仮面ライダーW スピンオフSS Cの罪人/Jの咎人   作:タチガワルイ

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第2話です。
色々混迷極まってますが、きっちり回収するつもりです、ハイ!


Cのヒーロー/過去は今に還る

 

4.

 

「ドーパントを襲うドーパント····?」

 

「結論から言えば、そう呼ばざるを得ないな」

 

──鳴海探偵事務所。

11時を回り、事務所内の輝度は出た頃より明るくなっている。

壁に背を預けた照井が、コーヒーを両手に持っている亜樹子に言葉を続けるのを俺は自分の椅子で帽子を顔に乗せたまま聞いていた。

 

「公園での遺体を見る限り、他の4件と死因、状況は同じだ。今まで手口が不明だったが、左の話によると背後から直接ドーパント内に入ったメモリを掴んで砕いたらしい····そうだな?」

 

「········」

 

「おい、聞いてるのか」

 

「·······聞いてるぜ」

 

帽子を取り、椅子を回す。

 

「あのドーパントが、アームズのメモリを直接砕いた。·····けどありゃメモリブレイクじゃねぇ。順序がまるで逆だ」

 

「どういう事よ?」

 

「俺達はドーパントを倒して、メモリが排出されてからそのメモリを壊す。····けどアイツは、」

 

「····メモリを破壊することでドーパントを倒し、そのショックで使用者を殺す」

 

「そういうこと」

 

照井の引き継いだ言葉に首肯すると、俺は徐ろに立ち上がった。いい加減、アイツも考えがまとまった頃だろう。

 

「フィリップの所か」

 

「あぁ。そろそろ落ち着いたんじゃねぇかとな」

 

「みんなが帰ってくるなり『しばらく独りで考えたい』、だもんね〜····」

 

あの『シン』を名乗るドーパントには、結局あの直後逃げられた。追えば追いつけたはずだが、フィリップが何故か止めたのだ。

しかも事務所に戻ってくるなり『少々独りで考えたい』とガレージから俺たちを締め出した。

恐らくだが、フィリップ自身にあの『シン』に何かしら思い当たる節があるのだろう。····そして問題は、フィリップ自身、その『思い当たり』が何なのかわからずに居る、と言ったところか。

 

「とりあえず俺だけで話し掛けてみる」

 

「なら俺は一旦署に戻ろう。新しい情報が入ってるかもしれん」

 

「了解。んじゃまた後で」

 

「あぁ····おっと、忘れ物だ」

 

壁から離れ、ドアに向かった照井が振り返ると、黒い箱を俺に投げて寄こした。その箱は途中でパタパタと展開し、クワガタになると、あとは飛んで俺の掌に収まった。

 

「おう、サンキュな」

 

俺がスタッグフォンを振ると、照井は手だけ挙げて扉を押し開ける。

亜樹子が手を振った。

 

「気をつけてね、竜くん!」

 

返事もなくバタン、と閉じたドアを眺めて「行っちゃった···」と呟いている亜樹子を尻目に、俺もガレージへ入った。

 

フィリップは、ホワイトボードの前で考え込んでいた。

 

「フィリップ」

 

「翔太郎か····」

 

「考えはまとまったか?」

 

「····いや、むしろ『何故まとまらないか』がまとまった、といったところだよ」

 

フィリップ難しい顔で白紙の本に目を落とたまま答えた。

未だに整理しきっていないのか、こんな複雑な表情を見たのは初めてだった。

 

「今回の依頼にはずっと引っ掛かりを覚えていた。何故こんなにも違和感が先立つのか分からないくらいにね」

 

「·····どういうことだ?」

 

俺はそう尋ねたが、フィリップは身を翻して本を閉じると、俺に向き直った。

 

「それよりも聞かせてくれ。調査の方はどうなったんだい?」

 

「え?あ、あぁそうだな、そっからだよな!」

 

フィリップに言われるまで報告を完全に忘れていた自分に恥入りながら、俺は慌てて手帳を取り出し、今朝、埠頭付近の路地裏、つまり依頼人が鞄を失くしたと思われる場所で事件が起きていたこと、被害者がドーパントであること、そして風都署や交番に鞄の落し物が届いていないか確認したが空振りだったこと、最後に風都病院から埠頭までにある居酒屋数件を回ったが何れも只野さんを知っている者はいなかった事。

それらを一通り説明した。

 

「──まぁ、今のところはこんだけだ」

 

「···ふむ、なるほど。それはとても興味深い」

 

そう言いながら、心做しか浮かない顔なのは気の所為だろうか。

俺が声をかけるよりも早く、どこか断ち切るような語気でフィリップが始めた。

 

「初めから整理しよう」

 

そう言うと、ホワイトボードに書きなぐった数式や落書きを全て消し、『昨夜』と書く。

 

「依頼人が来たのは8:30頃、カバンを探して欲しい、と言ってきた」

 

「あぁ」

 

「酔っ払っていて、埠頭近くの路地裏に置き忘れたまま帰ってしまい、翌朝に気づいたと。その鞄には息子の心臓の病気を治す為の手術費用が入っており、それを明日····則ち今日中に納めねばならない」

 

「そう言ってたな」

 

「失くしたのは昨日、則ち一昨日で、昨晩依頼に来るまで1日探し回っていた····」

 

「そんな口ぶりだった」

 

