まだ続きます。長くなりすぎたのできりのいいところで切りました。
後書きのはお題箱に来たので回答みたいなものです。ナランチャの話が終わったら今度はトリッシュになるのかな。その前に四部のほうを終わらせないとなあ。
誤字脱字などは感想での指摘はご遠慮くだされば幸いです。
感想いただけましたらうれしいです。
お題箱作ってみました、何かあれば
https://odaibako.net/u/fujineko56
「・・・・ここに来てはいけない。いいかい、いけないんだ。だから、もっとちゃんとした、優しい誰かに会いにいきなさい。」
そう言った人は、そう言った、真っ黒な髪をした優しそうな人はナランチャ・ギルガのヒーローとよく似ていた。
ナランチャはその日、とある決意を固めていた。
それは、彼がお世辞も素行のよくない身内と連んでいたときに聞いた話だった。
ある試験に合格すればパッショーネというギャングに入れるらしい。が、失敗すれば死ぬしかない、そんな話だ。
ナランチャはその試験について話していた人間と知り合いだったのが幸運だっただろう。
それはナランチャに対して噂を信じて遠巻きにしたことに罪悪感があったのか、その試験を受ける権利を与えてくれる人のことを教えてくれた。
「・・・でもよ、多分、お前は試験はうけれねえぞ。」
「は?なんでだよ!」
それに知り合いは苦い顔をした。
「なあ、ナランチャ。俺さ、お前にしたこと、絶対にしちゃいけなかったって。今は、そう思ってるんだ。」
「・・・急になんだよ、お前。」
「・・・・・そうだな、そう、だな。急で。そうして、今更だ。だが、してはいけないことだった。あの人に会って、臆病に遠巻きにしたことの意味がわかった気がする。」
その知り合いはどこか哀しそうな顔をした。
「紹介はしてやる。その代わり、断られたら諦めろ。痛い目に遭いたくないだろ。」
憑き物が落ちたかのような目で、それは、何かに似ている気がしたけれどナランチャには分からなかった。
通されたのは、暗い部屋だった。真っ暗というほどではない、歩くことに支障はないほどだった。
驚いたのは、その部屋の奥には大きな一人がけのソファが置かれており、そこに誰かが座っている。
ナランチャは意外に思った。
何せ、その椅子に座っている人間というのが、顔立ちはよく見えなかったが明らかに女だったのだ。
「・・・・ナランチャ、ギルガ、君ですね。」
「え、あ、はい!」
君なんて丁寧に呼ばれると思っておらず、ナランチャはそう固まりながら返事をした。
部屋の半端なところで止まったナランチャを女はじっと見つめる。
どう反応すればいいのか分からずに固まるナランチャにはその沈黙がまるで何時間にも及んだような気がした。
彼女は、椅子に行儀良く座り、膝の上できちんと手を重ねて置いていた。
それがどこか、いつかにテレビか何かで見た貴婦人のようだった。
どれほど時間が経ったことだろうか、彼女はゆっくりと立ち上がり、そうしてナランチャに歩み寄った。
椅子に座っていたせいか分からなかったが、その女はナランチャよりもずいぶんと背が高かった。
黒い髪を幽鬼のように揺らして静かに言った。
「・・・今回の試験ですが、君には受けさせてあげることは出来ない。」
「え、な、なんでだよ!?」
「・・・君は何故、組織に入りたいんですか?」
それにナランチャは悩む。彼にとってそれは学校の口頭試験と同等だった。何を答えるか、それに悩むがすぐに切り替えて素直に答えを口にした。
「どうしても、その人のために働きたい人がいる!その人の役に立ちたい!だから・・・」
「ブチャラティのことだね?」
ナランチャは驚いた顔をした。目の前の人があの人のことを知っているなんて思いもしなかったのだ。
女は額に手を当て、そうして悲しむように頭を振った。
「・・・・君はブチャラティに喜んで欲しいんですね。」
「そう、そうだけど・・・」
