そうして、答えが出せない人と、答えが出てるリゾット。
めっちゃ長くなった。ちなみに時間系列的に一番ジョルノが登場する時に近い話です。
後書きのSSは考えたけど、使わなさそうだったネタです。
誤字脱字などは感想での指摘はご遠慮くだされば幸いです。
感想いただけましたらうれしいです。
お題箱作ってみました、何かあれば
https://odaibako.net/u/fujineko56
お題箱にメッセージにくれた方、たぶん、この話だとは思うんですが、何についてのメッセージか書いてくださると嬉しいです。
下手をこいたかも知れないなあというのがグイード・ミスタの素直な感想だった。
本当に何も考えずに口から飛び出た、デートしてくれなんて言葉にブチャラティとカラマーロからあふれ出る殺気にやってしまったとぶわりと脂汗が流れ出した。
けれど、次にはそんな殺気は霧散した。
「ふ、ふふふふふふふふふ、あはははははははははははは・・・・・」
ミスタは一瞬、誰が一体笑っているのかわからなかった。床にへたり込んだ彼がそのまま声のする方を見れば、そこには口元に手を当ててけして大声ではないけれど女の様子からして大笑いしている女がいた。
ポルポは口元を隠すという幼い仕草をして、少しの間笑う。
ブチャラティとカラマーロは信じられないものを見るような目をしていた。
ポルポは一頻り笑うと、膝を抱えるようにその場にしゃがみ込みミスタの顔をのぞき込んだ。
「ふふふふ、ミスタ。私とデートしたいんですか?カラマーロではなく?」
そこにあるからかいの色に、ミスタは素直に答えた方がいいだろうかと思いつつ口を開いた。
「そりゃあ、あんな美人とだって是非ともしたいもんだが!今んとこ、俺はあんたとしたいね!」
「それは光栄ですね。でも、私、あなたよりもうんと年上なんですよね。」
「おいおい、年上だっていいもんだぜ?特に、あんたみたいなブルネットの、ルビーみたいな目で見られたら誰だってイチコロだぜ?」
それにポルポはくすくすと少女のように笑った。それにミスタは、ああと思う。
なんだ、疲れ切って、死人みたいな女だったけれど。
そうやって笑ってみせればなんだか可愛く見えた。
いいや、笑う女は大抵可愛いものだ。生粋のイタリアーノであるミスタはそう思う。
だから、何か、ミスタはその顔を見ているとほっとしてしまう。
「・・・・わかりました。デートしましょう。」
「・・・・マジ?」
「本気ではなかったので?」
「いいや、嬉しいぜ?望んだ女(ひと)を誘えたんだ。当たり前だろ?でも、なんでまた?」
ポルポはゆっくりと立ち上がり、そうして少し考えるように首を傾げた後静かに微笑んだ。
「口説いて貰うなんて久しぶりで嬉しかったので。」
それだけですよ、とポルポは笑った。
それにミスタは素直に可愛い女だなと思った。
そこから先は地獄だったけれど。
「・・・・どういう意図?」
「い、いいえ、そのお。ただ。」
「ただ?」
「お、落ち込んでるみたいだったので。その、元気づけられればなあって。」
ポルポが去った後、地べたに座りだらだらと床に視線を下げて上から襲いかかるカラマーロの殺気を受け止めた。
死ぬかと思った、いや、殺されると本気で思った。
殺気というものを知らないわけではないけれど、今までとは違うタイプの殺気に恐れ戦いた。
カラマーロはミスタが思い立って、深く考えずにやらかしたことを理解したのか、舌打ちを一つしてそのまま去って行った。
そうして、ブチャラティといえば。
「ミスタ。」
「お、おお。」
それはそれは深刻な顔で、顔をつきあわされて話を聞かれた。
「・・・・惚れたのか?」
「いや、ちげーよ!」
やたら深刻そうな顔をしていると思えばそんなことを聞かれた。それにブチャラティは思いっきり顔をしかめる。
「・・・・なにが気に入らねえ?」
「そーいう意味じゃねえよ!?沈んだ顔した女がいたら声をかけて笑わせてやりてえと思うだろ!?そんだけ!」
そんな話にブチャラティもまた一応は納得を。
「本当に、だな?」
「本当だって言っただろ!?」
したのだろう、一応、一応は。
そんなミスタであるが、ブチャラティはひどく深刻そうな顔で一言だけ付け加えた。
デートの件はもう諦めるが、ただ、フーゴと、特にナランチャには言うなよ。
その言葉の意味がミスタにはすぐにわかることになる。
まず、フーゴなのだが、この男は突然キレることがある。それはまあ、そういう奴もいるのだが、時折怒りがあふれる瞬間に行動できるとき、それはポルポの写真を取り出すのだ。そうして、彼女の顔を見るとその怒りが収まるのだ。
「え、なんでだよ?こええんだけど。」
「・・・・ぼくにだってわかりませんよ。ただ、あの人と会話して、あの人の顔を見ていると不思議と心が落ち着くんです。」
ミスタは思った。自分がポルポに惚れた腫れたを疑うぐらいならこの男を疑った方がいい気がすると。
ただ、確かにフーゴのそれは恋というには無垢すぎる部分があるのは納得だろう。
ただ、子どものように無邪気に慕っていることが手に取るように分かる程度には幼い顔をするのだ。
そうして、問題のナランチャというと。
「ミスタもポルポにあったのか?すげえだろ、ブチャラティと同じぐらいすげえよな!」
(あー、これは。)
ナランチャは一心にポルポを慕っているようで、それこそ、彼が懐いているというか慕っているらしいブチャラティと同レベルで大事にしているらしい。
ミスタは思った。
何をそこまで慕うのだろうと。
(・・・・普通の女だ。)
ミスタは隣だって歩く女を見た。
当たり前のように時間通りに来ていたらしいポルポに、ミスタはブチャラティに言われた通り時間厳守で動いて良かったとほっとする。
そのまま歩き出した彼らはこれから今、話題になっている映画を見るために歩き出した。
(・・・・護衛はついてるらしいけど。幹部なのにこんなに平然と歩いてていいのか?)
