後書きはたぶん使わないだろうネタ
誤字脱字などは感想での指摘はご遠慮くだされば幸いです。
感想いただけましたらうれしいです。
お題箱作ってみました、何かあれば
https://odaibako.net/u/fujineko56
「・・・・こんにちは。」
穏やかに笑う女がいた。暗がりの中で、なんの激情もない、凪いだ目をした女がいた。
その人を見ていると心の波が引いていくのが分かった。
パンナコッタ・フーゴはブチャラティの手を取ると決めてなお、心のどこかで悩みが全て消えたわけではない。
己の中に時折起るその衝動をひっくるめてなお受入れてくれると思ってなお、それでも受入れがたいものがある。
いつかに自分のこの衝動がブチャラティのことさえも傷つける可能性があるというのなら。
本当に自分の選択が正しかったのか、分からないのだ。
そんな中、彼が連れて行かれたのは、やけに暗い一室だった。
カーテンが引かれたそこには一人の女がおり、フーゴとブチャラティのことを出迎えた。
「パンナコッタ・フーゴ、君ですね?」
「は、はい。」
ブチャラティ曰く、組織に入るために必要な試験であることを告げられた。面接官だという人はどこにでもいそうな人で、それこそ赤い瞳以外に特徴らしい特徴は見当たらない。
フーゴはどんなことを聞かれるのか鳴る心臓を落ち着ける。
彼女は簡素にチームに入るきっかけについて聞き取りを行った。
そうして、フーゴにとって忌々しい退学のきっかけの事件について問われた。
「・・・暴力事件にきっかけは痴情のもつれ、ということですが。」
その言葉にフーゴの中で圧倒的な怒りの衝動があふれる。
このクソ女が!
茹だるような怒り、溢れるような衝動、走り出しそうになる足。
全てが女を傷つけるために、その怒りをぶつけんが為に荒れ狂う。
それこそ、今がけしてそんなことをしてはいけないと分かっているのに、フーゴはその衝動に支配される。
見つめていた床から視線をあげ、女を睨もうとして、フーゴは固まった。
女の、赤い瞳と、目が合った。
それは哀しそうだった。
もっと、多くの感情が渦巻いていたのだと思うけれど、その時のフーゴにそれ以外の感覚が思いつかなかった。
ただ、哀しそうで。
その瞳を見ていると、すっと、怒りというものが失せていくのが分かる。
暗い、影の中にフーゴは佇みながら茫然と女を見つめていた。
何故だ?
フーゴは純粋な疑問が浮び上がる。
そんなことなかった。
いつだって怒りを制御するには多大な精神を働かせなくてはいけなかったし、ある程度暴力で発散したりだとか、それ相応のことが必要だった。
けれど、女を見つめているとそんな感覚が薄れて、綺麗に消えてしまっていた。
「この件については事実ではない、ということでよろしいですね?」
フーゴが茫然と女を見つめている中、ブチャラティが咎めるように口を開いた。
「・・・フーゴ。」
「あ、はい!その、事実ではありま、せん・・・」
「はい、あの教授はその後、学校を解雇されていますね。表向きは自主退職ですが。どうも、どこぞの良家の子どもに手を出して責任を取らされて、というのが本当のことのようですが。」
あの汚らしい男の末路を聞かされてもフーゴは特別感慨を持たなかった。
いや、違う。フーゴはひたすら混乱していた。
初めてのことで頭が追いつかない。女は息をつき、そうして改めてフーゴに視線を向けた。
「・・・おいで。」
けして大きくはない声だった。けれど、フーゴはまるで魅入られたかのようにふらふらと女に近づいていく。女は両手をフーゴに差出していた。フーゴはそれを恐る恐る己の両手と重ねる。
それは、細い指と薄い皮と、そうして脆そうな骨で構成された冷たい手だった。
なのに、不思議と握っていると肩の力が抜けてしまいそうな手だった。
暗い部屋の中、今まで意識していなかったのにふと気づく。
女から何か、いい匂いがした。
それは例えば香水だとかの纏う匂いではなくて、いつの間にか女が生きていく内に染みついた匂いなのだと何と無しに理解した。
その匂いは、どこかで嗅いだことのある匂いで。フーゴはそれがなんだと考えて。
「ここは所詮、地獄への道すがらに過ぎないけれど。それでも君にとって生きていける場所であることを祈ります。」
共に生きるあなたに後悔が少ないように。
そう言って微笑む女にフーゴはああと思った。
そう言って微笑む女、それは。
