蛸の見た夢   作:藤猫

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ポルナレフと、人間賛歌の資格のない人。

軽めの話、次はトリッシュか、母の日にまつわる話を書きたいな。


誤字脱字などは感想での指摘はご遠慮くだされば幸いです。
感想いただけましたらうれしいです。
お題箱作ってみました、何かあれば
https://odaibako.net/u/fujineko56


布石

 

 

「・・・それが、それだけが、悪辣なるものに与えられる唯一の報いなのでしょう。」

 

女が笑う。そう言って。

ポルナレフは、それはとても哀しいことだと思った。

 

 

 

ジャン・P・ポルナレフはエジプトでのDIOとの対峙後、彼はスタンドを発現させる矢の行方を追っていた。

そうして、彼はとうとうその矢の行方を突き止めたのだ。

だが、その矢について調べると言うことは、ある組織に触れると言うことであり、そうして、彼は禁断に触れてしまったのだ。

 

彼は、ボスのスタンド、キング・クリムゾンの能力によってくじかれた、はずだった。

 

 

眼を覚ます、体は重い、熱で朦朧とした記憶の中、自分が柔らかい何かに寝かされていることに気づく。

 

(おれは、おれは、いったい・・・・)

 

ポルナレフは身じろぎするたびに火に焼かれたような感覚を覚える。それに、あの旅で出会った、明るく、茶目っ気のあった男のことを思い出す。

ポルナレフは必死にまぶたを開ける。それだけで、まるでまぶたに岩でもぶら下がっているのだろうかと夢想するほどの苦痛だった。

 

目を、見開く。

ようやく、掠れた世界を認識する。

 

そうして、ポルナレフはその目に飛び込んできた光景に、咄嗟に、嘘だと思った。

 

黒い髪の、女がいた。

それが自分に寄り添うように、己が横たわるベッドの側に座っていた。それはぼんやりと窓から指す光の中で自分のことを見下ろしていた。

 

が、全てがどうだって良かった。

その女。その女は、あまりにも。

死に物狂いで、ポルナレフは言葉を口にした。

 

「し、えりー・・・・・」

 

妹に、似ている気がした。

それに女は目を見開き、驚いた顔をした。けれど、ポルナレフにはどうでもいい。

彼は死にそうになるほどの傷みに耐えて、女に手を伸ばす。

 

多くの思いが、彼の胸をのたうち回る。

敵を取ったこと、あの日のこと、友のこと、今までのこと、なせなかったこと、敗北したこと。

 

その全てが置き去られ、あの日、守ることの出来なかった可愛い、小さなポルナレフのお姫様。

それに、手を伸ばして。

それは何かこらえるような顔をして、ポルナレフの手を掴んだ。

冷たい、手だった。

死んでいるせいだろうか?

 

そこまで考えて、声がした。

 

「ジャン・ピエール・ポルナレフ。あなたにはまだ、やるべき事があるはずです。」

冷たい手が己の手を強く握る。

 

「まだ、夢想の中に旅立つときではありません。お願い!」

「空条承太郎を、いいえ、ジョースターを、星の一族を助けるために!」

 

握ったその手の必死さにポルナレフは頷き、そうして、また熱の中に戻っていった。

 

 

 

次に眼を覚ましたとき、前よりもまだましな傷みを抱えていた。

まあ、といっても地獄のような辛さに違いはなかったのだけれど。

それにポルナレフは古びた天井を認識し、そうして自分が寝かされているのが古びた家の部屋であることが分かった。

古びていたが、きちんと手入れがされており、居心地はよさそうだった。

 

そうして、自分が点滴を付けられ、包帯が巻かれた体からきちんとした治療を受けていることに気づく。

 

そうして、ベッドに寄りかかるように誰かが居眠りをしていることに気づいた。

 

(ああ・・・・)

 

ポルナレフは理解する。自分が夢の中で妹と見間違えた女であると。まじまじと、改めて見れば、女の顔は妹とちっとも似ていない。

目の形だとか、顔立ちだとか、あの子の髪はもっとくるくるとした可愛らしい髪で。

似ていないのに、何故だろうか。

 

見ていると、妹のことを思い出した。

 

ポルナレフは無意識のようにその女に手を伸ばす、疲れているようだったから、そっとその頭を撫でてやろうと思ったのだ。

けれど、その手は阻まれる。

突然現れた、男の手がポルナレフの腕を掴む。

 

「・・・・すまんが、触らないで貰おうか。」

 

ポルナレフがばっと声の持ち主を仰ぎ見る。

 

(馬鹿な!誰もいなかったはずだ!)

