蛸の見た夢   作:藤猫

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ギアッチョと、首輪を付けてしまった人。

恐怖で首輪を付けられたって部分が好きで、どっかで首輪の話を書きたいなと思っていたので。
ギアッチョは書きやすいのでついつい書いてしまう。

今回もめっちゃ長くなってしまい申し訳ないです。

誤字脱字などは感想での指摘はご遠慮くだされば幸いです。
感想いただけましたらうれしいです。
お題箱作ってみました、何かあれば
https://odaibako.net/u/fujineko56


首に掛かったそれ

「・・・ギアッチョ、今回の件は、私の意思ではありません。これは、あなたがずっと積み上げ続けた信頼の代価です。」

 

その言葉がずっと胸に残って離れない。

 

 

 

ポルポが怒っているのを見たことはあるか?

 

それは比較的若い、といっても数歳程度の違いだが、メンバーたちで酒を飲んでいたときのことだ。

 

その場にいたのはギアッチョ、メローネ、ペッシ、そうしてイルーゾォ。

ペッシがそんなことを言った。

それにイルーゾォが口を開く。

 

「・・・・一回だけあるな。」

「え、まじかよ!?」

 

メローネが驚いた顔をしてそう言った。それにイルーゾォはにやりと笑った。

 

「プロシュートの奴が叱られてるのを見たことあるぜ!」

「ジジイが?」

 

ギアッチョのそれにイルーゾォは頷いた。

 

「ポルポってどんな風に怒るんだ?」

 

好奇心にメローネのそれにイルーゾォは少し気まずそうな顔をする。言った手前、あまり語ってプロシュートから下手な反撃が来るのは避けたい。

 

正直、イルーゾォもプロシュートが何をしてポルポを怒らせたのかは知らない。

何せ、彼がそれを知っているのは偶然、鏡の中でそれを聞いたためだ。

 

「いいか、今回の俺の決断は絶対に間違ってねえ!絶対に、だ!!」

 

そんな怒鳴り声を聞いたイルーゾォはなんだと中をのぞき込んだ。

ちょうど、鏡の位置的にポルポの顔は見えなかったが、椅子に座って額に手を当てているのが見えた。

プロシュートの様子からしておそらくカラマーロを呼んで説教だろうと踏んだ。

けれど、ポルポは息をつき、一言だけプロシュートに言い放つ。

 

「・・・ぼうや。」

失望させないで。

 

あの時のことをイルーゾォはそれは鮮明に覚えている。

けして、それは怒気に満ちた声だとかではなかったし、声量があるわけでもなかった。

けれど、その声は空気というものを引きつらせた。

 

イルーゾォはその声に何か背中を嫌な汗が滑り落ちていくのが分かる。

少しの沈黙の後、プロシュートは小さく謝罪の言葉を口にした。

 

「・・・・知らねえ方がいい、というか、あれは実際見ねえと理解できねえ。」

「なんだよ、余計に気になる終わり方しないでくれよ!!」

 

そんな騒ぎを聞きながらギアッチョは、少しだけ、昔のことを思い出していた。

それは、ペッシが加入するよりも前のことだった。

 

 

 

「おい、さっきの連絡はマジなのか!?」

 

慌てて飛び込んだアジトの一室にはチームの人間が集まっていた。駆け込んできたイルーゾォをちらりと見たメローネが近づいてくる。

そうして、ソファに座ったギアッチョをちらりと見た。

 

「連絡したとおりさ。今回の仕事でかち合った目撃者をギアッチョがヤッた。だが、運が悪いことに。その相手が幹部のご子息だったんだと。」

 

それにギアッチョがぎちりと拳を握った。

 

 

 

別段、難易度の高い仕事というわけではなかった。

それはポルポの管轄で麻薬の取引を行っている愚か者の始末と、見せしめだった。

 

現在、組織は麻薬の取引は否定されていない。ただ、楽に稼げるそれは組織の資金源になっている。

そんな中、ポルポの管轄にてそれが禁止されているのは偏に彼女の意思によるものだ。

 

ポルポの組織への貢献度は高い。

スタンド能力を造り出し、彼らの管理や危険な能力への制御にも携わっている。

金のにおいに敏感で、上納金も多めに納めていることに加え。臆病で派手なことをしたがらないのが危険視されない理由だろう。

彼女が薬を売らずともそれだけの成果を出せているのは、偏に、彼女が優秀なおかげだろう。

カジノ賭博の利権はもちろん、女の先見の明は非常に高く、それこそ外国の企業に投資をしたりだとか、土地を転がしたりだとかで莫大な金を生んでいるのだ。

いくつもペーパーカンパニーを打ち立てて、それらを一人、いいやブラックサバスに相談していると言っているが冗談だろう。

 

もちろん、その成果は女が少し特殊な生い立ちにより、未来のことをある程度知っているのも理由に挙がるが。

 

 

「麻薬?確かに、利益率は高いですが。組織からの配給は少々多いんです。外の国にも出しているようですし。」

 

ポルポは麻薬について頭を抱えていた。

 

デメリットが多すぎる。

他国は麻薬なんてものを輸出する国を敵視しますし、確実になんとかしろと注文を付けるでしょう。この国の政治家は、正直そういったことをきちんとするかというと。ええ、ですね。