今はもういない、彼の祖母によく似ていた。
「お前がフーゴか?」
突然聞こえてきた声にフーゴはびくりと肩をふるわせた。そこはポルポが仕事場として使っている建物の、それこそ彼女が執務室として使っている部屋でのことだ。
部屋には丁度フーゴしかいない、はずだというのに。
突然聞こえてきた声に、フーゴはスタンドだと理解して頭を巡らせる。
けれど、正解にたどり着く前にその声はたたみかけるように言った。
「あー、警戒すんな。オレはポルポの、護衛の一人だ。」
フーゴはそれにようやく気づく。声が彼女の執務机の、手鏡から聞こえてくることに。
それは小さな、折りたたみ式の鏡だ。化粧直しに使われていそうなそれは珍しいタイプで印象に残っている。
それは木で出来たケースに鏡がはめ込まれており、花の模様が彫り込まれているのだが見たことがない花だった。
ただ、その鏡は常に開きっぱなしになっているのが不思議だった。
フーゴが鏡をのぞき込むと、そこには黒髪の男が映り込んでいた。
「うわ!?」
「今、出るから何もすんなよ。」
そう言った後、がたりと部屋の端に置かれた、姿見からぬるりと人が出てきた。艶々とした黒い髪をした大型な男だ。
「だ、誰ですか!?」
「イルーゾォ、まあ、プロシュートの同僚だ。」
「あ、プロシュートさんの。」
フーゴがそう返事をすると同時に、がちゃりと部屋の扉が開かれる。
「おや、イルーゾォ、どうかされましたか?」
そう言って家主の帰宅にフーゴはほっと息をついた。
「・・・んで、ターゲットは最期にお前の予想通りのことを言ってたぞ。」
「そうですか・・・」
フーゴはちらりと目の前で繰り広げられている話に耳を傾けた。
イールゾォと名乗った男は何でも任務の報告をしに来たのだという。彼は不躾、というか、行儀悪く執務机に軽く腰掛け、背中越しに任務の話を続けた。
(・・・暗殺者チーム。)
もちろん、ギャングの組織なのだから汚れ仕事に特化したチームがいるのは当然だ。ただ、そんな仕事を命じられると言うことは相当の実力者なのだろう。
商人的な、価値というものを重んじる部分のある彼女が重用するならば当然なのだろうが。
「つーか、ポルポ。こいつにこんなこと聞かせていいのか?」
イルーゾォは部屋に止まっているフーゴを見てそう言った。それにポルポは軽く首を振る。
「ええ、今、その子には組織内部の力関係などを教えているので。」
「へえ。」
イルーゾォはちらりとフーゴを見た。その目には明らかに意地の悪そうな意思が混ざっており、フーゴは嫌な予感を覚える。
「・・・なら、オレが直々にテストしてやろう。」
イルーゾォはずいっとフーゴに体を寄せた。ポルポはいつも通り、困ったような顔をしてそれを見つめている。どうも、様子見をするためらしい。
「問題だ、オレたち暗殺者チームはもちろん、実力も強さも折り紙付だ。だが、ポルポはそれ以外にオレたちを手元に置いている理由がある。何故か、わかるか?」
答えられないだろう、そう言っている顔をしていた。フーゴはそれに答えていいのかとポルポを見た。
彼女は軽く頷くのが見えた。
「おー、わっかんねえか?答えはな・・・」
「そ、組織内は。」
イルーゾォはまるで得意げなガキ大将のように口を開いたとき、フーゴが重ねるように答える。
「組織内はもちろん、組織外における敵対関係と協力関係。または利害関係だけではなく、個人的な関係性の情報が得やすくなるため、でしょうか?暗殺対象に成る時点で、組織にとって何かしらのことがあるということですし。死に際の言葉だけでも、他に情報が集めやすいのかと。」
それにイルーゾォは面白くなさそうな顔をする。そうして舌打ちをした。
「つっまんねえなぁ・・・・」
「イルーゾォ・・・・」
「あー?」
ポルポのそれにイルーゾォは憎々しげにポルポを振り返った。振り返った先で彼女はやはり困ったように笑っていた。
「新人の子に、あまり意地悪をしないであげてください。」
お願いですから。
そう言って軽く首を傾げる様をじっとイルーゾォは眺めた後、へいへいと気だるそうに目を細めた。
「
「・・・イルーゾォ、あの、それやめてくださいと何度も。」
ポルポは大仰な言い方が苦手なのか、気恥ずかしそうに視線を下げる。それにイルーゾォはからかう対象を変えることを決めたのか、また意地悪そうに笑った。
「女王様がお気に召さねえか?
