蛸の見た夢   作:藤猫

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ボスと、何もかもに開き直った人


分かりやすいバットエンドになります。


番外編:BadEnd 星の潰えた世界

 

「・・・・分かるな、ポルポ。」

 

己の首に絡みつく、高い体温の、大きな掌にポルポの背筋にぞわりとした震えと、今にも倒れ込みそうなほどの圧迫感が襲った。

口から出るはずの言葉は、まるで断末魔のようにか細く、高い声が漏れ出ただけだった。

 

「お前が、今言うべきことが何なのか、分かるね。可愛い、私のポルポ。」

 

甘ったるいその、言葉に、ポルポの内で何かが砕け落ちる音が響いた。

 

 

ソルベとジェラートに伝言があるんだが。

 

その台詞が、全ての始まりだった。

 

ソルベとジェラートは、暗殺者チームにおいて諜報を担当していた。それは、彼らのスタンド能力、それぞれに他人の視界を覗き見ることが出来るということと、変身能力があったことに加えて二人の性質に理由があった。

極点的に言えば、ジェラートという男は知ることを好んでいることがあった。端的に言えば、相手の秘密にしていることを知ることを何よりも好んでいる男だった。

秘密というものが当たり前の裏の世界において、その性質は少々難があるものだったが、それを加えてもジェラートという男も、それに付き合うソルベという男も優秀であった。

そうして、それを担当しているために、メンバーもあまりどこにいるかなどを把握していなかった。

ただ、気まぐれに暇なときはアジトに顔を出すこともあり、それによって生存確認は行えていた。

その時、ポルポははてりと首を傾げた。

何故なら、ポルポはその時、ソルベとジェラートに何かしらの仕事を命じた覚えがなかったせいだ。

そうして、メンバーやカラマーロに話を聞いて、ようやく分かった。

誰も、ソルベとジェラートの行方を知らなかったのだ。

 

ポルポは、急いで暗殺者チームに二人の捜索を命じた。敵対組織から拉致という可能性を考えての事だった。

けれど、ポルポはぞくりと嫌な感覚を抑えることが出来なかった。

暗殺者チームは、存在を知られていても詳細は出回ってはいない。暗殺という性質上、顔が売れるなどということは何よりも疎うべきことだ。

そのために、暗殺者チームは表向きはポルポの私的な使い走りや護衛という立ち位置にいる。それも、護衛として連れるのは戦闘や逃走に有利なものばかりで、ソルベとジェラートは殆ど表舞台に出たことはない。

だからこそ、ポルポは嫌な予感をさせていた。

そんな彼らを攫った者がいるとすれば、その理由とは何なのか。

 

何かを調べていたのだ。彼らが、そういったものに属しているのだと、分かる瞬間に何かがあったのだ。

 

ぞわり、ぞわりと、嫌な何かが背筋を振るわせる。

 

ポルポはまるで祈る様に、仕事部屋の机に肘をつき、報告を待っていた

そうして、けたたましくなるパソコンが鳴った。それに目を走らせると、メールが来ていた。

差出人は、ボス。

メールの内容は、どこかへの地図。

それに、ポルポは嫌な予感が全て的中しそうなことを覚った。

 

 

地図の先には、とある簡素なホテルであり、地図に付随された資料によって、ポルポは部屋の中に入った。

部屋の中は薄暗く、どうもカーテンが閉め切られているようだった。

ばくばくとなる心臓を服の上から撫で、ポルポは唾をのむ。

 

大丈夫だ。

 

ただ、自分にそう言い続けた。

暗闇の中で、ブラック・サバスに勝てるスタンドはそういない。己の手に絡みつく、人のものではないそれにポルポは必死に逃げ出したいという理性を保つ。

部屋を進むと、何故か、ベッドも何もない。ただ、部屋の真ん中に、ぽつりと小さなテーブルが置かれている。

その机の上に、一つのテレビが置かれていた。テレビから漏れ出る青白い光が部屋の中を照らしていた。

ポルポは己の背筋を流れる、生温い汗を自覚する。

ゆっくりと、その画面にポルポは近づく。

見たくない、見てはいけない。

そう思うというのに、それを見なければいけないという何かを察した。

そうして、ようやくその画面に何が映し出されているのかを理解した。

 

それは、誰かが何かに横たわっている。その台の両隣には、二人の人間が立っている。

 

(・・・・なに、あれ?)