となると、最終的に制裁が下りますし。輸入のための船などの出入りもキツくなれば麻薬以外の商売がやられる可能性もありますし。生活自体に打撃があります。

私たちは裏の人間でありますが、表と生活が断絶されているわけではありません。地続きなんです。表の経済が腐れば裏も引きずられますしねえ。

あと、裏の人間として善性を捨てた者だけではありません。密告の可能性も出てくる。はあ、だから、私は麻薬とは離れていたいんです。

大体、資金にするにはできるだけ手広くしてリスクヘッジをしてこそ組織の利点で。

組織を経営するなら、それはそれとして持続的な資金源が欲しいんです。

この国はギャングだとかマフィアだとかが経済にがっつり食い込みすぎてますし。

はあ、一次産業、いいえ、工業化?今からコンピュータ関係の工場を。

いえ、これ、国がすることですね・・・

というか、工場とかはこの国のいいとこ全部潰すことになりそうだし・・・

 

そんなことを言っていたが、ギアッチョは理解している。

女は、そんな利益重視を語っているけれど。

結局の話、この国だとか、彼女の愛する日向を生きる人間達の生活をむしばむものが嫌いなのだ。

 

ギアッチョは元々薬はやらない。

スタンド能力という精神に起因する力を制御する上でそれは百害あって一利なしというものだろう。

チームメンバーも以前は薬をやっていたものもいるようだが、ポルポの下についてからはすっぱり止めてしまったものばかりだ。

ギアッチョが知る限りは、メローネが顕著だろう。ただ、意外なことに薬はすっぱり止めてしまった。

 

「いや、なんだろうなあ。この頃分かったんだが。ポルポの側にいると妙に気分がいいんだ。やっぱり、スタンド能力を発現させるという力故なんだろうか?まあ、薬をやるよりも安上がりだし。」

 

ギアッチョはその言葉の意味を理解する。

ポルポの側にいる頻度が上がり気づいた。

その女の側は不思議と心が安らいだし、奇妙な、深く心が繋がったとも言えるような満足感があるのだ。

それがどんな理由かは分からないが。ただ、メローネの言葉の通りかも知れない。

 

だが、ギアッチョにはどうでもいい話だ。

 

ポルポはギアッチョの仕事に対して報酬を出し、評価する。

ただ、一つだけ不満なのは、その評価がリゾット・ネエロ、そうしてそれに伴うチームメンバーへの愛着に起因している可能性があることだろう。

 

それが自分を見る目は、重い。信頼と親愛とも言える何かが溢れているように見える。何故かは分からないが。

けれど、その女はまるで愛人に金をやるような感覚で報酬を出しているのではないかと言う懸念がある。

 

いや、もちろん、ギアッチョは仕事をきちんとしている自負はある。ただ、とある噂を聞いたのだ。

 

知ってるか、ポルポがこの頃複数の男侍らせてるって!

はっ!とうとう色々とくわえ込み始めたのか?

いいよなあ、あんな女のご機嫌取るだけでたんまり金が貰えるんだってよ。

確か、暗殺担当のチームだろ?

ああ、ポルポになんて付いてる時点で仕事もそうできないチームだったんだろ?

確かに、変な力?使えるって話だしよ!

俺だってそんな力がありゃあ殺しぐらい出来るぜ!

 

それは丁度、ポルポの護衛にイルーゾォと就いているときだ。

護衛の数は少なめ、という話だったがポルポへの悪意を持つ幹部が多いとカラマーロが二人を付けたのだ。

鏡の中で、そんな噂を聞いて。

 

はあと吐き出した息が白く色づく。パキパキと全てが止まっていく音がする。

 

殺してやる。

 

貫いてやろう、カッ切ってやろう、潰してやろう、殴打してやろう、絞め殺してやろう。

全て、凍って、止まって、殺してやろう。

 

爆発するような怒りがあった。

 

こいつらは。

己を侮辱した、己のチームを侮辱した、リゾットを侮辱した。

 

ぱきり、ぱきりと音がする。止まる音がする。

 

寒くないかと、鏡の向こうでクズ共が言っている。

 

脳裏に浮んだのは、赤い瞳をした哀れな女。弱くて、脆く、己を見つけた女。

 

ギアッチョ。

 

聞き心地の良い声がした。

 

ご飯、まだ食べるかい?

 

あの女を、侮辱した。

 

ばき!!!

氷塊が、辺りを覆った。

 

ぎちりと歯を食いしばる。スタンドを身に纏う。

 

けれど、ギアッチョはすぐにスタンド能力を解除した。

 

じっと男たちを見る。

それに彼の脳裏にはポルポが自分を見つめる様が思い浮かんだ。

 

ギアッチョ、この紙に書いてる人たちの顔と名前を覚えておいてください。

はあ?なんだよ、これ?

組織の絶対に手を出してはいけない人たちの情報です。私はできる限り何かあってもあなたたちのことは庇いますが。リスクは最低限にしたいので。

 

嘘だと思った。どうせ、何かあれば自分の事なんて切り捨てるだろうと。

けれど、任せられた仕事はきちんとこなすのがギアッチョの心情だった。

 

もう、覚えたんですか!?

 

女がそう言って驚いていたのを覚えている。

 

当たり前だ、任せられた仕事なのだから。

 

女はじっとギアッチョの顔を見て、そうして苦笑交じりにギアッチョの目元を撫でる。

 

隈ができてますよ、ご無理はしないでくださいね?

