蛸の見た夢   作:藤猫

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ミスタと後悔している人、または慕っている人のデートに動揺している皆。

何か、ギャグ的なものを書きたくなって。もうちょっと続きます。書きたいとこまでたどり着けなかった。

誤字脱字などは感想での指摘はご遠慮くだされば幸いです。
感想いただけましたらうれしいです。
お題箱作ってみました、何かあれば
https://odaibako.net/u/fujineko56


居場所 上

 

とても沈んだ顔をしていた。

言ってしまえば、しけた顔だ。

だから、まあ、笑った方がいいと思ったから。

「俺とデートしない?」

ふざけたようにそう言うと、女はとても可憐に笑った。

 

 

 

 

ブチャラティに連れてこられたのは、とても暗い部屋だった。

暗いと言ってもまっくらというわけではない。ただ、目が慣れていなければ細部の分からない、そんな暗さだった。

 

(へえ、すげえな。)

 

ミスタはきょろきょろと周りを見回した。何せ、ブチャラティ曰く、自分を幹部の下に連れて行くというのだ。

なんでもそこでようやく彼は本格的に組織の人間になるための試験を受けるらしい。

ブチャラティ曰く、ミスタならば必ずや合格できるだろうと言っていた。

ミスタはまあなんとかなるだろうと、そんなことを考えていた。

 

あの人は他人に対して寛容だ、寛容すぎる部分がある。それがあの人の美徳だが。俺はあの人への侮辱は許さん。絶対に無礼を働くな。

 

温厚な方である彼の威圧感のある言葉にミスタは思わず頷いた。そんなにもブチャラティが言う存在とはどんなものかという好奇心もあった。

部屋に入ってすぐにぼんやりとした中でも一番に目が行ったのは、見事な金髪の女だった。

服の上からでも分かる見事なプロポーションに、暗闇の中でも分かる金の髪。宝石のように澄んだ瞳なんて見つめられるだけで嬉しくなるだろう。

ミスタは咄嗟に声をかけたくなるが、ブチャラティの威圧感を思い出して口をつぐんで視線を床に這わせる。

 

「それが例の?」

冷たく、そうして芯のある女の声にミスタは幹部というのがあの金髪の女だったのだなと理解した。

 

「ええ、こいつなら試験をクリアできると思っています。」

「あんたがそういうなら、間違っちゃいないでしょう。ポルポもいいわね?」

 

ポルポ、という名前にミスタは首を傾げる。蛸なんて意味合いのそれに疑問を感じつつ、偽名だろうと考える。

 

「・・・・ええ、かまいません。」

 

間に挟まった、穏やかで静かな声にミスタは不思議な気分になる。それは今、この場に流れるにはあまりにも不似合いな気分になる声だったのだ。

思わず顔を上げたその先には、もう一人、この部屋に人間がいたことを理解する。

 

部屋に置かれた、重厚な印象を受ける、木で出来ているらしい机に誰かが座っている。

 

「こんにちは。」

 

そう言って微笑む女にミスタは幾度も瞬きをした。何故、一般人がここにいるのだろうとそれだけが疑問だった。

 

 

 

「ミスタ、挨拶をしろ。幹部のポルポと、側近のカラマーロさんだ。」

何故、側近の方にさんがついているのかミスタは分からずにはあと間抜けな声を出す。カラマーロと、そうして、これまた大きな椅子に座った女が穏やかに微笑んでミスタに話しかける。

 

「グイード・ミスタさんですね。」

「は、はい、そう、です。」

 

珍しくミスタがなんとか付け焼き刃でも丁寧な言葉を吐けたのは、偏にその場にいたブチャラティとカラマーロからの威圧感故のことだろう。

 

「緊張しなくていいですよ。質問に答えてくださればいいので。」

 

そう言って穏やかに微笑んで問われる様は、まるでここがどこぞのビストロか何かで注文を聞かれているような心地になる。

といっても、すぐに自分を見つめる二組の目で全て霧散していく。

彼女はミスタに監獄に入った事件の顛末や、銃の経験などを簡単に聞き取った。

ミスタはちらりと女を見た。

 

普通の女だ。

不細工、ではないが。さりとて美しい女でもない。隣にいる金の髪に澄んだ青い瞳の女を見れば圧倒的にそちらのほうがオーラがあっただろう。

黒い髪はその薄闇の中に溶け込みそうでどこか不気味に見える。

ただ、その暗闇の中でさえも、赤い瞳が妙に輝いて光っているように見えた。

それだけ、それだけの女で。

なのに、そう言って浮かべる笑みがどこか疲れているように見えるのが不思議だった。

 

「・・・・結構です。そうして、最後に聞きたいことがあります。これからあなたには試験が訪れます。そうして、それは死ぬか、生きるかの二択の結果しか存在しません。」

それでもあなたは試験を受けますか?