 

扉を開ける音もしなかったはずだ。ポルナレフは焦りながら男を仰ぎ見た。

そこには、大柄、というレベルではない男がいた。それは、彼の友人であるジョースター一族の彼らと見劣りしないほどに恵まれた体格をしていた。

 

色の抜けたプラチナブロンドに、浅黒い肌。そうして、不気味に光る赤い瞳。

独特な色合いのそれはまるで死に神のように気味が悪かった。

 

「・・・・起きたのなら医者を呼ぼう。」

「だ、れ、だ・・・?」

「無理をするな、眠り続けていたんだ。そうして、俺たちが誰であるのか、目的も全て後で話すことだ。今は傷を治すことだ。」

 

まるで全てを押し黙らせるようにそう言われ、ポルナレフも口をつぐむ。不気味な男は白いシャツに黒いスラックスというとてもシンプルな服装をしており、その普遍的な何かが妙に不気味さを増させていた。

けれど、男はベッドに寄りかかる女を無言で抱き上げた時。

それは女の腹に手を回し、まるで幼い子どもを抱き上げるようにして抱え上げる。

それはとても、まるでこれ以上ないほどに大事なものに触れるような手触りをしていた。

そうして、穏やかに眠る女に穏やかに微笑みかけるのを見て、ポルナレフはああと思った。

 

(・・・・人間だ。)

 

何を馬鹿なことをと思うだろう。けれど、ポルナレフはそれに妙に安堵してしまった。

 

 

 

次に起きた時はそう長く寝ていたわけではないようで、見れば、中年ほどの男が点滴をいじっていた。

 

「・・・残念ながら足はもうだめでしょう。ただ、あそこまで肉体を損壊させ、生き残ったことが奇跡です。」

「あんたの腕がよかったんじゃないのか?」

 

軽口のようなそれに医者は呆れた声を出した。

 

「いいえ、私の腕など微々たるものでしょう。これは、あなたの純粋な生命力のたまものでしょう。」

 

医者は絶対安静だとキツく言い含め、ポルナレフに簡単に薬の処方を簡潔に説明し、立ち上がる。そこでポルナレフはその医師に問いかけた。

 

「・・・俺を助けた人はいったい何者なんだ?」

 

その言葉に医者は一瞬黙り込み、立ち去ろうとする。けれど、何か思うところがあるようにポルナレフに近づいた。

 

「いいか、私だってあんたに関わりたくないんだ。この国でそんな傷、ギャングの抗争かなにかだとしか思えないからな。」

 

図星のそれにポルナレフは黙り込む中、男はそれでもと言葉を続ける。

 

「リスクは承知で、私はあんたを助けた。何故かわかるか?」

 

その目を、ポルナレフは知らない。見たことが無い目をしていた。けれど、なんとなく、その時思ったのは。

 

「あの人があんたを助けたいと言うからだ。」

 

空条承太郎が見た、Dioについて語ったンドゥールの目は、それと似ていたように何故か思った。

 

「あの人ってのは・・・」

「ギャングだ。」

 

それにポルナレフは目を見開く。けれど、医者は念を押すように言い捨てた。

 

「だが、あの人は違う、他とは違う。ああ、違うんだ。違ってくれればよかったのにな・・・・」

 

物悲しそうに男は言い、ポルナレフから離れた。

 

「・・・人というものは己がしたことから逃げられない。それは、借りであれど、貸しであれど代わりはしないものだ。私はようやくその機会に恵まれた、私がしたことはそういうことだ。安心しろ、あの人はお前に希望を与えるだろう。どれだけ、お前が望むものでなかろうと。」

 

そのまま医者は去って行く。追いかけて話の続きをしたかったが、ポルナレフにはそんな力は残っていなかった。

 

 

その後は、ポルナレフは傷のせいか、熱を出して寝込んだ。医者は定期的に通い、点滴や処方を行った。

そうして、かの女はポルナレフの世話をした。自分の行動を阻んだあの男も加わり、ポルナレフの包帯を換え、薬を飲ませ、体を冷やす。

それはとても献身的に、女はつきっきりで看病を行い、男がなだめて休息を取らせるほどだった。

そうして、ポルナレフの傷や病態が落ち着き、ようやく女と話す機会に恵まれた。

 