ナランチャは何故、目の前の女がそんなにも、今にも泣いてしまうんじゃないかと思うほどに哀しそうなのか分からなかった。
「彼はそうしたいからそうしただけです。君が自分と同じものになったと知れば、彼は悲しみます。あの子を悲しませたくないなら、すぐに部屋から出て行きなさい。」
「い、いやだ!」
女に対してナランチャは反射のように叫んだ。
「あの人だけは違ったんだ!あの人は、俺のために本当に怒ってくれた!軽蔑とか、そんなものじゃない!俺のために!あの人だけだったんだ!そんな人のために働きたいって思うことの何が悪いんだよ!」
その言葉に女はナランチャと視線を合わせるような形で屈み込んだ。赤い、瞳が自分を見ていた。
「いいえ、違います。優しい人も、愛が深い人も、この世にはたくさんいます。あなたが会うことが出来なかっただけで。たくさんいるんです。ブチャラティでなくても。君を愛してくれる人も、優しくしてくれる人もいるんです。」
「いない!」
「なら、君はわかっているのか!?ギャングとして生きていくという意味が!」
がしりとナランチャの肩を掴んだ手は、細い指に冷たい体温をしていた。
「誰かを傷つけ、足蹴にし、そうして誰かを殺して。最期は惨めに死んでいく。今、君は人生で一番の、最悪な今を生きていると思っているかも知れないけれど。このまま進めば、君はただ墜ちていくだけなんです!」
華々しい、スポットライトなんてない。ただ、ただ、暗い闇の中を螺旋階段を降りていくように進んでいるだけ。
ナランチャ、と。
その人は顔を歪め、己のことを必死に追い立てるように叫ぶ。
泣きそうで、苦しそうで、必死に。
それは、なんだか、とても。
(・・・・ブチャラティに、似てる。)
「・・・・ここに来てはいけない。いいかい、いけないんだ。だから、もっとちゃんとした、優しい誰かに会いにいきなさい。」
そう言った後、その人は哀しそうだけれど、ナランチャを励ますように微笑んだ。
「大丈夫、きっといます。優しい人が、あなたのこれからの中に絶対にいるから。私たちのようなものを優しい人なんて思ってはいけないんだ。」
必死の言葉に圧はなく、ブチャラティの、あの怒りとはまったく違うようで。いいや、涙の匂いがする中でナランチャはそれがあの青年と同じものであると何と無しに理解できていた。
だから、ナランチャは叫んだ。
「そんな保証がどこにあるんだよ!?」
ナランチャは女の手から逃れるように距離を置いた。
「俺だって、俺だってさ!今まで生きてきたんだぜ!でも、いなかった!いなかったんだよ!ブチャラティだけだった!あの人と別れて、それでまた同じような人に会えるなんて保証があるのかよ!なら、それなら、俺は!」
ナランチャはその場に崩れ落ちるように座り込んだ女に背を向けて扉に足を進めた。
「あんたには頼まない!他の、どんな方法を使っても!俺は組織に入ってやる!」
覚悟、きっとその単語以外にたとえがない感情を抱えてナランチャは歩き出す。それに彼女は弱々しい声でナランチャに言った。
「・・・分かりました、試験を許可します。」
それにナランチャは振り返る。そうすれば、暗がりの中でその場にぺたんと座り込む女の姿を見つける。
ナランチャの中にひどい罪悪感を覚える。彼は恐る恐る小走りで女に駆け寄った。そうして、手を差し出した。
「あの、ごめん。わざとじゃないんだ。」
「わかっていますよ。」
ナランチャの手を借りて立ち上がった女は、やっぱりとても哀しそうに少年の頬を撫でた。驚いたけれど、その手はやっぱり優しくてナランチャは落ち着かない気分と奇妙な心地よさを覚えた。
それはまるで、泥だらけで帰ってきた子どもの頬を撫でるようか、そんな優しい手つきだったのだ。
手つきで、そうして、とても苦しそうに彼女は顔を歪めていた。
彼女は頬に少しだけ触れた後、ナランチャのことを抱きしめた。
ぎちりと、なんだか、どうしようもない感情をそのまま抱きしめるような乱雑な手つきだった。
「・・・・どうして、あなたたちはそうなんでしょうか?」
