蛸の見た夢   作:藤猫

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ドナテロ・ヴェルサスその兄たちと、目をそらせなかった人。

ナランチャの続き書こうかと思ったんですが、どうしてもこっちが書きたくなったので書いてみました。

あの兄弟の年齢差って色々揺れがあるんですが、ヴェルサスが末っ子で行こうと思います。ちょっと数話続くかも。
ヴェルサスと他の兄弟まとめるか、それとも個々で書いていくか悩ましい。

後書きのはお題箱に来たので回答みたいなものです。


誤字脱字などは感想での指摘はご遠慮くだされば幸いです。
感想いただけましたらうれしいです。
お題箱作ってみました、何かあれば
https://odaibako.net/u/fujineko56


信頼への道

 

ろくでもない人生だった。

ろくでもない人生で、それでも、ドナテロ・ヴェルサスは自分がどうしてそんな目に遭ってきたのかようやく理解した。

 

「・・・こんにちは、ドナテロ・ヴェルサス君。その、君に提案をしたくて今日は会いに来たんだ。」

更正施設の面会室でそう言って微笑んだ女に今までのろくでもない人生はこのための帳尻合わせだったのだと理解した。

 

 

ドナテロ・ヴェルサスは自分の家というのが、お世辞にも居心地がいいものでないことは理解していた。

実母は、養父との家庭を優先し、ヴェルサスのことを無視したし、養父も言わずもがなだ。

そんな中、彼は家出を決行し、そうして。

 

濡れ衣を着せられ、あまつさえ更正施設で散々ないじめにあい、手当てされた傷口からミミズが出てきた。

 

高熱にうなされていたヴェルサスが悪夢のような自分の人生に辟易し、ベッドに転がっていたときだ。

 

面会の報せが入った。

ヴェルサスは疑問だった。何せ、自分の両親がそんなことをするとは思えないし、他に自分に会いに来るような存在はいない。

恐る恐る入った部屋には、見慣れない女がいた。黒い、長い髪で、青白い肌と痩せた体をしていた。

 

「・・・こんにちは。」

 

その声は女にしては低く、男にしては高い声だった。特筆すべき部分のない顔立ちは強いて言うなら優しそうと言うこと以外に何もない。

ただ、一つだけ。

 

(・・夜明け、みたいな、目。)

 

それだけがとても、目を引いた。

 

「・・・何のようだよ。というか、誰?」

 

言葉少なに、つっけんどんにそう言えば女は苦笑して、少しだけ悩むような顔をした。

 

「私は、私は、ええっと。ああ、そうだ。その、名前を、名乗らなくて、いけませんね。」

 

考えながら話しているのかぶつ切りの言葉はとても上品そうな発音だった。やっぱり、自分には馴染みのなさそうな存在だった。

そうして、それは恐る恐る、とてもぎこちなく微笑んだ。

 

「私のことは、ポルポと呼んでください。」

変な名前だった。外国の人間なのだろうか?

そんなことを思っていると、ポルポは息をつき口を開く。

 

「私はあなたの父君の知り合いに当たります。」

 

それにヴェルサスはがたりと立ち上がった。

 

「ち、ちおや!?今まで、会いにも来なかった!?」

「ええ、残念ながらあなたの父君はすでにお亡くなりになっています。」

 

それにヴェルサスは虚を突かれてしまった。今更父親が現れたと、自分のことを放っていたはずの存在に嫌悪と、別種の細かな感情があふれ出たが。

すでにそれをぶつける存在がいないことに熱を持て余してしまう。目の前のそれに八つ当たりしようかと思ったが、それ以上に現状に混乱していて全てが喉の奥に飲み込まれた。

女は穏やかに微笑み、椅子を指さす。

 

「私はこれからのことをお話ししたく参りました。」

話をしましょうか?