 

氷のスタンド能力を持った自分よりも、ずっと低い体温をしていて。その冷たい指先を覚えている。

 

 

ギアッチョは男たちの顔に目を走らせる。そうすれば、リストにあった顔だった。

そんな奴らを勝手に殺すことは出来ない。

 

その程度の状況判断は出来た。故に、ギアッチョはその怒りを飲み込み、そうして、誰にも話さなかった。

自分以外に聞かせることさえも嫌だった。もちろん、その後に八つ当たりはしっかりとしたが。

 

きっと、それにあの女は哀しそうな顔で自分に謝ることがわかっていたから。

その女が謝るようなことではないのだから。

そんなものを聞きたくなんてなかったのだ。

 

 

凍り付く、その場にいた全員は見事に氷像になっている。ギアッチョはちらりと周りを見回した。そこには無造作に放られた白い粉が転がっていた。

ギアッチョはそれを回収しようと近づいた。

あとは、この死体を回収して適当な所に放り投げるだけだ。

 

見せしめとして、ポルポの縄張りでやんちゃをすればどうなるかを示すために。

 

そこでがたりと、音がした。そちらをみれば一人の男が慌てた様子で外に逃げていくのが見えた。そうして、男の手に携帯が握られているのも。

 

一瞬の思考、そうして、ギアッチョは男に手を伸ばす。

 

 

「・・・つまり、何か?麻薬の密売をしてた下っ端の中に?幹部の息子が一人、紛れ込んでたって?」

 

イルーゾォが頭を抱えてそう言った。それにメローネは軽く首を振る。

 

「いや、元々取引に使われてた倉庫はどーも、そういうチンピラの集会場みたいになってたらしくてさ。その件の息子って言うのも素行はまあ、ギャングらしいって感じだったからねえ。」

「だからってピンポイントでかよ。」

「で、どうするんだよ?」

 

イルーゾォのそれにソファに座っていたソルベとジェラートが口を開く。

 

「でもなあ、どうもうさんくせえ。」

「だな。その件の幹部っていうのが元々、組織に吸収された外部組織出身らしくてな、ただ、少しばかり訳ありみてえだな。」

「そうして、麻薬の取引は、わざわざそれを禁止されているポルポの地区で行われた。」

「うさんくせえよなあ?」

 

ジェラートがそう言って笑った後にばたばたとリゾットとプロシュートが出てくる。それに皆がどうなったと立ち上がる。

二人は、特にリゾットは飾り気はないが明らかに仕立ての良いスーツを着ていた。

 

「よう、首尾は?」

「おい、リゾット、どうなったんだ!?」

 

イルーゾォのそれにリゾットは淡々と答えた。

 

「これから相手側に話を付けに行くポルポに同行する。お前たちは待機だ。」

 

リゾットのそれに今まで沈黙していたギアッチョが立ち上がった。

 

「俺も、行く。」

「・・・ギアッチョ。」

 

それにリゾットは淡々と答えた。

 

「待機だ。」

 

それにギアッチョは目を見開き、そうして視線を下に向ける。

 

「そう、かよ。」

「安心しろ、あいつなら上手くやる。」

 

リゾットはそう言って部屋を出て行った。

それにソルベがけらりと笑った。

 

「違いねえ、あの女は上手くやるだろうさ。」

 

奇妙な確信に満ちた声だった。

 

 

見捨てられたような心地さえした。

ギアッチョは自分がそれ相応の実力を持っているという自負があった。暗殺者という汚れ役であれども、全てが高難度の仕事であり、それをこなすための実力を備えていると自負が。

 

(なら、今はどうだ?)

 

殺すべき存在と殺してはならない存在も区別も付かずに、仕事をしくじり、あまつさえ、チームのメンバーに迷惑をかけて。

 

けじめを付けるべきだ。

裏側の組織に属すると言うことは、そうして、暗殺チームというものに所属すると言うことは、そういうことのはずだ。

なのに、それなのに。

 

誰もソファに座り込み、そうしてうなだれるギアッチョに声をかけない。軽口はそれこそ意味をなさないと分かっているせいだろう。

気が滅入ると酒をあおっている存在を目にして、ギアッチョは一つの思いが生まれる。

 

捨てられた。

 

ギアッチョの胸にはそんな考えが重くのしかかった。

いいや、そんなことはない。捨てるというのならけじめとして話し合いの場に連れて行き、煮るも焼くも好きにしろと言い捨てればいいのだ。

 

それをしないのは、まだギアッチョに用があるからだ。

けれど、ギアッチョは捨てられたと考えるしか出来なかった。

 

そんな役割さえも遂行できないと、そう、判断されたのか?

 

いつかに聞いた、男たちの会話。

 

価値のない自分たち、ポルポの慈悲によって生きている己たち、自負のある仕事さえも満足に過ごせない役立たず。

 

矜恃が、折れる。

 

その評価は間違っていた?

いいや、本当は。

 

どれだけの時間が経ったのだろうか。

がたりと、扉が開いた。

それに皆が視線を向ける、そうすると。

 

「うえええええええ・・・・・・」

 

酒臭さと、そうして、白いシャツを黒紫に染めたポルポが半泣きで部屋に入ってきた。おそらく最高にへこんでいるときの声を上げていた。

しょぼしょぼのポルポを腕に座らせ、抱き上げているリゾットが疲れたような顔で入ってくる。

 

「え、ど、どうしたんだ!?」

 

メローネが思わずそう言えば、後ろから入ってきたプロシュートが怒鳴り捨てる。

 

「相手の野郎、キレてポルポに酒ぶっかけやっがったんだよ!!おい、シャワー浴びさせるぞ。」

「ごめんよぉ、プロシュート・・・」

「泣き言言うな!!」

 

