ドナテロ・ヴェルサスとその兄たちと、善良であると信じられている人。
ヴェルサスたちの話しはこれで一応終わりです。めっちゃ長くなってしまった。
誤字脱字などは感想での指摘はご遠慮くだされば幸いです。
感想いただけましたらうれしいです。
お題箱作ってみました、何かあれば
https://odaibako.net/u/fujineko56
「・・・・そうだ、だからオレ達は兄弟なんだ。」
一つだけ年上の兄だった。自分のことを叱ってくる、いけ好かない兄だった。
「血の繋がりじゃない。そうじゃなくてな。オレたちは同じものに引き寄せられてるんだ。だから、オレたちはお前の兄貴なんだよ。」
一つだけ年上の兄だった。自分に構いたがる面倒な兄だった。
けれど、この世でこれ以上に、自分のその時の理解者であってくれる存在はいないのだと理解した。
ヴェルサスの住んでいる家に訪れる人間は限られている。
まず、一緒に住んでいる、自分たちの世話をしてくれているクララだろう。
彼女のことはそう嫌いではなかった。騒がしく、明るく、三兄弟のために家事をして細々とした雑用をしてくれる彼女は三人に対して遠慮がない。
彼女はヴェルサスの過去を知ってあっけらかんと言い放つ。
「へえ、警察も裁判官もクソだね!!」
明るく、朗らかに暴言を吐く彼女の様子にヴェルサスは笑ってしまった。そう言った、明るさは嫌いではなかった。ヴェルサスだとか、どうもろくでもない人生を送ってきたリキエルとウンガロたちにも彼女は哀れむわけでも、悲しむわけでもなく、ともかく今日を生きようという在り方は不愉快ではなかったのだと思う。
そう言った突き抜けた明るさはどこか陰気さを持った三人との生活で摩擦を少なくさせたのだろうと思う。
あとは、三人とも彼女のスタンドがお気に入りで部屋の中をうろつく大きな狼が気に入ったというのもあっただろう。
何よりも、ポルポは三人に言い聞かせていたのもある。
「本来、あの子はこう言った仕事をするはずではないんです。ただ、私は敵が多いので、あなたたちの護衛も兼任で世話をしてくれているんです。なので、最低限の礼儀、は払って欲しいかな?」
何よりもポルポというそれを慕っている三兄弟はそれに素直に従い、そういった最低限の礼儀、つまりは言われたことを何度も繰り返さないだとかを徹底したこともあっただろう。
そんな四人の生活で、家を訪ねてくるのは数人、ポルポの部下だという存在だった。
一番にやってくるのはプロシュートという男と、そうしてホルマジオという男だろう。
ヴェルサスはこの二人が嫌いだ。そのために彼らが来ると自室に引っ込むことが殆どなのだが。
この二人は遠慮がない。特にプロシュートが顕著だろう。
「おい、マンモーニ!生きてるのか!」
「生きてる!」
びくりと体を震わせて扉の方を見れば金の髪をした男が立っていた。それはどかどかと部屋の中に入り込み、適当な椅子に座る。
無言の時間が続く。
「で、最近どうだ?」
「話題がねえなら来んなよ!!」
ヴェルサスは思わず言った。
プロシュートというそれはヴェルサス、兄弟たちに構いたがった。けれど、ヴェルサスはプロシュートは嫌いだった。何せ彼は過干渉なのだ。
ヴェルサスが構って欲しくないときでも構ってくるし、構い方が暑苦しい。
けれど、どうも彼のことをリキエルは気に入っているようで懐いているようだった。
プロシュートさん、なんて纏わり付いて構って欲しがるところが何か滑稽だった。
「なんであんな奴のこと気に入ってんだよ・・・」
「え、なんでだよ!かっけえじゃん!」
「見た目のことかよ・・・」
ヴェルサスのそれにリキエルは何か虚を突かれたような顔をする。なんだろうか、言われて初めて気づいたと、そう言っているような顔をしていた。
「・・・・それもまあ、あるかもな。」
「なんだよ、嘘だろ絶対。」
それをもしもプロシュートが見ていればけらけらと笑ったことだろう。散々に嫌いだという癖に、そうやってぞんざいに扱われたと理解すれば怒るのだから困ったものだと。
それにリキエルはやっぱり困ったような顔をして、口を開く。
「あの人は進もうとしてるんだ。何か、何だろうな。そこに行き着くかどうかは分からないし、それが無駄かも知れなくても。それでも、進んだ道が無駄じゃないって背筋を伸ばして歩いてるんだ。信じてる。その先には望むものがあるって。それって強いだろ?」
そーいうところ、かっけえだろ?