 

それにヴェルサスは固まる。固まりつつ、恐る恐る椅子に座る。何せ、その女はヴェルサスが生きていた中で会ったことのない人種だった。

故に、どう対応すればいいのか分からずに、ともかくはとそれに従う。

 

女は淡々と話を始める。

 

「あなたの裁判のやり直しが決定しました。」

「え!?」

「こちらの調べで、あのスパイクが別の人間によって盗まれたことが分かりました。すでに証拠等はそろっているので簡易的な裁判が行われます。すぐにここから出られますよ。」

「あ、えっと、その・・・・」

 

あまりのスピードで展開される事態にヴェルサスは混乱の極みに落ちる。

 

「な、なんでそんなことが!?」

「ああ、その。先ほど言いましたが、あなたのお父君のことを知っていたんですが。ご子息がいることが分かり、探している最中にあなたのことを知りました。ですが、あなたは更正施設に入れられているということで。色々調べたんです。」

「い、色々、調べたって。そんな簡単に言うけどよぉ・・・」

 

ヴェルサスはどくどくと鳴る心臓が、痛いほどに高鳴るそれに目の前のそれを見た。

分からない、全部が分からない。

 

父親の知り合いが今更に会いに来たのも、どうしてそんな手間の掛かることをしたのかも、それが何を望んでいるのかも。

 

ヴェルサスは咄嗟に聞こうとした。

何がしたい、何を望んでいると。

けれど、口から飛び出したのはまったく別の言葉だった。

 

「俺が、してないって、なんで信じられたんだよ。」

 

そこで思うだとか、考える、ではなくて。

信じる、という言葉を吐いたのは何故だっただろうか?

 

ただ、そう口にした言葉に女は少しだけ困ったような顔をして。そうして、口を開く。

 

「いいえ、私はあなたを信じたわけではありません。」

 

それにヴェルサスは冷や水を浴びせられたかのような気分になり、それと同時に女は言葉を続けた。

 

「信じる、という行為には理由が必要です。残念ながら、あなたと私にはそれが決定的に欠けています。私はあなたを信じたのではありません。」

私はあなたを信じるために、あなたを知ろうとしたのです。

 

それはとても、不思議な言葉だった。

それは、ある意味でとても冷たい言葉のように聞こえて。

けれど、ヴェルサスは理解した。その言葉はとても誠実なものなのだと。

 

その女はヴェルサスをどんな方向性であれ、決めつけるのではなくて。

ヴェルサスがどんな人間かを知ろうとしてくれたのだ。彼女は信じためにヴェルサスに歩み寄り、そうして、こうやって会いに来てくれた。

 

どくどくと、心臓が鳴る。

訳も分からずに、ヴェルサスはなんて返事をしていいのかも分からずに、視線をうろうろさせる。

 

「そうして、あなたのことを調べ、結果としてあなたはえん罪だった。だから、あなたをここから出そうと決めたのです。」

「・・・馬鹿だろ。」

「そうでしょうか?」

「当たり前だ。調査に警察を動かすのだって。すっげえ大変なはずだろ・・・」

 

咄嗟に出てきた憎まれ口にポルポはどこかおどけるようにその細い腕を掲げて筋肉を見せつけるような仕草をする。

 

「ご安心を。私、これでもとってもお金持ちなんですよ?」

 

その、とても似合わない仕草にやっぱり毒気が抜かれるような気分になる。それは、きっと、女が自分のことを慰めるというか、元気づけようとしているのだと無意識に察せられたせいだろうか?

 

思わず苦笑染みたそれを浮かべたヴェルサスにポルポは同じように静かに微笑んだ。

 

「なので、ここからすぐにでも出られます。高熱も出たと言うことなので、医者を手配するので一応は検査を。」

「・・・金は。」

「そちらもこちらで出しますのでご安心を。」

 

女はそう言った後、どこか哀しそうに視線を下に向ける。

 

「あまり、他の方と上手くいかずに手ひどく扱われたと聞きました。検査入院の間に今後のことを・・・・」

「今後のことなんて・・・」

 