「イルーゾォ、本当におやめください!私のこと、いくつだと思ってるんですか?」
「あー?さあな?ただ、おめーにはそれがお似合いかもな!夢見がちな甘ちゃんが!」
イルーゾォはけらけらと笑いながらポルポの頬を両手でなで回す。ポルポは困ったような顔をしてされるがままだ。
フーゴはそれを不思議な気分で見つめる。
それは、何というか。
下手をすれば恋人同士のやりとりのような近しさであったけれど、その間には驚くほどに色気というものはなかった。
信頼関係と言えばいいのだろうか。
俗的というか、イルーゾォに言えば怒り狂いそうだが、人を舐めている賢しい犬が一応上と認めた人間にじゃれついている、それがフーゴにとって一番にしっくりと来る表現だった。
「すみません、困ったでしょう。」
「いいえ、あの、あの人は。」
「イルーゾォで、リゾットの部下、でしょうか?鏡に関するスタンド使いです。ああ見えて、優しい人ですよ。」
それにフーゴは頭の中ではてなが浮ぶ。何せ、男はお世辞にもそんな単語が似合う存在とは思えなかった。
それが分かったのか、ポルポは机の上に置かれた鏡を手に取った。木造のそれに彫り込まれた花を愛しそうに見つめた。
「これはイルーゾォがくれたものなんですよ。」
フーゴは反応に困った。鏡を贈る、というのはあまりいい意味がない。けれど、ポルポは変わること無く嬉しそうな顔で鏡を見つめる。
「これに彫り込まれた花は、サクラという、日本の花なんです。私が好きだと知って、どこかで見かけたからと買ってきてくれたんです。護衛に便利だからな、なんて。」
自信家で皮肉屋で、でも繊細なところのある優しい人なんですよ。
そう言って微笑む女の横顔にフーゴは少し苦笑した。
「・・・あの人が優しいのは、貴方に対してだけだと思いますが。」
それに彼女はやっぱりとても微かな声で笑い声を上げた。
フーゴは一応はブチャラティ預かりになっているが、定期的にポルポの元に通い彼女の仕事を手伝っていた。
「君は荒事をするよりも考え事をしている方が性に合っていそうですから。」
女はフーゴに立ち回りというものを教え込んだ。
「いいですか、ギャングにおいて大事なのはルールではありません。何だと思います?」
「面子、ですか?」
「飲み込みが早いですね。もちろん、損得勘定も込みで大事ですが。この世界では先ほども言いましたがルールはさほど大事ではありません。故に、どれほど他者に尊重されるか、つまりは面子を大事にされる存在が強いのです。」
彼女はよい教師だった。
そういった立ち回りは自分は苦手だからと、ブチャラティの兄貴分に当たるらしいプロシュートを紹介してくれたりなど面倒見のいい人間だった。
だからこそ、逐一不思議に思えてくる。
何故、この人はこんな場所で、こんなことをしているのだろうと。
元々、裕福な家のフーゴにはその女がきちんとした教育を受けた、言ってしまえば毛並みのいい人間であることは理解できたが故にだろうか。
ただ、フーゴにとってそれらはあくまでそう思い至るだけで重要には思っていなかった。いいや、どうでもいいことだった。
ただ、その人を見ていると不思議と怒りが治まっていくことの方がフーゴには重要だった。
何故だろうか?
そういうスタンドなのだろうか?