「・・・・それで、あんたはいったいどんな目的があって俺を助けた?」

「はい、そうですね、お話をしなければなりません。」

 

ベッドに座った自分の前には、同じように椅子に座った女が向かい合う。平凡そうな女だ。唯一、その赤い瞳だけが印象的だった。

似ていないのに、なのに、何故か、とても妹を思い出す。

 

あの男は少し離れた、出入り口である扉に寄りかかるように立っていた。そこで女が声をかける。

 

「・・・リゾット、すみません、席を外してくれませんか?」

「お前。」

「お願いします。」

「我が儘はこれきりだからな・・・」

 

男がため息を吐いて出て行くのを見送り、女は小さく微笑んだ。

 

「それでは、ジャン・ピエール・ポルナレフ様。改めてご挨拶を。」

女は自分の胸に手を当て、そうしてポルナレフを見つめる。

 

「私はポルポと申します。そうして、彼から聞いている通り、裏社会の人間になります。」

 

すでに知っているだろう事実を口にして女は苦笑を浮かべる。やはり、ポルナレフには信じられない。

それはあまりにも平凡で、そんな言葉などあり得ないと思うと同時に、徒人が自分を助け、こんな風に助けることも出来ないという理解も出来る。

ただ、何か、男と同じような白いシャツに黒いスラックスを纏った女はあまりにも褪せ細り哀れみと心配が内から出てくる。

 

「・・・・俺が敗北した、あの男、ディアボロの組織と敵対している存在、か?」

 

ポルナレフは妥当だろうという答えを口にした。彼からすればそれ以外に考えられなかった。ギャングであるというそれにとってディアボロを追う自分から情報か何かを求めているのだろうと。

けれど、彼女は首を振る。

 

「いいえ、私はあなたが追ったディアボロの部下、組織、パッショーネの幹部になります。」

「な、なにいいいいいいいい!?」

 

ポルナレフは動かない体を思わず震わせた。それに鈍く傷が痛む。

 

「な、何故だ!何故、それなら貴様は俺を助けた!?いいや、違う!?嘘をついているのか?」

「・・・いいえ、事実、あなたの動向を探り、ボスにお伝えしたのは私です。」

彼女はすらすらとポルナレフの動向について話を始める。

 

それにポルナレフはその女の目的が分からずに、壁に縋るように体をポルポから遠ざける。ポルポはそれに物悲しそうな顔をして見つめる。

 

「ならば、ならば!そうか!ディアボロを殺し、組織の頂点を目指すとでも!?それに協力しろと!?」

 

それにポルポは微かに笑い声を上げる。

 

「ふ、ふふふふふふ、いいえ、いいえ。私はポルポ。暗い水底、その隅で、暗いせせこましい壺の中で怯える私に何をそんなことができましょうか?私があなたに二つ、お願いがあって助けたのです。」

「そんなことを!」

「いいえ、あなたは必ずや頼みを聞くことでしょう。」

 

確信を持って女はポルナレフを見つめる。

イカれている。

女の語ることが本当ならば、ボス自らが始末を付けただろう自分を助け、そうして頼み事をしたいというのだ。

訳が分からない、気味が悪い。

けれど、女が次に言った言葉で全てが変わる。

 

「・・・・スタンドの矢を、選定の矢をあなたは持っておられましたね。」

そう言って女はどこからか布に包まれたそれを取り出した。それにポルナレフは驚き、とっさにシルバー・チャリオッツを呼び出そうとした。けれど、それよりも先に彼女は立ち上がり、そうしてポルナレフに矢を差出す。

彼が驚きながらそれを受け取る。彼女はまた椅子に座り、息をついた。

そこでポルナレフは気づく。

 

矢が騒がしいのだ。

 

それは何というか、そう言うしか無いような感覚だった。

 

「・・・・サバス、出てきてください。」

 

女のそれに女の影から、ずるりと、手が、出てきた。けれどそれは人間のものではなく、あきらかに異形のものだ。ポルナレフは理解する。

スタンド、であると。

 

普段のポルナレフならば警戒のためにシルバー・チャリオッツを出現させたことだろう。けれど、彼はそうしなかった。

なぜなら。

 

(矢が!共鳴、している!?)