「これら全てを鵜呑みにすると、矛盾がいくつも生じるんだ」

 

そう言って、ホワイトボードに箇条書きで『失くしたのは一昨日』『埠頭近くの路地裏』『1日探していた』『カバンの中には大金』『失くした時酔っていた』と書き加えられる。

 

「····そのうち1つが、昨日の晩に言ってた『依頼人は酔っていないのでは』ってやつか」

 

「その通り。それに関してはウラが取れたようだね」

 

「まぁ、少なくとも俺が当たった居酒屋には行ってねぇって程度だが·····。風都全体を虱潰しに当たるような暇はねぇしな」

 

「それもそうだ」

 

フィリップがホワイトボードの『依頼人は酔っていた』の文字に大きく×印を付ける。

それを眺めながら何気なく口を開いて、気づいた。

 

「それで、他の矛盾ってのは····あ!」

 

「なにか気付いたかい?」

 

「そうだよ、よく考えりゃ変だ」

 

手帳を仕舞い、ホワイトボードまで早足に寄ると、フィリップが差し出したペンを受け取り、キャップを開ける。

 

「只野さんは『1日鞄を探していた』って言っていた」

 

ホワイトボードの『1日探していた』を大きく囲む。

 

「つまり、只野さんが鞄をなくしてから俺達の所に依頼が来るまでおよそ一日のタイムラグがあった訳だ。····そんなに長い時間、アテもなく失くした場所に無かった鞄を探し回るか?普通なら警察署に届け出るなりなにかするはずだ」

 

大きく囲った『1日探していた』の文字に、『←警察』と書き加える。

 

「くそ、署に寄った時に聞いときゃよかったな····もっと早く気づくべきだった」

 

「それもそうだが····矛盾はもうひとつある。彼は埠頭まで何をしに行ったのだろう?」

 

『埠頭近くの路地裏』を大きく丸で囲む。

 

「····仕事帰り、とかじゃねぇの?疲れてフラフラー、ってさ」

 

「営業マンがかい?それも心臓に病を抱えた息子の為の大金を鞄に詰めている状態で?当時彼は酔っていなかった。それに関しては速報値とはいえウラが取れたはずだよ」

 

「確かに····そう考えりゃおかしいな」

 

「そして極めつけがこれだ」

 

フィリップが手を差し出したので、ペンを渡すと『昨夜』と『1日探していた』を矢印で繋ぎ、さらに『鞄には大金』の横に『←息子への手術費用?』と付け足し最後に『今朝の事件』と書き加えた。

 

「朝5時に行った時には現場は封鎖されていた、そうだね?」

 

「あぁ、そこで照井と会ったからな」

 

「場所は埠頭近くの路地裏だった····これは偶然だろうか?」

 

俺はフィリップが囲った『埠頭近くの路地裏』を暫く眺めていたが、ややあって口を開いた。

 

「····さすがに偶然じゃねぇか?」

 

「何故だい?」

 

訊ねられ、しばし考えた後に俺は再びペンを受け取り、『失くしたのは一昨日』を再び囲った。

 

「只野さんが鞄をなくしたのは一昨日だ。被害者の死亡推定時刻を聞いてねぇからあのドーパントが具体的にいつ死んだかは分からねぇが、埠頭とはいえ近くには住宅街もあるし、毎日港関係者が出入りしている。だからあんな路地裏の入口に放置された死体が丸一日放置される、なんてことはまず無い。それに只野さんが真っ先に探したであろうエリアでもあるだろうしな。

·····つまり、あの事件が起きたのは昨日の晩から今朝にかけてのどこか。只野さんとは時間的に被らねぇよ」

 

「·····翔太郎、それは前提が間違っているよ」

 

ホワイトボードに背を向けると、相棒は俺からペンを取り上げてそんなことを言い出した。

 

「君の仮説は、依頼人の『1日探していた』という証言に基づいたものだ。·····君の、依頼人を最大限信用する性格は評価しているし、信頼もしている」

 

だけどね、とフィリップは続けて、

 

「今回は『違う』と断言するよ、翔太郎。依頼人の嘘は既にここまでボロが出ている。僕の中では既に『息子の手術費』という話すら疑い始めているくらいだ。·····だから鞄の捜索よりもまず、依頼人である只野氏から調べるべきだよ。····本当に病気の息子がいるのか、という所からね」

 

その提言に、俺は少し迷った。

確かに只野さんの依頼には不審な点が多い。しかしだからといって息子の存在まで疑うのか。

もしも息子が本当にいて、鞄に大金が入っていたのも本当だとすれば、俺は今日中にカバンを探しあて、只野さんに届けなければならないのである。

····しかし、それを信じるためには、証明するしかない。

只野さんにもう一度会い、息子さんが本当に心臓の病なのか。そして本当に1日探し回っていたのかを確かめなくてはならない。

つまり、信じるにしても信じないにしても調べるしかないのだ。

 

「····そう、だな。分かった。只野さんの件は調べるぜ。けど、それでもし全て本当だったら···」

 

「あぁ、その時は急いで探さなくてはならないね、鞄を」

 

「だな。んじゃ行って····おっとそうだ」

 

螺旋階段に向かったところで俺は1つ思い出した。

 

「そう言えばフィリップ、なんで『シン』を追うのを止めたんだ?」

 

「あぁ、そのことか」

 