けれど、力が抜けると同時にヴェルサスはうなだれるように吐き捨てた。ヴェルサスの帰らなければいけない場所は変わらないのだ。いいや、いっそのこと、捨てられるのかも知れない。

 

「今後なんて、何を考えるんだよ。」

「・・・家には帰りたくないですか?」

「帰りたくないし、帰ることもできねえってわかってんじゃねえの?俺のことを、調べたんなら。」

 

急激な展開に怒るだとか、苛立つだとかの感情も忘れてそう吐き捨てた。

それにポルポは目を伏せ、そうして、ヴェルサスに視線を向けた。それはどこか気まずそうで、けれど、何か確固たる覚悟を決めた目をしていて。

 

「・・・・ヴェルサス君。もし、もしも、です。母君のところに帰りたくないのなら。」

私の所に来ませんか?

 

そう言った女。名前以外、父親の知り合いだという事以外知らない女。信用なんて欠片だってないのに。

ヴェルサスはまるで咄嗟のようにその誘いに乗ったのだ。

 

 

 

(・・・まじで来ちまった。)

 

ヴェルサスはぐるりと周りに視線を向けた。

そこかしこから聞こえる言葉は、彼にとって馴染みのない言葉で。

 

彼がいるのは、とあるイタリアの空港の一つだった。

 

 

 

「行く!」

 

面会室でそう返したヴェルサスに女は迷うような顔をした。

 

「・・・ヴェルサス君。すみません、私が言い出したことですが、もしも私を保護者として、私のところに来るならイタリアまで来て貰うことになります。」

「い、イタリア!?」

「はい、今は、なんというか仕事でこちらに来ていて。拠点を移すこともできないので。ただ、あなたが母君から離れたい、ということを要望されるならこちらであなたが暮らせるように寮制の学校や、また世話をしてくれる人をきちんと用意します。」

 

女は今すぐ決める必要はないと微笑んだ。それにヴェルサスは悩む。

家には帰りたくない、目の前のそれに頷いたが、今になって女が信じられるのか分からない自分がいる。

 

「・・・・なあ。」

「はい。」

「・・・・なんで、あんた、こんなことしてくれるんだよ?」

 

ヴェルサスは必死に、その子どもなりに、今自分がとても重要な選択肢の前にいて。

だから、何が正しいのかを模索してそう問うた。

それにポルポは不思議そうな顔をして、悩むように笑みを浮かべて首を傾げる。そうして、何か、無意識のように。

面会室で、ヴェルサスとポルポを隔てる透明な板に手を伸ばした。ぺたりと触れたその手は、丁度ヴェルサスの頬の辺りを撫でようとしているのだと理解して。

ヴェルサスはその、白くて骨張った手に無意識のように、同じように手を伸ばした。

板にぺたりとくっつけたヴェルサスの手にポルポは何か、とても嬉しそうに笑った。

 

「・・・手の大きな子ってね。」

「て?」

「将来、背が伸びるんだって。君はきっと伸びるんだろうね。」

ご飯、たくさん食べないとね。

 

それは答えではなかった。答えではなかったのに。

その女は、なんだか、とても嬉しそうな顔で。

これから、ヴェルサスの背が伸びて、大きくなることがこれ以上ないほどに嬉しいことだと、そんな風に言っているように聞こえて。

 

ヴェルサスの脳裏には、自分が成長する度に、どこか忌々しいと。

服も、靴も買い換えなくてはいけないと苛立つ親の姿で。

 

その顔に、ヴェルサスはたまらなくなって叫んだ。

 

「俺、イタリアに行く!」

「・・・いいんですか?その、言葉も分かりませんし。」

「行く!」

いきたいんだ。

 

ヴェルサスは選択した。その時、その日に。

そうして、彼はその選択が正しかったのだと、ずっと信じている。

 

 

 

「・・・・ヴェルサス、手続きが済んだ。こっちに来い。」

「わ、わかった。」

 

ヴェルサスは恐る恐るその男を見上げた。

 

 