にひひひと笑うリキエルを見て、ヴェルサスにはやっぱりプロシュートという男のかっこよさが分からなかった。
そういう話なら、ホルマジオもだろう。
彼はまあ、プロシュートよりはましだと思う。
彼はプロシュートのようにヴェルサスに構いたがったが、それはそれとして距離というものをきちんとわきまえてくれていた。
ただ、それはそれとして彼のチンピラ染みた見た目だとか空気感がどうも更正施設のことを思い出して苦手だった。
意外なことに、皮肉屋で冷たい印象を受けるウンガロはホルマジオと仲がよかった。
いいや、仲が良いというよりはホルマジオの側がウンガロには居心地がいいように見えた。ホルマジオの話を聞きつつ、軽く返事をする程度だが、それはそれとして悪くない関係のようだった。
「意外だなあ。」
「あ?」
「あんた、なんであんなおっさんと仲いいんだよ?」
ヴェルサスのそれにウンガロは呆れた顔をする。
「・・・お前、話しかけてくるのがそれかよ。」
「なんだよ!いいだろ!なーんであんなへらへらした奴のことが好きなのか気になったんだよ!」
ヴェルサスはわざとそうやって皮肉を言った。ウンガロはどこかめんどくさがりというか、嫌なことを回避したがる傾向があり、そう言えば適当に無視して会話が終わると思ったのだ。
けれど、珍しく、ウンガロは読んでいた本を置いた。ウンガロは読書家だ。よく本を読んでいる。漫画も好きで、彼の部屋の本棚は常に満たされているし、入れ替わりも激しい。
「・・・絵空事はしょせん絵空事だ。誰の味方でもねえと思ってた。でも、誰の味方でもねえなら、誰にとっての味方でもある。そう思うようになっただけだ。」
逃げるにも丁度いいしな。
ウンガロはそんなことを言っていたけれど、ヴェルサスにはやっぱり意味が分からなかった。
「・・・・ホルマジオは、逃げること自体を否定してねえからな。」
「お前、何かから逃げてるのか?」
「逃げてる。たくさんのことからな。プロシュートはそれに怒るけどよ。ホルマジオはそれでいいって言ってくれる。逃げても、それは遠回りで、案外目的に近づいてるもんだって。ただ、逃げる方法はばらけさせとけって言ってくれる。」
「逃げるって、本読んだりとか?」
「勉強もそうだな。いつか、やってくることから逃げてる。どうしようもねえからな。ただ、それまでに出来ることを増やしときゃあ、立ち向かえるかもしれねえって思うだけだ。」
「全部、無駄かも知れねえのに?」
「・・・・だな。そうだな。でもよ、頑張ってればもしかしたらって希望が出てくる。それがあるだけましって話だ。」
やっぱりヴェルサスには分からなかった。
(・・・・なんであんな奴らのことが気に入るんだ?それなら。)
「・・・・ヴェルサス、重い。降りろ。」
「やだ!」
ヴェルサスはリゾットの肩にのしかかる形で顔をのぞき込んだ。それにリゾットは呆れた顔をした後、そのまま放っておく。
それにヴェルサスはまじまじとリゾットのことを見つめる。彼は今、ソファに座っているリゾットの背後に回り、背もたれによじ登る形で肩に張り付いた。
兄たちの趣味が分からない。
あんな男たちに比べれば、リゾットが一番ましなはずだ。
ヴェルサスの嫌う男たちは支配的で騒がしい。けれど、リゾットは違う。静かで、ヴェルサスのことを放っておいてくれる。そうして、余裕というものがある。
が、そうはいっても上の二人がリゾットを嫌う理由も分からないわけではない。
何せ、リゾットは彼が言った通り、誰よりもポルポに信用されているのだ。家に来る頻度も高く、彼がいるときは大抵ポルポの近くにいた。
それが二人は気にくわないのだろう。
(まあ、リキエルはリゾットがこええみたいだし。ウンガロはお互い口数少ねえから上手くいかねえんだろうなあ。)
ヴェルサスはその二人の嫌悪、というのか、リゾットへの忌避感はきっと、と無意識に気づいていた。
リゾットの前ではポルポは少しだけ保護者としての在り方ではなくて無防備になる。それが不安なのだろうと。
自分たちに無関心になるわけではないけれど、にこにこと嬉しそうにリゾットに微笑みかける彼女を見ていると不安になるのだ。
自分たちのことを忘れはしないかと。
けれど、ヴェルサスは孤児院育ちの二人とは違い、男女の関係にある親の元で、本当の意味で無関心な親の元で育った彼はそんなことはないと理解しているのだ。
(俺だって、面白くねえけどさあ。)
それはそれとしてヴェルサスが親代わりのポルポに近しいリゾットを気に入るのは偏に。
(完全に隠居した後のジジイとババアなんだよな・・・)
近いのは近いのだが、コーヒーを啜りつつ、せんなきことを隣だって座って話す二人は哀しくなるほど枯れている。ヴェルサスでさえ、もっと話すことがあるだろうと呆れている。
何よりも、彼らは自分たちが構って欲しがっていると分かればわざわざ座っていたソファの真ん中に場所を空けて招き入れてくれるのだ。
あまつさえ、どうしたと、ヴェルサスを中心にしてくれる。
大人からの承認と愛に飢えている彼からすればそれだけでおつりが来るのだ。
だから、ヴェルサスはリゾットのことが気に入っている。
それは彼が無意識に性の匂いを嫌っている、というのもあるのだろうが。
彼は遠慮も無しにリゾットに纏わり付く。
リゾットはヴェルサスのそれを、チームメンバーには舐められていると呆れられているのを知っている。だが好きにさせた。
彼のそれは甘えであって、ずっと孤独に苦しんだ子どものそれ程度は許容出来た。本当に線引きを超えれば叱る前提でヴェルサスに視線を送る。
「なあなあ、スタンドってどうしたら出てくるんだ!?」
「・・・俺はお前のように産まれながらのスタンド使いじゃなかった。わからん。」
それにヴェルサスは期待外れだと顔をしかめた。
目下の所、彼の目的はスタンドを使えるようになることだった。
スタンドというものを視認できるのだから才能があるのは確かだろう。けれど、それだけでスタンドという存在が姿を現すことはなかった。
兄二人に聞いても、いつの間にか使えるようになったと言うだけだった。ただ、彼ら曰くであるが。
「・・・使えるようになってもなあ。」
「オレはスタンドは使用禁止だから聞いても無駄だぞ。」
「え、なんでだよ?」
「ウンガロのスタンドは規模もでかけりゃ、無差別な部分があってな。」
「・・・ポルポと一緒ならある程度制御も利くけどな。一人で使うなんてぞっとしねえ。」
リキエルは何でも高速で動く公式では見つかっていない生き物の使役、そうして、ウンガロは世の中に認知されたキャラクターを出現させるものらしい。
面白がったヴェルサスが見せてとねだると、スタンドをそんな簡単に使うものでないとウンガロに叱られた。
やっぱり、ウンガロのことなんて嫌いだ。
「・・・オレも早くスタンドが使えるようになりたい。」
「何かしたいことがあるのか?スタンドといっても能力は千差万別だ。目的通りの、使い勝手のいい能力に目覚めるとは限らんぞ。」
ヴェルサスはそれにむっとする。そうして、ずるりと背もたれ側からずり落ちてソファに落ちる。背もたれに足を引っかけるような体勢のままヴェルサスはリゾットを見上げる形になる。
「いーんだよぉ。どんな能力でも上手く使ってやるんだ!それでな!」
ポルポに誰よりも信頼して貰えるような仕事が出来るような大人になるんだ!