リゾットに降ろされたポルポは哀しそうに言った。

情けない顔をしたポルポを引きずってプロシュートが奥に引っ込んでいく。リゾットと、そうしてどこかで合流したらしいホルマジオが息をついた。

 

「いやあ、いい酒なのに、口で飲めなくて残念だよなあ。」

「はあ、馬鹿を言え。ホルマジオ、お前は着替えを取りに行ったカラマーロをなだめろ。あいつの癇癪にまで付き合えねえぞ。」

「おい、リゾット!どうなったんだ!」

 

立ち上がったイルーゾォにリゾットは軽く言い放つ。

 

「話は付けた。こちらは何も落ち度がないということで話が付いた。そうして。」

 

リゾットは楽しそうににやりと笑った。

 

「相手側から詫びを引きずり出しやがった!」

 

珍しく陽気そうなその声に、部屋にいた人間達は歓喜するように声を上げた。

 

 

 

「ほらな、言った通りだ!」

 

ソルベが楽しそうな声を上げ、ジェラートもそれに相手側の背中を叩いて笑い声を上げる。

 

「あの女がただで起きる玉か!てめえの領域に踏み込まれて!?わざわざ相手を一噛みせずに帰ってくるわけがねえ!」

「あの状況でどうやって全部ひっくり返したんだ?」

「ああ、それは・・・」

 

 

 

リゾットは向かいに座る男を見た。

中肉中背の年配の男であったが、幹部として、そうして一組織をまとめていたにふさわしい貫禄があった。

 

それに比べて、と。

リゾットはちらりと己が侍る女を見た。大きめに作られた、重いコートを肩に羽織ってなお、その華奢で貧相な肉体を隠しきれていない。

その感想に蔑みはない。ただ、純然たる事実としてそれを認識していた。

 

大きめのソファに座った彼女の後ろに、リゾットとプロシュート、そうしてカラマーロが立つ。

向かいに座る男も同じような形で部下を侍らせていた。

 

「・・・それで今回の落ち度はいったいどうするつもりだ?」

「はい、Signore 、それらについてはこちらの不手際になります。」

「それで?手土産は連れてきたのか?」

 

相手側のそれにリゾットは顔をしかめたまま、改めてどうするのだとポルポを見た。

 

ギアッチョを連れていかないという判断が正しいのか、リゾットには分からない。ただ、もしも彼が責任者ならば彼を連れて行ったことだろう。

ギャングの世界は、ルールよりも面子を重んじる。そんな中、やらかした人間が頭さえも下げに来ないというのは相当相手のプライドを傷つけたことだろう。

ポルポはそれに微笑んだ。

後頭部しか見えない位置とは言え、それが空気で分かった。

 

「連れてきておりません。」

「は?」

「今回、ご子息を殺害した部下は、そういったことを担当している人間です。ですので、どういった場でも顔をさらすと言うことは許可できませんので。」

 

相手側の空気が一気に緊迫するのがわかる。

ポルポの言うとおり、彼女が顔が売れるような場に連れていくのはステルス能力のあるリゾットだとか、年齢によって姿を変えられるプロシュートだとか、あとは自分の身体を小さく出来るホルマジオが多い。

年少組は経験が浅いと言うこともあるが、彼らの能力で顔を覚えられないほうがいいという判断もある。

故に、ギアッチョたちを連れ出すときは、あくまで暗殺人チームではなく、純粋にポルポの子飼いとして扱うのだ。

 

「今回の件は・・・・」

 

ばしゃりと何かが引っかけられる音がした。

 

「ポルポ・・・!」

 

悲鳴のようなカラマーロの声がする。

ポルポの長い髪から、ぽたぽたとワインが垂れて、床に落ちていく。

ポルポの目の前には、椅子から立ち上がり、グラスを持った男が立っていた。さすがに部下たちに止められる。

それにプロシュートとカラマーロから明らかな殺気があふれ出す。当たり前だ。

 

彼らにとってポルポは、誇りと憧憬と、そうして、心の柔らかなもの、そのもので。

普段ならば制止していただろうが、その時はそのままにさせる。

 

殺させろ、こいつは、こいつは!

まるで犬が主の命一つで相手の喉笛に牙を突き立てられると証明するように。

 

「ふざけているのか!いいか、息子だ!私の息子が殺されたんだ!想定外のこととはいえ、その態度は何だ!?部下の手綱も取れていない分際で!部下の身柄を引き渡せばまだ考えてやったものを!」

 

ポルポは気だるそうにワインによって濡れた前髪をかき上げた。

 

「Signore」

何か、勘違いをされていませんか?

 

ポルポは変わること無く穏やかな声で言った。

 

「勘違い、だと!?」

「今回、私たちはご子息のことを隠さなかったことについてお考えなさったことはないのですか?」

「はあ?」

「ああ、あなたは組織入りしてそう時間が経っておられないんでしたっけ?ならば、噂だけを聞いて、こう考えられた?ポルポという女は臆病者で、素直に言ってきたのだと?そんなことを考えておられませんよね?」

 

女はくすくすと少女のように笑う。

それに男たちは少しだけ動揺する。それにリゾットは無表情の下で呆れる。

当たり前だ。女はとても臆病だ。それこそ、自分のコートの中に潜り込んで震えることがある程度には。

けれど、けして、無能ではないのだ。

 

「・・・私の管轄では麻薬は禁じられております。ですが、そんな場でわざわざ取引を行うものがいました。理由は私に対する嫌がらせと、うちの管轄のカタギのひとたちを新しいカモにするため。ですので、こちらもずっと、誰がそんな横流しをしているのか調べていたんです。」