あれほど深刻そうな顔で俺たちを追い出した割には、心底どうでも良さそうに首を振った。

 

「ただの思い違いさ。念のために『検索』も掛けてみたけれど、何も出なかったよ。そもそも『シン』という言葉自体、『罪』の英語読みだ。キーワードが足りなくて絞り込め無かった。それだけさ」

 

「····それだけか?」

 

「·········そうさ。ほら、急がないと。もう30分も話し込んでる」

 

「あ、あぁ。そうだな····んじゃ、情報持って帰ってくっから。帰ったらそっちの方の『検索』頼むぜ」

 

「勿論だとも。行ってらっしゃい、翔太郎」

 

「おう」

 

螺旋階段を駆け上がって出ていった翔太郎を見送ったフィリップは、誰もいなくなったガレージで1人、ホワイトボードを振り返り何かを書き込むと、ソファへ沈みこんだ。

 

「···················彼じゃない。彼では、彼だけは有り得ないんだ」

 

──そこには、大きく✖と刻まれた『新』が殴り書きされていた。

 

 

「フィリップくん、どうだった?」

 

ガレージから事務所に戻ると、亜樹子はソファで待っていた。

 

「亜樹子····なんだ、待ってたのかよ」

 

てっきりしばらくすればガレージに入ってくるものだと思っていたので、入ってこないということは出掛けたのかと予想していたのだが。

そんな心情を読んだのか、亜樹子は口を尖らせた。

 

「なによ、フィリップくんと翔太郎が話してるのに水差すと思ったわけー?あたしだってそれくらい分かるわよ!」

 

ふんだ!とそっぽ向く亜樹子に、思わず笑みがこぼれる。

そうだった、コイツはこう言う空気は誰よりも機敏に察するのだった。

そして、こういう時の亜樹子の勘は普段からは想像もつかないほど鋭い。

 

「それで?フィリップくんどうだったの?アンタの顔見る限りじゃどうも解決からは程遠そうだけど?」

 

「·····アイツは『なんでもない』つってたけどな。アイツがあぁいう時はなんかある時だ」

 

「そうね。····で、翔太郎くんはどう見てるのよ。そのままって事は問い詰めなかったんでしょ」

 

「·····多分、『シン』だ。ヤツについて、フィリップは何か隠してる。それも、かなり核心に近い何かをな」

 

「なんでそう思うの?」

 

すこしガレージの方をちらりと振り返るが、当然なんの音も返っては来ない。

その様子に少し帽子を伏せ、言った。

 

「····''ゾクゾクするよ''と、言わなかった」

 

「·····どゆこと?」

 

「この手の謎はアイツの大好物だ。特に『検索』しても分からない問題はな。お前も1回それに振り回されたろ」

 

「あー····確かに」

 

亜樹子はダンスの''アレ''を思い出しながら腕を組んだ。

 

「なのに、アイツは『シン』について検索し、そして絞り込め無かったのに『それだけだ』つったんだ。端的に言って──アイツらしくない」

 

「なるほどねー····」

 

俺が「それだけか?」と聞いたのもそれだった。

きっとフィリップは、『シン』の正体に心当たりがある。

だが、それを認めたくないのか、情報が足りないのか。俺たちに話せるほど確信には至っていない。

 

「──けど、アイツが話さねぇって事は話せるところまでまだ整理出来てねぇってことだ。俺は待つぜ、アイツが整理つけて、話してくれんのをな」

 

「····うん、それがいいよ!」

 

亜樹子もまた、安心したと笑顔を返した。

うっし、と拳で掌を叩いて帽子を被り直す。

 

「んじゃ、署に1回行ってくる。依頼人についても調べなきゃならなくなった」

 

「あ、じゃああたしも行く!」

 

「ダメだ」

 

「なんでよ!」

 

「お前が出てったら誰がフィリップ見るんだよ」

 

「あー·····」

 

妙に納得してしまった亜樹子から視線を外し、歩きながら言う。

 

「今はとにかく時間がねぇ。詳しい説明は帰ってからする。それまで待っててくれ」

 

「分かった。····じゃあ、行ってらっしゃい!」

 

「おう」

 

フィリップ、待ってろよ。何を隠してるにせよ、お前が整理出来るだけの情報は俺が持ち帰る。

そう心に決め、事務所から飛び出した。

 

 

5.

 

「あ、さっき見ましたよ」

 

「え?」

 

風都警察署。

そのロビーで俺は、受付嬢から思いがけないことを聞いた。

俺は思わず自分で書いた依頼人の似顔絵を2度見して、もう一度突きつけた。

 

「見たのか?この人を?」

 

「ええ、照井警視に連れられて····」

 

あちらの方に、と奥を指さす。

その先には、照井の部署──超常犯罪捜査課が存在する。

 

「マジかよ只野さん····分かった。悪ぃな」

 

「いえ···」

 

「あぁ、そうだ。最後に一つだけ」

 

走り出す前に一つ確認しておくことがあったのだ。

 

「この人を見るのはさっきが初めてか?」

 

「はい、そうですけど」

 

「ありがとう!」

 

 

超常犯罪捜査課。

ガイアメモリに関する事件を専門に扱セクションであり、照井、刃野刑事、そして真倉が所属している部署でもある。

そんな特殊捜査課に急ぎ足で向かう途中、角でばったり照井と出くわした。

 