 

分かる、分かる、何かが同じように響き合っていると。それにポルポは同意するように頷く。それにスタンドはがばりと口を開く。

そうすると、ずるりと、喉の奥から見慣れた矢が現れる。

 

きいいいいんと金属音が聞こえる。

 

「共鳴、なんだ、これは!?共鳴、している!?」

「・・・・サバス、仕舞ってください。」

 

それにスタンドは素直に従い、矢を飲み込む。ポルナレフはぜえぜえと息を吐く。

 

(矢について分かっていることはそう多くない!だが、矢同士で共鳴するなんて!)

 

騒がしい程度に戻った矢をポルナレフは見つめる。

 

「・・・私のスタンドと、そうして、この矢は離れなくなってしまっているんです。」

「はなれ、ない?」

「ええ、なにをどうやっても、矢はサバスから摘出することは出来ませんでした。そうして、サバスは触れたものにスタンド能力を発現させることが出来るようになりました。」

 

それにポルナレフは目を見開く。

 

「共存!?いいや、違う!適合、貴様のスタンドは矢に適合、しているのか!?」

「いいえ、おそらく違う。適合、というのなら矢の能力を制御できるわけでもない。強いて言うのなら、寄生、でしょうか?」

 

苦笑しながらポルポは自分に懐くように顔をこすりつけるブラックサバスの首に手を回すようにして撫でる。

 

「・・・・矢にはもう一つ能力があります。これをあなたに伝えるかは迷います。もう、本当の意味で本来の通りには動かないでしょう。ですが、きっと、微少の過程の変化はあれど、結果は変わらない。なら、あなたには伝えておく必要がある。いいえ、ここで、あなたは選択をしてこそ、だと思います。」

「選択、だと!?」

「矢はスタンド能力を人に発現させる。もちろん、選定されますが。ですが、こう思ったことはありませんか?もう一度、矢に貫かれればどうなるのか、と。」

 

ポルナレフは目を見開く。

女はそれに頷く。

 

「スタンド能力は、進化する!」

 

それにポルナレフは驚愕の声をあらん限りの力で叫んだ。

 

「ありえん!」

「何故ですか?スタープラチナは、戦いの中で能力を開花させたはずです。」

 

たたみかけるような言葉にポルナレフは困惑に荒い息を吐く。

 

「しって、いるのか!?あの戦いを!十数年も前の、ことを!」

「・・・この矢と、そうしてスタンドを知っているならば誰だって知りたいでしょう。スタンドを使い、十数年前、暴れていた存在を。私は調べ、そうして、たどり着いたというだけです。」

「・・・あれは承太郎が成長しただけだ。矢によってそんなことが起るなんざ。」

「何をそんなに驚かれるのですか?人は変化をする生き物です、ですが、それは緩やかであり、突然変化することはないでしょう。例えば、包丁を握ったその日にリンゴの皮をするすると剥ける子というのはそういないでしょう。ですが、日々、変わることにより出来るようにもなる。」

 

ポルポはじっと矢を見つめる。

 

「・・・・スタンド能力は精神の力。人の精神が、心が変わるのには、劇的なきっかけが必要になる。そう、きっかけです。人が変わるには、そんな小さなものでもきっかけが必要になる。それが、選定の矢なのだと私は考えています。」

「・・・そうであるとして、スタープラチナの能力まで知っている?」

「情報収集のできるスタンド使いがいました。もう、この世にはおりませんが。」

 

ポルポは一度、目を伏せ、そうしてポルナレフを見つめる。赤い瞳は静かに、瞬くように彼を捕らえる。

 

「私の願いの一つ目は、二年後訪れる星に選定の矢を届けて欲しいのです。」

「星?」

 

ポルナレフはそれに無意識のように確信を持つ。星、それは、彼の友人たちであるジョースターであると。それを理解しているのか、ポルポは頷く。

 

「ええ、それは、ジョースターのものです。ですが、それはジョセフ・ジョースターでも、空条承太郎でも、そうして彼の子でもない。ですが、あなたは必ず、星に出会うでしょう。」

あなたが破れた悪魔を打ち倒さんとする星に。

 

妙な確信めいたそれにポルナレフは問いかける。

 

「未来を知っているのか?」

「・・・・限定的に、ですが。」

 

彼女はそれを振り切るように首を振る。

 

「矢に貫かれたスタンドは、一つ、段階を上がる。それを、“進化”というか“覚醒”というか、それとも、“先”とも言うべきか。いいえ、ただ、“変化”というべきか。どれかはわかりません。ただ。あの方を打ち倒すためにはその力が必要になる。私に言えるのは、それだけです。」

 

ポルナレフは黙り込む、そうして、迷うように矢に視線を向ける。

彼は、ポルポの言葉の意味が分からなかった。

 

何せ、彼女は本当にそれを願っているのだと、考えているのだと、妙な確信があった。その必死に言葉を紡ぐ様は。

 

いつかに自分に必死に言葉を伝える妹に、似て。

 

(いいや、違う!)