 

それはとても、今まで通り静かで穏やかなものだった。まるでこの後の夕飯の話でもするような、そんな気軽な声で。

ミスタはじっと女を見て、そうして、聞きたいことがあると口を開こうとした。けれど、ブチャラティたちの前で下手なことを言えないと視線をうろうろさせる。

そこでポルポが口を開いた。

 

「ブチャラティ、カラマーロ、退出を。」

「え?」

 

カラマーロとブチャラティは不満そうな顔をしたが、思うところがあるのかそのまま退出していった。ミスタはどうしたものかとその後ろ姿を見送り、ポルポを見返した。

 

「言いたいことがあるなら言ってください。先ほど言いましたが、試験に合格すれば確かな恩恵が得られることは保証します。ですが、それと同時に失敗すれば訪れるのは死です。」

覚悟の無いものは必ず失敗します。

 

故に、と女は目の前の青年を見つめる。

 

「あなたの意思がどんなものかお聞きしたいのです。」

それにミスタは咄嗟に言葉を吐いた。

 

「そりゃあ、受けるさ。」

 

ミスタは咄嗟に吐き出した言葉の荒さにやってしまったと思い、ちらりと女を伺う。それにポルポは今までの穏やかさなど忘れてしまったかのような、なんだろうか。

その表情を言い表す表現がミスタには浮ばなかった。

そんな彼の意思など知らない彼女は重ねて言葉を続ける。

 

「・・・・本当に、いいんですか?受けずとも、あなたをブチャラティの下に置くことは許可しますよ?」

 

ミスタはそわそわと落ち着かなくなる。そこまで誰かに気遣われた事なんてなかったし、自分が心配されていることが分かる。生ぬるい感覚を覚えると落ち着かなくなるだろう。

それは、まるで、なんというか。

とても幼い頃に怪我をしたとき、誰かに顔をのぞき込まれたかのような気恥ずかしさと言えばいいのだろうか。

そんな手触りを感じてしまったのだ。それが落ち着かなくさせる。

 

「いや、俺は、その、自分が進むべき道ってのはちゃんと辿ってきたつもりだ。あの時だって生き残った!なら、今回だって生き残るさ!」

それはミスタの掛け値無しの本音だ。

 

自分は選ぶべき道を辿り、ここまでやってきたのだと。

進むべき道にただ進んでいるだけだと。

 

故に、ミスタは確信していた。

自分は試験に合格すると。

 

それに、それに、彼女は眉間に皺を寄せて、下手くそな笑みを浮かべた。それに、ミスタはようやく理解した。

この女は、何かを、とても悔いているのだと。

 

 

もしも、試験に合格したらご褒美をあげましょう。もちろん、過度なものは無理ですけど。

 

ご褒美があれば試験にも立ち向かえるだろうと言って、女はミスタにそんな約束をした。

ミスタにはそれにどれだけの事が赦されるのかと思いつつ、試験に挑んだ。

 

そうして、結果として、ミスタは試験に合格し、なにやら意味の分からない小人?を得ることになったわけなのだが。

結果を知ったカラマーロとブチャラティは安堵したような顔で、ミスタのその小人、スタンド能力がどんなものか試さなくてはと話をしている。

 

「おめでとうございます。ミスタ。それで望みはありますか?」

 

さすがにさん付けはという話をした後、彼女は律儀にそれを守ってくれる。彼の周りでスタンド能力が騒いでいる中、ポルポはやはり何かとても申し訳なさそうな顔をしている。

それにミスタは、ああと気づく。

 

暗がりに慣れたおかげか、ポルポのことがよく見えた。

 

優しそうな顔だった。優しそうで、故に、例えば目の下の隈だとか、ぞっとするほど白い肌だとか。

とても、疲れた顔をしていて、なにか、とても不幸そうな顔をしていて。

試験の後で疲れ切った中、何か本当に深く考えずに言った。

 