そう言って抱きしめてくる女の体はお世辞にも柔らかいだけとか、心地のよい感触ではなかった。
それは痩せて、固く、そうして冷たかった。
「何も、ただ、何も望んでなんていないんです。いなかったんです。」
ナランチャは彼女が何を言っているのか、よく聞いていなかった。
ただ、なんだか、とても安堵するような心地がして。
けれど、とても安心するような、例えようのない匂いがした。
暖かくて、優しい、安寧の匂い。
ナランチャは無意識のように、未だあったばかりの女の体に手を回して抱きしめ返した。
それは何かに似ている気がして。けれど、それが何かわからない。
ただ、このまま、できるだけ長く過ごせればいいのにと、そんなことを考えていた。
ナランチャは、その時冷や汗をだらだらと流しながら椅子に座っていた。
その理由は簡単で、目の前には金髪の伊達男と赤茶色の髪をした陽気そうな二人組の男がいた。
「てめえが、ブチャラティのチームに入ったって新顔か。」
「あ、えっと・・・」
「返事ぐれえしっかり出来ねえのか!」
「は、はい!!!」
ナランチャはだらだらと冷や汗を垂らす。怖い、本当に怖い。
彼の脳内には金髪の美しく、そうして怖い女の存在がチラつく。それに赤毛の男がなだめるように手を振った。
「おい、プロシュート。新人にそうキツく当たんなって。」
「ホルマジオ。いいか、こいつはブチャラティの下に就くんだ。こいつが礼儀を知らねえってなれば、ブチャラティの世話をした俺の不手際になるんだぞ?」
「それはそうだけどよ、まだ入って時間も経ってねえんだから。」
「っち!」
プロシュートは苛々とした様子で舌打ちをした。それにホルマジオは苦笑しつつ、ちらりと向かいで冷や汗をだらだらを流す少年に視線をやった。
そこはブチャラティたちのチームがたまり場にしている店の、人目に付かない一角だ。その日はナランチャはいつも通りの時間にやってきていたのだが、その日は珍しくブチャラティやフーゴ、そうしてアバッキオたちは何かしらの用事があって未だ来ていなかった。
そうして、ナランチャは一人でフーゴに出されていた課題をこなしていた訳なのだが。
そうして、やってきた二人、赤茶の髪の男は知らないが、金髪の方は知っていた。
いいですか、ナランチャ、この人の顔は覚えておくんだ!
誰だよ、こいつ。
お前、こいつは止めろ。この人はプロシュートさんだ。ブチャラティの兄貴分で色々と世話を焼いて貰ったんだよ。
だから、無礼だけはやめろと、フーゴやアバッキオからキツく言われていたのでさすがに初手に威嚇、という愚かな選択はしなかった。
急いでノートなどを片付けていると、彼らは気安く椅子に着き、そうしてコーヒーを注文し、ナランチャに話しかけてきたのだ。
「まあよ、そんなに固くならなくていいぜ?」
「えっと、はい!」
「返事だけは一丁前か。」
「お前、ほんとに厳しいな・・・」
ホルマジオと名乗った男はなんとも言えない顔をしてプロシュートを見た後、ナランチャに視線を向けた。
「まあ、今日来たのはただ単に、ブチャラティのとこに新しい。それこそ、スタンドが使えるようになったんだろ?一応、顔を見に来たってだけだ。」
「そ、そうなんですか。」
「・・・力に目覚めることの出来る奴は貴重だ。」
出されたカップに口を付けながらプロシュートは息をついた。
「試験に合格すりゃあ、能力が手に入る。だが、失敗すれば死ぬ。お前はある意味で、どんな理由があるにせよ上澄み側なんだよ。ブチャラティのチームに入るんなら、お前の一挙一動でブチャラティの、ひいてはポルポの評価にも繋がる。覚えとけ。」
冷たく、威圧感のある声だったが、ナランチャはなんだか一気にプロシュートへの好感度が上がった。
ナランチャは理解する、目の前の男も自分と同じようにブチャラティのことが大事なのだ。
だからこそ、自分がブチャラティの足を引っ張るなと釘を刺しに来たのだと。
ナランチャは恐怖が少しだけ薄れるような心地がした。