そんなことを考えはすれど、女の、平凡な見た目を見ていると納得も出来る。今でさえ、人混みに紛れ込めばミスタはそれを見つけることなんてできないだろう。
シンプルな服装であったが清潔感もあり、黒い、手入れのされた髪が風に揺れるのを見るのは悪くない。瞳と同じ色のアクセサリーたちも、彼女によく似合っている。
けれど、別段目を引くタイプではない。
きっと、道ですれ違えば姿を記憶することもないようなタイプだった。
(つーか、デートなんて言ったけど。普通に鉄板ネタしか用意してねえけど大丈夫か?)
そんなことを考えていたミスタにポルポが恐る恐る問いかける。
「・・・あの?」
「え、あ、な、なんです?」
「あ、口調は気にせずに。皆、砕けたものなので。ただ、その。服装、お気に召しませんでしたか?」
「え?」
ポルポは不安そうに自分の服装を見下ろす。
「・・・一応、あなたと年の変わらない子に不快ではない格好を相談したんですが。」
「え、え、あ!大丈夫っす!かわいいっよ!」
なんだその口調は。
テンパりながらミスタは己にそうツッコんだ。それにポルポは安堵したような顔をした後、やはり、口元を隠してくすくすと笑った。
それに、ミスタはやっぱり幼く笑うなあと思った。
けれど、それを不快には思わなかった。
ちゃんと、その人は、可愛いところがある普通の女なのだと感じられた。
「・・・よかった。お恥ずかしい話、デートなんてしたことないので。作法が間違えていないかとずっと不安で。」
作法なんて堅苦しい言葉を使うなあと思い、それがやっぱり育ちがいいのかなあと考える。
ポルポが数歩先に足を進めながらそんなことを言うものだからミスタは素直に驚いた声を上げた。
「え?まじ!?」
ポルポはそれに悪戯っぽい顔で頷く。
「ええ、マジです。」
「えー、本当かよ?」
ポルポは確かに人目は引かないが、穏やかなそうな雰囲気だとか、笑うと幼くなる顔だとか、十分に魅力的な人間に見えた。好きそうな奴は好きそうなのになあとミスタが思っているとポルポは肩をすくめた。
「両親が敬虔なクリスチャンで、そういうところは厳しかったので。後は、私も、学生の時は夢があってずっと勉強ばかりでしたので。幸い、皆、いじめるよりも無視することを選んでくれたので穏やかな生活でしたよ?」
「夢?」
ミスタの単純なオウム返しに彼女は控えめに微笑んだ。
「ええ、私、ルーツが日本にあるんです。なので、いつか、どんな形でも日本に渡って。出来れば永住できるようになりたくて。そのために勉強ばかりしていたんです。」
それにミスタはなるほどと納得した。
なんでもあちらの国の女性は非常に大人しくてしとやからしい。
(なんだっけ、やまと。なでしこ?)
そう言われればポルポのイタリアーノらしくない在り方にも納得が出来た。
「まあ、色々あって。こんな形に落ち着いたので。その夢も難しくなってしまいましたが。」
それでも、時折、旅行ぐらいはしているんですよ。
それにミスタはなにかもの悲しくなって地面に視線を向けた。当たり前の話で、組織の幹部が他国に住むのは色々と難しいのだろう。仕方がない話だ。
けれど。
ミスタはちらりと、女を見た。
ルーツがある、ある意味で、故郷で暮らしたいという素朴な願いが叶えられないことがとてももの悲しく思えて仕方がなかった。
(・・・・なんか、やっぱし。)
映画館の暗がりで、ミスタは隣に座ってシアターに映しだされる映像にはらはらとした顔をする女の様子をうかがう。
そうして、ちらりと女の腹の辺り、ちょうど前の席で影になっている部分から伸びる手を見てミスタは微妙な顔をする。
「それ、食えるの?」
「え、あ、残さないので大丈夫ですよ!」
映画館に入る前に売店ポップコーンを買ったのだが、ポルポが頼んだのは特大サイズだった。ミスタは本人の意思を尊重したが、その細い体のどこに入るのかと思ったが。
その映画館の中でミスタは理由を覚る。
(見た瞬間、叫ばなかった自分を褒めてやりてえ・・・)
ポルポのスタンドがまるで意思があるようにはっきりとした人格があるのは知っていた。事実、初めて会ったときに脅かされたこともある。
(スタンドって、飯食うんだ・・・・)
しげしげとそんなことを考えつつ、ミスタはやっぱり映画ではなくてポルポのことを見つめる。映画は話題のスパイ映画で、ほどよくアクションと恋愛も含まれたものだ。ミスタも一度見たことがあり、面白かったとポルポを誘ったのだ。
それを見て、やっぱりどこにでもいるような女であるなあと思った。
「この人数の野郎で映画か・・・」
「恋愛映画じゃないだけましだろ。」
「チケット代は?」
「ホルマジオ。ポップコーン買ってくれよ!」
「しょーがねえな。カラマーロから軍資金もらってっから全員分だしてやるよぉ」
「なあ、リゾットの分ってどうするんだ?」
「透明化してるからいいだろ。」
「面白かったですねえ。」
ポルポはとても楽しそうに言って記念に買ったパンフレットを腕に抱えて目をキラキラさせている。
「だろ?楽しんで貰えてよかったぜ。」
「はい、楽しかったです!アクションが特にすごくて!あの俳優さん、すごいですね。出演作品調べてみようかな。」
弾んだ調子でそう言った彼女はパンフレットを見つめてそう言った。
「ああいう作品なら、ギアッチョやメローネも好きかなあ。きっと、ナランチャも。」
きっと、気に入る。
それは親しい誰かへの言葉なのだろうと思った。前者の二人の名前は聞き覚えはないが、ナランチャはわかる。彼女はあの少年のことを可愛がっているのは知っていた。
親しい誰かに、気に入ったものを紹介する。よくある話だ。
なのに、何故だろうか。
その声はどこか苦々しいものに聞こえた。
「ナア、ポルポ!コッチモタベタイ!」
「はい、皆さんの分も取り分けますからね。」
ミスタは目の前の光景を微妙な気分で見つめる。
何せ、目の前ではミスタのスタンドが散々にポルポに懐き果てているのだ。