「お、照井」

 

「左か。····丁度いい。鑑識から情報が上がったところだ」

 

ついてこい、と顎でしゃくるとさっさと歩き出した照井に小走りに追いつくと、彼は無造作に茶封筒を渡した。

 

「詳しくは中に書いてあるが、件の埠頭にあった死体と公園の死体。どちらも死因はやはりショック死だった」

 

「未排出のメモリを直接砕かれんだもんな····使用者にいくダメージはメモリブレイクの比じゃないはずだ」

 

そう言いながら、渡された封筒を掲げてみる。それを見た照井が「事務所で開けろ」と窘めた。

「分かってるよ」と返すと、鼻息を鳴らして照井は続けた。

 

「先程のメモリは俺達が目撃した通り、『アームズ』。そして昨夜の件で砕かれたメモリは、『コックローチ』だった」

 

「コックローチか····」

 

「量産されてるさして珍しくもないメモリだが···一つ、気になる人物が出てきてな」

 

「気になる人物?」

 

「あぁ」

 

照井はそこで足を止めた。壁には、『超常犯罪捜査課』と書かれたプレートが下がっていた。

いつの間にか到着していたらしい。

扉に手をかけた照井が振り返り言う。

 

「──今、その人物を取り調べている。来い」

 

 

部屋に踏み込むと、刃野刑事が肩をいつものツボ押しで叩いていた。

 

「お、ジンさんどうも」

 

「なんだ翔太郎か···と、警視殿。随分早いですね」

 

急に畏まった刃野から目を逸らし、部屋の奥の方に視線を投げながらぞんざいに問うた。

 

「何か分かったか」

 

「いえ、それが『何も知らない』の一点張りでして·····」

 

部屋の奥には、一人の男が椅子に座らされて背を向けていた。

その後ろ姿に見覚えがある、と思う前に急にこちらを振り返ると、涙目で叫んだ。

 

「信じてくれよ刑事さんよォ!何度も言ってんだろ、俺は多分ただ酔っていただけなんだよ!····頼むから、見逃してくれよ、なぁ!」

 

「それは出来ない相談だ。被害者が死んだ時刻、お前が埠頭から逃げ出すところを見た人間が何人もいる。少なくともお前はあの埠頭で何かあったはずだ。それを教えてくれればいい」

 

男の懇願を冷徹な程に切り捨てるが、俺はその人物を見て固まった。

何故ならば、見覚えがある──なんて話ではなく。

昨日会っていたからだ。どこで?

そんなものは決まっている。昨日、他人と会ったのは1度きり。

午後8:30、事務所でだ。

 

「只野さん·····?只野さんじゃねぇか!」

 

そう、照井に拘束されていたのはなんと依頼人であった只野さんだったのである。

慌てて駆け寄ろうとしたが、只野さんが放った次の一言は、俺を完全に硬直させた。

 

「あ、誰だ?新しい刑事···?いやいや勘弁してくれって、何言われたって俺はなんも知らねぇの!!」

 

「は····?」

 

見覚えがない、だと?

 

「おい翔太郎、らしくねぇじゃねぇか人違いなんてよ」

 

刃野刑事が肩を回して絡んでくるが、俺はそれを無言で振り払って依頼人に詰め寄った。

 

「お、おいおい只野さん。冗談キツイぜ····昨日俺の事務所に来たろ?鞄を探してくれって」

 

「事務所?」

 

「鳴海探偵事務所だ、これも覚えてねぇのか?」

 

「どこなんだよそこは?」

 

本気で首を傾げている只野さんに、若干の苛立ちを覚えながら俺は言葉を続ける。

 

「·····アンタは夜の8時半頃、事務所にやって来て『一昨日失くした鞄を探してくれ』と依頼してきたはずだ。ちゃんと依頼書も書いてもらった、とぼけたって無駄だぜ、俺はちゃんと覚えてる!」

 

「はぁ·····?それこそ知らねぇよ!勝手なこと言ってんじゃねぇ!」

 

ついにブチ切れたのか、只野さんは必死に咳き込むように立ち上がると、周囲にがなった。理不尽な扱いに爆発するように、自分の思いのままぶつけていく。

 

「·····あぁ、もう!さっきからなんなんだよ、アンタ達!?酔ってたかもって言ってんだろうが!?俺に記憶があんのは、あの『怪物』から逃げ出したところまでだ!目の前で人を、怪物を殺した怪物なのに、さも心配してる風で『怪我はないか?』ってさ····そして起きたら朝だったんだよ!