「はい!」
「元気だねえ。」
ホルマジオが苦笑する。そんな中、かたりと出入り口から足音が聞こえてくる。それに視線を向けると、そこには黒い髪をした女が立っていた。そうして、その後ろにはナランチャが待っていたブチャラティたちも立っている。
「・・・おや、二人とも、どうしてここに?」
ポルポは不思議そうな顔でプロシュートとホルマジオに視線を向ける。そうして、その後ろで必死の形相でナランチャにアイコンタクトをするフーゴとアバッキオの姿があった。それにナランチャは何をすればいいのか分からずでも反射のように立ち上がる。
ポルポはそれを手で制しながら近づいてくる。
「新入りが入ったって聞いてな。どんな奴かなってよ。」
「ああ、なるほどですね。」
ホルマジオは座ったまま気楽そうに答える。その間プロシュートは立ち上がり、女が座るために椅子を引いて待つ。ポルポは当たり前のようにそれに座る。
ポルポは苦笑しながらナランチャに話しかける。
「座っていいですよ。」
「あ、えっと、はい!」
がちがちに緊張して椅子に座るナランチャにポルポはやっぱり苦笑した。そうして、その後を慌ててブチャラティたちが追いかけてくる。
ナランチャは目の前の、幹部と知ってしまった女への無礼になるかを気にしてがちがちに固まる。故に、ブチャラティとプロシュートの会話を聞いていなかった。
「兄貴も来られてたんですか?」
「おお、ブチャラティか。ああ、新入りが入ったって聞いてな。」
「・・・・ええ、そうです。それで。」
「いや、いい。」
プロシュートは息をつきながら、ちらりとポルポの後ろ姿を見つめた。
「てめえだってしたことだ。あのガキだけ責められねえだろ。」
それにブチャラティは黙り込み、視線を床に向けた。
「そう言えば、フーゴに勉強を教わっているんでしたっけ?」
「え、えっと、は、はい!」
ナランチャは現状が分からずに視線をうろうろさせて答える。現在、全員が席に座り、ポルポとナランチャのやりとりを見つめる。
普段はもう少し和やかな空気なのだが、やたらと不機嫌そうなプロシュートのそれにアバッキオとフーゴは内心で奇妙な焦りが生まれていた。
ブチャラティもらしくなく、どこか物憂げにポルポとナランチャを見つめている。
そんな中、ナランチャはそわそわと落ち着かない。彼女がブチャラティを気に入り、何くれとなく世話をしているのは知っているが、自分自身、相当な無礼をした自覚はある。ブチャラティもまた、ポルポのことを尊敬しているようで、何くれとなく無礼をするなと言い聞かせてきていた。
尊敬している人の、尊敬している人だ。
ナランチャだってできる限り礼儀正しくあろうとしているが、それはそれとしてナランチャには礼儀というものが分からない。
こちらをじっと見つめているのがわかるが、自分自身を嫌ってはいないかと怯えてしまう。
「そうですか、どんな感じか見せてくれますか?」
それにナランチャは思わず顔をしかめそうになるが、我慢してノートを見せる。
正直、多分、間違いだらけなんだろうなと言う感覚が拭いきれない。
呆れるか、馬鹿にされるか、それとも。
なんて考えていた中、ポルポはなんだかとても優しそうに笑った。ナランチャは何故だろうと、その顔を見つめる。何せ、彼女は、彼女の、意に異なることをしたことだけは察していたから。
てっきり、嫌われているのだろうと、漠然と思っていたのだ。
けれど、ポルポは少年の顔をのぞき込んだ。
「ナランチャもかけ算苦手なんですね。」
「・・・・も?」
「ええ、私も習ったときはかけ算が苦手だったんですよ。」
それにナランチャは今のことなんて忘れて弾んだ声でポルポに言った。
「そうなのか?」
「ええ、だから、先生に怒られて。試験でも悪い点ばかりでした。」
ナランチャは意外に思った。何せ、彼女は幹部で、武闘派ではなく金勘定で組織でのし上がったことは知っていた。
そんなポルポがかけ算、つまりは数字に弱かったとは!