 

映っている部屋自体が薄暗いのか、全体の印象がぼやけている。映っている人物の顔立ちを見ようと、ポルポは目を凝らした。

そうすると、立っているうちの一人が、何か、刃物のようなものを振り上げた。それと同時に、その刃は横たわっている人物の左足へ振り下ろされた。

だん、と、何かが断たれるような音と共に、悲鳴と、そうして、ポルポにとって見知った存在の苦悶の表情は画面に映し出された。

 

「ソルベ!!!」

 

断末魔のような声と共に、ポルポはテレビに飛びついた。

画面には、輪切りにされたソルベの一部が転がっている。

その映像の意味を、ポルポは瞬時に理解した。

 

破ったのだ。けして、けして、破ってはいけなかった禁忌を、彼らは破ってしまってしまったのだ。

何故だ!?

理由などない、意味などない、必要がない。

だというのに、この末路がやって来た。

ポルポは、がちがちと微かになる歯の音と共に、喉の奥からせり上がって来る何かを必死に我慢した。そうして、急いで部屋を出ようとする。

けれど、その前に、背後から甘ったるい、優し気な声が聞こえて来た。

 

「・・・・躾はきちんとするべきだったな。」

 

ポルポは、その声に誰かを察して振り返らなかった。がちがちと、大きくなる歯がぶつかる音だけがやけに響いた

どこから伸びているか分からないが、己の手を掴んでくれるブラック・サバスだけが彼女の味方であった。

ポルポの首元に、するりと、手が伸ばされる。首をなぞるようにして上に滑る。自分の頬を覆う、大きく、熱い手にポルポの体はがたがたと震える。

 

「・・・・お前は、本当に賢い。なぜ、世の人間はお前のように賢く在れないのだろうなあ。知らなくてよいものを、なぜ知ろうとするのか。」

 

おそらく、振り返らなかったポルポの行動について褒めているのだろう。

ポルポは、か細い灯に縋りつく様に、ブラック・サバスの手を掴む。

 

「私のことを嗅ぎまわる者をな、捕らえたんだが。どうも、お前の飼い犬の様だったからな。処分をする前に知らせてやろうかと考えていたんだが。ん、ふむ。そんなにも、この犬が大事か?」

 

ポルポは自分の意識と言える糸が、ぶつりと途切れそうになるのを感じる。ぶつり、ぶつり、ふっと亡くなりそうなそれを必死に押しとどめて、ポルポは掠れ、震える声で答えた。

 

「は、い。」

「そうか、そうか。実はな、お前は私の部下の中でも稼ぎ頭で在り、見返りもあまり望まない。せっかくだ、ボーナスとして、この一度だけは赦してもいいかと考えている。」

 

それに、ポルポの体は明らかに震えた。今すぐにでも、振り返り、ディアボロに飛びつきたいほどだった。縋りついて、命乞いをしたかった。

 

奪わないでください、奪わないでください。

たくさんものを、奪って来た私にそんな権利はないかもしれません。それでも、彼らだけは、彼らだけは、私から奪わないでください。

それ以外ならば、何でも差し出します。

私の命さえも、全て、差し出します。私の何もかもを、誇りも、祈りも、願いも、全てほうりだしてもかまいません。

だから、かれらだけは、わたしのまどろみだけは、うばわないでください。

 

いつの間にか、ポルポは己の体の前で手を組み、祈る様に握りしめていた。けれど、そのぎりぎりと締め付けられる精神の中で、するりと自分の頭に何かが擦り寄った。

 

「ただな、少しだけ条件があるんだ。」

 

その声が、まるでと息さえも感じるほどに近いことで、その擦り寄ったものがディアボロの顔であることを覚る。

甘ったるく、囁く、その声にポルポは崩れ落ちそうになる。

 

「な、なんなり、と。なんでも、どのような、ことでも。」

 

どんな、ことでも、したがいます。

 

掠れた返答に、くすくすと耳元で笑い声がした。

 

「ああ、そんなにも緊張するな。私の可愛い、ポルポ。なに、些細な事だ。」

 