「なら、ご褒美にデートしてくれよ。」

 

それに辺りは水を打ったかのようにしずまりかえり、その後、女の軽やかな笑い声が響いた。

 

 

 

「・・・・少し、いいですか?」

 

その日、ギアッチョはメローネと共にアジトに待機していた。

そんな中、扉が開き、ポルポが顔を出す。

それはいつも通り、申し訳なさそうな顔をして部屋をのぞき込んでいる。ギアッチョはそれに顔をしかめる。

ただの下っ端構成員にそんな気を遣う必要なんてないのに。けれど、ポルポはそうする。

そういう人間だ。

 

「ポルポ!」

 

隣で、ソファに座っていたメローネが嬉しそうに彼女に両手を差出した。それにポルポは困惑気味に恐る恐る近づく。

そうしてメローネをハグした。ギアッチョはその様子にうげえと分かりやすい顔をした。

 

何かしらのことがあってからメローネはポルポに対して何か、妙に懐くようになった。もちろん、ギアッチョはそれが彼の心からものではなく、含みがあることは理解していた。

それはそれとして居心地が悪いのもある。年の変わらない同僚がこれまた年が上とは言え上司の女に媚びるというか甘える仕草をするのは気まずい。

ソファの背もたれ越しに抱擁したままメローネの背中を軽く叩いてポルポは体を離す。

 

「ポルポ、何かようかい?頼まれごとなら聞いてやるけど。なあ、ギアッチョ。」

「・・・・おう。」

 

ギアッチョは一応は返事をした。振り返ることはないけれどそれが彼にとっての精一杯の返事だった。

 

(・・・どーせ、また食事の誘いとかそれぐらいか?)

 

基本的にポルポからの仕事はリゾットが誰に任せるか決める。直接的にポルポが任務を頼みに来ることはないため、大方その程度だろうと思っていたのだ。

けれど、ポルポの口からは信じられないような台詞が発せられた。

 

「いえ、聞きたいことがあって。」

「え、なーに。」

 

メローネの甘ったるい声の後、ポルポが悩むような声で言った。

 

「君達とそう変わらない男の子とデートをするんですが。男の子ってどういう格好をすれば喜んでくれるでしょうか?」

 

体が固まるということがどんなことか、ギアッチョはその時初めて知った。

 

 

 

タイトなジーンズに黒いブーツ、白いタートルニット。首に小粒なネックレスを付けたそれは普段とは違う印象を受ける。耳には赤い宝石がついているらしいイヤリングが揺れている。

それは待ち合わせを気にしてか腕時計を付けているのが見えた。

 

そうしてそれを見つめるリゾットはスタンド能力を使い、透明になったまま護衛対象である彼女を見つめ、見つめようとしてそれ以上に気になってしまう存在に視線を向けた。

ポルポは人通りのある広場に立っているが、その広場に散らばった状態でどうにも身に覚えのある風体の野郎共が幾人。

 

リゾットは額に手を当てた。

 

 

 

「なにしてやがる、てめえら!!」

 

人気のない路地裏にて、リゾットはその大柄な体に見合った怒鳴り声を発した。それにリゾットが広場で回収した大馬鹿者共は機嫌悪そうに目をそらした。

 

「あのお人好しが、どこぞの馬鹿に騙されてねえか見張ってた・・・」

「出かける相手はブチャラティのとこの奴だ!身元も洗った。」

 

その言葉にその場にいた、人間の大半がブチャラティに睨みをきかせる。それにブチャラティは苦虫を噛みつぶした顔で、建物の壁を拳で殴る。

 

「・・・・すまない!」

 

明らかにもっと違う場面で出すべき声で叫ぶブチャラティにリゾットは呆れた顔をした。そうして、その場にいる、よく集まったなと言う顔で人間を見回した。

 

ギアッチョにメローネ、ホルマジオにプロシュート。そうして、ブチャラティ側は全員が集合している。全員、ポルポにばれないようにきちんと普段とは違う服装をしているのがプロ意識というのか、愚か者と言うべき所か。

おそらく、ソルベとジェラートも見物しているだろうが、さすがに情報戦専門の彼らを人混みから探すのは難しかった。

といっても、リゾット自身そこまで彼らに対して心配していなかった。良くも悪くも、彼らは見物に収まるだろう。

問題は、目の前の馬鹿共だ。

 