ヴェルサスがイタリアに向かうまでにはそれ相応の手続きが必要になった。

まず、ヴェルサスの保護者の変更だろう。

これについてはスムーズに進んだそうだ。

ヴェルサスはそれを哀しいとは思わなかった。元々、彼は両親とはそういった関係であったし、今は彼には向かいたいと思うところがある。

それからも色々とあったそうだが、ヴェルサスがしたことはあまりない。殆ど、ポルポが行ったことだ。

そうして、いざ、イタリアに向かうとき、彼女は仕事が立て込んでおり、付き添いが出来なくなった。

そんなとき、迎えとしてやってきたのがその男だ。

 

ヴェルサスはばくばくと心臓が鳴った。

何せ、その男はどう見てもカタギではない。

 

二メートル近い身長に、仕立てのよさそうなスーツで覆われた体が鍛え抜かれていることが分かる。色の抜けたような銀の髪に、そうして、赤い、瞳。

ポルポの目と同じなのに、受ける印象が違うのは何故だろうか?

 

ポルポの部下だと名乗ったそれはお世辞にも子どもの迎えを頼むのには不似合いに思えた。

 

「怯えなくていい。」

「お、怯えてない!」

 

咄嗟に叫んだそれに、リゾット・ネエロ、やっぱり変わったでは済まない名前のそれはヴェルサスと視線を合わせるために小さく屈み込んだ。

いくら視線を低くしてもその鍛え抜かれた体は威圧感がある。けれど、男は、視線を合わせてみれば驚くほどに穏やかな目をしていた。

それにヴェルサスは何と無しにポルポと似ているなあと感じた。

 

「俺はポルポから一番に信頼されている人間だ。必ず、お前を無事にあいつの元に送り届けると誓おう。」

 

その言葉はヴェルサスにとって鼻につくものだった。

ポルポはよく、信頼という言葉を口にしていた。故に、リゾットという男のそれはまるでヴェルサスには自慢のように聞こえたのだ。

 

「俺だって、ポルポは信頼してくれようとしてる。まだ、会ったばかりだからはっきりしてねえけど。俺だっていつか信頼される!」

「ああ、わかっている。お前はあいつを信頼してイタリアに来るんだろう。先に歩み寄ったお前をあいつは信じる。だからこそだ。」

裏切らないでやってくれ。

 

それはある意味で、ヴェルサスがすぐにポルポを裏切る可能性を示していて。けれど、それと同時にその言葉がとても切なる願いがあるように思えて。

 

重い言葉だったのだ。だったからこそ、ヴェルサスはなんと返せばいいのか分からなくなる。

 

「・・・わかってる。」

「そうしてやってくれ。」

 

リゾットという男は無口で愛想がいい男ではないが、それと同時に過剰にヴェルサスの領域に入り込もうとしなかった。きちんと距離を取り、それと同時にヴェルサスのしたいことを聞いてくれる男だった。

ヴェルサスはそわそわとする。

彼の知る、年上の、大人の男というものはもっとヴェルサスに無関心か、それとも支配的な存在だった。

けれど、男はヴェルサスを気にかけてはいるのに、支配的な臭いもなければ、さりとて無関心というわけではない。

 

ヴェルサスが気になったことに気づき、それについて話をしたりだとか。ヴェルサスの好物を予めポルポから聞いていたのか食べるかと聞いてくれたり。

初めての飛行機に不安な気持ちになっていたヴェルサスに気づいて、気を紛らわせるために話しかけてくれたりだとか。

 

不思議な感覚だった。

 

それはポルポと同じようにヴェルサスを気にかけているのに、かといってヴェルサスがどうしたいかと聞いてくれる。

わからない、わからないけれど。

それは悪くない気分だった。

 

「・・・なあ。」

「なんだ?」

「あんた、ポルポから信頼されてるんだよな?」

「ああ、そうだ。」

「どうしたら、ポルポに信頼される?」

 

ヴェルサスがそう聞いたのは、何故だろうか?