「・・・・うちは関係ない。」

「ええ。あなたはそうですね。組織入りしてまもなく、わざわざ他の幹部にそんな挑発行為をする余裕はないでしょう。」

 

ですが、とポルポはにっこりと微笑んで首を傾げた。

 

「あなたの、身内の方々はそうではないようですね?」

「何を!」

 

激高した男の叫びの後、何かが上から振ってくる。

がたん!という音が辺りに響き渡る。

 

「ひいっ!」

「お、お前は!」

 

ポルポと男の間に置かれたテーブルの上、そこには散々になぶられたような後のある男が縛れた状態で転がっていた。

リゾットはちらりと天井の方を見る。そうして、影の中でブラックサバスが笑っているのが見えた。

 

「あなたにはもう一人、ご子息がおられますよね?まあ、本妻ではない方がお産みになれた次男様が。」

 

ポルポは震える男に目を向けた。

 

「こちらの方は、その側近ですね?」

「そうだ。だが、なぜこんなことを?」

 

冷静さを取り戻した男のそれにポルポは淡々と答える。

 

「・・・・私は組織でのお金の流れ、というものはある程度把握しているのですが。あなたの所の麻薬の売り上げが段々と増えていますね?ええ、確かにああいうものが売れるのは当然です。ですが、それにしては、少々額が大きすぎる。あなたは組織に入ったばかりでそこまで広大な土地を任されているわけではないのに、と。」

 

ポルポは変わらず手を膝の上で上品に組んで答える。

 

「あなたの派閥の次男様を押す人間達は、麻薬を私の管轄で売り、私が嫌いな他の幹部はそのための人手を貸す。純粋に売れる場所が増えれば売り上げも増えるのは道理でしたね。」

「それだけで、たどり着いたのか?」

「・・・金銭とは血液です。量が少なすぎても、多すぎても、それは異常です。裏社会ではそういった違和感一つを見落としても崩壊に繋がるものでしょう。まあ、今回はこちらの側近の方がうかつにもそう関係の厚くない幹部の部下と接触してくれたおかげ、というのもありますが。」

ああ、ちゃんとその辺りは吐いていただきましたのでご安心を。

 

小さくポルポは息をつく。そうして、やはり穏やかに微笑んで見せた。

 

「次男様は長男君が目障りだった。他の幹部は私に嫌がらせをしたいが直接するのはリスクがある。まあ、意見が一致したという話、ですね。長男様をあの日呼び出し、巻き込まれる形で殺させ、そうして私はあなたに責められ、戦力を削られ、且つあなたには貸しを作らせる。ふふふ、嫌がらせとしてはなかなかですね。」

「・・・・いつから、知っていた?」

 

幹部のそれにポルポは一瞬だけきょとりとした顔をして、そうして困ったように笑った。

 

「さあ?とっくに知っていましたよ。いつからなんて。いえ、ですが、知っていたからこそ隠すことなくこうやって話し合いの場を設けたんですよ。」

 

それで、とポルポは微笑む。

 

「手綱を握れていないのは、どなたのことでしょうか?」

「・・・・雌狐め。」

 

その言葉にポルポはきょとんとした顔をして、そうして、今度こそ幼い少女のようにくすくすと笑った。

 

「ふ、ふふふふふふふ、どうしましょう。カラマーロ、褒められてしまいましたね。」

ねえ、Signore?

 

 

 

 

「それで、相手側を黙らせた。」

「はあ!?そんなことまで把握してたのかよ!?なら、教えろや!」

「いや、手がかりはあったが証拠がなくてな。ただ、あまりにもタイミングが良すぎたのは事実だ。話を付けるまでに少人数で証拠を固めたんだ。ホルマジオが駆け回ってな。」

「ほんとによ~、ポルポの奴も人使いが荒いぜ~。」

 

間延びした様子のホルマジオが少々得意げに頭を掻く。

 

「あっちの本拠地に乗り込まされてよぉ。言われたとおり次男の周りを探ったら埃が出てくる、出てくるったら。まあ、おかげですぐに側近攫って吐かせられたのは良かったがなあ。」

「イルーゾォを遠くにやっていたから、お前ぐらいしか忍び込めるのがいなかった。」

「にしても、詫びって頭でも下げさせたのか?」

「ああ、あいつらの次男が管理していたシノギをせしめた。」

「はっ!さすがだな!」

 

ジェラートのはしゃいだ声の中、ふと、メローネが今回のある意味で中心だったギアッチョが静かなことに気づく。

普段ならばもっと騒がしいはずの彼を見れば、ギアッチョは立ちすくみ、そうして己の拳を固く握り。そうして、そこから血が流れ落ちていた。

 

「おい、ギアッチョ・・・」

「なら。」

 

ギアッチョはそう一言言った後、まるで肺の中の空気を全て吐き出すように言い捨てた。

 

「なら、なあんで俺をつかわねええんだあああああああああああ!!??」

「ギアッチョ。」

「今回は全て、俺のミスだ!俺がしたことだ!ありえねえ事態だったとして、俺の判断ミスだった!なら、俺にもさせることも、させられることもあったはずだろうがああああああ!!」

 

ダンダンといつものように癇癪を起すそれをメンバーは慣れた様子で眺める。なだめるにもある程度発散しなければ止められないことは分かっているのだ。

 