探偵事務所?知らねぇよそんなところ!大体あの日は酒も飲んでねぇんだ!でも····あんな、あんなことが目の前で起きたらよ、誰だって夢だって思うだろ?知らない間に呑んでたかもって思うだろ?とっ、兎にも角にも、誰が問い詰めようと俺は事件とは何ら関わりはない!!」

 

シン、と静まり返った室内で、只野さんは決定的な一言を言い放った。

 

「それによ、さっきから『タダノ』『タダノ』と俺を呼んでるけどよ、俺の名前は『鈴木』なんだよ!人の名前も間違えるくせに格好だけハードボイルド気取ってんじゃねぇよ、半熟エセ探偵!!」

 

 

「落ち着いたか?」

 

「·······················悪ぃ」

 

俺は廊下で長椅子に項垂れたまま、照井が買ってきたコーヒーを受け取った。

照井は隣に座ると、コーヒーのプルタブを開ける。

 

「まさかお前が、依頼人に殴りかかろうとするとはな」

 

「笑ってくれ。·······俺は探偵として最低なことをしようとした。おやっさんが生きてたら、ボコボコじゃ済まねぇ」

 

そんな呟きを黙って聞いていた照井は、一拍置くと、ため息を漏らした。

 

「だがやってはいない。お前は拳を振り抜く前に踏みとどまり、部屋を出た。·····傷害未遂にもならん」

 

「·······慰めてんのか?」

 

「俺に質問するな」

 

「そうかよ·····」

 

二口目を飲んだ照井が、「これは独り言だ」と前置きすると、零すように話し出した。

 

「····件の鈴木だが、一応供述はした」

 

「·········」

 

「奴によるとだが。仕事の帰りにお金を引き出すと、銀行の外でチンピラのカツアゲにあったそうだ。それで慌てて、埠頭まで走って逃げた。

疲れ果てたところでそのチンピラが『コックローチ』に変身して襲いかかったが、『あのドーパント』が『コックローチ』のメモリを砕いて倒したらしい。

気が動転したままさらに逃げ出して、──次に気がついた時には明け前、埠頭と港の境界線辺にあるコンテナの影で寝ていたらしい。訳が分からないまま、とりあえず近くに落ちていたカバンを拾って逃げ帰った、という事だ。

·······だが。左の事務所に来た、と言うのが事実なら、あの証言の信憑性はかなり下げざるを得ない。事実昨夜に埠頭から出た、という目撃証言もあるからな。

奴の証言が嘘だとして、嘘をつく理由を考えればそれはやはり保身しか有り得ない。

──ならば、俺の結論は一つ。奴が『例のドーパント』だ、という事だ」

 

「只野····いや、鈴木さんが、あの『シン』だってのか?」

 

「独り言は終わりだ。次はお前が調べろ····この事件、今までとは何かが違うぞ」

 

俺の零した言葉を遮って立ち上がると、そう付け足してさっさと部屋へ戻ってしまった。

それを見送った俺は、背筋を伸ばすと手の中のコーヒー缶を弄ぶ。その時ふと隣が目に入った。

そこには先程渡され、そして超常犯罪捜査課に置き忘れた茶封筒と、その上に追加の書類が二、三枚乗っていた。

 

「······ハードボイルドだぜ、ホント」

 

照井には、やはり敵わない。

 

 

6.

 

『····つまり、只野氏は依頼はしていない、と?』

 

「あぁ、そう言ってる」

 

風都署から出ると、俺はいの一番でフィリップに電話した。

資料の入った封筒から改めて中身を取り出す。

追加の資料は、先程の男の調書であった。

記されていたのは、『只野和夫』ではなく、『鈴木一朗』。

名前も本当に全く異なっていたのである。

 

『翔太郎、君が見たのは本当に只野さんなのかい?他人の空似とは言いたくないが、そっくりさんである可能性もある』

 

「俺が似顔絵得意なの知ってるだろ?そっくりさん程度で見間違えるかよ。受付の人も俺の似顔絵で彼だって判断したんだ。少なくとも顔は同一人物だと思って間違いはない」

 

『それもそうだね····ではやはり依頼人が嘘をついていると?』

 

「······それが、分からねぇんだ」

 

フィリップの問いに、俺は情けなくも正直にそう答えた。

 

「あの剣幕は、嘘を誤魔化してるようには見えなかった。本気で心当たりがなさそうって感じでな。····それに、俺はどうも、昨夜の『只野さん』とさっきの『鈴木さん』では、人物像が重ならない」

 

『····''半熟エセ探偵''呼ばわりされて殴りかけたのにかい?』

 

「俺だって混乱したんだよ!やっと来た依頼が全否定されたんだからな·····言い訳にしかならねぇが」

 

『·····まぁ確かに、翔太郎の動揺も無理はないね』

 

そう同意した上で、即座に「それで、人物像が重ならない、と言うのは?」と切り込んでくるのは流石フィリップか。

僕はその辺り無頓着だからね、と続けた彼に咳払いひとつ置いて説明した。

 

「····昨日の『只野さん』、覚えてるか?」

 

『もちろんだとも』

 

「あの『只野さん』は如何にも自信なさげに見えたんだが、今日の只野····『鈴木さん』は、別人って感じだった。態度も、物言いもな」

 

『演技、という可能性は?』

 

「演技だったら照井かジンさんが見抜く。ありゃ素だぜ」

 

『となると、可能性はひとつだね』

 

「あぁ、ひとつだ」

 

しばしの間の後に出したフィリップのその返事に、俺と同じ結論に行き着いたことを察した。

 

「『誰かが鈴木さんになりすました』」

 

『そして、その《誰かが》僕らに依頼し』

 

「照井の推理が正しければ『シン』としてドーパントを襲ってる──キーワードは揃ったな」

 

『そのようだね。では──』

 

「あぁ、帰ったら''検索''だ、頼むぜ相棒!」

 

電話を切ると、俺はハードボイルダーに乗り込み、風都署から走り去った。

 

 

「待っていたよ、翔太郎」

 

「おう。待たせたな、フィリップ」

 