 

似ていない、似ていないのに、奇妙な懐かしさを覚えるのだ。

額に手を当てる。それに、それがどこか心配そうに少しだけ体を動かす。それに女から匂いがした。

それは、なんだろうか。

 

とても、懐かしい。

夕方にどこからか匂ってくるような、哀しいまでの懐かしさを感じるにおいだった。

 

(スタンド、能力!?)

だが、先ほど見た女のスタンドは影から躍り出てきた。なら、この懐かしさは違う?

いいや、スタンド能力は進化するとそれは言った。

なら、この懐かしさも。

 

「・・・今日はもう、止めにしましょう。本題はお伝えしましたから。」

「俺が、俺が、矢を使ってもいいのか?」

「ええ、構いません。ただ、一つ忠告するなら、矢を使いスタンド能力を進化させても制御が出来るとは限りません。矢は、選ぶのです。故に、進化させた能力を制御できるのは選ばれたものだけ。ただ、制御できずとも、あの方に抵抗し、時間を稼ぐことは可能でしょう。」

 

ポルポはそっとポルナレフの体を支え、そうしてベッドに横たえようとする。けれど、ポルナレフはそれを拒否し、そうして彼女の手首を掴んで問いかける。

 

「・・・何を、一体、もう一つの願いはなんだ?」

「ポルナレフ様、ご無理は・・・」

「言え、俺には何も分からない!だが、俺は決めなくちゃいけない!なら、聞かせろ!願いを!あんたが何を望んでいるのか!」

貴様が何者なのか、俺に示して見せろ!

 

その言葉にポルポは少しだけ哀しそうにベッドの脇に佇み、ポルナレフと目線を合わせるように床に跪く。

 

「・・・・もう一つの頼み、というのは、とある子どもたちのことを頼みたく思っていたんです。」

「子ども?」

「ええ、あなたにとっては悪縁かも知れませんが。」

Dioの子どもたちを、頼みたいのです。

 

ポルナレフはめまいを感じて目を覆う、そうして、壁にとうとう寄りかかる。そうして呻くように言った。

 

「ここで、ここで!Dioの野郎の、子ども!?あいつに、子ども!?」

「・・・・先ほど言いましたが、私はスタンド能力について調べる内に彼を知り、そうして、彼に子どもがいることも探し当てました。今は私の手元にいます、三人の男の子です。」

「なんで、俺、いいや、何故!?」

「その子たちはスタンド能力を持っていて。普通の家に預ける、というのは難しいですし。ジョースターの方々も考えたのですが。ジョセフ様はさすがにお年ですし。その、承太郎様は、なんというか、思春期の男の子とは、いえ、女の子もですが相性が悪そうですし・・・」

 

気まずそうな顔のそれにポルナレフは分かってるなあと少しだけ感心してしまった。けれど、もう、すでに彼は混乱の極みだった。

何せ、出てくる話題全てがポルナレフの予想を遥かに超えている。

 

(息子、あの男の!?それを俺に頼みたい!?)

 

どうしろというんだ?ポルナレフは叫びたくなる。

いいや、何故、という単語は今までにそれほど星の数ほど出てきている。

 

「・・・いや、いや!何故、自分で育てない?スタンド能力を使えるなら、いい手駒になるんじゃないのか?」

意地悪と言えるその質問に、女は何かこらえるような苦笑をし、そうして、床を見つめるように目を伏せる。

 

「私も、そう、長くはないので。」

 

それにポルナレフは、何と返すのが正解だったのか、ずっと考える。

 

 

「未来、が見える、からか?」

「ええ、だから、自分の始めたことのけじめぐらいはつけねばなりませんから。あの子たちにはスタンド能力の使い方はある程度制御できるようになっていますので、おそらくご迷惑はかけないかと。基本的な礼儀も、教えていますし。あとは・・・」

「待て、待て待て待て!何故、俺なんだ!?スタンド使いならば理解が出来るとして、スピードワゴン財団に頼むって手もあるだろう?なんで、わざわざ、父親の仇にそんなことを。」

「あの子たちに必要なのは、生活の保障ではなくて。あの子たちを愛してくれる大人なんです。」

 