それに、ポルポは身を固くした。

どんなことでも、聞き入れるつもりだった。

 

(・・・・あと、少しなんだ。)

 

そうだ、あと少し。あと、少しで、運命がやって来る。

ポルポの望んだ、未来。ポルポが、待ち焦がれた未来。ポルポが、救済を見出した先。

ポルポはいない。それでも、確かに星が瞬く未来が、やってくる。

あと少しだ、待てばいい。それまで、持てばいい。

ポルポの生きてほしい人たちは皆優秀だ。

ポルポの星は、ポルポを殺す正しさは、賢い。きっと、彼らを上手く使ってくれる、その価値を認めてくれる。

未来は、託せばいい。

だから、ここでは、何を持っても持ちこたえなくてはいけない。

未来にいなかった彼らを、先におしあげなくてはいけない。

 

ぎりぎりと、ポルポの精神にひずみとも、亀裂とも言える何かが走った。それを自覚して、ポルポは荒い息を吐き出した。

そこに、そこに、甘くて柔らかな声がするりと滑り込んだ。

 

「・・・可愛い、ポルポ。」

 

お前は、私に隠していることがあるだろう。

 

それにポルポは体を震わせながらいつも通り、答えた。

 

「ボスに、隠し事など、して、いません。」

 

「ふむ。」

 

ポルポの長い髪の毛を、くるりとディアボロは弄ぶ。それを意識しながら、ポルポは必死に動揺を押し殺す。

大丈夫、そう、強く信じた。

 

知られることなどありはしない。

そうだ、大丈夫だ。震えだって、臆病な自分ならば不自然なことも無い。ボスには知られることはない。理解することなどない。

 

そう思っても、己の体の奥から湧き上がる恐怖と、そうして動揺は尽きることなく湧き上がる。

 

知られることなんて、あるはずがない。そうだ、大丈夫だ。だから。

 

「・・・・ポルポ、可愛い、ポルポ。」

 

崩れ落ちそうになる。いつもならば、押し込むことができる恐怖が、湧き上がって、体を震わせる。

けれど、その、起きるはずのなかった、筋書き通りの出来事にポルポの中で何かが軋みを上げる。

大丈夫だと、心の中で幾度も呟くのに。頭の中で、屈服した自分が囁く。

 

分かってるくせに。分かってるだろう。

 

ボスには、絶対に勝てないのに。

 

違うのだと、首を振る。違うのだ。

ボスは負ける。彼は、敗北する。彼は、正しさの前に敗北する。

運命なのだ。それは、自分が死ぬのと同じほどに、当たり前のように運命なのだ。

そうだ、だから、星が目覚めるその時まで。

ただ、その時まで、自分は負けなければいい。

 

その時、辺りに、二つの声が響いた。

 

「私は、全てを知っている。」

 

あああああああああああああああああああ!!!!!

 

ボスの声と、ソルベの断末魔じみた声は、何故か重なり合うことも無く、はっきりとポルポの耳に聞こえた。

 

その言葉に、ひゅっと、空気が空回る様な声がした。

ポルポは、それに、何か緊張の糸が切れた様にがくりと膝をついた。その場に、座り込んだポルポはまるで糸が切れた様な操り人形のように無言で床を眺める。

たったの、一言だった。

たったの、一言で、何故か体の全てから力が抜けた。

立ち上がれ、そう自分に言い聞かせる。立ち上がれ、でないと、疑いは深くなる。

だというのに、足に力は入らない。

 

座り込んだポルポの目に、するりと大きな掌が被さった。

 

「ポルポ、安心しなさい。私に隠し事をしていたのは、赦せざることだ。仕置きは必要だろう。ただ、お前は、いつだって正しい判断をしてきた。お前が私にとって可愛いポルポでいるならば、私はお前を赦そう。」

 

さあ、ポルポ。お前は、正しいことを選べるだろう。

 

なんてないセリフだ。それこそ、何も知りませんと言えば、済む話だ。

けれど、ポルポの中で、何かが、そうだ。

それこそ、どんな音だったかは分からなくても。

ぼきりだったかもしれない、がちゃんだったかもしれない、びきりだったかもしれない、

ただ、頭の奥、ポルポのなかで何かが壊れた音がした。

 