バイクで直接ガレージへ乗り付けると、既にフィリップがスタンバイしていた。

亜樹子もソファに座って手を振っている。ホワイトボードは真っ白に消されていた。

ヘルメットを外しながら階段を駆け上がり、フィリップの傍に着くと、俺とフィリップはアイコンタクトで頷くと、フィリップは両手を広げた。

目を閉じて、唱える。

 

「──''検索''を始めよう」

 

そこは、白い空間であった。

壁もなく、床もない。当然ながら天井もなく、全てが純白に染まった空間。

しかし純白な『だけ』ではない。そうであってはそもそもこの空間に意味は無い。

『意味』は、並んでいた。純白の空間を埋め尽くす、無数に重なり、無数に連なり、無数に並ぶ書架。

この『空間』──''地球の本棚''の真ん中で、フィリップは検索を始めた。

 

「検索項目は''メモリの正体''。キーワードは『メモリブレイク』『四日前』」

 

『MEMORY BREAK』『four day ago』

と文字がフィリップの前に現れると、本棚がさし代わり、或いは退去し、或いは並び直されてく事で絞られる。

 

「·····1000冊以上ある。まだキーワードが足りないな」

 

フィリップのつぶやきに答える形で、俺はキーワードを加えた。

 

「キーワード追加。『偽物』、『シン』」

 

「シン·····」と僅かに詰まるような呟きを漏らすが、フィリップは気を取り直して『偽物、シン』と復唱する。

『fake』『sin』の文字が現れ、それに従って本棚が更に減っていく。

俺は間髪入れずに、最後のダメ押しを追加した。

 

「そして最後は、『只野和夫』」

 

さらに本棚の去る速度が加速し、みるみるうちに目の前から本が消えていく。

そして、そしてやがて─────。

 

「······ッ!?」

 

フィリップが目を閉じたまま息を飲んだ。

 

「····フィリップ?」

 

「っ、キーワード変更、『只野和夫』から『鈴木一朗』」

 

フィリップが焦るように言葉を急く。

 

「·····!キーワード変更、『偽物』から『乗っ取り』!」

 

「おいどうしたフィリップ!?」

 

目を閉じたまま首を振ると、更に「キーワード変更!『メモリブレイク』から『メモリの直接破壊』へ!」と続けた───が。

何が起きたのか、力尽きたようにその場に崩れ落ちたのだ。

慌てて駆け寄りフィリップを支えてやると、肩を揺すった。

 

「オイ、フィリップ!どうしたんだ!?」

 

「·····ない」

 

「ない?」

 

肩で荒く息をしていたフィリップは、焦点の合わない目を地面に落としたまま、震える両手で本を抱きしめた。

まるで恐ろしい夢を見たように、まるで、ありえない現実を突き付けられたように。

 

「無い、無いんだよ。翔太郎。ヒットしなかったんだ。検索結果は''0''、今までの絞りきれないのとは違う、このキーワードでは、何も出てこなかったんだ····!」

 

「どういう、事だ?」

 

「分からない。こんなのは今まで有り得なかった。検索結果がゼロだなんて。·····まさか僕達は、根本から思い違いをしていたのか?」

 

「思い違い·····」

 

検索したキーワードは、次の5つだ。

『メモリブレイク』→『メモリの直接破壊』

『四日前』

『偽物』→『乗っ取り』

『シン』

『只野和夫』→『鈴木一朗』

 

何れもこの事件に深い関わりのあるキーワードばかり。

それでメモリの正体も、そして使用者も絞り込め無いのは何故なのか?

思い違い、或いは見落とし。

照井の『シン=鈴木一朗』という説が否定されたのは確実だ。

しかし逆にそうでなければ一体誰が『シン』で、そして『あのドーパント』であるのか?

更に『只野和夫』とは一体誰だったのか?

ひいては昨晩、何が起きたのか?

見落としがあるとすれば、それはこれまで起きた中にあるはずだ。

何を見落としている。一体、何を·····?

 

「······ん?ねぇ、翔太郎くん、フィリップくん」

 

ここで声を上げたのは、意外にも亜樹子であった。

 

「「なんだ(い)?」」

 

身体を起こしたフィリップと俺の声がダブる。

亜樹子は真っ白なホワイトボードの前まで歩きながら顎にスリッパを当てながら喋り始めた。

 

「私ふと思ったんだけど·····それとこれとは、別人なんじゃない?」

 

「それは····どういう?」

 

「誰と誰がどう別人なんだよ」

 

「んー、と····あ、そうそう」

 

資料の入った封筒を漁り、何かを見つけて引っ張り出す。

右手には『シン』に殺された『コックローチ』のチンピラ、そして左手には鈴木一朗の調書が握られていた。

 

「この人達を殺した『シン』ってドーパントと、『只野さん』になって依頼してきた偽物、が····別人?」

 

「いやいや、そりゃねぇだr「いや、あるかもしれない」

 

俺の否定を遮ってフィリップが立ち上がると、亜樹子から長所をぶんどり読み始めた。

その傍からコソコソと俺に近づいてきた亜樹子と、何となく小声で話し出す俺。

 

「·····フィリップくん、スイッチ入った?」

 

「入ったっつーか·····入れた?」

 

俺と亜樹子が見守る中、ぶつぶつと独り言を呟くフィリップが考え込むこと暫く、突然「そうか!」と叫ぶもんだからガレージに反響した声が耳を直撃して二人揃って耳を塞ぐ羽目に。