漠然とした不安だった。

そこで愛されるだとか、好かれるとかではなくて、信頼という言葉を使ったのは。

偏にあの女がそれを重きに置いているのだとなんとなく分かって。

 

愛される己だとか、大事にされる己というものは想像できなくて。

けれど、信頼ならばなんとかなる気がした。

少なくとも、女はヴェルサスを信頼しようと、歩み寄ってくれたから。それぐらいは出来る気がした。

 

それにリゾットはふむと頷き、考えるような仕草をする。やっぱり、ヴェルサスはそれに不思議な気持ちになる。そうやってヴェルサスの漠然とした問いかけにきちんと考えて、答えてくれようとしてくれた人はいなかった。

その男には余裕、というのだろうか。

 

焦りや苛立ちは感じられず、ゆったりとした空気感があった。そんな男なんて知らなくて、ヴェルサスはそわそわして、それと同時にドキドキとしていた。

最初は男のことが気に入らなかったのに、今は男と話すのが楽しいと思う自分がいた。

 

「あいつは誠実な人間を信頼する。」

「誠実?」

「嘘をつかず、きちんと仕事をこなす人間だな。」

「仕事、仕事・・・・」

 

ヴェルサスはどうしたものかと考える。未だ子どもの自分では仕事なんて出来るはずがないのだ。ヴェルサスが思わず顔をしかめたことに何を考えているのか理解したのか、リゾットは淡々と言った。

 

「大人と子どもの仕事は違う。お前はひとまず、きちんと食事を取って、学校に行けばいい。後はそうだな。一緒に住む兄貴とも仲良くすることだ。」

「そんなの、仕事じゃねえだろう。」

 

それにリゾットは軽く首を振る。

 

「・・・いや、仕事だ。少なくとも、ポルポにとっては。あちらについたら、イタリアの言葉に慣れるんだ。学校には、ポルポの知り合いが多い所に通うことになる。英語が話せる奴もいたはずだ。そこまで不自由じゃねえだろう。お前はひとまず、これからの生活に慣れろ。それが最優先だ。」

 

リゾットは淡々とそう言いつつ、安心しろとも付け加えた。

 

「もしも、相性が悪いってならポルポに言えば違う家を用意するだろう。ただ、上手くやっていけそうならそのまま過ごせばいい。」

「・・・上手くな。」

 

ヴェルサスの脳裏に浮かんだのは異父妹たちだった。父親が同じだったからと言って何かが変わるとは思えなかった。

 

 

 

「ドーナーテーローー!!!朝ご飯!!!起きる!!!」

 

朝から聞こえてきた爆音にヴェルサスはのろのろと起き上がる。そうして見回せば、この頃見慣れたような気になってきた自室が存在していた。

朝から己の世話役の、そう年の変わらない少女は騒がしい。

木製のしっかりとした作りの家具だとか、ヴェルサスの好きなスポーツ選手のポスターだとか。

所々に散りばめられたヴェルサスの趣味が見える部屋だった。

ばふんとベッドに倒れ込み、欲望に従って二度寝としゃれ込もうかと悩んだ。けれど、それはがちゃりと開いた扉の音と、そうしてどかりと自分の上に乗り込んだ何かに邪魔される。

べろりとそれはヴェルサスの顔を舐める。

 

「わ!わ!わかった!起きる、起きるって!」

 

目を開けたヴェルサスの目の前にはサイボーグのような見た目をした狼がいた。その狼、スタンドはたんとベッドから降りて一鳴きして促すように扉の前に立つ。

それにヴェルサスはちょっと笑ってベッドから降りた。

 

 

ヴェルサスの住んでいる家はとても広い。

その家には、彼と、彼の一つ上の兄たちと、そうして世話係の女が住んでいる。そうだとしてもとても広い家だった。

ただの子どもに、そんな自宅を用意すること自体が驚きだった。

 

明るい廊下を抜けて、ダイニングに向かう。そうすれば、彼にとって見慣れたものになった三人と、そうして。

 