「ポルポのやつ、何考えてやがる!?俺のことを、使えねえって判断したって言うのか!?ふざけんな!!俺は、あいつのペットじゃねえ!くだらねえ感傷で、俺を庇ったとでも言うのか!!くそ、くそ、くそ。」

 

ギアッチョは咆吼するように吐き出した。

 

「くそがああああああああああ!!」

 

ぜえぜえと息を乱すギアッチョに、リゾットは軽く息をつく。そうして、それはやっぱり淡々と言った。

 

「なら、ポルポに聞け。」

「あ゛!?」

「あいつに聞け。何故、お前を矢面に立たせなかったのか。答えは当人に聞く方が早い。いいや、違うな。」

お前は答えを望んでいるんじゃないだろう。

 

そういってリゾットは、仕方がないようなものを見るような目で見ていて。それがなんだか生ぬるくて。

ギアッチョは吐き捨てるように罵倒を吐いた。

 

 

 

 

「ああ、ギアッチョ。どうしましたか?」

 

風呂に入ったらしいポルポは疲れたような笑みでギアッチョを見返した。

そこはアジトの仮眠室のように使われている部屋で、プロシュートに風呂に放り込まれたポルポが待機していた。

ポルポの私服を取りにいっているカラマーロが来るまではと、メンバーの誰かの服を着せられている。

明らかにサイズの大きい、だぼっとした服を着ているポルポはいつもよりも余計に、その体の華奢さが強調されて哀れに見えた。

 

話してこいと言われて、ギアッチョはベッドに座って、所帯なさげにこちらを見る女にギアッチョは吐き捨てた。

 

「なぜ、今回のこと、俺にけじめをつけさせなかったんだ?」

「今回、あなたのミスでは・・・・」

「いいや、ミスだ!情報になかった人間だった!なら、聞き出すことがあったはずだ!だが、俺はそれをしなかった!リゾットなら聞き出してたはずだ!!」

 

ギアッチョはガンガンと壁を殴りつける。

 

「俺のこと庇ったつもりか、ふざけんなああああああ!!俺は庇われるような立場じゃねえ、自分のケツぐれえ自分で拭けたんだよおおおお!!」

「ギアッチョ・・・」

「俺は、てめえのペットじゃねえ!!」

 

叫んだその後にポルポに振り返る。そこには、やっぱり困った顔をしたポルポがいて。

それが余計にイラついた。

 

 

苛々する、ずっと、苛々する。

 

自分たちのことを軽んじて、まるでポルポの慈悲によって生かされ、優遇されているように語る奴らにも。

そうして、それにともなってポルポのことさえも蔑む奴ら全員にイラついた。

 

違う、自分たちは実力がある。認められ、それ相応の待遇をされる実力が。

ボスの下にくすぶっているとき、自分たちを預かったポルポのことは認めていなかった。

甘くて、穏やかで、ふぬけで。

 

ただ、自分たちを評価し、それ相応の待遇をした女。

その女がどれだけふぬけでも、そうだとしても、それだけで十分だった。ならば、それ相応の仕事をしてやろう。

そうだ、自分たちはそういう関係だ。

 

だから、誰にも文句なんて言わせはしない。

 

 

「てめえが!てめえが、そんなんだから!そんなことになるんだろうが!俺を連れてきゃよかったんだよおおおおお!侮辱なんざ受けなかった!くだらねえ奴らに嗤われもしねえんだ!てめえが、てめえが!!俺のことなんざ、切り捨てりゃあああああああ!」

 

叫ぶそれにポルポはやっぱり困ったような顔をして、そうしてギアッチョに微笑んだ。

「ギアッチョ、あなたは何か、勘違いされていませんか?」

「あ゛あ゛!!??」

「何故、今回の件の処理の苦労と、あなたの価値が釣り合うなんて思うんですか?」

 

何を言われているのか、わからなかった。

驚いて固まるギアッチョのそれに女は少しだけ苦笑し、そうして、首を振った。

 

「・・・ギアッチョ。人が人を選ぶ上で最も大切なものが何か分かりますか?」

「・・・・“信頼”だろうが。」

 

ポルポの口癖を口にすれば、彼女はギアッチョを見上げて頷く。

 

「・・・私は正直、あなたたちの待遇を知ったとき、ボスに呆れました。何故、わざわざ、実力があると認めている存在をここまで軽んじられるのだろうかと。」

 

聞いたことのなかったポルポの本音にギアッチョは驚く。女はとても臆病で、ボスの話をすることさえ嫌がっていたのに。

 

「ギアッチョ、いいですか。私があなたたちを引き入れた理由、分かっていますか?」

「ジジイと、ホルマジオと、それにリゾットがいたからだろう?」

「それも理由です。まあ、特にプロシュートに関してはカラマーロからの希望もありました。カラマーロはプロシュートを自分の後釜、というのか、腹心に育てる気満々でしたから。なのに、スタンドが発現してから引き抜かれて。そこまではいいんですが、その先でこんな待遇でしたからね。そんなことをするなら返せと、そうとう怒ってましたよ。」

 

苦笑交じりにそんな昔話を語った女は膝の上で手を組んでどこともいえない場所を見つめる。

 

「でもね、それだけじゃありません。ギアッチョ、あなたたちがどれだけの仕事をこなし、そうして、どれだけの結果を出してきたか、わかりますか?」

「知らねえよ、いちいち覚えてねえ。」

「ええ、そうです。その程度の認識になるほど、あなたたちは仕事を完璧にこなしてきました。あれだけ、ないがしろにされてなお。」

 