いいや、違うことはすでに知っている。
フーゴは正直に言うのならば、人生で滅多にないほどの安らぎに満ちた時間を送っている気分だった。
フーゴの人生には常に怒りが付きまとっていた。いつ、爆発するかわからない爆弾を抱えている気分。
もちろん誰にだって怒りは存在するし、それが爆発する時はある。けれど、フーゴの怒りはあまりにも鋭く荒々しさに満ちていて誰かを傷つけることばかりだ。
いつだって、怒りが爆発した後は、ここまでしたかったわけではないという後悔に苛まれる。
けれど、ポルポの側だけは違った。
その人の側では怒りというものはなく、穏やかな優しさに満ちている。
その人の顔を見つめると体から力が抜ける気がした。その人の側にいると誰かを傷つけることなんて考えることもない。
その人の、優しい、黄昏時のような、安寧の匂いがあるだけで怒りというものを忘れられた。
(それは、こいつまでも。)
フーゴは目の前の光景にめまいがした。そこにはポルポの膝の上で意味不明な言葉を発しながら甘えるパープル・ヘイズの姿があった。
「コントロールは、出来ているみたいですね。」
「いいえ、普段はもっと荒々しいです。」
「そうなんですね。」
ポルポはそう言って椅子に座ってパープル・ヘイズのよだれを拭ってやっている。そうしてブラックサバスもゆらゆらとパープル・ヘイズの後ろに立ち、その頭を撫でている。
フーゴはいたたまれなくなり、パープル・ヘイズを引っ込めた。
「・・・本当に止めてください。」
「スタンドの扱い方は見ておきたかったので。君の力は特に扱いに慎重にならなければいけないのだから。」
「わかっています。」
「まあ、あなたはまだましですね。他の人たちは、なんというかもっと大変な子も多かったので。」
「大変、ですか?」
「・・・・能力の発動に条件があればいいんですが。ない人は本当に大変で。リゾットがいるでしょう?」
それにフーゴは頷く、数度話したことがある大男は物静かでブチャラティやプロシュートから聞く限り相当優秀な存在であるらしい。
「リゾットは、能力の扱い方が分からないとき、お腹からスコップ生やしてましたからねえ。」
「スコップ、を?」
「スコップを。」
そんなことを女は懐かしいですねえと微笑んで思い出すように目を細めた。
ポルポは、正直に言えばとても矛盾に満ちた存在だとフーゴは理解していた。
矛盾に満ちた、そうして、滑稽な女だと。
ポルポは皮肉なことに善良な女だった。
ギャングとして非道なことはすれども、ある意味で、今の国家よりは仁義というものを重んじていた。
滑稽だと思った。
ポルポは、善良だった。
彼女は、麻薬を嫌い、ギャングの横暴さをある程度治め、町に住む一般人の安全を心がけていた。
フーゴに手を差しのばしてくれたブチャラティもまた、女のことを愚かなほどに慕っていた。
それだけが、滑稽だった。
いくら、助けても、何をしても、それは法を犯し、ギャングで、誰かを結局傷つける。それは変わらないのに、ポルポを慕う存在を滑稽だと思いつつ、けれどそれを嫌になるほど理解してしまった。
それを口にしようとは思わなかった。
ギャングになる存在には大きく分けて二通りで、転がり落ちてしまった存在と、そうしてなるべくしてなった存在。
フーゴは自分が後者であると理解していた。
何せ、彼は遅かれ早かれ表では生きにくい性格をしている自覚があったのだ。
「怒りは大切な感情ですよ。」
フーゴにポルポがそんなことを言ったのは、いつだっただろうか。
ただ、その人はいつだって静かな瞳をしてフーゴを見つめていた。
「そうでしょうか?」
「まあ、あなたにとってはそうなんでしょうね。ただ、怒りは大切な感情です。」
「・・・それで教師を分厚い本で滅多打ちにしても?」
フーゴの苦々しい言葉にポルポは当たり前のように微笑んだ。
「ええ、あの怒りはあなたの尊厳を守るために必要な剣だったのでしょう。私にはきっと出来ないことです。」
その言葉にフーゴは思わず視線をあげた。彼女はどことも言えない場所を見つめて独り言のように呟いた。
「本当に誰かのことや、自分のことを大切にして、愛したいのなら。いつかに悲劇を前にして怒りをあげて突き進まなくてはいけない時が来る。君はそれができる。でも、私にはきっと出来ない。出来ないから。私はあなたを尊敬します。」
「・・・あなたは、大切にしているでしょう。」
それにポルポはフーゴに視線を向けた。それに彼は口を開く。
「できるだけ不和が起きないように、抗争も、そういったことを避けて。あなたはずっと立ち回って。誰かを蔑まず、憎まず、そうやって生きていることは誰かを大事にしているって事じゃないですか?」