「ポルポ!?」

「あ、ああ、ドナテロ。おはようございます。」

珍しく、本当に珍しく。

彼の保護者であるはずの女が椅子に座って微笑んでいた。

 

 

「なあ、いつの間に来たの!?」

 

ヴェルサスが嬉しくなって女の膝に縋り付けば、女はふらふらとよろめきながら少年の頭を撫でた。

 

「昨日の深夜に帰ってきたんです。」

「起こせよ!」

「夜中に起こせませんよ。」

 

苦笑する女にヴェルサスは不機嫌になって顔をしかめる。

そうしていると、ヴェルサスの兄のリキエルが声をかける。

 

「おい、朝飯食えよ。」

「あ!?邪魔すんなよ!」

「いいのかあ?ポルポが作った飯だぞ?」

 

それにヴェルサスはうっと呻く。ちらりとテーブルを見れば、母国時代では考えられない豪華な食事が用意されていた。

 

「そーですよ!ほら、席に着く。」

 

そう言って慌ただしくヴェルサスたちの世話係を務めているクララが現れる。それにヴェルサスは少しだけ考えた後、いそいそと席に着く。

ポルポの隣に座れたのだからいいだろうと考えつつ、あまり喋らないウンガロをちらりと見た。

 

皆が席に着くと、おもむろに手を合わせて祈りの形を取る。それにポルポは食前の祈りの言葉を紡ぐ。

ヴェルサスは特別信仰心なんてものはなかったし、そんな行為をここに来るまでしたことはない。

ただ、ポルポは敬虔なカトリックであるらしく、自分たちはしなくていいと言ってくれたけど習ってやっている。

別段、意味はない。ただ、まねをしたくてやっている。それだけだった。

ただ、ヴェルサスはちらりと祈る女を見た。目を閉じて、柔らかな声で言葉を紡ぐ。

その姿を見ることが好きだった。

 

「さて、みんな、学校行くから送っていくよ!」

 

クララのそれにリキエルとウンガロが立ち上がる。まだ十代前後の彼らは慣れない国であることを考え、送迎をされている。父親のせいで同い年のウンガロとリキエルはヴェルサスよりも前に生活を共にしていたせいか比較的仲も良い。孤児院で育ったために共同生活にも慣れていることもあったのだろう。同い年なため、兄弟というよりも友人と生活しているという感覚なのかも知れない。

 

「俺、今日休む!」

 

ヴェルサスはいそいそとポルポに近づいて叫んだ。それにクララはあちゃーという顔をしてポルポもどうしたものかと悩むようにヴェルサスを見つめる。

 

「ドナテロ・・・」

 

リキエルが末っ子を説得するために声をかける。が、それよりも先にウンガロがヴェルサスの頭を掴む。

 

「行くぞ。」

「行かねえ!」

 

ヴェルサスのそれにウンガロは呆れたようにため息をつき、そうして耳元で囁いた。

 

「お前、またレオに馬鹿にされんぞ。」

 

その言葉にばっと顔を上げたヴェルサスをウンガロは呆れた目で見下ろしていた。それにヴェルサスは反論しようとして、けれどそれをすれば負けた気になって顔を背ける。

それを見ていたポルポは苦笑して、そっとヴェルサスに話しかけた。

 

「ドナテロ?」

「・・・・なんだよ。」

「ちょっと来てくれますか?」

 

それにヴェルサスがポルポに近づいた。女にしては背が高い女は、成長期の少年と座ってもまだ目線が合った。彼女は穏やかに微笑み、そうしてとっておきの秘密を話すかのようにヴェルサスに囁いた。

 

「実はですね、今日はあなたの好物を作ろうと思ってたんです。」

 

それにヴェルサスはポルポの顔をきらきらとした顔で見つめる。それにポルポは淡く微笑み、そうして、そっと彼に囁いた。

 

「だからね、今日はたくさんお腹を空かせて帰ってきてくれると嬉しいんですが。」

「約束だぞ!」

 