ポルポとのデートというのは楽しかった。基本的に彼女は人の話を聞くのが好きであるらしく、ミスタがどんなくだらない話をしてもにこにこと笑い聞き入ってくれる。
ブチャラティに厳命されて、それ相応に話題を選びはしてもだ。
どこの店がいいだとか、気に入っている散歩のコースだとか。
本当にくだらない話だったのに。
ポルポはそれをまるでミスタの宝物の話を聞くように嬉しそうに聞いてくれる。
(あー、ちょっと、わかったかも。)
ミスタは女のことを大事にしたがる人間の気持ちが少し、分かるような気がした。
「・・・本当にスタンド?つーか、ピストルズって飯食っていいのか?」
そんなことを考えながらミスタは思わずそう言った。目の前にはセックスピストルズに懐かれているポルポの姿があった。
彼らは今、ミスタがよく利用している店に食事にやってきていた。言われていた通り、個室のような、人目を避けたスペースでよかったと思う。
ピストルズはポルポの肩だとか、頭の上だとか。本当に懐いているものなんてポルポの長い髪に埋もれているものさえいた。
そんな彼らにポルポは運ばれてきた料理を器用なことに均等に分けて食べさせている。
それというのも、席に着き、料理が運ばれてくるとポルポは当たり前のようにブラックサバスにも食事をさせ始めたのだ。
それにはミスタも驚いたが、セックスピストルズも反応したのだ。
食事なんてできるのか、などとブラックサバスの周りをうろつき始めるとポルポが彼らに食べてみるかと問いかけたのだ。
ミスタは少しだけ恐ろしかったがピストルズが五月蠅かったので少しぐらいはと許可した。
一口サイズの量を分けて、皿の端に盛り付ければ彼らはそれを手づかみで食べ始める。
ウマイー!とはしゃいだ声を出す彼らをポルポは優しそうな顔で見つめ、彼らの顔だとかとナプキンでそっと拭ってやるのを見るとまるで母親のようだった。
「私のブラックサバスも、食事はしますし。飲酒もしますが、特に何も問題はないですよ。」
「げえ、あいつ酒も飲むのか!?」
「ええ、舌が肥えてしまって大変なんですよ?」
くすくすと、やはり女は幼い少女のようにささやかな笑い声を上げる。ミスタはそれに幼いなと思うと同時に、その瞳は生き疲れた老人のように暗い。
アンバランスさがミスタにとっては不思議で。
「ただ、食事をするスタンドは珍しいですね。今のところ、私もサバスか。それともこの子たちぐらいですね。」
「メズラシイノカー?」
「ええ、珍しいですね。」
ポルポのそれにピストルズとはきゃっきゃとはしゃいだ声を上げる。
それを見ていたミスタが呆れたような顔をした。
「そいつらとか、スタンドに食わせるのもいいけどよ。あんた、自分の分も食べろよな。」
「あ、ああ、食べてますよ!食べてますから!」
そう言って彼女は食事を口にした。小さな口でもぐもぐと食べる。その仕草はやはり幼い。
「旨いか?」
「はい!私も通いたいぐらいですね。特に、このサラダのソース、レシピが知りたいぐらいですね・・」
うーんと考え込むような仕草をしているのを見てミスタは問いかける。
「レシピ?」
「ええ。料理が趣味のようなもので。親しい人に食べて貰ってるんですが。」
そう言って嬉しそうに笑うのを見るに、それが本心であるのだろうなあと感じた。
「にしても、ここのピッツァ、本当においしい。ブチャラティや、アバッキオも好きそう。ああ、そうだ。ホルマジオやプロシュートも。」
にこにこと、それは、そう語る。語るのに、やっぱり、その目はどこか後ろめたそうに床を滑っていた。
「いい眺めですねえ。」
ポルポは目の前の光景を見つめる。そこは人気のない公園のような場所で、高台になっており町の景色がよく見えた。
二人は公園の端の、転落防止用の柵の前に立っていた。
時間は丁度夕方間近で、そろそろ日が暮れ始めるだろう時だった。
空の向こうが、茜色に染まるのが見えた。
そんな中、ミスタはじっとやっぱりポルポのことを見つめて。そうして、口を開いた。
「なあ、ポルポ。最後に聞いていいか?」
「はい、なんでしょうか?」
そう言ってポルポはやっぱり少女のように素直に笑みを浮かべる。今日が本当に楽しくて、今日が終わることが名残惜しそうな、そんな笑み。
それを見つめて、ミスタは素直に問いを口にした。
「なんだっけ、リゾットって奴のこと、好きか?」
それにポルポは一瞬不思議そうな顔をした後、申し訳なさそうな顔をした。
「ああ、すみません。せっかくのデートなんですから、他の方の名前は確かにマナー違反ですね。」
「別にいいぜ。まあ、建前みてえなもんだし。それよりよ、質問に答えてくれよ。」
それにポルポは困ったような顔をして、そうして顔を前に向ける。夕暮れが、もうすぐ夜が来るとゆっくりと眠るために沈んでいく。
「はい、気高い人です。気高く、強い人で。だから、好きですよ。」
「そうかあ。」
ミスタはそう頷いた後、もう一つの問いをするか一瞬迷う。それはきっと、目の前の柔い女を傷つけるのだろうと確信があって。
けれど、ミスタは口にした。
「なら、俺のことは嫌い?」
それにポルポは何を言われているのか分からないというような顔をした。ミスタはそれを気にせずに、柵に背中を向けてもたれかかる。
そうして、人気のない。茜色に染まる石畳で覆われた地面を見つめる。
「ブチャラティのことも、アバッキオのことも。ナランチャのことも。ええっと、ギアッチョにメローネに、ホルマジオだっけ?あと、カラマーロさんに、クララって子のことも。」
「なんで・・・」
ミスタはそれにポルポのことを見た。彼女は茫然と、とてもひどいことを言われたかのような顔をして。
生き疲れたようなあの瞳をあらん限り見開いて、口元をわななかせていた。
「なんで、そんなことを・・・」
その言葉にミスタはまるで幼い子どもが泣くのを見つめるような気分になってしまった。なってしまったけれど、それでも口を開く。
「だって、あんたさ。ずっと、ずっと、そうだっただろう?」
俺たちの話をするたびに死にそうな顔をしてるじゃないか?