弾むような声でそう言って、ヴェルサスはとても高慢そうな、けれど、愛らしい笑みを浮かべた。自分の言葉が否定されることなんてない、安寧の中でぬくぬくと笑う無邪気な子どもの笑み。
それにリゾットはやっぱり特別表情を変えなかったけれど、乱雑に少年の頭を撫でた。それにヴェルサスはけらけらと幼く笑った。
ポルポの周りにはスタンド使いが多くいた。
ブチャラティという男や、アバッキオ、ナランチャにミスタだとか。後はギアッチョにメローネ、そうしてペッシ。
カラマーロという女にも会ったが、彼女は本当に怖くて割愛する。後、ヴェルサスはナランチャのことも嫌いだ。
ポルポに懐いていて、おまけに彼はすでに仕事をして彼女に信頼されていることが理解できたせいだろう。
ヴェルサスは、ポルポが表の人間でないことなんて気づいていた。
更正施設ではお世辞にもまともに生きていない人間は多く見た。そうして、強度、というか濃度というものがまったく違うとしても似たにおいがリゾットやプロシュートたちからしていたから。
ヴェルサスはそれを怖いだとか、遠ざかりたいとは思わなかった。
社会正義はヴェルサスのことを踏みにじったし、手を差し出してくれたのは悪辣である社会悪だった。
だから、いいのだ。
そんなことはどうだっていいのだ。
ただ、問題なのは、ポルポはきっと彼女側にヴェルサスが入ることを許可してくれないことで。
「・・・・お前、その顔なんとかしろよ。」
「うるさい、レオ。」
ヴェルサスはそう言って顔をしかめた。
レオは赤毛に緑の瞳をした、隻眼の青年だ。
ヴェルサスとは同い年であり、同じ学校の同クラスだ。ポルポの言っていた、彼女の知り合いであり、現在はヴェルサスの世話係だ。
「・・・ポルポの頼みなら断る理由もなければ、権利もない。」
初めて会った時にそう言っていたが、彼はとてもふてぶてしかった。英語を話せるので意思疎通は出来るが、早くなれろとイタリア語でしか話してくれないところだとかは好きではなかった。
ただ、早々と慣れ始めることが出来たのはありがたい。
「なあ、レオ。」
「なんだよ、珍しいな。お前が自分から話しかけてくるなんて。」
「いいだろ、別に。あのさ、お前って学校卒業したらポルポのところで働くのか?」
その言葉にレオは顔をしかめる。
「お前、いや、気づくか。」
「だってさ、どう見てもリゾットたちはカタギじゃねーじゃん。」
丁度、放課後。
ヴェルサスは知らないが、そこはポルポが特に気を遣っている地域で治安はすこぶる良い。
そのため、二人はその時だけは買い食いをしたりだとか、適当に過ごしていた。
ヴェルサスは嫌い嫌いと言いつつも、自分の特殊な立場だとか、うるさいことを言ってこないレオとはよく連んでいた。
消去法といえばそうなのかもしれない。
レオはヴェルサスのそれに少しだけ黙り込んだ後、軽く首を振った。
「・・・・成人したら。」
「したら?」
「あの人の傘下に加わるか決められる。孤児院の奴ら、全員、そういう約束で。スタンド能力のテストを受けられる。」
それにヴェルサスは少しだけ顔を引きつらせる。ポルポがスタンド能力を開花させられる、が、生きるか死ぬかの二択であることは知っている。
なかなかスタンド能力が発現しないヴェルサスがじれているときに、メローネが言っていたのを聞いた。
メローネは嫌いだ。ギアッチョも短気で、すぐに怒るので苦手だが。メローネは得体の知れなさがあって怖くて苦手だ。
が、その情報を知れたことだけは悪くなかったと思う。
「お、お前!」
「試験は受ける。」
「し、死ぬかもしれないのにかよ!?」
思わずドン引きだ、というように体を震わせるヴェルサスを見ず、レオはぎちりと拳を、血がにじむんじゃないかと思うほどに力を込めて。
だから、ヴェルサスは咄嗟にその拳を解こうと手を伸ばす。
きっと、ポルポならそうするから。
その行為に好意だとか、優しさなんて考えることなく。ただ、人がそうしているならそうすべきと言う学習の元に。
それにレオは何か、とても言いたそうな顔をして、そうして軽く首を振る。
「お前なら、わかるだろう?」
その言葉にヴェルサスは何も言えなくなってしまう。
死ぬのは怖い、恐ろしい。けれど、才を持たないレオの気持ちは分からないけれど、それでも、その選択をするレオの気持ちが分かってしまう。