ヴェルサスがそう言うと、ポルポはええと柔らかに微笑みそうして両手を広げる。

それに彼は飛びつくように収る。そうすれば、頬と頬を左右でぺたりとくっつける。

柔らかくてすべすべした肌にヴェルサスはどきどきする。

 

「今日もいってらっしゃい。ドニー。」

呼ばれたい愛称にヴェルサスはどきどきしながらうんと頷き、名残惜しそうに腕の中から這い出る。

そうして、自分と同じようにリキエルとウンガロも抱きしめられるのが見えたけれど気にはならなかった。

 

 

 

ヴェルサスのイタリアでの生活は、不慣れなことは多かれど、特別大きな事件はなかった。

 

異母兄たちとは、特別仲が悪いというわけではなく、さりとて良いとも言えなかった。

リキエルは黒い髪をした少年で比較的穏やかな性質をしていた。きっと、自分たちの仲では一番の優等生なのだなあと思った。

ただ、それはそれとして臆病というか、ストレスに弱いのか不安がる節が見えた。

けれど、生意気、というか攻撃的な言動のヴェルサスのことも寛容に、というか呆れつつも受け流して何くれとなく構おうとしてくれる。

その兄ぶっているような言動は好きではない。一つだけ年上、というのもあまり好きではなかった。年上の同性はあまり好きでなかったのだと思う。

ポルポはリキエルの目をペリドットのような目だと賞賛していたのを聞いた。

 

青い目だっていいもののはずだ。

 

そうしてウンガロ。

それは目つきの悪い奴でいつだって不機嫌そうだった。黒い目をしたそいつは、無骨な顔立ちに反して鮮やかな金の髪をしていた。

それは何か、ヴェルサスのことを叱ってくる節があるので好きではなかった。そう言っても、彼は基本的に見た目に似合わず、という言い方も変だが勉学に勤しみあまり関わる機会はなかった。

ただ、やっぱり、ポルポにはウンガロも懐いているのか話しかけはしないが彼女が帰ってくればどこかしら側にいる姿を見かけた。

 

似ていない兄弟だと思った。

彼女曰く、自分たちは少なくとも父には似ていないらしい。

それがヴェルサスは嫌だった。

 

何故って、彼女が自分に近づいて来た理由は、ヴェルサスが“父の息子”なのだ。“血統”に自分は導かれている。

ならば、それを感じさせる要素は多ければ多いほどいいはずだ。

 

ポルポに信頼されたい。

それが少年の願望だった。

 

信頼されると言うことは近しいと言うことだ。それは、精神の近しさだ。肉体、血の近さなんてさほどの意味を持たない。だって、血の近しい母はヴェルサスを愛してもくれなかったし、大事にもしてはくれなかった、

 

大事なのは魂がどれだけ近く、親しいかであるとヴェルサスは考えた。

 

だって、誰がしてくれただろうか?

 

誰もヴェルサスが心地よく過ごせるように部屋を彼の好きなもので埋めようとしてくれなかったし、学校が居心地のいいものかと話を聞き、勉強を見てくれはしなかった。

毎日伸びた背のせいか、すぐに小さくなる服を見て嬉しそうな顔で大きくなったんだねと微笑みかけてはくれなかったし。新しいものを嫌な顔一つせずに用意もしてくれなかった。

 

そうして、誰が、誰も、ヴェルサスの好物を把握して、それを用意してくれて。今日のご飯は何がいいなんて、献立を決めさせてくれただろうか?