 

「うるさっ!?」

 

「ん、あぁすまない2人とも。亜樹ちゃん、君はやっぱり天才だよ!」

 

「え、え?そう?えへへ〜そっかー天才か〜」

 

「バカ、おだててんだy\パッコーン!/

 

神速のスリッパ返しであった。

 

「ってぇ!?」

 

「翔太郎くん。私は天才。OK?」

 

『天才所長に口答えすな!』と書かれたスリッパを振り上げられれば、もうこちらは両手を上げて「ショチョウ、テンサイ」と降参するしかない。

そんなコントをBGMにフィリップがホワイトボードを書き付けていた時、ガレージに特徴的な着信音が響いた。

発信源は俺のポケット。

スタッグフォンを取り出し、耳に当てる。

この状況下で電話をよこす人物といえば、一人しかいない。

 

「どうした、照井!」

 

『左、直ぐに現場にこい。場所は風都会館の裏だ』

 

何があった、と聞こうとするのを遮って照井が切羽詰まった声で早口に続けた。

 

『──ヤツだ。『シン』が居る。それともう一体、別のドーパントもだ!』

 

「な、はぁ!?それどう言う──」

 

『俺に質問するなッ!』

 

ブツン、と切られた電話から驚いて耳を話すと、亜樹子とフィリップに目を向ける。

二人とも会話の内容は聞こえていたらしく、フィリップはペンのキャップに蓋をした。

 

「僕も行こう。──『シン』には少々、興味がある」

 

「わかった、じゃあ亜樹子は──」

 

「分かってるわ、お留守番でしょ!無理して乗せろなんて言わないわよ」

 

「おう、サンキュな。──じゃあ行くぜ、相棒!」

 

「あぁ」

 

ヘルメットを放り投げると、フィリップが受け取りながらガレージから飛び降りる。

俺もまた自分のヘルメットを持ってガレージから飛び降りた。

ヘルメットを装着し、俺がハンドルを握ると同時に相棒がサドルに乗る。

亜樹子の「行ってらっしゃーい!」という言葉を背に、フルスロットルでハードボイルダーをカッ飛ばした。

 

 

7.

 

風都会館裏の路地裏は、まるで戦場のような有様だった。

壁は抉れ、そこらじゅうに配管が散らばり、屋根は抜け、アスファルトは穴だらけ。

 

その真ん中にて対峙するのは、『シン』とアクセル──では無かった。

 

『全く手間をかけさせて···早く『おうち』へ帰るぞ、666番』

 

その姿は、一言で表すならば『簡素』であった。

茶褐色の体にトゲトゲしさはなく、むしろ人型に限りなく近い。さらにドーパントには珍しく、スーツに白衣という装いを着こなしていた。

異様なのは、顔と両手。

顔はまるで剣道の防具のような格子状の装甲を被り、その奥から大きな赤いモノアイが半月に浮かぶ。

その様は、面の隙間から大きな1つ目が笑って眺めているような不気味さが漂っていた。

さらに両腕はガタイに比べて不自然に大きく、特に右手の前腕は大きく膨らんでいた。

そんな謎のドーパントに、『シン』が叫ぶ。

 

『ふざけるな。お前は、お前だけは。その罪ごと殺す!』

 

返って来たのは、哄笑であった。

 

『ハッ!──できんよ、実験動物如きではなぁ!!』

 

再び幾度目かも分からない激突が始まる。

──その刹那に、『彼』は来た。

 

『ハァァァア!』

 

両者の間に強引に割り込み、『シン』に前輪を、謎のドーパントに後輪をぶち当て、弾き飛ばす真紅のバイク。

仮面ライダーアクセル。

 

『貴様らが何者かは知らん。大人しくしてもらうぞ、ドーパント!』

 

エンジンブレードを振り回し、両者に突きつけると、両者の反応は同じであった。

──ただし、片やメモリの破壊。片や口封じ、と全く目的は異なっていたが。

 

『目障りな···!』

 

先に動いたのは謎のドーパントの方。

巨大化している右手を振り上げてアクセルへ襲いかかるが、軽く身体を逸らしたアクセルの放つカウンター蹴りをあっさり食らって壁際へ吹き飛ばされる。

間髪入れずに『シン』が来る。

振り抜かれた拳を、エンジンブレードで辛うじて受け止めると弾き返し、袈裟斬りの斬り下しをお見舞する。

火花を散らして飛び退いた『シン』をぼんやり眺めているような暇は、照井にはなかった。

即座にエンジンブレードを構え直し、振り返りざまに再度突っ込んできたドーパントに斬りつける。それは再びドーパントを吹き飛ばすだけの威力を秘めていたが、しかし。

 

『·····ほーう、その速さか』

 

──見切られた!?