フーゴはそう言った。そう言ったけれど、女はやはり申し訳なさそうに微笑むだけだった。
フーゴは本音を言えば不思議だったのだ。
自分やブチャラティは女のような人間を気に入るのが理解できた。
ただ、例えば、フーゴが今のところそこまで接触のない暗殺者チームの方は不思議だった。
彼らは良くも悪くも荒くれ者で、ポルポのことをよく怒鳴り、怒り、あきれ果てるのを見た。
ポルポは臆病な人で、本当に恐ろしいことがあれば近くにいる誰か、といっても大抵はリゾット・ネエロの背に隠れることがよくあった。
そんな臆病で、うじうじとしていて、果てには泣くことさえある人間を彼らはなんだかんだ大事にしている様子だった。
弱く、幼い純粋さを持って、そうして優しい女は裏社会では蔑みの対象になることもままあることだというのに。
何故、ポルポがそんな彼らに慕われるのか、フーゴには分からなかった。
プロシュートやホルマジオは頻繁にポルポの顔を、用がなくとも見に来ることが多かった。
手土産を片手に適当な会話をして帰っていく。彼らはよくポルポの手首を掴んでは、また痩せたとぼやくのを聞いた。
「てめえ、飯食えって何回言やあ聞くんだ!?飯行くぞ!」
そういってプロシュートにフーゴ含めて連れ出されたことがあった。
ホルマジオはまるでその肌の感触を確かめるように指先で撫でる。
「あんましこのまんまだとカラマーロの奴が心配するぞ。」
なんてことを軽い口調で言っていた。
ギアッチョとメローネは仕事の報告をするときにだけ訪れた。メローネはポルポに首を絡みつかせて甘えるように抱きついていた。それをギアッチョは止めろと怒鳴りつけるのを見た。
彼らは女の顔をよくのぞき込んでいた。その、青白い、顔色の悪いそれを見て日に当たれとぼやいているのを聞いた。
イルーゾォという男は殆ど姿を現さない。彼は鏡の中から、それこそ自分が贈った手鏡越しにポルポに話しかけているのを見たことがある程度だった。そうして、時折、彼女が疲れて仮眠を取るときにだけその頭を撫でているのを見たことがある。
ペッシという、自分とそう変わらない年の青年はよく菓子を片手に一人で訪れていた。彼は本当に普通にポルポと茶を飲み談笑して帰っていく。それにフーゴも混ざることがあった。彼がポルポの背中を撫で、また痩せたろうと苦笑しているのを見た。
ソルベとジェラートという存在もいるらしいが未だにフーゴは彼らに会ったことはない。
そうして、リゾット。
ポルポの信頼の一番に厚い男は、任務の報告に訪れるだけでフーゴも数度だけしか会ったことのない男だった。
彼はポルポの頬をよく撫でては、また痩せたとぼやくのを聞いた。ポルポはそれを嬉しそうに受入れてその手にすり寄っていた。
フーゴはそれが、なんというのだろうか。
例えば、意中の異性に意識して貰うためのスキンシップのようなものなんかではなくて。
それは、イルーゾォの手つきに感じた、賢しい獣のじゃれつきのようで。
それと同時に、まるで、それがまだここにいるのだと、そう縋るように、願うように、確かめるように触っていて。
けれと、もっと違うもののように思えていた。
それが何なのか気づいたのは、とあるときのことだ。
それはポルポがフーゴを幹部たちの会合に連れて行ったときのことだ。
「実際に顔を見ておいた方が良いでしょうから。」
元々、ブチャラティも顔を売るために連れていったことがあるらしい。
「わざわざいいんですか?」
「ええ、お恥ずかしい話、私は。なんというか、人望がなくて。あなたのように能力があり、且つ、ある程度信用の出来る子は重用していく方針なんです。」
事実、他の幹部たちの間でポルポは蔑まれる対象で、嫌われることも少なくないようだった。
会合では簡単な、それこそシマの境で起るいざこざの調停が主だった。
「・・ところで、そちらは随分と景気がいいようで。」
「ああ、何せ、あれに手を出さずにそこまでとは!」
「カジノを握っているから当たり前だろう!」
「ボスは、よほどお気に入りのようで!」
フーゴは思わず顔をしかめた。
話し合いは終わり、といってもポルポが関係している案件はまったくと言っていいほどないようだった。
彼女は小さな芽からきちんとつぶしを利かせているからだろう。火は大きくなってから消すよりも労力が少ないというのが口癖だった。
「・・・・早々と終わって良かった。」
「いつもは長いんですか?」
「ええ、何せ、ごねるときは本当にごねられるときもあるので。」
「さっさと帰るぞ。また絡まれては面倒だ。」
その日はフーゴとプロシュートが護衛という名目で付いてきていた。そうして、カラマーロもおり、丁度迎えのための車の手配に席を外していた。