とても当たり前のことを言われた。それはギャングの女が口にするには、あまりにも、とても平凡だった。

だから、乖離する。全てが違和感で、だからこそ必死で。

 

「・・・・三人とも、まるで、いじめられた野良犬みたいで。愛なんて、ないみたいな顔をしていて。でも、愛はあります。愛があるから私はここまで生きて来れたから。他者を信じず、全部が敵だって顔をしたあの子たちには手を差し出してくれる大人が必要なんです。その中で、私が考えられる最適解があなただった。もちろん、ただとは言いません、養育費として最低限以上の金額は用意しています。だから。」

「なあ・・・・」

 

ポルナレフはそれに思わず、言い返した。

 

「その、手を差し出してくれる大人は、あんたじゃだめなのか?」

 

それに、それに、ポルナレフは後悔している。あんなこと、いわなければよかった。あんな、あんな、むごいことを言わなければ良かった。

 

死ぬしかないと分かっているそれには、その言葉はとても残酷で。

 

「・・・・それが出来ないから、頼んでいるんです。」

そう、女は、やっぱり笑った。

 

まるで、必死に気高い生き物であろうとしたものが、全ての虚構を引っぺがされたかのような、崩れ落ちる一歩手前の顔をして。

それは、笑った。

 

「いい子でしかない、というわけではありません。小ずるいことだとか、そういうこともして。でも、構って欲しくて上目遣いをする様がたまらなくいじらしくて。その日あったことを、とても、まるで、息が切れてしまうんじゃないかって言うほど早口で、聞いて聞いてと抱きついてきて。眠れないと言うから、知っている話をすれば、目を輝かせて。続きをと、言って。」

 

いじらしい、可愛い、子どもたち。

女の目から、涙が、こぼれ落ちた。それに、それに、ポルナレフは溜まらなくなって。痛む体を引きずって女の涙を必死に着させられていた寝間着の裾で拭った

 

赤い瞳から涙が、零れて。

 

言葉をかけようとした、かけようとして、けれど、何も浮ばない。何を言えばいいのだろうか?

 

それは、その目は、嘆きがあった、苦しみだとか、そんなものがあるのに。

同時に奇妙なすがすがしさと、そうして、静けさがあった。

 

とっくに覚悟を決めた者の目だった。

 

ポルポはそっとポルナレフの手を外した。

 

「・・・・あなたはやはり、優しい。だから、あの子たちにも向き合ってくれると。人を信じさせてくれると、そう思ってお願いしたのです。もちろん、すぐにお決めになられなくて大丈夫です。二年後、運命が終われば、再び。」

 

女はそう言って立ち上がろうとする。立ち上がろうとして、ポルナレフの中にフラッシュバックが起こる。

あの日、あの時、今日も変わらずに帰ってくると信じた妹、あの子。

 

ギャングだと名乗った女、平凡で、弱々しく。けれど、奇妙な覚悟の宿った目。今、ここで手を離せばそれとは二度と会えない気がした。

だからこそ、ポルナレフは言ってしまった。その腕を掴んで。

 

「逃げればいいだろう!?」

 

ポルポは驚いた顔をした。

 

「スピードワゴン財団にも伝手がある!かくまえるはずだ!あんたと、そうして、その子どもたち三人ぐらいなら!そんなに愛おしいならどうして、側にいてやらない!生きてやらない!」

 

女と、あの日、雨の日に失ったあの子が重なる。

生きて欲しかった、生きたかったあの子。

死にたくないのに、死を受入れるその女。

 

死ぬな、と、そう。

懐かしいにおいが頭を満たす気がした。

まだ、生きているなら。ならば、どうして足掻かない?

何故、何故、諦められる?

 

「運命か何か知らないが、それなら、それにあらがうことは考えないのか!?その程度で諦められるのか!?」

 

それに、それに、女は。

 

「・・・・愛して、いるんです。」

 

それは告解を聞くような心地だった。

 

 

女は、ポルポはやっぱり下手くそな笑みを浮かべてポルナレフの腕を掴んだ。冷たい、手だった。

 

「・・・・さっき、部屋を出て行った人がいるでしょう?あの人は、組織の殺し屋で。多くを殺した人です。きっと、悪辣な人です。でもね、でも。」

優しい人なんです。

 

矛盾に満ちた言葉を吐くものだとポルナレフはポルポを見つめた。

 

