三発叩き落とした。

 

『色が変わったァ!?くっそ、ふざけんなよツートン虫!』

 

「どうだ、驚いたか!──って、ツートン虫ってなんだコラァ!?」

 

メタルシャフトを回転させて、再びマシンガンへ腕を変えたアームズの弾幕を弾きながら再び接近を試みる──が。

 

『ツートン虫!背中ががら空きだぜ、トォ!』

 

まだミサイルの数が残っていたらしい。数本のミサイルがWの背中に突き刺さる。

 

「『ぐぁ!?』」

 

衝撃に吹き飛ばされたWは、ヒートメタルでありながら起き上がれない程のダメージを負わされた。

 

「ぐ、くそ····!?」

 

『アームズ····!時間稼ぎもままならないとは···!』

 

そんな俺たちに近づいてくるのは、アームズドーパント。

 

『ふんふんふーん♪なんだなんだよツートン虫よォ!この程度でちゅかー?』

 

「てめ、ふざけんな·····ぐっ!」

 

『HAHAHAいい気味だ!最高だね!あー、もしかしてアンタが噂の仮面ライダー?だとしたら俺ってば仮面ライダーに勝っちゃったの!?ギャハハハ俺TUEEEEEEEE!!!』

 

ひとしきり騒いだアームズドーパントは、先程の喧しさからは想像もつかないほど冷めきった仕草で俺達に腕の砲門を向けた。

 

『あーあ、満足した。んじゃ死ね』

 

『「くっ····!」』

 

なにか逆転の手はないのか。

歯を食いしばり、メタルシャフトを杖に起き上がろうとした時だった。

 

ニュ、と。

アームズの腹から腕が生えた。

 

「は····?」

 

『あが····っ!?』

 

アームズの腹から生えた腕は、何かを握るように拳を作ると、直ぐに引っ込む。

生々しい音もなければ、風穴も空いていない。

しかし、アームズに与えられたダメージは致命的だった。

 

『あぎ、が、あああ!?』

 

突然腹をくの字に折り曲げて悶え始めると、みるみる変身が解けていき、元の一般人に戻る。

崩れ落ち、倒れ伏す。

その様から、既に息絶えていることは明白だった。

顔を上げ、下手人を見上げる。

その姿もまたドーパントだった。

 

「あ、アンタは一体····!?」

 

しかし、そのドーパントはWなど視界に入っていないかのように、握っていた拳を開けた。

手の中には『A』。

 

──アームズメモリ。

 

『アームズ。お前の罪は、俺が止める』

 

グシャア!と。

ガイアメモリを握り潰し、それを息絶えたゴロツキの上に撒く。

その儀式を終えて、初めてこちらを向いた。

刺々しいフォルム。

燃える炎を象ったような目元。

両腕、両足には鎖が巻かれ、両手首には引きちぎられた手錠が嵌っていた。

そして何より目を引くのが──左肩から右脇腹へたすき掛けされた、ガイアドライバー。

それはすなわち、『ミュージアム』の幹部を示す証であった。

 

『ミュージアム·····!?』

 

フィリップが慄くのに反応したのか、ドーパントが近づく。

 

『·····ヒート、メタル。お前の罪は、俺が止める』

 

直後に、ボールを蹴りあげるような重い蹴りをWにたたきつける。

一瞬浮き上がったWを、反対の足で蹴り飛ばした。

 

「『ぐあぁぁ!』」

 

2度、3度芝生の地面を跳ねて仰向けに転がる。

 

「はぁ、か、ぐ····ッ!」

 

『無茶だ翔太朗、回復し切っていない!』

 

「だがここでアイツを止めねぇと···!」

 

メタルシャフトを手繰り寄せ、杖替わりにしてなんとか起き上がる。

───その時には、目の前にヤツがいた。

 

『───!』

 

大きく振りかぶり、五指を開けてベルトへと伸ばす。

それを払う力は残っていなかった。

しかし。

今、『仮面ライダー』は独りではない。

 

『───はぁ!!』

 

Wとドーパントの間を割り込むように通り抜ける、真紅のバイク。

そのバイクは空中でウィリーしたと同時に瞬く間に変形を解き、人型となった。

 

「照井·····!」

 

『遅くなった』

 

腰に巻かれたハンドル型のドライバーに挿さるメモリのロゴは『A』。

 

仮面ライダーアクセル。

 

全てを振り切る真紅の仮面ライダーは、エンジンブレードを突きつけると、言った。

 

『──貴様が連続ドーパント殺害事件の犯人だな』

 

「はぁっ····!?」

 

『ほう·····?』

 

困惑するWに目もくれず、照井はエンジンブレードを構えると吶喊する。

 

『はぁ!』

 

上段からの斬り下し、すかさず斬りげて勢いのままに横薙ぎ一閃の連撃を、そのドーパントはバックステップのみで捌ききる。

4撃目の突きをサイドステップで避けると、がら空きの胴に強烈な蹴りを見舞うドーパント。

それを読んだのか、照井は前に飛び込むことでギリギリをすり抜ける。

間合いを仕切り直して、照井が言った。

 

『貴様·····何者だ』

 

その問いに、ドーパントはあの台詞を返した。

 

『アクセル。····お前の罪は、俺が止める』

 

一瞬で距離を詰めるドーパント。

その五指は開かれ、一直線にベルトへと伸びて行く。

今度は、こちらが借りを返す番だ。

 

ガッッ!と。

ドーパントの手が何かに阻まれる。

そう、俺達Wのメタルシャフトに。

 

「わりぃが·····俺達のメモリはやらせねぇぞ」

 

『照井竜、駆けつけてくれてありがとう。感謝する』

 

『····フン、礼などいらない』

 

ドーパントが飛びのき、距離をとる。明らかに逃亡の動きだった。

 

「おい待て!───てめぇは一体何もんだ!」

 

口をついて出た質問は、何故かそれだった。

他にも聞くことはあったはずだ。

しかし同時に、相手はこの質問なら答えてくれるのでは、とも思ったのだ。根拠はない。直感だ。

しかし──その勘も、たまには当たるらしい。

 

『·····シン』

 

「シン?」

 

『·····オレの名はシン。''罪''を以て罰を為す者。····オレは、メモリの全てを破壊するまで止まるつもりは無い。

──サイクロン、ジョーカー、ヒート、メタル、アクセル。おまえ達の罪は、俺が止める』




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