(・・・・・もういいや。もう、いいんだ。)

 

だって、誰も、ボスには勝てない。私は、ボスには勝てない。

 

 

 

いつも通り、薄暗い仕事部屋の中でポルポは机に向かい、そうして書類を読んでいた。

最初に読んでいたのは、ソルベとジェラートの経過観察だった。

 

(・・・・ソルベの右足の経過は順調。暗殺に戻れるかは経過しだい。よかった。悪化することはなかったみたい。)

 

それにほっとしながら、ポルポは机の上に散らばった書類の内、二組を手に取る。

そこには、任務完了の旨が記されていた。

 

「・・・やっぱり、プロシュートとリゾットは優秀だなあ。」

 

そう言って、ポルポは今回の任務対象であったジョルノ・ジョバァーナと東方仗助の写真を撫でた。

 

 

あの日、ポルポは理解したのだ。

この世には、運命と言えるものがある。それは、例えば、ブラック・サバスを持った自分がパッショーネに入るということがあったりする。

けれど、時折、人は運命といえる何かに打ち勝ってしまうのだ。

ボスのように。

だから、ポルポは諦めた。

諦めて、諦めて、彼女は悪魔に頭を垂れた。

そうだ、運命を信じても、運命を覆す存在には勝てはしないのだ。

だから、諦めて。そうして、ポルポは自分の愛しい箱庭だけを守ることを決めた。

 

ディアボロに頭を垂れて、何もかもを、捧げた。あの日、ポルポはディアボロに全てを話したわけではない。ただ、空条承太郎という人物が、ポルナレフという男と繋がっており、組織のことを、ひいてはボスのことを探っているかもしれないことを伝えた。

 

ポルポは、ゆっくりとジョルノ・ジョバァーナと東方仗助の書類を破り捨てた。

ジョルノ・ジョバァーナは簡単だった。スタンド能力だって発現していない存在なのだ。東方仗助も、真っ向からの勝負には強くとも、一人の時に不意打ちをすればそう難しくはなかった。

 

(・・・・さようなら、私を裁く、私の星。)

 

細かく、細かく、何が書かれていたかもわからないほどに細かく破いた。そうして、残りの書類、まだ開始されていない任務についての書類を手に取った。

そこには、ジョセフ・ジョースター、空条承太郎、空条徐倫の三人についての情報が書かれていた。

 

(・・・・運命には、勝てない。あなたたちは、正しい。正しいものが、勝つ。それが眩しい。それに焦がれた。でも。)

 

その美しさは、眩しさは、間違えたリゾットたちを否定する。

 

(・・・・大丈夫だ。リゾットたちは死なない。運命の通りに、いなくなったりしない。運命にさえ打ち勝てるボスの元にいる限り。)

 

自分だって、生きていける。リゾットたちと、生きていける。

 

ポルポは、そう思って、笑う。ただ、笑う。

彼女がいつだって浮かべていた、諦観と諦めに満ちた穏やかなものではない。

それは、年相応の陽気さと、これからを想う楽しさに満ちた笑みだった。

そうだ、そうなのだ。

だって、ポルポはもう、やってくる運命に怯えなくていい。

そうだ、明日がある。

また明日をたくさん言おう。どんなふうに生きていきたいかを考えていい。誰かとの未来を想って良い。

誰かのことを、好きになっても、いいのだ。

ポルポは笑う。

いつもの、優しそうで、穏やかな、そうして少しだけ陽気さの加わった、ネジのとれた笑みを浮かべた。

 

 




原作をトゥルーエンドかグッドエンドとするなら分かりやすいバッドエンドになります。

蛸 
回避できたと思っていた結末がやってきたことや、断末魔やら緊張で何もかもタガが外れてる。基本的には変わらないが、ボスにたてつく大抵の人には容赦なく潰しに行く。生きることを楽しみ始めた。
部下たち
上司に当たる恩人のネジが少しだけ外れているように感じるが死にたがりが治ったので気にしていない。ギャングにネジが外れていないものなどいないのだ。
ボス
自分を探るものが出ていたため、蛸に探りをいれるためにかまをかけた人。無意識のうちに、滅亡の運命を回避した幸運の人。
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