黙り込むことしか出来なかった。

任務なんて成功して当然だ。ほころびがないことがない、とは言えないけれど。

 

失敗はそれ相応の罰がある。

自分たちの待遇が悪い事なんて理解しているから、あがき続ければと、いつかを願うことしか出来なかった。

自分たちは日陰者だ。けれど、組織に属しているのならばその中で、それ相応のことをすれば評価されたいと思うのだ。

血にまみれた在り方であれど、必要なことなのだから。

 

だから、足掻いた、仕事をこなした。

それはギアッチョにとって当たり前だった。

それを、それを、喚きながら行い、けれど、誰も価値を見いださなかった全てをこれ以上のことがないようにいうものだから。

だから、何て言えばいいのか分からなくなる。

それに返事をするための感情を、ギアッチョは持っていない。

 

「いえ、何せ!正直な話をすれば、あなたたちほどの実力がある存在をこんなお得なお値段で雇えていいのかと思っているんですよ!皆、優秀で!ギアッチョ、特にあなたなんてその年で、それほどのスタンドの練度で操れる存在なんているでしょうか!」

 

ポルポは明るく、朗々とそう歌う。まるで、今の空気をなんとか脱却するために、明るく、そう振る舞って。

 

「いいですか、ギアッチョ。あなたを今回連れていかなかったのは、暗殺人チームとしてステルス性能を持っていないあなたの顔を認知されたくないためです!これからもあなたには仕事をこなして貰わねばなりませんからね!」

「・・・・だから、俺を庇ったって言うのかよ。」

「部下の失敗は上司の責任です。ギアッチョは勘違いされていると思いますが、私だって庇う価値がないと感じられたなら容易く切り捨てますよ。まあ、あなたたちには散々に投資してきたので。この程度の案件で切り捨てるなんて損は出来ませんからね!」

 

だから、とポルポは口を開く。

 

「とある神学者曰く、見えないところで友人をよく言っている人こそ信頼できる、そうですよ。」

「だから、信頼するって?俺たちのことをよぉ、誰にも評価されねえ無駄を積み上げた俺たちを。」

「ええ、そうです。金なんて、容易く積めるものなんて所詮は最低限の保障です。でも、あなたたちはその程度のことで私を信じさせてくれる。それだけの信頼を積み上げてくれた。ねえ、ギアッチョ。確かに今までを組織の人間は見なかった、ボスも、評価しなかった。でも、それがあったから私はあなたたちを信頼できると思えた。」

その過程は無駄じゃなかったでしょう?

 

だから、私にとってあなたたちが、信頼できる人間というのは同じ量の金ほどの価値があるのです。

 

「・・・ギアッチョ、今回の件は、私の意思ではありません。これは、あなたがずっと積み上げ続けた信頼の代価です。」

 

誰にも評価されず、日陰者の、日陰者。

誰かがせねばならない汚れ仕事をし続けた。そうしなければ生きていけなかったし、裏組織には必要なものだった。

 

けれど、全てはギアッチョたちを蔑む。

名が売れることもないために尊重されることもなければ、生活も厳しい。

足蹴にされる、自分が、チームメンバーが、リゾットが。

それが赦せない、そのために足掻いてなお、踏み続けられ続ける今、全てが赦せなくて。

 

人を殺すためだとしても、必要で、求められたことのために腕を磨く自分たちは間違っているのだろうか?

間違っているのだと、間違っているけれど、それでも、誰かがしなければならないことだったはずだ。

 

だから、だから、ギアッチョはそんな女が嫌いなのに。

それなのに、ギアッチョは女の言葉一つがどうしようもなく嬉しい。

 

その女は、誰もが足蹴にし続けたギアッチョの、チームメンバーの、そうしてリゾットの“尊厳”を抱え上げて守ってくれたから。

泥と血にまみれたそれを赤ん坊のように抱き上げて、自分も同じだと、そう言って微笑んでくれるから。

だから、だから、女が笑うとギアッチョは、どうしようもなく、嬉しい。

 

ギアッチョは自分がどんな顔をしているのか分からない、ぎちぎちと握り込んだ拳から血が滴る。ポルポはギアッチョの顔を見て、何か、とても、苦しそうな形をして。

そうして、そっと腕を差出した。

 

「・・・ギアッチョ、その、今、とても不安なので。だから、抱きしめてくれませんか?えっと、命令です。」

 

そんなことを言う。

違う、とギアッチョは分かってしまう。きっと、自分は今、ポルポにとって抱きしめられたいような顔をしているのだ。

どんな顔かなんてわからないのに。けれど、きっと、そんな顔をしているのだ。

怒りに狂い、突放し、部屋を出て行くことだって出来た。

 

けれど、命令だ、仕事だ、ならそれをしなくていけない。

 

ギアッチョはベッドの側に跪き、そうして、ポルポのことを抱きしめた。おそらく、下着さえも着けていないのか、服一枚で隔てられた体は骨と、少しだけの柔らかさを感じた。

 

自分よりもずっと低い体温の女は風呂から上がったせいか、とても温かった。

ポルポはギアッチョが素直にそれを受入れたことに相当堪えたのだろうなと理解したのか、背中を軽く叩く。

 

「あなたを信じています。でも、だからといって、あなたが欠けることも嫌だった。」

 

優しい声で、ギアッチョの髪を梳る。

頭が鈍る気がした、何か、嫌な手触りのそれが首を撫でた気がした。

 