それにポルポは茫然としたような顔をする。迷子の子どものように心もとない顔をして。
ミスタはその女が例えば、ナランチャだとか、話に出てくる人間達を大事にしていることを疑っていたわけではない。
彼女は今日の道行きで、何かにくれて誰かの話をした。
この味はあの子が好きそうだ。
こんなところにこんな店があった。今度連れてきてあげようか。
これはあの子が好きだそうだから、買っていってあげようか。
それは、例えば、ミスタの知らない誰かの名前もあったし、明らかに幼い子どもが好きそうなものまであった。
だから、彼女の中には、大事にしたいと願う人間が多くいるのだなあとミスタは思った。
それが善人を気取るパフォーマンスだとは思わなかった。明らかに手間暇が掛かりすぎて。その地位には見合わないことも多すぎる。
何よりも、だ。
その女は本当にそんな話を心底嬉しそうな顔で語るから。きっとそうなのだろうとミスタは信じられた。
ギャングがそんなことをすることを愚かしいというか、馬鹿馬鹿しいとは思わなかった。
何せ、彼女は超能力を発現させられるのだ。その体験者であるミスタにだってそれがどれだけの能力かわかる。
ギャングになっても、自由に動き、部下を持たせて貰える程度に自由にさせて貰えるだけ幸運な方だろう。それが女にとってはどれだけ不幸でも。
だから、ずっと疑問だった。
嬉しそうに語って、楽しそうに何かをしてやろうと笑うその中で、その瞳にはずっと苦々しい何かが揺れていることにミスタは気づいていたものだから。
それを素直に口にしてしまったのは、偏に、なんだろうか?
ただ、そうした方がいいという直感故だった。それが正しいと、漠然と思ったのだ。
ポルポはぐっと視線を地面に滑らせて、そうしてはくはくと、口を幾度も開けて、そうしてささやかな声で呟いた。
「・・・・リゾットのことは、リゾットのことは、もちろん、好きです。彼のことは、彼のことは、好きで。」
彼のことは考えても、苦しくないから。
だから、そう見えたのだとポルポは言った。
「なんだよ、俺たちのことは、他の奴らのことは考えたくないのか?」
からかうような口調でミスタは柵によりかかってにかりと笑ってやった。それに彼女はやはり、傷ついたような顔をして、けれど、問われたことに誤魔化しが効かないと覚ったのか。
それは、ぎちりと自分自身の片腕の手首を強く握った。
「・・・・だって、どんな顔をすればいいんですか。」
己自身で、地獄に招き入れた子どもたちを。
「どんな顔で、どんな感情で、どうしてやればいいんですか?」
泣き笑いのような顔で女はそう言った。
「・・・・ずっと、ずっと、考えるんです。もっと、出来たことがあるんじゃないかって。」
今にも崩れ落ちそうな中、ポルポは縋るような柵を掴んで街に視線を向けていた。
「命を助けて、それで、どうしたんですか?血と、臓物と、肉片と、骨の広がる地獄を無理矢理引きずるようなものなのに。私が、もっと、別の選択をしていれば。生きながらえた先に地獄を歩き続ける旅に彼らを無理矢理引き入れてしまった。」
私は、とても、罪深い。
女は泣いてはいなかった。ただ、茫然と涙を流さず、声を荒げず。
けれど、まるで、血反吐を吐くような壮絶な声でそう言い捨てた。
「カラマーロを拾わなければ、プロシュートは私に関わらなくて良かった。ホルマジオも、ギアッチョも、メローネも、みんな!ブチャラティを、もっと、強く突き放していれば。そうしたら、ナランチャも、アバッキオも、フーゴも!」
誰が地獄の道連れなんて望むでしょうか?
見開かれた赤い瞳。それはまるで、そこに己の罪があるとでも言うように街を赤に染める夕日を見つめて。
それにミスタは目を見開き、叫ぶように、いいや、叫ぶ力も出ずに掠れた声で言った。
「ポルポォ、お前は、ひどい女だな。」
お前がそんなことを言うのかと、ミスタはがりがりと頭をひっかいた。
ああ、そうかと。
ミスタはわかった。何故、自分がこんなことを聞いたのか。幹部なんて末恐ろしい立場の女にこんなことを、まあ無礼なんてすでに重ねているけれど、問うたのか。
女はずっと、ミスタのことも、他の誰かのことも、ずっと哀れんでいたから。
それがミスタは嫌だったのだ。
不快だとか、そんな話でもなく、ただ漠然とやめてくれと思った。
それだけの話だった。
「・・・・あんたがそんなことを感じる必要なんてないだろう。そういう運命だったんだ。」
「“運命”!?運命だと、そんなことを言うんですか!?」
初めて声を荒げたポルポはミスタの方に顔を向けた。
「なら、なら、今の不幸は全部、全部、誰かが勝手に決めたことなんですか!?そんなのひどいじゃないですか!不幸も、幸福も、全部誰かの決めたことなら、私たちの人生は何だったんですか?誰かを助けたかったことも、誰かを憎んだことも、全部、全部、そんなの。」
それこそ、ひどい話じゃないですか?