「いつかに、尊厳を踏み潰された幼い子どものために戦った人です。もちろん、愚かで、そうして、罪深いことです。でも、それは私に出来ないことだった。あの人はそれでも、尊厳のために戦った。」

女は幼い子どものように無邪気で、無垢で、そうして憧れに満ちた目をした。

 

「私の、ヒーローで。たった一つ、私に言葉をくれた。理想的な、在り方を見せてくれた。」

 

女はそのまま、とつとつと話をする。

 

とても荒々しく人を容易く殺すのだと。けれど、それは誰よりも気高くて美しい子なのだと。

飄々として当たり前のように人を殺すのだと。けれど、それは明るくて朗らかで人をよく見ているのだと。

怒りっぽくて激情家で、簡単に人を殺すのだと。けれど、優秀で努力家な健気な子なのだと。

人の命を担保にためらいなく人を殺すのだと。けれど、研究熱心でさみしがり屋な子なのだと。

人を見下しあっさりと人を殺すのだと。けれど、それと同時に覚悟を持ち、やるべき事をやる子なのだと。

臆病でいつかに人を殺す子なのだと。けれど、愛らしい、成長が楽しみな子なのだと。

人の秘密を探ることと、お金が好きで。そのために興味も無く人を殺すのだと。けれど、何くれと気が利き、妙に自分を立ててくれる子たちだと。

 

それは、自分の業でこちらに引き込んでしまって、お別れもさせてしまった。罪も背負わせてしまった。けれど、自分を主人と慕う、愚かで哀れな子だと。

 

罪から遠ざけたかったのに、ただ漁師にでもなってほしかった、けれど、優しすぎたあの子は暗がりの自分を哀れんで泥に沈めてしまった子だと。

 

それは人殺したちの話だ。

いくつも、肉と血の山を築く、そんな、悪辣なものたちの話だ。

なのに、なのに、女はそれをまるで、とても輝かしいもののように、宝物を語るように、そんな風に、語るから。

 

嫌うという、何かが、ゆらいでいく気がした。

それは一人の女が、何か、訳あってそちらに墜ちた女が必死に掴んだ輝かしい何かの物語で。

だから、黙り込んでしまったのだと思う。

そうして、女は、最後に言葉を紡ぐ。

 

「金の髪、アイスブルーの瞳。誰よりも綺麗な子だった。穢されてしまうのが嫌だった。なら、それならば、誰かの首に牙を突き立てて、返り血で汚れて欲しかった。可愛い、私の、娘。」

 

愛しているのだと、女は、もう一度、血反吐を吐くように言い捨てた。

幸せになれと、言ってはいけないと理解はすれども。それでも、だからといって足蹴にされても欲しくないのだと女は語る。

それは弱い自分にずっと寄り添い、守り、誠実でありつづけてくれたから。

 

「・・・・せめて、足下を照らすような、道しるべになることだけは残していきたい。これはその準備。私のエゴなのですよ・・・私は、私は、死ぬのです。それは決まっていた運命で。私はそれでいい。その末路に満足している。」

「何故、何故だ?どうして・・・」

 

その言葉にポルポはポルナレフの方を見て、あーあとまるで、酷いネタばらしをするような顔をした。

 

「ポルナレフ様。正義が悪を打ち倒す。この物語には一つだけ、悪にも報いがあるんですよ。」

「報い、どこに、そんなものが・・・」

「悪は死ぬことで、正しさと平穏の礎になれるのです。」

 

なあ、とポルナレフは言いたかった。そんなことを、まるで、これ以上ないほどに嬉しいことのように語るなと、そう言いたくて。

彼女はこれ以上ないほどに嬉しそうな顔をしてそんなことを言うから。

 

それがどれほど哀しいことなのか、わかっているのだろうか?

それはハッピーエンドへの布石であるのだろう、ある、はずで。

 

「・・・それが、それだけが、悪辣なるものに与えられる唯一の報いなのでしょう。」

「それをお前はお前を愛してくれる存在に、さっきの男にも言えるのか?」

「でも、私の死が、あの方を殺すための布石になるのです。あなたなら、どうしますか?」

 

己の命と引き換えに、自分の敵を、仇を討つと。

 

「それをあなたが批難できるのですか?」

 

 

それの覚悟を、ポルナレフはようやく理解した。

それは献身の覚悟なのだと。

 

誰かのために、己の命さえも擲つ覚悟を持って、己の死を語るのだ。それは、彼の友人であった花京院のことを思い出した。

 