「なーなー!なら、どうやって得意になったんだ?」
ナランチャは是非ともその秘訣を知りたいと机に肘を突いてポルポの顔をのぞき込む。
それにポルポは少しだけ得意そうな顔でナランチャに笑いかける。
「そうですねえ、まず、算数、数はルールを覚えるのが大事ですね。」
「ルール?」
「例えば、ナランチャ。君は筆算のルール自体を間違えて覚えてしまっていて。」
彼女は簡単に、ナランチャが間違えている理由を教える。それを聞いたナランチャに微笑みかける。
「でも、こういうのって興味がないと覚えるのって難しいでしょう?」
「そー!そうなんだよ!分かりたいって思っても、なんか、頭から抜けてくんだ。」
「ふふふ、ですよね。だから、私はこういうのを好きなものに置き換えて、歌を作ってましたね。」
そう言って彼女は朗々と節を付けて歌う。それは、かけ算を一通り覚えるためのものらしく、例えば、例えば、二人の子どもが四つのリンゴを持って、六本の木のもとで食べる、なんて風に順繰りのものになっている。
女の声で歌われるそれは、お世辞にも歌手なんてものではなく、とても素朴なものなのに。いや、だからこそ聞き心地のよいもので。
「こんな感じでしょうか?」
「・・・俺もそれなら、覚えられるかな?」
「そうですね、もしよければ歌詞を。」
「歌詞かあ。」
「文章を読むのは嫌いですか?」
「・・・あんまし。」
「・・・・そうですか。」
「歌なら、まだ、聞いてられるんだけどな。」
ちらりと、ナランチャは少しだけ含みを持たせてポルポを見る。その意味を理解して、プロシュートとブチャラティが咎めの言葉を出そうとしたが、それよりも先にポルポがナランチャに言った。
「録音してあげましょうか?」
「いいの!?」
ナランチャが目をキラキラさせて彼女に言えば、ポルポは驚いたような顔をした後、これ以上ないほどに優しい笑みを浮かべた。
「ええ、かまいませんよ。」
そう言った女はやっぱりとても嬉しそうな顔をしていた。
ナランチャはそうは言っても、てっきり約束なんて叶えられるなんて思ってもいなかったのだ。
けれど、後日、呆れた顔のブチャラティからとある音源が渡された。
その言葉は真実だった。
音源にはどこか緊張したような、静かな声のポルポの歌が録音されていた。それは、やっぱり、歌手のような完璧なものではない。素人が歌ったものでしかなかった。
なのに、ナランチャは、テープがすり切れてしまいそうなほどにその歌を聴いた。
(・・・初めてだ。)
眠る前にその歌を聴いた。その歌を聞いていると、誰かがナランチャの頭を撫でてくれるような心地になったのだ。
優しい、そんな歌を聴きながら眠った事なんてない。彼が好む音楽はもっと激しいもので、子守歌だって音源は売っていたがわざわざ買うこともなかった。
だから、そんな歌を聴きながら眠った事なんてなくて。
(・・・なんか、すっげえ、いいな、これ。)
ナランチャはまるで宝物を抱きしめるように、その録音されたポルポの歌に包まれて眠るのを好むようになった。
「ナランチャ、腹減ってるか?」
「え、なんだよ、急に。」
ナランチャはなんだと、アバッキオやフーゴと共にブチャラティに返事をした。彼はどこか嬉しそうに。
なんだろうか、とてもらしくない顔をしていた。それがどういった類いの顔なのか分からない。ただ、嬉しそうなことが分かった。
「ポルポから食事の誘いが来たぞ!」
ナランチャはその日、がちがちになりながら、ブチャラティの後ろに立っていた。
(なんでなんでなんで!?)
呼び鈴の音が鳴る。そうすれば、扉の向こうから低い声がした。ナランチャにはそれに聞き覚えがあった。自分がスタンドに目覚めたときに聞いた声。
鍵の開く音がすると共に、開け放たれた家の中はなんだか薄暗い。
「ブラックサバス、ありがとう。」
「さっさと入れ。」
ブチャラティは平然とした様子で、廊下の奥に立つ人影に声をかける。ナランチャはそれに驚く。何せ、そこに立っていたのはポルポのスタンドだった。
ナランチャは困惑した。
(スタンドって、スタンドって、あんな感じ、なのか!?)
それはそれとして幹部の私宅に招かれていることの方がナランチャには混乱を促した。
(なんだっけ、ポルポには悪い癖があって、料理が趣味で?それを作りすぎるときがあるから、信頼できる奴らに振る舞うときがあって?)