スタンド能力を持てば、きっと、ポルポとの魂の距離が近くなるはずなのだ。
信頼されたい。あの人に、信頼されて、一番近しい立場にありたい。
リゾットや、カラマーロのように。
その願望の強さを理解しているからこそ、ヴェルサスは何も言えなくなってしまう。
「お前と違って、才能があるかはわからない。でもよ、チャンスはあるんだ!ポルポが、選択肢をくれた。なら、俺は選ぶだけだ。選んで、俺は賭けに絶対に勝ってやる!」
叩きつけるような強い言葉、それに、ヴェルサスは羨望染みた感覚を覚えた。
突き抜けるような、意思を感じた。
強く、そうして、圧倒されるような何かを。
「・・・でも、死んだら、どうするんだ?」
それにレオは少しだけ笑い、そうしてヴェルサスを見た。とても哀しそうな笑みだった。笑みで、そうして、それは、とてもポルポによく似た表情だった。
「ヴェルサスはさ、スタンドの才能があるんだよな?」
「そ、そうだけどよ。」
「だから、いいんだよ。」
何が言いたいのか、わからなかった。
ただ、ただ、その穏やかな笑みが。何か、今まで見たこともないような笑みが。
有無を言わさない何かがあって。
「例え、俺がだめでも。俺と同じ蠱毒の仲間たちが。そいつらがだめだとしても。」
お前がいる。
じっと、緑の瞳が自分を見ていた。
濃い、奈落のような、深い瞳が自分を見ていた。
「俺たちがだめだったとしても。なあ、お前がポルポを守ってくれ。」
あの人が死ぬところ、お前だけでも見届けてくれ。
泣きながら言うことでは無いはずだ。
ヴェルサスは何を言えばいいのか分からなかった。
それは自分と同じはずだった。自分と同じ、魂を近づけ、信頼され、そうしてポルポと幸せになりたい。
そんな、寂しい子どもであったはずだった。
違う、違った、何かが違う。それを理解して、恐ろしいと思ったはずなのに。
なのに、いつも背筋を伸ばして、淡々として、冷静で、ちょっとリゾットに似た青年が。
そんな風に泣いているから。
ヴェルサスは咄嗟にレオのことを抱きしめた。
ポルポがそうしてくれるだろうから。
抱きしめて、背中を撫でて、必死に大丈夫だと叫ぶように言った。
ポルポなら、そうするだろうから。
「死なねえよ!死なねえ!俺が、守るから!お前だって守るから!」
だから、大丈夫なんだよ。
叫ぶようにそういってヴェルサスはレオの背中をなで続けた。
ヴェルサスはそのことを誰にも聞けなかった。
レオがなぜそんなことを言ったのか、蠱毒の言葉の意味なのか。
「ヴェルサス?」
自分を見下ろす、赤い瞳。自分の髪を撫で梳く細い指、微笑みかける小さな口元。
そうして、それを不思議そうに見つめる、穏やかな様相の男がいて。
そうして、少しだけ遠くで、自分たちを見ている兄が二人いて。
その中心で、優しそうな女が自分を見ている。大丈夫かと、微笑みかける、赤い瞳の、夜明けの瞳の女がいて。
その人に頭を撫でられるだけで。それだけで、よくて。だから、だから、ヴェルサスは何も気づかないふりをして黙り込んだ。
力に目覚めれば、きっと、自分は目の前の人と近づくはずだから。
魂が近づいて、親しくなって、信頼されるはずだから。
それまでは、どうか、と。
ヴェルサスは目をそらしてしまった。
それを彼は後悔した、後悔して、愚かだったと泣いた。
それはとある日のことだった。
レオと共にいつも通り、許可された地区をうろついていたときだ。
襲われたのだ、端的に。
それは後でポルポの立場を改めて聞けば納得さえ出来ることだった。
複数のチンピラたちに襲われて、レオと共に殴られて。
彼らはヴェルサスの顔を確認していた。ああ、自分が目当てだと気づいた時、レオが悲鳴を上げた。
「おい、こいつは?」
「こいつは対象じゃねえ。」
「殺して見せしめに死体を投げ込めよ。」
殺される。
目の前の、あの、青年が、殺される。
優しいわけではないし、好きとも言えない。ただ、自分と同じようで、けれど違う。
ポルポのために、死ぬことさえも厭わない覚悟を持った、そのくせ、何かを諦めている青年。
死ぬ、目の前で死んでしまう。
止めろ。止めろよ、なあ、止めろって。
好きじゃないんだよ、そんな奴。だって、そいつが生きてたら、もしかしたら自分よりもポルポに信頼される奴が増えるかも知れないじゃないか?