そんな中、とある男が近づいてくる。フーゴがちらりと視線を向けると、そこにはくすんだ金の髪をした男が立っていた。見目は悪くなく、といってもプロシュートやブチャラティの方が顔がいい、その男はにやにやと下卑た笑みを浮かべてポルポを見つめた。
「お久しぶりですね、ポルポ。」
「・・・・何かご用ですか?シニョーレ。」
「そんな他人行儀なことを言わないでください。」
彼は図々しくポルポの手を取り、その甲に口づけを落とした。
「私のことはお忘れですか?」
「お声がけをいただくことは多いので。どうも、覚えきれないのです。」
ポルポはいつもよりもずっと完璧な、揺るぎのない笑みを浮かべて男を見つめる。それに男は仰々しく嘆くように額に手を当てた。
「ああ、それはひどい!何度もお声がけをして、食事に誘ったというのに。女神は今日もつれないので?」
「ええ、どうも、そのようなお誘いを受けるほどの余裕もありませんので。」
「ああ、確かに!何せ、今日も今日とて愛らしい人たちを侍らせているようだ。彼らと遊ぶのに忙しいのでしょうか?」
その言葉の意味をフーゴは一瞬分からなかった。けれど、男の、プロシュートやフーゴをなめ回すように見つめる目にその言葉の本意を理解する。
フーゴは羞恥と侮辱に怒鳴りそうになるが、ポルポの姿と、そうして黙り込んだプロシュートの様子に動きを止めた。
目の前のそれは幹部なのだ。自分には何も出来ない。
フーゴは目の前の、顔の見えないポルポを心配そうに見つめる。
きっと、怯えている。きっと、誰かの背に隠れたくてたまらないはずだと。
「いいえ、私のような無粋な人間にはとても、そのようなことは。」
黙り込んだポルポにその男と、そうして聞き耳を立てていた男たちは下卑た笑い声を上げる。
「ああ、そうですか!ならば、是非とも、私のことも混ぜてくださいよ。私も、あなた好みのブロンドだ!ああ、それとも、誰かしら貸していただけるなら手取り足取り遊び方を教えて差し上げますよ。ボスだって気に入られるでしょうね!」
(こんの、ド腐れがああああああああああ!)
フーゴが怒りに視界が染まっていくと同時に、あり得ない光景を見た。それはポルポが高く右手を捧げているのを。
スタンド使いのフーゴには見えていた。ポルポは着ていたコートの影にブラックサバスを隠しているのを。
そうして、その右手は真っ直ぐに、目の前のくすんだ金の髪をした男の頬に叩きつけられた。
バチン!!と大きな音が辺りに響くと同時に、どさりと男は隙を突かれたせいかそのまま倒れ込む。スタンドの腕力が加わったせいか、男の頬は真っ赤に染まっていた。
ポルポは倒れ込んだ男の首にためらいもなく、固いブーツの底を叩き込む。
「・・・・げえ!」
ぐりぐりと体重を乗せたポルポは男をのぞき込み、吐き捨てた。
「・・・・ええ、長々と語られているようですが。いいですね、そこまで言うなら遊びましょうか?ああ、そうだ。あなたのシマの近くに丁度、目を付けている場所があるんですよ。知っているでしょう?私、お金って大好きなんです。」
たっぷり搾り取って差し上げますよ、青二才が。
声を荒げているわけではない、ただ、そこには温度がない。いつもの、春先のようなぬるい暖かさなんてない。凍えた、人を人と思っていない暴力性が佇んでいた。
凍えるような声を出した後、ポルポは周りの人間を見回して、穏やかに微笑んだ。
「ああ、そうですね。どうも、この場にはボスの女の趣味を知りたがっておられる方が多いようだ。そこまで言われるなら、聞いておいて差し上げましょうか?」
皆、ボスのことが気になって仕方がないようだ、と。
それに声を発せられるような度胸のある人間はいなかった。
「・・・・分かった気がします。」
「え?」
フーゴはじっとポルポの真っ赤に腫れた手を見た。
沈黙に支配されたその場を後にして、車に乗ったポルポの手首を見て、プロシュートは苦い顔をした。事情を聞いたカラマーロもまた。これ以上ないほどに苦い顔をしていた。
ポルポの右手は真っ赤に腫れていた。元々ひ弱なことに加えて、スタンドの、ブラックサバスの力が加わっているせいだろう。
一番に近いのだという、暗殺者チームのアジトに連れてこられた。そこでなら、手当のための道具があるためだということだった。
どうも、連絡があったせいなのか、たまたまなのか、全員がそろった暗殺者チームがアジトで待ちわびていた。
彼らはポルポの真っ赤になった手首を見て、それぞれが溢れるような殺意を持って、それを見つめていた。
「ポルポォ!てめえ、てめえ!やるならプロシュートに殴らせりゃよかったんだ!」