今回は自分たちのチームが招かれた、らしい。
ブチャラティはとても嬉しそうであるし、フーゴもアバッキオも慣れたものらしくずかずかと家の中に入っていく。
ここに来るまでの間、彼らはナランチャに苦笑交じりに教えてくれた。
「で、でも、でもさ!こんな服でいっていいのか?」
「かまわねえよ、私宅つってもまじであいつが個人的な付き合いに使ってる家だ。」
「まあ、休日を過ごすための家でもありますけど。」
「え~、いいのかよ、本当に!?」
「お前、あいつに歌を録音させといて何言ってるんだよ?」
呆れた声で帰ってきたけれど、それはそれだろう。何せ、今更といえどもそれはそれだろう。
ナランチャが恐る恐る家の中に入ってみて感じたのは、なんとも普通の家だということだった。
特別豪華そうな絵画だとか、壷だとかがあるわけではない。
それこそ、ナランチャの家と変わらないぐらいの簡素さだった。いいや、所々に花が飾られていたり、可愛らしい小物が飾られているのがわかる。
(なんだろう、なんか・・・・)
ナランチャは何か考えるようで、けれど、その言葉の意味が分からずに口をつぐむ。
そうして、チームの皆の後を追った先。
広々としたリビングにて、ナランチャは驚いた。
部屋の中は薄暗い。
カーテンが閉められており、小さな明り取りの窓から光が微かに入っている。けれど、不思議と、明るいという印象を受けた。
部屋の中は華美さはないが、誰かしらがきちんとこまめに手入れをしているのが分かる内装だった。
そうして、くんと香る、何か分からないが食欲をそそる匂いがする。
誰かが自分に近づいてくるのが分かった。そこにはポルポが立っていた。
長い髪を珍しくまとめて、エプロンをしていた女は、本当に普通で。
ナランチャは自分がどこにいるのか忘れそうになる。
「やあ、ナランチャ。」
「あ、あの、こ、こんにちは!」
「はい、こんにちは。」
ポルポは穏やかに微笑み、そうしてナランチャの顔をのぞき込んだ。
「今日は急に呼び出してすみません。」
「い、いえ。」
ナランチャは改めてどう接すればいいのか分からなかった。ポルポは当たり前のようにナランチャの手を取ってテーブルの方に招き入れる。
「今日はたくさん食べてくださいね?」
そう言って微笑む姿にナランチャはこくりと頷くことしか出来なかった。
ブチャラティはそれを見つめる。ナランチャの手を握り、こちらに連れてくるポルポの姿を。
それにアバッキオが心配そうに声をかけた。
「・・・大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。大丈夫だ。」
ブチャラティは何度も、大丈夫だと頷いた。
プロシュートとホルマジオがナランチャを見に来たのは、もちろん、珍しく現れたスタンド使いが気になったのは嘘ではない。
ただ、それだけが理由ではなかった。
ナランチャがスタンド使いになったことを知ったブチャラティはポルポの元を訪れた。
部屋の中でうなだれる彼女にブチャラティは問うた。
「何故、どうしてあいつにスタンドを!?」
「・・・・試験を知り、それを望み、彼は獲得した。それだけです。」
ブチャラティに背を向け、静かに言った女にブチャラティは首を振る。
「ですが!あいつに因縁も、理由も、罪も、業もなかったはずです!どうして!!」
ブチャラティのそれは当然だった。ポルポは基本的にスタンド使いについての選別をあまり好まない。組織にあまり人を入れても質が悪くなれば損になると表向きには言っている。事実、彼女の選んだ人間は基本的に忠義に厚く、よくよく仕事をするのでボスもそれを認めている。
故に、何故かナランチャのことを珍しく招き入れた理由を彼は聞きたかった。
それに、ポルポは肩をふるわせて、吐き捨てるように言った。
「あなたが!」
珍しい、それは、とても珍しい彼女の怒りの声だった。
「あなたが、それを、それをいうんですか・・・・」
「何を・・・」
「恩があると、そういって、それだけで、この世界に飛び込んできたあなたが、それを、どうして、言えると。」
その言葉にブチャラティはああと理解する。ポルポはそのまま言葉を続ける。
「あの子は、あなただった。あなた自身で。」
啜り泣く声がする。それに闇の中からブラックサバスが現れてポルポの背中を撫でた。それにブラックサバスは顔を歪めた。
自分がしたこと、どうしてもと、譲れぬそれを行って。
何も望むな。
金の髪をした、美しい人が顔をしかめて、悼むような顔をして。
彼女の周りにいる者たちに伝言のように、祈りのように、空しさのように、釘刺しのように、延々と伝わり続ける言葉が頭の中を回る。