買い食いして、くだらない話をして、遅れていた勉強を見てくれて。
きっと、レオは自分の事なんて好きじゃなかった。
ただ、ポルポに言われたから。それだけだった。
でも。違う。ここじゃない。だって、そいつはまだ選んでない。選択肢さえもまだ選べていない。
まだ、何も積み上げてさえいない。
脳裏にチラつく、ポルポによく似た、哀しそうな笑み。
目の前に、去って行く“過去”さえありはしない。
「そいつは、まだ、なんの事実も背負っちゃねえんだあああああああああ!!!」
叫ぶ声と共に、ヴェルサスの目の前に不可思議な人型が現れた。
「ポルポ!なあ、見てくれよ!」
ヴェルサスは嬉しさのあまり、ポルポに微笑みかける。病院で手当をされた自分たちを見て、いつも着ているコートさえもぬぎさって、息を乱して自分とレオに駆け寄ってくれた。
抱きしめられたヴェルサスはそのまま、現れたスタンドを見せた。
「俺、使えるようになったんだぜ!」
きっと褒めてくれると思ったのに。
その人はやっぱり哀しそうな顔をしていた。
「・・・・おめでとう。」
そう言ってくれたのに。それが祝福に満ちていないことがすぐに理解できてしまった。
それからは、それからの日々はそれでもヴェルサスにとってはとても満ち足りた日々だった。
何せ、不定期にしか帰ってきてくれなかったポルポが毎日のように、それこそ一日中家にいてスタンド能力について指導してくれた。
「いいですか、ドニー。スタンド能力は精神の力です。ゆえに、大事なのは、そうだと信じ、力を知り、制御できると思うことです。」
「信じる?」
「ええ、スタンド能力において重要なのは信じること。出来ると言うこと、やれるという意思。これ以上に重要なことはありません。」
「・・・なら、強く信じれば、能力以外のこともできるってこと?」
「・・・スタンド能力が変化する、という事象は存在します。ですが、それは別人になるということと同義なので。そう上手くはいかないかと。」
「そうなの!?」
ヴェルサスはそれに目をキラキラさせた。己のスタンド能力、アンダー・ワールドのことはもちろん気に入っていたけれど、もっと使い勝手のいい能力に変化するなら魅力的だと思った。
「・・・でも、それはとても負担のあることで、そうしてこうすればいいという方法があるわけではありません。下手なことをしても無意味だった可能性もあります。ですので、今は自分の能力の練度をあげることが重要ですよ。」
そう言われてしまえば、言い返すことなんて出来ない。
(まあ、悪くない能力だろ?)
生き物の使役だとか、制御の利かない兄たちの能力よりも、自分の能力はずっと使い勝手のいいもののように思えた。
きっとこれならポルポにとって役立てる。信頼される、仕事の出来る大人になれる。
ポルポの側にいると不思議と心が落ち着いた。スタンド能力をどう扱うべきなのか自然に理解できた。それは彼女の特殊な在り方故なのか分からないけれど。
リキエルとウンガロはポルポが家にいるのに何故か遠巻きにしていた。自分に嫉妬しているのか、話しかけてくることもなかった。
その時にヴェルサスはずっとポルポに構って貰えるのが嬉しくて。
そんなことを気にすることもなかった。
その真意を、ずっと、知ろうとしていなかった。
とある路地にて、ヴェルサスはその場の過去を掘り起こした。
過去を再現する空間も自由に開き、閉じることも出来るようになっていた。
(普通の部屋を過去として認識して開けられるんだよな!そうだ、秘密基地にできねえかな?)
ヴェルサスはそんなことを思いつつ、空間から出てきたポルポがゆっくりと自分と目線を合わせるように跪くのを見た。
丁度、二人きりで、送迎役の人間は少しだけ遠くにいて。
路地に茜色の、夕日が差し込んでいて。
それを背に女は穏やかに微笑んでいた。
「ヴェルサス、スタンド能力の使い方はわかりましたね?」
「うん!出来るぜ!」
ヴェルサスはにこにことポルポに微笑みかけた。きっと、ポルポは褒めてくれる。こんなに早々とスタンド能力の使い方を覚えた自分はきっと優秀で。
きっと、信頼をしてくれる。魂が、精神が近づくはずだから。
そう、思っていたのに。
ポルポはそれにゆっくりと頷いて、そうして言った。
「ヴェルサス。なら、もう、私とあなたはお別れをしなくちゃいけません。」
「え?」
世界の全てが崩れていく気がした。
「ど、どういう意味だよ!そんな、そんなさ!」
ヴェルサスはポルポの手を握って、そうして叫ぶように言った。
「オレ、知ってるんだ!あんた、あんたってギャングなんだろ!?なら、オレのスタンド能力ってぜってえ役に立つじゃん!なあ、仕事できるぜ!そりゃあ、えっと、あんたの信頼してる奴らほどのことはできないと思うぜ!?でも、大人になったら!絶対に役に立つから!だから!」
ポルポはそれに哀しそうに微笑んで、そうしてヴェルサスの手を握り返した。
「・・・・私はあなたたちに仕事をさせたくて引き取ったわけではありませんよ。」
「なら、なんでだよ!そうじゃないなら、なんで、どうして!」
「幸せに、なってほしかった、から。」
ごめんね、とその人は心の底から申し訳なさそうな顔をして。謝るから。
なんで?と、そう思った。
だって、ヴェルサスはずっと幸せだったのに。
意味が分からない。ヴェルサスはぜえぜえと荒い息を吐いて、そうして自分の手を解き、遠ざかろうとするポルポのことを凝視する。
追いすがることが怖かった。
差出した手を振りほどかれることを、拒絶される恐怖を知っているから。
それでも、と。
ヴェルサスはポルポの腰に縋り付いた。
「オレはずっと、ただ、スタンドが発現すればいいって。それだけに必死だった!正しさとか、間違いとか、そんなのはどうでもよくて!」
ただ、ただ、さ。オレ、幸せになりたかったんだ!
見上げた先の、朝焼けの瞳が自分を見下ろしていて。
その目が、その、優しげな目が、ただ好きで。
オレさ、オレ、は!