正しさのために、悪辣なるものが一つの献身を行おうとしている。それがどんなものなのかわからないが。

ただ、それにポルナレフは口を出せなくなる。

ポルナレフだって、同じ選択をする気がした。どうしてもと、それしかないのなら。命をかけてしまうだろうと。

 

それは悪辣なもののはずだろう。

彼の祖国を穢し、今でさえも、多くの年若い誰かの生活を脅かす組織の幹部でありながら。それは、そのボスの首に牙を突き立てるための布石を打っている。

なんて矛盾に満ちているんだろうか。

 

悪に墜ち、人を食い物にするくせに、己の身を犠牲に善をなそうとしている。

それは、その矛盾は、ポルナレフが知る中で誰よりも、“人”であった。

 

「そのために、俺を生かしたのか?」

「ええ、そうです。あの方を、私は正直に言うのなら恨んではいないのです。恐ろしいと、殺さないでと思うことは多くありましたが。私はあの方に無理矢理裏社会に引っ張り込まれましたが。それでも、出会えて良かった人がいた。だから、せめて、私は私が始めた物語のけじめのため、でもありますが。ポルナレフ様、答えは今は聞きません。それでも、あなたはボスを打ち倒すために動くでしょう。そうすれば、必ず、何があっても。」

あなたは星に出会うでしょう。

 

彼女はゆっくりと立ち上がる。

 

「・・・私はもういかねばなりません。」

「待て!まだ聞きたいことがある!」

「申し訳ありません、長居をしすぎました。ボスに気づかれては本末転倒です。リハビリの手配や、そうして当分の生活のために金銭もご用意しました。もう、お会いすることはないでしょう。」

 

そのまま立ち去っていく背中をポルナレフは見つめることしか出来ない。

聞きたいことも、言いたいこともあった。

妹を思い出すその女が死ぬという事実が苦しくて仕方がなかった。けれど、女は立ち止まらない。

だから、ポルナレフは咄嗟に、これだけを言った。

 

「お前は勇敢な女だ!」

女の動きが止まった。

 

「愛しい者のために、死んでもいいと。そうやっているお前は勇敢だ!誰かのために戦い、そうして、死ぬことさえも厭わない!お前には勇気がある!だから、だから!」

そんな自分は死んでも当然なんて顔で、お前を愛してくれる誰かの前に立つんじゃない!

 

その言葉にポルポは振り返らなかった。けれど、一言だけ、囁くように言った。

 

「・・・ありがとうございます。」

 

そういって、開かれた扉から女は出て行き。そうして、二度と、ポルナレフのいる部屋に戻ってくることはなかった。

 

 

「・・・・よかったのか?」

「彼は後々、利用できます。ただ、ボスには言えませんので。他言無用です。」

「俺はお前を信用する。ただ、今回の我が儘はカラマーロにも伝えるぞ。二人っきりで話なんぞ肝が冷えた。」

「肝に銘じます・・・・」

 

ポルポは帰りの、車の中でリゾットの運転する後ろの席でそう答えた。

 

ポルナレフが生存することは知っていた。けれど、念には念を入れたかった。

奇妙な確信がある。

きっと、チャリオッツは矢に射貫かれるのだろうと。

 

「・・・ポルポ。」

 

ブラックサバスの声がする。どうも、髪の影から問いかけているようだ。

 

「・・・勇敢な女だと、勇気があると、お前もまた、人間賛歌を歌われる資格があるらしい。」

それにポルポは苦笑した。

「・・・・私は、人ではありません。私は、臆病者の蛸。」

悪魔に例えられることもあるんですよ。

 

「そんな資格、最初から持っていなかった。」

 

リゾットにさえも聞こえない声で、ポルポはそう言い返した。

 





そう言えば、カラマーロの姉さんが一番ぶち切れたのってなんですか?

そうですね、一回、アジトに用事があって寄ったら、リゾットが任務で、それ以外のメンバーがベロベロに酔っ払っていて。妙な酔いかたして、全員がパン一になってて。

あー・・・・
なんというか、香水とかお酒とか、体臭とかの臭いですごいことになってたんですが、見事に捕まってしまって。だっこされたり、肩車されたり、おんぶされたりしてしましたね。
そこにカラマーロの姉さんが?
うん、来ちゃって。メンバー全員のパンツまで砂にしてそのまま外にたたき出そうとしたのを慌てて止めたことがありますね。

自業自得!
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