エンジンブレードが空ぶった隙に、ドーパントから鋭い蹴りが放たれる。

辛うじてバックステップで回避したが、先読みしたかのように横から拳が打ち据えられる。『シン』がボディブローを放ったのだ。

受けきれず、まともに食らったアクセルは地面を転がる。

即座に起き上がり、エンジンブレードを構え直した。

 

『く····!』

 

目の前には2体のドーパント。

簡素な謎のドーパントが、ふとアクセルの腰周りを見て舌打ちした。

 

『アクセルメモリにドライバー、か。あの女ァ、私の研究を······!』

 

『研究····?女、だと?』

 

アクセルが思わず聞き返すのを、『シン』は遮った。

 

『アクセル。まずはお前の罪からだ』

 

じり、と近づく『シン』に、アクセルはエンジンブレードを構えると、切り返した。

 

『罪を犯してるのはどちらか、教えてやる』

 

これ以上の問答は不要。これより先は、どちらがどちらを刈り取るかの戦いだ。

同時に踏み込み、距離を詰めようとした時だった。

けたたましくクラクションが響き、バイクの轟音が近づいてくる。

前後を黒と緑に塗り替えた中型バイクは、素早くターンを決めて彼らのそばに乗りつけると、ドライバーと後部座席の男が同時にヘルメットを外した。

 

「照井!遅くなった!」

 

「待たせたね」

 

『遅いぞ、左、フィリップ!』

 

『シン』を睨んだまま怒鳴る照井に駆け寄りながら、俺はバックルを取り出して腰に装着した。

それぞれ、黒のメモリと緑のメモリを取り出す。

俺は切り札、フィリップは旋風。

 

「行くぜ、フィリップ!」 ジョーカー!

 

「あぁ、翔太郎!」サイクロン!

 

「「変身!」」

 

──サイクロン!ジョーカー!

 

フィリップの身体がバイクにもたれかかったまま崩れ落ちるのと同時に、照井と並ぶ。

さぁ、ケリつけようぜ──と、走り出そうとして、照井がそれを制した。

 

「あん?」

 

『よく見ろ』

 

とだけ言って、アクセルが顎をしゃくる。言われてから、相手の方を見る。そして理解した。2体の様子が、目に見えておかしかったのだ。

謎のドーパントが、戦きながら2歩、3歩と下がる。

 

『あり、えん····ありえん、ありえん!『2G』だと!?しかも····クソ。クソ、クソ!あの女ァ!完成させたのか!完成させおったのか!『ダブル』を!』

 

半ば半狂乱になって叫ぶドーパントに、思わず足が竦む。

こんな事は初めてだった。

対して、『シン』は。

 

『─────』

 

固まっていた。完全に硬直し、呆然と、俺達『W』を見つめている。

そんな異様な空気の中で、ドーパントがついに背を向けた。

 

『──仕切りなおしだ。こんなのでは『回収』もままならん!完成された『ダブル』だと!ふざけるな!····どこまで私を愚弄するのだ、この世界は!』

 

その声に、弾かれたように『シン』が振り返って追い縋るが、ドーパントはひとっ飛びに屋根に飛び乗ると、そのまま2度、3度と大ジャンプを繰り返して逃げ去った。

それを見送った『シン』は、ゆっくりと俺達に振り返った。

 

『·············ダブル、先程は確信が持てなかったが──やはりそうなのか』

 

『確、信·····?』

 

フィリップが思わずといった風に聞き返すと、『シン』は、たすき掛けにしたガイアドライバーに手をかけた。

 

『サイクロン、ジョーカー、ヒート、メタル、アクセル。·····見たことの無いドライバーを使って《遊んでいる》お前らの罪は、絶対に止めるつもりでいたが····''ヤツ''の言い回しと、何より『君』が絡んでるとなれば、話は別だ』

 

ガイアドライバーを、外す。

変身が解け──素顔を晒す。

その顔を見た瞬間、フィリップが明確に、動揺した。

右側の身体がよろけるように勝手に後ろへ下がる。

 

『そんなっ、君は······!有り得ない!』

 

「有り得なくはない。オレもまた、''あの夜''を超えた。そういう事だ」

 

フィリップの動揺がダイレクトに伝わってくる。

『有り得ない』と強く思い込むと同時に、『有り得たのか』と内心──喜んでいる?

そして何より強いのは、『ならばどうして』という疑問。

これほどまでにフィリップの感情が揺れるのはファング以来だ。

 

「フィリップ、どうしたんだよ!?」

 

『······変身を、解除してくれ、翔太郎』

 

「フィリップ?」

 

『いいから!お願いだ』

 

戸惑いながらも、俺とフィリップは互いのメモリを引き抜き、変身を解除した。並んで照井もメモリを引き抜く。

ダブルが砂塵となって消えていくのと同時に、バイクにもたれたフィリップが跳ね起き、『シン』の前に立った。

 

「·····本当に、君なのか。《シン》!」

 

「あぁ、オレだよ。『ライト』」

 

妙な近さで感情を噛み締め合う両者だが、だだ遠巻きに眺めている訳にも行かずに、俺は恐る恐る近づいた。

 

「あー、と。フィリップ?······まさか、知り合いか?」

 

「あ、あぁ。今の今まで確信が持てなかったけどね。──紹介しよう、彼はシン。海堂新《カイドウ シン》だ。彼は····」

 

「いい。そこからはオレが話す」

 

『シン』──海堂 新は、フィリップの前に出ると俺と照井を順に見て。自らの名と、そして過去を名乗った。

 

「オレは海堂新。かつて『ミュージアム』のガイアビルでライトと同じ実験体であり、お前が持っているその『2G』を嵌めるはずだった、''本来のW''だ」




一読ありがとうございました!
次話で最終回の予定ですが、更新日は未定です。
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