あんたの隣で、リゾットが後ろにいて、オレのこと見てて。口うるさいあいつらがいて。
それだけでいいんだ。
「なあ、いい子でいる!なんだってする!だから、側にいさせて!それだけを許可してくれたら、オレ、なんでも出来るんだ。なんだって、なんにだってしてやれるから。」
ポルポはそれに哀しそうに歯を食いしばり、ヴェルサスの肩を掴んだ。そうして、何かをためらうような仕草をした後、泣き笑いのような顔をする。
「・・・・あのね、ヴェルサス。あのね、君の、本当のお父さんは、とても怖い人だったんだ。」
それにショックは受けなかった。何せ、自分が産まれてから連絡も寄越さず、母親も口にしない程度だったのならきっとその程度だったのだと予想していた。
「怖くて、恐ろしくて。でも、幼いときにとても寂しい時間を過ごした人だった。私は、その人のなした事に興味があって。そうして、その人がどんな時間を過ごしたか調べていた。私は、本当はね、君達を助ける気なんてなかったんです。」
「・・・・どういうこと?」
「干渉が、どんな結果を生み出すのか怖かったから。君のお父さんはとても強いスタンド使いだった。その子どもである君達もどれだけの能力を持つのか、未知数だった。でもね、君達の生きている環境を見てたらね、思ってしまったんだ。」
ポルポは何か、とても酷い失敗をして、そうして、それが周りにばれてしまったときのような。
そんな下手くそな笑みを浮かべていた。
「幸せに、なって欲しいなって。」
まるで懺悔でもしているかのような、そんな声音で言うものだから。
ヴェルサスは黙り込んでしまう。なんで、そんな声で言うのか分からなくて。
「・・・・何度も言い訳をしました。任せられる人がいないからって。スタンドを制御できるまではって。大事に、きちんと愛してくれる人が見つかるまではって。まだ、もう少しだけって、でも、こんなに長引かせてはいけなかった。あなたたちを近くにおいてはいけなかった。」
「なんでだよ!オレは、オレは、ポルポの側がいい!ポルポがいれば“幸せ”だ!」
ヴェルサスのそれにポルポは首を振る。涙の見える頬が朝焼けの中できらきらと輝いていた。
「私、悪い人なんです。」
そんな人の側になんていさせてはいけなかった。
たくさんの非道と、人を殺して、散々に積み上げてしまった全ての業にあなたを巻き込んではいけなかった。
「・・・なんだよ、それ。」
なあ、普通じゃないかそんなこと。
「罪ってなんだよ!なら、オレのことを手ひどく扱った奴らはどうなんだよ!?あいつらは裁かれないのはなんでだよ!?」
この世に罪を背負わない奴なんていないだろ?
こんな、こんな、こんな残酷な世界なら誰かの不幸ぐらい目をそらせばいい。
幸せになればいい。
馬鹿でも言い、愚かでも、笑って。
笑ってくれたら、嬉しいんだ。
「あんたの罪ならオレが背負うよ!オレの、アンダー・ワールドなら誰だって殺せる!何だって出来る!だから、なあ!」
笑って、幸福であって、オレのことをずっと抱きしめて。
「あんたの敵なら、オレが全員殺すから!」
それにポルポは少しだけ驚いたような顔をして、そうして、軽く首を振った。
「・・・・敵なんていなかった。私が最も憎むのは私自身だった。この世で、私は、臆病な私を憎んでいる。だから、ね。ヴェルサス。お願いがあるの。」
頷きたかった。
願いを叶えてやりたかった。その人の願いならうんと頷いて、それをこなして、信頼して欲しくて。
「あのね、ヴェルサス。この世はとても残酷で。だから、夢想家が必要なんです。馬鹿げて、愚かで、くだらない。けれど、夢を見る人が。だめだと、そうじゃないと、人の踏み入ったことのないような荒野でも、道を切り開くことの出来る人が。」
あなたはいつか、きっとそんな人に出会うでしょう。
それは聖者が語る予言染みていて。そのくせ、まるで幼い子どもが語る空想のように馬鹿げていて。
「私の代わりに、その人の手伝いをしてあげてください。私には無理だけど、あなたならば出来るでしょう。」
「なんでわかるんだよ、そんなことが!」
「・・・・運命だから。」
確固たる言葉がヴェルサスの胸を貫いた。
赤い光の中で静かに微笑むその人が、流れる涙が茜色に染まって、ルビーが地面に落ちていく。
「人の出会いには引力があると言った人がいて。私は個人的にその人のことは好きではないけど。きっと、その言葉は真実だ、偶然と必然を混ぜた運命は、引力という力によって引きあう。あなたと私が出会ったのと同じように。いつか、そんな滑稽な、美しいだけの夢を見て突き進む人にあなたはきっと出会うでしょう。」
「・・・・そいつを助けたら、ポルポは、嬉しい?」
その言葉にポルポはそっと涙を拭って、やっぱり、これ以上ないほどに優しげに微笑んだ。
「ええ、嬉しいです。ヴェルサス。きっと、そんなあなたは悪い子ではないから。」
あなたは星を抱く人になれるでしょう。
「それ以上に嬉しい事なんてありはしませんもの。」
「スタンド能力なんて目覚めねえほうがよかっただろう?」
「・・・ウンガロ、やめろよ。」
その日、ポルポはヴェルサスだけを送り届け、家には入ってこなかった。
なんとなくヴェルサスはそれがポルポとの最後の会話になるのだと思った。
なのに、引き留められなかった。
聞き分けのいい子でなくなって、悪い子だと信頼を失うのが怖くて。
八方塞がりの中で飛び込んだ自室に、珍しくウンガロとリキエルが入ってきた。
ベッドで丸まったヴェルサスを見下ろして、ウンガロは同じようにマットレスに腰掛けた。彼の発言を咎めるようにリキエルが哀しそうに言った。
ヴェルサスは何か、普段ならば取っ組み合いの喧嘩をする程度の活力はあっただろう。けれど、その時は、その時だけは違って。
丸まった姿のまま、ヴェルサスは涙の混じる声で吐き捨てた。
「なんで、どうして、おしえてくれなかったんだよ。しってたんだろ、ずっと。」
ああ、だって彼らはすでに自分と同じ道を歩いているから。だから、知っていたはずなのだ。
それにウンガロは黙り込み、リキエルだけがそっとヴェルサスの頭を撫でた。
「・・・知ってるから、言えなかった。」
いつかやってくる終焉を知ればきっと、経つ時間が恐ろしくてたまらないだろうから。
「それまではさ。それまでは、それぐらいはさ。幸せであって欲しかったんだ。俺たちは幸せだったから。」
さよならがくるなんて知りたくないだろ?