怒鳴り声が聞こえた。ギアッチョの声だ。荒々しい声であったけれど、それを恐ろしいのは思わなかった。彼と、フーゴは同じ気持ちだった。
あんな手を腫らして。臆病で、人を傷つけるのが苦手で、いつだって己の在り方に心を痛めていて。
優しい人だ。優しい人で、泥に塗れてなお、遠い昔の何かを捨てきれない人。ならば、せめて。
(汚れることぐらい、任せてくれればいいんだ・・・)
「・・・ねえ、誰、どこのどいつ?」
「この前、派閥が出来た、幹部の奴だ。」
「アー知ってるぜ!はっ!新参者の分際でよぉ!」
「兄貴、ポルポの手ぇ!」
「・・・しょーがねえよな、本当に、これはよぉ。」
三者三様に騒いでいる中、手当のためのそれを持ってきたらしいリゾットがポルポの手を取った。
氷で冷やしながら、痛むそれに顔をしかめるポルポにリゾットは吐き捨てるように言った。
「そういうことは、プロシュートか、それとも今日つけていた若いのにやらせろ。お前なら、いくらでも言い訳を作れたはずだろう。」
それに呼応するようにひょっこりと、フーゴも初めて見たソルベとジェラートが左右から彼女の顔をのぞき込む。
「ほんとにな。」
「一リラも得にならねえことしやがって。」
それにポルポはなんとも言えない顔をした。
「・・・・そんなに、だめですか?」
「・・・・当たり前だ。」
「あなたたちは、いつだって、私のために怒ってくれます。臆病で、怒ることも出来ない私の代わりに。なら、私しか怒れない時は。せめて、私だけは、あなたたちのために、怒りたいと思うことは愚かでしょうか?」
この地獄で、共に生きてくれるあなたたちは、それでも。
女は、やっぱり困ったように笑った。
「私の、精一杯の、自分の足で立って歩く希望なのに。」
それはとても、愚かな言葉で。愚かで、哀れで。こんな、ゴミ溜めのような場所で聞くには星屑のようにキラキラしていて。
それに、フーゴはようやく理解した。
この人は、自分のために怒ることが出来ないくせに、他者のために怒ってしまう、そんな救えない人なのだと。
「・・・・ポルポ。」
「はい、どうされました?」
その日、フーゴは利き手を、くだんの一件で怪我をしたポルポの代わりに代筆を行っていた。それに彼女は片手で出来ることを行っていた。
彼女の返事に、フーゴはずっと、言おうか言わまいか、悩み、けれど口にした。
「他人のために怒ることは大事です。でも、自分のために怒ることを放棄しないでください。」
紙に視線を向けていたフーゴは言葉を続ける。
「それは、それは、あなたは、あなたしか関係ないことで、尊厳を踏みにじられても。それでもなお、怒らずに受入れるんですか?それは!」
顔を上げて見たポルポはやっぱり困ったように微笑んでいた。
「・・・・すみません。」
それにフーゴはああと思った。
その人は、やっぱりフーゴの祖母に似ていた。
祖母はずっとフーゴの味方だった。味方で、そうして、彼女はずっと家族の間で軽んじられている人だった。だからこそ、フーゴを守り切れなかったとも言える。
彼女は、己の夫で、フーゴの祖父に彼への過剰な教育を止めるように言ってくれていたけれど止めることは出来なかった。
家族の間で軽んじられていた祖母の言葉を聞く者はいなかった。祖母は自分にもっと力があればと泣いていたけれど、フーゴは茫然とした。
彼女は、フーゴさえいなければ、そんなにも軽んじられていた立場に甘んじていたのだ。
他者の存在で、ようやく己の尊厳というものを嘆いていたのだ。
それは、それは、とても哀しいことのはずだ。
他者のために怒れることは悪いことではないはずだ。なのに、自分の尊厳を気にしていない。ポルポは自分にだけ向けられる卑猥な言葉や軽んじられることはきっと流してしまっていただろう。
「あなたは、どうして、そんな・・・・」
「ええ、だからね。フーゴ。きっと、あなたは嫌だろうけれど。」
あなたはその怒りを手放してはいけませんよ。
それを目の前の人はどんな気持ちでいうのだろうか?
どんな気持ちで、そんな、哀しいことを言うのだろうか。
もう、怒りさえも他人に明け渡してしまった空っぽの在り方。
「あなたは、あなたは、そんな!なら、あなたはどこにいるんですか?あなたは、自分自身のために生きることがあるんですか?」
優しい人、フーゴに怒りを忘れさせてくれる人。
それだけで女には、怒りに満ちた自分と生きてくれると言ったブチャラティと同じほどには感謝して、そうして、その人のために出来るだけのことをしたいと思える程度には大事に思える存在だった。
独りで生きていくのだと、そう思っていた中に、共に生きてくれるかも知れない誰かの存在はどれだけ嬉しかったことだろうか?