「お前ら、帰れ!大体、今回の護衛の話は俺とイル-ゾォだけだったはずだ!」

「仕事のないときにどこにいたって俺たちの自由だろ?」

 

メローネの荒んだ瞳でそう言われてリゾットは一体どうしたと問いかけたくなる。彼は目をかっぴらいて何かをぶつぶつと言っている。

それにため息を吐いて、リゾットはここにいることが意外なホルマジオとアバッキオ、そうしてフーゴに視線を向けた。

 

「お前らもどうした?わざわざ来るほどじゃないだろう?」

「・・・あー俺はその、カラマーロがな。」

 

ホルマジオのそれにリゾットは全てを察する。

そうして、次はアバッキオとフーゴを見る。

 

「ブチャラティがな・・・」

「ナランチャも。」

 

それにリゾットは頭を抱えたくなる。

 

 

リゾットも何故、ポルポが入ったばかりの若造の、そんな言葉に頷いたのかは知らない。又聞きでは、デートしようという台詞に彼女はけらけらと笑った後に、頷いたそうだ。

 

大変だったのはまずはカラマーロだろう。

 

「・・・・ポルポ、笑ってたの。」

 

本当にデートというか、共に出かけることになったらしい後で、リゾットとホルマジオが呼び出されて机に突っ伏して絶望したようにくだを巻く。

話をする前に酒を飲まずにはいられないとそこそこのワインのビンを開けていたのを見るに相当鬱憤が溜まっていたのだろう。

 

「あー、いや、何言ってんだ?お前にだって笑うだろ、あいつは?」

 

ホルマジオはそう言ってカラマーロの据わった眼で顔を上げてまるでそこらの小娘のように駄々をこねる。

 

「ちーがーうーの!そう言うんじゃないの、そういうんじゃ、なくて。」

とても、気楽そうに笑うの。

 

その場にいなかった二人にはその言葉の意味が分からない。ただ、飲み過ぎたなと考えてリゾットは水を汲みに立ち上がり、ホルマジオは慰めのために背中を撫でて言葉をかけてる。

 

「でもな!?この頃あいつも沈んでたし!気分転換みてえなもんだぞ!?お前だってポルポが笑ってくれて嬉しいだろ!?」

「・・・・・ばかみたいなはなしなの。」

 

ホルマジオのそれにカラマーロは机に突っ伏して、とても幼い声で嘆く。

 

「ねたましいの・・・」

ポルポに、幸せになってほしくて。何かを与えたくて。与えられてなくても、なんでもいいから何かをしてあげたいの。

 

「あのひとがのぞむのなら、どんなことだって。どんな、ひどいことでも、あのひとにだってできるのに。」

幸せそうに笑うあの人が、自分の埒外のところで笑っているのを見ているとね。

 

妬ましいのだと女が、遠い昔に少女だった存在がそう嘆く。それにホルマジオは、その陽気な性質からは思いも寄らないような、哀しそうな顔をしてカラマーロのことを抱きしめる。

それはいっそのこと、父親のようだった。それがどれだけの茶番劇のようか理解してなお、リゾットは無言でその場面を眺める。

ホルマジオとカラマーロはポルポについて何かを共有していて、それにリゾットは入ることは出来ないから。

 

「・・・・置いてかれたみたいで寂しいんだな。」

そう言ってホルマジオはカラマーロのことを慰めるように抱きしめていた。

 

 

リゾットはあの時のカラマーロの様子からしてホルマジオが放っておけずに自分が様子を見ていると言ったのだろうことは予想が付く。

そうして、次に壁に手を突いて本気で後悔しているらしいブチャラティを見た。

 

「俺が、俺が!ポルポとミスタを会わせなければ!」

「・・・・おい、ブチャラティ。」

「そんなに後悔しなくても。」

「あいつは、あの人は、人が良すぎるんだ!」

「ブチャラティ。お前も本当にどうした?別段、あいつが人を連れて出かけるなんて珍しくねえだろう?」

 

リゾットがそう言えば、今まで黙っていたナランチャが叫んだ。

 