シーツに押しつけた頬の生暖かさを感じて、ヴェルサスはリキエルが泣いている気がした。
顔を上げて見た、その兄は、やっぱり情けなく泣いていた。
ああと、ヴェルサスは思う。
嫌になるほど、目の前の男と自分はよく、似ていた。
「なんで、受け入れるんだよ。なんで、なんでさ!」
泣きわめくようにヴェルサスは枕を適当に放り投げる。それはウンガロの背中に命中した。未だ、成長途中の兄の、華奢な背中が震えた。
「オレたちに選択肢はない。」
「ある!アンダー・ワールドなら!お前たちのスタンド能力なら!ポルポの望みを叶えてやれる!いくらだって殺せる!あの日、オレを捕まえて、ポルポを苦しめようとした奴らみたいに!」
だから、とヴェルサスが言葉を続けるよりも前にウンガロが耐えきれないように立ち上がり、叫んだ。
「それが、何よりも、あいつを苦しめるっててめえだって分かってるだろうが!!」
叫ぶ言葉に、ただ、何も言えなくなる。
思い出す、自分がスタンド能力を発現した、あの日。
おめでとうと、誕生を言祝ぐ言葉を与えられてなお、そこに祝福がないのなんて。
「わかってるんだよ、そんなこと!!」
ヴェルサスのそれにウンガロもリキエルも、泣きじゃくる、あの日、ポルポにお別れを言われた日のことを思い出す。
君達には弟がいるんだ。その子もスタンド使いでね。その子も力が使えるようになったら。君達とも、お別れをしなくちゃいけない。
優しい笑みを浮かべていた。
行かないで、泣かないで、ずっと側にいて。
そう、言いたかった。言いたかったけれど。
悪い人の側にいてはだめだから、お別れをしなくちゃいけない。
「なあ、どうして、ホルマジオたちにオレたちを会わせたんだよ。それなら、会わせない方がよかっただろう?なあ、どうして?」
「・・・・いつかに、何かがあったとき、君達に助けがいるときの保険です。そうならないときが一番いいけど。君達を守ってくれるように。」
いつかに、ウンガロはそう聞いた。
無償とは、奉仕とは、祈りとは、愛を指すのだと改めて感じられた。
その人の仕草、行動一つ一つがそれを指し示していた。
けれど、一番に望むものをその人はくれなくて。
「嫌だ、側にいたい、やだ、やだ・・・」
泣きじゃくるヴェルサスにウンガロはどこか諦めたような顔をして、そうして、とても恐る恐るに少年の背中を撫でた。
「・・・・そうだ、だから、オレたちは兄弟なんだよ。」
何を言っているんだろうと、ヴェルサスはウンガロを見上げた。
「血、器だけがオレたちの繋がりだと思ってた。でも、違う、オレも、お前も、繋がってるのは魂なんだ。」
「どこが?」
「・・・・優しさも、愛も、全部他人からの借り物でしかないとこ。」
皮肉交じりのそれにヴェルサスは少しだけ同じように笑ってしまった。
全てが敵で、優しさだとか、愛だとか、全部嘘でまがい物だった。
あの人に会って初めて、それらがおとぎ話の、都合のいい作り物でないことが理解できた気がして。
まがい物でしかないと思うのに、そんなものを欲しがって。
誰か、誰でもいいから味方が欲しいと泣きじゃくって。それを与えてくれる人が出来たのに、その人はさよならと、悪党の側にいてはいけないと手を離す。
「お前らは、平気なのか?」
「・・・・平気じゃない。平気じゃない。でも、オレはポルポに笑っていて欲しい。だから、だからさ。オレは、あの人の望む、正しいものでありたいと思う。離れていても、あの人はオレたちがそう振る舞う限りきっとオレたちのことを忘れられないから。オレはさ。」
あの人を呪いたいんだ。
自分が置いていった子どもたちが、ずっと自分のかけた呪いに順応し続ければ、それを命をかけて守り続ければ、それ以上のしっぺ返しなんてないだろうから。
ウンガロはそう言って笑う。笑うその笑みが、その、哀しそうな、全部の感情を押し殺して笑うその顔を見て。
ヴェルサスはああと思った。
とんと、自分の肩をリキエルが撫でて、そうして、ウンガロとよく似た笑みを浮かべてこちらを見ていて。
それにまた、ああと思う。
「血の繋がりじゃない。そうじゃなくてな。オレたちは同じものに引き寄せられてるんだ。だから、オレたちはお前の兄貴なんだよ。きっと、オレやウンガロと、お前が目指すべきところは同じだ。同じだから。オレたちだけが、お前と生きていける。」
リキエルは耐えられないというように、笑みを崩して、その華奢な体でヴェルサスの体を抱きしめた。
「夢想家を待つんだ。助けてやれといったそいつを助けて。走り続ければ、きっと、ポルポとオレたちの道は交わる!あの人が、オレたちと引き合ったように。だから、ヴェルサス、一緒に生きるんだ。オレたちは家族だ!あの人が、与えてくれた、たった一つの。」