嘆く、苦しむ、のたうち回って女は苦悩する。それにミスタは更に問いかけた。
「ならよ、ポルポ。あんたが自分の選択で今、ここにあるっていうならよ。」
それなら、この地獄に足を踏み入れたのだって俺たち自身が、あいつら自身が決めたことだって。あんたは分かってるんだろう?
ざああと風が吹いた。長いポルポの髪をそれは優しく梳る。梳って、そのはためくような髪の合間から女の顔が見えた。
それにポルポは、ポルポは、その表情を何と言えばいいのだろうか。
目を見開いて、じっと、全てを赤に染める夕日を見つめて。
それは、例えば、ミスタの分かる範囲で言うのならば。
まるでなくしたとばかり思い込んで、どうしたものかと悩んでいる最中に、そのなくし物が部屋の机の上に鎮座しているのを見つけたときのような、そんな顔。
「なあ、ポルポ。」
「わたし、は・・・・」
「俺さ、あんたのこと、デートに誘ったけどよ。まあ、それはあんたがしけた顔をしてたってのもある。あるけどよ、俺はあんたに見せたかったんだ。俺は哀れまれるような、可哀想な奴じゃないんだって。」
ポルポはそれにあらん限りの力で柵を握りしめて、そうして、視線を下に向ける。長い髪のせいで顔は見えない。
「でも、それでも、誰が望むんですか。人を殺して、死肉を踏みつけて、折れる骨の感触を感じながら歩いて。その果てにあるのは、空しい死だけなのに。」
ああ、泣いているのだなとミスタは思って。けれど、そんな言葉を聞いて馬鹿らしくなってしまって。
「どんなに善良に生きたって死ぬときは死ぬのに?」
「それでも、それでも、と。思うのは間違っているんですか?」
幼い子どもが、いいや、ずっと、善良さを、愛を、誠実さを、正しさを、理性を、捨てきれない女のそれにミスタはそっとポルポに近づいた。顔を下げた女の顔を、女としては背の高い、のぞき込む。
「なあ、ポルポ。俺を見ろよ。」
それに彼女はそっと視線を揚げた。泣いてはいなかった。ただ、そこには今にもどこかに駆けて行ってしまいそうな、そんなすり切れた心が鎮座していた。
ミスタはそれに道化師のように両手を広げてみせた。
「俺を見てみろよ!レイプされそうな女のことを助けて、まあ、撃ち殺しちまったのは悪かったけどよ。そのオチは監獄で、おまけに助けた女にも逃げられた!間抜けだろう?でも、それだけじゃなかった。」
それだけじゃ、なかったはずだ。
ミスタは目の前で暗い顔で、生き疲れた瞳で、茜色に染まった顔で、佇む女に言った。
「神ってのはいる。行き着くところに行き着けた。あの時、人を殺したことも、女を助けたことも、俺には必要なことだった。俺はここに来ることは正しかったんだ。」
「・・・違う、本当に正しいのなら。正しかったのなら。あなたは英雄になるはずだった。命をかけて、正しさを選んで。ならば、あなたは!」
「何言ってんだ。ポルポ。」
おとぎ話の中でもあるまいし。
それに女の目から、とうとう、涙が、あふれ出して。
ミスタはそれに堪らなくなって。女の首に片腕を回して、こめかみ同士をこすり合わせるように抱きしめた。
「なあ、そうだ。おとぎ話の中じゃねえんだ。正しかったことを選んだとしても、いい結果がくることなんてねえんだよ。そういうもんだ。どんだけいい奴だとしても、惨めに死ぬ奴なんて大勢いる。ならよ、地獄に墜ちるような悪党になったとして。」
誰かと飯食って、信じられる奴らに囲まれて生きることは間違ってねえと思うんだ。
おとぎ話なんて単語が咄嗟に出たのは、きっと皮肉で。けれど、それと同時に、女のことを傷つけないために柔らかい言葉を使いたいという思いで。
矛盾している。矛盾している。それでも、ミスタは女から体を離した。もう、女の涙は止まっていて。
けれど、あの、茫然とした、目を見開いて、裏切られた子どものような顔をしていて。
だから、ミスタは言いたかったことを言った。
もう、女がなにを思っているのか分かった彼には、自分はこれからどうしていくのかと告げることしか出来ないのだ。出来ないから、コレは、精一杯の優しい女への、自分の正しさを信じていたらしい純粋な生き物への誠実さだろう。
「なあ、ここが地獄だとして。俺たちはどーせ、どこにもいけねえんだ。俺は引き金をとっくに引いちまった。他の奴らも似たようなもんだろう?なあ、ろくでもないとあんたはいうけどよ。他の奴らを見誤ってるんだ。俺たちはな、そりゃあ、必ずとは言わねえけど。ちゃんと、居心地が良くて、ろくでもない中で一番いい場所を選んで生きてるんだ。」
ろくでなしたちが、ここで生きたいと願って、あんたの側を選んでるんだ。
両手を広げて、おどけるように笑って、ミスタは力尽きたように笑みを浮かべた。
「なあ、ポルポ。例え、お前の側が地獄だとして。そうだとして。」
そこで幸せだと感じて、ここにいたいと願って生きていくのは惨めなのか?