なのに、なのに、その人は自分自身の事を大切に思ってさえいなくて。
「・・・フーゴ。」
「聖人にでもなる気なんですか!?いつか、他人のために死ぬとでも言うんですか!?」止めてください!
フーゴは縋るように女の元に駆け寄り、ポルポの座る椅子近くに跪いて叫んだ。
「馬鹿馬鹿しいことを言わないでください!人は皆独りだ!何かあれば、独りで放り出されるんです!なら、せめて、自分のために生きなくてはいったい、何が!」
彼女はやっぱり哀しそうに微笑んで、フーゴの頭をそっと撫でた。
「・・・ごめんね。」
それはいつもの取り繕うような言葉ではなくて、ただ、ただ、女のそのままの言葉のようだった。
それにフーゴは理解した。暗殺者チームの彼らが、そんなにも女を気遣う理由。
ああ、そうだろう。
自分だって分かっている。自分たちがろくでもないような人間である事なんて。
そんな人間のために、命さえ投げ出すような、そんな風に生きてくれる人がどんな意味があるのか。
親にさえ見捨てられたフーゴには、ずっと家でさえも怒りに苛まれて安心できなかった少年には、その、心穏やかに過ごさせてくれる、安心をくれる女がどれだけ貴重なのか。
わかるのだ、分かってしまうから。
彼らの、ポルポへの在り方は、昔、自分が祖母をいたわり、慕うときの手触りとよく似ていたのだ。
頭を撫でてくれる手が、それが、どうしようもなく、怒りを忘れさせてくれるから。
フーゴは、まるで、刻み込むように決意する。
ああ、どうか、どうか、もしも。
この女が、最期までも誰かのために放り投げることが来たのなら。そうなる前に、自分が殺してやりたいと。
フーゴの殺し方は、きっと、とっても苦しいだろう。苦しいから、せめて、最期は彼女が、彼女のために死ぬことが出来ますように。
フーゴは遠い昔の、幼い頃のままに、女に縋って啜り泣いた。
全部丸く収った後のギャグ時空
はい!ポルポのスタンド使いを上手く使って鬼ごっしたら楽しいだろうねの一言から無駄に張り切った馬鹿共祭典!第一回、スタンド使い鬼ごっこ!
有力選手の紹介です!
誰かがそこまでやれと言った!始まってかれこれ一度も発見されておりません、リゾット・ネエロ!
その能力は反則だろう!捕まえられるか、ホルマジオ!
怪我をさせるのはというポルポの願いで今回は傷害は御法度なルール。そのルールを逆手に取り、捕まりそうになるたびにジジイになるプロシュート!
その早さには誰も追いつけない!
ガチ走りのギアッチョ!
鬼役と言うことでベイビィ・フェイス使おうとして早々と出禁にされたメローネ!
鬼役、どんどんつり上げております、ペッシ!
もう、参加してないのでは?イルーゾォ!
早々と捕まり、賭けの胴元をしているソルベとジェラート!
会場内をジッパーで駆け回っております、ブチャラティ!
純粋な肉体能力で頑張っております、アバッキオ!
鬼役で偵察をしております、ナランチャ!
ピストルズも自分の一部で捕まえまくっております、ミスタ!
正直、色々と相性が悪い、捕まったフーゴ!
その他、ポルポに呼ばれてやってきたスタンド使いの皆さん!
解説は、クララがしております!
そうして、みなさん悪いお知らせです!スタンドを何に使っているんだと、カラマーロにバレ、現在接近中です!
ちなみに、解説席におりました、先代ボスはすでにトリッシュを、現ボス、ジョルノ様はポルポを連れて逃亡!
皆さん、各自、怒れるカラマーロからお逃げください!それでは、解散!!!!
日常の会話
前々から思ってたけどよ、お前らカラマーロのこと怖がりすぎじゃね?可愛い奴だろ、あいつ。
ホルマジオ、あいつを可愛いと言えるのはお前ぐらいだぞ。
そうかあ?リゾットはそういうけどよ、他はどう思う?
・・・・プロシュートをマンモーニ呼びする女を可愛いと言えるのはホルマジオぐらいだろ。
やっぱ、プロシュートの語録ってカラマーロ譲りだよな。