「でも、ポルポ、俺と出かけるときは大抵スーツで、あんなにおしゃれしねーじゃん!ミスタのこと、やっぱりそーいう風に意識してるんじゃねえの!?」

「は?ポルポの趣味なわけないだろ!あいつは、年下は全員庇護対象なんだから!」

「・・・あいつが男に現を抜かすタイプかよ。」

「・・・・ものすごくタイプなのかも知れねえじゃん。」

「あれが?」

「あれがだよ!てめえに分かるかよ!男と会うための服を相談された俺たちの気持ちがよ!」

「なんでスーツで行けって言わないんだよ!」

「うるせえよ、スーツが好みに入ってたらどうするんだよ!?」

「どんな服装でもあいつの琴線に触れる可能性があるんだからな?」

 

メローネの叫びの後、ナランチャが苛立つように騒ぐ。

 

「なんだよ!黒髪が好みならブチャラティがいいじゃん!なんでブチャラティじゃないんだよ!ブチャラティならよかったんだ!」

「うるせえよ、だったらうちだってリゾットがいいに決まってるだろ!」

「でも、あれを選ぶって事は、ポルポってそこまで美形が好きじゃないってことか?」

「は、なんで?」

「顔がいいのがいいなら、すでに俺やプロシュートに手がついてないとおかしいだろ?」

「・・・・俺、メローネの顔がどれだけよくてもお前はやだ。」

「俺も。」

「おい、ナランチャ、どういうことだ?ギアッチョもどういう意味だ!?」

 

ナランチャのそれにギアッチョとメローネがぎゃんぎゃんと騒ぎ出す。スラングまみれの怒鳴り合いの横では、ブチャラティが恩人に手を出す不届き者を引き入れたと落ち込み、それを慰めるアバッキオとフーゴの姿がある。

いくら人気がないとは言え、目立ちすぎると考えて沈めようとしたリゾットだが、それよりも先にプロシュートが口を開く。

 

「・・・・いい加減にしろ、ガキ共。」

 

声量はないものの、その場にいる男たちを黙らせるには十分な、何か怒気が混じった声だった。

リゾットは今まで黙っていたプロシュートはどうやら冷静さはかいていないようだとほっとする。

プロシュートのそれに皆の視線が彼に向かう。

彼は据わった眼で、それこそギラつくような瞳で言った。

 

「・・・・いいか、男が女を誘うんだ。つまり、重要なのは。」

今日、キメるかどうか。それだけだ。

 

「プロシュート!!」

リゾットの怒声にプロシュートは苛立つように煙草をくわえる。

 

「てめえ、いい加減にしやがれ!あるわけないだろうが!」

「うるせえ!可能性は存在するんだぞ!?」

「らしくねえって言ってんだ!あいつがそんなゲスなことになるわけねえだろうが!」

 

リゾットの脳裏にはどんな色男に言い寄られようがのらりくらりと躱し、いっそのこと怯えさえする女のことを思い浮かべる。

元来、臆病な女は共に過ごす人間を限定している。カラマーロと、リゾットたち暗殺者チーム、そうしてブチャラティが引き込んだ構成員。

元々、組織内でも疎まれている女は自分に寄ってくる存在がそこまでよくないものと理解しているからか、側にいるものは限定しているのだ。

 

故に、リゾットは確信している。

仮にミスタという男がポルポにとって好ましい人間であったとして、そういった関係になるにはそれこそ年単位で身元を洗うだろう。

 

ただ、そこでリゾットは一つ、疑問が頭を擡げる。

彼女の信頼の根拠とは、なんだろうか?

 

カラマーロは分かる。

彼女はポルポが拾い、自ら育てた女だ。

プロシュートも理解は出来る。ホルマジオもそうだろう。

ただ、自分はどうなのだろうか?

 

ただ、彼女は会ったときから自分を気に入っている様子だった。逃がしてやるとさえ言われた。

それが琴線に触れたのだろうか?

 

わからない。そういう意味では、ブチャラティもそうだろう。何よりも、ブチャラティが拾ってきたとはいえ、二人きりで出かけるほどミスタという男を気に入ったのも疑問ではある。

 

彼女は他者をすべからく大事にする。それを愛と語っていいのか分からないけれど。

ただ、どんな人間でも、自分に縋ってきた人間に出来るだけのことをする。

裏切られてなお、それは最後まで他人の手を掴み続ける。そんな中、彼女の琴線に触れるのはなんなのか?