「あ・・・・・」
気づいてしまったような、何かを理解してしまったかのような顔で。ポルポは怖れるようにミスタから一歩、足を引いた。
「それでも俺たちはとっくにたどり着いちまったんだ。あんたのそれはよ、まるで、まるで。」
これからずっと俺たちが不幸なままで居続けなくちゃいけないって言ってるようなもんだから。
だからと、ミスタはなにかひどくもの悲しい気分になって、彼にはして珍しく苦笑を浮かべた。
ポルポは目を見開いて、ああ、とか細い声を口から漏らして。
ああ、どうしようもないのだと、ミスタは女を唯見つめる。
それしか、できないから。
「なあ、だからさ、ポルポ。俺たちのことを勝手に可哀想なんて思うなよ。」
言葉が、女に突き刺さるのが分かった。それでも言わねばならないことだから。
ミスタは女にそう言った。
崩れ落ちそうに柵を掴んだポルポの体を支えようとしたとき。
ミスタは殺気を感じる。
とっさに反撃をするために構えようとしたミスタの体に衝撃が走り、そうして、ポルポの悲鳴が響き渡った。
そうして、少し遡ってポルポの後をせっせとつけ回していた野郎たちは慌てていた。
「なんでだよ、ブラックサバス!!」
ぎゃんぎゃんと騒ぐナランチャに少し離れた影の中に佇むブラックサバスが首を振る。
それに野郎たち同様にブラックサバスに邪魔されてポルポたちに近づけないリゾットは頭を抱えていた。
「どーするよ?」
「・・・・あの広場にいけるのはこちらの方向からだけだ。ここを固めていれば済むだろうが。にしても、ポルポが持ってた鏡もブラックサバスが持ってるみてえだし。何がしてえんだ?」
ホルマジオとリゾットがそんな会話をしている中、突然、メローネが叫ぶ。
「まさか!!」
「どうした、メローネ!」
ブチャラティのそれにメローネは口元をわななかせて叫んだ。
「いいか、スタンドは精神の力だ!ブラックサバスは、そう言った意味では人格がハッキリしている!だが!ブラックサバスもポルポに繋がっているとしたら!」
ポルポはミスタとの逢瀬を邪魔されたくないという心の表れでは!?
「「「な、なにいいいいいいい!!!」」」
リゾットはそれに頭を抱え、正気を保っているだろう数人とホルマジオがどうするよこれ、という顔で見つめる。
「・・・・まあ、別にそれはそれでいいんじゃねえかね?」
「ポルポに男が出来るのが?」
「あいつが誰にも手を付けないのを聞いて、あいつの金目当てに近づく馬鹿は多いだろ?誰かしらに手を付けたって話が出回ればそういうのも少なくなるんじゃね?」
「ああ、それは、まあそうだな。」
平然とそんな風に頷く男にホルマジオはからかい混じりに言った。
「リゾットは動揺しねえの?」
「何故だ?」
「だってよ、ミスタって野郎のことポルポも気に入ってたみてえだし?」
それにリゾットは当然、という顔で答えた。
「まあ、あいつにも男が出来るかも知れねえが。ミスタって奴はありえねえだろ。」
「へえ、なんで?」
「あいつがそこまで気に入った人間が出来たなら、俺に報告してこないわけがないだろう?」
その言葉にホルマジオとアバッキオ、そうしてフーゴはとんでもなくなんとも言えない顔をする。
「・・・ホルマジオよ。」
「いやあ、まあ、これはポルポも悪いっつうか。」
「でも、色々どうなんですか?」
ホルマジオとしては、なんというか、娘に好かれていると信じて疑わない父親というか兄貴を見ている気分だった。
あのね、女の子っていつかお嫁に行くのよ。
そんなことを考えていた時、ブラックサバスが消えた。それと同時に、その場にいた奴ら全員が飛び出したのだ。
「え?え?え?え?」
ポルポはミスタが目の前でギアッチョとナランチャに関節技をかけられているのを茫然と見つめる。そうして、そんなミスタの襟首を掴んでブチャラティまで揺すぶっている。メローネもミスタに顔を近づけている。
「ミスタ、ミスタ!ポルポになんにもしてねえだろうな!?」
「あ、んな、い、いででででででで!?」
「てめえよぉ、まじで、なんにもしてねえだろうなああああああああ!?」
「まさか、幹部にそんなねええええええええ!?」
「なんにも、して、つーか離せやああああああああ!?」
ポルポはなんとか止めようとするが、現在目の前で何が起こっているのか分からずに右往左往する。
「・・・ポルポ。」
「あ、え。あ!リ、リゾット!あの!あれ!?」
いつの間にかポルポの側にいたリゾットは彼女に普段から着ている大きめのコートを肩にかける。
そうして、ホルマジオとアバッキオ、そうしてフーゴが近づいてくる。
「あ、あ、あの、あれ!あれ!」
「ああ、まあ。」
「仕方がねえんだ。」
「必要な犠牲というか。」
目の前でオロオロとするポルポのことをリゾットは素早く確認する。
(身体に異常は、ねえな。)
任務を遂行しながら、リゾットはそろそろ切り上げる時間だと、この、目の前の馬鹿騒ぎを止めさせる方法と、ポルポをどうやって落ち着かせるのか考える。
ポルポは茫然とミスタたちのことを見つめた後、そうして、何かをこらえるような顔をした後、何故かけらけらと笑い始めた。
「ふ、ふふふふふふふふふふふふ、あはははははははははははははははは!」
リゾットは口元に手を当てて、感情の発露のような笑い声をあげるポルポを物珍しく見つめる。
昔はよく見たが、この頃はすることのなかった笑い方だった。
ポルポはといえば、散々に訪れた緊張の後に突然の乱痴気騒ぎに何かが振り切れてしまって笑ってしまった。
その場にいた人間達もポルポのそれに驚いた顔をする。彼女は散々に笑った後、何故か、やっぱりいつも通りもの悲しい顔をして。
そうして、彼女はミスタに歩み寄った。そうして、彼と視線を合わせるように屈み込んだ。
「ミスタ、今日はありがとうございます。」
「お、おう。」
「久しぶりに、楽しかったですよ。」
彼女はそう笑って、そうして立ち上がる。
「なんだか良い気分なので、ご飯に行きましょう!もちろん、私のおごりで!」