 

ヴェルサスはほんの少し、それこそ年という単位さえ過ごしていない女とのふれ合いで理解した。

 

“幸福とは安心”なのだ。そうして、“安心とは信頼”なのだと。

 

ポルポの側にいたい。そうして、誰よりも魂の近しいものでいたい。

そのためには信頼が必要なのだ。

信頼されれば近しい者であり、そうして幸福を与えてやれる。

 

そんな存在を手放す人間なんていないはずだ。

 

 

(そのためには、そのために、必要なんだ。)

 

ヴェルサスは自分の手をじっと見る。

彼は少なくとも、ポルポの口から聞いてはいないが、この家に来たときに何故彼女が父の息子を探していたのか理解した。

暗がりに立つ、黒い道化師。

 

スタンド能力。

 

父はその能力者だったらしい。

 

(きっと、父親がそうだから、俺もそうだって思ったんだ。)

 

事実、リキエルとウンガロたちはスタンド使いである。スタンド能力もすでに見た。

ヴェルサスもそうであるはずなのだ。彼もまた、ポルポのスタンドであるブラックサバスを見ることが出来るのだから。

ぎゅっと彼は自分の手を握る。けれど、彼の能力は未だに発現しておらず。

 

(早く、早く、能力に目覚めるんだ。そうすれば、もっと“信頼”される。仲間だと、魂が近づく、はずなんだ。)

 

けれど、ヴェルサスのスタンドは未だに姿を現さなかった。

 




ポルポが落ち込んだとき、どうやって慰めるか

リゾット
口説き文句を言ってくれる。
普段寡黙で言いそうに無いためか、口説き文句を言ってくるリゾットがポルポのツボなため笑ってくれるため。息が切れるほど笑われるためそこまでだろうかと悩んでいる。
ただ、らしくないと言われるとちょっと不服というか不満。自分の根っからのイタリアの男なのだから。
女を口説くなんて確かに滅多にしないけど、その女のためにならばいくらでも甘い言葉を吐いてもいいと思う。

プロシュート
髪をいじらせてくれる。拾われた当初、ポルポが髪を切ったり、結び方などを教わった。その時によく髪で遊ばれていたが、女みたいな髪型にされるのが不満で滅多に触らせてくれない。髪をとかされていると自分でも幼い表情になる自覚があるためやらせたくないが背に腹は代えられない。

ホルマジオ
お互いにバレバレなスタンド能力を使ったマジック風のおふざけを見せてくれる。
「おお、泣いてるお嬢さんには花でもいかが?」
などと行ってスタンド能力で小さくしていた花とかお菓子をくれる。そういったおふざけが一番気が紛れると分かっている。

イルーゾォ
鏡の中に招いて一人にしてくれる。
一言、入るかと聞いて頷けば鏡に入れてくれてポルポに言われるまで放っておいてくれるし、頼めばぼやきつつも飲み物だとかを用意してくれる。距離感が完全に猫。
他人がいると無理に笑おうとするのを知っている。

ギアッチョ
慰め方なんか分からないためリゾットと同じようにツボな事を知っているので口説き文句を聞かせてくる。
そこまでレパートリーないし、恥ずかしいしで絶対嫌だが、ポルポが落ち込んでいるのを見ると忍びないので最善は尽くしてくれようとする。爆笑してくれるのでまだおふざけの一環としてとらえられてましだと思っている。メンバーに聞かれないように二人っきりの時しかしてくれない。
恥だとしても笑ってくれるだけましだと思ってる。

メローネ
慰めたいが空回りして、チームメンバーのやらかしを延々と話してくれる。
普段ならば器用に立ち回れるが、ポルポの元気になれるツボがいまいち分からないため、以前笑ってくれたことを思い出して必死に話してくれる。
元気になって欲しいのに、上手く出来ない自分が嫌。

ペッシ
釣りに釣れってくれる。
釣りに行かないかと誘って、目の前で魚を釣ってこれでご飯を作ってと言う。
そういう、誰かのために何かをしているときが一番ポルポの気が休まるんだろうなと思っているのでそうする。
このスタンド能力でよかったなといつも思う。

ソルベとジェラート
トランプに誘ってくる。
賭け事をするときのポルポは雰囲気が違うし、普段とは違う思考回路になることが分かるので良い気分転換になると思っている。ただ、ポルポ相手に金をかけることは二度としないと互いに誓っているのでチームメンバーの秘密を勝ったら教えてくれる。
笑っている方がいいと思っている。少なくとも、女が笑っている方がチームの空気もいいので。それだけ。
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