涙声の混じる声に、ああと、ヴェルサスは理解した。
自分たちは兄弟だった。
血と器ではなくて。その魂はなんとまあ。
(・・・ポルポに、似てる。)
「なあ、会えるかな?今は、置いていかれても。いつかは、オレたち、会えるかな?」
「それを目的地に歩くんだ。だから、今は出来ることを増やして、そうして、夢想家を待とう。」
自分たちは子どもで、彼らが本当の意味でやろうと思えば異国の地にでも送られてしまう。ならば、今は待つのだ。
「オレたちが大人になって、選択肢を持てるまで。いいや、夢想家がやってくれば、そいつの手伝いをすれば、きっと。」
ポルポの夢にたどり着ける。彼女に再会出来る。
「証明するんだ。」
リキエルがペリドットの目から涙を流して言った。
「悪辣な女の魂から産まれた子どもたちが善なるものであるのなら。」
「ポルポは善なるものだと。」
あの人が怯えることのない理由を、これから生きていく中で証明しよう。共に、生きていこう。
「だから、オレたちは家族だ。お前は弟で、先を歩くオレたちは兄貴なんだ。」
まだ、子どもである自分たちに取れる選択肢は少なくて。なら、言われたとおり、彼女に託された願いを遂行しよう。
三人の少年たちは傷み、苦しみ、血を拭われ、癒やされた傷をなめ合って寄り添った。
泣いて欲しくなかった、苦しんで欲しくなかった、嫌われたくなかった。
なら、ならば。
あの人の願った夢想家を待とう。その手伝いをすれば、きっと自分とポルポの魂は近づく。信頼が築かれる。
良き子を育てた女は、悪党ではなくて。
きっと、誰よりも優しい母になれるのだと。
「・・・オレさ、ポルポにもう会えないんだって。」
「で?」
レオは相変わらず淡々としていた。
「知ってたのか?」
「・・・・オレみたいに組織入りが決まってないなら。ある程度の時に、関係が切れるとは思ってた。」
「そうか。」
レオは何か、珍しく静かなヴェルサスに視線を向けた。ヴェルサスはその青い瞳でじっとレオを見ていた。
「なあ、蠱毒の話、調べたんだ。」
「それで?」
「お前は蠱毒の蟲なんかじゃない。」
「なら、なんだって言うんだよ。」
「オレの兄弟だ。」
予想外のことを言われたような顔をしたレオに、ヴェルサスは静かに言った。
「オレも、お前も、きっとポルポの魂から産まれたんだ。だから、オレたちは兄弟だった。」
なあと、ヴェルサスはレオに言った。
「オレ、やりたいことが出来たんだ。夢が出来た。」
「何を?」
ヴェルサスはそれに微笑んだ。ゆっくりと口を開いた。
「・・・・・孤児院にはもういかないのか?」
「もう、彼が来るまで時間はありません。身辺整理も進めておかないと。」
ポルポは相変わらず、暗い私室でブラックサバスと会話を重ねていた。
彼女の手元には、彼女が知る限りの組織の内部図や金銭の出入りなどが事細かに書かれた資料が点在していた。
それは組織の頭をすげ替えられたとき、掌握が早々と進むように準備をしているものだった。
(・・・あの子たちにも財産を残すために。偽造の身分から、遺言が行くように。)
ぼんやりと彼女の脳内には、三人の子どもたちが浮かび、そうして行いが正しかったのかをずっと考える。
手を、差出すべきではなかった。
差出すのなら、スピードワゴン財団にたくせばよかった。けれど、DIOの息子という立場がどんな作用を起こし、彼らを傷つけるか分からなかったから。
いいや、詭弁だ。
抱きしめてやりたいと、そう思ってしまったのは自分だったから。
それが、間違いであったとしても。
寂しい子どもたちに少しでも安寧の日々を与えてやりたかった。
「レオ、は怒るかな?」
孤児院の子どもたちとの約束でさえも、自分の寿命を考えれば、間に合わない前提で。逃げるための約束で。
けれど、スタンド能力を与えられないと分かれば、夢も覚めるだろう。
「・・・死体を誰が先に見つけるとしても、矢の隠匿は頼むとして。」
ポルポは頭を悩ませる。
「・・・・あなたは、どこにいるんですか?」
そこには浅黒い肌をした、神父の写真があった。
死ぬ前に、その男だけは殺さねばならない。けれど、未だに、男の行方は影も形も存在しなかった。
なあ、リゾット。リゾットと共、もう会えないのか?
‥‥ああ、そうだな。
ならさ、一個だけお願い聞いてよ。
できることならな。
オレさ、実父も養父も絡でもなくてさ。だからさ、もしも、父親の話をするときはリゾットの話をしてもいい?
‥‥二度と会えないんだぞ?
いいんだ、二度会えなくても。それでも。ずっと優しかったのリゾットだった。
わかった、好きにしろ。
うん、ありがとう!