 

分からないと、そう言われればそうなのかもしれないが。

 

そんなことを考えていたリゾットの耳に突然ナランチャの叫び声が飛び込んできた。

 

「リゾットが悪いんだろ!?」

「は、何を言って・・・」

「リゾットがぼけっとしてるから、ポルポが愛想尽かして寝取られるんだ!」

「誰が寝取られただ!?」

 

リゾットは自分に飛んできた八つ当たり染みたそれにナランチャの頭を掴む。

 

「そーじゃん!リゾットがぼやぼやしてたから盗られたんだ!」

「てめえな!!ふざけたこと言ってんじゃねえぞ!?」

 

ホルマジオはその様子はなんというか、不意打ちの発言で思わず笑いそうになるのをこらえる。

ナランチャは最年少でありつつ、良くも悪くも幼い部分がある。そんな彼をポルポはいたく気に入っており可愛がっているのだ。

ナランチャは年頃のせいか、表立って甘えることはないが慕っており、よく彼女の家を訪れては食事をごちそうされてもいるのも知っている。

そんな中、ポルポと共にいる比率の高いリゾットにも懐いていることも知っているため、それが彼の甘えであることは何と無しに察している。

彼がポルポに対してどんな感情を抱えているのかは分からないが、堂々と女を寝取られた扱いされるのは確かに怒るだろう。

 

それはそれとして面白い。

リゾットをそこまで振り回せる奴なんていない。普段ならばメタリカの一つでもしているだろうが、別チームなことやら諸諸で直接的な叱り方に向かうリゾットは長い付き合いのホルマジオにはまあ面白いものにしか見えない。

 

自分の上司が男と出かけると言うだけでこれだけ騒ぐのは、まあ、偏に、だ。

自分が慕う存在が、ずっと年下の男に現を抜かすのはシンプルに嫌なのだろうなあとホルマジオは予想する。

 

年下と言っても十も年も離れていない。他のチームの男共なんて二十も年の離れた女を侍らしているものがいるというのに。

まあ、ホルマジオも嫌と言えば嫌だ。

 

もちろん、あの、幸せになることさえ放棄した怠惰で臆病な女が少しでも生きる気力が湧くのなら老人だろうが、幼児だろうが侍らせてもいいと思う。

まあ、それはそれとして、シンプルに嫌だと思う気持ちは存在する。

 

彼らの中にあるのは、たった一つ共有の感情だ。

“むかつく”!!!

 

ギアッチョもメローネもナランチャも、別段ポルポ自身に恋などしてはいないのだろう。ただ、ずっと自分たちを庇護してきた存在が突然現れた青二才に持って行かれるかも知れないという危機感を抱いているのだ。

当たり前に続く何かが突然断たれるかも知れないと言うことに動揺しているのだろう。

 

(ブチャラティもなあ・・・・)

 

あれはあれで妙なところでポルポを理想視している部分があるため、彼からすればポルポが変な男に引っかかったように見えて自分の責任を感じている部分が多いのだと考える。

 

プロシュートはといえば、まあカラマーロと同じ部分だろう。

自分では何も与えられないと、誰かが幸せを与えられるのならばと言いながら、どこかで自分がその役目を背負いたいと思う心が死んでいないという話で。

 

ホルマジオはどんな意図があるにせよ、間男扱いされているミスタという男に静かに合掌し、そうしてしょーがねえなあとため息を吐いたリゾットを止める。

 

「リゾット、おちつけよ、な?」

「ホルマジオ、どけ!そのガキのなめた口閉じさせてやる!」

「リゾットが寝取られた!!」

「おい!!!」

 

そんな彼らの騒ぎなど知らないポルポは人垣の向こうからやってくる青年に気づき、ゆっくりと立ち上がった。

 





「・・・・アクセサリー、も、つけたほうが?」
女ははてりと首を傾げる。

装飾品は苦手だ。着飾ることは好きではない。血に濡れた己には、黒い喪服こそがふさわしい。だから、華やかな格好は苦手で、アクセサリーなんて自ら買う事なんて興味も無い。その場にふさわしい大ぶりなものを義務的に買っただけで。

そこで目に付く。ささやかな、きっと、出かけるときに付けられそうなシンプルなネックレスと、イヤリング。
瞳と同じだという贈られた滴型の赤い宝石が着いたアクセサリーと、そうして、耳に穴が空いていないと知って贈られたイヤリング。

「・・・・・初めて付けるなあ。」

女はそうぼそりと呟いた。
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