珍しく、ハツラツとポルポがそう言って。
何か、とても楽しそうに笑うから。
皆が皆、何か、今まで散々に騒いでいたことなんて忘れてしまう。
うんと、誰かが言った。うんと、なんだか嬉しくなってうんと頷いた。
久しぶりに、優しい人が笑ってくれたことが嬉しくてそれだけしか答えられなかった。
「ところで、みんなここにいるんですか?今日の護衛ってリゾットとイル-ゾォだけでしたよね?」
「まあ、偶然な。」
「そうですか。そういえば、皆さん、今日は雰囲気が違う服を着てますね?」
「・・・・仕事の時と同じ格好してるわけねえだろう。」
「それは、そうですね?」
リゾットはその日の夜、ポルポを連れて道を歩いていた。
本来なら車を回すべきなのだが、ポルポが歩いて帰りたいと言ったためだ。
リゾットの中で危険だとか、安全だとかの天秤は振れるが。時間は夜だ。
それはブラックサバスの領域で、そうして同時にポルポの領域である。
その地域のことはそれこそ隅から隅まで頭に入れている。
何よりも、その日はせっかくポルポの気分が上向いているため邪魔したくなかった。
(今日は珍しく、よく食べたしな・・・)
珍しく多く食事を平らげたポルポへのご褒美という面もあった。隣では大きめのコートを肩にかけたポルポが歩いている。そうして、路地裏だとか、どこかしらの暗がりからブラックサバスの笑い声が聞こえてくる。
そんなことを考えていた時、ポルポがぴたりと歩くのを止めた。
それにリゾットも同じように立ち上り、そうして振り向いた。
どうしたと、そう、問いかけようとした。けれど、それよりも先にポルポが口を開いた。
――――。
それにリゾットは目を見開いた。それは、すでにリゾットが捨てて久しい彼の本当の名前だった。
ポルポは視線を地面に降ろしたまま、とても、幼い声で、言葉を重ねた。
「・・・あなたは、後悔していませんか。」
「何をだ?」
「全て、全部、今までを。」
リゾットはじっとポルポを見つめた。そうして、彼らは周りを見回し、そうして丁度近くに置かれたベンチを見つめる。
「ポルポ。」
名前を呼んでもポルポは黙り込んだままだ。それに彼はそっと彼女の手を引いて歩き出した。
リゾットはポルポをベンチに座らせ、そうして彼女と視線を合わせるためにその目の前に膝を突いた。
大柄な体を屈めて、座らせた女の顔を不躾にのぞき込む。
暗い顔をしていた。先ほどの、皆で騒いでいた時の、楽しそうな顔なんて忘れてしまったかのようだった。
どうしたと、それは聞かなかった。
女はリゾットからすれば妙なところで傷ついて、変なところで苦しんで。
そうして、リゾットが大事にしたいものたちを、同じように大事にしてくれたから。
だから、そんなポルポの様子を煩わしいと思うことはなかった。
後悔をしていないか。
女はそう問うた。だから、それにリゾットは素直に答えた。
「・・・・後悔、していないわけじゃない。」
静かな声にポルポはゆっくりと顔を上げた。赤い瞳だ。
自分と似ているようで違う。
夜に生きる自分たちのようなものを焼かない、けれど、明るさを帯びた、茜色。
ポルポはそんな返事なんて知っているというような、そんな顔で口元を噛みしめていた。リゾットは口が切れるだろうと、指でそれを止めさせた。
「だが、間違っていなかったと思う。」
ポルポは、それに、それにやっぱり何も言わなかった。何も言わずに、眉間にしわを寄せて、顔を強ばらせたまま。
「俺は後悔している。あの日、あの時、あの子の元に駆けつけてやれなかったことを。もっと、あの日、俺が違うことをしていれば。違う結末があったのかもしれないと。」
それだけを後悔している。
「・・・・違うでしょう。」
ポルポは口を開いた。それにリゾットは特別な感情を見せることなくポルポの言葉を聞いた。
「あなたは、もっと、後悔していいことがあったはずだ。それは、あなたのそれは、大前提で。でも、それでも。あの日、私に最初に会った時に、メタリカを得る前に。あなたは逃げられたのに。逃がしてあげられたのに。なのに、あなたは・・・」
「何故だ?」
それでも、俺やあいつらはそうして。
「お前に会えた。」
ポルポはそれに何か、こらえきれないというような、そんな顔をしてぼたぼたと涙をこぼした。赤い瞳から、透明なそれが流れ落ちていく。
「どうして?どうして、そんなことが言えるんですか?私に会えて、それで、いったい何が。何も、なんだって。」
それにリゾットはそっと女の頬を両手で覆った。小さな頭はリゾットの大きな手にすっぽりと収まってしまう。
ポルポはそれを嫌がらず、無意識なのかその手に自分の手のひらを重ねる。涙を流してリゾットを見つめる。
まろく、柔らかい、真っ白な頬は自分の荒れた指先で傷が付いてしまいそうだった。
「お前はずっと、俺のなしたことを否定しなかった。愚かだと一喝することも、上手くやれずに故郷を追われたことを呆れることもなかった。もう二度と出来ない、故郷を出たときに諦めた居場所を与えてくれた。なら、どうして、そんなことが言える?」
リゾットは自分の、この末路に納得している。それでも、こうなるにはこうなる理由が自分にはあった。
その女はずっと、リゾットのなした凶行を否定しなかった、幼いあの子の死を足蹴にしなかった。
それだけで十分だった。
「何故、そんなことを聞く?」
「・・・・私は、否定したくなかった。もっと上手くやれたかもしれないって。もっと、上手くすれば誰のことも巻き込まなかったって。でも、違うと言われた。皆が、望んだ場所にいると。でも、こんな地獄で幸せになって欲しくなかった。なかったのに。」
後悔しているって思ってた。だから、聞いてみたかった。
「聞いて、どうしたかった?」
「わからない。わからないんです、リゾット。」
嘆く子どもを眺める気分になった。そうしてあやすように指先で女の顔を撫でてやる。それにポルポは少しだけ安堵したように体から力を抜いた。