「恩返しだとか、何かをしてやれたらなんて考えるな。するなら、何も持たねえ奴がいたら、代わりにそいつに出来ることをしてやれ。」
それが一番、ましな選択だ。
だから、だろう。
だから、きっと、自分も、そうしてフーゴもナランチャに手を差し出した。
手を差し出して、そうして、その結末は自分が一番に理解していたことだった。
ブチャラティはそっとポルポの背中を撫でた。まるで泣きじゃくる幼子を慰めるように。
それにポルポは苦しそうに呻くように言った。
「・・・・どうして、何故、何故、あなたたちはそうなんですか?」
微かな声でポルポが問いかける。
(あんたが、優しいから。)
優しい人には笑って欲しくて。だから、だから、そうやって。
けれど、いつだって、必死に手に握りしめて差出したものが彼女を笑わせることもなくて。
だから、ブチャラティには何も言えない。
ナランチャの気持ちが痛いほどに分かってしまうから。
(あいつは、きっと。)
優しい人には笑って欲しかったのだろう。表面的には違っても、自分に手を差し出してくれた人に、何かをしたくて、側にいたくて。
階段を降り始めてしまって。
だから、ブチャラティは叱ったのだ。病院で自分がナランチャを叱ったのは、自分と同じ轍を踏んで欲しくなかったからで。
大抵はびびって帰ってくることは無い。けれど、そうしないものがいた。ブチャラティと同じように。
けれど、それはその優しい人を傷つけることも分かってしまうから。
ブチャラティは女の背中を撫でることしか出来なかった。
だから、目の前の光景にほっとする。
女が少年に微笑みかけている。それが嬉しい。
どうかと、ブチャラティは願う。
どうか、どうか、このつかの間ができる限り長く続きますように、と。
風呂上がりのバスタオル一枚のポルポに出くわしたときの反応。
リゾット
固まる。その後は、すまないと謝ってそのまま立ち去る。その後、普通に説教。
「・・・危機感がなさ過ぎる。一応異性なんだ。いくら、あいつらがそう言った意味で興味がないとしてもだ。大体。」
長い説教が来る。当分、裸が頭の端でチラついて気まずい。
ギアッチョ
叫ぶ。馬鹿野郎ってただ叫んで、自分の着ている服をともかく着せる。
「馬鹿野郎!馬鹿野郎!ばっかやろう!!!てめえ、一応は男しかいねえんだぞ!?鶏ガラでも女なら良い奴なんていくらでもいるんだぞ!!!」
声がデカすぎて誰かしら寄ってくるので更に叫ぶ。
メローネ
何も言わずに体を見つめる。
「・・・痩せすぎだ。いや、実際の体重を聞いていたが、これほどとは。」
普通に健康状態を確認したくて体を触ってくる。その後は、太らせたくて食事に誘ってくるし、体が薄すぎて寒そうなため積極的に上着とか貸してくれる。
イルーゾォ
痩せた体に引く。
「お前、お前、いや、体重知ってたが。リゾットやらプロシュートが必死になるわけだ。お前、大丈夫なのか?」
濡れた猫を見ている気分になって哀しくなる。腹減ってないかと聞いてくるようになり、お菓子とくれるようになる。
ホルマジオ
驚く。そうして、カラマーロにだけは言わないでくれと頼む。
「うっわ!お前、いくら何でも無防備すぎだろ。ほら、さっさと服着ろ。誰か来ないか見といてやるから。後、頼むからカラマーロにはこのことは言わないでくれ。」
ポルポのことは心配だが、それはそれとしてカラマーロからの評価が下がることが怖い。
プロシュート
叫ぶ二人目。切れるし、上着を着せてくる。
「ばっかやろう!!!てめえ、ここをどこだと思ってやがる!てめえ、女って自覚はねえのか!?」
カラマーロに報告して二人から説教が来る。その後、ポルポが前よりやつれた気がして哀しくなって暗い顔をする。
ペッシ
赤面する。恥ずかしいし、普通に謝ってくる。あとで、危機感がないことが心配になってくる。
「うっわ!ごめん、わざとじゃない!見てない、見てないから!早く服着てくれよ!!」
「なあ、ちょっとあれはだめだと思うぜ?いや、ここにあんたのことを傷つける奴はないけどさあ。美人なんだから危機感は持った方がいいと思うんだよなあ。」
ソルベとジェラート
口笛吹いたり、からかってくる。
「えー、なんだよ、誘ってんの?」
「いいぜ、お誘いには乗らねえと男が廃るな。」
別に手は出さないし、髪とか乾かしてくれる。別に何にも考えてない。なんか濡れた猫を見て世話をした程度。
ポルポ
羞恥心がないわけではないが、多方面に心が折れてるので裸を見られても特別に動揺はないし、気にしない。他人に裸を見せないという常識としてやらないが、悪意とかもなく偶然なら気にしない。ただ、貧相な体を見せて申し訳ないなあとは思う。