「・・・・ねえ、ギアッチョ。あのね、信頼できるものが近くにいるって。とても安心できるんです。だから、手放しがたかった、そんな私心があるのも事実です。」

 

だからね、私のテゾーロ。

 

優しい声と、そうして。

 

「だから、そんな顔をしないで、ぼうや。」

 

かちゃりと、何かが首に掛かる音がした。

 

 

じっと、ポルポはギアッチョを抱きしめて考える。

今回のことが起った原因、ギアッチョが出る取引の日付、そうして、情報が出所。

 

(・・・彼には、釘を刺した方がいいですね。)

 

ポルポは、一人の情報分析チーム、今回のことを調べさせた男の顔が浮んでいた。

 

 

 

「でもよお、ギアッチョ。おめー、昔、やらかしてポルポにしかられたことなかったか?」

「え、そうなのか?」

 

ペッシのそれに、ギアッチョは息をつく。酒のにおいの中で、過去に揺蕩っていた中のそれにくだらねえと吐き捨てる。

 

「あの馬鹿が、そんなこと出来る分けねえだろうが。」

「ちげえねえか。」

 

そんな話をしている中、電話の音が鳴った。

 

 

 

「はいはーい、ではでは、今回の任務についてお話しします!今回、ちょっと見せしめのために遺体が必要なんですが!それを放置する場所がちょっと遠いので、暗殺役兼保冷役のギアッチョの兄さんと、これから拾いに行く遺体を持ち運びしやすくするホルマジオの旦那と、伝令役の私、カーネがお送りします!」

 

元気よく、クララはこの頃付けられたコードネームというか、偽名を名乗る。といっても、クララなんてよくある名前ならそれが必要かは分からないけれど。

おかげで、チームメンバーは滅多に呼ばないし、クララ自身も気分で使わないこともある。

 

「さて、私が運転するので、ギアッチョの兄さんは寝てますか?」

「・・・うるせえ。」

「おや、すみません。どうも不機嫌そうでしたので。苛立っているのかと。」

 

クララのことはギアッチョ自身、好きでも嫌いでもない。いいや、いつも迷わずに判断をしてしまえる女のことはそう嫌いではない。

めそめそせずに行動するそれとはメローネも募って酒を飲むこともあるのだから、まあ、仲は悪くないのだろう。

そして、クララはギアッチョの癇癪にも平然としている。というか、痛くなりませんなどと言ってクッションを渡してくる程度には図太いのだけれど。

 

そんなギアッチョが、クララに、くだらないことを聞いてしまったのは。

偏に、きっとと、言い訳をするのなら妙な感傷のせいだろうか。

 

「なあ、おい。」

「へいへい、なんですかね?」

 

夜遅くに呼び出されて、暗い中、ギアッチョはぼんやりとガラスの外をとんでいく景色を眺めて問う。

 

「もしも、誰かに首輪を付けられたとして、それは引きちぎるべきだと思うか?」

「・・・ふむ、ギアッチョの兄さんは、嫌ですか?首輪。」

「不快だ。てめえのことだってえのに、てめえじゃどうにもならねえことが出てくる。」

 

がん!とギアッチョは車の扉を拳で叩く。

 

「きしょくわりい!」

不快だ、気持ちが悪い、自分のことなのに、分からないことが出てくる。首輪に引っ張られ、自分の行きたい場所に行けないような気がする。

怒るギアッチョに、クララはけらけらと笑った。

 

「私は嬉しいですけどねえ。」

「あ゛!?どこがだ!?」

「そりゃあ、犬にとって首輪は“愛”なので。」

 

首に絡みつくそれが、まるで強まったような気がした。

 

「犬に首輪を付けるって事は、もちろん、飼い主がコントロールを置くって意味合いもありますけどね。でも、それ以上に、首輪は犬が迷子になっても帰ってこれるようにする庇護であり、祈りであり、帰属であり、そうして、愛でしょう。」

 

大体ですねえ、とクララは話を続ける。ハンドルを握った彼女はちらりとギアッチョを見る。

 

「どんな人間も、組織にいる時点でどんな形であれ、首輪はしているでしょう。本当の意味で首輪を外すことは出来ません。なら、私は、私にとって心地のいい首輪を選びますし、実際選んでいると思いますよ。恐怖で首輪を付けるような存在なんていますし。」

ギアッチョの兄さんは、その首輪を付けているの、不快なんですかね?

 

クララのそれに、ギアッチョはそっと己の首をさする。

 

ギアッチョの首輪は、いいや、きっと、チームメンバーの、リゾットの首に掛かったそれは。

 

柔らかくて、ふわふわしていて、けれど時折くすぐったくて、締め付けられ何てしないほどに緩く。

いつだって、外せるようなもので。

 

「いいじゃないですか、愛で付けられた首輪なんて。」

そういってわらう犬に、ギアッチョは忌々しいというように舌打ちをした。

 

「くっだらねえ。」

 

それでも、変わること無くギアッチョは、首に掛かったそれを外すことはなかった。

 





この時間軸の暗殺人チームが、原作の暗殺人チームに会ったらどうなるのかを考えて、それ以上にポルポと原作の違いに驚くんでしょうか。


皆さん、あちらの私の、ポルポのことを知ると、驚きとかよりもこの体積の十分の一でも私に移動できないかって言われる度にどんな顔をすればいいのかわかんなくなるんですよね。
・・・それよりも、あっちのお前はなんであんなに嫌われてるんだ?
プロシュート、まあ、それは。お世辞にも、好かれる性格ではなかったせいでしょうかね?
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