「なあ、ポルポ。お前は俺の手が好きだな。」
ふと、リゾットは泣いている女にそう言った。ただ、なんとなく、ずっと思っていたことを口にした。
それはリゾットが触れるとほっとした顔をした。
頭を撫でたり、幼い子どもにすることだと分かってもそうしてしまうのは、きっと臆病な女が安堵すると分かったからだろう。
それにポルポは涙混じりの声で答える。
「・・・あなたの手は、戦った者の手だから。いつかに、理不尽に奪われて、尊厳を踏みにじられた誰かのために戦った手だから。だから、あなたが、あなたの手は、好きです。」
少しだけ、ほんの少しだけでも、勇気が出るから。
戦士の手だと、例え血に濡れて、人を殺した手だとしても。
「立ち上がって、歩き出す、勇気が貰える手だから。」
その言葉にリゾットは淡く笑った。
リゾットは、多分と、とても曖昧な熱を帯びた目で女を見つめる。
リゾットは、目の前の女のことが好きなのだと思う。
それは例えば、親愛というには歪で、友愛というには近すぎて、敬愛というには忠誠が足りず、性愛にしては潔癖すぎて、恋愛と言うには無垢すぎた。
ただ、一歩足りない。一歩が足りればきっとどれにだってなれるだろう。けれど、どれも足りない。ただ、リゾットはその女のことが好きなのだ。
あの日の、何の正しさもなく、怒りによって構築された殺害を、女はリゾットの戦いだったと言ってくれる。
死に果て、尊厳を奪われたあの子のための戦いだったのだと。
リゾットを戦士だったと鷹揚に言ってくれる。
ただ、それはどこまでも女にとって事実なのだ。都合の良い存在に仕立て上げたというならばそうだろう。
けれど、誰かが立って、歩き出す理由になったことがリゾットには素直に嬉しくて。
それは例えば、道を歩いていたとき、転んだ子どもがすりむいて血を流す足を引きずって歩き出したのを見た時の感情に似ていた。
いじらしいと、そう、思うような心。
ポルポが何故そんなことを聞いたのか分からなかったけれど。
リゾットは答えを返すだけだった。それを女が望んでいるから。
「なあ、ポルポ。」
「・・・・・はい。」
「俺は、いつかに死ぬだろう。」
「・・・・・・・・はい。」
「どこかはわからん。任務か、抗争か。それとも病気だとかかもしれない。イタリアで死ぬのか、違う国でも死ぬかもわからない。お前の側か、それとも、遠い場所で死ぬかもしれない。ただ、一つだけ言えることがある。」
その死は、お前のためだろう。
ポルポは言葉を失って、余計に、ぼたぼたと涙をこぼして、そうして幼い子どものようにリゾットの首に抱きついた。
「・・・やだ。」
死なないで、リゾット。
幼い子どものように、ポルポは泣きじゃくりながらリゾットに縋り付く。首元に温かな水が垂れていくのが分かる。
「なら、ポルポ。お前も誓え。死なないと。」
「むりだよ、むりだよぉ・・・・」
「だめだ、命を望むなら、お前も命をかけるんだ。」
厳しい言葉だった。けれど、リゾットだって同じ気持ちだった。幹部のポルポと自分の命は等価ではない。けれど、自分よりも命の軽い男にそれを願うなら。
ポルポもまた、生きると思わなければいけないのだ。
ポルポはそれから少しの間啜り泣いていたが、少しして、リゾットの耳元で微かに言った。
「・・・・うんめいが。」
「ああ。」
「うんめいが、わたしをころさないかぎり。いきるから。」
リゾット、死なないで。
幼い子どものような声がして。それにリゾットは頷いた。
「帰ろう。」
その言葉にこくりとポルポが頷いたのを感じて、リゾットは彼女を抱き上げて歩き出した。
今は、それでいい。それでいいから。
どうか、この、リゾットの大事なものを大事にしてくれた存在の側に最期までいられることをリゾットは切に願った。
暗い寝室。
リゾットはそのままポルポの自宅に送り届け、一人にすることが不安だったのか客間に泊まっている。
ポルポはまるで幼い子どもにするようにベッドに寝かせて布団を掛けられた。
暗闇の中で、自分のことをのぞき込む影をポルポは見つめた。
「・・・・可愛い子。お前は、まだ死にたいか?」
ポルポはじっと暗がりの中にあるブラックサバスを見つめた。そうして、掠れた声で言った。
「・・・・運命が。」
「ああ。」
「運命が、赦すなら。」
その言葉にブラックサバスはそっと女の長い髪を梳る。
「もしも。」
「・・・・・・・」
「もしも。運命がそれを赦したとき。お前はどうする?」
それにポルポは答えない。ブラックサバスはそれに小さく頷き、また暗闇の中に返っていく。
「ポルポ、忘れるな。生きると言うことは戦うと言うことだ。そうして、戦わぬものに勝利が訪れることはないと言うことを。」
それにポルポは答えず、部屋は沈黙が支配したままだ。
いろんな事が丸く収った原作後の話
・・・・なあ、ジョルノ、どうするんだよ?
どうしましょうね。
どうにか、しないといけないだろ!?
だがなあ。
そうだよ!なあ、今からでも否定していこうぜ!
こういう噂は否定すればするほど出回るんですよ。ただ、どうしましょうね。
まさか、ジョルノのために献身的に動いてるポルポの姿に、組織内でジョルノがポルポとボスの実子説が出回るなんて誰が思うんだよ。
おう、見ろよアバッキオ。フーゴとブチャラティが頭を抱えてるぞ。
見飽きた。それよりもリゾットのとこが一番やべえだろ。噂してる奴、全員殺す勢いだぞ。
パッショーネが滅びますねえ。
ジョルノ、なんでそんなに暢気なんだよ!?
ナランチャ、僕、ボスって事忘れてません?そうですね、まあ、この噂僕が組織での地位を固めるには丁度良いバックボーンになるから有利ではあるんですよね。
ちなみにトリッシュがぶち切れてるから早めに収束させた方がいい気がするがな。
まあ、逆算すると13才のポルポに手を出して子ども産ませてることになるからな。
先代がロリコンな方がマイナスイメージですね。手を打ちますか。